第二十二章「苦悩」

 

 

 

ブラウンの髪と同系色の双眸が倉庫に詰まれたおびただしい数のコンテナに向かって憎らしげに睨み付けている。コンテナは知らんこっちゃないとばかりただ詰まれて上から彼を見下ろしたり真っ直ぐに見つめ返したりなどを返すだけだ。

「くまったわぁ」

口癖になってしまったのだろうか?保険のCMに出てくる熊の人形のように困り果てながらこの白亜の巨艦――――儀礼艦“エルシオール”に存在する宇宙コンビニの店員用エプロンを再び身に纏い呆然と立ち尽くす青年。

名をエイシス。

彼の名前は先日、このエルシオールのみならず“白き月“にまでその名を知らしめた人物だ。

拉致されたムーン・エンジェル隊のミルフィーユ・桜葉と烏丸ちとせ両名を救出した事で一躍有名と化した。が、彼自身そんなことはどうでもいいと思っており本人曰く、

 

「はぁ?仲間って助け合うもんだろ?」

 

快活に笑う彼に大半は予想していた人物と大きく違いペースを崩し、破天荒な彼の性格に並みの人間なら付いて行けるかどうかの瀬戸際だろう。

それで、今の彼は白き月の戦力下に配属され実質的にムーン・エンジェル隊のメンバーなのだが宇宙コンビニのアルバイト店員となってこうして手伝っているのだ。

「ちっくしょぉ〜」

悔しげに唸るように呟く。

「U−3番倉庫って」

呆けたように顔を上に向ける。

日用雑貨の補充の為、倉庫にあるコンテナを探すこと三十分、やっと見つけたかと思いきや目標のコンテナは遥か頭上に詰まれてあったのだ。照明に反射し煌くコンテナがエベレスト山頂のようにも見え、エイシスはコンテナを積んだ者に激しい恨みの念を抱いた。

「しょうがない。いくぞぉ皆!インディ・ジョーンズはどんな冒険にもびびっちゃいられないんだぁ!!」

当然、倉庫にいるのは彼一人。虚しすぎるボケがいつまでも山彦のように反射して自分の耳に突き刺さる。

「突っ込み出来る奴・・・・・いないかなぁ」

虚しそうに天井を仰ぎコンテナを昇り始めた。

この男はクレーンの存在に全く気が付かないのだろうか?

そして、苦闘の末にようやく目標数量の日用雑貨を獲得し天井に向かって大きく腕を突き出している所をフォルテが通りかかった。

「おや?エイシスじゃないか。ご苦労さん。汗だくだねぇ」

「まぁね。俺は今あのエベレストに向かって挑戦を挑み勝ったんだ!!」

晴れ晴れとした笑顔を浮かべるエイシス。まるでスポ魂漫画の主人公みたいである。

「そうかい。さってと」

「あのぉ・・・・・フォルテさん。何をいじっているのでしょうか?」

「何って高いところのコンテナはクレーンを使うに決まっているじゃないか?」

クレーン・・・・・その言葉が彼にずしりとのしかかる。

苦労してコンテナを登った苦労を壊すように楽々と端末を操作し射撃訓練場の弾薬が詰まったダンボールを地面に優しく置いてから担ぎ、

「お前さん。もしかして登ったのかい?馬鹿だねぇ、クレーンがあるだろうに」

苦笑いを浮かべフォルテは去っていった。

茫然自失し、

 

 

 

 

 

 

 

「どうして誰も教えてくれなかったんだー!!」(鈴村健一声)

 

 

 

 

 

 

 

 

