『故郷に帰ってきた俺を待っていたのは・・・・戦友との再びの死闘だった』

 

 

 

 

 

第十章「故郷への帰還、そして、戦友との別れ」

 

 

 

                 1

 

 

漆黒の暗闇が無限に支配する宇宙空間。

帝政国家ガーリアンの第十五所轄星系「クライツ」に展開される皇帝直轄の最強部隊。

通称“聖光騎士団”。

最強の騎士達と称される彼らはクライツ星系第五宙域にて打撃艦五隻、強襲艦六隻、ステルス空母八隻といった大艦隊を展開している。

 

「まだですか?団長は・・・・」

第七団艦隊ブリッジの指揮官席に座る(あくまで臨時だが)少女が大きく溜め息をついた。

パールブルーの長い髪をポニーテールにし同色の大きく、くりくりとした可愛らしい瞳は不機嫌そうに垂れ下がっている。

「シャルロット中佐・・・・空間転移に反応があります」

「嘘!?どれどれ!!」

観測オペレーターの報告に目を輝かせ席から身を乗り出す。

旗艦「タイタロス」のブリッジメインモニターに目の前の宇宙空間の異常を映す。

 

迸る紅い稲妻。

中からヌッ!と白塗りの優美な巨大艦と銀色の箱のような戦艦らしき物体が皇族に続いて現われた。

「あれが・・・・団長の報告にあった・・エルシオール」

「友軍です」

「『今の所は』・・・・ね?」

真顔で半ば睨みつけるようにエルシオールを見つめるシャルロットと呼ばれた女性は念を押すように呟く。

「中佐!巨大艦から通信です!!」

「繋いでちょうだい」

了解―――――と返事が返りメインモニターに通信ウインドゥが映し出された。

 

≪やぁ。こちらはエルシオール艦長、タクト・マイヤーズだ≫

おそらくエルシオールのブリッジだろう―――――女性、クラリス・シャルロットは瞬時に直感のような念を抱いた。

指揮官席に座る男性がのほほん、と呑気な声で名前を告げた。

「初めまして・・・・第七団臨時団長、クラリス・シャルロットです。お初にお目にかかります」

クラリスは愛想良い笑顔を浮かべて頭を下げる。

≪臨時?君達の団長はどこにいるんだい?≫

「貴方の隣に居ますよ」

『臨時』という言葉を聞いたタクトが眉を動かし疑問を述べた。

すかさず、クラリスはタクトの隣に居る青年に微笑みかける。

「お久しぶりです・・・・天都団長」

≪クラリス・・・・俺が不在の間、良く動いてくれた≫

漆黒の髪に同色の瞳。

強い意志を秘めたような輝きを宿す青年。

天都伊織は表情を和らげ、礼を述べる。

 

「いえ。団長・・・・アイツは?」

伊織は少し溜め息をつき肩をすくめた。

つまり、逃がしてしまったという事だろう。

≪少しいいか?≫

エルシオールのブリッジに割り込んできた十歳の少女。

≪私はシヴァ・トランスバール。トランスバール皇国の女皇を務める≫

「はい。存じております・・・・これから貴方達を本星にお連れします」

≪ご苦労だ≫

「いえ、皇帝自ら、お会いしたいとの事ですので」

≪そうか≫

「では、少し司令官殿に」

≪あぁ≫

シヴァが画面から消えタクトが戻ってきた。

「マイヤーズ少将、これからそちらに向かっても?」

≪あぁ!!構わないよ≫

タクトは大きく目を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます」

クラリスも極上の笑みを浮かべて通信回線を切り一目散にブリッジを抜けて駆け出した。

 

