「会議を開く。一時間後、会議室に各艦隊司令を集めてくれ。」

 

ブリッジに入ると同時に、タクトはレスターにそう告げた。

 

「…は?」

 

絶句するレスター。タクトの口からそんな言葉が出て来るとは夢にも思っていなかったようである。

 

「なんだ、急に。なにか悪い物でも食ったのか?だから拾い食いはするなとあれほど…」

 

自分のシートに座ったまま二人の会話を聞いていたアルモが大声をあげた。

 

「ええ〜!!マイヤーズ司令ってそんな事してたんですか!?」

 

その横ではココが微笑んでいる。

 

「私の半径一キロ以内に入らないでくださいね。」

 

苦笑いを浮かべるタクト。

 

「俺はどこに居ればいいんだい…?」

 

平然とした表情のまま、レスターが言い放った。

 

「脱出艇に乗ったままエルシオールに張り付いているのはどうだ?」

 

「…名案だね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      天使、再び舞い降りて…

 

                  第五章  「不協和音」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もうそろそろ集まってるだろうな。」

 

珍しく司令官室のデスクで書類整理をしていたタクトが呟いた。

あの後レスターに司令官達の召集を任せて自らはさっさと引き上げようとしたタクトだったが、

拳銃をつきつけられ、書類整理をやらされるハメになった。

その時の事を思い出し深い溜息をつくタクト。

 

「俺って総司令官だよな、一応。…なんか自信なくなってきたよ…。」

 

「はあ…さて、行くか。」

 

足早に司令官席を後にしたタクトが向かった先は会議室ではなく…

 

「こんにちは、タクトさん。今日はどんな御用ですか?」

 

「やあ、クロミエ。実は心を覗きたい人がいるんだけど…」

 

「はい。それで、どなたですか?」

 

タクトは一瞬の間を置いて言った。

 

「今、会議室に集まっている司令官全員。頼めるかい?」

 

不思議そうな表情をするクロミエ。傍らでは子宇宙クジラが鳴き声を上げている。

 

「…わかりました、少し待ってください。」

「…ほとんどの方はタクトさんをとても信頼していらっしゃいます。ただ…」

 

クロミエの表情が曇る。

 

「ただ、なんだい?」

 

「何人かとても不安定な心の人がいます。焦りと迷いが強く感じられるそうです。」

 

顎に手をあてて考え込むタクト。

 

「だれが、ってのはさすがに無理かい?」

 

タクトの問いかけに、クロミエは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「すみません…。僕も宇宙クジラも会った事がないもので…」

 

「いや、いいんだよ。ありがと…」

 

ありがとう、と言おうとした時、タクトのクロノクリスタルが発光した。

そして聞き覚えのある誰かの怒鳴り声。

 

「タクトォォォォーーーーー!!!!」

 

「うわあっ!レ、レスター!?」

 

「お前どこで油売ってやがる!もう全員集まってるんだぞ!!」

 

軽い溜息をつくタクト。そして…

 

「レスター…」

 

「何だ。」

 

「あんまり怒るとシワが増えるよ?」

 

「…………………アルモ…タクト・マイヤーズ少将は名誉の戦死を遂げたと報告しておいてくれ。」

 

通信の向こうからアルモの声が響いてくる。

 

「し、しかし…」

 

「問題ない。今から俺が殺ってくる。」

 

「了解です。」

 

「わーー!ま、待てレスター、俺が悪かった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約十分後、会議室に頭から血らしき物を流したタクトが、レスターに引きずられてやって来た。

 

「す、すまない皆。待たせたね。」

「…ですので、とりあえずはエラクリオンを当面の目標とします。」

 

今、会議室ではクラウディス准将が作戦の説明を行っていた。    ※エラクリオン…第三方面にある資源衛星の名称。

昨日の夜タクトがまとめた物である。                       現在ではクーデター勢力の軍事拠点となっている。

タクトは、面倒という理由で説明をクラウディスに任せているのだ。         周辺には残骸などの暗礁空域が多いのが特徴。

 

「…以上です。何か質問は……無いようですね。ではこれで会議を終了します。各自、作戦に備えてください。」

 

次々と退室していくメンバー。

その様子をジッと見つめていたタクトに、最後尾のクラウディスが声を掛ける。

 

「マイヤーズ少将、お疲れ様でした。」

 

「いや君のおかげで特にやる事も無かったしね……ところで…」

 

話題を変えるタクト。

そして、一呼吸おいてから話始める…。

 

「君はあの中に内通者がいるとすれば、誰だと思う?」

 

厳しい目つきでタクトを睨むクラウディス。だがタクトは意に介した様子も無く、笑みを浮かべたままだ。

 

「何か確信に近い響きを感じますが…?」

 

「うん。俺はそうだと思ってる。」

 

即答したタクトに面食らったのか、クラウディスは驚きの表情を隠そうともしない。

しばらくたってからようやく口を開く。

 

「申し訳ありませんが、誰が…というのはわかりかねます。」

 

「しかし、おそらくは先の戦果のおかげで身の振り方を考え直している時でしょう。勝つ方につかなければ意味はありませんからね。

つまり連中が裏切るも裏切らないも…」

 

「俺の指揮しだいだと?」

 

クラウディスは目を伏せて答えた。

 

「…そうなります。」

 

「わかった。引き止めて悪かったね。」

 

「いえ…それでは失礼します。」

 

クラウディスが部屋から出て行った後、

タクトは一人呟いた。

 

「クラウディスは……無いな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時間後にはエラクリオンに到着します。総員第一戦闘配備にて待機!エンジェル隊は紋章機に搭乗お願いします!」

 

ブリッジにアルモの声が響く。

 

「…作戦どうりに動いてくれるといいんだけどなあ。」

 

レスターが怪訝そうな表情をする。

 

「誰の事だ?」

 

「今はまだわからないね。」

 

「ますます意味がわからんぞ…。」

「間もなく到着します!」

 

「さて、と。始めようか…。」

 

「…ドライブ・アウト!!」

 

 

 

 

 

再び星々の大海へと姿を表したエルシオール。

思えば、この時既に崩壊と言う名の歯車は回り始めていたのかもしれない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも。最後だけ無理矢理シリアスっぽくしている刹那です。

エンジェル隊…出てきませんでしたね。(汗)

どうしてこうなってしまったのか…。

今後はこんな事が無い様頑張ります。一応、ALLキャラですので。

 

さて…書いてみて思ったのですが…、

クラウディス出番多っ!!

最初はそんなつもりじゃなかったんですけどね。

まあそういうわけで、あとがきの下に設定を載せておきますので興味がある方はよんでみて下さい。

それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フルネーム  クラウディス・ティースクリッド

 

性別 男   年齢 25

 

 

その他備考

 

第七遊撃艦隊司令。階級は准将。

搭乗艦はヴァーミリオン。

物腰は丁寧だが妙な威圧感を放つ事もしばしば。

レスターの性格を柔らかくした感じ、とはタクトの談。

名門ティースクリッド家の嫡男だったが、

中央の仕事を蹴り艦隊司令になるあたりはタクトに似ている。

趣味は読書とチェス。