第二十四章「死闘、乱戦の果てに」

 

 

「ゲシュタール・・・・・」

「分かってる。ヴェストが殺られたんだろ」

紫色の髪を短く動きやすいよう切り込んだ男が出撃前のロッカールームのベンチに座る蒼い髪をツンツンと逆立てた男に声をかける。

二人とも外部からの衝撃を電気的に和らげるパイロットスーツに身を包み強張った表情を浮かべている。

「アイツは元々狂っていた」

「エイシスはもう俺達の仲間じゃない。敵として認識しろ」

「あぁ。なぁ、ザンシュ」

蒼い髪の男――――ゲシュタールの問いに何だとばかりに振り向く紫色の髪の男―――ザンシュはまじまじと髪より少し薄い同系色の瞳で見つめ返す。

「俺達は一体なんでここにいるんだ?」

か細い声で呟くように尋ねるゲシュタール。ザンシュに返事を返す暇を与えず、

「アイツと戦っている最中な?自分が何をしなければいけないのか、そう思うことがあった」

「俺達は既に消え失せた旧世代文明が開発した人間を守る為の防衛兵器。破滅を選んだ人類の愚の象徴だ」

「それは分かる。だが・・・俺達は本当に正しいことをしているのか?」

「どういうことだ?」

眉をひそめるザンシュに、

「俺達は人間を守る為に戦わなくちゃいけないのかもしれない」

「馬鹿か?人間は俺達を殺そうとしたんだ。あの殲滅作戦で『処理』された仲間は何人だ?」

「・・・・・・・・・六人」

ポツリと返す。

「確かに俺達はアイツらから見れば化け物かもしれない。だが、俺たちにはもうここしか居場所が無いんだ。帰る場所が無いんだ」

「あぁ・・・・・そうだな」

納得はしていてもどこか調子が外れた様子で返すゲシュタール。

彼は自らの存在理由が分からなくなっていた。

ただ、言えることは今の自分がしている事を正しいと思う意外に心が晴れなかったということだ。

スッとベンチから立ち上がり格納庫へと向かった。

自らを化け物と自覚したのは初めて『敵』を殺したときだ。

どうして自分は今、ここにいるのだろう?

ただ、自分は他の子供たちとなんの変わりも無く幸せに過ごしたかっただけだ。

両親が居なくてもいい。ただ、せめて、人として生きていたかった。

そうなる為に戦うことを改めて決意するエイシス。

その為に自分を化け物として受け入れ『敵』を倒すだけだ。

裏切り者のアイツでもだ・・・・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

静まり返る決戦前の格納庫。

兵器は戦いの時が訪れるのを静かに待ちつづけるように佇む。

コックピットに座る彼女達も同じである。

白翼を持つ白金の天使達――――――ムーン・エンジェル隊。

「何で同じ人間同士で戦わなくちゃいけないのかな?」

『アタシもそう思うけど・・・・向こうが来る以上、黙ってなんていられないわ!!』

『ランファさんの言う通りですわ。どんな戦いでも皇国を守るのが私達の使命ですわ』

『僕達の世界と違ってミルフィー達の世界は結構、平和に近いからね。無理も無いと思うよ』

シンと静まり返る格納庫と同化した“ラッキースター“の中で悲しげに呟くミルフィーユに待機中であるランファ、ミント、流水も通信を繋ぐ。

「流水さんの世界はいつもこうなんですか?流水さんの世界はどう言う世界ですか?」

彼女の無垢なる疑問に苦笑を漏らし、

『こんな感じだよ?人間同士が戦う。君達と違って種族とか天敵とかいないから少しでも平和に近いこの世界が羨ましいよ』

『そうね。私達の世界なんて歪んだ物よ』

ミルフィーユと同等、またはそれ以上の悲しさをたたえて返す流水と愛璃。

 

『っていうかさぁ。タクト、アンタ大丈夫?』

「まぁ・・・何とか」

“ラッキースター”の後ろで“カンフーファイター”から通信が繋がる。

白を基調とし金、銀とカラーリングが施された巨人の照明が落とされモニター類の光が明滅するコックピット内の操縦席に座るタクトは冷や汗を浮かべながら返した。

機動兵器のデータを基に白き月で開発された人型巨大兵器、EDEN―――GN000“ピースキーパー”。

“救国の英雄”であるタクト・マイヤーズの搭乗機体で、“オルフェウス”討伐作戦の前にロールアウトしエルシオールに送られた。

『多分ね。一応、エイシスと流水に協力して貰って何とか』

『頑張ってください・・・・・僕も激戦になると貴方を守る事は出来ませんけど』

『足は引っ張るなよぉ』

急遽、送りつけられてきた愛機。エイシスと流水の半ば「地獄」とも言うべき特訓に難解も振り回されることになったのだ。

腕の良い講師二人に付きっきりで教えられ、短時間でタクトは操縦方、通常武装、そして『最終兵器』の扱い方まで完全に頭に叩き込み今では戦力としては充分な程、成長した。

 

 

 

“ピースキーパー”とは対照的に漆黒を身に纏う巨人“エヴィル”のコックピット内でエイシスは震える手を握り合わせ目を閉じていた。

この戦いが終れば自分が『居なくなる』。

元々、誰も知らない存在。

元々、この場所に居るはずの無い存在。

消えたくない。

消えなければ哀しむ人間が居る。

『皇国軍艦隊、敵艦隊と交戦開始。エンジェル隊、“ピースキーパー”、“フォルテス”、“エヴィル”出撃してください』

クレーンで宇宙空間に沈みこんでいく紋章機の後に三つの巨人も宇宙空間に潜り込む。

『タクト・マイヤーズ、“ピースキーパー”発進する!!』

『雨宮流水、“フォルテス”出撃します!!』

「エイシス、“エヴィル”出すぞ!!」

ブースターを吹かし一条の閃光と化して漆黒の闇を切り裂いていく。

 