「団長も可哀想ですね」

レーダー担当のオペレーターがぼそりと呟いた。

遠くから「だんちょぉぉぉぉぉぉ!!」と叫び声が聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

エルシオールの格納庫に一機の連絡艇が着艦し中から銃器を構えた数名の兵士と先ほどの少女が出てきた。

パールブルーの長い髪を簡単にポニーテールにした少女。

まるで精霊か妖精のような美しさを出す彼女を見た男性隊員はわざとらしく、咳き込んだ。

同色の瞳は何かを探しているように格納庫をキョロキョロと見回している。

「改めて、タクト・マイヤーズだ、よろしく」

「こちらこそ」

差し出された手をクラリスはしっかりと握り締め微笑を浮かべる。

「それで、彼女らが――――――」

「団長!!」

タクトの後の言葉をかき消し格納庫に入ってきたエンジェル隊に混じっていた伊織を見つけるなりクラリスは黄色い悲鳴を上げて駆け出し、

「遅かったじゃないですかぁ!!」

と抱きついた。

しっかりと、胸を押し付けて・・・・・・・・

目を丸くするエンジェル隊と、この世の終末を目前に控えた人類のように絶望に顔を歪めるちとせが伊織と、彼に抱きつくクラリスを呆然と凝視している。

「クラリス!!何度言ったらこういうのはやめろと分かるんだ!!」

「ごめんなさぁい」

叱られた子供のようにションボリして渋々、離れるクラリス。

まったく、と鼻を鳴らす伊織。

「あのぉ。伊織?・・・・その子は?」

ランファの震えた声にちとせが激しく首を縦に振る。

「クラリス・シャルロット。俺が統括する第七団の一員だ・・・・まぁ、腐れ縁のようなものだ」

「違います!!私と団長は運命のあか・・」

伊織に口を押さえつけられモガモガとするクラリス。

「忘れろ。ただの思春期の妄想だ」

「つまり・・・・何でも無いのですわね?」

ミントが念を押すように訊ねてきた。

心なしかどこか、冷たい刺のようなものが含まれている気がした。

 

「ちとせ?・・・・どうした」

「・・・・・・」

呆然として黙り込むちとせに自分の所為とも知らずに伊織はツカツカと歩み寄って、

「風邪か?」

と、自分の額をちとせの額に軽く当てる。

「ひゃぁ!!!」

ちとせの白い顔が真っ青になりそして、急激に緋色に変化していった。

鼻と鼻が触れあい、あと少し近づければ唇と唇がぶつかり合うほど二人の顔は近づいている。

「あぁーーーーーーー!!」

クラリスが雄叫びを上げて、

「団長!!何をやっているんですか!!えぇ!?」

クラリスが腕を振り回すも護衛兵に「落ち着いてください!!」と絶叫されて押さえつけられる。

 

「大丈夫か?」

「は・・・・はい。少し・・・・嬉しいですし」

「ん?」

最後の部分をクラリスの叫びによってかき消されたせいか伊織は不思議そうに首をかしげ、ちとせから離れた。

「落ち着け・・・・」

「アレを見て落ち着いていられますか!!」

諭すように宥める伊織。

一方、怒り狂うクラリスに伊織は額に油汗を浮かべて、むぅと唸るだけだった。

「どうなっちゃうんでしょう?」

「さぁ?」

タクトは面白そうにその光景を見つめていた。

 

 

                  2

 

 

「軍首脳会議では隊長が調査活動を行っていた“EDEN”との今後の対応について話し合いが繰り広げられています・・・・・・それと、」

「それと?」

「フォートのバニティがつい先日、オルフェウス基地で発見されたとの事です」

チッと舌打ちする。

伊織の自室にて座布団の上に正座し彼が出した茶を啜り、幸せそうに溜め息をつくクラリス。

「そうか・・・・ガイン卿はやはりエルシオールが来る事を?」

えぇ、と少し当然のような感じで返す。

「まぁ・・・・あの人の予言は当たりますからね」

「嫌と言うほどな」

そこでクラリスと伊織は互いに顔を見合わせ、ふきだして可笑しそうにクスクス笑いあった。

楽しく笑うなんて何ヶ月ぶりだろう?―――――そう自問していても記憶の彼方に答えは吹き飛んでしまっている。

 

「団長は・・・・・・どうしてましたか?」

「俺か?・・・・・・・エルシオールにいたよ。エンジェル隊の連中やタクト達と戦ったりしていた・・・・・・それに」

「それに?」

楽しい思い出を思い出すように目を細めて語る伊織。

クラリスが首を傾げて訊ねた。

「何でも無い。気にするな」

「気になりますよ!!」

クラリスはそれ以上、追求せずさっさと引き上げていった。

心なしか彼女の態度に冷たさが含まれているような気がした。

 

 

何が原因なのだろう?

