GALAXY ANGEL ANOTHER HERO STORY
第四章 因縁の傭兵達
ビュン!・・・・・・ビュン!・・・・・・ビュン!・・・。
エルシオールのトレーニングルームで風を斬る音が響き渡る。そのテンポは全く狂わず、良い音色を出している。
「422・・・423、はぁ・・・424・・・」
それと同時に聞こえるのは、数を数える声だ。
声を出している主はブラットである。
彼の趣味は剣術である。毎日1000回の素振りが日課となっており、今はその最中だ。
彼自身は特に意識して声を出しているわけではない。素振りする時声を出すなど、喋るために口を開くのと同じようなものと思っている。
剣術の達人は遠くで落ちる葉の数を感覚で数えられるというが、素振り中のブラットにはそれがよく分かる。
まるで周りの空気までもが自分の身体の一部のような感覚になり、揺らめきがあれば即座に反応できそうだ。
実際それほどのことはできないが、この感覚に触れることがブラットの見切りの極意の練習である。
(ん?)
700回ほど素振りをしたところで、左斜め後ろが変な感覚に見舞われた。
確信を持って、半回転しながら木刀を横に振る。
「うわぁ!?」
寸前で止めたところにいたのはタクトだった。今は尻餅をついている。
「危ないぞタクト。用があるなら遠くから声をかけろと言っただろ?」
前回の戦闘の時、タクトとエンジェル隊には敬語が禁止とされてしまった。
けれど、思いのほか馴染んでいるのは、やはりエンジェル隊に感化されたらしい。
「ああ、びっくりした・・・。でも、後ろから近づいたのによく気付いたな?」
「ただの感さ・・・で、なんのようだ?」
「そうだった。ミルフィーを見なかったか?」
起き上って埃を落としながら、タクトは言った。
「ミルフィー?見てないが・・・」
「そうか・・・」
「用があるならクロノ・クリスタルで呼び出せばいいだろ」
それなら早く済む。
「い、いや、たいした用事じゃないからさ」
「なに挙動不審になっているんだ?」
目線が泳いでいる。怪しいことこの上ない。
(もしかして・・・)
ここで一つの考えが浮かんだ。同時にいたずらも・・・。
「あ、ミルフィー」
「なに!?」
かまをかけると、面白いようにタクトは反応し誰もいない通路の方へ顔を向けた。
「・・・」
「・・・」
お互いの間に沈黙という名の空気が流れた。
「ふ〜ん・・・」
ギギギッ・・・。
沈黙を破って、じと目でタクトを見る。タクトはまるで油切れの機械のような音を出しながら、首を戻した。
「ミ、ミルフィーいないじゃないか・・・」
さすがはタクトだ。ここで「騙したな」とか言ったら、肯定と同じことだ。だが・・・。
(タクト。おまえは嘘が下手だったんだな・・・。)
目はこちらを見ていない、脂汗は掻いている、口は回っていない。
これが演技というのなら、彼に転職を勧めてみよう。きっと、いい三枚目俳優になれるにちがいない。
「いいんじゃないか?俺は応援『だけ』はしてやるぞ?」
相談とかは御免だ。
「べ、別に俺はミルフィーが好きなんて言ってないぞ?」
「ああ。俺もそんなことは『ひ・と・こ・と・も!』言ってない」
やはり、タクトはエルシオール司令以外できないと確信する。他のとこ(軍内部も入ります)に行ったら守秘義務とかの問題で即座にクビにされそうだ。
「・・・」
「・・・」
2度目の沈黙をしながら、タクトはゆ〜っくり足を動かし、トレーニングルームを後にした。
そして遠くで「ちくしょ〜・・・!!」と涙声で響いてきたのは、彼の名誉のため聞かなかったことにしておこう。
(この先、大丈夫か・・・?)
一人残された俺は、いろんな意味でこの旅先が不安になった。
・・・・・・そして、そのブラットの不安はより悪い方向で的中することとなる。
現在、俺以下エンジェル隊は搭乗機にて待機している。
最近待ち伏せを張られることが多いので、その対策だ。
『まもなくドライブアウトをする。みんな準備してくれ』
タクトの姿がサブモニターに映る。モニターの姿と数時間前のあの姿からは、とても同じ人物には思えない。
この数時間に何かあったのだろうか?
