GALAXY ANGEL ANOTHER HERO STORY
第三章 真の仲間への道
俺がエルシオールに合流してからすでに5日が経った。
ほとんどクロノドライブで移動しているから、俺やエンジェル隊はのんびり出来ている。でも、退屈とは思わない。
今まで一人でいることが多かったから、人がいるだけでも新鮮に感じるし、何よりこのエルシオールは普通の艦と違い様々な物がたくさんあるから面白い。
最初こそ戸惑っていたが、今では乗組員といい関係が築けてきたと思っている。
だが、午前の日課であるトレーニングも終わり、食堂でエンジェル隊のランファとミルフィーユの二人と昼食を取っていた時のことだ・・・。
「ブラット。その七味取って」
「はい、どうぞ」
ランファさんが食べているカレーはなんと辛さが千倍もあるらしい。それに七味をかけても味は変わらないと思うのは俺だけではないはず・・・。
というより味を感じることができるのだろうか?
「なによ、食べたいの?」
じっと見ていて勘違いさせたらしい。おまけに不機嫌そうだ。
「いえ・・・いいです」
実は、一昨日間違えてそれを食べた乗組員を偶然にも目撃したのだ。それはもう文章では表せないような特異な苦しみ方をしていた。
そんな光景を見た後にその原因になったものを食べたいとは思うわけがない。
でも、食事をじっと見られていると嫌だろう。それは俺が悪い。
「前々から思っていたんだけどさ」
「?」
「アンタ、そのしゃべり方どうにかなんないの?」
不機嫌の原因は食事を見ていたことではないみたいだ。
「どこかおかしいですか?」
「それよ!どうして敬語なの?」
(いや、どうしてと言われても・・・。そんなに敬語がいけないのだろうか?確か、ミントさんも敬語を使っていたと思ったが?)
「そうですよ!私のことはミルフィーと呼んでくださいと言ったじゃないですか。なんで『ミルフィーユさん』なんですか?」
分かりづらいがミルフィーユさんは少し怒っている。でも忘れたわけではない。そう言われたのはちゃんと覚えている。
「年が離れてるわけでもないんだから、その敬語はやめなさい!」
ランファさんの言うことは分かる。少なくともミルフィーユさんとは同い年だ。
「いや、階級が違うじゃないですか?自分より上の階級の方にタメ口はちょっと・・・」
けれど、長い軍属としての生活で、もうほとんど習慣化していて直すのは難しい。
「ブラットさんは私たちのこと、仲間だと思ってないんですか?」
ミルフィーユさんが潤んだ瞳を向けて言う。この世で女の子の泣き顔ほど扱いにくいものはないと思っている。
なにより『仲間』という言葉に一番堪えた。
ブラットは極力に仲間だの協力者だのは大切にするように心がけている。もちろんコルトのような形式上では仲間だが、人を見下したり貶したりする奴は仲間なんて思わないが、このエルシオールの乗組員達は奴とは違い友好的だ。
「でも、ミントさんだって敬語じゃないですか!?」
しかし、仲間とはいえ上官は上官。『親しき仲にも礼儀あり』という言葉もある。エルシオールは軍の艦だから上官に敬語を使うのは当たり前だろうに。
「あの子は誰に対しても敬語なのよ。でも、アンタは違うじゃない!」
「アルモさんやココさん・・・クレータさん達には普通に話してますよね」
「・・・」
顔から普通では出ない汗が出ているのが分かった。
(だめだ。もう逃げ道がない)
考えてみれば喋り方にそこまで執着はない。本人達が言っているのだしタメ口でいいような気もする。
(・・・あれ?俺ってこんなに感化されやすかったか?)
