「これから、何をしようかな」

 通路を歩きながら、タクトは歩く。考え事をしながら歩いていたため、いつの間にかレスターとルフトからはぐれたことにも気がつかず、はたと気がついたときには自分の居場所を見失っていた。

「あれ、ここはどこだ?」

 地図を見ても、どこに居るのか分からない。広すぎるのだ。並みの艦では、こうも簡単に迷いはしない。おまけにいろいろと施設があり、異世界に迷い込んだんじゃないだろうな、と真剣に疑い、タクトは途方にくれた。

「どうかなさったのですか?」

 そこに、救いの天使が現れた。ぐるりと後ろを向く。が、誰もいない。下をみると、ヴァニラの感情があまり感じられない視線とぶつかった。肩のリスが少し驚いたように身を竦ませているように見える。

「やあ、ヴァニラ。実は困ったことに道に迷っちゃってね」

「……そうですか。どちらにいかれますか?」

「この際だ。艦内を案内してよ。さすがに何度も案内を受けるのは、恥ずかしいからさ」

 何かあれば艦内放送で呼び出されるだろうし、と心の中で付け加える。

「では、どこに行かれますか?」

「……格納庫からだ。まずは紋章機について知らないと。前のときはあまりちゃんとした説明を受けていなかったし、君やミント、ルナの紋章機の説明を受けていなかったからね」

 そういうわけで、まず真っ先に格納庫へと案内された。道に迷わないように、目印になるものに見当をつけて。































 格納庫に入ると、そこにはフォルテが待ち構えていた。

「へえ、艦内の案内を受けていると聞いていたけど、まずここにくるなんてね。感心感心」

「誰からきいたんだ?」

「ルフト准将からさ。お前さんを見かけたら、誰でもいいから艦内の案内をしてあげてくれと頼まれたもんでね」

 そして、ヴァニラからタクトさんを見つけました、と連絡が来たという。なるほどなあ、とタクトは感心した。

「俺がはぐれたときにそんな段取りを組んだんだ。さすが先生だ」

「道に迷ったことを隠しもしないんだね」

「だって、実際に迷っていたわけだし」

 面白い奴だな、とフォルテは批評した。褒められているのか馬鹿にされているのか分からなかったが、一応御礼をした。

「ところで、紋章機のことを教えてくれないか?前のときは大雑把に聞いただけだし」

 ああ、いいよとフォルテは答えて紋章機の説明を開始した。

「ラッキースターは高いレベルで整えられたバランスタイプだけど、クロノストリングエンジンを一つしか積んでいないから出力にむらがあってね、ミルフィーユ以外ではどうあっても乗りこなせないのさ」

「なんでミルフィーユだけ?」

「いずれ分かるさ。さて、次はカンフーファイターだ」

「ランファさんの機体です。速度と機動性を重視しているため、回避性能は非常に高く、接近戦タイプということができます。しかし、その分装甲が薄く、防御能力は紋章機の中で最も低いということができます」

 ふうん、とタクトは納得した。つまり、撃墜されないように気をつけなければならないのは他の紋章機も同じだが、カンフーファイターは特に気を使わなければならないらしい。

「次はミントさんのトリックマスターです。フライヤーを数基積み込んでおり、そのフライヤーを用いた遠距離攻撃、そして広範囲のレーダーを装備しています。機動性はカンフーファイターほどではありませんが、高いですが、速度は遅いほうになります」

「あたしのハッピートリガーほどじゃないけどね。攻撃力を重視しているから、速度は遅いのさ。けど、防御力はその分高い」

 まるでランファのカンフーファイターと逆だ。

 ヒットアンドアウェイを得意とするカンフーファイターと、真正面からの打ち合いを得意とするハッピートリガー、といったところか。機体の特性を考えれば、なるほど、悪い戦法ではない。というよりは、それが最善だろう。

「私の紋章機、ハーベスターは攻撃には向いていません。かわりに、紋章機の修理を行うことができます。自機の修理は行えませんが、ナノマシンの散布を行えば、自機の修理も可能になります」

