GALAXY ANGEL ANOTHER HERO STORY
第一章 儀礼艦と天使達
警告音が鳴り響く。
ここは高速輸送船の操縦席である。レーダーには迫り来る艦影とミサイルが赤く表示され、メインモニターにも〈RADAR LOCK〉と大きく表示されている。
パイロットはそれを見ながらも特に慌てることをしないのはたいしたものだが、この状況ではそれが異常に見える。
迫り来る脅威もすごいが、重力制御装置が付いているとはいえ、殆ど回転しているような動きをしている輸送船はさらにすごい。並の操縦士では冷静にこんなことができるわけがない。
一方、輸送船を追いかけている艦隊も、人技離れた動きをしている目標を見ても全く驚いていない。
それもそのはずで、艦隊には一人に乗組員もいない無人艦なのである。だから、目の前の信じられないような現実も、ただ事実として受け止め、それを踏まえて行動をしている。
こうしたトランスバール皇国軍の輸送船とクーデター軍の黒い艦隊が追跡戦を始めてもう10分が経とうとしていた。
その時、警告音とは別のアラームが響く。
「!? ・・・ドライブアウト反応!?」
輸送船のパイロット―――ブラット・スカイウェイはレーダーを見て驚いた。なんと自分の進路上に巨大なドライブアウトが確認されたのだから。こんな正規航行ルートでもない宇宙空間で会うなら、まさに天文学的な確率である。だが、敵に罠を張られた可能性の方が高いし、現実的だ。
「艦種特定・・・近衛軍旗艦?」
(ばかな!白き月の儀礼艦が何でこんな所に?)
と考えていたのがまずかった。
「くっ・・・!」
激しい振動が走り、自分の身体がベルトに押さえつけられる。
「ちっ! 被弾した。ダメージコントロールは・・・だめか」
言うが早く格納庫へ走り出した。
同刻の白き月儀礼艦―――エルシオールでも大変な騒ぎになっていた。
「友軍船被弾!失速してゆきます。後方の無人艦隊、こちらへ向かってきます」
「アルモ。タクトを呼んでくれ。同時に第一級戦闘配備」
「はい!」
ココの報告を聞きつつ、レスターはアルモに的確に指示をすることによって、ブリッジの混乱を収めていった。
「おまたせ、レスター」
しばらくして、お気楽な声でブリッジに入ってきたのは、先日よりエルシオールの司令官となった、タクト・マイヤーズである。
「なにがあったんだ?」
お気楽な声が一転し、真面目なものとなる。
「どうやら、不運な遭遇をしてしまったらしい・・・。エオニア艦隊が7隻とそれらが追いかけていた友軍船が1隻、この宙域にいる。友軍の方は被弾しているな」
「艦隊がたった1隻を追いかけているのか?」
艦隊が輸送船を追いかけている意味がさっぱり分からない。
「ああ、そうだ。それより、敵艦がこちらに進路を変えたぞ。どうするんだ?」
敵艦隊は、駆逐艦3と巡洋艦4の基本的な編成。それに対して、こちらは皇国軍の最強部隊であるムーンエンジェル隊である。ならば戦闘で問題はないだろう。むしろ、あの輸送船の方が気になった。
「友軍船を援護しつつ、敵艦を迎撃する」
タクトはそう言うと、司令席の端末をいじって、待機中のエンジェル隊のメンバーにも同じことを言った。
「「了解」」
それぞれ個性ある5つの声が返って来る。
「よし!エンジェル隊はっ・・・」
「マイヤーズ司令!」
発進と言おうとしたところを、ココの声に遮られた。
「友軍船、熱量上昇・・・。爆散します!」
「なに!?」
どうやら思っていた以上に輸送船のダメージは大きかったようだ。タクトは自分の認識の甘さを後悔した。
そして、追い討ちをかけるように駆逐艦のミサイルが輸送船に命中する。
と、この場にいた誰もが思った。
ミサイルを打ち抜いた本人以外は。
悲鳴をあげる輸送船の後方ハッチから出たビームがミサイルを落とし、さらにダークブルーの戦闘機も飛び出した。
「船が・・・」
ブラットは1年近く我が家にしていた船が爆発するのを、少し寂しそうに見ていた。しかし、それもすぐに終わり、現実に目を向ける。
(輸送船を失った今、長距離の逃走はできない。迎撃しつつ、隙を見て離脱し、近くの惑星に行くのが妥当な手段だろう)
考えを一度止め、前方を見る。
(前方の儀礼艦さえいなければな)
すると、その儀礼艦から通信が入った。
『こちらは皇国近衛軍旗艦エルシオール。貴官の所属を明らかにしてください』
(やはりエルシオールか・・・)
そう考えつつも通信に答える。
「こちらは皇国軍第一方面軍第337不正規機動部隊の〈シヌイ〉。俺はブラット・スカイウェイ曹長だ」
『データ照合・・・了解です。貴官を援護します。こちらへ合流してください』
(助けてくれる?)
