「ふ〜む…まずい事になったのう。」
先程より手元の書類と格闘していたルフトは顔を上げ、そう呟いた。
天使、再び舞い降りて…
第一章 「そのころのエルシオール」
ここはエルシオールのブリッジ。…なのだが、
相変わらず司令官用のシートは空席である。
その空いた席の横では副指令であるレスター・クールダラスが何やら深刻な面持ちで
本星からの通信を受けていた。
「…はい、…はい、…了解しました。それでは。」
通信が切れるのを確認したレスターは
倒れこむようにして自らのシートに腰を下ろした。
「副指令?」
そのまま黙り込んでしまったレスターに
怪訝そうな表情を浮かべて声を掛ける人物がいた
通信担当のアルモだ。
彼女がレスターに恋心を抱いているのは既に周知の事実なのだが、
当のレスターだけはまったく気付いていない。
「ああ、すまん。艦内放送だ。タクトを呼び出してくれ。」
「了解です。」
数分後、暗いオーラを纏った人物があらわれた。
タクト・マイヤーズ。
エオニア廃太子のクーデター鎮圧、ヴァル・ファスクの撃退、EDEN解放…
数々の輝かしい戦績を持ち、銀河にその名を知らぬ者はいない
とまで言われる英雄である。
その上、女皇シヴァ・トランスバールのハートを射止めたりもしているのだが、
本人は知らない。
「遅いぞタクト!呼んだらすぐに来い!」
「何だよ、レスター。ブリッジに居られると心臓に悪いって言ったのお前じゃないか。」
「何か言ったか?」
「いや、何も。」
「気にせず言ってみろ。その結果お前の頭に風穴が開いても俺は知らん。」
そう言って腰の銃に手を伸ばすレスター。
「…ごめんなさい…(何で俺が…)」
「よし。」
そのまま覚束ない足取りで司令官席に座るタクト。
「で、何かあったのかい?」
ブリッジの雰囲気を察知したのか、表情を引き締めて尋ねる。
それから一呼吸置いてレスターが口を開いた。
「反乱だ。」
「…は?」
間の抜けた表情をする司令官を尻目にレスターは話を進める。
「ようやく復興し始めたローム星系を中心に反乱が起きた。首謀者は…」
「エオニア・トランスバール!!」
タクトが叫んだ。
直後、ブリッジに鈍い音が響く。
そして怒気をはらんだレスターの声。
「真面目に聞け。」
レスターに殴られた所を摩りながら、再度タクトが声を上げる。
「レゾム・メア・ゾーーム!!!」
今度は銃声が響いた。
空砲。
しかし耳元で聞かされたタクトはたまったものではなく
シートから転げ落ち、床をのたうちまわっている。
だが、レスターは気にせず一言。
「…次は無いぞ。」
「はい…。」
その時のレスターのあまりの恐ろしさに
ブリッジが凍りついたとか、つかなかったとか。
それはさておき、事の概要はこうだ。
レスターが通信を受ける2時間前。
トランスバールの宮殿に反乱の報せが届く。
首謀者は第3方面司令ジーダマイア大将。黒き月の攻撃の中、重傷を負いながらも
脱出に成功したことから、
「不死身のターOネーター」と呼ばれた…かは定かでない。
シヴァ政権下の元、数々の不正行為が発覚し明日にも処罰を受けるかもしれない日々を
怯えて過ごしていたはずなのだが、その実反乱の準備を進めていたらしい。
そしてついにトランスバールに叛旗を翻したのだ。
「それで、緊急対策会議とやらに出席しろと。」
タクトは隠そうともせず不満をあらわにした。
「白き月でやるんじゃ、出ない訳にもいかないな…」
レスターが呆れた口調で言った。
「本星でやるなら出ないとでも言うのか?」
「もちろん!!」
ブリッジに本日2度目の銃声が響き渡った。
それから数時間の後、タクト、そしてエンジェル隊の面々がティーラウンジに終結していた。
「で、急にあたしらを集めてなんの用なんだい?まだ銃の手入れが残ってるんだけどねぇ…」
「アタシもトレーニングの途中だったんだけど?」
「私は紅茶を飲もうとしていましたのに…。」
「医務室で急患を診ていました…。」
「さあ!下らない用だったらエルシオールの外に捨てるわよ!」
ややどうでもいい様な事が混じっている気がしないでもないが
皆忙しかったらしい。タクトに詰め寄っている。(ちなみに今はクロノ・ドライヴ中である)
その時、
「みんな、タクトさんをいじめないで〜!」
「そうです先輩方!タクトさんが意味も無く私達を集めるとは…」
2人の声に4人が一斉に振り向いた。
そして…
「おやぁ〜?ミルフィーはともかくとして、ちとせまでタクトを庇うのかい?」
「え?あ…そ、それはその…」
しどろもどろになりながら、ちとせの顔がみるみるうちに紅潮していく。
対象をタクトからちとせに変更したフォルテとランファの横ではミントがため息をついている。
「(ミルフィーさんも大変ですわね。まあタクトさんなら大丈夫だとは思いますけれど・・・)」
そんな様子を見ていたタクトがようやく口を開いた。
「あー、みんな。ジーダマイア大将って覚えてる?」
「ようはあの変態セクハラおやじがクーデターを起こしたからアタシ達で止めましょうって事?」
珍しく黙って話を聞いていたランファが
唐突に口を開いた。
何処か不機嫌そうではある。
「…身も蓋も無い言い方をするとそうなるね…。」
そう言って、タクトは皆の顔を見回した。
フォルテとミントは何やら考え込んでいる様子。
ヴァニラは身じろぎひとつしていない。
ちとせはそもそも会った事が無い。
ミルフィーは…?
