『この時だ・・・俺が自らの存在に違和感を思い始めたのは・・・・・この時だったんだ』

 

 

第十六章「存在を許されない者達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズババババババ!!!

 

 

 

右手に握り締める“マルチランチャー”の銃口から蒼白い弾丸が連続発射され敵AFを次々と貫いていく。

 

 

ピピピピピピピピ!!!!

 

 

補助システムの警告音が鳴り響き、その次にミサイルの直撃による衝撃が伊織の身体に叩きつけられた。

背骨が音を立てて軋むような痛みを歯を食い縛って耐え、レーザーキャノンを撃ち放つ。

「A小隊は後方支援、B、C小隊は両翼から回り込み火力を集中させろ!!」

そう叫ぶとリヒトクーゲルはレーザーソードを起動させ敵小隊に斬りかかった。

させまい、とばかりに小隊のAFが手持ちの火器の銃口を向けて斉射してくる。

リヒトクーゲルはその機動性を最大限に生かし自分に命中する弾だけをレーザーソードで斬り捨てながら確実に間合いを詰めていきソードの間合いに入った瞬間、腰を捻り身体の回転を加えた斬撃で前衛のAFを斬り捨てると同時にスラスタを吹かし左翼でチェーンガンを装備するAFのコックピットに深々と刃を突き立てた。

「増援か・・・・」

タイムリミットに目をやると残り十分。

出来る限りのことはするつもりだが、タイムリミットを越えると生体フェーズがロックされ自動的に自爆シークエンスが起動する仕組みになっているリヒトクーゲル。

つまり、限られた時間をオーバーすれば死が確定することになるのだ。

緊張と重圧が重く圧し掛かり額にじんわりと汗が滲んでくる。

 

隊列を取りありとあらゆる火器がリヒトクーゲルに向けて火を吹き弾丸という弾丸が猛スピードで飛来する。

「ちっ・・・!」

左腕を横に振り蒼白いダガーが前方に向かって五つに分裂し敵の攻撃を最低限に防ぐ。

「戦力を分散させて各個撃破!」

『了解!!』

それぞれを絞り込み提示する騎士団のAF。

背中に装備されたスタビライザーの奇跡だけを残し敵戦力を分散させていく。

聖光騎士団は皇帝直轄の最精鋭にして最強の部隊。

その名に恥じぬよう団員、そして団員の技術同等までAFも改良を加えられている。

彼らなら問題ないだろう。

伊織は残った敵に向かって攻撃を再開した。

 

「リミット解除」

 

その言葉が銃の引き金のように、そしてリヒトクーゲルの動力炉があげた咆哮が銃声のようだった。

次の瞬間、伊織が視認できる全ての物体の動きが停止した。

 

スラスタ展開。

徐々に加速し勢いを増しながら“マルチランチャー”のレーザーブレードを起動させて止まっているに等しい敵AF及び戦艦に向かって刃を振るっていく。

「タイムリミットまであと5分・・・・ここまでか」

そして再び一帯の時間が流れ始め、軽く吐息をつき伊織は進路を“タイタロス”へと変更し帰還した。

 

着艦完了のシグナルと共に伊織はコックピットを出る。

 

―――――――――――生体フェーズ遮断確認。タイムリミットリセットシステム待機モードに移行します

 

補助システムの無感動な合成音が伊織の背にかかる。

格納庫を出て自室――――――――すなわち、団長室に向かう。

自動ドアが音を立てて開き中に入る。

日常生活に必要な物のみを置いた文字通り『殺風景』を絵に描いた部屋だ。

 

 

エルシオールとは違い本来あるべき居場所に戻った。

それだけのことだ。

そう何度も胸のうちで自分に言い聞かせるも何か心に穴が空いたような気分になる。

大切な何かを失ったように・・・・

「俺は・・・・長い時間、彼女らと関わり過ぎたのかもしれないな」

誰に向かって放たれたその言葉は呟くように囁くように小さく誰にも届かなかった。

 

その殺風景な部屋の質素のベッドに身を投げるように横になり重い瞼を閉じた。

 

 

 

 

夢の中。

 

 

伊織は見た。

 

ウェーブがかかったブラウンの髪にブルーの瞳の少年が廃墟の中、疾駆していた。

その少年は右腕に鎌のような武器を握り締め、アサルトライフルなどで身を固めた武装構成員に向かって刃を振るう。

 

