GALAXY ANGEL  ANOTHER HERO STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七章 目覚める狩人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場に閃光がはしる直前・・・。

 

 

 

・・・『ドクン!』・・・『ドクン!!』・・・『ドクン!!!』

 

 

 

ブラットは身体に広がる熱と死の感覚を感じていた。

(熱い・・・熱い・・・熱い)

その熱はどんどん上昇していく。

(熱い・・・熱い・・・熱い・・・熱い・・・熱い)

だが、意識が持っていかれそうな熱の中、別の心配がよぎる。

(やばい・・・今度は・・・抑えきれない・・・)

破壊の光を見つつ、死の恐怖よりも強い感覚が広がる。

(今度は・・・『アレ』が・・・出る)

そこまで考えると、体中の熱がある一点から冷えていく。

(冷たい・・・目が・・・冷たい)

身体の熱と反比例して目だけが冷たい。

(もう・・・無理だ)

目を一度閉じ、再び見開く。

 

 

 

 

そこには・・・見事なまでの・・・氷のような・・・『青い瞳』があった。

 

 

 

 

「ブラット、避けるんだ!!」

モニターでシヌイの様子を見ていたタクトが叫んだ。

それも虚しく、シヌイに攻撃が当たる。

シヌイが爆発する『はず』だった。

 

しかし・・・

 

爆発したのは攻撃した敵艦の方だった。

「なに!?」

正直、目を疑った。あの体勢からシヌイが驚異的な反応で回避と反撃を行ったのだ。

『ふふふ・・・あははははは!!』

そしてシヌイの通信回線からは低く汚らしい笑いが聞こえてきた。

声は似ているが、明らかにブラットではない。

「おまえは誰だ!?」

『こいつら・・・ザコばっかりじゃねーか。何てこずってんだ?』

質問には答えないが、またも同じような汚い言葉が聞こえてくる。まるで不良のような口調だ。

「おまえは誰なんだ!!?」

今度は少し怒鳴りながら言った。

『俺はブラットさ。ちゃんと顔見てみろよ、タクト』

メインモニターにブラットの顔が表示される。それを見た瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。

ブラットの瞳が翡翠からサファイアのような青い色に変わっていたからだ。

しかし、それだけではない。問題はその眼光の鋭さだった。まるで見るもの全てに敗北感を味あわせる、突き刺すようなものだったのだ。

『まあいい。さっそく殺るとするか。おめーら邪魔すんなよ!』

そう言ってシヌイの通信は切れた。

「タクト・・・あれはブラットなのか?」

呆然としてしまったブリッジでレスターが最初にしゃべり始めた。

「違う・・・と思う」

いくらなんでも雰囲気が違いすぎる。

「じゃあ・・・あいつはいったい誰なんだ!」

戦場を指差すレスターの声がブリッジに響いた。

 

 

 

 

ブラット(?)は敵艦隊の弾幕を全く物ともせず、堂々と敵艦隊に直進している。

間隔が5mほどしかないミサイル群をかわしているのは神技に近い。

「死ね! おまえらーー!!!」

叫びながらビームを乱射しているが、その動きにも無駄が無い。

7発のビームで7隻の艦が撃墜する。

 

 

 

 

その光景を一番驚いて見ていたのが、エオニア軍エルシオール追撃艦隊司令のシェリー・ブリストルだ。

(あの機体・・・急にどうしたと言うの?)

つい先ほどまで手も足も出なかったはず機が一撃必殺でもない攻撃で艦隊を薙ぎ払うように落としている。

(なぜ、たったあれだけの攻撃で我が艦艇を落とせるのかしら?)

強敵と認識した瞬間、彼女はその分析と対応を始める。今までの生活で付いた癖だった。

(なるほど・・・)

たった数秒見ていただけだが、彼女にはそれだけで十分だ。

シヌイが攻撃しているのは艦のシールド発生装置と装置の間・・・つまり、事実上シールドが極端に弱くなっている場所だ。

普通の艦はいくつかのシールド発生装置を使ってシールドを発生させ時機を覆っている。そのため、どうしてもその繋ぎ目は弱くなってしまうのだ。

しかし、エオニア艦艇のシールド発生装置はもっと複数ある。それに当てるには針の穴を通すが如くの命中精度が必要である。

ヘル・ハウンズ隊がたった一機にやられたというのは本当だったようだ。

(でも・・・どこまでやれるのかしらね)

一騎当千の力があるとはいえこの数の艦隊からエルシオールを守りきるのは不可能に近いだろう。

予定は狂ったが、シェリーは勝機を確信したままだった。

 

 

 

 

シェリーは1つだけ見逃していたものがある。

本来のブラット(?)の最大の能力は射撃力ではなく、その目による視野の広さと空間認識力と動体視力である。

彼は自分の目の能力を『スローモーション・アイ』と呼んでいる。その名の通り、彼が見えているものは全てゆっくりである。

この力があってこそ、高速移動しながらの必中射撃と完全回避が可能となっている。

 

