『この時、気がついたんだ。自分にとって何が大切で失いたくないかを』

 

 

 

 

 

第十五章「Shadow Avenger

 

 

 

 

 

                  1

 

 

 

 

ズバババババババ!!!!

 

 

 

漆黒の闇が無限に広がる宇宙空間で無数の閃光が勃発していた。

灰色を基準としたカラーリングの浮遊する物体が一つまた一つと爆裂四散していく。

“オルフェウス”第13防衛艦隊の戦艦とAF部隊だ。

「――――――――くそぉ!何だア――――――――」

男の苛立つ声がノイズの割り込みによって掻き消され次の瞬間、右を航行していたAFが腹部から真っ二つに一刀両断されたのが確認できた。

糸が切れた凧のように吹っ飛んでいき中規模の流星に激突し爆散した男のAF。

火器の掃射準備の最中に接近されて撃破されたのだ。

「レックス!!!」

男――――――親友でもあり長年、死線を乗り越えてきた戦友の死にデビットは一瞬、揺らいだものの、すぐに標的に目をやる。

既に駆逐艦五隻、AF十九機がそいつによって撃破されていた。

 

鮮やかな奇襲だった。

高度なステルス装置でも起動していたのか、と心中で疑問を口にするも分析の結果、そんなものは搭載されていないようだ。

 

 

では、何だ?あの『驚異的』という言葉すらちっぽけに思えるほどの戦闘能力は。

 

 

その戦闘能力の持ち主は既に五機のAFに光のミサイルのような弾丸を360度バレルロールをしながら叩き込み粉々に粉砕していた。

まるで、遊んでいるかのような光景だ。

AFはその汎用性と機動性に優れ今では従来の戦闘機といった兵器を遥かに凌駕している。

それまでは戦車といった兵器も今では後方支援に少し見る程度で大半が陸上戦主体にチューニングしたAFや後方支援用の大火力火器を多数搭載した重装甲、重火力用のAFが活躍している。

簡単に言うと“ガーリアン”での軍事力は殆どがAFなのである。

しかし、眼の前で味方機を軽く屠る標的のフォルムは明らかに戦闘機。

確かに戦闘機よりは二周りは巨大だ。

それだけの話だというの既に大多数の味方がそいつに撃墜されている。

信じられない光景に我が目を疑いながらデビットはその状況を飲み込み戦況を読むことに努めた。

 

「いい加減に!!!」

強い怒りを発しながらデビットは機体の背部バックパックの左のハードポイントに接続されているリニアガンを起動する。

 

 

ガシャ!ウィィィィン!!!

 

 

銃身が左肩の上で止まり、銃口は真っ直ぐ前方に向けられ、

「火器管制異常なし・・・・・落ちろ!!!」

スラスタ展開。出力を上げて敵戦闘機に向かって接近した。

縦横無尽にそして変幻自在に動く敵戦闘機にデビットは常人外れた動体視力で照準を合わせ、リニアガンを発砲する。

薄いオレンジ色にきらめく弾丸が真っ直ぐに敵に向かって飛翔していく。

リニアガンの弾丸はオレンジの弾道を描き敵戦闘機を撃破する。

―――――――――はずだった。

「なに!?」

デビットは驚愕した。

何とその戦闘機は大きくバーティカルターンし、リニアガンの弾丸を避けたのだ。

通常の戦闘機ではあり得ないと言うことでもない。

しかし、誰もが簡単に真似できる芸当でもない。

その戦闘機はデビットなど眼中に無いかのように無視し他の戦艦に向かって攻撃を開始する。

 

屈辱だった。

 

プロとして一流のAF搭乗兵としてのプライドがズタズタに引き裂かれ粉々に砕かれたような感覚をデビットは初めて感じた。

「俺は・・・・眼中に無いってことかよ・・・・!!!」

「――――――たい・・・ちょう」

消え去る部下の命の灯火。

部下達の声など今の彼には届くはずが無かった。

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

怒りに身を任せながらデビットはブースターの出力を限界ギリギリまでに上げて戦闘機に向かって疾走しながら両腕に構える“AF用F39型アサルトライフル“をフルオートにし、引き金を引く。

