GALAXY ANGEL ANOTHER HERO STORY
第十章 破滅のテクノロジー
「ミント頼む!」
『分かりましたわ。援護いたします!』
ブラットとミントはそれぞれの機体の性能を活かした連携攻撃を大型戦艦に行っていた。
敵艦をトリックマスターの攻撃が揺さ振り、接近しているシヌイに標準を合わせられないようにしている。対空砲火は絶えずにシヌイを攻撃しているが、コンピューター制御の艦では標準が合わなければ牽制以外の意味を持てず、また遠距離射撃をしているトリックマスターには主砲やミサイルは当たる前に回避されてしまい、両機に決定的なダメージを与えられぬままシヌイがそのエンジン部をビームで貫き、墜ちていった。
『お見事ですわ』
「いや、ミントの援護があったからだよ。次は・・・」
ブラットはレーダーを見るが、この宙域は紋章機の介入で敵が減り友軍が押している。援護も必要なさそうだった。
「タクト、どうする? 味方の援護に回ろうか?」
『そうだな・・・敵も減ったし、この宙域は友軍に任せよう。みんなはエルシオールまで後退してくれ。』
「分かった」
ブラットの後にエンジェル隊がそれぞれ返事をして、シヌイに続くように全ての紋章機がエルシオールへ戻っていった。
『みんな、ちょいと厄介なことになったよ』
帰還途中で編隊最後尾にいたフォルテが通信を送ってきた。
『フォルテさん、どうかしたんですか?』
フォルテの声がいつと違う。それを不思議そうにミルフィーユは返した。
『敵が物凄いスピードでこちらに向かってくるよ。・・・4、いや5機だ』
5機の高速移動物体と聞いて、ブラットは眉を小さく動かした。
「またあいつらだな・・・」
ブラットもまた低い声で呟き、時機の進路を接近してくる物体に向けた。
『あっ! ブラット待ちなさいよ!』
エンジェル隊もまた、遅れながらもそれに続いた。
5機の大型戦闘機はブラットの予想通りの部隊の連中だった。
『生きていたようだね・・・ブラット。シェリー様の艦隊が君を倒したと聞いていたんだけどね・・・』
『今日は!! お前を墜としてやるぜぇぇぇーー!!!』
『前回は満足に戦ってなかったからね。高貴な僕は、ただの傭兵なんかよりずっと強いことを証明してみせよう』
『・・・我々は新たな力を得た。・・・もう、お前は勝てない』
『そうだぜ! オイラ達の紋章機でそのヘンテコな戦闘機をぶっ壊してやるよ!』
通信の声は間違いなくヘル・ハウンズ達の物だった。
しつこいと思う前に奴らの機体にブラットは驚いた。
「その機体・・・紋章機なのか!?」
そのフォルムはエンジェル隊の紋章機と酷似している。同系統機とは思えないが、それがまた不気味だった。
『・・・滅びる者に、教える必要はない』
そのレッドの言葉をかわきりにブラットとヘル・ハウンズの3度目の戦いが始まった。
ブラットは焦っていた。
今回は前回と違って全機が自分に向かって攻撃を仕掛けてくる。まるで、最初の戦闘の再現だ。
「くそ! さすがに5機相手だと・・・」
それだけなら、まだ対応できたが、この偽紋章機の性能は本物にも負けていないほど高いものだった。
『所詮傭兵風情はこんなものか・・・これなら前回倒せたかもしれないな』
リセルヴァに『元々お前らも傭兵だろ!』と言い返してやりたかったが、その暇もあまりない。
技量はなんとかこちらが上だが、性能と数の差の前では勝てない。
「ちっ!」
ビームで牽制し、ブラットはシヌイを戦闘機に戻して、離脱した。
『逃げるな! 俺と戦えぇぇぇーーー!!』
得意の突撃戦法を駆使したギネス機が突貫してくる。今回もレーザーだけしか撃ってこないが、後続の4機がミサイルを撃ってはそれも意味はない。
