―エルシオール、ブリッジ―
「ドライブ・アウト!」
クロノ・スペースを抜け、辺りの景色が星々の大海へと変わる。
途端にココの声が響いた。
「レーダーに反応!!」
「敵か!数は!?」
緊迫した空気がブリッジを包む。
しかしココの返答は…
「小型船が一隻…あ…いえ、所属はEDENです!!」
天使、再び舞い降りて…
第四章 「崩壊の序曲」
エルシオールの格納庫は大勢の乗組員でごった返していた。
腰の銃に手をかける者、好奇の目を向ける者…反応は様々である。
その人ごみの最前列中央にタクトは立っていた。突然の来訪者を歓迎するために。
ここしばらく、EDENからの使節が来ると言う話は聞いた事が無い。
ならばこの小型船は何ゆえトランスバールに来たのであろうか?
「さあて…鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだね。」
しばらくして小型船のハッチが開かれた。
そこに立っていた人物はタクトを、いやその場に居た全ての者を驚愕させる。
「…ルシャーティ……!?」
「…それで、ルシャーティの容態はどうなんです?」
タクトは今、医務室にいる。
あの後ルシャーティはその場に倒れこみ、タクトに医務室まで運ばれていた。
「かなり衰弱してるわね…。手は尽くすけど、話を聞けるようになるまでには多少の時間がかかると思うわ。」
「わかりました…また来ます。」
医務室を出て、がっくりとうなだれるタクト。
「ルシャーティ…」
タクトの脚はブリッジへと向いていた。
タクトはブリッジの前で立ち止まっていた。
深呼吸をし、無理やり笑顔を作ってから脚を踏み出す。
ドアが音を立てて開いた。
「早かったな。」
意外そうな表情を浮かべるレスター。
だが次の瞬間には厳しい顔へと戻る。
「それで、どうだったんだ?」
「何が?」
作り笑いを維持したまま、聞き返すタクト。
「…わかっていてとぼけるのは止めろ。それと、作り笑いもだ。」
タクトは降参と言ったように首をふった。
「かなわないな、レスターには。」
そう言った後表情を曇らせる。
「その様子では悪い方の結果だったようだな…。」
「まあね。そっちはどうだった?」
「妨害電波でも出ているのか…本星には通信が繋がらん。」
レスターは吐き捨てるように言った。
「どうするか考えるまでもないか。アルモ、全艦に通達。ただちに第一戦闘配備に移行。
エンジェル隊にも紋章機で待機するように伝えてくれ。」
「りょ、了解!」
騒がしくなり始めるブリッジ。
そして
「前方にドライブ・アウト反応!艦影多数!!」
「来たか…。」
タクトは司令官席のサブモニターに目を向ける。
「みんな、いけるかい?」
モニターに映っているのは、紋章機に乗り込んだエンジェル隊。
「ラッキースター準備完了です!ばーんってやっつけちゃいます!!」
「カンフーファイター出撃準備オッケーよ!」
「トリックマスターも準備完了ですわ。」
「ハッピートリガー、いつでも行けるよぉ!」
「ハーベスタ―…問題ありません。」
「シャープシューターも行けます!」
「みんな、久々の戦闘だけど油断しないで。…エンジェル隊、出撃!」
六人の声が一つに重なる。
「「「「「「了解!!!!」」」」」」
各々の想いを胸に飛び立つ天使達。
そして戦いの火蓋は切られた。
「敵艦隊、一直線に向かってきます!」
「両翼、前へ!敵艦隊を包囲するんだ!!本隊は敵をひきつけるぞ!!」
タクトの声で前進を開始する皇国軍。
互いの距離がしだいに縮まってゆく。…両艦隊の砲が一斉に火を吹いた。漆黒の宇宙を無数の閃光が飛び交う。
火力を正面に集中しエルシオール目指して突撃する敵艦隊。
対して皇国軍は戦力の大半を両翼に預けての包囲作戦を展開する。この場合一時的にだが旗艦に攻撃が集中しやすく危険である。
だがエルシオールの護衛には当然エンジェル隊も含まれていた。
トリックマスターとシャープシューターの遠距離砲撃を浴び、先頭の敵艦が爆散。
それを合図に一斉砲撃をかける皇国軍。敵艦隊はシールドを全開にし強行突破を試みるも、四方からの砲撃に陣形が乱れる。
タクトはその隙を見逃さなかった。
「フォルテ!!」
「あいよ!まかせときな!!…ストライクバースト!!!」
突如として襲い掛かった上方よりの砲撃に、成すすべなく爆炎を上げ轟沈する敵旗艦。
それを見た敵艦隊の動きが一瞬鈍る。…それは戦場において命取り以外の何物でもない。敵艦隊は次々と撃ち抜かれ、炎に包まれる。
…こうして両軍の初めての衝突は皇国軍の完全勝利に終わった。
『英雄』タクト・マイヤーズの采配を、ある者は畏敬の念を持って讃え、またある者は恐怖の対象としたと言う。
それ程までに見事であったタクトの指揮。だが勝利に浮かれる周囲とは対照的に、タクトの心は黒雲に覆われていた。
―何故、動かなかった…?
タクトがそれに気付いたのは戦闘終了間近、丁度敵旗艦が沈み掃討戦へと移行しようとしていた時の事。
包囲陣の両翼に配備した二つの小隊が半ば戦闘を放棄していた。その後、エンジントラブルによるものだと報告して来たが、タクトには
どうしても納得がいかなかった。
―…どういう事だ?
その時だった。
「タクトさん…?」
うつむいたまま考え込んでいたタクトを現実に引き戻した人物がいた。
ルシャーティである。
タクトは以前として昏睡状態にあったルシャーティの見舞いにきていたのだ。
「ル、ルシャーティ!!目が覚めたのかい!?」
「はい…ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です…。」
立ち上がろうとするルシャ―ティ。が、まだ体に力が入らないらしく
「きゃっ…!!」
小さい悲鳴をあげて倒れる。タクトがとっさに支えなければ床に落ちていただろう。
「無理しないで、今はゆっくり休むんだ。」
タクトの言葉にルシャ―ティが不思議そうな顔をする。
「聞かないんですか…?」
「後にするよ。ルシャ―ティがもう少し元気になったらね。」
医務室を出たところで偶然会ったヴァニラにルシャ―ティを任せ、タクトはブリッジへと歩き出した。
「さて…俺の読みは当たっているかな?」
タクトは一人呟くと、足を速める。
その表情に普段の笑みは無かった…。
あとがき
四度目となりました。刹那です。
さて、前の三つと比べると明らかにジャンルが違う気のする第四章です。いかがでしたでしょうか?
この先もジャンルはコロコロ変わっていくと思いますので余り気にしないで下さい。
…無理ですか?…無理ですね。(予想)
自分的には今までの軽いノリをぶち壊そうとしたのですが、まだまだ甘いです。
自らの表現能力の低さを実感しています…。(涙)
だからと言って止めるような事はいたしません。努力無くして成長は無しです!
と、いうワケで。何卒、最後までお付き合い頂きたく思います。
それでは、また!