「…あれ……?」

 

「どういう事だ…。」

 

エルシオールのモニターに映る信じられない光景に、タクト達は呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   天使、再び舞い降りて…

       

                第六章 「悪夢の再来」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も居ないな…」

 

「誰も居ないね。」

 

「…策的範囲内には反応がありません…。」

 

エラクリオンはクーデター勢力の一大拠点である。

それをあっさり放棄する等、正気の沙汰とは思えなかった。

 

「ま、わからない事を議論しても仕方がない。このまま接近してみようか。」

 

ゆっくりと接近する皇国軍。次第にエラクリオンが迫ってくる。

 

「本当に何も無いのか…?」

 

タクトが疑問の声を上げた。その時だった。

エルシオール全体が大きく揺れた。

 

「ぐ…どうした!状況を報告しろ!!」

 

「Bブロックに被弾!第二装甲板まで貫通!!」

 

「何だと…。」

 

驚愕の表情を浮かべるレスター。

無理も無い。先ほど周囲には反応がないと報告されたばかりなのだから。

 

「どういう事だ!何故気が付かなかった!?」

 

「し、周囲の暗礁空域にステルス機能を備えた大型戦闘機が潜んでいたようです!!」

 

レスターは舌打ちをした。

ココに責任が無いのはわかっていても、感情が高ぶってしまうのだろう。

 

「機体照合急げ!!」

 

「はい……そ、そんな、これは…!」

 

「どうした、はっきり報告しろ!!」

 

「…ダークエンジェルが五機です!」

 

ココの言葉に、それまで黙っていたタクトが椅子から立ち上がり声を上げた。

 

「エンジェル隊緊急発進!各艦隊は周囲の警戒を…」

 

タクトが言い終える前にココが悲痛な叫び声をあげる。

 

「後方にドライブ・アウト反応!!敵艦隊です!!」

 

「…初めから罠だった、というわけか。どうするタクト?」

 

うなだれるレスター。だがタクトは…

 

「多分、なんとかなるよ。…ノアが約束を守ってくれて、間に合えばの話だけどね。」

 

「何を言って…」

 

その時、ココが再び叫び声を上げた。

 

「敵艦隊の後方に更に反応…黒の艦隊です!!」

 

それを聞いたタクトは勝ち誇ったような顔をした。

 

「ほらね。何とかなったろ。」

 

だがその時…

 

「かつての仲間と戦う事になるとは…ああ!運命とはなんて残酷なんだ!!」

 

男性とは思えぬ高さに生理的嫌悪感を抱かせる喋り方…

やけに聞き覚えのある、だが絶対に聞こえてくるハズの無い声。

 

「か、か、カミュさん!?」

 

凍りついたタクト達の変わりにミルフィーユがその人物の名を呼んだ。

 

「ああ!嬉しいよマイハ二ー!僕の事を思っていてくれたんだね。」

 

「思ってません!!わたしが好きなのはタクトさんだけです!!!」

 

「ああ!ああ!そんなに喜んでくれるなんて…今行くよマイハニー!!」

 

「こないでください!タクトさん、助けてください〜!!」

 

見事なまでに会話が噛み合っていない。

もし彼がカミュ・O・ラフロイグでなく何者かが演じているのならば、

その何者かも最早正気とは言えないだろう。

しかも…

 

「うおおぉぉぉ〜!!久しぶりだな、ランファ・フランボワーズぅぅぅぅ!!!」

 

「ふん、この程度の策に引っ掛かるとは案外馬鹿な連中だな。」

 

「俺は敵を討つのみ…」

 

「へへへ、どーだ驚いたか!ムッツリ女!!」

 

「ヘル・ハウンズ隊だと!?」

 

レスターが驚きの余り声を張り上げる。

 

「なんでアンタ生きてんのよ!?」

 

「信じられませんわ…」

 

「…何度出てきたって落とすだけさ!」

 

「…………」

 

「あれがヘル・ハウンズ隊。エオニア戦役で先輩がたが戦ったという…でも!負けません!!」

 

やけに落ち着いているタクトにレスターが問い掛ける。

 

「どうするんだ、タクト!封印されたままの紋章機なら性能は互角…!!」

 

