GALAXY ANGEL  ANOTHER HERO STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十四章 終わりの始まり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふはははは!!!!!』

全周波数通信が開かれ、低い男性のような笑い声とノアが全機に映し出された。

『すばらしいぞ、白き月よ! それでなくては・・・』

ノアが一旦口を止めると、同時に黒き月では変化が起こる。

『我らが一つになる意味がない!!!』

そしてそれは白き月も同じだった。二つは変形しながら引き寄せ合ってゆく。

 

 

 

 

 

そして、アナザーが対応しているダークソルジャーにも変化が表れた。

無機質なその背中から赤黒い翼がすぅっと生えてきたのだ。だが、はっきり言って鎧のような身体から翼が生えても似合っていない。失敗したオブジェのようだ。

『遊びはここまでだ。おまえにも消えてもらう!』

男声のノアはアナザーから見ても不気味だ。おまけに遊び・・・容赦もなくなっている。

ダークソルジャーは無遠慮に両手の火器を乱射し、シヌイを墜とそうとする。

翼が生えたことによりその威力はさらに増し、ビームの直径はシヌイの半分ほどの大きさがある。直撃したらまず助からないだろうが、威力が上がっただけではアナザーには何の関係もない。どこまで威力を上げようとも、アナザーがそれを目視できるスピードでは彼には通用しない。

それが相手にも分かったのだろう。

ダークソルジャーは射撃武器を収め、大きな剣の柄らしきものを両手で握りしめた。柄から閃光が走ると、巨大なビームで形成された大剣がそこにあった。

「ふっ・・・面白い!!」

アナザーは不敵な笑みを浮かべ、シヌイの両手にビームサーベルを装備させる。

構えたままでシヌイとダークソルジャー、そしてダークエンジェル2機(ギネス機、リセルヴァ機)の動きが静止する。

「かかってきやがれーー!!!」

4機は同時に急接近をかけた。

 

 

 

 

 

 

一方、エルシオールと紋章機は白き月と融合するために動き出した黒き月にクロノブレイク・キャノンを撃つべく敵艦隊の強固な防衛線の中を進んでいた。

しかし、紋章機だけならともかく、鈍足のエルシオールがいるため進行は遅い。

そこを浮遊衛星の強力な砲撃が降り注ぎ、エルシオールだけでなく、援護に回った紋章機にも深刻なダメージを与えていた。

「くそ! なんて陣形だ! これじゃ近づけない・・・」

タクトは苦虫を噛んだような顔で言う。

もう時間との勝負なのだ。早くしないと二つの月の融合が完了してしまう。

だがこのままでは融合を止めるどころかエルシオールが墜とされる。

打開策を必死に考えるが、焦った頭では何も浮かばない。

それどころか、敵艦隊がどんどんエルシオールに集まってくる。

はっきりいってファーゴの時より危険な状況になりつつあった。

 

 

しかし、意外な形で打開する状況が来た。

敵艦隊の側面から無数の砲撃が襲ったのだ。

 

 

「今の攻撃・・・どこから?」

「多数の反応が・・・これは友軍艦隊です!」

タクトの言葉に反応してココが報告をする。

「通信入ります。ルフト准将です」

アルモが通信を開くとそこには自分の恩師が優しい笑顔で表れた。

「ルフト先生!」

『なんとか艦隊の編成が間に合ったぞ。今援護する、そこを引けい!』

「いえ先生。黒き月を破壊するにはエルシオールは引くわけにはいきません! 防衛線を突破しますので、そっちの援護をお願いします」

ルフトはタクトの言った内容に一瞬驚愕の表情を出す。あの強固な防衛網に突っ込もうというのだから当たり前だ。

しかし、すぐに状況を理解したのか、特になにも追及せずに艦隊戦を展開し始めた。

『タクト、無茶はするではないぞ』

最後にそれだけ言ってルフトは通信を切った。

 

 

 

 

 

 

