―反乱軍討伐艦隊出撃前日、白き月謁見の間にて―

 

「…では私はこれで失礼します。マイヤーズ少将。」

 

「ああ、よろしく頼むよクラウディス准将。」

 

クラウディスと呼ばれたその男はタクトとレスターに会釈をすると、

足早に謁見の間を後にした。

彼が立ち去ったのを確認してからタクトが口を開く。

 

「少将…か。やっぱり慣れないな…」

 

「今更何を言っている?もう5日もたっているんだぞ。」

 

白き月での会議から5日。予想以上に艦隊の編成に時間を取られてしまったらしい。  

 

「わかってるよ、レスター。言ってみただけさ。それよりクラウディス准将を手伝ってやってくれ。出撃前に疲れをためるのはよくない。」

 

「…ああ、わかった。」

 

レスターを見送ってから、タクトは部屋の奥へ歩き出した。

そして…

 

「ごめん、待たせたね。」

 

「別に…それよりあたしに話ってなに?」

 

入り口から見えない所に身を隠していたのは、ノアだった。

 

「ああ、ちょっと頼みたい事があるんだ。じつは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

                    天使、再び舞い降りて…

 

                 第三章 「嵐の前の静けさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…全艦クロノ・ドライブに入りました。」

 

「よし、エルシオールも追ってクロノ・ドライブ!」

 

「了解!」

 

「さて…後は特にやる事も無い。タクト、休んできて構わんぞ。」

 

「それじゃ、何かあったらよんでくれ。」

 

「ああ。」

 

 

 

白き月を発ってから既に10日。今のところは特に何も無い、順調な行軍である。

ローム星系での決戦前に多少の抵抗はしてくるだろうと予想していたタクトだったが、

今の所その様子は無い。

 

 

「俺の考えすぎだったかなあ。いや、まだロームに着いた訳じゃないしな。」

 

タクトは独り言のつもりだったのだが、予想に反して返答があった。

 

「なに壁に向かってぶつぶつ言ってんだい?タクト。」

 

「あ、フォルテ…それにちとせも。」

 

「こんにちは、タクトさん。」

 

タクトの独り言に反応したのはフォルテとちとせの二人だった。

ちとせは若干顔が赤く見える。

 

「二人とも何やってたんだい?」

 

「ああ、ちとせの訓練につきあってたんだけど…そろそろお昼にしようかと思ってね。」

 

「あ、あの…タクトさんさえ良ければご一緒しませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、攻撃があるならそろそろじゃないかと思って…。」

 

食堂に着き、タクトは先程の独り言の内容を説明していたのだが…

 

「はふとにひてはいおくまほもまいへんはへぇ」

 

フォルテはおでんを口に入れたまま何かを話している。

 

「いや「タクトにしては至極マトモな意見だねぇ」じゃなくてそれ俺のおでんなんだけど。」

 

「…よく言ってる事がわかったねぇ…」

 

「すごいです!タクトさん!」

 

「いや、こんな事で目を輝かされても…。それに前にもこんな事があったし。」

 

前、というのがいつの事かはさておき

タクトにしては、という発言にはつっこま無くて良いのだろうか。

 

「とにかくそう言う訳だから、油断しないように頼むよ。」

 

「誰に言ってんだい。あたしなら心配いらないよ。」

 

「私もです。戦闘が無いからと言って訓練を怠ったりはしません!」

 

この二人にはお節介だったか、と満足げに頷いたタクトは他のエンジェル達の様子を

見るべく食堂を後にした。(タクトの注文したおでんはフォルテに食べられたようだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約十分後。食堂で二人と別れたタクトはティーラウンジに居た。

その側には、ランファとミント、そして食事を終えて合流してきたちとせも座っていた。

 

「タクトさん。そろそろ本題に移りませんこと?何か私達にお話があるんでしょう?」

 

「あ、ああ。」

 

『タクトの浮気疑惑について』という一刻も早く終わって欲しい話題で

異様なまでに盛り上がっていた場の雰囲気を感じ、どう話を切り出そうかと迷っていた

タクトにミントが助け舟を出した。さっきまでミントも色々と話していたはずなのだが…。

 

「嘘!?ただサボりに来ただけじゃないの!?」

 

ランファが驚愕のあまり声を張り上げる。

 

「そんなに驚く事なのか…?」

 

「そうですよランファ先輩!いくらタクトさんがサボってばかりいるからと言って、今の言葉は失礼です!!」

 

ちとせに全く悪気は無い。が、それを聞いたタクトは泣き崩れている。

 

「うう…どうせ俺なんて…」

 

「ち、違いますタクトさん!別にタクトさんが職務を怠慢しているという意味では…!!」

 

その横ではミントが苦笑している。

 

「ちとせさん…全くフォローになっておりませんわ…。」

 

「ああっ、タクトさん!すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません…!!(以下千行削除)」

 

「い、いやちとせ…もういいから…」

 

「はい!すみません!」

 

会話のキャッチボールが成立していない。言うなれば、大暴投である。

 

「ちとせ!!」

 

放っておくわけにもいかないと思ったのか、タクトはちとせの肩を掴み半ば強引に向き直らせる。

 

「ちとせ、深呼吸するんだ。とにかく落ち着いて。」

 

