GALAXY ANGEL  ANOTHER HERO STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章 マイヤーズという人物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷った。

目の前のエルシオール司令官タクト・マイヤーズから差し出された手を握手するかどうか・・・。

なぜなら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・1年前

 

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「ぐっ・・・!」

狭く暗い部屋で数人の人物の内の一人が声を上げ、床に伏せている。

なぜなら、彼は自分以外の人物全員から暴行を受けているからだ。ちなみに素手ではなく鉄パイプやらスタンガンが使われている。

 

 

しばらくすると不意に部屋のドアが開き、一人の青年が入ってきた。

「そろそろ反省してもらえたかい?」

綺麗な軍服、高飛車な口調、人を見下すその視線・・・。そのさまは典型的な皇国貴族の見本である。正真正銘貴族だが・・・。

「・・・俺は・・・自分が間違った・・・こ、とを・・・したと・・・思ってない」

暴行を受けていた人物――ブラットは途切れながらもはっきりとした言葉で言った。

それを聞くと貴族将校は手だけで合図をした。

再び始まる暴行・・・。

「ぐあっ!!」

「口を慎んだらどうだい?たかだか不正規部隊の分際の君がそんな口を叩けると思うな!!」

前半の知的な(と本人は思っている)口調とは違い、後半の口調は乱暴である。本気でムカついているのだろう。

「貴様は私の命令を確実に実行することだけ考えていればいい!!」

「海、賊に・・・捕まった、人質を・・・見・・・捨てるのが・・・軍の、することか・・・!」

「黙れ!たかだか数人の人質ごときを気にして賊の壊滅が成せるか!!」

 

ブラットは暴行を受けつつもその貴族将校――コルト・『マイヤーズ』を睨み続けた・・・。

この時に皇国貴族は自分勝手が多いという噂を実感することになった

そして、それからというもの俺は貴族達とは距離の置く任務を優先してこなしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・現在

 

 

 

さきほどエルシオールに着艦した俺を迎えてくれたのはムーンエンジェル隊の少女達とマイヤーズ大佐だ。

最初に自己紹介をすることになった。

「私はミルフィーユ・桜庭です!よろしくおねがいします!」

この娘はラッキースターのパイロット。明るいと思ったのが第一印象だ。

「アタシはランファ、ランファ・フランボワーズよ。さっきは助かったわ」

この娘はカンフーファイターのパイロット。気が強そうだが、お礼を言ってくるあたりでは素直な性格なのかもしれない。

「わたくしはミント・ブラマンシュと申します。・・・いえ、わたくしは16ですわ」

この娘はトリックマスターのパイロット。・・・いきなり心を読まれた。これが噂に聞いたテレパス使い。逆に彼女は読めない性格をしている。

「あたしはフォルテ・シュトーレンさ。一応エンジェル隊隊長をやってるよ」

この人はハッピートリガーのパイロット。雰囲気でも頼りがいがありそうで、まさに隊長らしかった。

「・・・ヴァニラ・H(アッシュ)です。・・・宜しくお願いします」

この娘はハーベスターのパイロット。(人・・・だよな?)暗闇で後ろから来られたら分からなそうだ。

それぞれの紹介に「よろしく」と言って返事を返す。

だが、次の自己紹介に体が硬直することなる。

「俺はこの艦の司令をしているタクト・『マイヤーズ』だ」

「マイ・・・ヤーズ?」

2度と聞きたくなかった名前を聞いて、ついオウム返しをしてしまった。

「俺の名前がどうかしたのかい?」

「えっ?あ、別に・・・」

不思議そうにこちらを見ているマイヤーズ大佐に気付いて、つい戸惑ってしまった。気を取り直して最後の自分の自己紹介をする。

「自分は第一方面軍第337不正規機動部隊所属のブラット・スカイウェイ曹長です。マイヤーズ大佐、救助に感謝します」

人柄で忘れそうになったが目の前の人たちは一人残らず自分より階級が高い。おまけに近衛軍の正規部隊だ。

敬礼しつつ敬語で言った。

「そんなかしこまらなくていいよ。俺のことは名前で呼んでくれていい」

「・・・はぁ?」

ちょっと・・・いや、かなり信じられないことを聞いて、今度はバカみたいな声を出してしまった。

「あ、私のことはミルフィーと呼んでください」

ミルフィーユはそう言い、他のメンバーも自分の事は名前で呼べという・・・。

(なんだ、この部隊は?)

