リッチウォー外縁、敵の航空優勢圏の外側だが味方の航空優勢も確立していない中立地帯。その空白帯を三機ずつのタクティカルパートナーシップを組んだ

紋章機が侵攻する。エルシオールから発艦したムーンエンジェル隊の六機編隊。

目的は敵の防空網征圧、フェアリィ隊のガッターレが行った戦略偵察で位置が判明した敵防空艦とデータリンクネットワークの無力化。

四番機に搭乗する編隊長、フォルテ シュトーレン中佐は敵機らしき機影を捉える。

 

「!?・・・ムーンリーダーコンタクト。不明機高速で接近、ボギー6。何なんだいこいつらは。」

 

IFFの表示は敵。GA004のセンサーでは機種までは分からない。有力な電子戦能力を持った三番機へ問い合わせる。

三番機、ミント ブラマンシュ少佐から返信。

 

「さぁ、なんでしょう。シグネチャが弱くて正確に識別できません。恐らく敵の長距離戦闘機かと。」

 

トリックマスターでも捉まえられないとはねぇ。これだからステルス化された敵は。仕方ない、とシュトーレン中佐は高速データリンクで早期警戒機へコール。

データリンクを繋いでいる早期警戒機のコールサインは春燕。フェアリィ隊の紋章機、ハミングスワロー。FA-002。

 

GAフライトより春燕。コンタクト、対象BRAA355 10 32000。識別を。」 

 

すかさず返信。必要最小限のことを落ち着いた口調で伝えてくる。

 

GAそちらのグループ。BRAA355 10 32000。タイプ2長距離型。敵。機数は8。」

 

データリンクを通じて敵機を擬似的に補足。GA004のスクリーン上にも敵のシンボルが出る。さらに警告音。

 

GAフライト、敵センサーに追跡されている模様。注意せよ。」

 

どうやら敵は新型のステルス機らしい。受動警戒装置が敵の走査波を探知できなかったのは意外だった。いったいどうやってこちらを探知したのか。

二手に分かれている戦隊機のうちGA004,002,001で編成されている攻撃チームへ迎撃を指示。その他の機体はバックアップ。

GA006とGA003から長距離ミサイルが放たれる。8発。数十秒間の飛翔の後に敵機へ命中。5機が撃墜された。

ムーン隊は敵機に接近、シュトーレン中佐は愛機を加速させる。ハッピートリガーは攻撃態勢へ移行。エンゲージ。

 

 

 

 

GAフライトが敵機と接触。交戦を開始。」

 

春燕の電子戦オペレータ、ウェーデル ヤン少尉が前席に座っているパイロットのフリア ユンカー少尉に告げる。

春燕のコクピットは複座になっていて前席が操縦、後席が電子戦を担当するようになっている。後席は電子戦と警戒管制を専門に行うので操縦装置は前席にしかない。

パイロットのユンカー少尉が答える。

 

「了解。それでウェッジどんな感じなの?」

 

「さすがは伝説のエンジェル隊、ってとこかな。いい動きをしている。そっちへ戦闘状況を送ろうか?」

 

ユンカー少尉はほんの一瞬考えた様だった。少し気が散っても機体が不安定になるような要素は無いと判断してから、返事をする。明るい声だ。

 

「うん、やって。見てみたい。」

 

広域表示になっている統合航法ディスプレイ上にムーン隊の戦闘状況が投影される。ずっと早期警戒機や哨戒機ばかりに乗ってきたユンカー少尉にはいまいち

よく分からない。何がどういいんだろ?ディスプレイ上の機体を表すシンボルの動きをじっと見る。やっぱり分からない。こんなときは相棒に聞くのが一番。

 

「ねぇウェッジ。これ、良く分かんないんだけど。どこがどう良いの?」

 

後ろに少し振り返って相棒に聞く。ヤン少尉が説明してくれた。説明によれば負けないように機動しているらしい。

 

「きっちり隊形を組んで戦ってるでしょ。最初の1機が攻撃されてもすぐに回避して後ろの2機が攻撃に回るようにしてる。ほら今みたいに・・・」

 

説明を聞きながらもう一度ディスプレイを見る。確かにそのようだった。大体分かったような気がする。

説明を終えたヤン少尉が最後に一言付け加える。

 

「どの道、さっきの長距離攻撃で敵の数が減ってるから直ぐに片が付くよ。」

 