踊る弾道。

デビットは敵戦闘機が回避するであろう方向にも数十発の弾丸を撃ち放った。

しかし、敵戦闘機はそれすらを予想し見事なまでに軽やかに弾丸と弾丸の間を縫うように避ける。まるで、ゲームか何かか、または実験か演習か何かのように、鮮やかに。

搭乗兵の洗練された力量が惜しみなく発揮されたのだろう。

戦闘機の被害は無に等しかった。

 

「―――――隊長・・・・援護を・・ウワ――――――」

部下の救いの声もまた怒りに満ちた彼に届くことは無い。

「ちっ!」

スキャンレベルを上げ、確認すると戦闘機は既に旗艦に向かって特攻を仕掛けていた。

無謀だった。

旗艦はとりわけ火力と装甲を重視した為、ある種の機動要塞に近い。

それを知っていて、または知らずの特攻か。

デビットは戦闘機のパイロットが前者か後者か、わからなかった。

 

 

 

しかし、いやまさか・・・・・・

 

 

もはや人が操るといった域を越えているアイツなら・・・・・・

 

 

予感は的中した。

次々と飛来する弾幕を防護用フィールドで防ぎ、加速する戦闘機の両翼に突如、ウイングが展開されグリーンの閃光が宿った。

そして左翼を旗艦の側面に喰い込ませ一気に大きく抉ったのだ。

「あ・・・・」

ちっぽけな声がコックピットに響いた。

二秒後、旗艦は艦体の至る箇所で爆発を繰り返し宇宙の塵と化した。

「―――――――――――次はお前か」

脳に青年の声が木霊する。

「―――――――――――俺はお前達を許さない。一人残らず叩き潰す」

どこか怒りと憎しみに満ちた青年は自分よりも年下だった。

しかし、彼が驚いたのは年齢ではない。

いや、驚くよりも『恐怖』しているのだ。

感じたことの無い殺意と憎しみ。

いつの間にか膝が笑っていた。

デビットは声にならぬ叫び声を上げ装甲用ナイフを引き抜き接近戦をしかけた。

一方、戦闘機も先程のウイングを展開し接近してくる。

大きくナイフを腕ごと振り上げた瞬間、

 

 

 

 

 

 

「え・・・・・・?」

 

 

 

 

 

手薄となった腹部にウイングが迫り一気に両断し、デビットは何が起きたのか分からないまま血に染まったコックピットの中で機体ごと爆散した。

駆け抜けた戦闘機は自らの戦果を確認するように旋回しブーストを吹かし去っていく。

その宙域には破壊されたAFと戦艦のスクラップのみが残されていた・・・・・・

 

 

 

                  2

 

 

エルシオールの司令官室にてタクト・マイヤーズはいそいそと珍しく書類整理という仕事と格闘していた。

食い入るように艦隊の損害、物資の補給リストなど。

GA−008『クロノ・リッター』のパイロットでもあり皇国軍艦隊の総司令官という二つの顔を持つ彼。

激化する戦場に皇国の重要人物を巻き込む訳には行かない。

故に今はルフト、シヴァ、シャトヤーン、ノアを無事に皇国まで送ることが任務だ。

一段落し椅子の背もたれに大きく身を預け背を伸ばす。

 

 

 

ピンポーン♪

 

 

 

「はーい」

バシュッ!!―――――という音と共に廊下から少女がバスケットを持ってやってきた。

ピンク色の髪に大きな白い花が二つ付いたカチューシャを頭に身に付けた少女。

軍服など似合わない可憐な少女はにっこりと微笑み、

「タクトさーん!!差し入れですー!!」

バスケットを掲げて見せた。

 

ミルフィーユ・桜葉。

それが彼女の名前だ。

「ありがとうミルフィー。丁度、甘い物が欲しかったんだ」

「良かった!!」

テーブルの上にテーブルクロスを敷き皿を載せてその上にケーキを盛る。

ケーキの甘い香りとコーヒーの香ばしい香りが部屋に充満した。

 

「それで・・ちとせは?」

ケーキを食べながらミルフィーユの顔を見て語りかけるタクト。

彼女は無言でかぶりをふった。

「やっぱり・・・・・・」

気落ちしたようにフォークを皿に置くタクト。

「ちとせの所為じゃないですし、タクトさんの所為でもないです!!」

「でも・・俺がもう少しアイツを・・・・フォートを説得していれば!!」

がっくりとうな垂れるタクトにミルフィーユはそっと背中に寄り添った。

「み・・ミルフィー!?」

「一人で抱え込まないで下さい。タクトさんのそういう顔・・見たくないです」

「ミルフィー」

「私だって伊織さんが大怪我して悲しいです!!でも、少しでも皆の気持ちを楽にさせあげたいんです!!だから――――」

「大丈夫だよミルフィー。嫌なことも嬉しいことも一緒に分けよう」

ミルフィーユはタクトを抱きしめ声を上げて泣いた。

 

