−ヘルハウンズ祭EXTRA−




この祭にはミルフィーユ・桜葉と蘭花・フランボワーズの姿もあった。

二人は仲良く連れ立って歩いていた。
「ランファ〜、このわたあめすっごくおいしいよ〜」と食べながら気楽に言うのはミルフィーユ。
「あんた食べすぎよ…」と答えるランファ。
ミルフィーユはさっきから目に付いたものをどんどん買い、次々と平らげている。
この間にも、わたあめを食べ終わらないうちから「あ、ランファ〜!あっちにぶどう飴が!」などとあちこち見てはしゃいでいる。


ふと、ミルフィーユは気付いた。――そういえば、ランファは全然食べてないんじゃ?
ランファは辛党なので、出店によくあるりんご飴やわたあめなどの甘いお菓子は口に合わないのである。
―さっきたこやきを二人で分けて食べたけど、それ以外は全部あたし一人で食べたし…

そこで「ねえ、ランファ、次は一緒に焼きそば食べよ〜」と、ランファを誘ってみる。
「いいけど…」あんた、まだ入るの?という顔でミルフィーユを見る。
「行こ〜」とランファの腕を引っ張っていく。



その先には焼きそばの出店がある。焼きそばの焼ける香ばしい匂いが広がる。
じゅーじゅーと焼ける音、鉄板とこてがぶつかる音、そして―
「よく来たなぁぁぁぁぁ!蘭花・フランボワーズ!我が生涯の強敵よぉぉ!」という大声。
ちなみに強敵と書いて「とも」と読む。
毎度毎度ランファに懲りずに絡んでくる暑苦しいこの方、ヘルハウンズ隊のギネス・スタウト君は何故か…焼きそばを焼いていた。
「うるさいわよ!」とランファは叫ぶが、相手は全くひるむ様子がない。
「…鉄板がなかったら張り倒してやるのにっ」ランファが抑えた声で言う。

「焼きたてだぁぁぁぁ!」ぽすっ、と透明パックが二つ重ねて渡される。「注文したのは1つだけど…」とミルフィーユが遠慮がちに切り出す。
「一つはおまけだぁぁぁぁぁ!思いっきり辛くしておいたぞぉぉぉぉ!」と叫ぶ。
よく見ると、上にある方のパックだけ、やたらと赤みがかっている。
唐辛子の粉でも入っているのだろうか。

「…ありがと」ランファは素直にお礼を言う。
次の客が焼きそばを注文し、ギネスがそちらに掛かっている間に、二人はその場を離れた。



人が多い中で食べるわけにいかないので、少し離れた小高い丘に上り、二人並んで座った。
そして焼きそばのパックを開ける。
「おいしいね〜ランファ」ミルフィーが食べながら言う。
ランファも自分の分を食べながら、「…まあね」と呟く。
赤みがかった焼きそばはちょうどランファ好みの辛さに味付けされていたのだが。
確かにおいしいけど、あいつが作ったとなると素直に褒められない。
と、半ばやけ食いのように食べていた。


―その時。
突然のぱん!ぱぱん!と銃声のような大きな音と強い光に驚いて二人は顔を上げた。
その先には大輪の花火があった。「わぁ…」感動の声が漏れる。
ランファを、ミルフィーを、花火の光が照らす。
「きれいね…」ランファがそっと呟く。
「うん…」ミルフィーもぼんやりと同意する。

「だけど…花火を一緒に見る相手があんただってのがね」ミルフィーを横目で見て言う。
「え?」
「彼氏と一緒だったら…最高にロマンチックな雰囲気なのに」ため息をつく。
あはは…とミルフィーユが苦笑する。


続いての打ち上げ花火は、花火大会でもあまり見ないようなものであった。
それを目にして二人は固まった。

夜空にあがった花火が、紫のバラの花と「愛してるよ(ハート)」の文字を形作る。
それが消えると今度は、ミルフィーユの似顔絵とともに「マイハ二ー!」が。

「…………え、えっと…?」いつも明るい笑顔を絶やさないミルフィーが困ったような笑みを浮かべている。
思い当たる人物といったら一人しかいない。

花火の方角から「マイハニー!僕の愛を受け取っておくーれー」と声がする。予想通りの人物である。
声の主、カミュ・O・ラフロイグの姿がスポットライトに照らされているかのように見えた。

「……ミルフィー、行くわよ」
ランファがミルフィーユの腕をつかんでその場を離れようとする。ミルフィーユは「え、でも…」とそちらを見る。
あれを放っておくのもどうか、と考えあぐねている様子。

その視線の先では、
「こんなところで会えるなんて、やはり僕たちは運命で結ばれているんだ…」とカミュが酔いしれている。

と、そこへ「おい!花火なんて危険なものを許可した覚えはないぞ!今すぐ中止しろ!」と走ってくる者がいた。
「クールダラス副会長…!」ヒーローを呼ぶヒロインの声でミルフィーが叫ぶ。

 ※注 (銀河祭実行委員会の)副会長。

「あの人も大変ねぇ…」ランファがしみじみと呟く。

カミュはレスターとその部下たちに回収されて「あぁぁミルフィー!僕らは引き裂かれる運命なのかいぃぃ…」と叫びながら運ばれていく。


ミルフィーとランファはさすがに唖然としていたが、こういう事態には慣れている。しばらくして立ち直ると、

「…行こっか」
「うん」
二人は祭の出店が立ち並ぶ広場へと消えていった。





ヘルハウンズ隊最後の一人、ベルモット・マティンはヨーヨー釣りの出店をしていた。
ぐりぐり眼鏡が特徴で、機械いじりが得意な少年。

普段は年上に囲まれて弟分として扱われているが、実は年下の面倒を見るのが苦にならない、というか好きなのである。
そんな彼だからヨーヨー釣りに来た子供たちとも楽しくやっていた。