ここに来てまだ5日・・・。軍の規律は守ることが当たり前な俺をたった5日でここまで柔軟にするとは、エンジェル隊・・・いや、エルシオール恐るべし。
「・・・前向きに検討します」
遠まわしに断って、逃げるように食堂を後にした。
(敬語だと仲間とは思われない・・・か)
食堂を出て通路を歩きながら、先ほどのことを考える。
エンジェル隊とは共に戦わなければならない大切な戦友である。
聞いたところでは、紋章機には乗り手のテンションで性能が上下するH,A,L,Oと呼ばれるシステムが積んである。司令が彼女達のコンディションを整えても、一緒に戦っている俺が壁を作っているようではテンションを下げることになってしまう。
せっかく司令が見ず知らずの俺を信じて同行を頼んでくれても、これでは全く意味がない。
軍属として節度な態度を取るのは大事だが、それよりも仲間との信頼関係を築き生き残るのが一番大事に決まっている。
(さて、どうしたものか・・・)
いざ、敬語をやめるといっても、どうすればいいのかよく分からない。
アルモやココやクレータ達には仲間というよりオペレーターや整備員として接してるところがある。
仲間は大事にするように思ってきたが、実際仲間を持ったことはほとんどないのだ。
すると放送音が聞こえてきた。
『ドライブアウトします。担当員は持ち場に着いてください。繰り返します・・・』
(もうそんな時間か・・・)
ドライブアウト予定時間は2時であり、時計を見てもその時間だ。
食堂にいたのは1時半くらいだったから、少なくとも30分は考え事をしていたことになる。
(気分転換でもするか)
また考え事をしだしたら、今度はどれだけ歩き回ってるか分かったもんじゃない。考え事もほどほどが一番だろう。
ザザーーッ・・・。
ここはクジラルーム。
海なんて直接見たことは在っても、来たことはない。
まさか、初めて来る海がエルシオールのクジラルームになるとは思わなかった。
「う〜ん!!」
思い切り伸びをし、頬に潮風を感じる。
後でべた付くが、この海の潮風の感じと独特の香りが俺は好きだ。
しかし、何度もここを見たが、いったいエルシオールは軍艦なのか、儀礼艦なのか、レジャー施設なのか分からない。
(っと、考え事をしに来たんじゃないよな)
そう思い出し、いつもの場所であるヤシの木の木陰にあぐらを掻いて座った。
何も考えずに海の姿と音を感覚で感じ取る。
こうしていると知らずに寝てしまう。そこがこの場所を気に入っている要因だ。
だが、今回は違った。
目も瞑り、ほとんど寝る前兆までいったときに足に心地よい暖かさが乗ってきた。
(? ・・・なんだ?)
目を開けた。
そこには可愛らしい目と大きな耳があった。それは・・・。
「宇宙ウサギ?」
あぐらを掻いた足の上に宇宙ウサギが乗って、こちらを興味深そうに見ている。
「どうしたおまえ?逃げてきたのか?」
頭を撫でてやると気持ちよさそうな顔になった。その可愛いい姿に癒される。
(・・・何、宇宙ウサギに話しかけてんだ俺は?)
らしくない行動に戸惑った。
(とりあえず、コイツをクロミエの所へ届けてやろう)
宇宙ウサギを抱えて、管理室へ向かった。
「ありがとうございますブラットさん」
宇宙ウサギを抱えながら、クロミエは頭を下げた。
「さきほどから探していたのですが、見つからなくて・・・途方にくれていたんです」
「気にするな。偶然俺に所に来たから連れてきただけだ」
たいしたことをしていないのに御礼を言われると少しむず痒い。
「ところで、どうしてクジラルームにいらっしゃたんですか?」
こちらが言いづらいことを笑顔で言う。食えない奴だ。
「気分転換だよ・・・」
「悩み事ですね」
こちらの話を聞いていないのか?と思ったが、あることを思い出した。
「宇宙クジラがそう言ってますよ」
(やはり・・・。)
クロミエはどういうわけか、宇宙クジラの言ってることが分かるらしい。そして宇宙クジラは人の心を読める。その力はミントさんの能力より高く、深層心理まで読めるようだ。
「『おまえならできる。自信を持て』と励ましてくれてますよ」
内容はお見通しのようだ。もっともクロミエには言ってないようだが。
でも、嬉しかった。
(ありがとう。宇宙クジラ)
心の中でお礼を言う。すると、遠くで潮吹きが見えた。
「悩み事は解決しましたか?」
「解決はしてないが、大丈夫だ」
気分は良くなった。やはりここに来て正解だった。予定とは違ったが・・・。
「クロミエもありがとう」
「いえ、僕は何もしていませんよ」
「そうだな」
そして二人して笑った。
しかし、その時・・・。
ビーーッ!!ビーーッ!!
