第二十六章「重攻機神」

 

 

 

 

「機銃掃射!!三時方向の敵にはレールキャノン、レーザーキャノンで対応しろ!!」

連鎖するが如く爆音が鳴り止まない宇宙空間の中、その漆黒の背景とは正反対な色彩の優美な白塗りの巨大艦からオレンジ色の小さな機銃弾、ドン!という音を立ててレールキャノンが、細長いレーザーが一斉に発射され閃光が生まれ銃弾が交差する漆黒の闇を裂いていく。

ドライヴアウトしてきたヴァル・ファスク艦隊の中には人型兵器の優々性に目をつけて開発された人型機動兵器≪レグ・ゼル≫が新たな敵として襲い掛かってきたのだ。

歯を食い縛り衝撃に耐えながらタクトは自分の無力さを再び痛感した。

「エンジェル隊の状況は!?」

「現在、各方向に散らばって敵艦隊と交戦。ですが・・・数に差があります!!」

「くそぉ!!!」

力を込めた拳を思い切り自分の膝に叩きつける。

少しでも無力さを紛らわしたかったが、それが消えることは無かった。

前回のエイシスの戦闘で彼の愛機である“ピースキーパー”は戦闘に出ることが不可能なまでのダメージを与えられてしまったのだ。

ヴァニラのナノマシンで復帰した整備班長であるクレータは難しい顔で三日はかかると彼に告げた。

ロストテクノロジーの専門家である彼女だからこそ『三日』なのだ。

だが、またしてもブリッジに戻ってしまった自分が情けない。

「例の球体はどうなっている?」

「徐々にエネルギー度数が上昇してきている程度で・・・・・・」

「そうか」

タクトの傍らに立つ副官であるレスターが冷ややかな声でレーダー担当オペレーターであるココに尋ね、報告に顔を渋めてウインドゥに目線を映す。

それには先程の小規模な戦闘の後に発生した光の球体が映されていた。

 

 

 

何も見えず何も感じず何も無い空間の中、自分は居た。

背筋を丸め胎児のような体勢で母親の身体の中に居るような感覚を味わう自分に声が聞こえてきた。

 

―――――――――――よぉ。

 

自分とは正反対な明るく周囲を和ませる声。

死と隣りあわせで生きてきた冷たい自分とは正反対な声が聞こえた。

 

―――――――――――誰だ?

 

―――――――――――俺か?エイシスって言うんだよ

 

―――――――――――そうか

 

―――――――――――リアクションが薄い!!そんなじゃ観客は笑わんぜ!!

 

―――――――――――・・・・・・・・・すまない

 

声の主は声質的に男のようだ。

しかし、明らかに自分が出会ってきた人間とかけ離れた何かを持っている。

ひょっとしてこいつは『芸人』なんじゃないのか?しかも『お笑い芸人』。

そんな考えを持つ自分に男は溜息を吐いて、

 

―――――――――――また生きていられることができたらどうする?

 

男の言葉の意味が良く理解できなかった。

自分は彼を封じ込める為に創られた仮初めの存在。偽りの存在。

彼が目覚めた時点で自分は消え去るはずだった。

じゃあ何故自分はここに居る?何故彼の声が聞こえる?

分からない。

 

―――――――――――分からない

 

―――――――――――おいおい!!どういうことだよ

 

――――――――――俺は生きていて良い人間なのだろうか?

 

心の底からの疑問をずっと呟いていた。

自分はこれまで大勢の人間の命を奪ったと同時に失った。

漆黒のショートカットヘアーの少女も長いパールブルーの少女も自分の前で『死』という名の底なし沼に沈んでいった。

かつての戦友も見ず知らずの若者もこの手で殺めた。

 

――――――――――自分の所為で・・・・彼女達が死んだと?

 

――――――――――・・・・・そうだ

 

おそらく自分の背後には常に死神が居る。

そしてソイツは間違いなく敵と大切な者の命を刈り取って行く。

 

―――――――――このままじゃアイツもそうなると?

 

―――――――――あぁ。彼女を二度も死なせるわけには行かない

 

―――――――――なるほどね・・・・・でも迷っているんだよな?

 

無言で答えた自分に男はまたしても大袈裟に溜息を吐いた後、

 

―――――――――仕方ない。生きる気が無いなら『無理矢理』生きてもらうぜ

 

次の瞬間、何も見えない視界が晴れた。

見覚えのある機器類、操縦桿。

そして機体の視界でもあり自分の視界でもある目の前に映る物は愛機と同じく漆黒の闇を衣にし纏う死神がいた。

 

『今から俺はお前を殺す。もし生きていたくないならそのまま殺られろ』

「断る。俺の命を自由にしていいのは俺だけだ」

キッパリと否定する自分に驚く。

その理由は戦士として生に対する執着かそれとも。

『言うなぁ。どうやら生きていたいって気はあるようだ・・・・じゃあ始めるぜ!!』

クックックッとヒステリックな笑いを上げる。

流線型なフォルムで背後に六枚のウイングバインダーを備えた漆黒の装甲にブルーグリーンのカラーリングに塗り固められ、右腕にマルチランチャーを握り締める巨人。

その巨人“リヒトクーゲル”のコックピットの中、漆黒の髪の青年は静かに愛機と一つになり戦闘を始めた。

「タイムリミットまでそう時間はないか・・・」

感情を込めず呟き視界の隅に映し出されたタイムリミットのカウントダウンに目線を配る。

“リヒトクーゲル”は高性能と同時に動力源が不安定な為、稼動限界時間が定められており、これは“リヒトクーゲル”を問わずアルスヴィドモデル全機が時間に縛られているのだ。機体の稼動限界時間は3000秒。それまでに敵、敵部隊を殲滅することが搭乗者に課せられ、搭乗者はそのことに専念しなければならない。