新緑が蒼穹と並行するように広がる光景に金色の長い髪が風に揺れる。

日焼けか生まれつきか浅黒い肌に小柄で華奢な身体。

大きなバイオレッドの瞳はいつもの彼女を思わせる面影はどこにも無く目の前の光景を見つめうっとりと微笑んでいるようにも思えた。

「ふぅ」

小さく溜息を吐く。

「どうした?」

「きゃぁ!!」

背後からの声に驚き身体を強張らせ声の主を振り向きざまにキッと睨み付ける。

「音を殺して近づかないでよ!!」

「ゴメン。怒らしちまったな」

悪戯っぽい笑顔を浮かべ後頭部を掻く。

ブラウンの髪が自分の長い金髪と共に風に揺れた。

「少し・・・・・・・話さない?」

「いいぜ。聞きたいこともあると思うからな」

二人ともベンチではなく陽光に暖められた芝生の上に座り込む。

「アンタのあの機体さ。どこで手に入れたの?」

「灰の月で『俺たち』と一緒に発見された」

「俺たち?発見された?」

「いや・・・・・気にすんな」

「並行世界からきたのよね?」

「YES IAM」

「ギャグは良いわ」

「そうだよ・・・・それが何か?」

得意の笑いを封じられいささか口を尖らせながら返すエイシス。

(やっぱり・・・・・)

初めて機体のデータが渡された時、確信に近い念が生まれた。

無我夢中でデータを解析しこの機体の99%は黒き月のテクノロジーが使用されていることが分かり残りの1%が彼の搭乗を可能にしている。

そして、その『残りの1%』には“白き月“のテクノロジーが取り込まれていた。

実質上『白き月と黒き月』の兵器と取れる。

ノアの経験と知識から見て“エヴィル”は間違いなく黒き月のテクノロジーが使用されており、おそらくスレイヴという名前も黒き月の紋章機、ダークエンジェルに搭載されているSRAVEモードにちなんで付けられた名前だろう。だが、一番の疑問は何故にエイシスが何の害も無くあの闇から這い出て来た悪魔のような機体を操れるということだ。

ならば、考えられる要素は一つしかない。

 

「アンタ・・・・何者なの?」

「検討はついているんじゃないのか?」

ノア自身の意見。

ただの人間が人間という不確定要素を排除する黒き月の戦闘兵器に搭乗する事など不可能に近い、しかし、目の前で芝生に座り込んで胡座をかく青年は搭乗するどころかその影響を受けずに操縦し、まったくの健康状態でいる。

故にノアの意見はこうだ。

エイシス自身が“エヴィル”を操縦する為に『開発された』戦闘人工生命体であること。

「お前が何を考えているのか少しは理解できる。だが、少し違うな」

「どういうこと?」

「俺がお前の思うようにその“黒き月”の人工生命体なら・・・・俺はどうして俺のことを“俺“と呼ぶ?」

エイシスの問いかけは最もだった。

黒き月で開発された兵器ならば自我はいらない。兵器として生き、倒す敵を区別するだけでいい。仮に目の前の青年が黒き月で開発された兵器ならば自我は持っていないはずだからだ。

「世の中にゃ色々な疑問が満ち溢れているもんさ。でも時間がたてばおのずと疑問は自分から答えを出してくれるぜ?」

悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「わかったわ・・・・今は何も聞くな。そういうことでしょ?」

返事の変わりに満足そうな笑顔を浮かべエイシスはノアの頭に手をやり優しく撫で始めた。

「ちょっ!!・・・な、なによ!?」

「お前の髪・・柔らかいな・・・暖かい・・・・ちゃんと生きてるんだな」

彼女の長い金髪を優しく梳いてまた頭を撫でながらエイシスは寂しそうに目を細め誤魔化すように笑顔で呟く。

一方、ノアも頭を撫でられた経験など無かった為、どうやって対処すればいいかわからず恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして黙って撫でられていることしか出来ない。

うっとおしさなど微塵も感じられずむしろこのまま撫でられていたいという心地よさ。

身体を優しく温めて満たしてくれる。そんな、心地よさ。

そんな暖かく微笑ましい光景を打ち壊すようにエイシスのポケットのクロノクリスタルから呼び出し音が鳴り、

『エイシス。ブリッジに来てくれ・・・エンジェル隊にも招集をかけた』

「あいよ・・・・・じゃあ行って来るわ」

「・・・・・・あ」

頭を撫でる手が消えノアは寂しそうに彼に聞こえない声で呟く。

暖かい手が消え失せた直後、彼女に寒い寂しさが訪れたのだ。

生まれて初めて感じた温もり。

 