「警告音!?」
続いてアナウンスが入る。
『本艦前方に敵艦隊を確認。マイヤーズ司令はブリッジへ、パイロットは格納庫へお急ぎ下さい。繰り返します・・・』
(敵襲か!)
クロミエと別れ、格納庫へ走った。
安全性の低いシヌイのコックピットにパイロットスーツを纏って入り、ブラットは発進準備を行う。
いくつかボタンを押すとエンジンが機動し、〈SYSTEM ALL GREEN〉とメインモニターが表示し、準備は完了した。
そしてブリッジから通信が入る。
『敵は17隻にもなる大艦隊だ。この小惑星の多い宙域では逃げ場はない・・・難しいかもしれないが全滅される他ない』
してやられた。おそらく待ち伏せをくらったのだろう。
『ちょっと!作戦は何もないわけ!?』
ランファさんが司令に掴みかかるように言った。
『やめなよランファ。敵が多いのを司令官どのに当たったってしょうがないだろう』
それをフォルテさんがなだめている。
『けれど、フォルテさん。確かにあの数を力だけで迎撃するのは危険ですわ』
そんな中、俺はモニターの作戦宙域を見て閃いた。
すかさず、ブリッジに通信を入れる。
「司令。挟撃しましょう」
『『『えっ!?』』』
俺の言葉に何人かが驚いている。まあ、無理もないが・・・。
『・・・実現不可能』
『そうよ!こんな一本道しかない回廊でどうやってそんなことをするのよ!!』
ヴァニラさんはともかく、ランファさんの叫びは耳に響く。
『ええ〜!私は出来そうだと思うけどな・・・』
『ミルフィー!根拠もないのに言ってるんじゃない!』
この状況下でも二人の漫才は健在だ。
『二人共落ち着きな。まずは話を聞こうじゃないか』
フォルテさんのおかげでやっと場が静かになった。
『ブラット。説明してくれるかい?』
司令が改めて話を進めた。
「この回廊は小惑星に囲まれ、移動可能な範囲は一本ですが、これはS字の形をしています」
そう。このS字の最先端ずつに俺たちと敵艦隊が展開しているのだ。
「俺が真っ直ぐ小惑星帯を直進して、敵艦隊の後ろに出て何隻かを引き離しますから、紋章機は引き離せなかった艦隊を倒して下さい」
これなら17隻をいっぺんに相手にするよりはるかに楽になるだろう。
『無理ですわ!小惑星帯を進むなんて自殺行為ですわよ!?』
「時間は少々かかるでしょが、シヌイを人型にすればできます!」
これは紋章機より小型で、回避力に優れたシヌイならできる芸当だ。
『艦隊の大半がそっちに向かった場合はどうするんだい?』
「あくまで引き離すのが目的です。なんとかなります」
撃墜しろというなら無理と言えるが、この作戦はそうではない。できるはずだ。
しかし、司令は渋っているようだ。
『タクト。俺はこの作戦に賛成だ』
そんな俺に賛同してくれたのはクールダラス副指令だ。
『レスター!』
司令は副指令を睨んでその名を呼んだ。
『タクト。ブラットが大丈夫と言ってるんだ。部下を信じてやるのもおまえの務めだぞ』
『・・・わかった。この作戦で敵を迎撃する』