 

 

やはり、自分の所為とも知らず伊織はただただ、溜め息をつくだけだった。

「やれやれ・・・・嵐の前触れか?」

湯飲みをお盆の上に乗せて伊織は台所へと脚を運ぶのだった。

 

 

「貴女は・・・・・?」

伊織の部屋に向かうちとせは目の前から歩いて来るクラリスを見つけた。

「貴女ね?ちとせって」

「はぁ」

少しばかりか全体に冷たい刺を含んだような冷徹な口調と声質。

敵意を露にしている。

「貴女!!何で団長に近づくの!!!」

「そっ!!そんなこと、貴女に言う事じゃありません!!」

キッと睨みつけ指を突き刺すクラリス。

ちとせも一瞬、頬を染めたかと思うと負けずに睨み返した。

お互い睨み合いが続く。

敵意の視線がぶつかり合い、火花と火花が激しく散る。

マンガならば背景に「ゴゴゴゴゴゴゴ!!!」といった文字が浮かぶほどの迫力。

周囲を通過しようとするクルーが目をカッと見開き逃げるようにそそくさと立ち去っていく。

「まぁ良いわ。お互い頑張ることにしましょう」

意外なほど呆気無い終わり方をしてクラリスは去っていった。

ちとせは何か胸騒ぎがし伊織の部屋へと足早に向かう。

 

 

ピンポーン♪

 

 

インターホンを鳴らしても返事は無い。

二度目を押しても、だ。

「留守でしょうか?」

ちとせは伊織が他に行きそうな場所を検討してみるとある場所が思い浮かんだ。

銀河展望公園。

「ここの景色は良い。落ち着いた夜など最高だな」

伊織は弾んだ顔で呟いていた。

その事を思い出し、ちとせは銀河展望公園に向かって駆け出す。

 

 

凄く・・・・・・伊織さんに会いたい

 

奇妙な感覚に突き動かされるまま、ちとせは走るのだった。

 

 

 

 

 

 

銀河展望公園に着くと、やはり案の定、伊織が芝生の上に腰掛けていた。

何かを握っており、祈るように右手を額にかざしている。

「伊織さん・・・・・・」

「ちとせか・・・・」

ちとせに気がついた伊織がソレを懐に締まった。

「どうした?」

「いえ・・・」

その時、ちとせは見たのだ。

彼の悲しげな笑顔。

 

 

 

癒せたら良いのに・・・

 

 

 

そう思っても自分に出来るのだろうか?

彼を癒してあげることが出来るのだろうか?

自問してみても答えは中々、出てこなかった。

何故だろう?

 

「いえ・・・何でもありません。・・・それは?」

あぁ、これ―――――――と言って制服の懐に手を伸ばしソレを取り出す。

姿を見せたのは濃紺の勾玉だった。

穴があけられ、チェーンが取り付けられている。

何度も持ったりいじっているのだろう。

チェーンは傷だらけだった。

「雪華が・・・・くれたんだ」

とても、楽しそうに語る伊織。

悲しみというものは一切無く、明るい青年の見せる穏やかな笑み。

「面白いと思わないか?」

「えっ?何が・・・ですか?」

きょとんとした顔のちとせを見て伊織はまた軽く笑い、

「必死で生きたいって願う奴が・・・・死んで。自分の命なんてどうでも良いと思う奴がこうして生き長らえているんだから・・・・笑っちゃうよな」

穏やかさが完全に抜け悲しみに満ち、苦笑いをする。

 