 

違う兵器なんかじゃない。

あんな温もりを持つアンタは・・・・兵器じゃない。

兵器があんな暖かさを持つはずがない。

 

 

歩き出す青年の後姿を見つめながらノアは静かに心の中で告げた。

届くはずの無い声で・・・・・

 

 

 

 

 

「おーい中村君パランパランパ」

「変な歌を謳いながら入ってくるな」

「いいじゃん別に!!」

昭和時代に流れた曲を何故コイツが知っているのか?

その歌を口ずさみながらブリッジに入ってくると即レスターからキツいツッコミが飛んで来る。ブリッジではクスクスとそのやり取りに忍び笑いの声が聞こえ、

「それはそうとお前、ツッコミの才能あるな」

「あるわけないだろ!!」

感嘆したエイシスに怒気を昇らせながら怒鳴り返す。

再び生まれる忍び笑いを聞きレスターはこれ以上、関わると自分が完全に手玉に取られると思いそれ以上、エイシスを追求する事を諦めた。

ニヤリと口元に微笑を浮かべながらエイシスはエンジェル隊のメンバーより少し離れてドア付近の壁に背を預けよりかかる。ちとせが申し訳無さそうな表情を浮かべてエイシスを見つめていることに本人は気がつかなかったが・・・

「皆、よく来てくれたね。実はさっき白き月から少し離れたエリアに未確認の熱源反応が確認された」

「ドライヴ反応か何かですか?」

「いやドライヴ反応に似ているようなだけだ・・・何か分かるか?」

「時空間跳躍か何かだろう。“ガーリアン”のどなたさんか・・・・こっちに向かってるんだろ」

タクトの真っ直ぐな視線にエイシスが気付き無関心のような態度で返す。

「その可能性は否定できないな。現在、エルシオールはその宙域に向かっている」

「近づくに連れて徐々に熱源反応も高くなっています。それと、ヴァル・ファスク反応も」

「彼らもまた熱源を察知してきたってことだ。戦闘になるかもしれない各自格納庫で待機してくれ」

解散、と言い誰かが話し掛ける暇を与えずエイシスはブリッジを飛び出し格納庫へと駆けて行った。

「ちとせ・・・オレの部屋に来てくれ。話がある、ミルフィーもだ」

「はい」

「・・・・・はい」

 

 

 

 

 