「ありがとうございます」
俺は敬礼して俺を言った。
『進路オールグリーン。シヌイ発進してください』
アルモの通信が入る。小惑星帯を抜けるのは時間が掛かるから、俺は紋章機より早い発進となった。
『いいかいブラット。7分で抜けるんだ。それより早くとも艦隊の前に出てしまうし、遅いと誘い切れない。時間に気をつけてくれ。・・・無茶はするなよ』
最後に司令の心配を受け、嬉しかった。やはり奴(コルト)とは違う。
「了解。シヌイ、発進する!」
アクセルを踏み込み暗い宇宙へ飛び出していった。
すぐさま小惑星帯に到着し、俺はシヌイを人型に可変させた。
それほど密集度が高いわけではないが、危険なことに変わりない。慎重に、でも素早く移動しなければ。
スピードを70%くらいに落とし、神経を集中させた。
(右上に2・・・左に4・・・正面に3・・・後4分)
迫り来る小惑星で一瞬の気も抜けない状況だが、セットしてあるタイマーをちらちら見ながら進む。
(距離は後7000・・・時間は後1分半・・・ギリギリだな)
焦るなと何度も自分に言い聞かせ、先を急いだ。
(後500、時間通りだ!)
短くも長いと思える時間だったが、やっと突破できた。
「エルシオール。こちらはシヌイ。無事突破できた、作戦を開始する」
『了解だ。こちらも戦闘に入る』
エルシオールとの通信を入れ、戦闘に入った。
前方には背を向けた敵艦隊が5隻。大型戦艦1、巡洋艦2、そして新型のミサイル艦と思われるのが2隻だ。
しかし、進路が全く変わらない。
(まだ、こちらに気付いていない?・・・それとも、侮っているのか?)
戦闘機1機で5隻相手はそう取られるかもしれない。ましてや相手は無人艦。単純な戦力差しか見えてないのだろう。
(けれど、チャンスだ!)
シヌイを戦闘機型に戻して加速をつけ、全武装の標準をミサイル艦に合わせる。
「沈め!!」
叫びながら、全武装を発射した。
シールドも張ってなかったのか、ビームやミサイル、マシンガンが吸い込ませるようにミサイル艦に命中し、すぐに爆散する。
ビリビリと爆発の振動が響くその横を高速ですり抜けていく。
味方の撃墜に気付いたのか、残りの敵艦が攻撃を開始した。ミサイル艦の追跡ミサイルが迫ってくる。
(避けきれないな。・・・なら!)
ミサイルを後ろに連れたまま、巡洋艦へ直進した。
巡洋艦の対空砲火を回避しつつも真っ直ぐ進み、衝突直前で人型に変形し進路を変えた。
急速旋回できないミサイル郡は巡洋艦へ突き刺さっていく。
「トドメだ。受け取りな!」
アサルトマシンガンをフルオートにして50発近い弾薬をプレゼントしてやった。
巡洋艦が沈黙するのを見ると、すぐさま戦闘機型へ戻り離脱する。
(のってくれるか?)
これ以上敵艦隊の射程内にいるのは危険であり、なにより当初の目的は敵を引き離すことだ。
幸い残った3隻がこちらへ向かって来る。
(よし!これでいい。・・・エンジェル隊の方は大丈夫だろうか?)
