――― 第7話 想い、届かず ―――

 

 

 

 

 

 突然の衝撃に艦体が大きく揺らぐ。

 

「ぐっ! ココ、状況は!?」

「待ってください……そんな!? 敵機、距離2000より本艦の推進部に向かって攻撃を行った模様!!」

「距離2000だと!? 何かの間違いじゃないのか!?」

「いいえ、信じられないかもしれませんが……。敵機の速度が速すぎるために、本艦に搭載されているレーダーでは捕捉し切れません!」

「そんな馬鹿な!?」

 

 ココの報告に、レスターの顔が驚愕の色一色に染まる。

 だが、それも無理も無い。

 目の前の機体とエルシオールの距離は、先程まで20,000を優に超えていた。

 にも関わらずに、相手は秒ともたたない一瞬で肉薄・攻撃を仕掛けてきたのだ。

 レスターの知る数々の機動兵器の中で最速であるカンフーファイター、圧倒的な加速性能を誇るプロトレギオンでさえ、ここまで加速・最高速は持ち合わせていない。

 そもそも、この2機の性能……速度が「人」が乗り込む機動兵器としては頂点に達しているのである。

 この2機を上回ると言う事は、パイロットの体への著しい負担の増加……最悪の場合、死を意味する。

 ここまで搭乗者……「人」を無視した兵器、その殺人的な負担に耐えうるパイロットは少なくともレスターの知識……常識の中には存在しなかった。

 

「先程の攻撃により、本艦のメインスラスターが大破! 事実上、本艦の航行能力を無力化されてしまいました!」

 

 しかし、その驚愕もアルモの悲鳴じみた報告とモニターに映し出された映像により新たなものに上書きされる。

 機体から大きく伸ばされた左腕部が、エルシオールのメインスラスターを握り潰していた。

 その様は左腕に施された塗装・装甲の形状と相まって、巨大な蛇そのものに襲われているかのように錯覚できるほどのものだった。

 されど、猛り狂いたる蛇の牙はこれだけに止まる事無い。スラスターに食いついていた牙が離れると同時に、蛇は瞬く間にその身を翻す。

 

「敵機、レーダーより消し……」

 

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッ!!!!!

 

 ココの報告をかき消すかのように再び艦体が軋み、悲鳴を上げる。

 先程のような鉄球をぶつけられたかのような強烈な衝撃ではなく、散発的な衝撃がブリッジを揺るがす。

 衝撃の正体はムシュフシュの左腕部に内蔵されたガトリングガンによるものだった。

 最も、ムシュフシュの機影を捉えることのできないタクト達にはそれを知る術は無いのだが。

 蛇は速度をそのままに、荒れ狂う暴風の如くエルシオールの周りを旋回し、銃弾の雨を次々と叩き込んでいく。

 天使の箱舟は、今までに体験した事のない大嵐の中に放り込まれたかのようだった。

 

「くそっ……! アルモ、被害状況は?」

「待ってください、マイヤーズ指令。嘘……! ミサイル発射管を初め、本艦の武装の殆どが先程の攻撃により無力化させられています!?」

「よくもまぁ、あの一瞬でやってくれるよ。ん? アルモ、ハンガー周りの被害は?」

「えっ? ちょっと待ってください……。発進ハンガーの周囲のブロックには目立った被害は出ていないようですけど……」

 

 何故、この場面でこの質問を投げかけてくるのか分からない。といった表情を浮かべながらアルモはタクトに報告する。

 アルモのその報告を受けタクトは、なるほどね。と小さく呟いた。

 

「何を一人で納得しているんだ、タクト?」

「ん、レスター。どうやら彼女の最大の目的は、俺達どころかシヴァ皇子でもないって事さ」

「!?」

 

 タクトの答えに、レスターは驚きを隠せないでいた。

 あの女……アルマがエオニア軍に組しているのならば、最大の目的はシヴァ皇子の奪取である。

 しかし、タクトはアルマの狙いはそれとはまったく別のものだという。

 彼女がこの艦に求める皇子以外の存在……。程なくして、レスターはその存在に行き着く。

 

「タクト、まさか……」

『その通りですよ、クールダラス副指令』

 

 彼がタクトにそのことを確認しようとした正にその瞬間、レヴィンの声がブリッジに響いた。

 

『あいつの目的はシヴァ皇子なんかじゃ無いんです。あいつの本当の目的は……』

「君達兄妹、だろ?」

 

 皆まで言うな、と言わんばかりにタクトはレヴィンの言葉を引き継いだ。

 