「あの・・・タクトさん。何でしょうか?」

「タクトさん」

「ちとせ・・・最近悩んでいるようだね。オレとミルフィーでよければ相談に乗る」

意表を突かれたようにちとせが黙り込んで俯く。

「私はあの人に・・・エイシスさんに酷いことを言ってしまいました」

「そうか」

「私は皆さんが思う通り伊織さんが好きです。この気持ちは誰にも譲れず誰にも負ける気はありません」

キッパリと真剣な眼差しで告げた後、

「ですが、私は伊織さんを愛するあまり・・・エイシスさんを受け入れようとしなかった」

俯き力なく喋るちとせを二人とも黙って彼女を見つめ続きを待つ。

「正直、エイシスさんを憎んだ気持ちはありました。それが間違いだと分かっていても・・・」

「彼に対する念は捨てきれなかった」

タクトの言葉に黙って頷く。

「私は・・・伊織さんが好きなのに・・・どうしてあの人を拒絶してしまうのか・・・!!」

両手で顔を覆い小刻みに震えるちとせの傍に座り優しく抱きしめるミルフィーユ。

「ちとせ?彼がどうして君とミルフィーを助けに言ったか・・・知ってるかい?」

「ふぇ?」

涙を流し震えるちとせが顔を上げる。

「彼はね「君がいないと落ち着かない」って言ったんだ」

「・・・・・え?」

目を見開いてタクトを見つめる。

「例え君が彼を否定しても彼は君を受け入れると思う。君が伊織を好きなのは良く分かる」

言葉を途中で区切り、

「でも受け入れることも・・・・強さだよ」

「タクトさん・・・・私ッ!!」

溢れ出る熱い雫をサッと拭い、

「少しスッキリしました。行って来ます」

「ちとせ、これで大丈夫ですよね?」

「あぁ」

「じゃあ、私も行ってきますね!!」

「うん。ミルフィー」

「はい・・・・・・!!」

ドアに手をかけ振り向いた時、タクトの顔がまじかにあり唇が重なった。

「お守りみたいなものかな」

「恥ずかしいです・・・・でも凄く嬉しいです」

いきなりのキスに恥ずかしさと嬉しさが同居したように頬を染めて笑顔を浮かべ格納庫へと向かう彼女の後ろ姿を未練が残るように見つめタクトもブリッジのドアを開けた。

 

 

 

 

「エイシスさん」

「はにゃ?」

漆黒の制服に身を包むエイシスは声の主の方を振り向くとそこに長い漆黒の髪を持つ少女が真剣な眼差しで自分を見つめていた。

烏丸ちとせ。ある一件以来、顔すら合わせていなかった少女はモゴモゴと口の中で言葉を転がした後、意を決したように、

「その・・・すみませんでした・・・私は・・・私は・・・・?」

暖かい掌が彼女の頭を撫でた。

「別にいいさ。気にしていないよ・・・・・」

笑顔を浮かべるエイシス。

「ありがとうございます」

そう言って駆けていく、ちとせの背を見送り、

 

 

「兵器は恨まれてなんぼ・・・・か。いい加減疲れてきたな」

 

 

すぐ傍で直立浮動する漆黒の巨人を見つめ、

「お前もなんで出てきたんだ?あんないい子の恋愛を邪魔しやがって」

憎らしげに見つめた後、昇降ロープを使ってコックピットに入りシステムを起動させ、

「あと少し・・・・だな」

ハッチが閉ざされ光が消えうせる。まるで光の世界から離れる闇の住人のように、エイシスは操縦座席に座り込み目を伏せた。

 

 

『熱源反応が徐々に拡大!エンジェル隊は出撃してくれ!!』

 

 

「エイシス、“エヴィル”。発進するぞ!!」

紋章機より先に出撃し宇宙空間に飛び出す。

『皆!ヴァル・ファスク反応だ!!迎撃してくれ』

「「了解」」

“ゲシュペンスト”を<シューティングモード>に変形させブースターを吹かして狙いを定める射線上に現れレーザーを放つ高速戦闘機を撃ち貫きブースターの速度を上げ、

「ファイア」

呟いた途端、遠距離上に位置する突撃艦に向かってトリガーを絞る。

伸びた銃口から紫色に光る弾丸が二、三発発射されて同色の弾道を描き真っ直ぐに飛翔していき、遥か遠方で球状の閃光が生まれる。動力炉を貫かれ爆散したのだろう。

「・・・・・!!」

<スラッシュモード>。<シューティングモード>に変形し伸びきった銃身が徐々にカシュカシュと音を立ててロッドに収納されロッドから弧を描く刃が現れ刀身に弾丸と同じく紫色の光を灯した大鎌を振りかざし隊列を取る高速戦闘機群に向かって機体を捻り、リバーススラスタを吹かし回転を加えた斬撃を叩き込み一刀両断。

「次ィ!!」

ブースターの光で煌く目標に向かって相棒を飛翔させる。

 

 

「クッ!きゃぁ!!」

直撃を受けて機体が揺れる。

“カンフーファイター“にミサイルが次々と放たれ、機銃で迎撃しながらその機動性を活かし回避していく。

 

 