 

 

 

(凄い数だ)

モニターに映されたのは漆黒の暗闇に踊る無数の閃光。

皇国軍艦隊と敵艦隊の打ち合いか、はたまた敵AFのブースターによる光か。

どのみち自分たちが攻撃の要である事には間違いは無く操縦桿から手を離し両手で頬をぺチンと打ちつけてモニターとレーダーの両方に目線を配りながらタクトは操縦桿を握り直す。

ここは戦場だ。彼女達が守ってくれている戦艦のブリッジの中ではない。

銃弾が飛び交い鮮烈な光が迸る最も危険な場所なのだ。

それでも、自分はここを選んだ。愛すべき彼女と共に守りたいものを守る為、そして何より愛すべき彼女の笑顔を守る為。

“ピースキーパー”。

平和を保つ者に自分がなれるかは分からない。

だが、なってみせる!!

強い決意が弾け飛び操縦座席に座るタクトを突き動かし、それに反応し白金の巨人もまたブースターとスラスタを同時に吹かし敵に向かっていった。

ピピピピピピ!!と警告音が鳴り背筋に寒い物を感じタクトはスラスタの出力を上げその場を離れる。ギリギリ掠るか否かのところでレーザーライフルの斉射が飛来した。

防御用のクロノフィールドは常時展開しているが直撃したらどうなっていたことか、と思うと恐怖に支配されてしまいそうになり雑念を強引に捨てる。

最初のライフルは間違いなく“ピースキーパー”の脚部を狙っていた。

直撃し、怯んだ隙を見てレーザーライフルの斉射で逃げる暇を与えず撃破する。

完全に計算し尽くされた攻撃。

(オレだってやられるわけにはいかない!!)

心の中で叫び返しタクトは意識を集中させる。

“ピースキーパー”の背部―――――背骨に接続されているような中型ポッドのロックが外され闇夜が支配する空間に放たれる。

機体を操作しながらタクトはポッド一つ一つに思念を送りフォーメーションを組ませ、弾幕を形成し敵部隊に反撃を開始した。

中型ポッド――――――――――遠隔電子兵装。リモート・ガン・ユニットに内蔵されたプラズマ兵器の銃口が灰色の巨人達に向き光を照射する。

計四基存在するRGYのプラズマ攻撃、そして“ピースキーパー”が右腕に握り締める中銃身の携帯火器。

動力源であるオプティカルエンジンから供給されるエネルギーを圧縮し敵に向かって放つオプティカル・ランチャーの銃口を向け引き金を絞る。

RGYの攻撃によって脚部、腕部を貫かれ吹き飛ぶAFに容赦無い一撃が直撃する。

ギュン!!と音を立てて大気を歪ませて進むような勢いで向かっていく弾丸の驚異的な弾側に撃ったタクト自身が驚きつつもそれは直撃した。

AFの上半身をいとも簡単に消し飛ばして。

弾速といい破壊力といいタクトの動きをトレースし“ピースキーパー”は右手に握り締める破壊を与える銃を眺め回す。威力、弾速共にAFの携帯火器を遥かに凌駕する性能を秘めるのは当然だ。

古代技術が使用されているのはほんの少し。後は人類の科学力で生み出された兵器。

古代技術が現代の技術より劣っているとは限らない。

その通り旧世代文明遺跡に眠るテクノロジーを使用した兵器は科学力で生み出された兵器との差を天と地ほど広げているのだ。

「この力・・・・・・」

タクトは自らが持つ力に恐怖と驚愕、そして歓喜の念を抱いた。

無力だったこれまでの自分。

守られてばかりいる自分。

この力さえあれば共に歩んでいける。

愛しい彼女と共に!!!

高ぶる感情が激流の如く勢いを増しその反動が“ピースキーパー”に押し出される。

GA−002“カンフーファイター”並みの機動力を発揮し左腕部に装着されているレーザーブレードを起動した。

ブォン!!という大地を震わせるような音を発し緑色の長刀身の閃光が発生装置から伸びタクトは、“ピースキーパー”は左腕部を大きく振りかぶり機動性を活かした高速近接攻撃を生み出しブレードを振るう。

長刀身から生み出された長いリーチを避けることが出来ずブレードを握り締めたAFは腹部を右から左にかけて横一線に走った斬撃を喰らい、真っ二つとなり闇に閃光の花を咲かせた。

「いける・・・・オレでも!!」

敵を撃破する度にどんどんとテンションが高まる。

眠りについた百獣の王、獅子が目を覚ましその牙を輝かせる。

まさにタクトは“救国の英雄”と呼ぶに相応しい戦果を発揮させ、既に五つの小、中隊を含むAF部隊を撃破していた。

 

 

 

「タクトさんもやりますね・・・・では僕も」

その様子をモニターで見ていた流水。

センサー類、生体神経と電磁神経の連結によって高まった感度が敵を察知し彼が駆る“フォルテス”は戦闘態勢を取る。

遠距離からの接近。

流水―――――“フォルテス”は背部バックパックの右部のハードポイントに連結されているスナイパーキャノンを立ち上げた。

砲身が前方に向かって起き上がり『ガシャ!ガシャコ!!』という音を立てて銃身が伸びる。

標的を肉眼で確認。

普段の温厚な性格を象徴するような暖かい光はどこかへ消え失せ敵を殲滅する兵士の光を宿した流水は―――――“フォルテス”は引き金を絞る。

ドォン!!

