GALAXY ANGEL  ANOTHER HERO STORY

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五章 再会と出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エオニア軍との最終決戦すでに2ヶ月が過ぎた。

 

戦果の爪痕も新たに発足された新政権がシヴァ皇子・・・いや、本当は女性であったシヴァ女皇とルフト宰相を筆頭に癒し始めている。

もちろんタクトやエンジェル隊とてその例外に漏れていない。

タクトとレスターはエルシオールで皇国辺境の調査任務に就き、それにミルフィーユとフォルテの二人のエンジェル隊が同行し、残りのエンジェル隊のランファ、ミント、ヴァニラもそれぞれ第三方面の復興活動を補助している。

そして、エオニア戦役にエンジェル隊と共にその鎮圧に貢献したブラット・スカイウェイ近衛軍中尉は本星の復興援助の後、今は第一方面のとある都市衛生に来ていた。

 

学園都市衛星『ハーバード』

 

経済的にも軍事利用的にもあまり価値のないこの都市衛星であるが、皇国軍ではその知名度は高い。

それはこの衛星にある士官学校のためである。

 

センパール士官学校

 

皇国内に数ある士官学校でも群を抜いて優秀な人材を送るこの学校があるためだ。

しかし、それゆえ戦争中にエオニア軍の攻撃を受け、校舎がいくらか破損してしまっている。

ブラットは今、そんな場所に来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「防衛・・・ですか?」

「その通りです」

ハーバードに着いて早々、ブラットは司令部に訪れこの都市衛星の基地司令兼センパール士官学校校長と対面することとなった。

ルフト宰相の勅命でここに来たが、それが防衛任務というのはどういうことだろう? 自惚れるわけではないが、この衛星の重要性を考えると、自分がわざわざ来て防衛する必要が分からない。

それが顔に出ていたのか、さらに校長は話を続ける。

「1ヵ月後。我がセンパール士官学校は卒業式を迎えるのですが、毎年その日を狙ってこのハーバードに破壊活動を行う連中がいるのです」

「毎年?」

「ええ・・・主に皇国軍に恨みや妬みを持った奴らが、半分嫌がらせで行っていることではあるんですが、なにぶん今年は先の戦争の影響で駐留軍が例年より少なく、またそれを知られたらしく、襲ってくる連中は例年より多くなりそうなのです」

「なるほど・・・」

やっと合点がいった。要するにここも戦後の人手不足の影響をモロに受けているのだ。

そして、センパールの卒業生達は今の皇国にとっては必要不可欠な人材だ。どうやら思っていたよりも重大な任務になりそうである。

「今年も連中は戦闘機や戦闘艦で来るでしょう。あの皇国の英雄の下で戦った中尉の働きに期待していますよ」

「ご期待に沿えるよう全力を尽くします」

(あの皇国の英雄ね・・・)

ブラットは本来の声とは別にため息混じりの声を心の中で呟く。

校長は俺に対して褒めるつもりで言っているのだろうが、あの英雄の正体を知っている側としては悲しいことにあまり褒められた気がしない。

「とりあえず、卒業式当日までは主に巡回パトロールをやってもらいます。明日から頼みますよ」

「了解。失礼します」

ブラットはピシッと敬礼し、司令官室を退室した。

 

 

「ふぅ・・・」

ブラットが退室した後、校長は深い溜息をつき椅子にもたれかかった。

気疲れしていたのだ。

階級上ではブラットより彼の方がずっと上だ。しかし、ブラットは現最高の軍統括者ルフト宰相が直々に送ってきた人物である。粗相があってはならないと敬語まで使って応対していたのだ。

それにしてもあのブラットとかいう士官は彼が思っていた以上に若く、なんというか普通の軍人だった。

「あの若造。そこまでの腕前かのう」

自分の学校の教え子達とほぼ同じ少年が、あのエンジェル隊と同等の力があるとは信じられない。

まあ、それは追々分かるからいい。

「ふぅ・・・。なんでここには厄介な連中ばかり集まるんじゃ?」

校長はまた溜息をついて、ブラットとは別に昨日来た部隊を思い出した。

腕は確かだが、傭兵上がりで部隊同士の連携を取らなそうな男と少女。そして今日来たブラット。

気疲れする要因をいくつも抱え、もうすぐ定年を迎える校長はもう一度だけ溜息を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと・・・C−204、C−204は・・・?」

司令部から戻ったブラットは、今後1ヵ月自分の住まいとなる部屋を探している最中だ。

迷ったわけではないが、この宿舎はなかなか広く20分も部屋を探し続けている。司令部を出る時案内人を付けてもらえばよかったと今更ながらに後悔した。

タッタッタッ・・・。

「ここがC−101だから、この上だな。階段はどこだ・・・?」

ドアのナンバープレートを見る限りこの辺に部屋がある。早く荷物を置いて落ち着きたい。

タッタッタッタッタッ・・・。

(・・・ん?)