「司令!!熱源反応膨張!!」

「なに!?」

エルシオールの前方で紅い稲妻が生まれ中から滲み出るように一機の巨人と大型戦闘機が飛び出した。

白い装甲に銀色のフレーム。右手にはレーザーライフルとおぼしき物が握り締められ左腕には装着式のレーザーブレードが、背部バックパックの右部には伸縮式長砲身のスナイパーキャノンと左部には中型のチェーンガンが装備されている。

平均的に近距離遠距離の装備がバランスよく備わった機体だ。

「あれは・・・AFと・・・紋章機!?」

「そのようだ」

大型戦闘機は前方に伸びるニ連装の砲身の間に中型の射出装置が取り付けられ背部には大型の推力強化型ブースターが取り付けられ重厚感を見る者に与えその重武装さはGA−004“ハッピートリガー”にも勝るとも劣らない。

そしてそのフォルムはまさに銀河を救ったムーン・エンジェル隊が駆る紋章機と同じだった。

巨人はブースターを吹かして真っ直ぐにメタリックレッドの装甲の紋章機“カンフーファイター“に向かって飛翔しもう一つの機影である紋章機は巨人を撃墜しようと砲台を向ける艦隊に向かって前方に伸びるニ連装プラズマキャノン”ARIAKE“の銃口を向ける。

目に痛々しいほどの鮮烈な閃光が半ば艦隊を押し潰すように貫き沈めていく。

そして背部に備わっている大型推力強化型ブースターからエネルギーを吐き出され徐々に速度を増し戦場へと突入していった。

 

「何?あの機体?」

目の前に敵と自機の間に踊りでたAFは右手に握るデュアルレーザーライフルの銃口を敵駆逐艦に向かって狙いを定め的確に当てていく。ツインバレルハンドガンに酷似し銃口が二つあるためワントリガに二発分のレーザーを発射する。

更に接近してくる高速戦闘機に左腕のレーザーブレードを起動させ斬り付け切断する。

パンツァー・インダストリィが開発した最新鋭レーザーブレード、P−43式と称されるレーザーブレードはリーチを犠牲にし収束率を極限にまで高めることによって生み出される破壊力特化型ブレードのオレンジ色の閃光に切断され爆裂四散していく。

右部に装備されているスナイパーキャノンが起動し前方に展開され伸縮式の砲身が二段階前方に伸び、デュアルレーザーライフルを腰のホルスターに収め、右腕で砲身を支え、

 

 

ドゥン!!

 

 

空気を捻じ曲げるように鈍い音が生まれ次の瞬間、ミサイルを発射しようとしていた重装艦が貫かれた。機体の向きを変えリロードが終った直後、再び発砲。

戦闘開始からわずか6分25秒。

カンフーファイター及び巨人―――“フォルテス”周辺の敵機は撃墜されてしまった。

『久し振りだね・・・・ランファ』

「流水!?」

『ゴメン・・・僕、少し無理していたみたい』

通信が繋がり漆黒の髪の青年が映し出された。

まだ幼さを残しそのまま成長したような顔つきの青年―――雨宮流水は無邪気な笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

