銀河英雄の翼
第一話〜登場!エンジェル隊〜
「あ〜暇だな〜」
トランスバール皇国軍第2方面軍クリオム駐留艦隊の内の1隻。そのブリッジの艦長席に座る人物がだるそうに呟いた。
「司令官のくせにそんなことを言うな」
その隣に立つ男性が「まったく」と言いながら溜息を吐く。
「暇なものは暇なんだからしょうがないだろ」
彼、タクト・マイヤーズはこの艦隊を指揮する司令官だ。もっとも、司令官には到底見えないが・・・。
「そういう問題じゃないだろ」
そしてその彼と話している男性は彼の副官、レスター・クールダラス。副官ということだがブリッジにおける戦闘以外の大抵の仕事、雑務などといったものはレスターがしている。レスターの方が司令官らしい、という意見も多い。
「俺に司令官は向かないさ。かつぐのは得意だがかつがれるのは嫌なんでな」
とのことらしい。それよりも、誰に対して喋っているのだろうか・・・。
「まあそれはともかく・・・お前は司令官なんだからもっとしっかりしてろ」
「俺だってやるべき時が来ればちゃんとするさ。そういう時のためにこうやって楽にいるんじゃないか。それに、俺には我が最大の親友にして副官であるレスター・クールダラスがいるんだ。お前がいてこそ俺も楽ができるってもんさ」
「・・・こういう時ばかりそんな事言いやがるなお前は・・・」
「事実だからいいだろ?・・・は〜、それよりもエンジェル隊の皆はどうしてるかな〜。どうして俺をこんな辺境の駐留艦隊の司令官なんかに任命するんだルフト先生は」
そういうタクトの顔はつまんないという表情を隠そうとしていない。
「お前があいつらとイチャイチャばかりしてるからルフト将軍も怒ったんだろ」
「イチャイチャばかりなんかしてないだろ。それに、戦闘も起きないしする事がないんだから別に遊んでたっていいじゃないか・・・」
ここ最近・・・というか長い間トランスバール皇国は戦争を起こしていなければ小さな反乱なども起きていない。そうなってくると、軍人というのは暇で暇でしょうがなくなってしまう。
「ただでさえ暇なのにエンジェル隊の皆がいなかったらもっと暇「司令!」・・・どうした?」
突然オペレーターが悲痛の叫び声をあげた。
「およそ10隻の艦隊が接近しています!」
「艦隊?友軍じゃないのか?」
「いえ!識別信号を発信していません!」
タクトは目をレスターに向ける。レスターはそのタクトの目を見て頷き、命令をかける。
「総員第1戦闘配備だ!」
「ど、どういうことですか!?」
「すまない。まさかここまで来るとは思わなかったし、いずれ知ることになるだろうからレスター以外には伝えてなかったんだけど・・・本星の方で元皇子エオニア・トランスバールがクーデターを起こしたんだ」
「そ、それってつまり・・・戦争が起きた、ということですか?」
オペレーターが少し震えながら尋ねた。タクト、レスターを含み、皇国軍の全てのものが戦争を経験などしていない。それどころか、起こるとも思っていなかった。
「そういうことだ。死にたくなければ震えていないで自分の仕事をしっかりしろ!」
「は、はい!」
オペレーターは慌てながら自分の仕事にとりかかった。
「しかし、まさか本当にこんな辺境までやってくるとは・・・どういうことだ?」
「俺に聞くなよ。ここまで来てるのは事実であいつらが敵なのも事実だ。エオニア軍にしろそうじゃないにしろ・・・」
「し、司令!大型の戦闘機7機こちらに向かってきます!もの凄い速さです!」
「凄く速い大型の戦闘機?」
タクトは手を顎にあて考える。
「その戦闘機から通信です!」
「・・・まさか・・・よし、繋いでくれ」