「エイシス!!後ろだ!!!」

双剣の柄を握り締め構成員を切り裂く男がその名を叫ぶ。

蒼穹の下、日の光が差し込む廃墟で銃声と爆音が幾重に連鎖となり鳴り響く。

爆風が激しいほど砂埃と金属の破片を撒き散らす。

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!」

エイシスと呼ばれたその少年はロッドを両手で構えなおし、突撃してくる構成員の首を後ろ振り向くと同時に切り飛ばした。

切り裂かれた首の根元から滝のように鮮血が噴出す。

どっ、と倒れこみ血を噴出し続ける屍にも目をくれずエイシスは弾丸を刃で受け流し敵構成員と距離を縮めていく。

漆黒のロッドの先端に銀色に煌き弧を描くように飛び出た刃を持つ大鎌を頭上で回転しながら、

 

「ッらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そして振り下ろす。

腐った肉のように、そして文字通り「一刀両断」された人体が頭から股間まで二つに割れる。

「エイシス!!!」

「うっ!?」

男の悲鳴にも似たような絶叫にエイシスはハッと振り返った途端に首筋に小型の注射器が突き刺さった。

おそらく特殊弾頭に取り付けて長距離から狙撃したのだろう。

エイシスを狙って。

数秒間、呆然と立ち尽くしブラウンの髪の少年は跪き倒れこんだ。

手にした鎌は光の雫となって四散している。

弾丸が飛び交い銃声が銃声にかき消され爆風が爆風に呑まれるなかエイシスの意識は途絶えた。

 

 

「!!!」

勢い良く起き上がり伊織は目を覚ました。余りに生々しい光景はまるで現実のようだった。

何故かあの鎌の頼もしい重量が自分の両手の掌に伝わってくる感覚もある。

 

しかし、ここは何の変わることの無い殺風景な部屋。

もう戦場に変わった廃墟ではないのだ。

そのことに気が付き伊織は汗が滲んだこめかみを軽く擦り安堵の溜め息を吐く。

 

 

夢・・・・・なのか?

 

 

自問してみた。

夢なのかもしれない。

だが、こうとも言える。

 

 

『記憶』

 

 

バラバラに砕け散ったパズルのピースが一つカチッと音を立てて嵌め込まれた気がしてならない。

だが記憶として片付けるのも曖昧な感じがする。

そのような記憶が一切無い。

しかし、確かに思い出てくる『懐かしさ』。

ただ、エイシスという名が呼ばれた時とても・・・・懐かしい感覚を味わったのだ。

「・・・・・エイシス」

その名を呟いてみる。

エイシスと呼んだ男の声にも聞き覚えがあるような気がした。。

まるで離れ離れになった親友と再会を果たした、そんな言葉が一番合うだろう。

いつの間にか涙が零れてきているのに遅れて気がついた。

照明を落とされ真っ暗になった部屋が滲んでくる。

「そろそろ、時間か」

目尻をサッと拭い伊織は制服の上に白い長衣を羽織り部屋を出て行った。

 

 

 

 

タイタロス格納庫

 

 

「でも珍しいわよねぇ。伊織が自分からアタシ達を呼ぶなんて」

「そうだよね。でも、伊織さんも何か用事があるんだよ」

真紅の軍服に身を包み長い金髪をかきあげながらランファは珍しい物を目の当たりにした口調で呟き隣にいるミルフィーユも同調した。

他のエンジェル隊のメンバーも頷きながら疑問を口にする中、タクトはいつも通りノンビリとした口調で、

「あいつにもあいつなりの事情があるのさ。俺たちは仲間なんだし出来る限りのことは協力しよう」

「こちらです」

一同を案内していた団員が何の変哲の無い扉の前で止まり指差す。

「ど、どうも」

あまりに礼儀正しい態度にタクトは戸惑いながらも中に入りエンジェル隊も後に続いた。

 