「さっきの通信でも彼女とは知り合いのようだし、なにか因縁めいたものが君達の間に感じられるしね」

『じゃあさ、タクト。早くアタシ達を出撃させて。今までのあいつの攻撃は全て、アタシ達兄妹に対するメッセージだと思うの。

 さっさと姿を見せろ……。という意味の、ね。もたもたしてると多分、今度はブリッジを潰しに来ると思うから』

「そうだね。どっちみち、エルシオールの戦闘能力は殆ど潰されてしまったし、後は君達とエンジェル隊の皆に任せるしかないからね」

 

 マリーの警告を聞いた後、タクトは目を瞑り一度だけ深く深呼吸を行った。

 目を開き、司令官の顔となったタクトから俺達とエンジェル隊に命令が下される。

 

「紋章機、レギオンシリーズ全機出撃!!」

『『『『『『『了解!』』』』』』』

 

 タクトの号令と共に、毒蛇が待ち受ける宇宙に七色の翼が飛び立っていった。

 

 

 

 

「くふふ、ようやくお出ましかい」

 

 足を潰し、牙をへし折った獲物の巣から、待ち望んでいたものが出てきた事を確認したアルマは身を震わせた。

 彼ら兄妹を取り逃してから早3年。その際に傷つけられた左目がチリチリと疼きだす。

 今でも、その時の光景は鮮明に思い出せる。

 焼け落ちる家屋の中、青年は見事に隙をつき、彼女から「正常」な左目を奪っていった。

 その時の剣の冴え、行動を起こす決断力の速さは、彼の剣の師でもある彼女も正直驚かずにはいられなかった。

 

「3年前で、このアタシに傷をつけたんだ……。あの坊やが鍛錬を怠るはずが無い、もっともっと強くなっているはずさね……!」

 

 これから剣を合せるであろう、彼女の自慢の弟子であるレヴィンの強さを思うとアルマの血はこれ以上なく滾り、より、彼女の中に眠れる狂気を引き出していった。

 顔のにやけが抑えきれない、それほどまでにアルマはこの状況を悦んでいた。

 無論、これらの症状の発生の根源が《生きている事を実感できる瞬間》が訪れているからであることは彼女自身が良く知っていた。

 

「さぁ、早くおいでよ。これ以上ないって程に、マリーお嬢ちゃんや天使のお嬢ちゃんたちと一緒に、ぐちゃぐちゃに殺してあげるからさぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 モニターに映る5人の天使と2匹の獣をに向かい、彼女は絶叫をあびせた。

 ここに来て、彼女の狂気はより大きく巨大に膨れ上がっていった。

 それこそまるで、いつ割れるとも知れない風船に大量の空気を入れていくかの様に……。

 

 

 

 

 宇宙空間へと飛び出したレヴィン達が最初に感じたものは、先程の艦内で感じていたものとは比べ物にならないような濃さを持った殺気だった。

 例えるならば、前者の殺気は澄み切った川の流れのような透き通ったモノであったのに対し、後者の殺気は底なし沼を彷彿とさせるような、深く濁ったものだった。

 エルシオールという濾過機を通していないからであろう。この宙域に充満する殺気はアルマの狂気を多分に孕んでいた。

 

(艦内で感じたものとは比べ物にならねぇな……。エンジェル隊の奴らは大丈夫か?)

 

 コックピットの中でこみ上げてくる悪寒に耐えながら、レヴィンは紋章機を駆る少女達の身を案じた。

 レヴィンとマリーがこの、狂気が剥き出しである彼女を殺気を全身に受け止めるのは2回目。元より戦闘意欲が強い《獣人》であることも関係してはいるが、この手の殺気についてはある程度の耐性を持っている。

 だが、《獣人》でもなければこの殺気を初めて身をもって体感している彼女達はどうなのか? もし、この殺気に呑まれているようであるのならば早急にエルシオールに帰還させた方が安全である。

 紋章機……H.A.L.Oシステムは搭乗者の精神的高揚、すなわちテンションの高さに応じてその性能が上下する。テンションが高ければ高いほどシステムは活性化し、紋章機の性能を極限まで引き出す事ができる。

 それこそが紋章機が皇国最強の兵器、と呼ばれる所以だった。しかし、最強の兵器といえども欠点は存在する。

 テンションの高さに応じて限りなく機体の性能を向上させると言う事は、テンションが低ければ低いほど機体の性能を損なう事をも意味しているのだ。

 「人の心」を媒介にしている限りは、避けられない問題なのだ。

 そして、本来の戦闘力が発揮できない紋章機がアルマに打ち勝つ事ができるのか? いや、出来はしないだろう。

 彼女の強さを知るレヴィンの本能は冷静にその答えに行き着いた。

 そうしてレヴィンは、エンジェル隊に向けて通信回線を開いた。

 

