EDEN統合軍ルーンエンジェル隊所属の紋章機五機が、無人偵察機が発見した敵の無人艦隊

を迎撃すべく、小惑星帯上空を侵攻する。眼下に散光する河のように小惑星帯が広がる。

編隊長のシラナミ少尉は、前に反乱が起きた時に、この辺で補給したことがあったと

思い出しながら飛んでいた。

誰かさんの休暇に付き合ってここで戦闘でもないのに目を回して倒れかけたことがある。

そう言えばあの時、リリィはここを通って来たはず。この空域の情報が

2番機の航法データログに残っていないだろうか、あるいはルクシオールの

戦略コンピュータのメインストレージに。それにしても最近こんな事ばかり考えているな。

無理もない、いまは以前のようには行かない。

公国が黒き月の技術を応用した独自の戦闘機を開発配備して以来、戦闘のスタイルは一変した。

それに伴い、エンジェル隊も独立部隊から通常部隊へと変更、かつての様に母艦の周囲

で戦闘を行うことはスクランブルを除いて滅多にない。

近年の大規模戦争の多発やNEUE支援にかかる莫大なコストのため少ないリスクとコストで

効果的に打撃を与えることが求められ、各戦隊機を統合運用し長距離侵攻とスタンドオフ攻撃

を基本とした新戦術思想が採用されているからだ。

飛び向けて優秀な紋章機の高性能を今のEDEN軍は持て余し気味だった。

彼らの母艦、ルクシオールも指揮通信能力に目を付けられ、現在は前線に出ることなく

後方から多くの部隊を管制、支援する任務についていた。

そのルクシオールから通信が入る、編隊の後方600万キロに待機している母艦は

不明機が接近していると伝えてきた。

 

....ルクシオールよりルーンリーダー、コンタクト

対照BRAA300 マーク20 24000 機種不明注意せよ。

 

了解、避けます。ルーンリーダーから編隊各機へ、回避する。スターボード。

 

対空兵装は近距離高速ミサイル2発と固有武装。

最低限のものなので戦闘は避けたい。固有武装はエネルギー消費が大きく

航続距離を短縮するので最近は殆ど使っていない。

ルーン隊は編隊を保ちつつは暖旋回、降下。不明機を自らのポート側90度に保ち

小惑星帯上空200キロを巡航する。こうしておけば、不明機からはこちらの

ドップラーパルスは小惑星帯からのクラッターとして無視されるだろう。

ルーン隊は受動警戒、不明機のセンサーシグネチャが充分遠ざかったところで進路を戻す。

不明機は戦闘空中哨戒をしているフェアリィ隊が片付けるだろう。最近見つかった新型の

紋章機6機で編成された戦術支援飛行隊。そのフェアリィ隊が不明機をセンサーレンジに捕らえたことを

FSLタクティカルデータリンクが伝えている。エンジェル隊の高速リンクを改良したものだ。

 

フェアリィ、コンタクト シングルグループ、

対照BRAA360 マーク35 51000 ディクリア。

 

ルクシオールよりフェアリィリーダー、そちらのグループ

対照BRAA360 マーク35 51000 バルスゼオ 敵。迎撃せよ。

 

了解。フェアリィフライト、マスターアーム点火。エンゲージ。

 

フェアリィ2、春燕よりリーダー、敵のECMです。ECCM作動。

 

 

フェアリィ隊が敵攻撃機と交戦状態に入る。その隙にこちらは敵艦隊を攻撃しようとルーン隊は

最終進入。出撃前のブリーフィングでは敵艦隊は、現在通過中の小惑星帯から60万キロほど

離れた孤立した小惑星郡に潜んでいるらしいとのことだった。敵はまだ見えない。

ルクシオールの長距離センサー郡もこの距離までは走査できないので自分たちで探すしかない。

こう言うときは紋章機のセンサー群が威力を発揮する。早期警戒機並みのセンサーレンジが有る。

編隊は速度を上げつつ小惑星帯を離脱。マスターアーム点火。戦闘巡航。

ルクシオールの管制可能空域を離脱。ルクシオールの最大管制可能範囲は本来もっと広いが

他の部隊の管制もあるので、その分のリソースをとられてこの距離が限界になっている。

長距離受動センサー作動。敵の警戒装置に探知されないように能動走査はしない。

最もセンサーレンジの広い四番機から探知したと通信。

 

ルーン4よりリーダー。コンタクト、対照BRAA295 マーク20マイナス 52000 高速艦4 戦闘母艦1

 

リーダー了解。RAフライト ECM準備 セットMTT。 

ルーン4へ指定空域にて待機、空中警戒。ルーン3はこれを援護。

ルーン1,2,5は敵艦隊を叩く。エンゲージ。

 

 