弾丸が発射された衝撃が自分の体に伝わり、敵AFパーティの中央部に位置しVの字型に陣形を組んだリーダー機の頭部が吹き飛んだ。

パイロットは相当の激痛を味わっているだろう。

「今、楽にしてやる」

相手を包み込む暖かい声を塗り替えるような冷めた声。

第一印象しか知らない者が彼を見たら普段の彼と戦場にいる彼とのギャップに戸惑うだろう。

リロード完了、発射体制良し。

再び引き金を絞った。

直後、高速で射出された弾丸はリーダー機の胸部―――すなわちコックピットがある場所を貫く。

リーダー機の爆発に巻き込まれ四散するAF。

戦果に動じず、すぐに回避行動に入り右手甲に内蔵された機関砲で直撃コースを進み飛来するミサイルを迎撃し爆発で見えなくなった視界の前方に向かって左腕部の装甲内に内蔵されている超小型ミサイル――――すなわちマイクロミサイルを一斉発射する。

爆発の影響で敵もこちらが見れないはずだ。

熱源感度を高めて敵を捉えた流水は瞬時にこの状況を利用しマイクロミサイルを叩き込む。

マイクロミサイルを放ったらその場を離れ敵を見渡せる場所まで移動。

接近してきた三機のAF。

「やはり、な」

口元には不敵な微笑が浮かぶ。

チェーンガンを機動。

長銃身スナイパーキャノンと入れ替わりで立ち上がった中型機関砲。

細い銃身が集まり計、八つの銃口を持つチェーンガン。

人間が使う兵器ではガトリングに近い。

砲身が回転を始め速度を徐々に上げ、

 

 

ズガガガガガガガ!!

 

嵐と化した勢いで高速でそして連続で発射される弾丸。

弾丸の嵐は一機に直撃しバラバラに引き千切る。

“フォルテス”は右腕に握るデュアルレーザーライフルの銃口をもう一機の回避コースに向かって照射。

止まる事は出来ず弾丸に当たりに行ったAFは動力炉を貫かれ爆発。

もう一機のAFはレーザーブレードを起動し斬りかかる。

リバーススラスタを吹かした。

斬りつけるはずの標的はおらず、いつの間にか背後を取られた敵AFの頭部に銃口が突きつけられる。

『まっ―――――――』

頭部と胸部に一発ずつレーザーを打ち込みその場を離れる。

爆発の衝撃から離れた場所で頭部を回す。

バイザーアイの視線の先には瑠璃色の大型戦闘機が戦闘を繰り広げていた。

 

 

 

「砕け散りなさい!!」

瑠璃色の装甲を持つ大型戦闘機――――GunngelU――00H『風花』は装甲と同色自動追尾レーザーファランクスを敵ステルス空母にほぼ至近距離で叩き込む。

エンジン部に備えた強化型推力増強ブースターを吹かし緊急離脱。

背部での爆発を確認し、旋回。

前方に伸びるニ連装プラズマキャノン“ARIAKE”の間に顔を出す短銃身の銃口。

そこから黒光りする『球体の何か』が敵戦闘空母に向かって射出される。

ゆっくりと進むそれは空母の下底部に包み込むように直撃すると音を立ててひしゃげ、下底部を押しつぶす。

グラビティ・ボム。重力爆弾と称されたその兵器は相手の重力系統に細工をする他、過度の重力をかけて崩壊に導き、球状に抉るなどといった兵器だ。

リバーススラスタを吹かしながら再びレーザーファランクスを撒き散らすように射出する。

戦果を喜ぶのは作戦完遂の後にいくらでも出来る。

戦場で重要なのはどれだけの数を殲滅するのではなく。

 

 

『必ず生き残る』ことだ。

 

 

この意思を胸に秘め愛璃は戦ってきた。この戦いを終わらせるのがせめてもの罪滅ぼしだから。

放たれたミサイル群をコックピット周辺の格納された小型の機関砲で迎撃する。

迎撃し切れなかったミサイルが直撃し華奢な身体に衝撃が叩き付けられた。

「ぁうッ!!」

視界がガクガクと揺れる中、歯を食いしばる。

『愛璃!!』

「ミルフィー!!」

ミサイルランチャーを肩に掲げるAFが後方から伸びた蒼白い閃光が貫かれ次に閃光の後を追うようにシルバーメタリックにピンクのカラーリングが施された大型戦闘機が“風花”の横に現われた。

ミルフィーユ・桜葉の搭乗機――――――GA−001“ラッキースター”。

『愛璃!大丈夫!?』

「平気よこれくらい・・・・それよりも。虫は元から叩かなくちゃいけないようね。みるフィー!」

『何!?』

「叩くわよ!!周囲の敵をお願い!私はあれをやる」

 