「ミルフィー、ランファ、ミント、フォルテ、ヴァニラ。大丈夫か? 少しでもこの殺気に呑まれているのなら、大人しくエルシオールに戻った方がいい」

 

 レヴィンのその通信の内容に、エンジェル隊の面々はぽかんと口を開けた。

 だが、それも数秒。いち早く、ランファが怒鳴る。

 

『なぁーに寝ぼけた事言ってんのよ、レヴィン! この程度でへこたれる様なアタシじゃないわよ。

 ううん、むしろその逆。こういったシチュエーションの方が恋も戦いも燃えるってもんよ!!』

『そうですよ、レヴィンさん。あたし達なら大丈夫です。いつものように、バァーンってやっつけちゃいましょう!』

 

 ランファの怒鳴り声に続いて、いつもと変わらない明るい声でミルフィーユが答える。

 

『心配してくれるのはありがたいけどねぇ、レヴィン。この程度の殺気に呑まれるほど柔じゃないよ』

 

 いつものように不敵な笑みを浮かべて、あたし達を見くびるなと言わんばかりに答えるフォルテ。

 

『……、ご心配は……無用です……』

 

 平時のように静かに、それでいて内に強い意志を持ってヴァニラはそう呟いた。

 

『えぇ、そうですわ。私達だって、ここまでの戦いを乗り越えてきたんですもの。こんなこと位で、へこたれる事なんてありませんもの。

 それに昨夜も言いましたが、レヴィンさんは何時も通りのレヴィンさんでいいんですの。弱気なんて到底、貴方には似合いませんわ』

「はっ、そうだったな」

 

 最後になったミントの答えを聞き、レヴィンは軽く自嘲した。

 何より、彼女達と彼は仲間なのだ。なら、彼女達の力を彼自身が信じなくて誰が信じよう?

 

『兄貴……、いらない心配だったみたいね。みんな、やる気満々じゃない。それにしてもミントぉ〜。昨日の夜、兄貴と二人っきりでどんな話をしたのかなぁ?』

『あぁ〜。それ、アタシも興味あるわねぇ。ミント、正直に白状しちゃいなさいよ』

『それは、私とレヴィンさんだけの秘密と言う事で……。詳しい内容は、貴女方の想像にお任せいたしますわ』

『『えーっ!? 何よ、それ』』

 

 マリーとランファが昨夜の事についてミントを追求するが、彼女は何時もと変わらない微笑を浮かべながらそれをかわした。

 望む答えを得られなかった二人は、異口同音に不満を口にした。

 無論、その程度で引き下がる事もなく、彼女達は再びミントから事の顛末を聞きだそうとした時だった。

 

「ミルフィー、避けろ!!!」

『えっ!?』

 

 通信機ごしにレヴィンの怒鳴り声が聞こえると同時に、プロトレギオンはラッキスターの前方へ向かって加速した。

 機体の後部に取り付けられたスラスターが点火すると同時に、黒の翼は獲物を見つけた狼の如くその速度を急激に高めていく。

 持ち前の加速力を生かし、ラッキスターの前に出たプロトレギオンはすぐさまレーザーカッターを展開した。

 そして、レーザーカッターの展開が完了した瞬間、光の刃に光の鎚矛が襲い掛かった。

 

 ガキィィィィンッッッ……!!

 

 

『きゃあぁぁぁぁぁっっっっ!』

 

 突如として発生した兵器同士の激突に、ミルフィーユは思わず悲鳴を上げた。

 ラッキスターの目の前で、激突した二つの光がせめぎあう。

 一つはプロトレギオンの翼部から展開されたレーザーカッター。

 深い海の如き青色を湛え、ラッキスターに振り下ろされようとした一撃をすんでの所で阻んでいた。

 それに対する、血の如き紅の光を宿す禍々しき鎚矛。ムシュフシュの主兵装であるレーザーメイス。

 幸運の星を地に叩き落そうとした一撃は、突如としてその間に割り込んだ古の軍団の刃により星を叩き落すまでは至らなかった。

 バチィン、と一際大きな火花を宇宙空間に撒き散らし、二機は互いに距離を取った。

 

「間に合ったか……。ミルフィー、無事か?」

『は、はい。あたしなら大丈夫です』

 

 モニターごしに映るミルフィーユの表情は、何時ものものより硬いものだった。

 距離を取ると同時にプロトレギオンの機体が光り輝き、黒き剣士へとその姿を変えた。

 

