トランスバール、EDEN、ヴァル・ファスク、これらの戦いの歴史で大きな活躍を見せたエンジェル隊並びにタクト・マイヤーズ。
彼らの活躍はいまや知らない人間はほとんどいない、それほどにその名は知れ渡っているのである。
しかし、有名・無名は別として彼ら以外にも活躍している人間は大勢いる。
今回はそんなレギュラーじゃないけどそこそこ出番のある、または出番はないけどインパクトの強い者たちに視点を向ける物語、題して―――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
準レギュたちの平凡(?)な一日
―――――――――アルモ&ココ編―――――――――
「え〜〜!?あたしって準レギュだったの!?」
「そうよアルモ、私たちだってオペレーターとしてだけじゃなくて色んな所でコツコツと出番を稼いでいるのよ!」
ココ自分の今までの小さな努力を思い返しながらグッと拳を握っていた。
「あたしはまだレギュラーじゃなかったの!?」
「・・・・・・・・・そこまで自分を持ち上げてたんだ・・・・・・・・・『あたしは』っていうのが何かもう泣けてくるわ・・・・・・・・・」
こういうさりげないセリフにこそ密かな人の本心が表れてくるのは悲しい所である。
「・・・・・・・・・にしても」
話はひと段落した所で、ココは肘をついた両手であごを支えながら隣にいるアルモの方をチラッと見ると軽くひとつタメ息をつく。
「・・・・・・・・・何なのよ?」
あまりに露骨に呆れた様子のココに少々腹を立てる。
「昔はしょっちゅう後輩の恋愛相談に乗ってたあなたが、今じゃ三流少女漫画の主人公みたいだなぁって思って」
「あぁ、そんな事もあったわねぇ・・・・・・・・・」
/
『――――で、結局2人っきりになったは良いけどさっぱり会話もできずに10分間ず〜っと無言だったと・・・・・・』
『はい・・・・・・いざとなると言葉が出ずに・・・・・・』
当時のココ、アルモたちは白き月でもそこそこ有名な存在だった。
性格は明るく活動的で技術能力も高いアルモ、大人しく控えめだが冷静な判断に長け知識も豊富なココ。
そのため後輩たちからのも色々な面で相談されていた。
『恋愛っていうのは多少押しが強いくらいでちょうどいいのよ、そうすればこっちが少しでも弱気を見せれば心配してくれるんだから・・・・・・・・・恋愛は押しなのよ!押しのない恋愛なんてあんこのないラーメンと同じよ!』
『い・・・・・・いらないと思いますよ?』
/
「どうして自分で言ったことが実行できないのかしらねえ?」
「な〜〜んか、あの時はついノリで言っちゃったのよね〜〜・・・」
頭を抱えた状態で軽くギシッと椅子を鳴らせながら後ろへと体重をかける。
「そういえば、あの後輩の娘に協力する時あなたにお金貸したわよね?」
「あ……あれ〜〜・・・・・・そうだっけ?」
言葉を濁しながら目を泳がしている様子から決して忘れてる訳ではないらしい。
「でもココも知ってるでしょ?あたし給料日前であんまり持ってないのよ・・・」
「ええ、だからアルモの持ち物から相応の物をもらえばいいわよ?」
「私の持ち物っていえば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・副指令から私への愛?」
「それ言ってて虚しくない?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
しばらく無言のまま二人は時間を過ごす。
「・・・・・・・・・えぐっ・・・・・・・・・・・・えぐっ・・・・・・・・・・・・」
「はいはい、泣くぐらい虚しくなるなら言わなきゃいいのに・・・・・・・・・・・・・・」
―――――――――白き月編―――――――――
ノアの日常、それはほぼ7割がロストテクノロジーなどの研究の毎日だった。
時も正午となり、ノアはモニターの電源を切ると白き月の食堂へと向かうことにした。
以前までなら簡易的な携帯用の食事で済ませていたのだがシャトヤーンから『人との交わりをおろそかにしない方が良い』と諭され、以後できるだけ食事は食堂で摂ることにしている。
基本的には我が強く他人の意見は取り入れないノアだが、どうにもシャトヤーン相手になると弱いらしい。
「何かあの雰囲気で詰め寄られると反論できないのよね〜〜〜・・・・・・・・・」
そう独り言をこぼしながらも食堂に着くと、そこには死屍累々とした月の巫女(白き月の住人の総称)たちの無残な姿だった。
