「エルシオール、出港します」

 

アルモの声に続いてモニターの向こうのノアが言った。

 

「気を付けなさいよ。いくら強化したってテンションが低ければただのガラクタになるんだから」

 

「ああ。色々ありがとう、ノア」

 

厳しかったノアの表情が緩む。

 

「…ええ。また本星で」

 

通信ウインドウが消える。

それと同時にタクトが声を上げた。

 

「エルシオール、発進!!」

 

「了解!クロノ・ドライヴに入れ!目的地、惑星トランスバール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 天使、再び舞い降りて…

 

            第十六章 「ヘル・ハウンズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間も無くドライヴ・アウトします。マイヤーズ司令、至急ブリッジにお戻り下さい」

 

ドライヴ・アウト30分前を示す艦内放送が入る。タクトはそれをベッドの中で聞いていた。

 

「ふう…もうそんな時間か」

 

重い体を起こし、一人呟く。

 

「今の声、アルモじゃ無かったような…まあいいか」

 

行けばわかる事と、手早く着替え司令官室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、おはよう!!」

 

ブリッジに入るや第一声がそれか。断っておくが、今は一般に深夜と呼ばれる時間帯だ。

 

「おはようございます、マイヤーズ司令。 …今は夜ですけど」

 

「まあまあココさん。良いじゃないですか」

 

ココと先程の声の主が会話していた。

タクトはその人物を見つけ、固まる。

 

「ルシャーティ…?」

 

その言葉を聞き、慌てて立ち上がるルシャーティ。見事なまでに敬礼が似合っていない。

 

「本日付でエルシオールの通信オペレーターになりました、ルシャーティです。マイヤーズ司令」

 

「は…?」

 

ルシャーティの言葉を、ココとレスターが補足する。

 

「何もしないでいるのは嫌だ、と仰るので…」

 

「言っておくがアルモより優秀だぞ」

 

「うわっ…それ非道くないですか?副司令」

 

普段とはまるで見当違いの方向からアルモの声が聞こえてくる。

念の為、タクトがその方向に目を向けると…

案の定アルモがレスターの隣に座っていた。そして、タクトに敬礼を送る。

 

「本日付で副司令補佐官になりましたアルモです」

 

そんな役職、エルシオールにあったか? …頭の中でツッコミを入れるが、口には出さない。

 

「とにかく、ふざけてないで自分の席に…」

 

「司令!何ですかその言い方は!!ルシャーティさんを追い出すなんて許しません!断固拒否です!!ストライキです!!!」

 

アルモの剣幕に気圧されるタクト。

 

「う…皆の意見は?」

 

「別に構わん。少将になってもさぼりまくる馬鹿がいるせいで人手が足りないからな」

 

「…誰だろうね、それ?」

 

「さてな」

 

レスターの嫌味に沈むタクト。

 

「ココは?」

 

「いいんじゃないでしょうか。それに、好きな人の為に何かをするっていうのは私もちょっと憧れ…」

 

「わーー!わーーー!!ココさん、それ以上言っちゃ駄目です!!!!!!」

 

慌ててルシャーティがココの口を塞ぐ。手遅れな気がしないでもないが。

 

「? …まあ、皆がそう言うなら。でも、本星までだよ?」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

そのままタクトが溜息混じりに自分の席に着いた時、ココが叫んだ。ブリッジの空気が一変する。

 

「…!! 敵大型戦闘機5機接近!ヘルハウンズです!!」

 

「5機だけか?」

 

「はい」

 

レスターが吐き捨てるように言った。

 

「まるで捨て駒だな…エオニアの奴…!!」

 

「…総員、第一戦闘配備!エンジェル隊に出撃命令を!!」

 

タクトの声でブリッジが動き始める。

 

「総員、第一戦闘配備に着いて下さい。エンジェル隊は発進お願いします!」

 

ルシャーティの声が響き、にわかに騒がしくなる艦内。

 

「エンジェル隊、発進します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミュ…本当に、これで良いのか?」

 

一度も話す事の無かったリセルヴァが、エルシオールを前にして口を開いた。

 

「…言っただろう、リセルヴァ。僕らの存在自体が歪みである事…」

 

カミュが答える。今の彼の声にも、表情にもいつもの自己陶酔的な物は無い。

 

「だが……!!」

 

「話は終わりだ。彼女達が来たよ」

 

リセルヴァの通信を切り、代わりにエンジェル隊へと通信を送る。

 

「カミュさん…」

 

「やあ、マイハニー。元気が無いみたいだね?」

 

「誰の…せいだと思ってるんですか…」

 