『いい反応だねぇ。また、腕を上げたのかい。それでこそ、殺し甲斐があるってものさ。そうだろ、レヴィン坊や?』

 

 通信機から実に楽しそうなアルマの声がレヴィンの耳に届く。

 

「随分と余裕だな、アルマ。今のお前が置かれている状況が全く分からないわけじゃねぇんだろ……!」

 

 そう言い放つと同時に、剣士の背中から幸運の星を守った青き輝きが抜き放たれる。

 しかしそれは、さっきの様な細く鋭い輝きではなく、目の前に存在する存在を斬り砕くかのような巨大かつ凶暴な様をまざまざとアルマに見せ付けていた。

 レヴィンが最も信頼する兵装……相棒、と言っても過言ではない大太刀型レーザーブレードによるものだ。

 光の切っ先は寸分違わず、目の前にいる毒蛇に向けられていた。対する毒蛇も体勢を低くし、虎視眈々と次の攻撃の機会を窺っていた。

 一触即発とは正にこのことか。ピン、と張り詰めた空気が両者の間を駆け巡る。開戦の狼煙がもう間もなく上がろうとした、その時だった。

 

『兄貴、ちょっと待って! アル姉(ねぇ)と、少しだけ話をさせて!!』

「マリー! 今更、あいつと話す事なんざ……」

『兄貴になくても、あたしにはあるんだよ! お願い……、だから……』

 

 コクピット内にマリーの懇願が響く。そしてレヴィンは本来、技術屋である妹が何故パイロットになることを望んだのか、その理由を思い出していた。

 

 

―― アル姉ともう一度、話がしたいから。会って、本当の事を聞きたいから ――

 

 

 レヴィンの脳裏に、必死になって自分と隊長を説得しようとする当時のマリーの姿が映る。

 幼い心を精一杯奮い立たせ、二人分の怒声に涙を浮かべながらも、決して引かずに自身の想いを、覚悟をぶつけてきたその姿が……。

 

「手短にな。だが、もしもの時は……。分かってるな?」

 

 切っ先は相変わらず目の前の機体に向けながらも、レヴィンはマリーの願いを認めた。

 

『ありがとう……。兄貴』

 

 そうレヴィンに向かってマリーは礼を言い、彼女は機体をムシュフシュの方に向けた。

 

『レヴィン、いいのかい?』

 

 コクピットのモニターに、フォルテの顔が映る。その表情には、心配などといった様々な思いが入り混じった複雑な色を浮かべていた。

 他のエンジェル隊の面々も、フォルテと似たような表情を浮かべている。

 確かに、あそこまで明確にこちらに対しての敵意を示している人間と何を話すと言うのか?

 エンジェル隊の面々が思っているであろう、この疑問は至極真っ当なものだ。

 しかしそれでも、このことはマリーにとって……いや、レヴィンもアルマを恨みながらも心の奥底で望んでいた事なのだ。

 

「いいんだ。アルマともう一度会って話がしたいために、あいつはパイロットになったんだ。止める事なんて、出来ねぇよ」

 

 ポツリ、と呟くようにレヴィンは静かに言った。

 だが、その静かさとは裏腹にその言葉に込められた想いはあまりに重く、そして強いものだった。

 

『そうかい……。それなら、仕方ないね』

『フォルテさん!?』

『ランファさん。今は黙って見届けて差し上げましょう? ミルフィーさんも、それでよろしいですわね?』

『う……うん』

『ちょっと、ミルフィー!』

『人には……、譲れない……思いがあります』

『あぁ、もう……! 分かった、分かりましたよ! 黙って見てればいいんでしょ!?』

 

 フォルテの答えに納得がいかなかったのか、ランファが食いかかろうとするがミントとヴァニラの言葉を受けて渋々と納得した。

 ミルフィーユも一応は、承諾してくれたようだ。

 そして、レヴィンとエンジェル隊のコクピットにマリーとアルマの会話が流れてきた。

 

『アル姉、久しぶり。時間も無いから用件だけ、言わせてもらうわね。……なんであたし達の街を襲ったの?』

『なんだい、話ってのはそんなくだらない事かい……。待ってあげて損したねぇ』

『くだらなくなんかない! あの街は、アル姉にとっても故郷なんだよ!? 少なくともあたしの知ってるアル姉は、何の理由も無しにあんな事はしない!』

『理由? そんなものは簡単さ……。殺したかったから。それだけさね』

『嘘……!』

『嘘なんかじゃないさね。これは、嘘偽りのないあたしの本心さ』

『嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だッッ!! アル姉はそんな人じゃない!