マルチランチャーから蒼白い弾丸が連続でそして高速で射出されていく。

青年は意識を集中させ愛機の形状を変えた。

人型から大型の戦闘機のような形態―――機動戦闘形態へと。

複数の敵との戦闘を想定、設計された人型の汎用戦闘形態、少数の敵との戦闘に高機動を駆使し迅速に敵を殲滅するというコンセプトの元に設計された大型戦闘機の機動戦闘形態といった二種類の形態が“リヒトクーゲル”には備わっている。

マルチランチャーから放たれた銃弾を死神―――“エヴィル”はそれを楽々と避けて握り締めるロングランチャー“ゲシュペンスト”で応射しモードを切り替え。

銃身から弧を描くような刃が飛び出し紫色の光が灯した。

鎌型となった武器を掲げ“エヴィル”はスラスタを吹かし猛進する。

“リヒトクーゲル”も両翼に備わったウイングブレードを立ち上げ緑色の閃光を宿し迎え撃つ。

が、綺麗な切断音を奏でレーザーを宿したウイングブレードの左翼は切断され右翼はモードを射撃形態に切り替えた“ゲシュペンスト”の光弾によって上から砕かれた。

瞬時に汎用戦闘形態に姿を変え、マルチランチャーにレーザーブレードを発生させブースターを吹かして突進。

 

 

ビシィィィ!!

 

 

蒼い刃と紫の刃が激突し激しい火花を散らす。

それぞれ剣の役割を果たす武器を巧みに使いこなし何度も刃を打ち付ける。

“エヴィル”は大きく振りかざし“リヒトクーゲル”は腰だめにマルチランチャーを構え振るった。

光の粒子が弾け飛ぶように散る。

『で!?どうなんだ!?生きるか死ぬか・・・・どっちだ!?』

「そんなこと・・・わかるわけがいなだろ!!!」

切羽詰ったような男の声に、日頃使わない乱暴な・・・そして感情がこもった言葉を青年は叫び返しその感情に呼応するように“リヒトクーゲル”は強引に刃を弾き返す。

『ごちゃごちゃ言ってないでさっさと決めろ!!お前の帰りを待っている奴が居るんだよ!!』

鎌を強引に振り回し刃に叩き込んで“リヒトクーゲル”を吹き飛ばす“エヴィル”。

歯を食い縛りながら姿勢制御を行い再度接近し、リバーススラスタから蒼白い光が吐き出されグルリと回転し、回転によって発生した遠心力を加えた斬撃を叩き込む。

『お前は本当にこのままで良いって思ってんのかよ!!あそこにいて・・・あいつの傍に居たいって思ったんじゃないのか!?』

『アイツ』―――――それが誰を意味するのか青年には良く分かった。

守れなかった彼女と同じ人間。

初めてその姿をみた時、瞳にこみ上げてきた熱い感触は今でも忘れてはいない。

『彼女』は彼女だったのだ。

だがいつからか自分は彼女を『彼女』ではなく彼女として見ていた。

あの長い黒髪と色白の肌を持つ綺麗な彼女を。

「もし、チャンスがあるのなら俺は・・・・・・もう一度、彼女に・・・・ちとせに会いたい」

『ようやく腹を決めたようだな?お前の機体のタイムリミットも近い。ケリをつけさせてもらうぜ』

「望むところだ」

間合いを取りそれぞれの漆黒の巨人が次の一撃に賭け、武器を構えそしてスラスタを吹かし再び激突する。

“ゲシュペンスト”の刃が“リヒトクーゲル”の脇腹を深く抉りマルチランチャーの銃口から伸びたレーザーブレードが“エヴィル”の胸部を貫いた。

『そう・・・・それで・・・いい』

「はぁ・・・はぁ。一つ聞かせろ・・・・何故・・・こんなことを」

『お前が居なくなってな・・・・・アイツ・・死のうとした』

ゾクリとした寒気が脳天から全身に駆け巡り一斉に鳥肌が立ったのを青年は感じ思わず両手で両肩を抱いてしまった。

「馬鹿な・・・・・」

思わず呟く。

意志の強い彼女がか?