「防御力も高いし、トリックマスターよりも若干早い。なにより紋章機の修理ができる。ヴァニラがいなかったら、とっくにエルシオールが沈んでいてもおかしくないくらいさ」

 それほどでも、ないと思いますとヴァニラは少し顔を赤くして俯く。

「最後にルナの紋章機、ダークライトのことだけど……よく分からないね。調査の任務の際にも、あれの出撃許可が降りたことはなかった」

「……そのあたりはルナに聞いてみないと分からないな。……でも、スペックは分かるんじゃないか?」

 ふむ、とフォルテは少し考えて、答えた。白き月を脱出した際に使用したからだ。

「そうさね……ラッキースターよりも若干遅く、兵装はハーベスターとよく似ている。ブースターと長高出力シールドがあること……攻撃にはあまり向いていないけれど、ハーベスターのサポートが向いているということができる……それぐらいだね」

 つまり、よく分からないということだろう。情報が少ないからだろう。

「閲覧できないかな?」

 ダークライトのデータを。訊ねると、フォルテは首を横に振った。

「紋章機はそれ自体がブラックボックスの塊だけど、ダークライトはそれに輪をかけているからねえ……あまり、参考にはならない」

 そうか、と肩をすくめた。そうとなれば、シャトヤーン様か、シヴァ皇子に聞かないと分からないだろうと見当をつける。

 封印されている理由も、関係しているだろうなあ、とタクトは考えた。

 あるいは、ルナに訊くか。仮にも搭乗者なのだから、何か知らされていてもおかしくはない。

「後でルナに聞いてみることにするよ。ありがとう、フォルテ。それじゃあ、次に行こうか、ヴァニラ」

「次はどこのことを知りたいですか?」

「艦内の施設を全部、周らないとね。一応司令官になったんだから」

 分かりました、とヴァニラは答え、クジラルームへと案内した。





























 海があることにまず驚いた。ホログラフか、と思った。その考えを見抜いたのか、ヴァニラは「本物です」と口を添える。

「艦内に、海……それは、すごいなあ」

 呆然とするもの無理はない。通常の艦にプールが備え付けてあるというのならばまだしも、本物の海が備え付けられているというのは、さすがに予想外だった。

「こんにちわ、ヴァニラさん。あなたがタクト・マイヤーズ司令ですか?」

 その二人に声をかける人物が一人。小柄な少年だった。

「始めまして、クジラルームの管理人を行っているクロミエ・クワルクといいます。よろしくお願いしますね、マイヤーズ司令」

「俺のことはタクトでいいよ。クロミエ……だったっけ」

「分かりました。では、タクトさんと呼ぶことにしますね」

 とクロミエが口にした瞬間に、ざざざざざざああああああああああああ、という音がすると同時に真っ暗になった。

 停電か、とあわてふめくタクト。

 きゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんん………

 雄大な鳴き声が響く。

「な、なんだなんだ?」

「宇宙クジラも歓迎しているそうです」

「クジラ!?宇宙クジラだって!?とっくに絶滅したかと思っていたのに」

 宇宙空間を漂う、というよりも泳ぐことができる生物だ。半ば宇宙船の構造を持っているこの生物は、EDEN時代にあった乱獲などにより固体数を減らし、絶滅してしまったという。