「愛璃・・・・これって」

人工脳に送られてきた作戦マップ。

周囲に散開するAFを撃破しつつ敵中隊の母艦を叩く為、射程距離まで移動する。

ほんの数秒で出された作戦。

モニターに映る緋色の双眸ができるわね?と語りかけている。

「うん!!」

元気よく笑顔で頷き返す。

瑠璃色の装甲を持つ銃の天使と桃色の装甲を持つ銀河の天使は前方に向かって進み始めた。

火力を前方に集中させ一点突破する。

ミサイルを内蔵式小型チェーンガンで迎撃し多少のダメージは気にとめずブースターを吹かし続ける。

「溜まってきたわ!!ミルフィー!!」

『分かった!!』

“ラッキースター”に装備された高出力エネルギーキャノンが、“風花”に装備されているプラズマキャノン“ARIAKE”の銃口に閃光が収束しはじめる。

「散りなさい!!」

『いっけぇーーー!!』

溜め込まれたエネルギーが一挙に開放され怒涛の如く押し寄せ敵戦闘母艦を護衛のAFごと飲み込み辺り一面が眩い閃光に包まれ消え失せたときには残骸が少量、宇宙空間に漂っているだけだった。

 

 

 

 

「やっと来たか・・・・およ?ザンシュも一緒か」

『エイシス・・・・・』

『黙れ裏切り者』

漆黒にメタリックグリーンのカラーリングの巨人の周囲には灰色の人型兵器の腕部や頭部が音も無く浮遊し、その真中で紫色に光る鎌を手に持つ巨人――――――“エヴィル”はまるで黒衣の死神を髣髴させた。

その死神の目の前には同じく漆黒にオレンジ、スカイブルーの巨人がいた。

オレンジの方は両手に実剣を二本それぞれ握り締め、スカイブルーの方は馬鹿でかいライフルを両手で構えている。

ニ機の巨人から送られてくる怒気を含んだ声。殺意すらも感じさせる憎しみ。

『エイシス・・・・テメェがヴェストを殺したんだな?』

「あぁ。アイツはヴァニラを殺そうとした。言ったはずだよな?人間を守るのが俺たちの役目だ」

『アイツは別に死んでもかまわん奴だ。だがエイシス』

「はいはい。裏切り者には変わりないわけね」

ザンシュの声を途中で遮る。

 

『エイシス。一つ聞かせてくれ』

「なんだよ?」

『ゲシュタール』

『これだけは聞いておきたい!!』

ザンシュの静止をピシャリと跳ね返す。

『お前はどうして人間を守ろうとする?』

「それが俺たちの役目でもあり。存在理由でもあるからだ」

『だが!!人間は俺達を化け物としか思っていないじゃないか!!』

「そうだな。お前はどう思う?」

『俺はわからない。ただ、俺たちのような奴を増やさない為に俺は化け物になってやる』そうか、と関心のない口調で返す。

「俺には守りたい奴がたくさんできた。そいつらを守る為なら俺は化け物と呼ばれようと蔑まれようとも構わない」

静かにエイシスは瞳を閉じる。

今まで出会ってきた無数の人々の姿が瞼の裏にフラッシュバックする。

その中にはライトグリーンの髪と真紅の瞳の少女が微かな微笑を浮かべていた。

(大丈夫。俺が消えるまで守ってやる)

心の中で告げ、再び瞳を開ける。

「できれば帰ってくれると嬉しいんだけどな」

『それはできねぇ』

『どうかんだ。シルヴァンスはお前を殺す為に俺達を送り込んできた』

「アインか・・・・・」

面倒なことになった、と思い溜息を吐く。

「じゃあ・・・・・始めるか」

唐突に三機の巨人が動き出した。

 

“エヴィル”の斬撃を双刀で受け流しすぐに後方で控えていた漆黒にスカイブルーの“オリュンポス”の斜線上から退避する。それを確認し“オリュンポス”は両腕で構えていた巨大砲の銃口を向けて引き金を引く。

ゴゥン!!と大地にクレーターでも開けるかのような爆音が轟いた。

発射と同時に飛来した破砕弾を“エヴィル”は軽々と避け、“ゲシュペンスト”を向けて発砲する。

漆黒の闇から来た悪魔達。

人知を遥かに超えた者同士の死闘に介入できる者などいないのだ。

切り込んできたオレンジのカラーリングの巨人“ジョウン”のコックピット内でゲシュタールは舌打ちをしたい衝動に駆られた。

(何でだよ!?これが・・・・ツヴァイとフュンフの差なのかよ)

各ナンバーズの識別コードを表すナンバーは若ければ若いほどその実力の強大さを物語る。

エイシスは『ツヴァイ』。すなわち十二名の成功体の中で二番目に強い。

その点、ゲシュタールとザンシュはフュンフとゼクス。

この差は天と地の差があり埋めたくても埋める事が出来ない。

『ゲシュタール!』

ザンシュの叫びに我に返りモニターに目を走らせる。

強さを増していく紫色の光を灯した刃で“オリュンポス”が放った破砕弾を両断し確実に距離を縮めていく“エヴィル”。

「バカな!?」

接近し勢いを増す漆黒にメタリックグリーンの巨人は“オリュンポス”が両腕で構える巨大砲を一刃の元に切り伏せ胸部に刃を向ける。

『ザンシュ。俺達は確かに血塗られた存在っていってもいいかもしれない』

意外にも貫く刃の変わりに声が語りかけてきた。

日頃の彼とは正反対なくらいの静けさをたたえて。

『多分・・・・いや、俺達はさ、戦う為に生まれても戦わなくてもいいんじゃないか?』

「な・・・・・に?」

予想も突かない言葉に目を見開いて震える声で返すしか出来ない。

『俺達には何かをするって決められる意志がある。だから、戦う戦わないは自由だ』

「じゃあ・・・・どうしてお前は戦う!!」

『守りたい奴が出来たって言った方が一番近いかな?でも、それも後少しで終わりになっちまう』

だからと一旦、言葉を切った後、

『俺は戦う。俺が俺で無くなるまでできるだけ傍にいてやりたい』

強い決意の塊とも言うに相応しい口調と瞳。

死が訪れることにも動じず最後の最後まで自らの炎を燃やし続ける若者。

(そうか・・・・・これがこの男の・・・シルヴァンスとの違い、か)