『お前・・・・アイツは軍人である前に女だ・・・それを理解しろ』

「・・・・・・そうか。そうだな」

意志の強い彼女。誇りでもある父親を目指し軍に入り平和を信じて戦ってきた彼女。

だが彼女は軍人である前に女性だ。

大切な者がいなくなり混乱するのは当たり前なのだ。

ただその度に憎悪を募らせる自分とは違い。

『頼みたいことがある・・・・ヴァニラに・・・ゴメンって』

「わかった・・・・・伝えておく」

『また会うかもな・・・・伊織』

「その時は敵に回したくないな・・・・エイシス」

互いに別れを告げるも青年はまた再び声の主と会うかも知れないなという訳も分からない予感を胸に抱いた。

脇腹に生じた灼熱の痛みを堪え青年は目の前の景色が徐々にホワイトアウトしていき、そして。

 

 

 

物量戦に持ち込まれ、≪レグ・ゼル≫小隊の各機から放たれた対戦艦用大型ミサイル。

一発で戦艦一隻を撃沈するほどの破壊力を持ったそれは確実にエルシオールブリッジへの直撃コースを進んでいく。

「ミサイル多数接近!!」

「迎撃しろ!!」

エルシオールから細長いレーザーが幾つも伸びミサイルへと突き進む。

一発が爆発し誘爆を巻き起こし全滅する。

安堵の溜息を吐くクルー。しかし爆煙の中から第二射が放たれ表情が絶望に染まった。

 

 

『戦場では階級など関係ない平等に死は与えられる』

 

 

これまで彼女達と共に奇跡を起こし生き残ってきた自分達。

だが、今回はその奇跡は起こることは無かったな。

心の中で苦笑し黙って自分達の命を奪うミサイルを呆然と眺めていた。

死を覚悟した時、

 

 

ズガガガガガガ!!!

 

 

突如、後方から伸び、耳をつんざく銃声と共に現れた閃光によってミサイル群は少し距離を開けたところで掻き消されるように殲滅した。何が起こったか分からずただ目の前に弾丸を応用にして現われた銀色の巨人をタクトは口を開けて見つめていた。

昏い銀色の装甲。流線型なフォルム。背後に六連装の砲身を備えたその巨人の右腕に握り締められている銃火器から微かな煙が立ち上ってる事から先程の攻撃は目の前に佇み重圧ともいえる威圧感を漂わせる巨人のものだと分かった。

「各火器管制問題無し・・・・・どうだ?相棒」

『久しぶりに兵器に乗るって言うのに・・・・腕は落ちていねぇんだな』

機体の全システムを司るAI『EISYS』が驚くような呟きに微かに苦笑しながら、

「まぁ・・・・これでも騎士団の筆頭を務めているからな」

それにと一旦区切り、

「さっきの戦闘訓練が役に立ったようだ」

指の骨をバキバキと鳴らす。

『言ってくれるじゃねぇか。じゃあ・・・大暴れと行こうぜ!!』

「いいだろう」

その巨人――――――“マークヌル・ノイエ”のコックピットに座る黒髪の青年、天都伊織は不敵で挑戦的な微笑を浮かべ愛機を動かした。

ビームソードを抜き放ち肉薄する≪レグ・ゼル≫部隊に“マークヌル・ノイエ”は右腕に握る銃火器オプティカル・キャノン“ミハイル”の銃口を向け引き金を絞る。

 

 

スガガガガガガ!!!

 

 

耳の鼓膜を引き千切るような銃声を立てて発射された銃弾は次の瞬間、四機の≪レグ・ゼル≫の胸部と頭部を貫き、火花を立て始めて停止しその間を“マークヌル・ノイエ”は何事もの無かったように通り抜けた直後、≪レグ・ゼル≫部隊は爆裂四散した。

攻撃後の隙を突くかのように第二線が刀身の広いビームソードを抜き放ち連隊を組んで攻撃を仕掛ける。

一機の斬撃を軽々と交わしがら空きとなった背後に“ミハイル”の銃弾を容赦無しに叩き込み、視線をそのままに背後から迫る≪レグ・ゼル≫に左脇に右腕を通して銃弾を次々とばら撒き蜂の巣にする。

味方機を劣りにし両手にビームソードを構え斬りかかるリーダー機に向かって振り向き際に左右のレーザーブレード発生装置を起動し生成された緑色の刀身を片方は振るい、片方を突き刺す。

緑色の双閃が煌きを放ちリーダー機からブレードの刃を抜いて蹴りつける。

蹴り飛ばされ少し離れたところでリーダ機のライトパープルの四肢が吹き飛んだ。

友軍機の敗北に察知したエンジェル隊を相手にしていた他の≪レグ・ゼル≫部隊が“マークヌル・ノイエ”に向かってブースターを吹かしそれぞれの銃火器の銃口を向けて引き金を引く。

引こうとした瞬間、既に一機の≪レグ・ゼル≫が腹部を銃弾で引き裂かれ上、下半身を分断され爆発を起こした。僚機の突然の爆発に混乱するように旋回し“マークヌル・ノイエ”を視覚センサに捉えた≪レグ・ゼル≫は銀色の巨人が緑色の粒子を撒き散らし消え失せた光景を目の当りにした。

そして、背後からの銃弾を一身に受けて貫かれ火球に呑まれる。

HCD――――クロノ・スペースを短時間で通りドライブアウトし敵機との間合いを瞬時に詰めて敵機に攻撃すらさせない絶対攻撃システム。

物理法則や従来の戦術理論を大きく覆すそのシステムに追いつけるものなどあるのだろうか?