「久し振りだね流水。ありがとう助かったよ」

「いえ。時空間跳躍してきた僕達の所為で敵を引き付けてしまったのでそれなりの責任をとったまでです」

格納庫に着艦した“フォルテス“と紋章機。

腕にランファが絡みつき顔を紅く染めながら微笑を浮かべる。

「“ガーリアン”で何か起きたのかい?」

「えぇ・・・まぁ」

言葉を濁す。どうやらこの場では話しにくいようだ。

「俺の部屋で話そう」

「ありがとうございます。愛璃!!」

「愛璃ィ?」

「いや・・・彼女とはそういう関係じゃないから」

女性の名前を叫ぶようにして呼ぶ流水にどす黒いオーラを出すランファに慌てて続きを述べる。

瑠璃色のカラーリングの紋章機のコックピットが開き中から一人の女性が出てきた瞬間、格納庫で一斉に溜息が生まれた。

長い緋色の髪。同色の瞳。

出るところは出て引っ込むところは引っ込む、モデル顔負けの肢体。

まるで美人画のモデルような女性が近づき、

「えぇっと・・・緋水愛璃です。“GunAngelU―00H『風花』“のパイロットです」

少し恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を浮かべ愛璃と名乗った少女はペコリと頭を下げた。

頭を下げる際にフワリと広がる緋色の髪をさっとかきあげる。

「よろしく。オレはエルシオール艦長の」

「タクト・マイヤーズさんですね?雨宮さんから話は聞いてます」

「光栄だね」

ハハッと乾いた笑い声を上げ、

「じゃあ行きましょうか」

タクトは機材に腰掛けていたエイシスに目線を送る。

やれやれといった様子で肩をすくめるエイシスは立ち上がり彼の後ろについていった。

 

 

 

 

 

 

「それで?どうしたんだい」

「僕達は・・・逃げてきたんです」

「逃げてきたって・・・・」

「カオスウォーか」

現在、“ガーリアン”で帝政軍と“オルフェウス”の間で繰り広げられる大規模な戦争に“オルフェウス”側は一気に攻略しようと多極同時侵攻作戦『カオスウォー』を決行。

しかし、気まぐれか何かか“オルフェウス”最高司令であるフォート・マイヤーズは72時間後に襲撃すると予告してきたのだ。

激化する戦闘になる為、流水は彼女―――――緋水愛璃を連れてEDENに向かったのだ。

「今は始まっているんだよね・・・カオスウォーって」

無言で頷く二人。

「君は何者だい?」

「私は・・・・・・“灰の月“の管理者です」

「灰の月?」

黙り込んだ後、愛璃の代わりにエイシスが説明し始めた。

「スレイヴが発見された旧世代遺跡さ。AF開発に大いに貢献した技術をもたらしたのも灰の月さ」

“灰の月”とは帝政国家が築き上げるネットワークから隔絶された辺境に位置し発見されてから解析した結果、旧世代文明時に存在した人工天体だという事がわかった。

そこから様々な知識と技術を引き抜き帝政国家は繁栄の一途を辿ったのだ。

「“白き月“や”黒き月“とどう違うんだ?」

「“灰の月“は二つの月が融合した姿なんだよ」

「・・・・え?」

“白き月“と”黒き月”互いに攻撃し合い優れた防衛性能を上げ最終的に融合し一つのものになるのは知っている。

“灰の月“とは”白き月”と“黒き月“が融合した姿なのだ。

「知らないか?絵の具の黒と白を混ぜると何色になるのか?」

「それで・・・“灰の月“か」

「はい。“灰の月”は二つの月の理念を取り入れたものなんです」

“灰の月“の兵器開発の理念は『人間という不確定要素を守り観察するために不要な物を排除する』といった理念で簡単に言うと人間を守る為に”白き月”のテクノロジーが使われ人間を襲う物に“黒き月“のテクノロジーが使用され結果的に人間を守る理想の月へと変化したのだ。

それから“灰の月”は旧世代文明が滅び再び発見されるまで様々な兵器を開発したのだ。

通常兵器から自己防衛用、そして生体兵器まで。

 