大量の艦の残骸が小規模なデブリと化していたので、それを利用してなんとか直撃は避けられた。
『美しくないな・・・こんな君に倒されたなんて・・・僕の美学が許せないよ』
カミュの言葉だけ聞くなら冷静そのものだが、口調は酷く冷たくて、恐ろしいほどだった。
それほど、逃げの一手を使うシヌイが滑稽に見えるのだろう。
しかし、どうやら移動しすぎたらしい。シヌイは小デブリを飛び出し、障害物のない空間へ出てしまった。
ヘル・ハウンズの全員もシヌイを追って、デブリを飛び出す。今回は以前と違って油断もしていない。確実にシヌイを墜とせると全員が踏んだ。
だが・・・
「掛かったな!」
ブラットの不敵な笑みとレーダーの警告音が確信を壊した。
『ブラット、ご苦労さん』
『選り取りみどりですわ』
『いっきま〜す!』
デブリ出口で待ち構えていたラッキースター、トリックマスター、ハッピートリガーの必殺技がそれぞれ炸裂した。
実はヘル・ハウンズと会敵する前に、ブラットは彼らが自分を狙ってくることを予想ずみだったので、自らを囮としてデブリでエンジェル隊の動きをうまく隠し、出てきたところを狙い撃ちする・・・という作戦を立てていた。
ちょっと頭の切れる者がいれば見破れそうなものだが、この部隊にはいないだろうという若干の賭けが上手くいった。
『ハイパーキャノン!!』
『しまった!!』
『うひゃ〜!!おちるおちる〜!!!』
カミュ機とベルモット機はハイパーキャノンの直撃を受け・・・。
『かわせるもんなら、かわしてみな!!』
『うおぉぉぉーー!! この俺がぁぁーー!!!!』
『・・・避けられんか』
ギネス機とレッド機は大量のミサイルの波に飲み込まれていった。
『そんな浅い戦略で、この僕は倒せ・・・うわぁ!?』
『それでもあなたぐらいでしたら、倒せますわよ』
唯一その両方を回避したリセルヴァ機もフライヤーのプラズマ砲をオールレンジから撃たれボロボロにされた。
圧倒的な火力を受けながらも、ヘル・ハウンズ隊は戦線を離脱していく。誰も撃墜していないとは悪運が強い奴らだ。
すると離脱中のヘル・ハウンズから通信が入ってきた。
『おのれ、ブラット! 漢なら、なぜ正々堂々勝負しない!!』
「それならおまえらも1対1で来い! 1対5のどこが正々堂々だ!」
どうも根本的に正々堂々の意味がわかっていないらしい。さしずめ戦略を練らない単調な戦闘の事だと思っているんだろう。
『ふ、ふん! 戦略を張らなければ僕達を倒せないじゃないか! なんて卑怯な!』
『さっき、『そんな浅い戦略で』・・・とか言ってたような・・・?』
『ぐっ・・・』
タクトのツッコミで、リセルヴァが押し黙る。
この部隊思ったより・・・いや、思った通り馬鹿が多いと思う。
『・・・我々は負けない。・・・もうすぐ黒き絶望がお前たちを滅ぼす。・・・おまえらが死なねば我々が勝者だ』
レッドが意味有りげな言葉を残し、ヘル・ハウンズはファーゴの空域を離脱していった。
『黒き絶望? ・・・何のことだ?』
『それが俺達を滅ぼすか・・・。あの自信・・・ハッタリとも思えんが・・・』
タクトとレスターが腕を組み直して考え込む。
その時、エルシオールに通信が入ったようだ。アルモが2,3回受け答えしてタクトに振り返る。
『司令、右舷友軍艦隊から電文です。『エルシオールとエンジェル隊はファーゴを護衛し、シヌイは当艦隊指揮下に入れ。艦隊司令コルト・マイヤーズ准将』以上です』
『あれ・・・兄さんの艦隊だったのか』
タクトが目を細める。嫌悪しているのを必死に抑えているように見える。
「タクト。あの艦隊を誰が指揮していても、命令は命令だ。俺は行く」