 

 

 

「遅いし、詰めが甘〜よ」

ブラット(?)10隻以上の艦隊の攻撃を、まるで何とでもないといった感じで、余裕でよけピンポイントにシールドの間への攻撃で4隻落とす。

「本当にザコしかいねーのかよ」

口では退屈そうだが、シヌイの動きは相変わらずであり、今度はビームサーベルで大型戦艦を八つ裂きにしていた。

すでに敵艦隊の14%は彼に落とされている。数でいうなら20以上だ。

しかし、問題もあった。

さっきからブラット(?)はエルシオールの援護を全くしていないのである。

 

 

 

 

エルシオールの被害はすでに危険なレベルに達しようとしていた。

「エンジン部熱量がレットゾーンです! 後、一撃でも当たったら停止します!!」

被害を伝えるアルモの声はすでに悲鳴だ。

「4番機が敵巡洋艦を撃墜! しかし後方から3隻、いえ4隻来ます!!」

ココもいつものような冷静さがなく、追い詰められているようだ。

「ヴァニラ、エルシオールの修理を! ミントはヴァニラの援護を頼む!」

『了解しました』

『分かりましたわ』

タクトは命令を出しながら袖で汗を拭う。シヌイが艦隊の3割近くを一機で相手にしているが、それでも間に合わない。

『タクト、修理して! 弾薬ももうないわ!!』

『タクトさん、あたしもです!』

紋章機の被害も相当なものだ。カンフーファイターに補給をさせ、ラッキースターはぎりぎりまで攻撃するように命じる。

「各砲座、1隻でもいい! 敵を落とせ!!」

レスターも砲手相手に怒鳴っているが、今の状態ではまともに動く火器が少なすぎた。

「タクト、やばいぞ!! どうするんだ!!?」

「アルモ、第三方面軍への連絡は!?」

「会敵した時からしていますが・・・未だ返信が来ません!」

まさに絶体絶命な状況だ。

『こちら4番機!タクト、ブラットを呼び戻しておくれ!何があったか知らないけど、今は全機でエルシオールの援護をしないと!』

どうやら失念していたようだ。目の前のことに気を取られてシヌイのことを忘れかけていた。

「ブラット、戻ってくれ!! エルシオールの援護を頼む!!」

『やだね』

あまりにも早い返答と内容にタクトは耳を疑った。

「君が来ないとエルシオールがもたないんだ!」

『そんなことは知らねーな。俺がおまえを助けてやる義理なんかねーぜ』

やはりこのブラットはブラットではない。彼なら身を使ってでも自分達を守ろうとするだろうが、こいつにはそんな概念がない。

『だからおまえらは勝手・・・に・・・ぐっ!』

「?」

今まで強気な顔だったブラットが苦痛に歪んだ。

 

 

 

 

ブラットは両手で頭をおさえこむ。

―――〈守るんだ・・・!〉

頭の中に響く声がひどく痛む。

「くそ! いいじゃねーかあんな奴ら!!」

誰でもない自分の中に向かって叫んだ。

―――〈おまえには任せておけない!〉

「分かったよ、分かったからもう叫ぶな! 頭に響く・・・」

ブラットはゆっくり目を閉じる。

次に目を開いた時には瞳の色は翡翠色に戻っていた。

 

 

 

 

「敵突撃艦、エンジェル隊を突破してきます!!」

命令を無視続けるブラットを諦めて、エンジェル隊のみで敵艦隊を迎撃していたが、ついに1隻突破されてしまった。

「迎撃しろ!! エンジン部を撃たせるな!!」

レスターの命令と同時にエルシオールの砲が一斉に火を噴くが、敵の進行を止めるほどの力も無い。

「だめです! 敵艦の熱量上昇・・・攻撃きます!」

ロックオンの警告音がブリッジに緊張の空気を与える。

「回避・・・いや、エネルギーをシールドへ集中しろ!」

「シールド出力上がりません・・・攻撃直撃します!」

攻撃が来る・・・タクトは手を握り締めながら敵艦を見た。

―――『エルシオールはやらせない!』

聞きなれた声がしたとタクトが気付いたのとほぼ同時に敵艦の砲が火を噴く。

攻撃がエルシオールへ当たる直前にシヌイがその間に入った。

『ぐあああ!!』

シヌイの左腕・左脚・左翼を吹き飛ばし、攻撃はエルシオールから逸れていった。

 

 

 

 

エルシオールの無事を見て安心したが、シヌイは中破してしまった。

(やばい・・今度はさっきと違う意味でやばい)

衝撃でブラット自身に破片が突き刺さり、無重力のコックピットに大量の血が浮遊している。

(敵が・・・まだ・・・たくさんいる・・・の・に・・な・・・)

遠ざかる意識の中で、浮遊した血の向こう側に大量のドライブアウトが見えた気がした。

 

 

 

 

ブラットの意識はそこで途切れた。