ザンシュは二人の男を脳裏に浮かべた。

一人は長い銀色の髪を結わえ、冷徹な眼差しで崇拝する男の理想を邪魔する者に文字通り『裁き』を下す、それが例え味方であろうと女子供であろうと、人間であろうとも絶対の信念に忠実に行動し、片やもう一人の男はどんな者にも怯まずに臆せずにただ自分が守りたい者を守るために戦う、それがどんな敵だろうとも。

相反する二つの存在にザンシュは唐突に、言葉では表現できない何かを感じた。

だが、自分は散っていった者達の為に戦わなければならない。

例えそれが無意味な物でもそうしなければ彼の心は救われなかった。

彼の意思に呼応するかのように“オリュンポス”は巨大砲の銃口を“エヴィル”に向けた。

『残念だ』

そう帰ってくるや否や目の前に紫色に光る刃が迫り鮮烈な閃光がザンシュを呑み込んだ。

“ゲシュペンスト”の刃で腹部を切断され上、下半身真っ二つになって分裂し爆裂四散する“オリュンポス”。

『エイシス・・・・・テメェーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

怒りに我を忘れ、ゲシュタールは自身の鼓膜が破れる位、獣の咆哮に似た声を上げモニターに映る“エヴィル”を睨みつけた。

 

 

オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

“ジョウン”の背部に機体と同色の黒曜の翼が左右対称の大きさで生まれ、双剣を握り締める両手の爪は鋭く突起し、全体が禍々しい形状に変わっていく。

悪魔のようなその禍々しく見るもの全てに恐怖を与える漆黒とオレンジの巨人。

双剣も長さを増し更に鋭利な光を放つ。

「エッジ化、か。ゲシュタール・・・・怒りで我を忘れたか・・・・・」

怒りと憎悪でスレイヴの真の姿を解放したゲシュタールとは対照的に冷静を保つエイシス。

「目には目を」

そう呟き精神を集中させはじめる。

ドクン!と全身が脈動を放ち、体温を低くし始める。

機体を動かす動力源の暴走を抑えるために張り巡らされた制御機構が解放されていく。

冷たい鋼鉄と同じ様に絶対零度の温度を全身に纏うエイシスはうっすらと瞳を閉じた。

敵の数はヴァル・ファスクも含め大多数。

――――――問題は無い。

口には出さず心中で呟く。

悪魔のような“ジョウン”に対し“エヴィル”もまた禍々しくおぞましい姿へと身を変貌さしていた。

エクステンションウイングは消えうせ左肩には黒い翼が一つだけ生まれ両手に備えられた爪は弧を描くように突起し、鎌の刃も倍以上の長さに膨れ上がっていた。

悪魔と死神。

この光景を現すのに相応しい言葉が正にこれだった。

闇の住人同士の戦い。

誰かを守るとかそんなに立派なことじゃない。

ただ、相手を殺す・・・・・それだけだ。

二つの怪物は同時に動いた。

互いの背後を取るように機体を絡ませ光の軌跡を幾重にも結ばせただ、殺しあう。

“ゲシュペンスト”から放たれた紫色に発光する弾丸を猛進しながら双剣で弾き返す。

“ジョウン”の握り締める双剣が紅く鮮烈な光を放ち始めた。

“燃え盛る紅き双刃”、搭乗者であるゲシュタールの異名の如く紅く発光した刃は紅蓮の業火をそのまま刃の形状に変えたような姿だ。

炎の如く紅の刃を腰だめに構えスラスタを吹かし“ジョウン”は“エヴィル”への接近を試みる。エッジ化した今、二機のスレイヴは爆発的なエネルギーを全身に駆け巡らせている。スラスタもそれと同様、爆発的な瞬間加速を生む。

ただでさえ規格外の兵器の上に制御機構までも解除されてしまった今、二機のスレイヴは並大抵の兵器では追いつけない高みまで上り詰めている。

メタリックグリーンのカラーリングの“片翼の死神“の背部にマウントされている四連装高出力エネルギーキャノン”ISURUGI“が起動し砲身が立ち上がる。

紅の刃をかかげ肉薄する“ジョウン”に銃口を向け、エイシスは一瞬の躊躇を感じたもののすぐに心を切り替えて引き金を引く。

 

 

バシュウゥゥゥゥン!!

 

 

液体に当てたらそのまま蒸発しそうな発射音を奏で四基の砲門から発射された紫光は真っ直ぐに“ジョウン”への弾道を描く。

“ジョウン“は回避もせず驀進し両手に握り締める剣で高出力エネルギー弾全てを叩き落し、弾丸が小惑星に激突する。

「チッ!!」

舌打ちをし再び“ISURUGI“を背部に待機態勢で固定。

“ゲシュペンスト“を≪スラッシュモード≫へと変形させ接近戦を試みる。

 

 

ビシュゥゥン!!

 

 

高熱を帯びた刃と刃が打ち付けられた。

『エイシス!!テメェだけは俺が殺す!!』

怒りを露にし烈火のような勢いで次々と刃を乱暴に叩きつけくる“ジョウン”。

「言ったはずだ。人間を守るのが俺たちの役目だ・・・・それを邪魔するなら」

『な・・・何っ!?』

刃と刃がぶつかり合い火花が飛び散る中、“エヴィル”はニ本の刃を強引に払いのけ、

「俺も・・・・お前と戦う!!」

強くそして硬い光がブラウンの相貌に宿されていた。

作用、反作用で弾くように二機は離れたが、すぐに相手のバックを取るか、すれ違いざまのダメージを狙うように激突しながら光の飛跡を交じわせる。

再び刃をぶつけ合おうと試み接近し始めた時だった。

 

 

 

ゴアァッ!!

