GALAXY ANGEL  ANOTHER HERO STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六章 閃光がはしる時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラットの目の前・・・いや、周囲には星の数ほどの赤いきらめきが見える。

星の数はいいすぎかもしれないが、少なくとも目算できない数の黒い艦隊に囲まれているのだ。

(後ろには抜かせない!)

ブラットは操縦桿を強く握り、アクセルを強く踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・これより時間を戻ること3時間前のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はクジラルームの海の中にいた。なぜか服を着たままで・・・。

(なぜだ?)

 

もうすぐ、第3方面軍と合流できるから息抜きにいつも通りに木の木陰にいただけだ。いつも通り昼寝に来ただけだった。

 

ゴゴゴゴゴッ・・・!

 

するとなにやら聞きなれない音が聞こえてきて、目を開けた。

海から黒い物が向かってくる。

宇宙クジラだ。それは分かっているから問題ない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・!!

 

問題なのはそれと一緒に来る大量の水の方だ。・・・と気付くのが遅かった。

「やばっ!! ・・・ごぽぽぽぽ・・・!!!」

 

結果。俺は津波にさらわれて、今に至る。

水を吸って重くなった服にてこずりながらも、やっと海岸に戻ってこれた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

水泳は全身を使うから体力も使う。おまけに服という重り付だ。息が整うのに時間が掛かった。

「・・・大丈夫ですか」

膝に手をつき下を向いていると、管理室の方からヴァニラがやって来た。

「ああ・・・ふぅ。・・・なんとかな」

「・・・どうぞ」

息を整えて平気と言うと、ヴァニラがタオルを差し出してくれた。

「ありがとう。しかし、ひどい目にあったよ」

「今日は、動物達の予防接種の日です」

「?」

最初はヴァニラの言っている意味がよく分からなかったがピンときた。

「もしかして・・・宇宙クジラはそれから?」

「はい・・・逃げられてしまいブラットさんの方へ・・・」

あんなに大きな生物でも注射は苦手ということを初めて知った。それは今後なんの役にも立たないとは思うが・・・。

「・・・ブラットさん。早く着替えないと風邪を引きます」

「分かってるよ。・・・タオルありがとな」

「・・・いえ」

少し照れていたようなヴァニラと分かれて、俺はクジラルームを後にした。

 

 

 

 

「ブラット。ちょうどよかった。今は暇かい?」

着替え終わって部屋から出たところでフォルテさんに声をかけられた。

「暇ですけど」

なんの用ですか?と答えて用件を聞く。

「じゃあつきあいな」

そういってフォルテさんは俺を引きずっていく。

「ちょっとフォルテさん。引っ張らないでくださいよ!」

「男が細かいこと気にするんじゃないよ」

「これは細かくないです!」

結局諦めて引きずられながら、今日はよく流される一日だと思った。

 

 

 

 

そうして連れてこられたのが格納庫だった。

「クレータ。連れてきたよ」

「はい。ありがとうございますフォルテさん」

会話からすると、どうやらクレータ班長が俺に用があるらしい

「どうした?」

「シヌイについてなんですが・・・」

クレータそう言い手元のモニターを指す。そこにはシヌイの解析図が表示されている。

「さきほど取り替えた推進剤をシヌイのシステムと合わせてください」

基本的にシヌイのメインシステムはブラットが自分で調整し、最適化させるようにしている。その方がどんな調整をした後でも覚えやすいのだ。

「分かった。差異はどのくらいで?」

「以前の0,7%増しです」

コックピットに入り、シヌイのシステムだけ起動させて調整を始める。

ピッ・・・ピピッ・・・パシュ!

しばらく電子音がリンと響いていたが、ハッチの開く音で視線を正面に向ける。

「タクト?どうしたんだ?」

「大したことじゃないよ。・・・そのままで話せるかい?」

「大丈夫だ」

システム調整を続けながらタクトの話に耳を傾ける。

「この前の・・・ヘル・ハウンズとの戦いの時、何かあったのか?」

ピタッっと俺は指の動きを止めた。

「・・・何かってなんだ?」

「とぼけるなよ。・・・分かっているんだろ」

本当にタクトは鋭い時は鋭い。何を根拠に言っているかは分からないが、核心があるのだろう。

「あの時の君の反応速度ははっきりいってランファより早い。それも比べ物にならないくらい」

あの時、通信は切っていたから証拠があるわけではない。誤魔化せるかもしれないが・・・。今のタクトには有無を言わせぬものがある。

(どうするか・・・)

できればタクト達に『アレ』を知られたくはない。だが、きっといつか『アレ』が出る時がくるだろう。

「ブラット、君はいったい・・・」

ビー!!・・・ビー!!