さっきから後ろのほうで人が走る音が聞こえていたが、それがだんだん近づいているのに気付いた。

タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ・・・。

近づいているというより、もうすぐ後ろに音が聞こえている。

気になって振り向く。

「ぐおっ!?」

「うわぁ!?」

・・・前に激突された。

腰の辺りをタックルされ、ちょっと前に倒れかけたが、なんとか踏ん張り耐える。が、ぶつかった本人は俺に弾き飛ばされ尻餅をついてしまった。

「いたたた・・・」

「ごめん。大丈夫か?」

ぶつかってこられて謝るのもヘンと思ったが、ぶつかってきた相手は女の子なので一応だ。少女は少し低い身長と茶髪の髪が特徴的で・・・・・・あれ?

どこかで見たことあるような気がして、少し考える・・・出てこない。

しかし、少女が顔を上げた瞬間、脳が彼女を判断し、俺はその名を呼んだ。

「リノ?」

「あれ? あ、ブラットだ〜」

可愛らしい笑顔を浮かべ、リノ・トリストが抱きついてきた。

・・・だが、ちょっと待て!

リノがここにいるということは・・・まさか。

「そこの綺麗な君。どう、俺と夕食でも食べない? 大丈夫いい店知っているんだ。損はさせないよ」

いた。

同じ階の通路の先で、金髪の長身で美系の部類に入る軍服を着た男性が同じく軍服を着た女性を口説いていた。だが、女性は顔が引きずっている。困っているのは明白だった。

「あの人は・・・またか・・・」

「しょうがないよ。あれはランスの病気みたいなもんだから」

俺はリノを引き剥がすと『いつものように』、金髪の男性―――ランス・ロットの後ろに静かに近づく。

「あそこはパスタだけじゃなくて、デザードも最高なんだよ。だから今夜にで・・・ぶっ!!?」

そして静かにその後頭部に手刀を落とした。

ランス隊長は大きな声も出さず、静かに床に倒れこみ、その光景を口説かれていた女性は唖然と見ていた。

「あ、すみません。どうもお騒がせしました」

女性に軽く頭を下げ、死んだように倒れこんでいたランス隊長の首根を掴んで、そのまま自分の部屋まで引きずり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

今更であるが、この二人『ランス・ロット』と『リノ・トリスト』はブラットの知り合いだ。

いや、知り合いといのは適切ではない。

彼らとブラットはエオニア戦役までの約2年あまりを一緒の部隊で過ごしてきた戦友である。

・・・・・・いや、戦友というのも違う気がする。

ブラットにとっては、いつも軟派で暴走気味の兄と手の掛かりすぎる妹と言ったほうが正しい。

ランスのナンパに付き合わされることが多々。リノの手作り料理で入院した回数が1回(集中治療室行き)。・・・嫌な思い出だけは鮮明に残っていた。

しかし、それでも2年も一緒にいたのは居心地がよかったことと、彼らが『あの』ブラットの境遇を理解してくれたからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ブラットは二人を部屋に招いき(正確にはリノだけ招き、気絶中のランスは無理やり)入れた。

「で、何やっているんですかランス隊長は?」

ランス隊長を介抱し、話せる状態に戻す。とりあえず、なぜここにいるのかを二人に聞くことにしたのだ。それなのにこの人は・・・。

「ナンパ」

とか全く関係ないことを言う。さすがに腹が立ち、手元に置いてある愛刀に手を掛け、鋼の刀身を見せる。

「・・・もう一度聞きます。なぜハーバードにいるんですか?」

「相変わらず冗談が通じないなおまえも」

「それでこそブラットなんだよ」

刀を抜いた俺を目の前にして動揺しない二人を見ると、これまでの俺達の関係がうかがえる。つまり、これが元不正規部隊第337機動部隊の日常茶飯事の光景だ。

エオニア戦役の時、補給のため単身第一方面軍本部にきていたブラットと先に任務のために先行していたランスとリノはそれ以来会っていないどころか連絡も取れなかった。

生死の確認も取れずに心配していた挙句、こんなところで再会し、その現場がナンパの最中では怒りたくもなる。

いい加減にこっちの気持ちも察してほしかった。

しかし、それは無理だったようだ。

「せっかくブラットと再会したんだから、今日の夕食は美味しいものでも食べに行こう!」

「おお! いいな、そうしよう!」

・・・・・・。

もう何も言うまい。

 