敵編隊は既に2機にまで減っていた。

 

「そういえば敵さん全然ミサイルに気付かなかったね。やっぱりこれも伝説?」

 

「・・・いや、それは関係ないんじゃないかな・・。さっきこっちから電子妨害かけたからだと思うよ。」

 

ユンカー少尉はエレクトリックアーマメントパネルを呼び出して確認。ECM作動中。

 

「えぇ、いつの間にそんなことを。ちゃんと機長の私に報告してよ。」

 

「ちゃんとしたって。また聞いてなかったのフリア?」

 

「そうだっけ。うーん。聞いた気もする。」

 

「しっかりして下さいよ。ユンカー機長。」

 

そうこうしている内に残りの二機が撃墜される。GA004から敵編隊を全機撃墜したと通信。喋るのを止めてヤン少尉が答える。

 

GAフライト、全機撃墜。このまま任務を続ける。方向を教えてくれるかい?」

 

「ナイスキルGAフライト。ミッションプランに変更はありません。ウェイポイントは対象スパルタン、030 -20。」

 

「はいよ、スパルタン030 -20了解。もう敵はいないだろうね。」

 

ヤン少尉はあたりを高速簡易走査、反応無しを確認。

 

「ピクチャーは次のポイントまでクリーン。」

 

「了解。ありがとさんよ。」

 

「ウェイポイント5でフランカーと雪風が護衛に来ます。帰りの心配も大丈夫です。」

 

「途中もちゃんと敵を見張ってますからねー。グッドラック。」

 

ユンカー少尉からもメッセージ。通信を終えてムーン隊は編隊を組み直し、目標地点へ機首を向ける。長い航跡を引きながら戦闘巡航。春燕は所定の哨戒空域へ進空。

 

 

 

 

春燕は警戒態勢。全センサーシステムを動員して周囲の警戒に当たる。先程の遭遇戦以来何の反応もない。おかしいとヤン少尉は思う。なぜ迎撃に出てこない。

ステルス化された敵を探知できていないという可能性は低かった。質量を持った物体なら、確実に存在を探知できる量子パッシヴレーダーにすら反応が何もない。

その割には敵側のデータリンク通信を傍受する頻度は高い。敵の警戒捜索波も幾度となく探知している。春燕も脅威判定で危険を表示していた。

 

「フリア、どうも変だ。敵が一つも出てこない。」

 

「隠れてるんじゃないの?センサーレンジを広げてみたらどうかな。」

 

こんな時でもユンカー少尉の声の調子は変わらない。余裕を持つのはいいことだが、少し行き過ぎるきらいある。戦闘時にはちゃんと対応するのだが。

 

LPIモードだけど既に広域警戒になってるよ。辺り一帯が空白みたいだ。隠れているにしても包囲されてはかなわない。注意した方がいい。」

 

「そうだね。了解。マスターアーム点火。自動迎撃システム起動。EW準備、パッシヴステルス。」

 

春燕の全兵装が起動する。パイロットシートのHUDに春燕から応答。

"Set up AIS....COMPL"”自動迎撃システム設定中・・・完了”

ユンカー少尉はそれを確認、続けてストアコントロールパネルから迎撃用の兵装を指定する。長距離可変速ミサイル4発とフェイザーアレイ。標準的な自衛装備。

あとはユンカー少尉が直接命じるか、春燕が脅威が迫っていると判断すれば自動的に戦闘機動が開始される。ヤン少尉からも電子戦準備完了の合図。

 

「後席、EWよし。ステルスモード、パッシヴ。それにしてもフリア、もう少し早くその調子になれない?」

 

ヤン少尉はいつもこの緊張感を持って飛んでくれればこっちの気苦労も減るだろうなと思う。

 

「努力はしてるよ。うん。・・できてないけど。」

 

「また元に戻ってる。臨戦態勢だぞ。」

 

「了解。接敵に備える。ヤン少尉GAフライトへのFSL接続状況確認。」

 

TAIPS異常なし。妨害を受けている様子もない。一応警戒するように伝えておく。」

 

春燕から警戒メッセージを送信。敵の動きが分からないので低出力で発信する。周辺のクラッタノイズに紛れ込ませるようにして通信を行うFSLスーパーリンカの

被発見性は極めて低い。ムーン隊から了解したとの返信が来る。臨戦体制に移行したらしい。春燕の受動センサーがGA003の大出力警戒センサーの走査波を捉える。

ムーン隊はウェイポイント3を通過。春燕は戦術誘導を続けつつ哨戒空域を更に進んで征く。

 

