タクトは司令官室での一件の後、レスターに言われた通り艦内を歩き回る事にした。

そして今、ゲストルームの前に立っている。

 

「やっぱりさっきの事はルシャーティに謝っておかなきゃな…。」

 

服装を整え、深呼吸してから壁のインターホンに手を掛ける。

静か過ぎる艦内では耳障りな音をたててドアが開いた。

 

「タクト…さん?」

 

呆気に取られるルシャーティ。頬には涙の跡らしきものが見受けられる。

タクトは軽い自己嫌悪に襲われたが、それを顔に出す事は無い。

 

「やあ、ルシャーティ。今ちょっといいかな?」

 

「…は、はい!」

 

少しの間固まっていたルシャーティだが、ようやく笑顔になりタクトを中に招き入れる。

 

「お茶を持ってきますね。」

 

タクトをソファーに座らせ、部屋の奥へとルシャーティは歩いていく。

俺と同じ対応だな、と薄く笑うタクト。

少し経ってルシャーティがティーカップとケーキを乗せたトレイを持って来た。

どこか危なっかしい手つきでケーキを切り分ける。が、過度に慎重なその動きはケーキを切っているようにはまるで見えない。

 

「はい、どうぞタクトさん。」

 

ありがとう、と礼を言ってフォークを手に取りケーキを口に運ぶ。

その瞬間タクトの動きが止まった。

 

「この味は…」

 

「やっぱり気付きました?」

 

そのケーキはミルフィーユが作った物と殆ど同じ味だった。

 

「これは…ルシャーティが?」

 

「はい。前からミルフィーさんに教えてもらってたんです。タクトさんが好きなケーキを…それで…その、少しは元気がでるかなって…」

 

 

 

 

 

タクトは胸が締め付けられたような気がした。

 

 

 

          

          

 

 

 

―――――何をやってるんだ、俺は――――

 

 

 

 

 

 

 

―――――ルシャーティに。故郷を追われ、悲しみに沈んでいてもおかしくない少女にまで心配をかけて。――――

 

 

 

 

 

 

本当にレスターの言葉そのままだな、と思わず苦笑するタクト。

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、大丈夫だよルシャーティ。…俺はミルフィーの無事を信じてるから。」

 

「レスターに強烈なパンチも貰ったしね。」

 

そういってタクトは赤くなっている頬を指す。

そうですね、と満面の笑みを浮かべるルシャーティ。

 

 

タクトは思った。

 

 

 

何故この少女はこんなにも強いのだろう、と。

 

 

 

「俺も見習わなきゃな…」

 

「え…?」

 

「何でもないよ。…それより、ケーキもう一切れくれるかな?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     天使、再び舞い降りて…

 

                 第十章 「彼女のいない日常」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局謝れなかった……俺は何をしに行ったんだか。」

 

「…でもまあ、楽しかったしな…。」

 

ブツブツ独り言を言いながら歩くタクト。

 

「まあ、それは良かったですわね。」

 

どこかから声が聞こえてくる。しかしタクトは上の空だ。

 

「そうそう、ケーキも美味しくてさあ…」

 

「あら、ケーキまで頂いたんですの?」

 

「うん。ミントにも食べさせてあげた……ってミント!?」

 

「『ってミント!?』ではありませんわ。」

 

タクトの後ろから話し掛けていたのは、ミント。

背が低くて気付かなかったとでも言うつもりなのか。

 

「や、やあミント。い、いい天気だね。」

 

「通信を切ったまま一時間も何をしていたのかと思えば…ルシャ―ティさんと甘〜い一時を過ごしていたのですか…」

 

「いや、あのね…。そ、それよりミントは部屋で沈んでるって聞いてたんだけど?」

 

半ば強引に話題を変えるタクト。

 

「私も信じる事にいたしましたわ。…ミルフィーさんの無事を、タクトさんの判断を…。」

 

「ミント…………心読んだね?」

 

「何の事でしょう?…それより副指令がブリッジでお待ちですわ。」

 

真面目そうな表情から無邪気な笑みに変る。

 

「はあ…わかったよ。」

 

「ヴァニラさんとちとせさんの事は任せておいてくださいませ。」

 

「ああ、それじゃ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い!!!」

 

先程からレスターはブリッジの中を行ったり来たりしていた。

たまに立ち止まったかと思えば、床を靴の踵で叩いている。

明らかに苛立っている。

 

「タクトめ…一時間以内に戻れと言っておいたというのに…!!」

 

そこへ間の抜けた声が響いた。

 

「悪いレスター、待たせたね。」

 

「……」

 

まるで悪びれていないタクトの姿に呆れ顔のレスター。

 

「…まったく……まあいい。アルモ、ココ、後を頼む。」

 

「はい。」

 

「了解です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、タクト。」

 

エルシオールを降りてすぐ、白き月の格納庫でタクト達を迎えたのはノアだった。

やけに素直なその言葉に面食らった様子のタクト。

 

「え?あ、ああ…ただいまノア。」

 

「…なによ、私が言うのがそんなに可笑しい?」

 

ノアは明らかに不機嫌そうな顔をする。

 

「い、いやあそんな。ノ、ノア今日は一段と可愛いね。」

 

「…アンタ最低ね…」

 

「…アハハ……」

 

「何かあったのですか、マイヤーズ司令…?」

 

タクトとノアの間に流れる険悪なムードを感じたのか、シャトヤーンが声を掛ける。

 

「ノアも行く前は上機嫌だったのですが…」

 

「上機嫌…?」

 

「よ、余計な事いってんじゃないわよーーーー!!」

 

顔を真っ赤にして声を張り上げるノア。

そしてレスターが控えめな声を出した。

 

「…シャトヤーン様、そろそろ本題に…」

 

「そうですね…。」

 

 

 

 

 

 

 

「…ですので、補給には7日程かかると思います。それと…」

 

シャトヤーンはそこで言葉を切り、ノアに合図をした。

 

「はあ…。で、これが補給物資のリストよ。」

 

「……GA−OO8?…それにGA−009!?」

 

タクトとレスターは顔を見合わせる。

 

「新型…かい?」

 

「ええ。でも、一機はパイロット不在。一機は未定。…すぐには使えそうに無いわね。」

 

「不在?…それって…」

 

「…GA−008はラッキースターの後継機よ。だから…」

 

「だからそれはアンタが渡してあげなさい。ただのガラクタにしたら承知しないわよ?」

 

そう言って薄く笑うノア。

 

「…ああ!必ず。」

 

そしてタクト達は話を切り上げ、ひとまずエルシオールに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ。…ホント、泣けるわね…。」

 

「ノア…」

 

「ん…そんな顔しないでよシャトヤーン。…別に、わかってた事だから…」

 

 

 

 

 

 

一滴の涙がノアの瞳から零れ落ちた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

…刹那です。

 

いや、その…何かイマイチですね。(苦笑)

まあコンセプトはノアも普通の女の子なんです!……みたいな感じで。

次はいよいよジーダマイア編、決着です。

気が向いたら読んでみてくださいね♪

 

ではでは、刹那でした。