ブラットが最初にエルシオールと共同で敵を迎撃すると思いつかなかったのは、貴族達で構成されている近衛軍が自分のような不正規部隊の人間を助けてくれるとは思わなかったためである。
実際、エルシオール以外の船ではその考えが正しいだろう。
「・・・了解だ。援護、感謝する」
不審に思いつつも、とりあえず共同戦線を張ることを了承し、通信を切った。
5色5機の紋章機が戦闘空域に入ったのを見て、それまで逃げの一手だったブラットも機首を敵艦へ反転させた。
(あれがロストテクノロジーの塊〈紋章機〉か)
初めて噂の機体を見た感想はあまりなかった。なにせ状況が状況である。
『アンタも戦闘に参加するの?』
いきなり赤い紋章機から通信が入り、気の強そうな少女がサブモニターに映し出された。
「ああ。そのつもりだが?」
『やめときな。痛い目見るよ』
それに答えたのは紫の紋章機パイロットである。
『あのくらいの敵でしたら、私たちだけで十分ですわ』
『・・・援護します。離脱を』
『すぐ終わりますから〜』
続いて残りにパイロット達からもそう言われてしまった。
「そっちの邪魔にならない程度にやるさ。それなら問題ないだろう?」
戦力外通告をされたわけだが、特に気にしない。元の上官はもっとひどかったから慣れたものだ。
それより気になることがあった。
(若いな。特に青と緑のパイロットは)
女性で構成された部隊とは聞き及んでいたが、この二人は若すぎる。桃色と赤のパイロットも若いが自分とそうは変わらないだろう。紫のは・・・。
『・・・おまえさん。なにか失礼なことを考えていないかい?』
「いえ!何も」
皇国の最強部隊はカンが鋭いらしい。女のカンかもしれないが・・・。
ほどなくして、敵を射程内に捉えた。
標準を合わせて、ロング・エネルギーランチャーを発射する。命中し眩い閃光がはしる。
しかし、撃墜したわけではない。敵駆逐艦のシールドに防がれただけである。
遠距離射撃で落とせないのはすでに知っている。
閃光に紛れて十分に接近し、あるレバーを引いた。
モニターに〈Human mode〉と表示され、戦闘機を人型機動兵器に可変させた。
スピードを落とさないで駆逐艦とすれ違い右手に持ったビームライフルをそれの後部に向かって連射する。
1発・・・2発・・・3発・・・・。
シールドの出力が落ちているため、はじかれることなくエンジン部に命中していく。
すぐに先ほどの自分の船と同じように爆散し、駆逐艦は沈んだ。
「敵艦撃墜。次!」
沈めた駆逐艦の右斜め後方で援護していた巡洋艦を眼前に捉える。
その艦は高速機動をしているカンフーファイターに向かってミサイルを発射していた。
「あれでは命中するな」
瞬時にミサイル郡に左手のアサルトマシンガンの弾幕で張った。カンフーファイターに命中する直前ですべて撃ち落す。
『サンキュー。アンタ、やるじゃない!』
「ありがと」
褒め言葉はしっかりともらい、再び巡洋艦を眼前に捉える。
コンピューターはシヌイにミサイルは通じないと判断し、対空砲火を張ってきた。
「甘いな」
巡洋艦に対して旋回しつつ、グレネードランチャー2発タイミングをずらして撃つ。
当然巡洋艦はそれを迎撃する。だが、そのためにシヌイに対する攻撃が弱くなった。
ブラットはその隙を決して見逃さなかった。
シヌイは旋回を止め、直進する。巡洋艦コンピューターが気付いた時にはもう遅かった。
右手のビームライフルを脚部にショルダーし、代わりにビームサーベルを抜きさりブリッジに突き刺した。
一点の高エネルギー攻撃ではシールドも大した役には立たず、あっさりと貫通した。
人は乗っていないが、代わりに積んであったコンピューターが消滅し巡洋艦は動きを止めた。
シヌイが離脱すると、同時にハッピートリガーの攻撃が巡洋艦を沈めた。
「ナイス攻撃」
『おまえさんもいい腕だね。たいしたもんだ!』
残りの敵艦はすでに他の紋章機に沈められていた。
『そこの・・・スカイウェイ曹長だったか?話が聞きたい、エルシオールに着艦してくれ。その機体の整備と補給はしておくからさ』
先ほどとは違い、モニターも使った通信からは若い・・・だが艦長らしき青年から着艦の要求がきた。
(断る理由はないな)
「了解。着艦しますので誘導をよろしくお願いします」
佐官服を着ていることは間違いなく自分より上官である。敬語を使って返信し通信を切った。
「さて・・・これからどうなるのかな?」
迫り来るエルシオールの姿を見ながら、俺はこれからの事を考えていた。
・・・・・・・
・・・
この出会いがなければ俺はどうなっていただろう?
後から考えてもそれはわからなかった。
あとがき
ついに本格的に始まりました小説連載です。
いやぁ〜・・・これしか書いてないのにすげー大変だったな〜。
ゆっくりでしか小説を書けない私です。次の話を書ききるのにも時間が掛かると思います。
読者の皆様どうか飽きないで応援・助言をお願いします。
完成日 2006年 4月 4日
紅だった人より