もちろんブラットも本心で言っているのではないとタクトも分かってはいるが、軍とはそういうところだ。
『分かった。また後で』
「了解。それじゃ」
ブラットはエルシオールと別れ、艦隊に向かった。
右舷の戦闘も皇国軍が有利に進めていた。
ブラットやタクトにあれだけ嫌われていたコルト参謀だが、意外なことにその指揮能力は大したものだった。
伊達にあの若さで第一方面軍No,2の参謀に上り詰めただけのことはある。
そしてこの戦闘終了の暁には、その功績を持って自身をシヴァ皇子に売り込むつもりだ。
そのために、わざわざエルシオールを後退させ、気に食わないとはいえブラットを呼び戻したのだ。
余計なものは排除し、使えるものは使う。
彼のシナリオは完璧だった。
・・・この時、黒い絶望が現れなければ。
コルト艦隊が敵艦隊を追撃していると、いきなりその後方にドライブアウト反応が表れた。
その巨大な姿に艦隊の兵はみな目を奪われる。
漆黒で禍々しいそれの中央の赤い光が一瞬発光したのが見え・・・。
それが、コルト・マイヤーズが最後に見た光景になった。
丁度中央まで移動していたブラットはいきなりの衝撃波によって、一気にエルシオール付近まで吹き飛ばされていた。
「ぐあっ・・・! な、何が起こったんだ!?」
強烈なGが身体を襲い、モニターもブラックアウトする。状況を確認しようにも出来なかった。
それでも操作を繰り返すと、どうやらカメラだけが機能を停止しているらしく、その他は大丈夫だということが分かった。
とりあえず通信を開くが、電波状況も悪くなっており雑音が酷い。
『・・・こち・・ら・・・エル・・オー・ル・・・シヌイ・・・ブラ・・・さん・・・聞こえますか?』
しばらくすると、安定してきたらしく、声が鮮明に聞こえてきた。
「こちらシヌイ。エルシオール、状況を教えてくれ!」
『無事だったかブラット!』
さきほどの別れがブラットとの今生の別れにならずにすみ、タクトは安堵のため息をつく
「なんとか・・・それより、状況を! こっちはカメラがやられて確認できない! いったい何が起こったんだ?」
『・・・ファーゴ・・・そしてローム星が壊滅した。』
タクトが重く辛そうな口調で言った。
しかし、ブラットはそれをすぐに理解できなかった。
「壊滅って・・・そんなバカな!?」
だが、それはエルシオールから送られてきた映像によって理解させられた。
それはこの世の地獄というにも相応しい光景だった。
ファーゴはその半分が粉々に粉砕され、その破片に混じって人間だった有機物が大量に漂っている。
ロームはもっと悲惨だ。惑星の核なんて見たことがなかったが、それと思われるものがはっきりと姿を見せている。そしてそれの内圧が解放され、欠けた惑星が分解を始めていた。
そして、それらを見下すかのように漆黒の悪魔が赤い光を出している。
「なんだこれは・・・何なんだあれは!?」
あまりにも現実離れした光景をブラットは呆然と見ていた。
『あれは『黒き月』・・・』
今まで黙っていたシヴァ皇子がそっと口を開いて説明する。
黒き月・・・人に仇なすロストテクノロジーであり、その機能は自己増殖を繰り返す。エオニアの艦隊はあれが作り出していたようだ。
それを黙って聞いていたタクトはいきなり立ち上がった。
『みんな! 俺はあの黒き月を破壊しようと思う。あんな物を残しておくわけにはいかない!』
ブラットもそうだが、エンジェル隊もタクトがここまで怒りに震えているのを初めて見た。そしてその心情は一緒だった。
『エンジェル隊、シヌイ、黒き月を攻略するぞ!』
「『『『『『了解!』』』』』」
もう二度とこんな光景を繰り返させはしない。
誰もがそれを願い戦場へ赴く。