 

 

 

誰かが生き残り誰かが死ぬ。

そんなことが当たり前のように起こるこの世界。

照明を全て落とされ薄暗く月明かりのみが縁側に差し込んでいる。

寝間着に身を包む少女――――――烏丸ちとせは半ば、生気の無い顔でじっと地面を見つめていた。

膝には亡き父の形見である犬のぬいぐるみが置かれている。

そのぬいぐるみを放すまいとしっかりと握る手に透明の雫がポタリ、と落ちた。

地面を見つめる彼女の目が潤み月光に反射し悲しみの光で輝いている。

「伊織さん」

静かに想い人の名を口に出す。

彼が帝都のある本星に搬送されてから既に三週間が経つ。

その間、数規模の戦闘はあったもののたいした戦闘で無かったのが救いだ。

伊織の負傷を自らの所為だと決め付けたちとせの精神状態はかなり不安定な域に達していた。

その為、下手に戦闘に出すと撃墜される可能性が高いと判断した為に彼女は落ち着くまで待機という命令を受けた。

 

 

 

死ぬかと思った。

死にたくないと思った。

だから、こうして自分は生きている。

大切な者を傷つけてまで。

ここにいる。

 

 

 

「私は・・・・私は!!」

大切な者を傷つけてまで生き長らえている自分に激しい自己嫌悪を覚えながら大きくかぶりを振り涙をまた一つ流す。

 

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 

「誰・・・・・・・ですか?」

「すまん、俺だ」

ドアが開き振り向くと長身で白髪、右目に眼帯をつけた青年が気まずそうにちとせを見ていた。

レスター・クールダラス。

エルシオールの副官にしてタクト・マイヤーズの親友。

そして、ちとせに待機命令を与えた張本人。

 

「少し良いか?」

ちとせはこくんと頷き部屋の照明をつけ台所に向かい卓袱台の前に座るレスターに差し出した。

「どうだ?落ち着いたか?」

「はい・・前よりは」

「そうか」

ぎこちない動作でまた、湯飲みに手をかけて口元に運ぶ。

沈黙が生まれ場を支配する。

彼のような人間がこうして女性の部屋を尋ねるのにはそれなりの勇気が必要だったのだろう。

何を話そうか分からずに必死の形相で卓袱台を睨みつける。

そして、

「あーーー!!もう!!」

「ふく・・・・しれい?」

いきり立ち頭を乱暴に掻き毟るレスターにちとせはきょとん、とした様子で彼を眺めていた。

 

「俺はこういうことには慣れていないんだ!!ちっ!タクトの奴」

「は・・・・はぁ」

ぶつくさと文句をいうレスターにちとせは何だか心の曇りが取り払われていく気がした。

「ありがとうございます・・・・副司令」

「ちとせ・・・・大丈夫だ。伊織がそう簡単にくたばる人間じゃない。それはお前が一番知っていることだ」

「副指令・・・・」

断言にも似たような口調。

レスターは時間が空いているときは良く伊織とフェンシングやら格闘技の試合をやっては鍛錬している。その度にどちらが勝つか賭けが良く起こったとタクトが苦笑いを零しながら言っていた記憶がある。

不器用な彼にとって唯一できる励ましなのかもしれない。

「ありがとうございます、副司令!!」

「そ・・そうか」

満面の笑みを浮かべるちとせ。

彼女の笑顔には先ほどの不安や恐怖は無く前に進む勇気のみが宿っていた。

 

 

 

 

ビービー!!!