 

 

 

 

 

「コンタクト。BRAA280 -30 68000。ボギー8。やっぱり来た。」

 

春燕の長距離センサーが敵を捉える。ヤン少尉は戦術データバンクに探知した目標を照会する。不明と返答。

CIEXが情報を元に敵の種別を予想し表示してくる。敵の長距離ミサイルと春燕は予想した。ムーン隊に照準している。ステルス化した春燕を敵は探知できていないらしい。

 

「フリア。敵の対空ミサイルだ。GAフライトに接近中。命中まで18秒」

 

TARPS作動。記録して。迎撃は?」

 

「ここからじゃ間に合わない。TARPS作動、戦術戦闘電子偵察開始」

 

「非常通信。回避するように伝えて。PANコードU。」

 

「了解。春燕よりGAフライト。敵ミサイル接近中、回避せよ。PAN PAN PAN CODE U ユニフォーム ユニフォーム。」

 

GA004、シュトーレン中佐は春燕からの警告でミサイル群に気付きすぐに迎撃機動を開始。愛機を加速させミサイル群と相対。素早くFSCの飽和攻撃モードを起動。

全センサーが敵ミサイルを補足、レールガンとミサイルの誘導システムを統合処理し最適誘導コースを自動算出していく。シュトーレン中佐は各機に迎撃を指示。

最も長い射程距離を持つGA006が戦闘機動を始める。レールガンの長距離射撃が開始。だが目標が小さく、あまりに高速なので弾頭の信管が正確に作動しない。命中せず。

他の機体も同様だった。特にGA002は射程に入ると着弾まで3秒しかない。各機のレーザーファランクスも射程が足りず、リアクションタイムを取っている暇がない。

春燕はそれを遥か後方からFSLで確認する。GA004のFCSがミサイル群に対し攻撃準備を完了するのは最小射程のぎりぎりだった。ユンカー少尉がつぶやく。

 

「速い。まるで流星みたいだ。怖い流れ星・・。GAの人は大丈夫かな?」

 

「フリア。人の心配をしている場合じゃない。こっちもいつ攻撃されるか分からない。退避した方がいい。」

 

「了解。上昇する。」

 

接近する敵高速ミサイルをセンサー範囲内に捉えながら春燕は戦闘上昇。ムーン隊から距離52000まで離れる。十分距離をとって監視を続行する。センサー群は

ムーン隊の戦闘状況を逃さず記録。春燕はムーン隊各機に更に接近する敵ミサイルを追跡する。各機にミサイルが着弾する4秒前にGA004のFCSが射撃準備を完了した。

シュトーレン中佐は瞬間にスティックのトリガーを引く。ミサイルキャニスターの展開に0.5秒をかけた後、残っていた多目的ミサイルの全弾が放たれる。着弾まで2秒。

敵の高速ミサイル8機の内6機が迎撃される。残りのミサイルの迎撃は間に合わない。GA004は全力回避を行うが、左舷ミサイルキャニスターに被弾。衝撃でキャニスター

が飛散する。爆発はなかったがキャニスターの破片で左舷側ノズルベーンとスタビライザーウィングが損傷、更に二系統あるエンジンコントローラのうち一つがフェイル

もう一つも不調をきたす。バックアップも機能しない。シュトーレン中佐は左舷エンジンをHALOから外し停止させる。右舷のもう一つに能力を集中させ機の安定を図る。

安定は戻ったが機体は任務を続けられない状況だった。もう一機残っていた高速ミサイルはGA005のシールドを破りシールドエミッタを直撃。右舷側のほぼ全機能とクロノ

ストリングエンジンが停止するが、直ぐに再起動に成功。ナノマシンリペアシステムは停止しているが航行は可能だった。

GA004から作戦能力喪失との通信がくる。奇跡的に撃墜された機体はなかった。

 

GAフライトより春燕。あたしとヴァニラがやられた。ちとせは残弾なし。任務続行は不可能。ミッションアボート、撤退する。」

 

「了解。敵の第二波攻撃が予想されます。注意してください。こちらも帰投します。」

 

「援護はお願いできるかい?」

 

「春燕は自衛用兵装しか無いので限界があります。ただし電子戦支援は可能です。フランカーと雪風にも直ぐ来るように伝えます。」

 