 生き残りがまだいることに驚くが、エルシオールにいることにもっと驚く。

 驚きがさめれば、タクトは素直に宇宙クジラと邂逅できた幸運に喜ぶ。と、

「そう思っていただけて嬉しいそうです。タクトさん」

 まるで心でも覗いたように、クロミエが話しかける。驚くと、ヴァニラが教えてくれた。

「宇宙クジラには人の心を読むことができます。そして、クロミエさんは宇宙クジラと会話ができる特殊な人なのです」

 だから、クジラルームの管理人を任されているのだとヴァニラは続ける。

 なるほどなあ、とタクトは納得した。

「ですから、エンジェル隊の皆さんのことで悩むことができたら、相談に来てくださいね」

 こっそりと耳打ちをする。タクトはそれに、あいまいに笑って答えた。

「できれば、あまりお世話になりたくはないけど」

 クロミエはその返答ににっこりと笑った。なんというか、不思議な少年だった。

 管理人室に動物や植物園があるというので、見に行ってみる。

「おお、宇宙ウサギだ。かわいいなあ」

 抱き上げようとすると、ウサギはおびえて逃げる。ああ、と残念そうにタクトはため息をつく。その逃げる宇宙ウサギを追いかけ、拾い上げたのはヴァニラだ。

「ずいぶんなついてるんだな。安心しているみたいだ」

 先ほどは脅えて逃げ出した宇宙ウサギだが、今は脅えている様子が見えない。

「そうなのでしょうか」

「うん、そうだよ。世話してあげてるの?」

 クロミエはええ、と答えた。世話の手伝いをしに来てくれますから、と続ける。だから懐いているんだなあ、とタクトは理解した。

「俺も懐かれるまでには、時間がかかりそうだな」

 植物を見て周ることにする。ある一つの植物が気になり、手を伸ばしてみる。タクトから目をはずしていたクロミエは、その直前に気がついて忠告をした。

「触らない方が……」

 いや、しようとした。え?と振り向いた瞬間に、指の腹を軽く切られた。

「いっ!?」

 さほどたいした痛みではないが、不意打ちだったので驚く。宇宙ウサギの世話をしていたヴァニラが、それを中断してやってきた。

「大丈夫ですか、タクトさん」

「ああ、軽く切られただけだし、唾でもつけておけば大丈夫だよ」

「いけません。それは迷信です。人の唾液には雑菌が混じっているのですから」

 言って、ヴァニラはタクトの手をとり、ナノマシンの操作に集中し始めた。

 ヴァニラははっきりとは言わなかったが、それは危険な行為だ。細菌の増殖作用を抑える力があるとはいえ、それがすなわち殺菌作用になるわけではない。食事をすれば必ず発生する虫歯の元になる菌や歯周病の元になる菌が血中に入り、心臓麻痺を起こしたという事例が数が多くないとはいえ存在するほどだ。

「失礼します」

 リスの形状を取っていたナノマシンの集合体が、光の粒子とでも呼べばいい形態に変化して、タクトの傷口を取り囲む。見る間にそれはタクトの指の傷を癒し、後も残らなかった。再びナノマシンはリスの形に戻る。

「すごいな、ヴァニラ。ありがとう」

「どういたしまして」

 それからまもなくして、二人は別の場所へと向かった。































 機関室、倉庫に案内された後、医務室を訪れた。

「失礼します」

「あら、ヴァニラ。…あなたがマイヤーズ司令?」

 椅子に座って医学書を読んでいた、見事なプロポーションの美女が眼鏡をはずしながら二人に話しかける。机の上にはカルテと、筆記用具、その他の書類および湯気を立てている、おそらくは淹れたてだろうコーヒーが整理されておかれていた。

「ええ、そうです」

「そう……私はケーラ。医務室で船医をしているわ。そうそう、ここにはヴァニラも良く手伝いに来るのよ」

「そうなんですか?クジラルームでも宇宙ウサギの面倒を見てましたけれど」

「他にもいろいろなところで手伝いをしているわ」

 そうなのか、とヴァニラを見る。あちらこちらで手伝いをするなんて、いい子だな、と。ヴァニラの年だったころの自分を思い浮かべるに、なかなかに自分勝手に生きてきたように思える。というか、ルナの世話になりっぱなしだったような……昔の話しだし、まあ、いいか、と自己完結するタクト。