「了解!」
オペレーターが通信を繋げるとモニターに一人の女性が映った。
『あ、タクトさ〜ん!お久しぶりですぅ!』
そのモニターに映る女性は元気よく笑顔で腕を振った。
「やあミルフィー!まさか来てくれるなんて・・・!じゃああの艦隊は仲間?」
『残念ながら違いますわ。あれはエオニア軍の無人艦隊です』
もう一つモニターが映りそこに別の女性が現れる。
「ミントも来ていたのか・・・。そういえば7機だよな。じゃあ、ランファ達も来てるのか?」
『残念。ここに来てるのは私とミルフィー、ミント、そしてカズヤにナノナノにリリィにアニスだよ』
さらにもう一つモニターが開かれ、また別の女性が現れた。
「フォルテとミルフィーとミントと・・・誰?」
最初の3人は知っているが、後の4人についてはタクトに聞き覚えが無かった。
『そういやカズヤ達が来たのはタクトがこっちの駐留艦隊司令になってからだったね。・・・・あんた達、タクトに自己紹介しな』
『『『はい!』』』
一気に別のモニターが4つ開かれた。
「うわ!・・・一気に開かないでくれ」
『まずはナノナノからするのだ!ファーストエイダーのパイロット、ナノナノ・プティング少尉なのだ!でも、ナノナノはナノナノなのだ!』
「こいつは何が言いたいんだ?」
レスターがわけわからんといった表情をした。ナノナノと紹介しながら「でもナノナノはナノナノ」と言われたら確かに意味不明だ。
『次は私だな。初めましてマイヤーズ司令官。私はRA-002イーグルゲイザーのパイロット、リリィ・C・シャーベット少尉だ』
「かたいな〜・・・でも、可愛いな♪」
「またそういう事を言うかお前は・・・」
『次は俺だ!その名もアニス!アニス・アジートとは俺様のことだ!RA-005レリックレイダーのパイロットだ!よろしくな、マイヤーズ司令さんよ!』
「元気な子だな〜」
「お前に言われたくはないと思うがな・・・」
『最後は僕ですね。僕はRA-000ブレイブハートのパイロット、カズヤ・シラナミ少尉です。よろしくお願いします、マイヤーズ司令』
「顔は可愛いな・・・女の子?」
そう言ったタクトの言葉の意味を数秒してから気付いたカズヤは顔を赤くしながら叫んだ。
『ぼ、僕は男です!』
「ははは、だよね〜・・・残念。すっごく可愛いのにな〜・・・」
『タクト。それは浮気発言かい?』
モニターに映るフォルテがにこにこ笑いながら鞭をビシンと鳴らし、無言の圧力をタクトにかける。ついでに、カズヤは顔を赤くして黙っている。むろん、嬉しくて恥かしがっているわけではない。
「は、はは・・・浮気なんてしないよ、フォルテ・・・」
タクトは冷や汗を浮かべながら答えた。フォルテも本気では全くないだろうが、フォルテならそれでもお仕置きをやりかねない。
『ふ〜ん・・・まあ、それはおいといて。敵がすぐそこまで迫ってるんだ。撃退するのを手伝っておくれ』
「分かった。といっても、俺たちの艦じゃ援護くらいしか出来ないけどいいかな?」
今タクト達が乗っている艦はそこらへんの艦と同じで普通なのだ。いくら紋章機がいるとはいえ、10隻の敵艦に突っ込めば無事にすまない可能性が高い。
『ああ、かまわないよ。・・・カズヤ』
『は、はい!?』
突然呼ばれて驚きながらカズヤが答えた。
『「ルーン」の指揮はあんたがするんだ』
『ええ!?どうしてですか!?』
フォルテがいった「ルーン」という単語にタクトは首を傾げた。
「ルーン・・・ってなんだい?」
『ああ、タクトは知らないか。あんたが既に知っているエンジェル隊を「ムーン」、カズヤやリリィといった新人のエンジェル隊を「ルーン」という風に分けてるんだよ』