「了解。癪だけどさっさと逃げようか。」

 

 

 

 

 

 

ムーン隊は防御隊形を取りつつ、可能な限りの速度で敵の航空優勢下から離脱を図る。春燕はそれをFSLでより安全な進路へ誘導。更に強力な電子妨害手段を実行した。

ヤン少尉はエレクトリックアーマメントパネルからECMを操作し敵のシンボルへ次々とスポットしていく。ジャミングを実行しつつ周辺の警戒も

怠らない。敵戦闘機が襲ってくる気配は無かったが、春燕の長距離センサーが戦闘機ではない大型機の機影を捉える。

 

「コンタクト。180 -30 116000。

 敵の第二波だ。後方にミサイリアーらしい機体が1機いる。こいつがさっきのミサイルを撃ったらしい。」

 

「護衛無しで何する気だろう?全部撃ったら唯の的なのに。」

 

「ミサイルによほど自信があるのか、ひょっとしたらこいつ自体が大型ミサイルかもしれない。」

 

ユンカー少尉は報告を受けて戦術ディスプレイを見る。大型の機体が護衛機も引き連れずに悠然と1機でくる様子が見て取れた。

速度の落ちているムーン隊は、容易に敵の射程距離に捕まる。GAフライトへの攻撃照準波探知。

 

「敵の目標は?」

 

GAフライト、GA4とGA5に照準している。止めを刺すつもりらしい。」

 

「向こうは気付いてる?」

 

ヤン少尉はFSLを確認。データリンクで情報は伝わっている。

 

「気付いている様だ。機動を開始。」

 

無傷で生き残っていたGA001とGA003が迎撃体制に入る。距離65000、GA003が迎撃用長距離ミサイル発射。敵アンチミサイル・ミサイル発射。迎撃ミサイルが撃墜される。

GA003とGA001は回避機動に入る。迎撃不能。

 

GAのミサイルでは無理だ。ウェッジ、迎撃する。あんなのほっとくと春燕も危ない。」

 

「了解。いや、ちょっと待ってフリア。敵がさっきの高速ミサイルを発射。GA004と005を狙って二発ずつ。」

 

「ミサイル迎撃。全電子妨害手段実行。」

 

「任せろ。」

 

「春燕エンゲージ。」

 

ユンカー少尉は交戦宣言。春燕をスプリットSで急速旋回させ増速。MTTモードをセット、多目標同時攻撃。春燕から攻撃準備よしのメッセージが来る。

 

"RDY EVM 4"”長距離可変速ミサイル4発、準備よし”

 

HUD上に破線でレティクルが表示され、目標を捕らえるとそれが実線に変わった。敵ミサイルは、既に有効射程の中程に進入している。

TDボックスの下にSHOOTの表示が出る。ユンカー少尉はミサイルレリーズを押して全弾を発射。直ちに回避機動、ムーン隊の真上に来るように進路を取る。

HUD上の目標到達時間が減っていく。迎撃ミサイルは春燕からの中間誘導を受けた後、自らのアクティヴシーカーに目標を捕らえて突入。数字が0になったところでHUD上に表示。

 

"SUCSEED"”迎撃成功”

 

敵の高速ミサイルは撃墜されたが、迎撃ミサイルの発射で位置が知れてしまう。敵の母機からの第三波攻撃がくる。目標は春燕。高速ミサイル2発。

ユンカー少尉は春燕のCIEXの支援を受け回避機動を開始。ヤン少尉はエレクトリックアーマメントコントロールからソフトキルを試みる。

敵がECMを起動、ミサイルを表すシンボルがディスプレイ上で揺れる。ECCMで対抗、敵のECMが沈黙しミサイルからのアクティブシーカー波が消える。

やったかと思ったが、ミサイルは依然として接近してきた。敵ミサイルはホームオンジャムモード、春燕の放射波を探知してなおも追尾してくる。命中まで4秒。

デセプションジャマー起動、春燕の周囲に仮想機体の放射波を発生させる。同時にアクティヴセンサーを停止。敵ミサイルのうち一つが仮想機体のデコイに突入。

残りのひとつも機体をかすめて飛び去る。回避成功。

 

「よし回避した。さすがウェッジ。被害は?」

 

「機体は特に被害なし。それよりまだ敵の母機が残ってる。ミサイルが切れたらしい、母機が突っ込んでくる。」

 