「コーヒーでも飲んでいくかしら?」

「それはまた今度ということにしますよ」

 それにしても。つい畏まってしまうではないか。これが大人の女性というものなのだろうか、とつまらないことを考えてみたり。































 シミュレーションルームに彼女はいた。

「あら、タクトとヴァニラ。どうしたの?」

「やあ、ルナ。今エルシオールを案内してもらってるところなんだ。ところで、教えてほしいことがあるんだけど」

「なに?」

 もちろん、ダークライトについてだ。

「……今のあなたは司令官だものね。教えておかないと、いけないか」

 ふう、とルナはため息をついた。

「詳しいことは分からないけれど、あの紋章機は禁忌とされている。ダークライトのデータはシャトヤーン様以外に見る事はできない。教えてもらってはいないんだけど、ね。

 スペックとしては、紋章機最速。ただしブースターを使用してのことだし、ブースターを使用すれば旋回性が失われる。それに、ハーベスターと同程度の速さ。平均すれば、ラッキースターとハーベスターの中間程度ね。

 兵装は長距離ビーム砲、ミサイル、レーザーファランクス。出力が高いというわけじゃないから、兵装は立派だけど攻撃力は低い。

 高出力シールドは普段は使うことができないから、防御力にも不安がある。兵装を付け足したくても付け足すこともできない。……攻撃力は低い、速度は速いけど旋回性がない、高出力シールドは普段は役に立たない……それでも、シャトヤーン様はおっしゃった。この紋章機は切り札だ、って。禁忌だけど、もしもの時には使用しなければならない、紋章機」

 おかしな話だ。ルナの言うことが本当ならば、戦闘時にはあまり役に立たないのがダークライト。唯一目だっている兵装は長距離ビーム砲やレーザーファランクス程度で、後はミサイルのみ。この紋章機が切り札である理由とは、一体何なのだろうか。

「と、まあ、分からないづくしだけど、こんなところね」

 ちなみに、シミュレーションルームにたいてい居るから、と付け加える。何でと訊いたら、普段は紋章機に乗って戦場に出ることができないから、こうして戦闘時に得たデータを下にトレーニングを重ねているのだ、と答えが返ってきた。

 いざというときに、足手まといにならないために。

「ダークライト、嫌いじゃないからね」

 確かに役に立たないように思えるが、それでも何かしら可能性を感じるのだ。他の紋章機と比べても明らかに多いブラックボックスが指す物が何なのか、それは分からないが。

 ただ、たまに見ていると、恐ろしく不安になる。頼もしくも思えてくる。何故なのかは、分からない。

「やってみる?」

「遠慮するよ。まだ周らないといけないところあるし。ヴァニラの貴重な時間を俺につき合わせてるんだから」

「そう。それじゃあね、また会いましょ」

 別れを告げて、タクトは再びヴァニラの案内の元、エルシオールを周った。





























 宇宙コンビニに立ち寄ると、そこでは抽選が行われていた。ガラガラとミルフィーユが箱を回す。商品を見てみると、一等賞はリゾート惑星への旅行チケット。ペアで三枚、と書いてあった。妙なのは店員の表情だ。何故泣きそうなのだろうか。