「良く来たな」

「どうも」

席に座る伊織の隣にもう一人、男性が立っていた。

伊織と同様、漆黒の髪に同色の黒瞳。

だが、彼とは違い明らかに優しそうな笑みを浮かべている。

人懐っこい笑顔だ。

「伊織・・彼は?」

「雨宮流水です・・・・よろしくお願いします」

深々と身体を二つに折るように頭を下げる流水。

「流水は俺が戦闘に出ている間、第七団の全艦隊の戦闘指揮を統括している」

「えっ!?あの数の艦隊を?」

タクトやエンジェル隊の注目の視線が自分に向けられ少し気恥ずかしそうに頬を染めて小さく頷く。

年齢的に伊織とさほど変わらないが流水の方はまだ幼さが残っている。

冷静で置いて常に冷たい雰囲気を保つ伊織とは対極に位置する人物だ。

そんな人物が計数十隻にも及ぶステルス空母やイージス艦の戦闘指揮をしているのだからタクトの驚きは倍増した。

「タクトさん、そんなに驚いては失礼ですわよ?」

「あぁ、ごめん!!」

「別に良いですよ。良く言われますし・・・・僕は僕に出来る事だけできれば・・それでいいんですから」

爽やかでそして誠意溢れる笑顔で返す流水。

「ところで、彼女達がエンジェル隊ですか?」

「うん。紹介するよ」

タクトが壁まで下がりエンジェル隊の面々が前に出る。

「まずミルフィー。ラッキースターのパイロットで俺の・・・・」

タクトが頬を赤らめるとミルフィーユもまた恥ずかしそうに頬を染める。

「恋人ですか」

「うん・・って何で!?」

「大体わかるんですよ。その人の微妙な仕草や口調とかで、ね?」

ニッコリと微笑む流水。

口元にはミント同様、優雅な微笑が浮かんでいる。

 

「次に―――――――」

「ランファ・フランボワーズよ!よろしく!流水!!」

まだタクトが言い終わる前に極上の笑みを浮かべて自己紹介するランファ。

「惚れたか・・・・」

そんなランファの様子を見て伊織は天井に向かってボソリと呟くもその呟きは彼女自身に届くことは無かった。

「よ・・・・よろしく」

少し頬を染めながらも流水もまた微笑で返す。

 

「ミント・ブラマンシュ。よろしくお願いしますわ流水さん」

「よろしく。ミント」

ブルーの髪の小柄な少女が礼儀良くお辞儀し流水もまたお辞儀で返した。

まるで二人とも社交界に慣れている感じだ。

二人が一緒にダンスを踊った上手いんだろうなぁ、とタクトは思った。

「フォルテ・シュトーレン。よろしく、流水」

「こちらこそ」

差し出された手を握り口元の微笑を絶やさず笑顔を浮かべる。

「ヴァニラ・Hです」

「よろしく」

少し身をかがめニッコリと微笑む流水に恥ずかしそうに頬を染め目線を反らしながら頷く。

「烏丸ちとせです。よろしくお願いします」

「そうか・・君が」

「あの・・・・何か?」

流水が目を見開くので怪訝顔で尋ねると、

「いや伊織の好きな――――――」

 

ヒュン!!

 

空を切り裂く音と共に銀色に鈍く煌くナイフが飛んできた。

流水も首を動かし軽がると避ける。

「流水・・・・!!!」

「アッハハハハ!ゴメン!ゴメン!」

顔を少し赤らめながら睨みつける伊織に流水は軽快に笑う。

「あの?伊織さん?」

「何でも無い・・・・き・・気にするな」

「は・・・・はぁ」

 

「そういえば、伊織・・・あの機体は何だ?」

「あの機体・・・・“リヒトクーゲル”のことか」

思い出したように呟き伊織は新たな愛機を説明した。

 

「開発コード『DZX』、アルスヴィドモデル、“リヒトクーゲル”はガーリアン最高機密プラントで開発された最新鋭のAFだ」

「へぇ」

素直に感嘆の声を上げるタクト。

エンジェル隊のメンバーも次の言葉を待つように伊織をジッと見つめている。

一人――――――ミント・ブラマンシュただ一人を除いてはの話だが。

彼女だけが悲しそうに目を伏せており、頭に生えた耳も両方とも垂れていた。

「ミントには・・・・・・俺の考えていることが分かるな?」

無言で頷くミント。

「どういうことですか・・・・?」

「あの機体は・・・・危険だ」

辛そうに発せられたのはある種の拒絶だった。

 

「“リヒトクーゲル”は従来のAFを遥かに凌駕し帝政圏現行最強の性能を秘める反面、搭乗者への負担は性能の倍以上、重くなるんです」

流水が伊織の言葉の続きを説明し始めた。

 