返す言葉が無かった。

いや、伊織が何を言っているのか分からなかった。

すぐには。

しかし、時間が経つに連れて伊織の言った意味がようやく彼女には理解できた。

 

前者である人間はおそらく雪華のことだろう。

家族を大切に思い、家族や戦えない友達の為に自分自身が戦うことを選んだのだ。

そして、伊織に想いを寄せ、これから彼と一緒に生きていたいと願った。

だが、彼女は・・・死んでしまった。

必死に「生きていたい」という望みも虚しく・・・彼女はいなくなってしまったのだ。

 

そして後者は伊織だった。

いつしか雪華に愛情を抱いていた伊織。

皮肉にも彼女の最期の時に想いを告げた。

目の前で徐々に小さくなっていく最愛の者の命の灯火を見せつけられ絶望する。

絶望から立ち直り、いつしか伊織は、死に対する恐怖が次第に薄れていった。

傷つくこと、傷つけること。

そんなことは平気なのだ、と思うようになった。

絶望と哀しみを乗り越えて、今の伊織はここに居る。

 

『復讐』という闇炎を燃やし伊織は生きている。

「あのっ!伊織さん!!わたし――――――」

伊織さんにずっと傍に居て欲しい。

そう言おうとした矢先、

 

 

≪ちとせ!伊織!至急、格納庫に向かってくれ!!敵が来た≫

 

 

ちとせのクロノクリスタルからレスターの焦燥に駆られた声が飛んできた。

彼にしては珍しく焦っているような感じの声質。

「ちとせ・・・行くぞ」

「は・・・はい」

しょんぼりしながらも、ちとせは伊織の後について行った。

 

 

               3

 

「―――――――凄い数だねぇ」

フォルテが口笛を鳴らしながら興奮を抑えたように呟いた。

エルシオールと第七団艦隊の目の前に展開されているのは超大型武装組織“オルフェウス”。

当初は戦闘機等に人工知能を搭載した部隊が展開されていた為、戦闘生命体と思われていたがつい先日、武装組織による犯行だと判明した。

 

軍事力は国一つ分で侵略戦争といってもいいくらいの戦力を保有している。

敵艦隊の戦力は打撃艦二隻、イージス艦三隻、ステルス空母五隻の計十二隻。

「―――――――タクト、悪いがお前はエンジェル隊の指揮のみに専念してくれ」

<マーク・ヌル>から伊織の声が聞こえて来た。

「どういうことだ?」

「―――――――指揮系統を立て直す。俺は第七団の指揮を担当する・・・いいな?」

つまり、エンジェル隊の指揮はタクトに、第七団の指揮は伊織が担当する事になる。

「わかった」

「―――――――助かる」

そこで、通信は途絶えタクトのクロノ・リッターはクレーンで運ばれ宇宙空間を突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間。

 

「―――――――団長!!指示を!!」

脳裏にクラリスの声が響いた。

「全機、待たせたな。指揮系統を立て直す、各小隊ターゲットを絞り攻撃を集中!!」

了解―――――という返事が声ではなく思念で返ってきた。

AF同士の通信はスピーカーから聞こえるのではなく搭乗者の脳に直接、響くような形で伝わる。

純白の装甲に銀色のフレームの“聖光騎士団”AF部隊は携帯火器を構え発砲する。

小隊それぞれが一丸となって戦う様はまるで、スポーツの凄腕チームのようだ。

敵艦の出撃口からも灰色のAF群が出撃していく。

手持ちには鈍く黒光りを放つ銃器を構えている。

「―――――――敵AF部隊!!」

「αチームはエルシオールの護衛!βチームは敵AF迎撃」

「―――――――了解!聞いたわね皆!?」

伊織の指示をクラリスが全機に向けての通信を送る。

見事に取れた連携を茫然自失となって見ていたタクト。

 

「―――――――誰かさんとは大違いだな」

「うるさい・・・俺たちも負けずに戦うぞ!!」

「―――――――でも・・・・同じ人間です」

ヴァニラの沈んだ声が。

確かにそうだった。

目の前で戦っているのは同じ人間。

ヴァル・ファスクのような戦闘用スレイヴじゃない。

世界は違えど同じ人類なのだ。

 