 まわしているうちに箱から玉が出てくる。それは金色をしていた。一等賞だ。

「おめでとうございます、一等賞です〜、ペアチケットを進呈します」

 やけくそ気味にベルをガランガランと鳴らす。はあ、またこの人に持ってかれちゃいましたか〜、などと嘆くのが聞こえた。

 ちなみにこの抽選、キャンペーンのもとに行われているのだが、『ようこそエルシオールへ、タクト・マイヤーズ司令』記念キャンペーンなんて書いてあった。

 比較的大きな玉の汗をタクトは浮かべる。

「あれ、タクトさんにヴァニラさん。どうかなさったんですか?」

「いや、ヴァニラに艦内を案内してもらってるところなんだ。…連絡、なかった?」

 言われてミルフィーユは首をかしげる。

「そんな連絡来たかな〜」

「ミルフィーさん、スイッチ切ってませんか?」

 言われてクロノクリスタルをいじる。あ、なんて声が聞こえた。

「スイッチ、切っちゃってました」

 てへへ、なんて舌をちろりと出して笑う。

「一等賞当たったんだね。すごいなあ」

「ありがとうございます。おかげでペアチケットが三枚ゲットできました」

 はた、とタクトは固まる。一等賞の欄をもう一度良く見てみる。リゾート惑星旅行ペアチケット三枚まで。

 つまり、三回当てたということなのだろうか。なんという幸運なのだろうか。

「すごいなあ、三回も当てられるなんて。俺なんて、抽選でもくじ引きでも当たったこと、あまりないのに」

「あたし、運が強いですから」

 運が強い、という言い方にタクトはわずかな引っ掛かりを覚える。はて、幸運であるということとは違うのだろうか。

「……次は何が起こるんでしょうか」

 ヴァニラが妙に不安そうだった。タクトにはまだ分からない。何故不安そうなのだろうか。運が強い、とミルフィーユが言ったことと何か関係があるのか。

「いずれ分かります」

 訊ねてみると、そんな回答が得られた。

「それじゃあ、またね、ミルフィーユ」

「あ、あたしのことはミルフィーでいいです」

「分かったよ、ミルフィー」

 はい、と元気よく答えてミルフィーユと別れた。













 



















 次はどこに行こうか、とヴァニラが考えているところで。

 緊急事態を知らせるランプが点滅、警報が鳴り響き、続けざまに通信が入る。

『マイヤーズ司令は、至急ブリッジに来てください。繰り返します、マイヤーズ司令は至急ブリッジに来てください』

 まだエルシオール内を全部周ったわけではない。

「ああ、一端中断だな……また頼めるかい?」

「かまいません。私は格納庫に向かいます」

 あわただしくなって来た。ブリッジへの道は幸いにして覚えている。タクトはブリッジへと急いだ。































 ブリッジに入ると、レスターの叫び声が聞こえてきた。

「いくらなんでも無茶です、ルフト将軍!」

「レスター。何があったんだ?」

 やってきたタクトに遅い、と言ってから事情を話す。ルフトが、タクトのつれてきた艦隊を率いて、囮を行うというのだ。クーデター軍が付近を徘徊している。悪いことにエルシオールに気が付かれているというのだ。

 エルシオールが動けなくなっていることはエオニアの耳にも届いている。ならば、そこから脱出するように艦隊が動けば、どうなるか。更にその艦隊を引き連れているのがルフト・ヴァイツェンその人だと知れば。

 タクトは瞬時にそこまで判断する。レスターもそれは分かっている。これが現状で取れる最善の手だろう。紋章機を出して戦うという選択肢もあるが、それではクーデター軍が集まってきてしまう。ならば、呼び寄せた艦隊でシヴァ皇子を連れて逃げ出した、となればクーデター軍は間違いなく追いかけていくはずだ。

「……ルフト将軍、武運を祈っています。ローム星系でお会いしましょう」

 タクトは何の迷いもなく敬礼する。そして、タクトが初めてルフトを将軍と呼んだ時でもある。

「うむ……タクト。後は任せたぞ」

「はい」

 二人のやり取りを見て、レスターも腹をくくったか。レスターも敬礼した。

「武運を祈っています。……ルフト将軍」

「大丈夫。切り抜けて見せるとも」

 こうして、ルフトは囮となってクーデター軍を引き連れていった。勿論シヴァ皇子はエルシオールに居る。

 戦闘が開始するが、ルフトの指揮の元で一隻も欠けることなくクーデター軍を振り払い、クロノドライブに入る。

 タクトは艦内放送をかけた。

「モニターの近くに居るものはモニターの前に集まってくれ。全員、ルフト将軍に敬礼!」

 ざっ、と大きな音が響く。寸分たがわず、皆同じタイミングで敬礼をした証だった。

「無事で居てください、ルフト先生……」

 その思いは、その場にいるもの、ルフトの指揮下にあったもの一同の思いでもあった。