『なぜだ・・・! なぜだ・・・!!!』

ノア―――黒き月の混乱は最高潮を迎えていた。

皇国軍が現れ、ついに護衛だった残りのダークエンジェル2機もシヌイに墜とされ、自機のダークソルジャーもビームサーベルでズタズタにされていた。

シヌイの攻撃力の低さと自機の高い防御力とのおかげで致命的な損傷だけは免れているが、着実に戦闘力を削られている。

「なんつう装甲だ。これだけ痛めつけてもまだ墜ちないのかよ・・・」

アナザーもさすがに疲れが見え始め、軽くだが肩で息をしている。

ダークソルジャーはそこまで弱い敵というわけでもない。大剣型ビームソードを振り回している割にはそれがけっこう早い。数時間動かし続けている身体にはそれなりに辛い相手なのだ。

『なぜこんな機体に・・・こんな部品に私は勝てない? そしてなぜ白き月は私を拒絶する?』

すでに両者に会話という情報伝達はない。言いたいことを勝手に言っているだけになっているが、本人達は案外それに気付いていない。

「・・・もう疲れた。そろそろ終わりにしてやる!!!」

アナザーは言い終わる前に残っていたグレネードとミサイルをダークソルジャーに向かって撃ち、再び急接近を掛けた。

ノアは特に動くことなくその攻撃を受ける。これがただの囮で、下手に動きを見せるとアナザーの思う壺だと分かっていたからだ。

数発の爆発物の煙で視界がなくなるが、それでも動かない。動かずしっかり熱源レーダーだけを確認する。

するとレーダーは後ろから接近する20m級の大きさのものを探知した。やはり視界を遮り、後ろから不意打ちを掛けるという作戦だったのだろう。

これほど単純な罠を仕掛けるなんて技量以外、アナザーは恐れるに足りないとノアを判断した。

シヌイのサーベルよりダークソルジャーのソードの方が圧倒的に長い。それでもノアは十分に引き付けてからそれを切り裂いた。が、それこそアナザーの思惑通りだった。

煙で視界がないままダークソルジャーが切り裂いたものは、発射準備の整ったシヌイのロング・エネルギーランチャー。大きさもエネルギーもシヌイとほぼ同じものだ。

『なんだと!!?』

エネルギーが蓄積していたランチャーを傷つければ、当然の如くそれが解放されて爆発が起きる。それはさきほどのミライルやグレネードの比ではない。

いくら巨体なダークソルジャーとはいえ、巡洋艦を撃ち落せるほどのエネルギー数発分の爆発では、耐えられずに吹き飛ばされる。

体勢が崩れて吹き飛ばされているダークソルジャーをアナザーはしっかり同じスピードを出し、平行に飛んでくる。

「そういえばさっき死の舞を踊れとか言ってたよな?」

アナザーが不敵な笑みを浮かべると、シヌイの青い両目が発光する。もし、インターフェイスのノアではなく人間がダークソルジャーに乗っていたら恐怖のどん底だったであろう。