「生体兵器まで?凄いなぁどんなのだろ」

生体兵器まで開発した“灰の月”にタクトは素直に感嘆すると隣りに座るエイシスがクックッと忍び笑いをした。

「どうしたんだ?エイシス?」

「お前の目の前にいるじゃないか・・・生体兵器」

「へっ?」

「彼もその一人なんですよ。BBHW(バイオ・バトル・ヒューマン・ウェポン)=生体戦闘人間兵器、通称イレギュラーナンバーズです」

「えぇ!?」

愛璃の解説に思わず飛び上がってしまい素っ頓狂な声を上げてしまった。

ブラウンの髪と同系色の瞳を持つ青年はニタリと笑ってタクトを見つめ返す。

「でも・・・人間じゃないか」

「言っただろ?生体兵器って・・・俺は“ガーリアン”の遺伝子技術で完成体に近づいた存在だからだ」

エイシス曰く、“灰の月”発見当初、彼らイレギュラーナンバーズが発見され、ある科学者が彼ら数体を持ち帰り研究、遺伝子技術で強化を図り今の状態になったらしい。

「強化人間じゃなくて?」

「人間ですらないぞ」

冷静に述べるエイシス。

「ハハ・・・凄いね」

そうか?とばかりに肩をすくめて見せる。その動作一つ一つが何も違和感が無い。

「話を戻すけど・・・愛璃は何で逃げてきたんだい?」

「“オルフェウス”は管理者である彼女を利用して“灰の月“の危険な兵器の技術を引き出そうとしていたので」

それを察知した聖光騎士団第七団艦隊が“オルフェウス”よりも先に“灰の月”に向かい愛璃を連れて逃げてきた。

それは良いのだが大半は撃墜され第七団は壊滅状態に陥ってしまっている。

 

 

「“オルフェウス”内部にはEDENへの侵攻も企む人間も少なからずいます」

「やっぱり・・・」

「すでに分艦隊は来ているのでしょう?」

「“オルフェウス”に対しては全面的に反抗するって先生が言っていたから」

「そうですか」

気まずい空気が流れる中、

『タクトさん!!準備が出来ましたよぉ!!』

場違いな位、明るい声が響く。

「そうか!ありがとう!!さぁ、辛気臭い話はやめてピクニックだ!!」

 

 

「「「ピクニックゥ!?」」」

 

 

エイシス、流水、愛璃が声を揃える。

「エイシスと流水と愛璃の歓迎会も兼ねて、ね。さぁ行こう!!」

笑顔で三人の背中を押すタクト。

 

 

 

「流水!遅かったじゃなーい!!」

大きいシートを広げバスケットを並べているランファが大きく手を降り近づいてきた。

 

「アハハ・・ゴメンゴメン。」

「エイシスさん・・・どうぞ隣りへ」

「ん?そうか、じゃ遠慮なく」

腕にランファがしがみつきひっぱられる流水と頬を染めたヴァニラに手招きされ彼女の隣りに座り胡座をかく。

「えぇっと・・・」

「緋水愛璃です・・・・・その・・・よろしくね!!」

「こちらこそ!!」

ミルフィーユの傍に座る愛璃。

 

 

 

「それではエイシスと流水と愛璃を歓迎して・・・・カンパーイ!!」

 

 

 

「「「「カンパーイッ!!」」」」

 

 

 

未来のことなんて誰にも分からない。ならば今を楽しんだ方が得という物だ。

後悔しても明日は必ずくるのだから・・・・・・

タクトの後に続き皆、一斉に紙コップを掲げるのだった。

 

 

 

 

第二十二章        完

                  続く

 

 

 

次回予告

 

 

「今日だけお前に付き合ってやるぜ」

 

 

「EDEN―GN000“ピースキーパー”は貴方、タクト・マイヤーズさんの機体です」

 

 

「銀河を支配するのは我々ヴァル・ファスクなのだよ」

 

 

 

交差する思惑、野心。

愛する者を守るため平和を保つ者≪ピースキーパー≫は宇宙に舞う。

 

 

 

第二十三章「平和を保つ者」

 

                       COMINGSOON

 

 

 

 

後書き

久し振りの後書きですね。

トゥルーティアーズの単行本は発売されるのでしょうか?

何を言い出すんだと思った人、すみません。ハマったもので。

でもゲームはプレイしていないのです、金無い、PCゲームの仕方が分からないの二拍子でにっちもさっちも出来ないのでコミックスで良いかなと思ったらコミデジなんて一回も買ったこと無いので物語が分からない!!

ブロッコリーさん・・・トゥルティアーズの単行本を出してください!!

 

 

 

ん?何だ!?何をするだ貴様ァーーーー!!!!