―白き月内部 謁見の間へと続く通路―

 

「なんだか久しぶりだな、ここを歩くのも。」

 

タクトの緊張感のない態度に、フォルテが釘を刺す。

 

「遊びに来たんじゃないんだ。もう少し司令官らしい事を言ったらどうなんだい?」

 

「何を今更。俺はいつでもこうだよ。」

 

開き直ったとしか思えないタクトの発言に

呆れ顔のフォルテ。

 

「…ま、シャトヤーン様達の前ではシャキっとしとくれよ。」

 

「無駄ですわフォルテさん。…それに、それがタクトさんの長所でもあるのですから。」

 

そう言って、悪戯っぽく笑ってみせるミント。

 

「そうそう!ミントは俺の事わかってくれてるなぁ。」

 

「調子に乗らないでくださいませ。」

 

「……はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  天使、再び舞い降りて…

               

              第二章   「立ちこめる暗雲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、マイヤーズ。」

 

「はい。シヴァ陛下もお変わりなく。」

 

落ち着いた様子で頭を下げるタクト。

その横では相変わらずの変わり身の速さに苦笑いを浮かべる人物が二人。

他の四人はいつもどうりといった表情。…約一名程、緊張の余り凍りついているが。

 

「あー、シヴァ陛下。そろそろ…」

 

タクトと他愛無い話を続けていたシヴァに

ルフトが申し訳なさそうに話し掛ける。

 

「う、うむ。すまぬルフト。」

 

「…それじゃ、始めましょうか。」

 

先程よりタクトとシヴァを

不機嫌そうな表情で見つめていたノアが、

表情を変えずに話し始めた。

 

「ジーダマイアが反乱を起こしたのは通信で聞いたわよね?それで、その討伐艦隊の指揮をアンタに任せようって訳。」

 

タクトは数秒硬直した後、やけに控えめな態度で言った。

 

「いや、もうそう言うのは遠慮し…」

 

「アンタに拒否権なんて物はないの。いいかげん学習しなさい。」

 

タクトが言い終える前にノアの一撃が入る。

 

「うう…俺って一体…」

 

下手な泣きまねをしてみせるタクト。

その場の殆どの人間が呆れた表情をみせる。…が、一人だけ…

 

「タクトさん、泣かないでください〜。ノアさんもタクトさんを苛めないでください!」

 

「やっぱり俺の味方はミルフィーだけだ〜!」

 

「タクトさん…」

 

またしても別の世界に突入する二人。

 

「我らの前でのろけるとは…いい度胸だな、マイヤーズ…!」

 

「そんなに二人きりで居たいなら…もう一回アナザースペースに送り返してあげるわよ〜!!!」

 

シヴァもノアも顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

 

「もしかして…二人とも怒ってる…?」

 

途切れがちなタクトの言葉。そして…

 

「「怒ってない!!!!!」」

 

「…嘘つき…」

 

数分後ようやく正気に戻った二人。…なのだが、エンジェル隊の面々がこの

状況を見逃す筈も無い。

 

「あたしらの司令官殿はモテモテだねぇ。妬けちまうよ。」

 

「ちょっとタクト!ミルフィーだけじゃダメだっていうの!?」

 

「浮気発覚ですわね。タクトさん。」

 

「タクト・マイヤーズ争奪戦勃発…。」

 

「た、タクトさん、不潔です!ミルフィー先輩に謝ってください!!」

 

「俺は無実だーーー!!!」

 

白き月にタクトに悲痛な叫びが木霊する。

しかしエンジェル隊は止まらない。

 

「タクト。」

 

「タクト!」

 

「タクトさん。」

 

「タクトさん…」

 

「タクトさん!」

 

追い込まれるタクトより先にノアが叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと!!なに勘違いしてんのよ!!あ、あ、あたしはこんな奴の事何とも思って無いんだからーーーー!!!」

 

続いてシヴァも。

 

「そ、そうだ!何故私がこんな奴に…!!」

 

「こんな奴呼ばわり…(涙)俺が何をしたーーーー!!」

 

最早泣きまねなのか、本当に泣いているのかわからない形相のタクト。

その隣ではミルフィーユが目に涙をためている。

 

「タクトさん…わたしの事…嫌いになったんですかぁ?」

 

「ち、違うよミルフィー。俺が好きなのはミルフィーだけさ。」

 

「…タクトさん…!!」

 

「ミルフィー…」

 

「イチャつくなら…よそでやれって言ってんのよーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約一時間後

 

謁見の間には、疲れ果てたタクトとノア。珍しく苦笑いを浮かべるシャトヤーン、

そのシャトヤーンに頭をなでられているシヴァ。タクトを介抱しているミルフィーユに、

ルフトに一時間みっちり注意を受けたその他のエンジェル隊。

そして声の出しすぎで喉を痛めたルフトが居た。

 