 

 

 

「――――多数の熱源反応が本艦隊の前方に出現。総員第二戦闘配備!!エンジェル隊は至急出撃準備を整えてください!!」

 

「副司令!!私、行けますから!!伊織さんの分まで戦えますから!!!」

「わかった・・・・でも、無理はするなよ」

「はい!!!」

ちとせは格納庫へと走って行った。

その後姿には迷いは無く入隊直後の姿も無かった。

立派な天使になった彼女を眩しそうに見た後、レスターはブリッジに走り出した。

 

「ちとせ!?大丈夫なの?」

「はい!ご迷惑をおかけしましたが、もう大丈夫です!!」

笑顔で答えちとせはシャープシューターのコックピットに搭乗した。

クレーンで運ばれていく紋章機。

重力が一瞬、消えてモニターに漆黒の宇宙空間が広がる。

「烏丸ちとせ・・・・参ります!!!」

頭上の天使の輪が一層、強い輝きを放ち、ちとせはアクセルを踏み込んだ。

他の守護天使に続きシャープシューターも戦場へと突入した。

 

 

 

                 2

 

 

 

 

「えぇい!!」

シルバーメタリックにピンクのカラーリングの大型戦闘機。

近、中、遠距離の武装をバランスよく搭載したGA−001『ラッキースター』に搭載されている中距離レーザー砲から蒼白い閃光が放射されAFを串刺しにする。

「これも!!」

機体と同色のレーザーファランクスとミサイルをステルス空母に叩き込み爆発に巻き込まれないよう離脱する。

全周囲モニターの後方で爆発音と閃光が見えた。

ミルフィーユは機首を変え次の標的に向かって愛機を飛ばした。

 

 

 

 

「遅いわよ!!」

シルバーメタリックにレッドのカラーリング。

アンカーアームを備え機動力に特化されたGA−002『カンフーファイター』のコックピットに座りながらランファは標的に目線を配る。

敵を嘲笑するようにカンフーファイターの機動性を生かしヒットアンドアウェー戦術を仕掛けていき、ギリギリまで接近し至近距離からミサイルと機銃を叩き込みバーティカルターンで回避する。

「もらった!!」

レーザーブレードを抜き放ち接近してくる五機のAFに向かってランファはアンカーアームを射出した。

金属の破壊音と共にモニターに映るAFはアンカーアームに押し潰され爆裂四散した。

「アタシとやろうなんて十年早いわよ!!」

勝ち誇った笑みを浮かべランファはカンフーファイターを新たな獲物に向かって飛ばしていった。

 

 

 

 

シルバーメタリックにスカイブルーのカラーリングの大型戦闘機、GA−003『トリックマスター』がフライヤーを引き連れて軽やかに敵を攻撃していた。

レーダーで索敵すれば敵のステルス位は解析し補足できる。

そこにフライヤーを向かわせ死角から攻撃させ、手薄になった火力にこぞって集まった時は全方位に向かって閃光を照射した。

不意の一撃を喰らい思わず動きが止まり閃光にコックピットを貫かれ火球に呑まれて行くAF部隊。

「またのお越しをお待ちしておりますわ」

優雅な微笑を浮かべながらミントは――――――トリックマスターは追撃に向かっていった。

 

 

 

 

「オラオラァ!!命が惜しけりゃそこどきな!!」

ハッピートリガーに装備されている連装レールガンから次々弾丸が発射されていき敵を粉砕していく。

アサルトライフルの弾丸が飛来してくるもシールドで防御されレーザー砲の照準を合わせて撃ち放った。

 

 

ピィッ!!

 

 

軽やかな発射音の直後、動力炉を貫通されて爆発する。

更にハッピートリガーのありとあらゆる武器が一斉に火を吹いた。

ミサイル、レーザーファランクス、レーザー、レールガン。

一斉射撃を受けフォルテが担当していた一個艦隊は壊滅状態に陥った様子を見てフォルテは久しぶりに感じた昂揚感が何なのかようやくわかった。

傭兵時代の自分が体験したゾクゾクするような殺気。

自分は心の底で戦いを楽しんでいる。

そんな気がした。

「こちらハッピートリガー!!補給の準備を頼むよ!!」

そう思いながらもフォルテはエルシオールに進路を変更し補給に向かった。

 

 

 

 

「癒しを・・・・・」

祈るように発せられた言葉の後に続けてハーベスターから生まれた緑の波紋が紋章機を包み込んだ。

「―――――――ありがとうヴァニラ!!」

「―――――――ありがとね!これで戦えるわ!!」

「―――――――感謝いたしますわ」

「―――――――ご苦労さん」

「―――――――ありがとうございます、ヴァニラ先輩」

「―――――――助かったよ」

口々に感謝の言葉が返りヴァニラは少し頬を染めながらこくん、と頷きエルシオールの応急処置に取り掛かった。

「伊織さん・・・・お待ちしています」

遥か彼方の宇宙空間に向かって・・・・呟いた。

 