“マークヌル・ノイエ”は再び両腕部に備わっているレーザーブレード発生装置“グリンカ”から伸びる緑色の閃光刀を振りかざしブースターを吹かす。

両腕を振るって繰り出された目にも止まらぬ斬撃に四肢を切り取られ爆発する≪レグ・ゼル≫。

≪レグ・ゼル≫の接近を許さない程にばら撒かれた弾丸は嵐のような勢いで紫色のフォルムを飲み込み粉砕する。

『ハハハハハハハハハ!!おいおい!最高じゃねぇか・・・楽しすぎるぜぇおい!!』

『EISYS』が歓喜とも狂気とも言える笑い声を上げる。

「あぁ・・・・そうだな!!!」

伊織も口元にニヤリと笑い≪レグ・ゼル≫を次々と叩き落としていく。

残りの≪レグ・ゼル≫全機がよくもとばかりに接近してくる。

「性能は良い・・・・だが・・・・!!」

腰部に備わっている黒く鈍く光る砲身―――――――OHキャノン“クレメンティ”を立ち上げる。

「行動パターンのバラエティが少なすぎるぞ・・・・・!!!」

銃口に紫色の閃光が収束し、

 

 

ゴアァ!!!

 

 

照射された閃光は凄まじい勢いで周囲の空間に浮かぶ残骸をも巻き込み≪レグ・ゼル≫全機を灰燼へと帰させていった。

OHキャノン“クレメンティ”。一基でハイパーキャノンの1.5倍の破壊力を秘め、ハイパーキャノンの敵を引き寄せる性質すらそのまま受け継いだ武装だ。

重攻機神は頭部を回し自分の戦果を満足そうに眺め“クレメンティ”を元の位置に戻した。

意識を集中させ目の前に展開されている戦艦を含める部隊に向かって背後に備わった六連装の空間歪曲砲“ガブリエル”の砲身を展開する。銃口の周りの空間が陽炎のように揺らいだと思うとその歪んだ『何か』は真っ直ぐ艦隊に向かって放たれた。

歪んだ波動に飲み込まれその形状を歪にぐにゃりと歪ませた艦隊は元の形状に戻った途端、派手に破片を撒き散らし爆裂四散。

『流石だなぁ・・・・俺を封じ込める程の擬似人格だけはあるぜ』

ククククククッと笑うエイシス。

「戦闘兵器にそんなことを言われても皮肉にしか聞き取れないな」

『まぁ良いじゃねぇか・・・・・こうやって生きているんだしよ?』

はぁ、と溜息を吐き通信機器に手を伸ばしスピーカーに向かって話し始める。

「こちら“マークヌル・ノイエ”。搭乗者の天都伊織だ・・・・・聞こえるか?エルシオール」

『伊織!?伊織なのか?』

信じられないといった口調でタクトの声が聞こえてくる。

損傷によりウインドゥは繋がらないが一応無事なようだ。

モニターでも確認できるとおりエルシオールの特徴的な優美で美しい白塗りの彩色もあちこちで損傷の傷跡が目立ち黒ずんでいる。

「嘘を言っても仕方が無いだろう?早いところ着艦したいのだが」

『あぁ!OKさ!!』

「そうか・・・・」

嬉しさと喜びでいっぱいのタクトとは対極に位置するように余り感情を込めず伊織は愛機をエルシオールへと向かわせ、その途中濃紺の大型戦闘機が損傷はしているものの大事には至らない様子を見てホッと安堵の溜息を吐いた。

 

 

「ンッ!あぁ〜」

コックピットハッチを開き機体から降りて格納庫の冷たく固い床をふみ大きく背を伸ばす伊織。

久々に何かの上に立った感触、久しぶりに吸う空気が肺を満たしていく。

「伊織さぁん!!!」

「!?ちとせ・・・・」

乱暴に黒髪を振り回して駆けより自分に抱きついてきた少女。

白い肌とは対照的に長く黒い髪。

「伊織さん・・・・・伊織さん・・・・!!!」

深く黒い瞳が潤んだ輝きを放ち自分を見つめ、胸板に顔を埋めて小刻みに身体を揺らす少女――――――烏丸ちとせは二度と離すまいという勢いで伊織の身体を締め付けるようにして抱きしめる腕に一層力を込めた。