やはり母機自体が大型のミサイルだったようだ。加速し突っ込んでくる。GA001と002、003が次こそはと攻撃態勢に入り接近。中距離ビームガンの射程に捉える。

 

「フリア。まずい。敵の弾頭だけどトリコバルト弾みたいだ。」

 

「そんなのが近距離で爆発したらみんな落とされてしまうよ。撃墜できない?」

 

「もう有効な武装が無い。」

 

「無いなら借りる。向こうの人に退避するように伝えて。」

 

「了解。」

 

ヤン少尉が退避勧告を発信する。ユンカー少尉は春燕のモードVC、音声認証モードを起動。口頭で春燕CIEXへ命令を伝える。

 

「ユンカー少尉より春燕。GA003のFCSへ強制アクセス、フライヤーコントロールを起動し敵機を撃墜せよ。」

春燕からMFD上に返信。

 

Willco. Linke FCS of GA003.I have FLYER control."了解。GA003のFCSへリンク。フライヤーコントロールよし”

 

ムーン隊は退避勧告に従って距離をとるため離脱を始める。GA004と005を守るためには、敵の母機を落とさなければいけないがその前にこちらが落とされては意味が無い。

突然の退避勧告にGA003のブラマンシュ少佐は戸惑ったが、スクリーン上に表示されたメッセージにさらに驚く。

 

"DE CHUNGYANG FA-003.I have your FLYER control."”こちら春燕。フライヤーコントロールを預かる。”

 

あり得ない事だった。作動原理すら分かっていないフライヤー群をどうやって操作するつもりなのか。操作できたとしても、敵はすでに最大制御可能範囲の外だ。

それ以前にどうやってトリックマスターのHALOに侵入できたのだろう。

しかしGA003のストアコントロールパネルには4から7のフライヤーが外部操作と表示されている。

 

Flyer4〜7 controled by FA-003"”4から7のフライヤー、FA-003が制御中”

 

春燕はGA003から4機のフライヤーを預かるとそれを敵の母機へ誘導する。GA003のように高度な共同交戦能力は発揮できないが、単一目標への攻撃には十分な能力を

春燕は発揮できた。むしろ春燕のほうがセンサー群の性能差から最大誘導可能距離は長い。HUD上に春燕からフライヤー群が敵を射程距離に捉えたことを伝えてくる。

ユンカー少尉はムーン隊が十分はなれた事を確認してから、右手のスティックにあるトリガーを引き春燕に射撃許可を伝える。フライヤー群から中距離プラズマガン

が発射。命中。コントロールを失った敵機のトリコバルト弾頭が起爆。強力なエネルギー爆発が起こる。閃光。2機のフライヤーが巻き込まれ撃墜された。

HUD上に再びメッセージ。

 

"Splash one"”撃墜"

 

「ナイスキル。春燕。」

 

ユンカー少尉はそれを確認してから、フライヤーコントロールを返すように命じる。生き残ったフライヤーはGA003に帰っていった。

 

「ウェッジ大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。機体にもに直接被害は無いけど、さっきのエネルギー爆発の影響だろうか?ECMと電子装置が幾つかやられた。

 バックアップは機能しているからこっちも大丈夫。そっちは?」

 

「問題なし。元気ですよ。」

 

「でもなんでフライヤーのコントロールを?GA003に迎撃要請を出せばよかったんじゃないの?」

 

ヤン少尉が尋ねる。

 

「そう言えば何でしたんだっけ?えぇーと・・忘れちゃった。」

 

「忘れたって、何で忘れるの?ついさっきの事じゃないか。」

 

また元に戻ったか。今襲われたら逃げ切れるか心配だな。ヤン少尉はそう思う。

 

「うーん。良くわかんないけど。GA003の誘導可能距離だと電磁波の直撃を避けられないから、代わりに撃たないといけないって思ったよ、確か。」

 

「そんな事によく気付いたね。確かにセンサーレンジは春燕のほうが長いけど。」

 

「なんか声がしたような気がした。」

 

「声?」

 

「春燕が教えてくれたのかも知れない。」

 

「そうかな。そうだとしたら、たいした奴だなこいつは。」

 

「とってもえらいツバメさんだね。」

 