今まで出会ってきた正規部隊の常識はここでは全く通じないということに今更気付かされた。

 

 

 

 

 

格納庫では自己紹介だけして、ブリッジにて詳しい話をすることになった。

「おまえはなんでエオニア軍に追いかけられてたんだ?」

このクールダラスという副指令は司令と違って普通だ。やはりこの6人だけが特別なのだろう・・・とさっきの自問を完結させた。

「おそらく自分が艦隊旗艦を沈めたのが原因でしょう。それから追跡部隊が来ましたから」

自分の推測ですが・・・と付け加えておく。

「あの機体で艦隊を相手にしたのか?」

「はい。それが何か?」

と言って見せたが、なんで聞いてきたのか自分でもだいたい分かっている。

「さっきは聞きそびれたけど・・・あの機体はなんなんだい?」

紫のパ・・・改め、フォルテさんが口を挟んできた。

「自分の乗機です。コードネームは〈シヌイ〉。可変式機動兵器といったところです」

「皇国軍にあのような戦闘機があると聞いたこともございませんわ」

情報収集能力に優れているミントでも無理もない。ブラット自身が調べた中でも皇国でシヌイ以外の可変機は確認できなかった。

「あれをどこで手に入れたんだ?」

「・・・それは言えません」

おそらく言っても分からないだろうから・・・。

「おまえ・・・」

「レスター」

納得いかず、さらに尋問しようとするレスターをタクトが止めた。

「俺たちは無理に聞きたいわけじゃない。データによるとロストテクノロジーとかでもないみたいだし、ブラットが言ってくれるのを待つよ」

「・・・ありがとうございます。大佐」

庇ってくれたのはありがたかったが、あの『マイヤーズ』である。どうにも不信感は拭えない。

それと今の言葉でもう一つ気になることがある。

「『待つ』と言われましても、自分はこの艦にそう長くは滞在しないのですが?」

さっきの言葉では、まるでしばらく自分がしばらくここにいるという前提になっている。元々補給を受けたら艦を離れるつもりだ。

「ここを出発してどうするんだ?すでに第2方面はエオニア軍の手に落ちている」

「まさか!?」

クールダラス副指令の言葉にまた驚いた。今日は驚いてばかりだ。

少し前に本星陥落の情報は手に入れていたが、あれからこんな短時間で第2方面まで落とされているとは想定外だった。

「嘘はついてないよ。この間まで俺がいた辺境のクリオムにまでエオニア軍は侵攻してきたんだ」

目をずっと見ていたが確かに嘘はついていないようだ。

「・・・では、この艦はどこを目指しているのですか?」

「第3方面本部ロームだ。・・・」

妥当・・・というより、それしか選択肢がないのだろう。

マイヤーズ大佐が真剣な眼差しを向ける。

「率直に言う。さっきの戦闘を見て曹長ほどに力を野放しにしていられるほど、こちらに余裕はない。俺たちと一緒にロームへ目指してほしい」

「・・・」

人は目を見れば言葉の真意をある程度読むことができる。

マイヤーズ大佐の目には濁りがない。本当に俺を必要と思っていると分かる。

「分かりました。・・・けど、その前に一つ質問をいいですか?」

「なんだい?」

最後にこれを確かめなければここにいることは出来ない。

「第1方面参謀のコルト・マイヤーズ准将をご存知ですか?」

その名を聞くと、マイヤーズ大佐の表情が曇った。

「俺の兄貴だよ・・・。社会上は、ね。」

このお気楽な大佐にしては珍しく重い口調で言った。嫌いなのを全く隠そうとしていなかった。

(兄弟か・・・。でも)

二人は違う。いくら血縁とはいえ、こちらの『マイヤーズ』は信用できる。

「兄貴を知ってるのかい?」

自分を助け、地位の違いを鼻にかけない変わり者。

「いや・・・知りません」

あいつと比べれば、この常識ない変わり者の方が断然いい。

「了解です。これからよろしくお願いします『タクト』。そしてムーンエンジェル隊」

俺はタクトとしっかりとした握手をした。

 

 

 

俺はようやく皇国軍で信頼できる仲間を持てた。

 

 

 

 

 

 

後日、この艦にシヴァ皇子が乗っていると初めて聞かされ、そんな重要なことを言い忘れるタクトはやっぱりだめかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

勢いで書いた第2章。

本当はこれも含めて第1章にする予定でしたが、長すぎるので分けることにしました。

さて、この話ではオリキャラであるタクトの兄――コルトが登場しました。

設定上では間違いなく存在する彼ですが、こんな性格なのでしょか?

平和主義者と高飛車貴族の兄弟はどんな幼少時代を過ごしたのか気になるところですが、私では思いつきません(泣)

後、分からないかもしれませんが、第1章でブラットのいう、いやな上官とは彼のことです。

では、みなさん次の章も読んでくれることを望みます。

 

完成日 2006年 4月 5日

紅だった人より