核心に迫るタクトの言葉は警告音にかき消された。

 

 

 

 

「それで今回の敵の数はいくつです?」

調整が済んで間もなく、エルシオールは第一戦闘配備に入っていた。デブリ帯を抜けたあたりで敵艦隊がドライブアウトしてきたのだ。

『7隻だ。もうすぐローム星系だっていうのに・・・敵もごくろうだね』

『おまえとは大違いだな。おまえも敵を見習ってまじめに仕事しろ』

『はいはい・・・。みんな準備はできてるかい?』

タクトは全員から『準備完了』と通信が帰ってくるのを待ってから『全機発進』と号令した。

 

 

 

 

『ずいぶんあっけ無かったわね』

敵を全滅させた後、ランファから愚痴の通信がはいった。たった7隻しかいなかったのだから物足りないのだろう。

けれど、確かにあっけ無さ過ぎる。おそらく・・・。

「フォルテさん。どう思います?」

『あんたも気付いたかい。ミントは?』

『はい。おそらくお二人の考えどおりですわ』

俺以外に二人も気付いている。ならほぼ間違いない。

『三人ともどうしたんですか?』

そんな俺たちにミルフィーは訳が分からないといった様子だ。

「さっきの艦隊・・・ほとんど駆逐艦で形成されていた。しかも攻撃は最初以外ほとんどしてきていないで、後は回避行動ばかりとっていた」

『つまりなんなのよ!?』

「それは・・・」

『全機この宙域を離脱しろ!!今すぐだ!!』

ランファに答えるより先に副指令から怒鳴り声で通信が入った。

『えっ?なんなんですか?』

「つまりなミルフィー」

ブリッジも気付いたがもう遅いだろう。

それを示すかのようにレーダーにドライブアウト反応が無数に現れる。

「敵の罠に掛かったってことだよ」

モニターには不気味な赤い点滅が無数に写っていた。

 

 

 

 

敵艦隊にはシェリーという指揮官が乗っていた。

確か、エオニアが演説した時に隣にいた女だったはずだ。つまりはエオニア軍でも相当な地位に就いている人物である。

しかし、この状況ではそんなことはどうでもよかった。

「くっ!なんて数だ!」

ブラットの目の前・・・いや、周囲には星の数ほどの赤いきらめきが見える。

星の数はいいすぎかもしれないが、少なくとも目算できない数の黒い艦隊に囲まれているのだ。

(後ろには抜かせない!)

ブラットは操縦桿を強く握り、アクセルを強く踏み込んだ。バーニアが勢いよく噴出し、シヌイは加速した。

 

シヌイが射程に入る前に敵艦隊は攻撃を開始する。射程の違いは仕方ないが、数が圧倒的すぎる。

ミサイルやレーザーが文字通り十字方向から降り注いでくる。

正直、敵を射程に捉えるどころではない。回避が精一杯だ。

「タクト、エルシオールは敵を突破できそうか!?」

さっきから動きの鈍いエルシオールへ通信を入れる。

『もう少し辛抱してくれ!今、エンジェル隊が艦隊右舷を突破しつつある!』

「分かっているが・・・これじゃ長くは持たないぞ!?」

紙一重で敵艦主砲をかわしつつ、ミサイルを発射するが、敵のシールドに阻まれ直撃しない。

集中砲火を浴びせなければ、シヌイでは駆逐艦すら落とせない。

『きゃあーー!!』

アルモの声と同時に後ろで閃光が見えた。エルシオールに攻撃が命中したのだ。

『くっ・・・被弾箇所の隔壁閉鎖!砲撃手、敵を近づけるな!』

副指令の声が慌てたものとなっている。それが今の緊迫を物語っている

(やばいな・・・どうする?)

援護向かいたいが、俺が動けば今抑えている敵がエルシオールに接近させてしまう。

人型に変形してビームやマシンガンを連射するが、撃墜には至らない。

(動く? ・・・それともこのままか?)

俺の中でどんどんと焦りが募りはじめる。

―――そして焦りは俺の視界を鈍くする。

なんとか突撃艦にダメージを与えて、トドメを刺すためロング・エネルギーランチャーを構えた。

すると、上方からのレーザーがランチャーに直撃した。

「しまった!」

撃墜に気を捉えすぎていて気付けなかった。

急いで投げ捨てるが、間に合わずにランチャーはシヌイのすぐそばで爆発し、衝撃が機体に伝わる。

強い衝撃でシヌイの体勢が崩れた。

 

 

 

 

・・・そして、見えた。

 

 

 

 

・・・敵艦の主砲が全くズレもせずに自分に向かってくるのが。

 

 

 

 

(直撃?)

 

 

 

 

・・・破壊の光が自分に近づいてくるのがゆっくり見える。

 

 

 

 

(死ぬ?)

 

 

 

 

・・・『ドクン!』

 

 

 

 

・・・向かってくる死の恐怖に心臓が大きく跳ねる。

 

 

 

 

・・・『ドクン!』・・・『ドクン!!』

 

 

 

 

(身体が熱い)

 

 

 

 

・・・何度か感じたことがある、死の感覚が身体に広がる。

 

 

 

 

・・・『ドクン!』・・・『ドクン!!』・・・『ドクン!!!』

 

 

 

 

・・・そして・・・。

 

 

 

 

・・・光が見え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・戦場に一つの閃光がきらめいた。