「なあ、レスター」
「何だ、タクト」
「世界って、もうひとつあるのかな?」
ぴたり、と一瞬書類を片付ける作業をやめ、再度取り掛かる。
「またワケのわからんことを……いいから、仕事をしろ」
「その世界でも、俺は軍人で……やっぱり、俺なんだよな、そいつも」
「…聞いてるのか、人の話を」
「まあ、聞いてよ。…そっちでも、レスターがいるんだ。そっちでもレスターはやっぱりレスターなんだ。でも、違うところがある。眼帯をしていないんだ」
「……ふん……それで?」
あきらめたのか、それとも話を聞く気になったのか。
「それで、俺は気になったんだ。そっちの世界の俺は、どこの軍にいるんだろうって。……EDENの軍人だった」
「EDENだと?」
「…ひょっとしたら、そこはもうひとつ世界があるんだろうなって。思ったんだ。だって、夢にしてはあまりにも現実的だし」
「どんな世界なのか、気になるところだな」
「そうなんだよな〜。いまいち、どんな時代なのかはっきりしないんだ」
情報が少なすぎて、話にならない。
「…夢といったな?」
「うん、そう。夢。…あまりよくない夢見たいだけど。いつも、悪い予感がして、目を覚ますから」
「夢の中でか?」
「そう。こっちには何にもないのに、ね。あっちも平和なのに、どうして悪い予感がするんだろうって、気になるんだ」
「しかし、その話が本当だとして、お前はこっちの世界の人間だ。向こうの世界にはかかわれないだろう」
「まあ、そうなんだけどね。……さて、仕事をするか」
「ぜひそうしてくれ。こんなに溜めやがって……全く」
愚痴をこぼしながら、笑って答える。
本当に、悪い夢だ。その先には、破滅しか待っていないような……そんな、夢。
「……俺と同じだけど、違う俺か……」
レスターの耳にも届かないほど小さな声で、呟き、仕事を続けた。
「さて、さっさと片付けて、ヴァニラのところにいきますか」
愛する少女の名を呟き、タクトは仕事を続けた。
最近よく見る、遠い遠い、触れることも出来ない、見ることは出来る世界のことは、しばしの間忘れることにした。