「な・・・・・何これ?」
どれだけの推理を組み立てても今の状況を理解するまでに至らなかった。
「ノア!何をこんな所で呆けている!?早く逃げろ!!」
「あらシヴァ、あんた来てたんだ」
声を荒げて姿を現すシヴァに対してノアはこの状況でも平然としたものだった。
「落ち着いている場合じゃない!早く逃げないとシャトヤーン様が来るぞ!!」
「は?シャトヤーンが??」
事態はまだよく解らないが、シヴァの切羽詰った様子からここは素直に従った方が得策だと考えたノアはシヴァと共に場所を移動することにした。
「で、一体何があったのよ?」
「その前に、今日は何の日か分かってるか?」
ここまで急いで走って来た時に乱した息を整えながら逆にノアに問いを投げかける。
「今日は・・・・・・・・・・・あぁ、バレンタインデーとかいう恋愛ごっこの日でしょ?」
シヴァの問いかけの真意がいまいち分からないといった様子で今日の日付を記憶の中にある情報に符合させながら曖昧に答える。
「その通りだ、私も仕事の合間を縫って久しぶりに来たからあの現場を見るまで忘れていた・・・・・・・その様子だとお前はシャトヤーン様の料理を食べたことがないらしいな」
「だから、もっと直接的に話しなさいよ!一体何が起きてる訳!?」
いきなり訪れた非日常的な出来事に加え、シヴァの前フリに少し苛立ちを覚える。
「落ち着けノア、顔が黒い」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「あんたねぇ、『声がでかい』を間違えて『顔がでかい』ならまだ分かるけど・・・・・・・・・・『顔が黒い』?」
「すまない・・・・・今のは本当にすまない・・・・・・・・」
「・・・・・・話はそれたが、シャトヤーン様は毎年バレンタインデーになると男女問わず白き月にいる人間に手作りのチョコを配る・・・・・・そしてそのチョコを食べた人間の末路がお前が食堂で見たアレだ・・・・・・・」
「・・・・合点がいかないわね、そんな毒物もどき食べなきゃいいだけじゃない」
いくらあの惨状を作り出した元凶とはいえ、相変わらず歯に布着せないノアだった。
「・・・・・あれはその場に立ってみないと分からない・・・・・・・とにかく命が欲しいならまずは逃げることだ」
「なら、固まってるよりバラバラに逃げたほうがいいわね」
それからシヴァと一旦別れたノアは正直自分たちのとっている行動に馬鹿らしさを感じていた。
先ほども言ったとおりそれがどれだけまずかろうと食べなければ良いだけの話だ。
シヴァは何やら意味深なことを言ってはいたが、あのシャトヤーンが嫌がる相手に無理やり食べさせるとは到底思えない。
つまりは見つかろうと見つからなかろうと断ればそこまでなのだ、そう思うとこんな鬼ごっこをするよりもさっさと食事を済ませて研究の続きをする方がよっぽど有意義ではないか。
頭の中でそう結論を出したノアは早々と食堂へと再び向かうことにした。
「あれ・・・なんか増えてない?」
ノアが食堂に着くと最初に見たときよりも更に意識をなくしている人間が確実に増えていた。
「まったく・・・・これじゃ交わりをおろそかにするとかいう以前の問題じゃない・・・・・・」
ノアに他人との交わりを勧めた張本人が交わりようのない状況を作ってしまっては本末転倒だ。
食堂の料理人までも気を失っている今の状況ではどうしようもないので、とりあえず食券を買いあらかじめ置かれてある弁当を手にした・・・・・・・・その時、不意に背後に気配を感じた。
「あらノア、おはよう・・・・・・・・の時間でもないわね」
いつもと全く変わらない穏やかな声で挨拶を交わしてきたのは白き月の管理シャトヤーンだった。
「そ・・・・そうね・・・・・・」
相槌をうったものの、その声はあきらかに動揺していた。
理由はもちろん急に声をかけられたというのもあるが、最大の理由はやはりこれだけの数の死体(死んでない)を作り出した張本人を目の前にしての恐怖だった。
恐れる必要はない、食べなければ良い、場に流されずに己を保ち論理を見失わなければこの場にいる者達の二の舞になどなりはしない、ノアは必死に自分にそう言い聞かせた。
「ところでノア、今日はバレンタインデーという女性から男性へとチョコレートを渡す日なのですが、普段の感謝の意も込めて私は白き月の全員にチョコレートを配るようにしているの」
来た!