 

 

 

「正鵠!!頂きます!!」

意識を集中させてレーザーファランクスと同時に長銃身レールガンの引き金を引く。

レールガンの弾丸は避けられたがちとせはその先を狙っていた。

レールガンの弾丸を回避したAFの方向を予想し放たれたレーザーファランクスは敵AF,の腕部、脚部に喰らい付いたのだ。

そして、

「やぁ!!」

気合と共に再び吐き出されたレールガンの弾丸は敵AFのコックピットを貫き、貫かれたAFは四散した。

「伊織さんの分も私が戦います!!」

強い決意を声に出し自らに聞かせ、ちとせは遠距離の敵に向かって照準を合わせていく。

 

 

 

 

「この野郎!!」

二連装レーザーキャノンに収束された閃光。

タクトは重空母に向かってトリガーを引いた。

この無益な人間同士の戦いを終わらせる為に。

悲しむ人を増やさない為に。

トリガーを引いた。

動力源であるクロノストリングエンジンから流され二連装レーザーキャノンの銃口に溜め込まれた閃光が決壊したダムのように吐き出され敵重空母を護衛のAFごと薙ぎ払う。

あるAFは脚が千切れ、腕が千切れ。

巻き込まれて爆散する機体もいた。

「ふぅ」

額にじんわりと浮かぶ脂汗を拭いながらタクトは操縦桿を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

「―――――――何なのよコイツら!!キャ!!」

「―――――――ランファ!!」

多勢に無勢だった。

紋章機の補給の間を狙い手薄となった守備箇所を狙った先方を取られた所為か皇国軍艦隊の約半数が撃墜されている。

更に最強部隊と称された聖光騎士団の七団艦隊も紋章機の援護をし撃ち落されていく。

徐々に戦力が削られていくエルシオール達とは裏腹に“オルフェウス”の戦力は増える一方だ。

 

カンフーファイターが敵の大口径火器の直撃を喰らい大きくよろめいた所を一機のAFが接近戦用武装でとどめを刺そうと接近した。

すかさず、ラッキースターから放たれた白く伸びた閃光がコックピットを一突き。

「――――――――ありがとう、ミルフィー!!」

「――――――――大丈夫!」

「ランファ、ミルフィー!!補給に戻ってくれここは俺とちとせが食い止める!!ちとせ!!」

「――――――――はい!!」

ラッキースターとカンフーファイターに指示を出した後、シャープシューターから間髪入れずに気合に満ちた返事が返ってきた。

 

二連装レーザーキャノンをファランクスとミサイルとの並行で撃つ。

シャープシューターも弾幕を上げ的確に精密な射撃を繰り返す。

「――――――――きゃ!!」

「ちとせ!!」

ちとせのノイズに紛れた悲鳴にタクトは背筋が寒くなるのを感じた。

 

 

ゴゥ!!

 

 

「ぐあぁ!!」

衝撃が叩きつけられた。

ガコンという音と共にクロノ・リッターの動きが止まった。

そんなクロノ・リッターとシャープシューターを無視し、AF部隊はエルシオールに向かって飛翔していく。

「まずい!!ちとせ・・早くエルシオールへ!!」

「――――――――は、はい!!」

シャープシューターも慌てて急旋回し後を追う。

エルシオールには彼の恋人であるミルフィーユ、そしてエンジェル隊や共に窮地を乗り越えた仲間がいる。

「ちくしょう!!ちくしょう!!動けよ!!動けよ、おい!!!」

焦燥に駆られ怒りをぶつけるかのようにタクトは操縦桿を乱暴に動かす。

クロノ・リッターは動かなかった。

度重なる戦闘。

そして、搭乗者のタクトの想いが途絶えたからだ。

メインモニターには今にもエルシオールに向かって隊列を組み接近しているAF部隊が。

「やめろぉ!やめてくれぇ!!!」

泣き叫びながらもタクトは身を乗り出す。

届くわけ無い懇願を必死に続ける彼の目線――――――メインモニターに映されたエルシオールの周辺で異変は起きた。

 

 

光のミサイルがいくつも敵AF部隊に激突したのだ。

そして、その後を追う様に漆黒の戦闘機がエルシオールと敵部隊の間に踊り出て即、機関砲を発射する。

突然の乱入者に驚き反応が遅れ全て放たれた機関砲の弾丸に蜂の巣にされていくAF部隊。

 