脅威レベルは低下と春燕が伝えてくる。ムーン隊各機と春燕は編隊を組みなおし敵航空優勢下を離脱。

ウェイポイント4と5の間で護衛のフランカーと雪風が飛来。各機はエスコートされつつ母艦へ向かう。

 

 

 

 

 

「二人とも大丈夫だった?」

 

まほろばのブリーフィングルーム。フランカーのジュラーブリク少尉が尋ねてきた。ユンカー少尉がそれに応じる。少し不機嫌。

 

「援護に来るのが遅いよシルカ。何してたの。」

 

「ごめんねフリア。途中で敵の戦略偵察機と遭遇して、あのまま進まれるとまほろばが

 見つかりそうだったから撃墜してたら手間取ってしまって。まさか撃ったミサイルを撃墜されるとは思わなかったよ。」

 

ジュラーブリク少尉達が遭遇した敵戦略偵察機も高速ミサイルで武装していたらしい。ジュラーブリク少尉の話によると、ミサイルを撃墜されたあと

雪風とフランカーの圧倒的大推力で中距離まで接近し戦術レーザーで撃墜したとのことだった。春燕はどうだったかと聞かれ、ヤン少尉がことの大筋を伝える。

 

「こっちでも、ミサイリアーに襲われましたよ。最後は母機自身が突っ込んできた。」

 

もしかしたら雪風とフランカーが遭遇した偵察機は、こちらの母艦を捜して攻撃する気だったのかもしれないとヤン少尉が言う。

 

「それで、記録したのか?そっちの高速ミサイルは。」

 

雪風のリアスフェイル少尉が聞いてくる。

 

「ばっちり撮ってきたよ。メイヴは?」

 

ユンカー少尉が返す。雪風にも情報収集用の専用センサーが幾つか装備されていて、普段は戦術戦闘電子偵察に出ている。

 

「情報は集めてきた。TARPSを積んで無かったから春燕ほど詳細ではないが。」

 

「それにしても、このミサイルは厄介ですよ。ディフレクターシールドの効果がない。」

 

そう言ってヤン少尉がGA005の被弾した時の状況を話し始める。話していたら、深刻な顔をしたジェインウェイ大尉が来た。

 

「どしたの隊長?元気ないよ。」

 

誰にでも態度の変わらないユンカー少尉が聞く。

 

「ちょっと疲れているの。あぁ、またしてもえらい事になったわ。」

 

ジェインウェイ大尉はいよいよ深刻そうな様子だった。少し息が乱れている。今回のことであちこち走り回っていたようだ。

隊長は出撃中も帰ってからも大変なんだなとユンカー少尉は大尉の激務を思う。

 

「私達は全員生きて帰ってきましたしたよジェインウェイ大尉。安心してください。」

 

丁寧な話し方でジュラーブリク少尉が言う。

 

「敵ミサイルも対策は必要でしょうが、対処は可能なはずです。それとも、何か別の問題でも起きたのですか。」

 

「もちろんみんな良くやったと思うわ。ええそうよ別の問題。最近問題ばかり次から次へと出てくるけど、

 今回は私達の戦隊の任務も変わるほどの大問題ですからね。ちょっと見てくれる。」

 

ジェインウェイ大尉が部屋の大画面ディスプレイに映像を出す。普段はブリーフィングに使われている大画面の有機発光ディスプレイに敵と味方を

表すリボンが出て動き出す。RAナンバで始まる機体が4機とFAナンバの機体が2機、更に敵の戦闘機が表示されたいる。目標の防空艦は遙か彼方にあって見えていない。

ルーン隊所属の4機とフェアリィからは、はまなとガッターレの2機。フェアリィの二機は後方に待機している。

 

「何ですかそれは。」

 

「ムーン隊の攻撃失敗を受けて、ルクシオールから出た第二派攻撃隊の戦闘記録。ガッターレから送られてきたものよ。

 これも高速ミサイルの反撃で失敗したわ。」

 

見ると味方を現すリボンが突然散開し回避を始める様子が見て取れた。ジェインウェイ大尉が続ける。

 

「最初は近距離で探知したステルス機と交戦していたのよ。そこへ遠距離からの高速ミサイル攻撃で混乱になったところへさらに敵戦闘機が来襲、

 見たところ無人機ね、そのまま混戦に陥ってしまったわ。 この前のグレイエイダーの件で修理中のRA3がいなかった為、支援無しでの戦闘続行

 は危険と判断。 編隊長のシラナミ少尉が作戦中止を決定。そのままガッターレの援護で離脱したと言うわけ。」

 