 

 

ニ機の間を閃光が割り込み、浮遊していたAFや戦艦に残骸を吹き飛ばした。

残骸を消滅させた閃光を放った主に“ジョウン”、“エヴィル”の頭部が向く。

ライトパープルのカラーリングにイエローのエネルギーライン。

そして、禍々しいフォルムが異彩を放つ戦艦が何百といった大艦隊を形成し現れたのだ。

『おい・・・ありゃ何だよ!?』

通信機からゲシュタールの震えた声が聞こえてくる。

だが、その震えに恐怖というものは無く歓喜だけが彼を動かしていた。

「ありゃ・・・ヴァル・ファスクか」

ここEDENに来てから幾多もエルシオールに襲撃をかけてきていることをエイシスは知っている。自分自身、彼女達エンジェル隊と共に出撃し迎撃しているからだ。

だが、目の前に展開されているのは「大艦隊」なんていう言葉で収まるのだろうか?

彼の心中で違った疑問が飛び交った。

皇国軍を、そして“オルフェウス”軍を殲滅しようと全軍を導入してきた、そんな推測が生まれたのだ。

「一つだけ言えるのは・・・・このまま人類同士が戦いあっている場合じゃないっていうことか・・・タクト!!」

通信を“ピースキーパー”に繋ぎ搭乗者の名前を叫ぶように呼ぶ。

『エイシスか・・・こちらでも確認した。確かにヴァル・ファスクだ』

搭乗者、タクト・マイヤーズが落ち着きをはらって返してくる。

チッと舌打ちし親指を噛む。

『だが、さっきエルシオールを含む全皇国軍艦隊メッセージが送信されて来た』

「何?」

眉をひそめるエイシスに、

『「謎の艦隊は明らかに我々に敵意を持ち攻撃してきた為、貴官の申し出の通り皇国軍艦隊への攻撃を中止し協力して乱入艦隊への排除を優先することを決定した」ってね』

勝ち誇ったように笑うタクト。

「貴官の言うとおりって・・・・お前・・・・まさか!?」

『時間がかかったけど敵の司令官も馬鹿じゃない。双方とも全滅するなら少しでも犠牲の低い方が良いと判断したみたいだ』

「“オルフェウス”を味方につけたってことか?」

満足そうに首を縦に振るタクトを見てエイシスは肩の力が抜けていく気がした。

この男が何故、“救国の英雄“と称されるかようやく理解が出来た。

どんな状況にも屈せずありとあらゆる手段を考え、先ほどまでの敵を味方に変える大胆な発想を思いつく。

(なるほど・・・・)

口元が綻び思わずニヤリと笑う。

「すげぇな・・・・お前」

『それがタクト・マイヤーズという男だ』

通信に割り込みが入りレスターの声が聞こえてくる。どこか満足そうな物を含んでいる。

『さすがタクトさん!!』

紋章機一番機“ラッキースター”からミルフィーユの声が、

『まぁ、そうでなきゃ困るけどね』

二番機“カンフーファイター”からランファの当然といった声が、

『私達の司令官としては当然ですわよ』

三番機“トリックマスター”からミントの弾んだ声が、

『これまで色々なことを切り抜けてきたんだ。ここで倒れるわけにはいかないんだよ』

四番機“ハッピートリガー”からフォルテの気を引き締めた声が、

『全力を尽くします!!ここで倒れるわけには行きません!!』

六番機“シャープシューター”からちとせの声が、

『エイシスさん・・・・・必ずエルシオールで会いましょう』

五番機“ハーベスター”からヴァニラの勇気を出して絞りきった恥ずかしそうなか細い声が、流れてくる。

『それじゃ・・・・必ず生きて帰って祝勝パーティでも開きますか?』

“フォルテス“から流水の、のほほんとした声が、

『そうね。そうしましょうか』

“風花”から愛璃の楽しそうな声が聞こえてくる。

エイシスは心の底からこの状況を楽しんだ。

どんな時でも最後まで諦めず仲間と協力しその輝きを放つ。

だからこそ、守りたくなるのだ。

人間という儚き生き物を。

「そうだな!じゃあエイシス様のギャグ百連発を見せてやるぜ!!」

各ウインドゥから歓声が上がる。

 

『君も協力してくれるね?』

通信ウインドゥに映るタクトがやんわりと微笑む。

まるで、彼の緊張を解きほぐすように・・・・・・

彼の返事を聞く前にウインドゥが閉じかわりに見覚えのある顔が姿を見せた。

『よろしく頼むぜ。相棒』

ニッと微笑む。

ゲシュタールは膝に視線を移し苦笑してから、

「今回だけはお前に付き合ってやる」

大鎌を構え、双剣を握り締める二つの漆黒の怪物が無数の閃光が迸る戦場へと飛翔していった。

 

 