『僕はついこの間入ったばかりの新人なんですよ!?』
「ふ〜ん・・・」
『これからタクトはエンジェル隊を率いていくことになるけど・・・12人も指示するのは大変だろ?だから、「ムーン」はタクトが、「ルーン」はカズヤが指揮するのさ。今は7人だけど、いきなりは危険だからね。慣れるためにってわけさ』
「カズヤは指揮能力あるのか?」
『隊長であるフォルテ教官の方が指揮能力あるじゃないですか!』
『「ルーン」の子達は私よりあんたが指揮した方がテンションが高くなるんだよ。まあ、これも実際見たことないから分からないけど・・・少なくとも私よりカズヤの方が好感度が高いのは確かなんだ』
「お〜い?」
『それにね・・・カズヤ・シラナミ!』
『・・・は、はい!』
「無視か?」
「無視されてるな」
『これは命令だよ!』
『!』
「少しはこっちに意識を向けてくれないかな〜?」
「これだけ無駄な時間を過ごしていながら攻撃をしてこないとは・・・無人艦のくせに敵も親切だな」
『・・・逆らうことは許さないよ?それと、あんたはちゃんと素質を持ってる。私が保証するよ』
『・・・はい・・・』
「・・・完全に無視されてる、俺・・・」
「ま、しょせんお前はその程度にしか見られていないということだ」
『声が小さい!』
『は、はい!カズヤ・シラナミ!エンジェル隊「ルーン」を指揮する任務、遂行します!』
「・・・はぁ〜」
『なに溜息ついてんだよ。おめえは司令官だろ!しっかりしてくれよな!』
『そうだ。司令官たるもの気をしっかり持ち冷静沈着に部下を率いるものなのだぞ!』
『にゃはは〜!カズヤ隊長になったのだ?凄いのだ〜!』
『まあそう深く考えず・・・普段のあなた通りに皆をまとめあげればいいのですわ』
『隊長じゃないよナノナノ。・・・・普段どおりにって僕はべつにまとめあげてるわけじゃないですよ』
『指揮官であろうとせずに自分の思った通りにやればいいんだよ』
「新人達にどなられるなんて・・・俺の司令官の立場っていったい・・・」
『ないな』『ないだろう』
「・・・・」
『分かりました。・・・僕なりに指揮しま『カズヤ隊長な〜のだ〜!凄いのだ〜!』・・・隊長じゃないって』
『明るいっていいな〜』
「・・・終わったかい?」
『ああ、終わったよ』
エンジェル隊の会話はあれから15分と続いた。よく敵も攻撃してこなかったものだ。無人艦なのだが・・・。
「はぁ〜・・・。・・・・それじゃあ、戦闘開始!」
『『『了解!』』』
「・・・ふ〜、敵は倒せたか」
敵を倒すのに10分とかからなかった。こっちは紋章機で相手は普通の戦艦。その差かもしれない。
「さてと・・・フォルテ」
『なんだい?』
「君達はどうしてここに来たんだい?ただ追われていたんじゃなくて俺に用があるんだろ?」
『そうだよ。でも、説明をするのはめんどいからとりあえずついてきてくれるかい?』
「わかった」
エンジェル隊の紋章機がどこかに向かいだすとタクトの艦隊もそれに続いた。
「なあ、えっと・・・カズヤだっけ?」
タクトはブレイブハートに通信を繋げた。モニターに中性の顔立ちをしている少年が映った。
『そうですけど、なんですか?』
「君って女じゃないんだよね?」
笑いながら言ったタクトにカズヤは再び顔を赤くしながら叫び返した。
『違いますってば!僕は男です!』
「ははは、冗談じゃないか」
カズヤは少しの間顔を赤くさせたまま笑っているタクトを睨みつけていたが「はぁ〜」と溜息を吐き自分を落ち着かせた。
『・・・で、なんですか?』