「ゲホッ・・・・ちとせ。苦しい」

「すみません!!・・・・でも・・・でもぉ・・・・っ!!」

苦しそうに咳き込む伊織に無理矢理笑おうとするも色白で端正な顔はぐにゃりと歪み再び彼の胸板に沈みくぐもった声で泣き始めた。

そんなちとせを伊織はこれまで自分が浮かべたことは無い柔らかな笑顔を浮かべそっと頭を撫でた。

「ゴメンな・・・・本当に」

「はい・・・・また会えて嬉しいです」

俺もと良い微かな笑顔を浮かべちとせを離した後、

「あべし!!」

「ひゃあ!?」

突如、腰に強烈なキックを喰らい勢いを殺す事が出来ずちとせの果実に顔を埋めてしまった。

伊織自身も顔を紅く染め上げているがちとせはそれを遥かに上回り色白で雪のような肌が瞬時に烈火の如く真紅に染まり、

「っはあ!!ちとせ・・・・大丈夫じゃ・・・・無いな」

「ふにゅぅ〜」

その柔球の谷間から苦しそうに顔を出して息を吐き出す伊織にちとせは恥ずかしさが頂点に達しその場で倒れこんでしまった。

「伊織ィィィィィィィィィ」

「!?」

背筋を凍らせる『殺気』のような怒気に思わず振り向いた。

そこには目を紅く狂気の光を宿したエンジェル隊の面々が仁王立ちしていた。

金剛力士像のような凄まじい形相を浮かべ先陣を切ってランファが伊織の胸倉をむんずと掴み格納庫の隅まで引っ張っていく。

「馬鹿!!!アンタね・・・ちとせがどれだけ悲しんでいたのか・・・・わかってんの!?」

「・・・・・・・・・・・・・」

睨み付けるランファに目を伏せて視線を反らす。

「何とか言いなさいよ!!アンタって本当にちとせを悲しませてばかりじゃない!!どう思ってんのよ!あの娘のこと!!」

「ちょっとランファ〜。伊織さんも困ってるじゃない」

「俺は」

「・・・・・・・」

ようやく口を開いた伊織の言葉に沈黙が生まれる。

「多分・・・・答えになってない・・・と、思う」

「それで良いわよ・・・・早く言いなさいよ」

途切れ途切れの伊織につっけんどんで返すランファ。

「ちとせは・・・・・・俺にとって・・・なくてはならない存在だ」

「どういう意味?」

「失いたくないんだ・・・・・これ以上、大切何かを・・・・・!!!」

痛切な響きを込めた言葉が漏れる。

その瞳と口調がこれまで彼が生きてきた殺戮の人生を物語っていた。

幾多の命を奪い大切な者を失い生きてきた彼にとってちとせという存在は心の支え以上な『何か』なのだ。

「そう・・・・じゃあ約束しなさい!!もう二度とあの娘を泣かせないってここで誓って!!」

「ランファ・・・・」

「じゃなきゃ・・・・あの娘がかわいそ過ぎるのよ」

「そのつもりだ。俺はこの手で『存在』を勝ち取ったからな」

伊織のその言葉の意味をエンジェル隊は理解できなかった。

偽りとして生きてきた自分が『存在』を勝ち取った時、漆黒の瞳は柔らかな光を浮かべていた。

(擬似人格なんてどうでも良い。俺は俺として生きるまでだ)

そう心中で決意を固めると何故か傍らでミントが嬉しそうに微笑み彼女がテレスパスであることに気が付き少し恥ずかしそうに鼻の頭を掻く伊織であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の天候はスカイパレスにとっては珍しく豪雨だった。

スカイパレス防衛用の兵器の視察が終わり、幾つかの護衛者に囲まれた車の中、少女は窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。

水色を基調とした服で身を包み長い金色の髪の持ち主である少女、ルシャーティ。

ぼんやりと窓の外を眺めながら感慨に老け込んでいた。

彼が死んでからもうすぐで一年は経つ。

自分を守る為に命を落とした彼。

「不思議ね・・・貴方が死んでから・・・もうすぐ一年だなんて」

「は?」

運転手が眉を上げてバックミラーに映る長く美しい金色の髪の少女に疑問を視線で問い掛ける。

「いいえ。気にしないで下さい」

はぁ、と腑に落ちないながらも車の操縦に専念する運転手。

そんな彼に笑顔を向けた後、再び窓の外に視線を投げる。

「!!!」

雨粒が激しく降りしきる中、奇妙な人影を見つけた。

金属めいた銀色のロングコートが覆う人型のシルエット。

フードで顔が見えず、そのロングコートを身に包む人間自身も車とは正反対の方向へと歩んでいきあっという間に見えなくなった。

初めて見た、そして尚且つフードで顔を隠していたにも関わらず自分はその人影の正体を知っている気がした。

「まっ・・・・・・・!!」

待って、と思わず口に出してしまったその時、

 

ドゴォォォォン!!!

 

「きゃぁ!!」

地面を揺らす激震に車が雨水でスリップし車体を回しながらガードレールに激突する。

「うっ・・・・・うぅ!!」

ぼやけていた視界が徐々に鮮明となり運転席を伺う。

鮮血で埋め尽くされた運転席が運転手の即死を無言で物語っていた。

生臭さと悲しみが自分にのしかかる中、重い動作で車を出る。

おぼつかない足取りで雨水を一身に受けながらルシャーティは立ち止まった。

「ひっ」

目の前に五つのシルエットが炎によって生まれた明かりを背に立ち尽くしていた。

腕という物はなく腕その物に銃火器を連結したような二本のそれは真っ直ぐ、自分に向けられていた。

背後では燃え盛る護衛用の車全て炎に包まれ、乗員していた人間全ての死を告げている。

炎によって生まれた明かりに腕部一体型の銃火器の銃口が鈍い輝きを放っていた。

等身大の戦闘用自律機動兵器。

紫のカラーリングにイエローのエネルギーライン。

その彩色と歪なフォルムでそれが長年、自分達を苦しめてきた種族≪ヴァル・ファスク≫が開発した兵器だと一瞬で看破する事ができた。

真っ直ぐに自分が向けられた銃口を呆然と見つめながらルシャーティはもうすぐそこまできている死の影が自分に手を伸ばしてきていることを感じた。

殺される。

銃口の鈍光が本能的恐怖を彼女に与え、絶望へ突き落とした。

動こうにも恐怖で脚がすくみ、きつく目を伏せ、そして弾丸が彼女の身体をバラバラに引き裂く寸前、

 

 

ビシュゥゥゥゥゥン!!!