「そろそろ会議を再開しませんか?」

との、シャトヤーンの一言でようやく会議を再開する一同。

 

「それでな、タクトよ。艦隊司令の任、引き受けてはもらえんか。」

 

ルフトの問いかけに、半ば投げやりともとれるタクトの返答。

 

「断っても結局やらされそうですしね…わかりました。」

 

その言葉を聞いたシヴァが何やらルフトに目で合図を送った。

そして軽く頷くルフト。その口からでてきた言葉は…

 

「ではよろしく頼むぞ、タクト・マイヤーズ少将。」

 

「へ…?」

 

情けない声を上げるタクト。

 

「討伐艦隊の中には准将階級の者もおるのでな。大佐のままというわけにもいかんのじゃよ。」

 

「はあ…」

 

「なんじゃ、もうすこしリアクションという物はないのか?」

 

「別に階級なんて気にしませんよ。それより聞きたい事があるんですけど…。」

 

「なんじゃ、つまらんのう。」

 

余りにも無反応なタクトに対して不満げなルフトだったが、

タクトの言葉が気になったのかすぐに厳しい表情になる。

 

「それで…聞きたい事とは?」

 

タクトは小さく咳払いをして、話し始めた。

 

「なぜ白き月で話す必要があったんです?これから艦隊の編成を煮詰めていくにしろ、白き月で話す必要はありません。

ならば何故白き月で会議が行われるのか…?考えられるのは、なにかしらロストテクノロジーに関わる問題が起きた。そうですね?」

 

ルフトはやれやれと首をふり、答えた。

 

「わしから言うまでもなかったか…それについてはシャトヤーン様とノアに任せよう。」

 

シャトヤーンは皆が自分に目を向けたのを確認してから口を開く。

その面持ちは、これから語られる事の深刻さを表すに十分だった。

 

「…7番機がクーデター勢力に奪われました。」

 

信じられないといった表情のエンジェル隊。

真っ先に口を開いたのはランファだった。

 

「嘘…だってあれはもう使い物にならないってクレータ班長が…」

 

そう、その筈なのである。ランファが言っているのは全大戦の折、ヴァインが7番機に乗り

ルシャーティと共にヴァル・ファスクから脱走した時の事。

回収された7番機は損傷が酷く、もう使用する事は出来ないとの報告をタクトも受けていた。

その7番機が何故……?

 

「一体、どういう事なんです!?」

 

声を上げるタクト。

その声に答えたのはシャトヤーンではなくノア。

 

「確かにアンタ達の言う通り。あれは飛ばすどころか起動すらできないわ。」

 

淡々とした様子のノア。

 

「だったら尚更だ…なんでジーダマイアは…」

 

「それがわかればいいんだけど…とにかく、7番機の奪回も任務に含まれてるからよろしくね。」

 

「よろしくって言われても…本当に何を考えてるんだろうか?」

 

考え込むタクトにフォルテが妙に軽い口調で言った。

 

「案外、何にも考えてないだけだったりしてねぇ。」

 

フォルテの発言にツッコミでもいれようかと振り向いたタクトの目に映ったのは

意外にも真面目な顔をしたフォルテだった。

予想外の出来事に動きを止めたタクトの後ろで、ルフトがポツリと呟くように言った。

 

「ジーダマイア本人は…そうかも知れんの。」

 

「え?」

 

ルフトの言葉に

タクトと、フォルテを除くエンジェル隊は顔を見合わせる。

 

「わしにはジーダマイアが反乱を起こすほど肝の座った男とは思えんのじゃ。どちらかというと自分より目上の者には逆らえない…そんな

気がするのじゃが…。だとすると…」

 

「裏でジーダマイアを操っている者がいると?」

 

「うむ…。」

 

ルフトの言葉を補足するタクト。

その二人の会話を聞き、黙り込む一同。

 

「ま、まあ、あくまでわしの勝手な推測じゃ。余り気にする必要は無いぞ。」

 

 

その後艦隊の細かい編成等はタクトに一任する事に決まり、ひとまずその場は解散となった。

各々の想いを胸に出撃に備えるエンジェル隊。

一人考えを巡らすタクト。

刻々と迫る出撃の時。

 

ちょうどその頃、一隻の艦がトランスバール領へと足を踏み入れていた。

新たなる戦火の火種を携えて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

相変わらず何を書きたいのかよくわからない刹那です。

まあ次からはシリアス路線メインで行く予定ですが……予定は未定ということで。(笑)

優秀な作家さんの多いサイトでの執筆は非常に緊張モノですが頑張っていきたいと思いますので、

おヒマな時にでも見て下さると嬉しいです。

…何かあとがきの内容が一章とかぶってますね。

それはともかくちとせやヴァニラが台詞ほとんど無い。(シャトヤーンもか?)

ファンの皆様すみません。

別に嫌いではないのですが…(むしろ好きです)

次はなるべく均等に出るように努力したいと思います。

それでは、また。