「ハァッ!!」

凄絶な気合の元、振り下ろされた大鎌の刃を受け戦闘母艦は縦一線に切断された。

腰を曲げ三次方向の敵に向かって紫色の光を増す刃を振るう。

刃に宿る色と同じ衝撃波が重巡洋艦、駆逐艦、突撃艦、高速艦を合わせた計十五隻に叩き込まれる。

エッジ化した今、通常時を遥かに上回る性能を発揮するスレイヴは単機でAFの二個大隊分の戦闘能力を発揮する。

愛機を飛ばし目標の艦隊のやや斜め上方に機体を浮遊させ、一斉に向かってくるミサイルやレーザー弾に不敵な微笑を浮かべ背部の“ISURUGI”を起動させ砲身を向ける。

四基の砲身の先の銃口が紫色の閃光を灯し、

 

 

 

「砕け散りな!!スターダスト(星屑)()インパクト(衝撃)ッ!!」

 

 

 

一斉に放たれた無数の高出力エネルギー弾が接近するミサイルやレーザー弾を捻じ伏せ各艦の装甲に直撃する。その光景は降り注ぐ星屑のような勢いである。

星屑の衝撃をまともに受けきり壊滅寸前にまで追い込まれた艦隊にとどめとばかりに“ゲシュペンスト”の照準を合わせ引き金を絞る。

確実に止めを刺し、漆黒の死神の周りには戦艦の残骸だけが屍のように浮遊していた。

 

 

「おっらよ!!」

長大な刃を持つ双剣を巧みに操り敵艦隊の砲撃を悉く水泡に帰させている。

レーザー弾は弾き返しミサイルは切り払う。

隊を形成し連なるように飛び交う高速戦闘機の機銃掃射によって放たれた弾丸も手首のスナップを利かせて回転させる剣に弾き返される。

攻防一体の戦闘スタイルを取りながら敵を圧倒していく“ジョウン”。

『燃え盛る紅き双刃』その名を貫くように死神――――“エヴィル”同様、漆黒の鎧に身を包む悪魔が握り締める二本の剣に備えられた長大な刃が宿す炎のように紅い光の輝きがその強さを増す。

「さってと・・・・燃え尽きな!!」

クルンと手首のスナップを利かせ遠距離からの砲撃に徹する駆逐艦に向かって剣を振るった。

刃に宿った紅い光が高速で敵に向かって直線状の弾道を描き衝突する。

炎を模したエネルギー弾が動力炉、艦橋に一発づつ直撃し、船体の様々な個所で爆発を繰り返し四散した。

「目標撃破っと・・・・・ん?」

ニヤリと笑いながらゲシュタールはモニターの一部を拡大する。

ヴァル・ファスクの集中砲火を喰らう皇国軍艦隊。

微かな躊躇が彼の心に残っていた。

人間を信じ人間を守りそして、人間に裏切られた。

だからこそ許さなかった。

永い眠りから醒め彼が決意したことは自分のような人間を増やさないこと。

命を軽く弄ぶ奴を倒すこと。

「・・・・チッ!!」

苛立ちを露にしゲシュタールは“ジョウン”を疾らせた。

莫大なエネルギーが高速移動を提供する。

ゲシュタールは―――――――――“ジョウン”はAFや通常兵器でも不可能な高速移動での格闘戦を試みた。

疾走の勢いをそのまま力に変換し一気に切り刻む。

「邪魔だァァァァァァァァ!!!!」

二本の剣を振り上げすれ違いざまに突撃艦のライトパープルの装甲に刃を突き立てブーストの勢いを上げて抉り刃を抜いた後、別の戦艦にもエネルギー弾を叩き込む。

誘爆を繰り返す艦隊。更にとばかりに増援艦隊が現れた。

口元でニヤリと笑い、

「ショータイムの始まりだぜッ!!」

“ジョウン”は二本の剣を向けた。

 

 

 

「私はまだ死ねません!!」

的確に敵艦隊の急所を射抜いていくシャープシューターのコックピット内でちとせは叫んだ。

胸元には最愛の者が自分を信じて贈ってくれた濃紺の勾玉が照明に反射され光っていた。

(伊織さん。貴方と再び会うまでは)

頭上に輝くHALOが輝きを強め、

「退きなさい!フェイタルアロー!!」

シャープシューターの長銃身レールガンの銃口から光の矢が発射され敵を射抜いていった。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。予想以上の戦闘能力だ。撤退する。データも手に入れたATシステムもこれで実用段階に入る」

重装甲戦闘要塞「ギル・ゼム」のブリッジ指揮官席で勝ち誇った顔で微笑むゲーベン。

元老院も今じゃ自分の思うがままだ。

全てが自分のシナリオ通りだ。

そんな時だった。彼の不敵な微笑が崩れ去ったのは。

「何!?レイヴンが裏切り!ATシリーズのプロトタイプを強奪し追手の特機師団を殲滅だと!?」

エリートで構成された特機師団の半数が裏切り者により壊滅状態に陥ったという報告にゲーベンは苛立ちを隠せなかった。

近いうちに何かするとは思っていたが裏切りを起こすとは。

「くそ!所詮は裏切り者の弟か・・・・私もすぐ行く!オ・ガウブを進ませろ!!」

ギル・ゼムはクロノ・ドライブし、戦闘領域を離脱した。

 

 

 

 

 