『ミルフィー。がんばってくれ』
『はい。タクトさん』
二人とも真っ直ぐお互いの瞳を見ている。
(あれ?二人の間に何かがある・・・そんな気がするのはなぜだ?)
「ランファ。あの二人何かあったのか?」
とりあえず、一番こういうことの詳しそうなランファに聞いてみる。
『あ〜・・・あの二人ね・・・』
彼女にしては何だか歯切れが悪い。
『お聞きしないほうがよろしいですわよ』
かわりの答えたのはミントだ。
「えっ?なぜ?」
『まったく・・・あの二人はまだやってるのかい』
『・・・恋は盲目』
フォルテさんにヴァニラまで意味深なことを言っている。何か知ってるようだ。
(ん?ということは・・・)
当事者二人とエンジェル隊は知っていて・・・。
(知らないの・・・俺だけ?)
どうしても知りたいというわけではないが、自分だけ知らないのも何かイヤだった。
「なあ、いったい何が・・・」
『おまえら!戦闘配備中に私語は慎め!』
怒りのボルテージが上がり切った副指令が怒鳴っている。これ以上の私語は危険だ。
(まあ、いいか)
副指令の逆鱗に触れてまで聞きたい話題ではない。
ようやく騒ぎが収まり、ちょうどドライブアウトの時間となった。
『ドライブアウトします。5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・』
眩い光が走り、ドライブアウトが完了する。
『レ、レーダーに機影があります。でも、これって・・・?』
やはり、今回も待ち伏せがあったようだ。しかし、なんだがココの様子がおかしい。
『どうした!?鮮明に報告しろ』
『それが、機影数が1つしか見当たりません』
『そんなわけないだろ!索敵急げ!』
(たった一隻の大胆不敵な待ち伏せ・・・この無謀さ、まさかあいつらか・・・?)
ブリッジの通信を聞きながら、ブラットは思い出す。
それはたった2ヶ月前のことだ。
・・・2ヶ月前
・・・第一方面本部・惑星プレーリー軍事衛星『ムース』
「管制室。こちら第337不正規機動部隊。まもなく発進します」
当時、俺は補給と任務授与のため本部に立ち寄り、今まさに出航する時だった。
『了解だ。・・・ところで曹長、あんまりうちの参謀(コルト・マイヤーズ)を刺激するな。こっちは堪ったもんじゃないんだぞ?』
「管制官。それは参謀に言ってくれ」
直接は会わなかったが、先の任務でマフィアボスの殺害をせず、逮捕してしまったのが気に入らなかったらしい。
降伏したから仕方なく逮捕したと、ちゃんと報告書に書いただろうに。
『それはそうだが・・・おっと、まもなくケルベロスが入港する。曹長は早めに出たほうがいいぞ?』
「ヘル・ハウンズか・・・了解。時間を10分繰り上げる」
以前、一度だけヘル・ハウンズ隊と共同戦線をとったことがある。あいつら確かに腕はいいのだが、やりたい放題で目標の海賊団とそいつらのいた貴重な衛星を完全に破壊しやがった。
他にも大量に問題を起こしているらしく、今ではデブリ帯のごみ掃除などにまわされてると聞いている。
それはともかく、寄航すると一騒動が起こるだろう。ここは、早めに出たほうがよさそうだ。
『なんだ?ケルベロスから戦闘機が発進、した・・・ぞ・・・』
突然雑音が聞こえ、管制室との通信が途絶えた。
「管制室、どうしたんだ?」
通信を送るが、返事が返ってこない。
疑問を考える前に答えが来た。
ドゴン!!
激しい爆音が響き、衛星全体が揺れた。
(爆発!?攻撃を受けている!?)
どこからとか考える前に高速輸送船を緊急出航させた。
港から滑り出た瞬間、今までいた港口から火が噴出した。
付近には俺と同じく急いで出航した軍艦が見える。
(攻撃はどこから・・・)
身の安全を確保してから、戦況を見る。しかし、レーダーには味方の反応以外していない。
(そういえばさっき・・・)
管制室から最後に聞こえた通信を思い出した。
―――『なんだ?ケルベロスから戦闘機が発進、した・・・ぞ・・・』
(まさか・・・!)