「う〜ん、まあそんな重要なことじゃないんだけど・・・君達はどのくらい前にエンジェル隊に入ったのかな〜ってね」
『僕が一番最近です。2週間くらい前ですね。アニス・アジート・・・少尉はさらに最近の1週間前なんですけど。いろいろとあって正式にはまだエンジェル隊じゃないんですよ』
タクトは頭に疑問符を浮かべた。
「正式には違うのか?」
『ええ、まあ。・・・ナノナノ・プティング少尉とリリィ・C・シャーベット少尉は僕が入隊する前に来たみたいですけど、よくは分かりません。リコ・・・アプリコット・桜葉少尉と、カルーア・マジョラム少尉もいます』
「リコ・・・ああ、ミルフィーの妹か。彼女も入ったんだな!」
『はい。一番古いのが桜葉少尉、その次がシャーベット少尉、プティング少尉、マジョラム少尉、僕、そしてアジート少尉という順番です』
「ふ〜ん・・・。と、そうそう、カズヤ」
『なんですか?』
また「女」と言われるかと思い、カズヤはタクトを少し睨みながらきいた。
「さっきのは冗談だって。別に俺が司令官だからとか位が上だからとかで軍人ぽくしなくていいよ」
『・・・え?』
「いや〜、俺そういうの苦手だからさ」
『は、はあ・・・分かりました』
カズヤは戸惑いながらも答えた。
「それと・・・」
『まだあるんですか?』
「君は〜・・・」
『はい』
「エンジェル隊の中で・・・」
『・・・』
「好きな子はいるのかい?」
『好きな子・・・って、えええ!!?』
カズヤは少し遅れての驚きの声をあげた。
「いるんだろ?」
『な、なんでそ、そそ、そんなことをマ魔、マイヤーズし、司令に言わなくちゃ、ちゃちゃ、いけないんで、ですす、すか、かかか!!?』
「おいおいいくらなんでも若すぎるって。こんなことくらいで顔を赤くしちゃ」
「いいもん、いいもん・・・どうせ私の恋は一生叶わない片想いだもん」
どこかでアルモの泣き声(?)が聞こえた気がしたがタクトはあえて無視した。
『そ、そんなこといわれても・・・!』
『おや、そこまで顔を赤くするってことは好きな子・・・いるってことかい?』
『あら。それは気になりますわね。誰なんですかカズヤさん?』
『私も気になるな〜』
『ふぉ、フォルテ教官にミントさん、ミルフィーさんまで・・・!』
新たな3人の参戦者(?)にカズヤの顔はさらに赤くなった。
『へ〜!それは俺も聞きてえな。誰なんだ?』
『ナノナノも気になるのだ!教えるのだカズヤ!』
『う〜・・・あ!リリィさんはこういう話興味ありませんよね!?』
カズヤは最後の希望であるリリィに話しかけた。
『いや、実に気になるな。誰なのだ?』
が、その希望はいともあっさり消されてしまった。
『ぼ、僕に好きな人はいません!!失礼します!』
カズヤから通信が断たれてモニターが消えた。
「やれやれ・・・若いってのはいいね〜」
『何言ってんだい。あんたも私もまだまだ若いじゃないか』
「はは、まあね」
『・・・と、それより目的地についたようだよ』
「ん?あれは・・・?」
タクト達の目に飛び込んできたのは巨大な艦だった。
『あれはルクシオール。エンジェル隊の新しい母艦だよ。少し前に完成したのさ』
「へぇ〜」
『さてと。行こうか。あそこにあんたを待ってる人物がいるよ』
「了解」
〜あとがき〜
随分更新が遅くなってしまいました。
う〜む。長い・・・短いですね。
これからはイベントが起きたりしない戦闘は書かないでいこうと思っています。自分、戦闘書くの下手なので(全体的にも下手ですが)それに、ネタがなくなってしまいますので。
とまあ、そんなわけで新しく始めました。これからよろしくお願いします!