「オ・ガウブだと!?」

“ピースキーパー”を操りながらタクトは目の前に立ちはだかる超巨大戦艦を睨みつけた。

オ・ガウブ。ヴァル・ファスク、ネフューリアの侵攻作戦によりトランスバール皇国に猛威を振るった悪魔の兵器。何千といった命が犠牲になった。

「くそ!何でこんなものがまだあるんだ!!」

必死に攻撃を回避しながらオプティカル・ランチャーの引き金を引くが、防御用のフィールドで攻撃が弾かれている。通常兵器でのダメージは望めない。

「どうすりゃいいんだ!!」

このままじゃ大切な命が消えていく。

死んで良い命なんて無い。あるわけない。

大切な仲間の笑顔が浮かんでくる。

そして、無邪気にピクニック用のバスケットを掲げる最愛の彼女の姿が浮かんだ。

失うわけには行かない。

「お前なんかに・・・・・」

無数のレーザーに友軍と化したAFが撃墜されていく。

「お前達なんかに・・・・」

爆裂四散していくAF。吹き飛ばされた頭部が目の前を横切った時、

「お前達に俺達の・・・・・命の尊さを教えてやるッ!!」

HALOが一際強い輝きを放った時、モニターにある文字が浮かんだ。

「C・B・S。・・・・クロノ・ブレイク・ソード?」

人工脳でC・B・Sの発動を承認する。

『C・B・S発動開始します』

機体システムが告げた後、“ピースキーパー”の右腕に光が収束した。

この世の全ての光が一点に集結するかのようにも見えその光は徐々に大剣の形を作っていく。

最後に鮮烈な閃光が迸りタクトは愛機が握る大剣に目を見開いた。

オ・ガウブ並みのサイズの刀身。

一刀で全ての敵を切り伏せることのできる大剣が右腕に握り締められていた。

「やるしかない」

やるしかない、自身に言い聞かせ決意を固める。

今ここであれを落とさなければ仲間が、最愛の彼女が危険に晒される。

「そんなことはさせない!!」

ブーストを吹かし大剣を振りかざす。

眩しいまでの閃光が刃に帯びた大剣に込められた平和への想い。

その思いを現実のものにする為にいつか訪れる平和の為に、タクトはそれを振り下ろした。

 

 

 

オォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 

オ・ガウブに備えられた防護用のフィールドと“C・B・S“の刃がぶつかり悲鳴のような撃音と虹色の光が迸る。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

全身全霊を込め剣に込める力を強める。

フッと刃から伝わってくる手応えが消えた。

防護用フィールドと刀身に備えられたフィールドキャンセラーのせめぎあいの末、キャンセラーが勝ちフィールドを相殺したのだ。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

一気に縦一線を描いた刃の軌跡を受けオ・ガウブは綺麗な切断音を奏で真っ二つに裂けた。

爆発に巻き込まれないようブーストを最大限まで吹かし領域を離れる。

遥か後方で凄まじい規模の爆発によって生まれた閃光がモニターに入ってきた時、タクトは強い達成感を感じた。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ・・・・」

のんびりとマイペースを保ちながらエイシスは愛機を動かし楽々と攻撃をかわす。

「どうすっかな」

目の前に佇む超巨大艦。

その火力は圧倒的といっても過言ではない。

「ヴァル・ファスクの科学力は・・・宇宙一ィィィィィィィィィィィ!!!」

『なぁにギャグ飛ばしてんだ!!』

援護に駆けつけてた“ジョウン”からゲシュタールの声が聞こえ顔をしかめる。

「別にいいじゃんか。コテコテの空気を解きほぐそうと」

『やらんでいい!!』

「わがままな西城ヒ○キのモノマネ!やだやだよぉ〜」

『一遍、殺すぞ?』

「すいません。俺がわるうござんした」

『で?どうするんだ?』

「残っているのはコイツってなわけはなくて結構残ってる」

『本当に厄介な奴だ』

「戦いしかけてきたお前達が言う台詞か?」

『うっせぇな。倒すぞ』

へいへい、と肩をすくめ愛機を動かす。

“ゲシュペンスト”の刃がフィールドに弾かれた。

「チッ!!フィールドとは便利な物をお持ちで!!」

溢れ出るエネルギーを刃の部分に集中させ、

「オラァ!!」

強引にフィールドを捻じ伏せた。

『ナイスだ!!』

「テメェ!良いトコ取りか!!」

“ゲシュペンスト”の刃を再び突き立てブースターを吹かし大きく抉り、“ジョウン”も二本の剣で次々と砲台を切り刻んでいく。

「さってと、それじゃ仕上げにかかるとしますか」

『同感』

紫色と紅の光がその輝きの強さを増す。

 

 

 

「「Good-bye. I will meet in hell.」」

 

 

 

それぞれ振るわれた刃から放たれた衝撃波の直撃を喰らいオ・ガウブは砂城のように崩れ爆散した。

 

 

 

「そうか。殆どは片付いたそうだ。って言っても少しは撤退した奴がいたけど気にする事じゃない」

『わかった』

「ゲシュタール」

『今回だけはお前に付き合ってやっただけだ忘れるな』

そう言うや否や“ジョウン”はエッジ化を解除し通常戦闘用の姿へと戻り“オルフェウス”艦隊へと帰っていった。

先ほどまで耳の鼓膜が破れそうな位、爆音が響いていた宙域も今では静けさを取り戻している。

生き残ったAFは損傷を受けた友軍機と曳航しながら帰還していく。

エイシスも大きく溜息を吐き首を回して骨を鳴らし愛機を操る。

愛機と正反対な白銀といった光を象徴する白塗りの優美な儀礼艦へと。

偽りの居場所へと帰っていった。

 

 

 

 

第二十四章

                                 完

 

 

どうもイレギュラーです。

長くなりましたが一応、渾身を込めて戦闘シーンを書きました。

もし期待はずれだと思った方、申し訳ありません。

これから受験勉強でエイシス、伊織と同様死闘を演じる事になってしまいますが頑張りますのでお付き合いください。

それでは。