一方エルシオール前線では・・・。
『ミルフィーユいっきま〜す!』
ラッキースターのファランクスが駆逐艦に命中しさらにトドメのレーザーがエンジン部を貫いた。
『ほらほら、こんな攻撃じゃあたしは落とせないよ!』
ハッピートリガーは巡洋艦2隻相手に圧倒的な火力を注いでいた。
『ミント、頼むわよ!』
『お任せくださいランファさん』
カンフーファイターとトリックマスターはそれぞれの苦手な射程をカバーしながら、連携して数隻の艦を落としていった。
『・・・みなさん被弾した時はお知らせください』
ハーベスターは牽制攻撃をしつつ、各機の援護が取れるように均等な距離にいる。
はっきり言って、全然苦戦していなかった・・・。
そしてエルシオールブリッジでは・・・。
「敵の動きが単純すぎるな・・・」
敵艦隊を見てレスターは呟いた。
「どういうことなんだ?これじゃまるで腕試しをしているみたいだ」
タクトも不思議がっていた。敵艦隊は戦術がなさすぎるのだ。
「コンピューターが壊れているのか、それとも・・・」
「戦力を測られているのか」
おそらくこちらの可能性が高いだろう。
「マイヤーズ司令。前方の艦隊は壊滅しました」
「分かった。ミルフィーとランファはブラットの援護に向かってくれ。他のみんなはエルシオールの護衛を」
『『『了解』』』
タクトは不安を残しつつも、とりあえず目の前の問題を解決することにした。
『待たせたわねブラット』
『お待たせしました〜』
ブラットの戦闘空域に最初に到着したのはランファとミルフィーユだ。
「ランファさん、ミルフィーユさん。そちらは片付いたんですか?」
『当ったり前よ!あのくらいの敵じゃアタシの相手にならなかったわ』
どうやら作戦はうまくいったようだ。
「援護します。まずはあのミサイル艦を落としましょう。」
さっきからミサイルを撃たれてやっかいなのだ。援護が来た以上逃げる必要はない。
『遅れるんじゃないわよ』
「了解。大丈夫です」
とは言っても、シヌイのスピードはラッキースターより若干遅いくらいである。紋章機最速のカンフーファイターに遅れないわけがないが・・・。
『あーん!待ってよランファ』
もちろんラッキースターも置いてかれていた。
ミサイル艦はシヌイが牽制して攻撃を引き付けてる間に、カンフーファイターが持ち前の機動力で一気に接近し、ミサイルとアームをぶつけ撃破し、巡洋艦の方もラッキースターが苦もなく落とした。
残りは大型戦艦だけである。
「波状攻撃をします。二人とも準備を」
装甲の厚い戦艦を落とすにはこれが一番効率的だ。
『わかったわ』
『わかりました』
「では俺が先陣をきります」
もし、宇宙に空気があるのなら3機のいい加速音が聞こえただろう。
まずはシヌイがロング・エネルギーランチャーで戦艦のシールド出力を下げ、そこにラッキースターがレーザーも加わる。
『もらったわ。いっけー!アンカークロー!!』
最後に無防備の中央にカンフーファイターのアンカークローが景気よく入る。
ズドン!!
完璧に直撃し、その部分から小規模な爆発が全体に広がっていく。
『やったね。ランファ!』
ミルフィーユさんが感激な声を上げ、カンフーファイターに近づいていく。
そして俺は見逃さなかった。
爆発を続けている大型戦艦の主砲がラッキースターに向き、砲塔が光らせているのを。
「なっ・・・ミルフィー回避しろ!!!!」
俺はあらん限りの声で叫んだ。
『えっ?』
ミルフィーがモニター越しにこちらを見た。
(だめだ!回避は間に合わない!)
急いで人型に変形し、左右に持っている火器を投げ捨て、背中に回っているロング・エネルギーランチャーを構える。
トリガーを引くのと、敵戦艦の主砲が発射されるのはほぼ同時だった。
高エネルギーがラッキースターに向かって真っ直ぐ進む。
『『『ミルフィー(さん)!!』』』
司令や他のエンジェル隊も事態に気付き声を上げた。
そして、その高エネルギーの進路上にシヌイの放ったエネルギーが入る。
カッ!