ここで猛反発しても怪しまれる、あくまで普段どおりに『あのね・・・・・あんたのその感謝の意でどれだけの人間が迷惑被ってるか分かってる?』とでも言えばお人好しのシャトヤーンのことだ、すぐにでも自らチョコを処分するだろう・・・・・・少なくともノアの頭の中ではそう論理立てられていた。
「あのね・・・・あんたのその・・・・・・・・・・・・・・・!!」
シャトヤーンの凶行に一喝しようと口を開いた時・・・・・・・・・・・自らの思い違いに気づいた。
ノアは今までシャトヤーンのチョコを食べてきた者達は月の巫女という立場上で月の聖母であるシャトヤーンの誘いを断れないでいたものだと思っていた、自分はその条件の範囲外だから大丈夫だとも・・・・
もちろんそれも否定できない、しかしそれ以上にこの神々しいほどの“自信はないけど一生懸命作りましたオーラ”がノアから拒否という選択肢を奪っていく。
「(の・・・飲まれちゃダメよ私・・・・・・・)も、も・・・・・・・貰っとくわ・・・・・・・・・・・」
2月14日、白き月からの通信が一切途絶える日。
―――――――――整備班編―――――――――
紋章機の整備も終わりエルシオールでは休憩の許可も下りている、にもかかわらず格納庫には整備班員全員が集合して何やら重苦しい空気に包まれている。
その空気の主導権を握っているのは整備班・班長クレータ。
カツっ
静まりきった格納庫の中で一歩だけ歩みを進めようやく口を開く。
「信じたくなかった・・・・・・・・・・でも間違いなくこの中に・・・・・・・・ユダ(裏切り者)がいるわ!」
ザワッ!
クレータの言葉はあきらかにクルーたちを動揺させる。
「ユダっていう事は班長・・・・・・・・・・」
「ええ・・・・・」
「この中にアニーズのライバルグループ『ジェニーズ』のファンクラブの人間がいるわ!!!」
「そんなっ・・・・・・・・・・・・・!!」
「アニーズのためになら命すら問わないと誓った私たちの中に!?」
「ありえないわ!私たちは全員アニーズのイベントに出るためにクーデターまで起こした仲なのよ!!?」
注)アイドルグループの話です。
「静粛に!残念だけど・・・・・・・・・・・・犯人はもう分かっているのよ・・・・・・・・・・・・・・」
瞳に悲しげな色を混ぜながら手持ちのバッグの中から一台のビデオカメラを取り出す。
「あなたが犯人よ・・・・・・・・防犯カメラに何もかも映ってたし、あなたの持ち物の中から巧みに隠されていた『ジェニーズグッズ』も検出されているわ・・・・・・・・・」
指差された人物は目をうるませながら愕然と膝をつき、糸が切れようにうなだれた。
「う・・・・・・裏切るつもりなんてなかったんです・・・・・・・・今でも・・・・・私のアニーズに対する愛は本物なんです・・・・・・・・こんなつもりじゃ・・・・・・・・こんなつもりじゃなかった!!」
今まで溜めてきた罪悪感という名の感情が破裂したかのように止らない涙を両手で抑えながら謝罪の言葉を口にする。
「どうして・・・・・・・どうしてこんな事をしたの整備班A!」
「一緒に様々な法の目をかいくぐって『ジェニーズ撲滅運動』までやったじゃない!」
未だに目の前で起こっていることが信じられないといった様子で整備班の一人が彼女に問いかける、中には犯罪の匂いを漂わせる内容も混じっている。
「ちょっと待って!いくら今回限りのゲストキャラだからって整備班Aはないんじゃない!?」
「わたしも・・・・・・・納得できないわ花子!」
「ごめん、やっぱり整備班Aでいいわ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「最初は友達から薦められたプロモーションビデオを仕方なく見ただけだった・・・・・・・・・・たったそれだけで気がつけば私の心の中を彼らの存在が占めていった・・・・・・・・」
注)くどいようですがアイドルの話です&彼女は一度も直接本人に会ったことはありません、
立て続けに彼女を責める中、クレータが彼女にそっと手を差し伸べる。
「ごめんなさい、あなたがそこまで真剣だったとは知らなかったわ・・・・・・・・あなたのその美少年を想う心意気・・・確かに受け取ったわ・・・・・・・・私だってもしシヴァ女王陛下の正体を知らなかった時、密かに狙っていたもの」
/
ゾクッ!!