“リヒトクーゲル“は性能が正に帝政圏現行最強(マキシ)(マム)(クラス)に位置するがその反面、搭乗者には性能以上の負担がかかり死への速度が徐々に早まるシステムになっている。それどころか、稼働限界時間が決められておりそれは搭乗者が戦闘システムを立ち上げ機体と一体化(ユニオン)し生体フェーズが確認された時点でタイムリミットが始まる。そのタイムリミットを越えた場合、生体フェーズがロックされたと同時に自爆フェーズが起動し搭乗者を機体と周囲の空間ごと吹き飛ばすようプログラミングされている。つまり“リヒトクーゲル”は性能以上に危険な技術(テクノロジー)が使用されているのだ。

 

「まぁ、何とかなる。その為にもこの戦いを早期終結に向かわせなければな」

開き直った態度で大きく背を伸ばす伊織。

「後はお前達の今後についてだ」

「貴方たちは本来EDENの人間。いつまでも“ガーリアン”の戦乱に巻き込むわけにはいきません。それに、貴方達は皇国国防の要でしょう?報告にあったことが正格ならばまだヴァル・ファスクとの戦闘状態も続いている。どうします?」

伊織に続いて流水が述べた。

口元の微笑が消え真剣な眼差しでエンジェル隊とタクトを見つめている。

「それは要するに俺たちにEDENに帰るか帰らないか決めろってこと」

二人とも同時に首を縦に振る。

 

「わかった、帰ることにするよ。皇国も心配だし」

数分黙考した後、タクトはうめく様に決断した。

「そうか。転送は今から96時間後だ」

4日後だ。

「あぁ。皆、帰ろうか・・・・ってその前に伊織。少し話がある」

「わかった、流水」

「良いよ。格納庫まで案内するね」

流水の後に(ランファだけは腕にしがみ付いていたが)エンジェル隊が続いて出て行った後、タクトは先ほどの二人のように真剣な態度で伊織を見つめて、

「ちとせのこと・・・・どう思っているんだ?」

ズバリと問いただした。

「いきなり――――――」

何を言い出すんだ?、と言おうとしたが彼の眼差しを見て伊織は静かに吐息を吐き天井に視線を移し、

「落ち着かないな・・・・」

呟いた。

「え?」

その表情はとても寂しく母親を無くした子供のような不安の色を浮かべている。

「あいつが・・・・ちとせがいないと変なんだ。近くにいないと心に穴が空いた感じで・・・・寂しい気分になる」

自分でも良く分からない、でも確かに心がそう感じているといったニュアンスが含まれていた。

「それって」

「あぁ。・・・・多分、あいつのことが―――――――――――」

 

 

 

ビービービー!!!

 

 

『本艦隊の前方に熱源反応。該当データなし戦闘要員は出撃準備を整えてください!!』

 

 

「だそうだ」

 

 

後の言葉を彼が言わなかったのか、それとも警報音で掻き消されたのかは分からなかった。

前者か後者か分からないままタクトは格納庫で待機している連絡艇に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこだ・・・・どこにいる・・・・・?」

 

漆黒を纏った滑らかな流線形のフォルムの巨人は静かに目の前の大艦隊を見回した。

コックピットにいる青年もまた巨人の視覚機能によってモニターに反映された光景――――大艦隊に目を配る。

 

ツンツンと上に跳ねる蒼い髪に蒼い瞳。

漆黒の衝撃吸収剤を身に纏うその青年と同じ様に彼が操る巨人『ジョウン』もまた底の無い果てしなく広がる宇宙のような漆黒の装甲とオレンジ色のフレームだった。

巨人――――――――ジョウンは両手に剣の柄を握り締めている。

一見して見るとAFに酷似しているがそのフォルムはどの企業または軍が開発したAFの形状からかけ離れたフォルムだ。

 

「どこだ?・・・・・返せよ・・・・返せよ」

 