「何が起きている・・?」

ブリッジにてレスターがかすれた声で呟いた。

死を覚悟した瞬間、こうして生きている事実に自分自身が一番驚いている。

「識別は友軍機です」

ココからの報告。

「例の機体から通信です!!」

「繋げ!!」

ウインドゥは開かなかったものの声だけは確認できた。

どうやら、エルシオールとしか通信は出来ないらしい。

 

 

 

「――――――――レスター・・・・」

 

 

 

「い・・・おり?」

聞き覚えのある青年の声が聞こえた。

「――――――――敵は俺に任せろ。お前たちは合流地点に向かってくれ」

「無茶だ・・お前一人では」

「―――――――問題ない・・・それと、シャープシューターの通信回線を教えてくれ、ちとせと話がしたい」

次に目標地点が示された星図が送られてきた。

アルモはすぐに返事とばかりにシャープシューターの通信回線を送る。

「わ、わかった。聞こえたな!!エルシオールはこれより目標地点に向かう、エンジェル隊は全機帰還!!」

 

 

 

 

 

「――――――ちとせ」

「伊織・・・・さん・・?」

帰還しようとしたシャープシューターに伊織の声が響いた。

「――――――あぁ、俺だ」

目頭が熱くなり視界が滲んできたのが分かる気がした。

メインモニターには確かに漆黒の髪と同色の瞳が特徴的な彼が映っている。

夢や幻に見えた。

でも彼は自分に向かって微笑みかけているのだ。

事実なのだ。

「――――――覚えているか?お前は皇国のために戦うと言っていたな」

「は・・・・はい」

「―――――――良く意味が分からなかった。誰かの為に戦うなんて俺には考えられなかった」

少し寂しさが混じった伊織の声。

「―――――――やはり俺は戦うことしか出来ない人間だ。でも、こんな俺でもこう感じることが出来た」

「何ですか?」

 

 

 

「―――――――お前や皆を守りたいって」

 

 

 

強い決意を隠さずに伊織は言った。

気張っていたのではない。

心の底から思ったことだ。

「―――――――早くエルシオールに帰還しろ。ここは俺が片付ける」

「待って下さい伊織さん・・私!!」

「―――――――大丈夫だ俺は死なない」

通信が途絶え漆黒の戦闘機が一気に敵艦隊に向かって特攻した。

「信じてますよ」

ちとせは飛翔する伊織の機体、漆黒の戦闘機――――――リヒトクーゲルに微笑みエルシオールへと着艦した。

 

放たれた弾幕を避け間合いを取る。

「フォーム・チェンジ」

リヒトクーゲルは戦闘機の姿である“高機動戦闘形態”から人型である“汎用戦闘形態”へと姿を変えた。

両肩、背部に計六枚のウイングバインダーを備えた先鋭的なフォルムは機動力に特化された機体だと瞬時に分かるフォルムだ。

闇と同化するような漆黒のカラーリングにフレームの部分はブルーグリーン。

細い指には銀色に光る鍵爪のような長い爪が伸び、右手には“マルチランチャー”が握り締められている。

 

「一気にカタをつける」

伊織は――――――リヒトクーゲルは迫り来るAF部隊に静かに対峙した。

斉射された弾幕を避け“マルチランチャー“の銃口を向ける。

銃身が縦に割れたような特徴的な銃口だ。

銃口から凄まじい勢いで蒼白い弾丸が連続発射されていき敵AF部隊を真正面から貫いていく。

次々と爆ぜるAF部隊に逃げる余裕を与えずリヒトクーゲルは“マルチランチャー”の銃口に弾丸と同色の細長い刃を発生させた。

加速した勢いで伸びたレーザーの刃を振るい一挙に敵AFの腕を切り飛ばし円舞曲(ワルツ)を踊るようにクルッ、と回転し敵AFを真っ二つにする。

「・・・・!!」

急旋回。レーザーの刃を戻し敵旗艦に向かって銃口を向けてトリガーを引いた。

ラッキースターのハイパーキャノンよりも二回り太いレーザーキャノンがAFを押し潰し旗艦の艦橋に直撃。

レーザーが消えた後、艦橋があった部分は綺麗サッパリと消えていた。

消滅したのだ。跡形も無く。

もはや壊滅状態にもかかわらず自信に満ちたAF部隊がライフルを構え接近しながら弾丸を撃ち放つ。

 