 

結局、二人に促されるまま食事に付き合わされることになった。しかも俺の奢りで・・・。

まあそのおかげで、二人に聞きたいことを聞き出すことには成功した。

エオニア戦役時、俺と違って戦いとは無縁の惑星にいた二人は、特に何かするでもなく戦争が終わるまでずっとそこにいたらしい。

そして戦後、大きく人員不足に悩まされた皇国軍は不正規部隊で有能な人物を正規軍に昇格していたのだが、二人もその影響で今は正規軍になり淡々と任務をこなし、昨日ここに来たばかりだという。

しかし・・・。

支払い金額が5桁いっているのに得た情報がこれだけ・・・。理不尽と感じるのは気のせいではないと思いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

食事の後、ブラットと分かれたランスとリノは自室に戻ってきた。

「ランス・・・」

「なんだ?」

2段ベッドの下の段で寝そべっていたランスは上の段にいるリノの声を聞いて耳を傾ける。

「ブラット・・・なんだか明るくなったよね」

「ああ、確かにな」

食事中のブラットを思い出しランスは肯く。

数ヶ月前の別れる前のブラットが寡黙だったわけではないが、確かに少しだけ明るく表情豊かになっていた。それは聞いた話の中のタクトやエンジェル隊が関係しているのだろう。その時の話をする顔がそうだった。

「『アレ』治ったかな?」

アレと言われて、ランスは少し考え思い浮かんだことを話す。

「アナザーのことか?」

「うん。でもちょっと違う」

アナザーのことでなければ、後は1つしかない。それはブラットがアナザーを生み出すキッカケにもなった彼の『心の傷』。

「分からんが・・・きっと、まだ治っていない」

だがこの予想は外してないとランスは確信している。

あれは簡単には治らない。もしかしたら一生かけても治らないかもしれないものだ。

彼の『心の傷』。それは――――

「治るよね?」

長考に入りかける前にリノに呼び戻され、ランスはまた少しだけ考えて。

「ああ」

と一言だけ言った。治す。いや、治さなければならないと心では思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――3週間後。

 

 

ハーバードより少し離れた宙域。

そこにはたった2機の皇国軍戦闘機が4機の戦闘機と2隻の艦相手に完全に圧倒している姿があった。

『いくぞブラット!』

「了解! 援護します」

2機の皇国軍機の内、片方がブラットの操るシヌイ。もう片方がランスの操るグラム高機動戦闘機。

そして4機の戦闘機と2隻の艦はハーバードを襲ってくる例のテロリスト達だ。

3週間前に司令部にブラットとランスが元同部隊所属と知られて以来、厄介払いで一緒に組まされ最前線に送られまくっていた。

しかし、それが司令部には幸か不幸か、この二人のコンビネーションはまさに絶妙で、テロリストくらいの技量のパイロットでは10機がかりでも墜とせない。

この状況もそうだ。

今でこそ敵戦闘機は4機だが、よく見ると少し離れたところに3機の戦闘機が網に掛かって身動きが取れずに宇宙を漂っている。

グラム戦闘機が敵部隊に突貫をしかけ、シヌイがそれを援護する。二人がやっているのはそれだけだ。

単純だが、皆が皆なぜかこの戦法を突破できない。

突貫しているグラム戦闘機を止めようとすればシヌイがすかさず攻撃を命中させ、逆にシヌイを止めようとすればグラム戦闘機の突貫が成功し戦艦が甚大な被害を受け、そこを遠くからリノが操縦している高速艇がエレキネットを射出して捕らわれる。

当初はリノの高速艇を攻撃しようとした連中もいたが、その時はブラットとランスの二人が容赦なくそいつらを撃ち墜とした。

原則として生かして捕らえるようにしている二人だが、その心情と仲間の危険度を比べることはしない。仲間が少しでも危険と感じればすぐに排除する。それがテロリスト達にも分かったようで今では高速艇を狙う者はほとんどいない。

そして、本日の戦闘もいつもと全く同じパターンで終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動兵器の戦闘は終わったもののブラットの仕事はそれだけでは終わらない。

ハーバードは治安のかなり良い都市衛星ではあるが、ここにもスラム街と呼ばれる治安が悪く、ならず者が集まる区域が存在する。

そのスラム街にテロリストが潜んでいることが以前にもあったため、軍はこの時期になると定期的にここの見回りを行い、この時間はブラットが担当になっている。

しかし、これが案外苦労する。

何せ住人のほぼ全員がなんらかの前科持ちであるため、挙動不審の人物がいても普通の犯罪者なのかテロリストなのか判別がつきづらいのだ。

 