「な・・・・なんだ今のは!?」
「何?なんかあったの?」
「いや、何か悪寒が・・・・・・・・・・」
「はぁ??」
/
「大丈夫・・・・・・あなたがこれからもアニーズを愛し続けるなら私たちはこれからもあなたの味方よ!」
「班長〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
こうして整備班のクルーは信頼を深めていく。
―――――――――クロミエ編―――――――――
クロミエ・クワルク、宇宙クジラとの会話が可能な能力を持つ少年。
彼の普段の話し相手は何も宇宙クジラだけではない、クジラルームには大量の植物たちが存在する。
植物には意思がある、そして植物には人の感情を読み取ることが出きると言われている。
故に宇宙クジラがクロミエに植物の心を代弁さえすれば会話は成立する。
クロミエの朝は早い。
朝早く起きて植物たちに水やりをするのが彼の日課である。
「やあ、おはようコロシテシマエホトトギス」
『誰の名言だよ!?朝の爽やかな雰囲気ブチ壊しじゃねえか!!』
「今日も元気だねコロシテ」
『うっわ、嫌な区切り方だな・・・・・・』
彼は宇宙テーブルヤシのコロシテシマエホトトギス、通称コロシテ。
気性の激しいこのクロミエ編のツッコミ担当である。
『おはようクロミエ、毎日お水をありがとう』
「僕が好きでやってる事だから、気にしないでクレオパトラ」
『なんだよこの差は!?ぶっちゃけ虐めだろオイ!!』
彼女は宇宙ミクロソリウム・スコロペンドリウム 、通称クレオパトラ。
ほんわかとした雰囲気がどこかクロミエに似たこのクロミエ編のボケ担当。
『それにしても大変だな、今トランスバール本星じゃ水不足なんだろ?』
ちなみにこの情報はエルシオール内の噂話を熟知している宇宙クジラ経由である。
『あら、きっと大丈夫よ『きっと明日は晴れるから』っていうじゃない?』
『何でお前が知った風な事言ってんだよ!?つうか根拠ねえし!晴れちゃダメだろ!!』
『だってそう天気予報で言ってたもん』
『急に嫌な方向で根拠出てきたな!!』
これが普段の二人(?)のやり取り、そして彼らも含めて全ての植物たちを笑顔で見守るのがクロミエだった。
二人(?)の漫才にひと段落がつくと、クロミエはどこからか肥料らしきものの入った袋を取り出した。
「最近購入したんだけど、良かったらどうかな?」
『ひとつ聞きたい』
「何だいコロシテ」
『・・・・・・・・・最近狂ったように二足歩行で走り回りながら『あひゃひゃひゃひゃ〜〜!!』とか笑ってる植物を見かけるんだが何なんだアレは?』
クロミエはしばらく黙った後、にこやかな笑顔で袋の中から肥料を適量すくい出してコロシテの前に差し出した。
「効果覿面?」
「疑問系!?っていうか止めんかこの天然サドスティック〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
あとがき
どうも、相変わらず作品をひとつに絞らないまくらです。
その割りに書いてるのはギャグ・コメディばっかし・・・・・・・・
という訳で今回はサブキャラに視点を置いてみました、本当はもっと多くのサブキャラを登場させたかったのですが予想以上にひとつひとつキャラの話が長くて7人程度で終了です。
次回こそちゃんと連載ものに手を掛けたいと思いつつ、こんな作品ですが読んで頂けたなら幸いです。