それを聞いてヤン少尉が質問する。

 

「被害はどのくらい出たんですか?被撃墜機は無いようですが。」

 

RA005の被害は相当深刻よ。途中で合流したはまなからSOMCで応急修理してやっと母艦に戻れたくらい。他の機体もしばらくは使い物にならないわ。」

 

「それで大尉、一体それのどこがこっちに関係あるんです。全部向こうの問題だ。」

 

リアスフェイル少尉が更に質問する。

 

「大有りよメイヴ。ムーン隊とルーン隊の殆ど全ての戦力が、一時的とは言え壊滅状態に陥ったのよ。

 こんな敵はほっとくと洒落にならないから残存の全機で反撃することになったの。」

 

「二回やって失敗したのに、連中はまた行く積もりか?」

 

「ひょっとして、それで私達も作戦に協力せよと言うことですか。」

 

「そうよシルカ。さっきあなた敵高速ミサイルは対処可能と言ったでしょう?つまり護衛よ。皆生き残ってるのはうちだけですからね。

 重要なことだから皆帰ってきてから詳しいことは言います。はるかとシルフが帰ってくるまでに各自今回の事について報告書をまとめなさい。

 フリアにウェッジ、今回は別々にまとめて来ること。それぞれから別の意見を聞きたいの。分かった?」

 

「ハイ了解。」

 

「他もいい?よければ解散。出撃中の作戦機が戻り次第召集します。」

 

そう言ってジェインウェイ大尉が部屋を出る。ジュラーブリク少尉とリアスフェイル少尉は残ったようだった。

ユンカー少尉はヤン少尉と部屋を出て隣の待機室へ移る。

 

 

 

 

 

 

「隊長も大変だね。千葉艦長がのんびりし過ぎてしっかりしないからだよ。」

 

待機室の個人用情報端末で報告をまとめながらユンカー少尉が言う。画面の下にある白いセンサー部分にタッチペンで書いた文字をコンピュータが識別

し、画面にテキスト化していく。本体のスタンドを出して光学キーボードで入力することもできるが、記号や色々なタイプの文字を直接書けるので

ユンカー少尉は自分で書く方が好きだった。あまり時間がないので自分が重要と思ったところを重点的にまとめていく。

 

「あんたは人のこと言えないよ。確かにジェインウェイ大尉は大変だと思うよ

 でも艦長だって大変さ、戦域防空艦でもないのに艦隊のエリアディフィンスを任されてはかなわないだろう。」

 

長大なセンサーレンジを誇るエルシオール、ルクシオールの二艦だが、そのセンサーレンジに見合った対空防御手段を持っているとはいえなかった。

エルシオールは元が儀礼艦で本来戦闘艦ではないし、ルクシオールも紋章機の支援下での対艦攻撃能力を重視したためどちらの艦も個艦防空能力しか備えていない。

これまでの戦闘を見れば敵の攻撃主力が戦闘機であることは無かったので、個艦防空能力があれば十分と言うその考えは間違いではなく十分すぎる戦果を残していた。

だが今の敵は艦隊で襲ってくることはまず無い上に、ヴァルファスクが保有していた戦闘機群とは比較にならないほどの性能を有している。艦隊に接触した敵機を

各艦が個別に迎撃していたのでは間に合わなかった。いかに最新の艦とはいえ想定されていない状況下では威力を発揮はできない。

その点まほろばは旧EDEN文明の再後期、敵戦闘機の脅威が深刻だった時期に建造されているので限定的ではあるが艦隊防空能力を有している。限定的とは言っても

かつての熾烈な航空攻撃を生き残ったまほろばの能力は現代ではトップクラスだった。

 

「つまり皆大変なんだ。だから僕らもがんばらないとね。さっさとこいつを仕上げて大尉を困らせないようにしようフリア。」

 

ヤン少尉が自分の端末の画面を軽く叩いて言う。ヤン少尉は春燕の機上でもよく光学キーボード使っているのでスタンドを出して本体を立てて編集していた。

待機室の机のうえにキーボードが投影されていて、そのキーに触れると入力されるようになっている。春燕搭載のものはさらに高度でホログラムにより投影される。

 

「ちゃんとやってるよ。でもなんで今ごろ高性能な戦闘機が敵で出たんだろうね。ヴァルファスクが持ってたやつは全部退役したんでしょ?」

 