「踊ってやる。貴様を地獄に叩き落す死の舞をな!!!」

シヌイを舞のように綺麗な太刀筋でダークソルジャーを斬りつける。否、斬り続ける。何回も何回も。

それでも先ほどいったようにシヌイではダークソルジャーに致命的損傷を与えることは出来ない。シールドがある限りそれは絶対だ。

『無駄だ! そんな攻撃では私は倒せない!』

「そうだな・・・。確かにそのシールドは厄介だ」

しかし敵を倒せない状況の中でもアナザーの笑みは崩れない。・・・いや、絶対に敵を倒せないのなら笑みを崩しただろう。

つまり、今笑っていられるのは・・・。

「俺がただ単純にお前を斬っていたと思うのか?」

『・・・!! まさか、貴様!!?』

「今、気付いても遅ぇーな!! その両腕の厄介なもん、ぶっ壊す!!!!」

ダークソルジャーの腕をアナザーはシヌイの左手のサーベルで突く。そこにはシールド発生装置がある。

何度も何度も攻撃をしていれば、シールドの強い所と弱い所など簡単に分かる。ノアがシヌイを甘く見ていたのがそもそもの間違いだった。

さすがに発生源だけあって、ビームサーベルはシールドに塞がれて本体に届かなかったが、まだ右手にもサーベルが残っている。

シールドが相殺されているところをアナザーは情け容赦なく切り裂く。

ダークソルジャーの両腕が肘の辺りから綺麗に切断された。

『くそっ!!!』

両腕を無くし、ノアはすぐに撤退を試みる。しかし、それは無駄な行為・・・。アナザーがそれを許すわけない。

切り取ったダークソルジャーの腕からビームソードを奪い取り、構える。大きさ的に不釣合いだが、無重力なので重さは関係ない。

「地獄でいい夢でも見な!!」

シヌイより大きいビーム状の刀身を発生させ、それをアナザーは躊躇いなくダークソルジャーに振り下ろした。

『馬鹿な!! この私が、人間なんかに・・・不確定な奴らなんかにぃぃーー!!!!!!!?』

断末魔の直後、黒き月のインターフェイスはダークソルジャーごと真二つになった。

だが、シヌイは大剣を斬り返す。

「ふふふふふふ・・・」

アナザーは静かに笑い、さらにもう一度斬り返す。

6等分になったダークソルジャーはついに爆散し、宇宙の塵となった。

「あはははは!!!! これだ! これこそ俺が望んだ戦いだ!! ふははははは!!!!!!」

有意義だった戦闘にアナザーはこれ以上ないほど大声で笑っていた。

 

 

 

 

 

 

インターフェイスの喪失は黒き月とその護衛艦隊に多大な影響を与えていた。

どちらもネジが切れたゼンマイ人形の如く、ピタリと動きを停止してしまっている。

その隙を逃さず皇国軍艦隊は一気に攻勢を掛けていた。

「全艦一斉射! 休むでないぞ! 敵が動きだす前に決着を着るのじゃ!!」

ルフトは座席を立ち、大声で叫ぶ。

彼は敵が止まっているのが一時的なものだと考えている。なにが原因で止まっているかは分からないが、ロストテクノロジーである黒き月がこのまま動かなくなるとは考えてはいない。

そして、その考えは正しい。

インターフェイスが1体なくなったとはいえ、黒き月の機能を制御するそれはまた造ればいいだけのこと。黒き月の生産能力をもってすればそれはすぐにもできる。

黒き月が再起動するのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

だがそれは杞憂だった。エルシオールが接近するほうが再起動より早かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「クロノブレイク・キャノン発射準備完了しました!」

「黒き月、射程に捉えました。照準合わせ完了!」

アルモとココの声以外はエルシオールのブリッジは静寂だった。

ブリッジクルーは緊張しているというより、強大な黒き月に圧倒されていた。

その静寂の中、タクトはゆっくり座席を立ち、黒き月を見据える。

(長かったな・・・)

この戦争はあまりにも多くの犠牲を出した。

第一方面の軍人達、ジェーラール陛下含む皇族達、第三方面の軍人達、ジーダマイア、タクトの兄のコルト。そしてエオニアとシェリーも、もしかしたらこの戦争の犠牲者だったのかもしれない。

だが、皮肉にもこの戦争のおかげでタクトはエンジェル隊やブラット、エルシオールのクルー達と会うことができた。

楽しかった旅。

悲しい戦争。

そのどちらも、今終わる。

タクトはゆっくり手を振り下ろし叫んだ。

「目標、黒き月・・・クロノブレイク・キャノン・・・発射!!!

 

 

 

 

 

 

黒き月は再起動することなく、莫大なエネルギーの直撃を受け・・・。

 

 

その純白の光の中に・・・。

 

 

赤いクリスタルと共に・・・。

 

 

消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い悲劇の第一幕はこの瞬間、幕を下ろした。

ある者は歓喜の声を上げ、ある者は疲れた身体を椅子に沈めた。

戦争の終わり。誰もが喜び、そして浮かれた。

 

 

 

だから・・・誰も気付かなかった。

 

 

 

一隻の謎の紫の艦がひっそりとその宙域を離れたことに。

 

 

 

そして、それは・・・。

 

 

 

悲劇の第二幕の開幕と・・・。

 

 

 

終わりの始まりの瞬間でもあった。