今にも泣き出しそうな程弱々しい声。

だがカミュはその声には答えず、機体を加速させる。

 

「ギネス、リセルヴァ、レッド・アイ、ベルモット…手出しは無用だ」

 

そう言って手に力を込め、更に加速する。

 

「カミュさん……!!」

 

ミルフィーユもまた、機首をカミュへと向ける。

 

「ちょっと、ミルフィー!!」

 

「ごめん、ランファ。私がやる……ううん、やらなくちゃいけない…と思うから」

 

何か言葉を続けようとしていた親友の通信を切る。

 

「……!!」

 

宇宙に、光が瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

両者は一歩も譲らぬ戦いを繰り広げていた。

セレスティアルスターのレーザーファランクスが空を切り、ダークエンジェルのミサイルがミサイルによって相殺される。

 

「カミュさん! …どうして、エオニアさんなんかの言いなりになってるんですか!?」

 

「………」

 

バルカン砲を回避し、一直線に襲い掛かってくる。ダークエンジェルの両翼に装備されたビーム・カッターがシールドに当たり、セレスティアルスターが弾かれる。

 

「答えてください!! そんなに…そんなに戦争したいんですか!!!!!!」

 

「…戦争など大嫌いだよ。消えて無くなれば良いと思っている」

 

「え……?」

 

体勢を立て直したセレスティアルスターが距離を離そうとする。が、出力が上がらない。

 

「戦争は人を不幸にする。被害者という言葉を使うなら僕もそうかも知れない」

 

ダークエンジェルが旋回し、ビームの嵐が荒れ狂う。

 

「でもね、ミルフィー。理想ばかりでは生きていけない。 …だから僕は傭兵になった」

 

紙一重でビームを回避し、レーザーファランクスとミサイルを同時に放つ。

レーザーを掻い潜り、ミサイルを撃ち抜くダークエンジェル。

 

「なんで…なんで…!!」

 

すれ違い様にシールド同士が接触した。どちらもバランスを崩し、弾かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…願いは同じなのに、戦わなきゃいけないんですかっっっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

一瞬早く体勢を立て直したのは、カミュのダークエンジェル。

そして…セレスティアルスターの後方へ回り込む。

 

「あ……」

 

 

 

 

タクトが叫んだ。

 

 

ランファも。

 

 

ミントも。

 

 

フォルテも。

 

 

ヴァニラも。

 

 

ちとせも。

 

 

皆、同じ名前を口にしている。

 

 

 

だが、ダークエンジェルが光を放つ事は無かった。

 

 

次の瞬間、旋回したセレスティアルスターに撃ち抜かれ、動きを止める。

 

 

ミルフィーユが震える声で言った。モニターのカミュは血を流している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……撃たなかったんですか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さあ…どうしてかな…手が滑ったのかも…知れない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふざけないで…下さい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…君の言葉を聞いていたら…撃てなくなった。 …それだけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、カミュはうな垂れる。

 

「カミュさん!!」

 

「救命艇だ!急げ!!」

 

タクトが声を張り上げた。

今回ばかりは、誰も何も言わなかった。

 

助けたいと思った。多分その場の人全てが。

 

「ルシャーティ!ヘルハウンズに通信を!!」

 

「は、はい!」

 

数秒後、メインモニターにリセルヴァが映った。

 

「…何か、用でもあるのか…? タクト・マイヤーズ…」

 

タクトが言った。即答だった。

 

「これ以上、無意味な戦いはしたくない! …投降してくれ、悪いようにはしない」

 

おそらくは全員の想いを代弁した言葉だったろう。だが、その言葉が届くとは思っていなかった。 …タクト自身も。

 

 

 

 

「…了解した。リセルヴァ・キアンティ以下3名、そちらに投降する。誘導を頼む」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

「それが…カミュの意思だ」

 

 

 

 

通信が切られる。しばし立ち尽くすタクト。

そのタクトの肩にレスターが手を置き、目でブリッジのドアを指した。

 

タクトは黙って頷くと、足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

…無理ありすぎですかね?やっぱり。

でもヘルハウンズのイベント(?)はこんなもんじゃないですよ。エオニア編の終盤にもっとすごい見せ場を予定してます。

 

さて、もう少しで待ちに待った(私が)、オリキャラ達が登場します。

最悪今よりもっと、読むのが苦痛になるくらいの駄作になり下がる可能性がありますが、歯を食い縛って耐えて下さい。(ええっ!?)

 

ちなみに、強化後の紋章機が活躍するのももう少し先ですので。

 

 

ではまた。