 

 

突如として発せられた音。

まるで高度の熱が鉄や金属を溶かす、そんな音だった。

恐る恐る瞳を開けると中央に立つ機動兵器の中央部に金属棒のような物が突き出ていた。

背後から突き刺されたらしく、引き抜かれ強引に右方向に蹴り飛ばされ四散する。

残りの四つの兵器も銃口を向けるも間に合わなかった。

腕その物がなかったのだ。一本で機関銃の役割を果たす腕部一体型の銃火器は胴体と腕を繋ぐ部分から切り取られていたのだ。

それもただ切り取られたのではない。

超高温から発せられて増した切れ味によって溶断されていたのだ。

銀色の閃光が旋風のように回転して迸り、一瞬のうちにスクラップと化す兵器達。

グシャ!という音を立てて地面に倒れ伏す兵器達の変わりに人型のシルエットが立っていた。

銀色の金属のような光沢を放つロングコート。

フードで顔は隠されており、両手には一本づつ伸縮式の警棒のような物が握り締められている。

溶断、そして雨水と反応している所からみて超高温を放つスタンロッドか何かだろう。

「ふむ」

声質から見て男性だ。そして、その声は永く自分が待ちつづけていた『彼』の声と同じだった。

男は一人、納得したように呟きくるりと背を向けて立ち去る人影。

「待っ・・・・・・!?」

慌ててその人影に駆け寄ろうとした。何故自分がそのような行動に出たかは分からない。

ただ、そのロングコートを身にまとう男が無償に懐かしく自分が求めていた何かだった気がした。

バラバラに砕け散った心のパズルの最後のピースが男との出会いによって填め込まれた気がしてならなかった。

もう離れたくない、切なる願いを胸に秘め駆け寄ろうとした時、急激に生じた目眩が彼女を襲う。

(そ・・・・・んな・・・・・ヴァイン・・・・・・やっと会えたのに)

足がもつれ冷え切ったアスファルトの上に色白の美貌をぶつける寸前、彼女の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

                              第二十六章

                                    完

 

 

 

 

後書き

ようやく主人公が帰ってきました。

ギャグキャラとして立派に読者の皆様に笑いを運んだ(?)エイシスはどうなるの?という疑問を持つ人。

御心配なく十分、思わせぶりな事をさせて置きながらチャッカリと居ます。

何せ彼は「自分はギャグキャラであり笑いこそが全て」という信条を掲げております。

簡単に終わるような男ではありませんので。

それではいきなりですが、おまけ小説に入ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある軍施設の一室から数名の男女(殆どは女性だが)の声が聞こえてきた。

スクリーンの前に教卓。そしてそれらの前にはズラリと席が並んでいる。

講習室に並べられた席の一番先頭に座る水色の髪に左頬を覆うヘッドギアを身に付ける少女が天真爛漫で無邪気な子猫のように愛くるしい笑顔を浮かべてはしゃいでいた。

「ナノナノ、講習楽しみなのだ!!」

尻尾のような・・・・というより直接、生えている尻尾をふりふりと揺らしながら椅子をガタガタと揺らす。

「ナノちゃん、楽しそうですね」

ブラウンの髪をツインテールにした少女、アプリコット・桜葉が隣に座る水色の髪の少女、ナノナノ・プディングを嬉しそうに見つめる。

「うむ。実戦経験豊富な教官による講習は後学の為にも役に立つ」

ナノナノの後ろに座るダークブルーの髪にロングコート型の軍服に身を包み左腰に長剣を収めた鞘を携える女性が満足そうに頷く。

「でもよぉ。リリィ、退屈なだけだぜ・・・・・オレは普通にのんびりしてぇけど」

「何を言うアジート少尉。我々も確かに軍属だが実戦経験では今度の教官はフォルテ教官と同等かそれ以上だ」

「姉御かそれ以上ってことかよ!?」

ロングコート型の軍服を身に纏う女性、リリィ・C・シャーベットは隣に座り机に両足を置いて愚痴を零す赤毛の少女、アニス・アジートを横目で見つめながら返す。

「そうですねぇ〜。確かに“灰の月”やAFといった兵器はフォルテ教官から教えてもらってませんしねぇ〜」

二人と同じ列の席に座る背中まで届いた長い金髪の毛先をカールした女性、カルーア・マジョラムがおっとりとした態度で呟く。

「そうだよ。こんな機会めったに無いよ」

一般的に支給されている男性用の軍服を着る茶髪の少年、カズヤ・シラナミも同意する。

彼らルーン・エンジェル隊はとある軍事施設の一室である講習を受けに集まっているのだ。

 