ジグザグに漆黒の闇を動き回り左腕を右肩まで引き投げつけるような動作をするリヒトクーゲルの左腕から蒼白いダガー(小刀)が灰色の巨人に向かって飛んでいき、貫く。

爆発するAF部隊。

 

「やれやれ」

肉眼で敵の増援を確認できた時、伊織は“またか”と少し呆れながらも意識を集中させ、

「リミッター解除」

呟き。

“リヒトクーゲル“の全ウイングバインダーが後方に展開される。

そして次の瞬間、伊織の肉眼で見える全て物体の動きが停止した。

 

 

 

時が止まったように・・・・・

 

 

 

その中で唯一活動できる無二の存在、“リヒトクーゲル”は止まっている敵に向かって正確に“マルチランチャー”の銃口を向けて照準を合わせ引き金を引く。

銃口から四つの蒼白く細長い閃光が放たれた方向に向かって四方に分裂し一転に集中し増援の艦隊に直撃した。

「タイムリミット・・・・か」

再び時間が動き出し増援艦隊は次々に爆ぜていく。

何が起きたのか分からないまま残骸と化した敵を一瞥。

周囲を見回すように回頭し“リヒトクーゲル”はエルシオールが退却した方向に向かって

“高機動戦闘形態”に姿を変えて飛び立った。

 

 

『時粒子制御型動力機関』

リヒトクーゲルの心臓とも言える部分であり両刃の剣でもある。

空間の時間を自由に調整できる機関。

最強の盾と矛の役割を持つ。

 

                   3

 

 

第七団旗艦“タイタロス”

 

 

 

 

「やぁ。伊織・・・無事で何よりだね」

「本当にそう思うのか?」

「やだなぁ。君がそう簡単に死ぬ人間なんて思ってないだけだよ」

団長室で語り合う二人。

「それで?用件は?」

「すぐに終るよ。二人を引き裂くほど野暮じゃないんでね」

苦笑し方をすくめながら伊織の目の前に座る男―――――――雨宮流水は真顔になり、

「イレギュラーナンバーズが“オルフェウス”の指揮系統に入った」

「そうか・・・・」

 

 

イレギュラーナンバーズ。

存在を許されない者達。

自らの生きる道を縛り付けられた者達。

 

 

「本格的にこっちを狙ってくると思う」

「まぁ・・・・連中にとって俺は裏切り者だからな」

「伊織・・・・・」

諦念が混じった声で溜息を吐く伊織。

「戦いを挑むなら迎え撃つ。それだけさ」

「どこ行くんだ?」

椅子から立ち上がり団長室を出る伊織の背に声をかけると、

「エルシオールだ。早く会いたい人がいる」

「そっか」

やんわりと笑い流水はその背を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

ガコン!!

 

 

 

 

漆黒の装甲にブルーグリーンのフレームの戦闘機が着艦した。

純白の天使と相反するような冥界の使者のような漆黒はエルシオールの格納庫の中でも一番に目立っている。

ハッチが開きコックピットからパイロットスーツに身を包む青年が出てき盛大に伸びをした。

艦隊を単体で相手をした後のせいか少し疲れが刻まれている。

 

「伊織さん!!」

駆けつけてきたエンジェル隊の誰よりもちとせが目を紅くし涙を流しながら伊織に飛びつく。

「ちとせ・・・・」

「ばか・・・・伊織さんのばか!!寂しかったんですよぉ!!!」

力なく胸を叩くちとせの頭に手を回し伊織は自分の胸板に彼女の顔を押し付け。

「すまない・・・・」

呟いた。

「信じてました、あなたが死んではいないってことを」

「当たり前だ」

不敵な微笑を浮かべてちとせを見つめる伊織。

ちとせも頬を紅くし彼を見つめる。

いつ間にか自分の頬もほんのりと紅くし熱があるような感じだ、と遅れて気がつく伊織。

「なーに!見つめあってんのよ!!」

ランファの声に二人は慌てて離れる。

二人の顔は熟れたリンゴのようだった。

 

 

 

 

「「おかえりなさい」」

 

 

 

声を揃えて言われたその言葉。

伊織は少しだけ気がついた。

 

 

ここが自分の居場所かもしれない・・・・・と

 

 

 

「あぁ・・・ただいま・・・!!」

 

目尻を気付かれないようにさっと拭い伊織も晴れやかな笑顔で返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

第十五章         完