まぶしい閃光が放たれた。
『ミルフィー大丈夫か!?』
閃光で機影を見失ったタクトが叫ぶ。
『はい・・・なんとか。攻撃はラッキースターのすぐ横を通り過ぎていきましたから』
『そうか・・・よかった』
タクトは安堵のため息をついた。
しかしこっちはそうはいかない。
「・・・何がよかっただ?」
『ブラットさん?』
ミルフィーユがブラットの低くなった声にこたえた。
「この・・・」
次の瞬間、ラッキースターのメインモニター一杯にブラットの顔が映った。
「大馬鹿者ーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
『ひぇい!?』
その大音量にミルフィーユは耳を塞いだ。
「戦闘宙域で油断する馬鹿がどこにいるんだ!!?」
今回は無事だったものの次も無事とは限らない。じっくり聞いてもらわなければ。
『え〜ん!ごめんなさ〜い!』
「謝ってすむ問題じゃねー!」
『やめなよブラット』
再度食い掛かろうとする俺を止めたのは例によってフォルテさんだ。
「しかし・・・」
『ミルフィーだって反省してるさ。あんまりガミガミ言うのは逆効果だよ』
(そうかもしれないけど・・・)
口には出さずにフォルテに反論する。
『反省してるよねミルフィー』
『してます』
ミルフィーユはしゅんとしている。反省はしているようだ。
「は〜・・・。わかりましたよ」
仕方なく説教はやめることにした。
『ところでブラット・・・』
ランファさんが通信を入れてきた。
「何です?」
『さっき『ミルフィー』って呼んでたわよね?』
「あ゛」
(しまったーーー!!!!!!)
頭に血が昇っていてうっかりしていた。
『『大馬鹿者』とも言っていましたわ』
今度はミントさんから通信が入る。
「あ、そ、それは・・・」
『・・・上官に対して暴言は処罰の対象になります』
「ぐっ・・・」
最後にヴァニラさんからである。
『ミルフィーにあんだけ大口たたいたんだから、これからもそうしてもらわないといけないね〜』
(フォルテさん。言葉の割に顔がにやけてますが・・・)
『と、いうことでアンタはこれから私たちに敬語禁止よ。もちろんタクトに対してもね』
『あの〜・・・。なんで俺も入ってるの?』
『わかったわね、ブラット?』
司令が入ってきたのはさり気なく無視された。
「・・・拒否権は?」
『あきらめたほうがよろしいですわよ』
(墓穴をほった・・・いや、チャンスを作ったのかな?)
「分かりました。今度から・・・」
『今からに決まってんでしょ』
「・・・分かったよ。今からタクト、ミルフィー、ランファ、ミント、ヴァニラ、フォルテ・・・さんとは普通に話すよ」
今日が、俺がエンジェル隊に認められた日となった。
無理やりだったが、結果的によかった。
そして、みな浮かれていて気付かなかった。すぐそこに無人哨戒機が飛んでいることに・・・。
遠く離れ、ここは哨戒機が発進した戦艦である。
そこには5人の男性の姿があった。
「兄貴!紋章機のデータは取ったよ」
この男性とはいえないメガネ少年が青い長髪の男性に報告をしている。
「ふむ・・・。なかなかやるようだね。僕のマイ・ハニーは」
うっとりとした声で言う。変態にしか思えないが他の4人は気にした様子もない。
「・・・所詮機械相手だ。・・・我々には遠く及ばない」
「そうさ。たとえ紋章機とはいえ、乗っているのがこの程度の奴らでは高貴な僕にかなうはずがない」
そう言ったのは赤い髪と紫髪の男性だ。
「わははは!もうすぐ強敵と会えるぜ!!」
暑苦しい声をだしたのは一番背の高い男性だ。
「それにしてもシヌイがいるとはね・・・」
青い髪の男性が1つの映像を見ながら呟く。
「ますます会いに行くのが楽しみになったよ。待っててねマイ・ハニー。ふふふ・・・」
不気味な笑い声が艦内に響いていた。