 

そして今日もいつものように巡回して終わると思っていたが、人気のない路地に近づいた時、それはいつもの巡回ではない違うものとなった。

「や、やめてください!」

「いいじゃん。俺達と遊ぼうぜ」

「お断りします!」

路地裏の方で少女の声と複数の男の声が聞こえてきた。

ナンパのようなので別に無視してもよかったが、少女の声が切実だ。助けたほうがいいだろう。

声を辿って路地裏に行くと、5人の大柄の男と少女を見つけた。

男達の方はこのスラムにいても何の不思議のない柄の悪そうな奴らだが、少女の方は長くて綺麗な黒髪が特徴的でどこかのお嬢様のような大人しそう少女だった。

「なんだてめーは!?」

男の一人がこちらに気付いて声を荒げ、それに反応して残りもこちらに目線を向け、囲まれた。

よく見れば結構危ない状況だ。

もちろん、今大柄な男4人に囲まれている自分のことではなく、壁に押さえつけられている少女のことである。

服の乱れとかはないが、もう少し自分が来るのが遅ければ大変なことになっていたに違いない。

そして、その服装はセンパール士官学校の制服だ。なぜ、センパールの彼女がこんなところにいるのか気になるところではあるが、今は現状をどうにかするのが先だ。

「彼女を放せ! 嫌がっているだろ!」

「は? てめえに何様だ!? 軍の野郎だろが、指図される筋合いはねえぜ!!」

男は言い終わる前に筋肉のついた太い腕の拳を放つ。

紙一重で体の重心を左にずらしてそれを避けた。男達は最初からブラットの説得の応じる気はなかったのだ。

「野郎共! その偽善者軍人やっちまえ!!」

それを皮切りに、少女を押さえつけている男以外・・・自分を囲んでいる全員が殴りかかってきた。

(これで正当防衛が成り立つか・・・)

こちらとしては無駄な争いはしたくなかったのだが、そう踏ん切りをつけ、護身用に携帯していた自分の愛刀の柄に手を掛ける。

「死ねやーー!!!!」

前後左右から4人の重そうな拳が自身に届く寸前、ブラットは身を沈めて拳を避け、小さく呟く。

 

「我流―――」 ドゴン!!!

 

ブラットが回転しながら抜刀したのと同時に、彼に殴りかかってきた4人は吹き飛ばされ、狭い路地裏の壁に叩きつけられた。

 

「―――『螺旋』。・・・峰打ちだから死にはしない

 

それはまさに一瞬の出来事のように少女には見えた。

「ひぃぃぃーー!!!! バケモノ!!!」

少女を抑えていた男もその光景にあわててその手を離し、仲間を見捨てて一目散に逃げていった。

「やれやれ・・・」

ブラットは軽く溜息を吐きながら愛刀を鞘に納め、少女に目を向ける。

「君、大丈夫?」

優しく微笑みながら、ブラットは少女に尋ねた。

「・・・あ、はい。大丈夫です。助けていただき、ありがとうございます」

少女はさきほどの光景と今の人の良さそうなブラットの姿勢の違いに一瞬遅れながら、身体を折り曲げ頭を下げた。

「そう、よかった。・・・でも、君なんでこんなとこ『ピピピッ!!』・・・通信か? ちょっとごめん」

電子音を聞くと、少女との話を止め、ブラットは通信機であるクロノ・クリスタルを作動させる。

「はい。こちらスカイウェイです。えっ!? テロリストのアジトが!? 分かりました、すぐに向かいます」

通信を聞いた途端、ブラットは走り出した。

しかし、すぐに思い出したように少女のところに引き返す。

「君もこんな場所からすぐに出るように。君みたいな娘、ここじゃ襲ってくれと言っているようなもんだ。分かった? この道を真っ直ぐ行けば、町に抜けられるから気をつけて」

早口にそれだけ言って、ブラットは少女を後にした。

少女は少しの間呆然としていたが、やがてブラットの言ったとおりにスラム街を抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

十分にも満たない僅かな時間、互いに名も名乗らなかったこの日がブラット・スカイウェイと黒髪の少女、烏丸ちとせの最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日。テロリストの主だったメンバーは全て捕縛され、翌週のセンパール士官学校卒業式は例年より安全に行われ、ブラットのこの任務は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラットとちとせ。

二人が再び出会うのはこの2ヵ月後。

エオニア戦役より5ヶ月後の話となる。