「―――――――お前達!!戦えないなら下がっていろ、足手まといだ!!」

伊織の叱咤が割り込んできた。

メインモニターには<マーク・ヌル>が敵の砲撃を縫う様に避けながら、“ツインバレルハンドガン”を敵AFに向けて発砲していた。

隣りにはAF用超伝導アサルトライフルを構えた機体が両腕でライフルを構え、<マーク・ヌル>と一緒に敵を殲滅している。

「ホラホラ!!どうしたの!?」

クラリスは高笑いしながらブースターを吹かして逃げ回るAF達に照準を合わせてフルオートからセミにモードを切り替え、引き金を引いた。

 

 

バスン!!バスン!!

 

 

プレス機で鉄板を打ち抜いたような従性が響いた。

高速で向かう弾丸を避けきれず、頭部や腕部が爆音に似た音を立てて吹き飛ぶ。

傷口からは緑色の衝撃吸収剤が浮き出す。

クラリスは―――――――<ヴァルキュリア>はアサルトライフルをセミからフルオートに戻して、再び引き金を引いた。

引き金の冷たさが、アサルトライフルを発砲した時の反動がクラリスの身体で伝わったり再現されたりすることによって彼女は激しい興奮状態に陥る。

 

 

 

ズガガガガガガガガ!!!

 

 

連射されていく弾丸群。

敵AF部隊の腕や脚を引き千切ったりするが、彼女の狙いは別にあった。

「団長!!」

「―――――――まかせろ」

アサルトライフルの連射により一点に集められたAF部隊に伊織のロングソードを握り締めた<マーク・ヌル>が猛スピードで接近し、疾走する勢いをそのまま力に変えて一挙に敵AF部隊をまとめて切り裂いたのだ。

 

「団長、ナイスです!!」

「―――――――お前のおかげだ・・・次行くぞ!!」

「はい!!」

その時だった。

 

「―――――――戦友よ!!再び勝負ッ!!

暑苦しい男の声が回線から割り込んできた。

「ヘイズか・・・クラリス、コイツは俺が引き受けた」

「―――――――了解・・・・御無事を」

<ヴァルキュリア>はブースターを全速力で吹かし、エンジェル隊の援護に回った。

 

「もう一度聞く・・・お前は・・・何のためにフォートに加担する」

「―――――――俺たちの今までの行動は既に無駄に等しかった」

「例え無駄でも・・・諦めたらそこで終る。そう言ったのはお前じゃないのか?」

「―――――――しかし!!もう手遅れだ・・・お互いにな?」

「そうだな」

苦笑する伊織。

 

 

 

 

「天都伊織!!俺は貴様を倒す!!貴様も100%の力を出し切って俺に挑め!!」

 

「いいだろう!!聖光騎士団第七団団長としてではなく・・・一人の人間としてお前を打ち倒す!!」

 

 

<マーク・ヌル>と<ゴッドナックル>は数秒間の静止の後、すぐに戦闘を繰り広げた。

 

 

接近してくる<ゴッドナックル>に向かって“ツインバレルハンドガン”を発砲する。

二色に光る二つの弾丸が高速で弾道を描き<ゴッドナックル>に向かっていく。

その行動を読んでいたかのように拳にフィールドを発生させて叩き落し、着実に距離を取りつつあった。

「――――――――どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

二つの拳に緑色のフィールドを纏い<ゴッドナックル>は目にも止まらぬ速さで連続で拳を突き出してきた。

防御するにも間に合わず<マーク・ヌル>は全ての攻撃を喰らってしまった。

右肩が押し潰され左の脇腹は掠っただけだと言うのに綺麗に球状に抉れている。

おそらく、フィールドの圧力だろう。

「ぐぅっ!このぉぉぉぉぉぉッ!!!」

負傷によって燃え上がった怒りに身を任せ伊織は―――――<マーク・ヌル>は大腿部にも格納されている単分子カッターを引き抜き、<ゴッドナックル>の右胸に突き刺し、

「おまけだ!取っておけ!!」

負傷した右腕を強引に動かした。

骨が砕け散ったような痛みが右肩から全身に駆け巡る。

痛みの所為で涙が滲んでくるのが良く分かった。

右腕の装甲を展開して、ほぼ至近距離からマイクロミサイルを叩き込んだ。

 