レーダーでそれらを探すと予想は核心に変わった。
『その様・・・。美しくないな』
シルス高機動戦闘機を駆るヘル・ハウンズ隊リーダーのカミュ・O・ラフロイグは逃げ惑う駆逐艦の姿にひどい悪寒を抱いた。それはとても美しくない光景だったから・・・。
『せめて・・・最後は美しく散らせてあげよう!』
トリガーを引く指はなんの躊躇いもない。シルスの攻撃をまともに受けた駆逐艦は宇宙で花火のごとく爆発した。
『どこかに強い奴はいないのかー!!!』
編隊2番機であるギネス・スタウトは迎撃に来た戦闘機に対して無駄なほど過剰な攻撃を浴びせて落とした。彼を楽しませるパイロットはまだいない・・・。
『逃げるなんて許さないよ』
リセルヴァ・キアンティの相手はただの民間船だ。しかし、彼に相手に慈悲を送るなんてことはしない。彼にとって先祖を陥れたトランスバールは誰であろうと敵なのだ。
民間船に標準が合わさる・・・。
『・・・つまらん』
編隊4番機のレッド・アイには衛星の対空砲火が尽きることなく降り注いでいる。けれど、そんな単純な攻撃では彼にも彼の闘争心にも当たらない。
それでも彼は攻撃はやめない。腕を鈍らせないように・・・。
『なんでオイラはこんなのが相手なんだよ〜!』
文句ばっかり言っているのは編隊5番機のベルモット・マティンだ。さっきから港を潰しているのは彼なのだ。すでに数百の命を奪っているが、彼はまだ楽しくない。
見たこともない戦闘機だったが、通信から聞こえてくるのは間違いなく彼らだった。
ブラットは輸送船を自動制御にして宙域から逃がし、シヌイでムースへ戻った。
そして、全周波数で通信を開く。
「おまえら!!」
叫ぶと5機の戦闘機はまっすぐこちらに向かってきた。同時に全機から攻撃が放たれる。
「くっ!?」
5方向からの攻撃を全て紙一重で回避する。
『なかなかやるじゃないか。君は確か・・・』
攻撃を続けつつカミュは通信を入れてきた。
「ブラットだ!」
『ついに見つけたぜ!!強い奴を!!!!!』
ギネスはほとんど体当たりに近い戦法だ。単体なら問題ないが複数相手ではやっかいだ。
『・・・落ちろ』
『庶民ごときが!』
『ひゃっほ〜い』
全員話を聞かない上に攻撃もやめない。めちゃくちゃな奴らだが腕はいいのだ。回避するだけで精一杯だ。
説得は無理だろうが・・・。
「こんなことをして・・・どうなるか分かってるのか!?」
本部が壊滅したとなれば、近衛軍が動く。
「たった5人で反乱など!」
『反乱じゃないさ』
やっと答えてくれたのはカミュだ。
『革命さ』
(なにを・・・言ってるんだ?)
わけが分からない。本当に革命ができると思っているのか?
『・・・それがエオニアの計画だ』
「エオ・・・ニア?」
レッドが言ったその名前はどこかで聞いた名だ・・・。それよりもこいつらは5人だけじゃないのか?
『見るがいい。僕たちの美しい艦隊を』
カミュがバラを持った手を上げると同時に複数のドライブアウト反応がする。
見たことがある巡洋艦や駆逐艦、見たことがない戦艦が大量に表れる。
それらは全て闇にも似た黒い塗装をしていた。
『あっははは!どうだ〜驚いただろう?』
ベルモットが人をバカにしたように言ったが、それが気にならないほど艦隊は圧倒的だった。
『・・・ふむ。そろそろ時間だな、戻るぞ』
『次は落としてやる!!それまで待ってろよ!!』
『・・・生きるも死ぬも己しだいだ』
『命拾いしたようだな』
『生きてれば、また戦ってやるよ』
好き勝手言い、5機は母艦へと戻っていった。
その後、残った友軍船を逃がすためヘル・ハウンズを追いかけることもできず、先遣艦隊の旗艦クラスを3隻落とし戦線を離脱した。
そしてムースはプレーリーに落ち、第一方面軍本部は壊滅した。
それから2ヶ月・・・。
そいつらは、再び目の前に立ちふさがろうとしていた。