 仮にそうだったとしても、そんな人間が、兄貴に剣術を教えたり、あたしに機械の事を教えてくれたり、あたし達と一緒に遊んでくれたりなんか……』

『忘れたよ、そんなこと』

『………………ッッッ!!!』

『話はそれだけかい……? それじゃ……その首、戴くよ』

 

 そう言い終ったその刹那、メインスラスターと肩の大型ブースターを起動させ、毒蛇は白の銃士に襲い掛かった。

 

「させるかっ!」

 

 ムシュフシュが駆け出すと同時に、機体のスラスターを起動させレギオンソルジャーのもとへと疾走した。

 だが、速度の面においてムシュフシュの右に出るものはない。剣士の爆発的な加速を嘲笑うかのように、光の鎚矛が銃士のコクピットに振り落とされようとしたその時だった。

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァaaaaaaaaaaa!!!!!!!!』

『ちぃぃぃ!』

 

 ズドガガガガガガガガガガガッッッ!!

 

 突如として上げられた雄たけびと共に、プロトレギオンはムシュフシュに向けて主砲以外の全ての武装を開放、ありったけの弾丸を発射した。

 爆煙が蛇と銃士の両方を包み込む。通常では考えられないほどの至近距離での全開放(フルオープン)。少なからず、レギオンソルジャー自体も何らかの損傷を負った筈だ。

 だが、それ以上にムシュフシュの被害は酷いものになるだろう。

 あの距離でハッピートリガーの《ストライクバースト》には遠く及ばないとはいえ、あれほどの弾幕を避ける事は不可能だ。

 誰もがそう思った。

 煙がはれる、その時までは……。

 

「な……に……!?」

 

 煙がはれ、レヴィン達の目に映った両機の姿は彼らの想像を裏切るものだった。

 拉(ひしゃ)げた翼、叩き潰された2門のレールキャノン、トマホークと《インコム》を搭載していたバックパックは無残にもその残骸を周りにばら撒いていた。

 機体の各部からは、鮮血の如くスパークが絶え間なく散っていた。至近距離での全弾発射の反動にしては、余りにも大きすぎる。

 誰がここまでの傷をレギオンアーミーに負わせたのか、考えるまでもなかった。

 何故なら、銃士に撃ち抜かれたと思われた蛇の体には、ほんの小さな傷さえも付いていなかったのだから……!

 

『つまらないね、本当につまらない。くだらない話を振ってきた挙句、逆上のあまりに我を忘れての無謀な行動……。

 興醒めだよ……! この、小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 ドガァァァッ……、グシャアァァァァン!!!

 

 狂気を孕んだ叫びと共に、ムシュフシュはボロボロになったレギオンアーミーをメイスの柄を用いて殴り飛ばした。

 殴り飛ばされたレギオンアーミーは、そのまま勢いと速度を落さずに小惑星に激突した。

 ただ、不幸中の幸いか。機体正面から激突しなかったため、コクピットブロックが潰れるという最悪の事態は避けられたようだ。

 

「マリーぃぃぃぃぃぃ!!」

『うるさいねぇ! たかが、小娘が暴走して自滅しただけの事じゃないか!! それにしても癪だねぇぇぇぇ、コクピットを潰しそこなったよ!!!

 たくっ……! あの距離で撃たれちゃあ、回避行動を取るしかないじゃないか! お陰でこの様さ、満足な一撃も与えられなかったよっっ!!』

「アルマぁぁぁぁぁ、てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

『お待ちよ、レヴィン!?』

 

 フォルテの制止の声に耳を傾ける事無く、レヴィンは怒りに任せ機体をアルマに向けて加速させた。

 

『レヴィンさんっっ!?』

 

 モニター越しに怒りに歪むレヴィンの表情を見たミントもまた、彼を止めるために駆け出した。

 

『待ってよ、ミント〜っ!』

『まったく。 皆、二人のフォローをしに行くよ。遅れんじゃないよ!』

『了解しました……』

『言われなくたって!』

 

 レヴィンとミントに遅れること数秒、フォルテ達も自身の紋章機を加速させた。

 

 

 

 

 あとがき

 

 1ヵ月半くらい、音沙汰のなかったNarrでございます。

 読者の皆様は、覚えておいででしょうか^^:

 

 さて、なんとか書き上げた第7話。もう1話くらいはVSアルマになりそうです。

 あと、この話では地の文を第3者視点にしてみたのですが如何でしょうか?

 至らない点がありましたら、ガンガン突っ込んでください。

 

 今回はこの辺で筆を置こうと思います。