「あっ!誰か来たのだ!!」

遠くから足音のような物音が聞こえナノナノが声を上げ、一斉に静かになる。

徐々に足音が近づき扉が音を立てて開いた。

廊下から漆黒の髪と同色の瞳の青年、腰まで伸ばした緋色の髪と同色の瞳の女性が入ってきた。

「えぇっと・・・・みんな集まっているね」

「集まっているのだ!!」

「元気があっていいわね・・・・」

漆黒の髪の青年の問いかけにナノナノが満面の笑顔を浮かべてはしゃぎ、緋色の髪の女性が微笑む。

「それじゃ。自己紹介から行きましょう、私は緋水愛璃。よろしくね」

「僕の名前は雨宮流水。みんな・・・よろしく」

漆黒の髪の持ち主―――雨宮流水、緋色の髪の女性――緋水愛璃が笑顔を浮かべる。

「それじゃあ・・・・・早速行きましょうか?」

「えっ・・・・・うん」

耳打ちする愛璃にやるのぉ?といった表情で首をうな垂れる流水。

 

 

「「愛璃と流水のNOA!Q&A教室!!」」

 

 

「・・・・・・・と!言う訳でみんな何か質問はあるかな?」

「簡単な質問でも良いのよ?」

固まる一同を目の当りにし、

(ねぇ?やっぱりアレはやめたほうが良かったんじゃない?皆固まってるよ?)

(マズイわね。ここで存在感をアピールしておかないと)

後ろを向いて気まずそうにヒソヒソと話し始める流水と二人。

「あのぉ・・・・それじゃ一つ質問が」

「「はい!!!」」

唯一の男性隊員であるカズヤの挙手に目を輝かせて振り向く二人。

「“灰の月”とBBHWについてお聞きしたいんですけど」

「わかったわ」

愛璃が頷き教卓の前に出て、流水によって部屋の照明が落とされスクリーンに映像が映し出される。

それは惑星同等のサイズを持つ灰色の天体だった。

「これが“灰の月”よ。皆は“白き月”と“黒き月“について説明は受けているかしら?」

「はい。簡単なほどに・・・・ヴァル・ファスクという種族からの侵攻に対抗する為に開発された兵器開発工場のようなもので融合して初めて完全体になるんですよね?」

「その通り。偉いわねぇ、ちゃんと勉強しているのね」

カズヤ本人としては大したことを言ってないと思っているがそれでも誉められると誰だって嬉しい。顔を紅く染めて後頭部を掻く。

「“灰の月“っていうのは”白き月”と“黒き月”が融合した月なの」

「なるほど黒の絵の具と白の絵の具を混ぜて灰色が出るように“黒き月“も“白き月“も融合して”灰の月“になったってわけか」

アニスの呟きにそう考えたほうが分かりやすいわね、と返し愛璃は、

「“灰の月”の兵器開発コンセプトは『人間という不確定要素を守り観察するために不要な物を排除する』となっているの」

「その為にエイシスを含むBBHWが開発されたということか」

真剣な眼差しでリリィ。

人間という不確定要素を取り組んで最高の兵器を作り出すために障害になる物を徹底的に排除する。“白き月“と”黒き月“双方の思想を受け継いだのが”灰の月“というわけ、と説明する愛璃に一同が感嘆の声を洩らす。

「次は〜BBHWについてよろしくお願いしますわ」

「それじゃ次は僕が説明するね」

カルーア独特の、のんびりした口調に流水が椅子から立って教卓に立つ。すると一瞬だけ緑色の光が照明が落とされた部屋を照らす。

「あ〜ら〜可愛い坊やねぇ・・・・食べちゃいたい♪」

「カル・・・じゃなくてテキーラさん!?」

「え?えぇ!?どういうことぉ?」

突然の状況に何がなんだか分からず思考が追いつかない流水。

おろおろと慌てふためきながら性格や姿すら変わった女性を呆然と見つめる。

「カルーアは感情が高ぶったりするとテキーラになるのだ!」

赤くウェーブがかかった髪。前の服が大きく開き美しく水々しい果実が露になっている。

挑戦的な視線を送り不適な微笑を浮かべる女性―――テキーラ・マジョラムは舌舐めずりを音を立てながら流水をうっとりした様子で見つめ返す。

じゅるりという生々しい音にビクッと身体を強張らせ流水は背筋に冷たい何かが駆け抜けたのを感じ、自らのみに危機が迫るのを感じた。

(流水さんも・・・・餌食になっちゃった!?)