冷静なタクト。そのタクトに対して、肩を掴まれたちとせはみるみるうちに顔を紅潮させる。

 

「あ、あ、タクトさん……はにゃあ…。」

 

わけのわからない言葉を最後にバッタリと倒れこむちとせ。

 

「わーー!!ちとせが気絶したーー!!」

 

呆れ顔のランファ達には目もくれず

ちとせを抱えて医務室へ走るタクト。

 

「アイツ、一体何しに来たのかしら?」

 

「『近々戦闘が起こると思うから注意してくれ』…というような事を仰りたかったようですわ♪」

 

「そ、そう…」

 

ランファは思わず笑顔をひきつらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特に何でもないわね。そのうち目覚めるわよ。」

 

ちとせの診断を終えたケーラがタクトに話し掛ける。

 

「そうですか、良かった。…ところで今日はヴァニラ来てないんですか?」

 

室内を見回していたタクトが尋ねた。

 

「ああ…さっきまで手伝ってもらってたんだけど、体調が悪そうだったから部屋に帰したわ。何か用事でも?」

 

「いえ、あまり無理しないように言うつもりだったんですけど…それなら安心ですね。ヴァニラも前と比べたら自分で気を使うように

なったみたいですし。それじゃあ、俺はこれで失礼します。」

 

椅子から立ち上がりドアの方へと歩き出すタクト。

 

「……それは多分あなたのおかげよ、マイヤ−ズ司令。」

 

「え、今なんて?」

 

不思議そうな顔でタクトが振り返る。

 

「何でもないわ。それより…皆に気を使うのも良いけど、ちゃんと恋人にもかまってあげなさいよ?」

 

「はあ…。」

 

明らかに納得していない様子のタクト。

だがケーラの表情から問い詰めても答えてくれない事を悟ったのか、

黙って医務室を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おーい、ミルフィー。居ないのかい?」

 

通路にタクトの声が響いている。…十分程前からずっと。

タクトが到着した時には中からミルフィーユの声が聞こえていたのだが、

インターホンを鳴らすと同時に聞こえなくなり、以後タクトが呼びかけ続けているというわけだ。

 

「はあ…また後で来るか。」

 

タクトがその場を立ち去ろうとした丁度その時、中からミルフィーユの弱々しい声がした。

どうやら泣いているようだ。

 

「タクトさんは、わたしの事嫌いになったんですか……?」

 

一瞬戸惑うタクト。だがすぐに…

 

「そんな訳無いじゃないか。一体どうしちゃったんだいミルフィー?」

 

「でも…!でも…さっきティーラウンジでタクトさんが…ちとせと抱き合ってる所を見ちゃったんです!!」

 

「はい…?」

 

身に覚えの無い事にタクトは困惑気味。

どうやらミルフィーユは、気絶して倒れたちとせをタクトが抱き起こした場面をみたらしい。

時間にして僅か数秒の出来事。これも強運のなせる業か。

そこまで考え、ようやく納得した様子のタクト。

なるほど、確かにそこだけ見ればタクトとちとせのラブシーンにしか見えない。

 

「いや、それはね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

タクトがミルフィーユの説得を始めてから既に三十分が過ぎようとしていた。

はたから見れば、ドアの前に張り付いたまま何か叫んだり落ち込んだりして

様々な喜怒哀楽を全身で表現している姿は、アブナイとしか言いようがない。

当の本人はまったく気にしていないようだが。

 

「…だからミルフィー!それは誤解なんだって!」

 

「……ホントですか…?」

 

「ああ。」

 

「ホントにホントですか……?」

 

「ああ、本当だ。だからここをあけてくれ。」

 

「開けたら『引っ掛かったな馬鹿め!』…とか言うのは無しですよ?」

 

「誰の真似だい、それは…?」

 

「冗談です。今、開けますね。」

 

開け放たれたドアの向こうに、僅かな涙を目に浮かべたミルフィーユが立っていた。

 

「ミルフィー…。」

 

「タクトさん、ごめんなさい。勝手に勘違いして大騒ぎしちゃって…」

 

「…でも、嬉しかったです。タクトさんはこんなわたしでも好きでいてくれてるんだな、って思いました。」

 

「ああ、大好きだよミルフィー。こんな短い言葉でしか言えないのが悔しいくらいさ。」

 

「これからも…一緒にいて、好きだって言ってくれますか?」

 

「もちろんさ。好きだよ、ミルフィー。…愛してる。」

 

「…わたしもです…タクトさん。」

 

 

 

 

 

 

 

                 「…ずっと…そばにいてくださいね…。」

 

 

 

 

 

少女の切なる願い。だが絶望の足音は目前まで迫っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも。二章のあとがきで『次からはシリアス路線メインで行く』と言った刹那です。

すみません。おもいっきり嘘つきました。(苦笑)

次は!次こそは頑張ります!!(何かを)

そんな訳で、見捨てないでください!

…話は代わりますが、ヴァニラファンの方すみません!

これも二章のあとがきで『次は均等に出るようにします』なんて書いていたのですが…。

またしても嘘ついてます。本当にすみません!!

なんか謝罪してばっかでしたが、四章からは本当にシリアス路線です。(もう書きあがってますので)

と言う訳なので出来れば見てやってください。(キャラが均等に出るかはともかくとして……)

それでは、また。