ルーン4と3は編隊を離脱、警戒空域へ向かって旋回し遠ざかっていく。敵艦隊の追跡は

ルーン2が継続、ルーン1とルーン5もデータリンクで目標の位置を確認する。

シラナミ少尉は各機にスタンドオフ攻撃を指示、ストアコントロールパネルを通じて

長距離高速対艦ミサイルを選択し起動。ルーン2からの支援で電子照準。ロックオン。

零番機のアヴィオニクスが最適誘導方法を自動選択、各機のミサイルに誘導情報を

インプット。各機のコックピットに最適進入路が表示される、各機はそれに乗って飛行。

フライトオフィサのシラナミ少尉はする事がない。それはルーン1のパイロット桜葉少尉の

役目だ。桜葉少尉は表示されているリリースラインに機体のベロシティーベクターを重ねる。

発射地点までの距離表示が減少していく、零になったところで四発の高速対艦ミサイルが

自動発射。軽い衝撃。すぐさま回避機動、大Gをかけ上昇旋回しそのまま反転退避する。

 

ルーン1 ライフル 4アウェイ。

 

ルーン5 ライフル 4アウェイ。

 

ルーン2 ライフル 4アウェイ。データリンク開始。

 

遼機からミサイル発射のコールサイン。

シラナミ少尉は戦術パネルを点灯、各機の発射状態を確認する。

12HSM-1 LUNCHED . TTG-10.”各機合計12発が発射完了、目標到達まであと10。

各機は集合、編隊を組み直して離脱を図る。その間もルーン2は全方位受動センサーで目標を追跡、

データリンクポッドでミサイルへ誘導情報のアップデートを続ける。

最終アップデート終了、ミサイルが完全自立誘導に切り替わったことをルーン2が伝えてくる。

シラナミ少尉はルーン4,3と合流するべく進路を計算、桜葉少尉にそれを伝え自身はミサイルを

モニター、高度にステルス化された12発の高速ミサイルを敵はまだ探知できていない。

敵艦から攻撃照準波を探知する。ミサイルより先にこちらが探知されていたらしい。

シラナミ少尉は戦術パネルを切り替える。エレクトリックアーマメントパネル点灯。

ECMディスプレイに敵のシンボルマーク、セルフディフィンスジャマーを操作し敵艦の攻撃照準波に

あわせる。アヴィオニクス群が敵の照準波を高速自動解析、オートジャミング作動。スポットジャミング開始。

ミサイル群はその間にも敵艦隊へ高速で接近、シーカーレンジに捉える。

ミサイルのアクティブシーカーが作動、終末誘導を開始。この走査波を敵の母艦が探知、ECM作動。

ジャミングが開始される。先頭を行くミサイルが自動的にホームオンジャムモードに切り替わる。

ジャミング源へ誘導開始、ファイナルベクター、加速し突入。命中、ジャミング停止。

残りのミサイルが通常誘導を再開、敵が探知できてもすでに迎撃は間にあわない。敵艦が次々に沈黙する。

シラナミ少尉はそれをディスプレイ上で確認。実感がない。自分達ではなく機械が戦闘をしている

ように感じる。皆は今の戦闘をどう思っているのだろうか。

編隊は小惑星帯上空80キロまで降下、速度を上げて既に敵の航空優勢下を離脱しつつある。

合流予定地点が近づいてくる。受動警戒を続けているルーン4を呼び出す。

 

リーダーよりルーン4。テキーラ、周辺のピクチャーは?

 

ピクチャーはクリーン。接近する機影は探知できていないわよ。

 

了解。こちらも敵艦隊は沈黙。ルーン4ルーン3編隊へ合流。帰ろう。

 

シラナミ少尉は航法パネル操作する、ルクシオールからの戦術誘導支援はまだ使えないので、

零番機の航法コンピューターの支援で帰還する進路を計算、桜葉少尉に伝える。

編隊は戦闘態勢のまま高速巡航、ルクシオールの管制圏へ入るまでは、援護を呼ぶことも

できないので気は抜けない。さらに巡航し何事も無くルクシオールの管制圏へ入る。

 

ルーンリーダーよりルクシオール、敵艦隊は沈黙させました コンプリートミッション RTB。

 

RAフライト。管制圏進入、ウェイポイント5を確認。目標進路は015 マーク20。

 

了解、接近していた不明機はどうなりましたか。

 

フェアリィ隊の攻撃チームが片付たから空域は現在クリーン。

彼らは優秀だ、心配することは有りませんよ。

 

了解。RAフライト、マスターアームオフ。

 

ルーン隊はマスターアームを切り母艦を目指す。出力を絞り通常巡航。

母艦に帰れば、次の出撃まではフリーになれる。最近は何も出来ていなったから、

帰ったら皆を展望公園にでも誘ってみよう。それとも久しぶりにケーキでも焼こうか。

帰投しつつ、シラナミ少尉はそんなことを考える。

各機はそれぞれ着艦。この日の飛行が終わる。