蛇に睨まれた蛙のような流水をカズヤは自分の事のようにそのやり取りを見つめていた。

ルーン・エンジェル隊に入隊し初めて自分が彼女と会った時も似たような境遇に立たされていたからだ。

故に彼の今の気持ちは痛いほどわかる。

いきなり飛びつくように抱きつかれ、尚且つたわわに実った果実も押し付けられとどめとばかりに首筋を舐められ耳たぶを咥えられる。

「あぅ〜ランファに怒られるからやめて下さいよぅ」

子犬のようにブルブルと身体を揺らす流水。

「ふぅん・・・フランボワーズとはそんな仲なのぉ?で?ベッドで寝たりしないわけぇ?」

「そそそそそそ!!そんなこと出来るわけ無いじゃないですか!?」

そうなんだぁ、と呟いて問いただすテキーラは更に赤面する流水にチッチッと口を鳴らして口元で人差し指を振り、

「馬鹿ねぇ。男は少しくらい強引なほうが良いのよぉ?」

「そうなんですか?・・・ってそれは僕が自分で決めることですから!!早く席に戻ってください!!」

うっかり反応してしまいすぐに我に返る流水に向かってつまんないわねぇ、と呟き席に着くテキーラ。

安堵の溜息を吐き、乱れた息遣いを整えた後、

「少し脱線したけどBBHWについて説明するね」

冷や汗を拭う流水。

まだ幼さが残り凛々しいとは違い可愛らしい無邪気な笑顔が似合う彼は未だにお色気には弱いのだ。

「BBHWは“灰の月“で開発された生体兵器なんだ」

「エイシスさんもその一人なんですよね?一体BBHWって何体存在するんですか?」

これはカズヤだ。

「正確なところはまだ帝政軍も把握してないからわからないんだ。でもかなりの数が存在するのは確かだよ」

「じゃあパパもその一人なのだ!?」

流水の返答にナノナノが元気良く立ち上がり猫のような瞳を流水に向け訊ねた。

「えっ?パパって?」

「だってママの好きな人だから・・・エイシスはナノナノのパパなのだ!!!」

ナノナノが無邪気な笑顔を浮かべる。

ヴァニラちゃんのことか、と心の中で納得する。

「でも・・・パパは消えちゃったのだ?ママがかわいそうなのだ」

しょんぼりするナノナノ。先程までの元気が嘘のようだ。

「と、とにかく基本をまとめるね?」

「わかったのだ!!」

「BBHWといっても大半は不完全な存在だったんだ。

それを帝政国家独自の遺伝子技術で完全に近づいたBBHWがイレギュラーナンバーズと称されたんだよ」

一斉に感嘆の声があがる。

「ナンバーズは全員合わせて十二名。その半数は彼らの力を恐れた帝政軍が処理してしまったんだ」

「処理って?」

「文字通り殲滅のことだろう。自分達よりも遥かに高い力を持った者に対する恐怖の念がそのような行動に走らせたのだろう」

リリィがいつも通り冷静な口調で顔色一つ変えずに吐き捨てる。

だが、その瞳には無責任な帝政軍の対応に対する怒りが浮かんでいた。

「酷い・・・・酷すぎますよ。いくら兵器だからって・・・・!!」

「僕もそう思うけど、この作戦が展開されたのは僕が生まれる前の話だからね」

「そういえば・・・・エイシスさんが名乗った“残酷なる殺戮者の眼差し”って何ですか?」

カズヤの問いかけにあぁ、と思い出したように呟く流水。

「イレギュラーナンバーズの異名のようなものだね」

そう言って流水は程よい大きさのホワイトボードを取り出しキュッキュッという音を立てるペンを走らせる。

 

 

アイン:シルヴァンス『全てを定めし者』

WOH:槍、スレイヴ:『ハルバード』

 

ツヴァイ:エイシス『残酷なる殺戮者の眼差し』

WOH:大鎌、スレイヴ:『エヴィル』

 

ドライ:ディーバ『安寧へと誘いし凶華』

WOH:長刀、スレイヴ:『クラウンフラワー』

 

フィアー:ヴェスト『陰にて笑う道化師』

WOH:ナイフ、『ハンター』

 

フュンフ:ゲシュタール『燃え盛る紅き双刃』

WOH:双剣、スレイヴ『ジョウン』

 

ゼクス:ザンシュ『駆け抜ける破壊神』

WOH:大型ライフル、スレイヴ『オリュンポス』

 

 

「生き残ったナンバーズはエイシスを含めて六人。各ナンバーの数が若い方が上位ランクであることを意味しているんだ」

「あの!WOHっていうのは何ですか?」

リコがおずおずと手を上げる。

「WOHっていうのは通称、『Wepon Of Heart』と呼ばれ、特殊空間からいつどこでも自由に取り出す事が出来るナンバーズに与えられた専用の武器の事だよ。その他、彼らはスレイヴと呼ばれる機動兵器を所持しているなど帝政軍の兵士とは割と違っているところが多いんだ」

なるほど、とリリィが感心するように頷く隣でアニスが意味わからんとばかりに天井を仰ぐ。

「ちなみにBBHWは外見が人間にかなり酷似して造られている為、外見では“白き月“の技術、戦闘能力では”黒き月“の技術が使用されているんだよ」

再び一同から感嘆の声があがる。

「他に質問は無い?」

流水の質問に、特にはと一同代表して応えるカズヤ。

「それじゃ、次回は“ガーリアン”の組織についてよ」

脇に立っていた愛璃が教卓の前まで歩み一旦区切った後、

「特別ゲストも用意してあるから楽しみにしておいてね」

愛璃はそう言うや否や不敵な微笑を浮かべ(カメラ目線)、

 

 

「本日の講習はここまで!!」

 

 

 

おまけ小説『愛璃と流水のNOA、Q&A教室』第一回    終

 

 

 

後書き2:上手く書けているかどうか心配です。

まぁ、こんな調子で不定期にやって行こうと思うのでよろしくお願いします。