「何もしなくていいと思うよ。だって互角なら…」

 

そう言ってタクトはモニターを指した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!横から狙撃だとぉぉ!!卑怯者めぇぇぇぇ……」

 

「この僕が…うあああああああ!!!」

 

「これまでか…」

 

「カミュの兄貴ィ!助け…ぎゃああああああ!!」

 

「……多い方が勝つ。」

 

「なるほどな…」

 

レスターが納得した顔で頷く。

だが、モニターに最後に残った機体が映し出されると、言葉を失った。

 

「馬鹿な…!!」

 

映っているのはカミュのダークエンジェルと、それを包囲するエンジェル隊。

状況は六対一であり、エンジェル隊優勢のはずなのだが…

 

「キャッ!…う〜また当たっちゃいました。」

 

「この!この!…なんで当たんないのよ〜!!!」

 

「フライヤーが半数も落とされるなんて…信じがたいですわ…。」

 

「くっ!もうもたないよ!!」

 

「ナノマシンが不足し始めています…。」

 

「エネルギーが半分を切りました…!!」

 

 

 

 

ハッピートリガーとトリックマスターの弾幕をかいくぐりフライヤーを次々と撃ち抜いていくダークエンジェル。

「美しい攻撃だ。でも僕には届かない。」

直後、一筋の閃光がハッピートリガーのシールドに当たってはじける。

「く、この!なめるんじゃないよぉっ!!」

高速でダークエンジェルの背後につくカンフーファイター。

「一撃必殺!!アンカークロー!!!」

急旋回でクローを回避したダークエンジェルはワイヤーを切断し、そのままハーベスタ―へ突撃。

ラッキースターのレーザーファランクスを、トリックマスターのフライヤーを、シャープシューターのフェイタルアローを、

脅威的な反応速度で全て回避し、一撃でハーベスタ―の大型シールドを破壊する。

「…………!!」

コントロールを失い動きの乱れたハーベスタ―に更にミサイルが連続して直撃する。

「…ハーべスター…損傷率80パーセント…ナノマシン、射出できません……」

その通信を最後に気を失うヴァニラ。だがトドメは刺さず反転し標的を変更するダークエンジェル。

「さあ、マイハニー。君の番だよ。」

「させません!!」

ラッキースターとダークエンジェルの間に割ってはいるシャープシューター。

しかしすれ違い様に推進機関に直撃弾を受け炎を上げる。

「きゃあああああ!!!」

「「「「「ちとせ!!」」」」」

「ああ、ミルフィー。僕達二人は例え神でも引き裂けない運命なんだよ!!」

「そんな運命知りません!!お願いだから来ないで下さい!!!」

逃げながらありったけの射撃を浴びせるラッキースター。だがすべて漆黒の宇宙へと消えていく。

ダークエンジェルに背後を突かれ、もはやこれまでかと思われたその時…

「どうやら今日はここまでのようだね。さよなら天使たち。次に会う時を楽しみにしているよ。」

「え…」

反転しクロノ・ドライブに入るダークエンジェルをみて、

ようやく周囲の状況に気付いたタクト達。

ヘル・ハウンズと共に現れた艦隊が皇国軍と黒の艦隊の挟撃を受け、全滅していたのだ。

一気に力が抜けたのか倒れるようにしてシートに体を預けるタクト。

 

「エンジェル隊、帰還してくれ…。ハーベスタ―とシャープシューターには救命艇を…。」

 

「…了解しました…。」

 

レスターが深い溜息をついて言った。

 

「タクト。格納庫にいけ。今のエンジェル隊にはお前が必要だ。……入港の指示は俺に任せておけ。」

 

「ありがとう、レスター。」

 

タクトはレスターに礼を言ってブリッジを後にした。

 

「(紋章機のダメージも大きそうだった…ノアに何をいわれるかな…)」

 

そんな事を考えながら、タクトは格納庫のドアを開いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

刹那です。

…カミュ以外のヘル・ハウンズ完全におまけと化してますね。

しかもカミュ強すぎです。

本当はエンジェル隊が勝つ予定だったんですよ。

なのに書いてる内にこうなってしまって…(涙)

次、どうしようかと考えてます。

それでは、また…。