かつてまほろばが交戦していたヴァルファスク製の戦闘機群は時空震後にはオーバースペックとされ、より費用対効果の高い機種に代替されたと聞いていた。

 

「さぁ何でだろうね。でも相手が何であれ敵が来れば迎撃するしかないよ。何せここの敵は一切正体が分からないからね、

 厄介だよこの相手は。正体が分からないから話もできない。人間同士だったら停戦協定も結べるけど、話の通じない相手にそれはできない。」

 

「一体いつまで続くんだろう。」

 

ユンカー少尉が言う。存在が分かってから既に半年近くになるが、未だにその侵攻の目的すら明らかではなかった。

 

「どれ程の打撃を与えたかすらよく分からないんだ。いつ終わるかなんて分かるわけないよ。短期間には終わらないの確実だけど。

 まったく、自分で色々言ってるとなんだか訳分からなくなる。」

 

ヤン少尉は苛立つ。

 

「一体ここの敵は何なんだ?目的も何も言わない。こっちの機体には攻撃してくるくせに、他の所へは侵攻しようとしない。

 あいつらは何のためにここに居る?。どこかに侵攻するつもりで来たんじゃないのか。攻める気がないなら帰ればいいんだ。

 何がしたい。いい加減にしろ。」

 

「大丈夫?」

 

ユンカー少尉が薄いパッド状の端末を置く。立ち上がって部屋に備え付けのレプリケーターからお茶の入ったカップを2つ持ってくる。

 

「ウェッジも疲れてるんだよ。お茶でも飲んで少し休もう。」

 

そう言って一つをヤン少尉に渡す。いい相棒を持てた思う。

 

「ありがと。でもね、訳も分からず戦うのはつらいよ。戦う理由がよく分からない。君はどうなんだいフリア?」

 

ヤン少尉が言う。ユンカー少尉は少し考えてから答える。

 

「そう言えば理由なんて考えてなかったかな。 えぇーと...たぶんね、やられない為じゃないかな。だからさ、

 今は生き残ろう。生きていれば、本当の理由は後で分かると思うよ。分からなくても考える時間はあるしね。」

 

ユンカー少尉からはあっさりと答えが返ってきた。彼女の理由には一理あるなと思う。自分は複雑に考えすぎていたのだと思う。

確かに戦う理由なんて哲学的なことが自分に簡単に見出せるとは思わない。文学が好きで、いろいろな考え方に触れていたとしても、

その作者と自分では環境が余りに違いすぎる。他人の考えの中に自分の考えを見つけようとしても無理だろう。

第一、自分と本の著者とはまったくの別人だ。

 

「それもそうかな。確かに死にたくは無い。」

 

「大丈夫だよ。春燕はそう簡単には落ちない。私だって護るからさ。心配しないで。」

 

「頼もしいね、君も春燕も。でも忘れないでくれよフリア、僕だって君を護っているんだから。」

 

「分ってるよ。お互いに助け合ってこその相棒でしょ。」

 

「それでは、さっさとこれをまとめて、生き残りに不利な要素を一つでも多く消そうか。」

 

そう言ってヤン少尉が作業に戻る。

 

「せっかくもう少し休めると思ったのに。」

 

「あんたが休みたかったんかい。」

 

「ちゃんとウェッジの心配もしたよ。」

 

「心配も?”も”って何ですか?」

 

「何でもないです。」

 

ユンカー少尉も作業に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書く度に文体が変わってる…。まぁ、それだけ書き手がヘタレなんですよ。

 

今回春燕が使ったデセプションジャマーは、自分の機体の回りにセンサーを欺瞞する

囮を展開してミサイルに勘違いさせる物です。実際は曳航デコイって言うECMユニット

が収められたポッドなり吹流しなりを翼端や機体の後方から流すんですけど、春燕の

物は多方向からのセンサー走査波を空間のある一点で交わらせて、放射源を作る方式

です。このタイプも実際に在るそうなんですが、詳しいことは”ロストテクノロジー”

と言うことで。

敵の高速ミサイルは高速で相手にぶつかって目標を破壊する運動エネルギー弾頭なので

”近接信管が春燕の近くで作動しないのはおかしい”なんて突っ込みはご勘弁ください。

 

 

 

あと、フリアとウェッジは単に仲がいいだけです。