「―――――――――ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「ぐぅぅぅぅ!!!」

もだえ苦しむヘイズ。

だが、それは伊織も同じだった。

爆発が近い分、伊織にも負担が掛かるのだから。

苦痛を堪え、双方は間合いを取り、離れた。

 

 

「――――――――――戦友よ、これが・・・・強さなのか?」

怯えたように訊ねてくるヘイズ。

「あぁ。お前も持っていた・・・・人の思いだ」

「――――――――――フッ。俺は・・・・生き急ぎすぎたのかもしれん」

何か達成感に満ちたヘイズ。

ようやく、自らの過ちに気付いたのだ。

<ゴッドナックル>は既に構えを取り右手の親指を突き立てていた。

「――――――――伊織さん!!」

ミルフィーユが割り込んできた。

その顔は必死の一言で目からは大粒の涙が流れている。

表情から涙の原因は理解できた。

「恐怖」

おそらくこれだろう。

伊織も肉眼でラッキースターを確認した。

酷い状況だった。

おそらくAFの集中砲火を食らったのだろう。撃沈は既に目前だった。

しかも、エンジントラブルがこんな時に起きてしまった。

ラッキースターはその場で停止したのだ。

 

これも、彼女の強運が成せる技なのか?

 

ブースターを吹かし接近しようも距離が離れている。

「ミルフィー!!」

背後から三機のAFが狙いを定めて引き金を引こうとしていた。

 

 

もう、間に合わない。

 

 

「――――――――させるかぁぁぁぁぁぁ!!」

そう思った時、ヘイズがあらん限りの叫び声を上げ、<ゴッドナックル>は両腕を広げて庇うようにラッキースターの背後に踊り出た。

発射された弾丸は全弾は全て<ゴッドナックル>に命中、ラッキースターへの被害は無い。

「――――――――まだまだ、グアッ!!」

発射される弾丸。

味方といえど裏切り者は既に敵。

ヘイズを殺してでもラッキースターを沈めようとするAF部隊。

「やめろヘイズ!!」

「――――――――馬鹿な事を言うな!!俺が動けばコイツはどうする!?・・・・ぐぁぁぁぁ!!」

叫び声を上げる伊織に負けじとヘイズも返してきた。

「――――――――俺はもう・・・戻れない。お前ならやり遂げられる、後は頼んだぞ伊織!!」

 

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

“ツインバレルハンドガン“の照準を合わせ一瞬で敵AF部隊のコックピットを正格に確実に撃ち抜く伊織。

爆発を確認し<ゴッドナックル>に目線を戻すと、<ゴッドナックル>は最期に<マーク・ヌル>とラッキースターに向き、

 

 

 

 

「戦友よ・・・・・・・・さらば、だ」

 

 

 

 

右腕の親指を突き立て盛大に爆散した。

まるで、断末魔の叫びのように爆発音が伊織の脳にいつまでもこびり付いた。

 

 

 

 

 

 

 

第十章        完     続く

 

 

 

 

 

 

 

後書き

ヘイズが死にました。

ミルフィーユを庇って。

最後まで男として彼を表現できたかどうかは自信は無いです。登場回数はたったの二回ですし。

でも、彼は彼なりに信念を持って伊織とぶつかり合い、自らの過ちを知ってミルフィーユを庇うことで罪滅ぼしをしたのだと、私は思います。

眼の前でまた、一人の死を見せつけられた伊織。

 

彼は今後どうなるのでしょうか?

そして、クラリスの登場によるちとせとの関係は!?

 

最後まで御付き合いくだされば幸いです。

ではでは、第十一章の後書きで。