さすがに夜も更けて子供の姿が少なくなったので、そろそろ閉店しようか、と思っていたところに、
ヴァニラ・Hが現れた。

彼女は一足早く店を閉め、店の片付けは後回しにしてこちらに来たのである。

「何で君が僕のところに…あっ!さては敵情視察に来たんだな?!」とベルモットが騒ぐ。
「…………」ヴァニラは無言。
「…何か言ってよ、いっつも僕ばっかしゃべってるじゃないか〜」と拗ねたように言うベルモット。
ヴァニラの表情に変化はない。

そして、言葉の代わりに、右手に握り締めたコインを出す。それはちょうどヨーヨー釣り一回分の料金であった。
それを見たベルモットは「いいよいいよ、知り合いからお金とるわけにいかないから」とその手を引っ込ませて、釣り針とボウルを渡す。


ヴァニラは、釣り針を顔の前に持ってきてじーっと見ている。
針金側を持って紙縒りの方を水につけようとしたところで、「わー!待って待って!逆逆!」とベルモットが慌てて止めた。

落ち着いたところで「もしかして、ヨーヨー釣りってやったことない?」と訊く。

「小さい頃からずっと、神殿にいたから…」ヴァニラが呟く。だから、あまり外の世界を知らない。知ろうとも思わなかった頃があった。
「…そっか」珍しくしんみりとベルモットが呟く。

「ヨーヨー釣りってのはね、こうやって紙縒りの端を持って、紙縒りを水につけないようにして針金を輪ゴムに引っ掛ける…あれ、おかしいな…」
自慢げに実演して見せたベルモットだが、輪ゴムに掛かったところでどうしてもかけ金が紙縒りから外れて落ちてしまう。

「あれー?レッド・アイの兄貴とかリセルヴァの兄貴とかはもっとうまくやってたのに…」
意地になって何度もやってみせるベルモット。その姿を、ヴァニラはじっと見つめていた。

「お?取れた、取れたよ!」ヨーヨーを釣り上げて子供のようにはしゃぐベルモット。
そんな姿を見て、ヴァニラが微笑む。
「あ?笑ったな?!これ結構、難しいんだぞ…」




「…あ〜融けてる」リセルヴァがかき氷の成れの果てを見て言う。
自分の分として買ってきた「みぞれ」は今やただの甘ーい水に成り下がって(嫌な言葉だ…)いる。
別にどうしても食べたかったわけではないが、何となく…と思っていると、
「今から買いに行きましょ?」とミントがそっと持ちかけてくる。
もう商品を売り切ったわけだからここにいる必要もない。「そうだな」と答え、歩き出す。

数歩歩き出してレッド・アイが動こうとしないのに気付き、「行かないのか?」と尋ねる。
「…ああ」壁にもたれたままで軽くうなずくレッド・アイ。
「そうか、じゃ、行こうか」と歩きかけて、(あれ?てことは二人っきり…)と気付いて立ち止まる。
「リセルヴァ」レッド・アイが歩み寄り、小声で「…うまくやれよ」とささやいた。
「…はぁ?!何言って…」リセルヴァが取り乱す。レッド・アイは「…またな」と背を向けたまま片手を挙げ、去っていった。


「…うまくやれって何だよ…絶対何か勘違いしてるよ」とぼやくリセルヴァ。
「どうかしたんですの?」ミントが呼びかけてくる。
…こいつは、本当は全部解ってるくせに知らないふりをしてすっとぼけているんだ。
何となくそんな気がしてきた。根拠はないけど。

「…別に」顔を背けるようにして曖昧に答えた。感情を悟らせないように。
ミントが少し困ったような表情を見せる。
…そんな顔したってだまされないぞ。僕は君にとって都合のいい存在で。だから…一緒にいるんだろ?


あれ?これじゃあまるで…必要として欲しいみたいじゃないか。―ミントに。
………

い、今のは無し!と考えを振り払って彼女の方を見ると、なぜか目が合った。「どうした?」と訊く。
「え……み、見てただけですわ」ミントは、はっとして顔をそらす。


「わたあめ、買ってやろうか。」リセルヴァはぎこちなく目を合わさないようにして言う。
「え、ええ」とミントが応えた。そのまま二人は、並んで歩いていく―




「人けもまばらになってきたし、そろそろ閉店しようかねぇ…」フォルテがゆったりと立ち上がる。
そのとき、レッド・アイが姿を現した。「…おや」

「…他に行くあてが思いつかなくてな」レッド・アイが呟く。
「あ、そうかい。」別に私に会いたくて来たわけじゃあないんだよなー、別にいいんだけど。
フォルテがやさぐれていると、
「……ここが一番落ち着く」レッド・アイが目を伏せて呟いた。

フォルテは言葉に詰まり「…あ…そうかい」と間の抜けた返事をしてしまう。

穏やかな静寂の中、さっき会ったときの言葉を思い返す。
「…決着が、まだだったな」
「ああ」
二人は各自ポイとボウルを手にする。

「…勝負だ」
戦いの幕が、いま開かれた…金魚すくいの戦いが。



二人は着々と金魚をすくいあげていく。すでに足元には金魚で満杯になったボウルもいくつか見える。
「…これってどうなれば勝ちなんだ?」
「さあ」



<ヘルハウンズ祭EXTRA・終>


えくすとらのあとがき
こ、これってハッピーエンドといえるのだろうか?
元は大団円の予定だったんですけども。…どこで間違ったんだろ?
ま、いっか。これはこれで。


最後に、ここまで私の文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
宜しければまた次回作(あるのか?)でお会い致しましょう。
それでは。