同じ言葉を呪文のように繰り返す青年は血走った目で大艦隊から出撃してくるAFを睨みつけた。

「ん?」

モニターに見慣れない物を見つけて青年は目を細めた。

シルバーメタリックにピンク、レッド、スカイブルー、パープル、ハーブグリーン、濃紺のカラーリングの兵器が計六機いたのだ。

その形状と武装から見て戦闘機のようだ。

しかし、明らかに大きさが違う。

「何だよ、アレ!?報告にあったEDENの兵器ってわけかよ・・・ったく・・・ん?・・ッ!!」

悪態付いた後、青年はニッと笑った。

その大型戦闘機部隊の後方から漆黒の戦闘機が飛んでいたからだ。

 

「ククク。見つけた・・・・見つけたァァァァァァァ!!!!!!」

奇妙な歓声を上げ青年――――――――ゲシュタールはアクセルを踏み込みその大型船と浮き舞台に向かって愛機『ジョウン』を走らせた。

 

 

 

 

「くっ!!!」

『伊織さん!!』

例の熱源反応――――――――ジョウンの斬撃を辛うじて交わし“リヒトクーゲル”はジョウンと同じ姿に変わり対峙した。

「ここは大丈夫だ!!ちとせやみんなは他を!!」

例の熱源反応がいたポジションから次々と艦隊が姿を見せ騎士団のAFはそのポジションへと向かっている。

エルシオールから遠ざかり紋章機やAFのブースターの光などが見える位置に行き伊織は目の前の巨人と向かい合った。

「誰だ・・・貴様って名乗るわけが無い・・・か」

『へっ!まぁいいさ。イレギュラーナンバーズ・フュンフ。『燃え盛る紅き双刃』のゲシュタールだ!!!』

自らの異名と名を吼えるように返すと目の前のジョウンは柄を握り締めて鞭のような斬撃を“リヒトクーゲル“に浴びせ始めた。

その時、伊織は一瞬行動が遅れてしまい“リヒトクーゲル“は六枚のウイング・バインダーの二つを両断されてしまった。

何故、自分でもそういう結果になったのか分からない。

ただ・・・・・ゲシュタールと名乗った男が凄く懐かしい人間に思えたからだ。

 

 

「・・・・ぅ!!」

 

―――――――――――この敵、今までの奴等よりも格が違う

 

伊織がそう感じたのはジョウンとの一対一を初めて数分のことだった。

反射神経が桁違いで自分の回避する方向を読んでいるように長いリーチを駆使する。

まるで自分のことを知っているようだ。

奇妙な感覚を振り払いながらも伊織は“マルチランチャー”の銃口に発生したレーザーブレードを構え突撃した。

長いリーチに物を言わせるような敵は懐に潜り込まれればそのリーチが欠点となる。

そう狙い伊織は―――――――“リヒトクーゲル“は加速の勢いをつけて”マルチランチャー“を握り締める右腕を左腰まで持っていき一気に横一線に振るった。

その光景は抜刀術――――――――居合のようだった。

 

だが、その気合の一刃は“ジョウン“が持つ双剣で防がれたと思うと”マルチランチャー”を握る右腕の肘から先を吹き飛ばすように切り裂かれ胴体を縦一閃に切りつけた。

「ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

灼熱の痛みが胸部から腹部に稲妻が駆け抜けるように疾る。激痛により右腕が思うように動かず笑うように震えている。

だがそれよりも伊織が感じたことは激しい怒りだった。

相手に対してそして自分に対しても。

レーザーブレードを防がれ右腕を切り飛ばされた後、充分コックピットを狙えるはずだった。それなのに敵はコックピットの周辺のみを攻撃したのだ。

手加減されたということになるのだ。

 

『今、お前を倒したら・・・エイシスは帰ってこねぇ。弱い奴を斬ってもしょうがねぇし偽者(フェイク)はとっとと失せな』

「なん・・・・だと?」

呆れるような溜息が帰ってきて、

『お前じゃ俺には・・・・勝てない』

ボソリと吐き捨てると男は――――――“リヒトクーゲル”と同じく漆黒の巨人“ジョウン”はスラスタを吹かしその場を離脱した。

 

『伊織・・・無事か?』

「あぁ・・・・何とかな」

脳裏に流水の声が響いた。

エンジェル隊と初めて会った時の優しく暖かい声はどこにもなく一人の指揮官として冷徹な流水の声だ。

その声に伊織は冷静になりAFパイロット達に帰還命令を出し、自分も“タイタロス”へと向かった。

 

妙な感覚―――――――――懐かしさ。

 

 

俺はアイツを知っている気がする・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

第十六章

             完

                    続く