そこまで考えてからタクトはミルフィーユが居ない事に気付いた。
「あれ、ミルフィーは…」
思わず立ちあがったタクトの不意をつくかのように
後ろから声がした。
「タクトさん。」
「うわあっ、ミルフィー!?」
「はい、タクトさん。」
慌てふためくタクトにミルフィーユは
コーヒーカップを差し出した。
「え、でもまだ残って…」
タクトは自分のカップに目を向ける。そして…
「空だ…」
「何言ってるんですか?」
「ああ、いやありがとうミルフィー」
コーヒーカップを受け取り席に座り直すタクト。
そして空になっている方のカップを持ち上げ眺めてみる。
「(そういえばさっき話している時に飲んだ様な気も…俺疲れてるのかな?)
そんな事を考えながらもうひとつのカップに口をつける。
「…クトさん、タクトさん!」
急に響いてきたミルフィーの声に驚き、
危うくカップを落としそうになる。
「…だ、だいじょうぶですかぁ?」
「あ、ああ大丈夫だよミルフィー。」
我ながら情けない、とタクトは思った。
「それで俺に何か?名前呼んでたよね?」
「あ、はい。私がコーヒー持って来た時、タクトさん、なにやってたんですか?」
「ああ…あれはね」
そこで言葉を切り、
コーヒーを一口飲んでからタクトは続けた。
「ミルフィーが見当たらなかったから心配して探してたんだよ。」
それを聞いたミルフィーユは僅かに目線を下げ、
顔を紅潮させる。
「そんな…タクトさん、大げさです。でも…その…嬉しい、です。」
「ミルフィー…」
「タクトさん…」
見詰め合う2人。完全に別の世界。こうもアッサリ別の空間を開かれたのではノアも真っ青である。
見かねたフォルテが口を開く。
「あたしらも居るって事を忘れないで欲しいねぇ…」
「フォルテさんの言う通りよ!そもそもアタシ達を呼んだのはタクトでしょ!」
「恋人達の語らいはまたの機会にしてくださいませ。」
「タクトさん…お話の続きをお願いします…」
怒涛の連続攻撃を浴びたタクトは、
ようやく他のエンジェル隊を放っておいた事に気付き
躊躇いがちに話始めた。
「で、それの対策会議にエンジェル隊も出席して欲しいって連絡がさっきあったんだ。」
しばしの沈黙につつまれるティーラウンジ。
「…色々と思うところはありますけれど…それは会議で言う事にいたしますわ。」
そんなミントの言葉を待っていたかのように
アルモの声が艦内に響く。
「間もなく白き月に到着します。マイヤーズ指令、至急ブリッジまでお戻り下さい。」
タクトは軽い溜息をつき、静かに立ち上がった。
「やれやれ…それじゃ行こうか。」
ゆっくりと歩き出す7人。
果たして彼らの眼に眼前の脅威は映っていたのだろうか…?
あとがき
どうも。初投稿の刹那という者です。
いや〜しかし小説というのは難しいですね。
最早、何を書きたいのやら…。
非常に粗末な出来で真に恐縮ですが、温かく見守って頂ければ幸いです。
それでは、また第2章で。