「先輩?シルフ先輩?」

 

まほろばの居住区の一室。フェアリィ隊三番機、はまなのパイロット東風ハルカ少尉が呼びかける。相手は同じ戦隊の六番機ガッターレのパイロット、

シルフィード リアスフェイル中尉。先輩と呼ばれていたリアスフェイル中尉がミッションリポートの編集作業を中断して答える。呼ばれた声の

感じからしてまた問題が起きたらしい。

 

「何ハルカ。またうちのメイヴが何かやらかした?」

 

「違いますよ先輩。」

 

東風少尉は、リアスフェイル中尉が自分の妹がまた問題を起こしたと思ったらしいと感じてすぐに訂正する。フェアリィの一番機雪風のパイロット

メイヴ リアスフェイル少尉は、フェアリィに来る前に所属していた部隊で何かあったらしく、かなり酷い人間不信だった。特にフェアリィ隊が編成

された当初は、まったく他人を信じようとせず何を言っても「私には関係ない」の一言で済ましていたので相当な苦労をさせらた。最近は人間

不信は相変わらずだが、段々とフェアリィの隊員のことは信用する様になって来ていて、特に二番機フランカーのシルカ ジュラーブリク少尉とは

うまく行っている。

 

「リアスフェイル少尉なら今、春燕からの要請でムーン隊の援護にフランカーと行っています。」

 

「確かにシルカが一緒なら大丈夫かな。それで何があったんですよ?」

 

「ムーン隊がSAEDに失敗したから、ルーン隊を出すそうです。私達にはそれの支援任務が来ています。

 敵の防空網を征圧しないとEDEN軍の攻撃隊が敵拠点まで行けませんからね。」

 

「聞いてないよ、また予定外の出撃?」

 

「そうみたいですね。まさかムーン隊が任務に失敗するとは考えていなかったんでしょう。」

 

「それで呼びに来たわけ?」

 

「あ、はい。そうです。ジェインウェイ大尉がすぐ来るようにと。イライラしてるように見えましたから

 早く行った方がいいと思いますよ。」

 

「セシルがどんな顔してるかなんて言わなくても分かるよ。最近問題だらけだからね。そのうち倒れるかも。」

 

「へんな事言ってないで行きますよ、先輩。」

 

リアスフェイル中尉は編集中のファイルを保存し、個人用情報端末の電源を切る。自分のデスクにそれをしまってから、東風少尉と部屋を出た。

東風少尉はジェインウェイ大尉のオフィスへ来るように言われていたらしく、ブリッジの近くにあるその部屋を目指す。ブリッジの後ろを通り過

ぎる時に千葉艦長が中で何か指揮しているのが見えた。長距離センサーが戦略偵察機を見つけたらしい。対空迎撃システムが起動している。

まほろばのブリッジは、艦の前方下部に置かれている主砲の長距離複合レールガン発射システムのちょうど真上に位置していて艦体内部にあるため窓はない。

外部の情報はブリッジの内壁と天井のほぼ全面に渡って設置されているホログラフィックスクリーンを通して得られている。このスクリーン上には

各種センサー群や、作戦中の戦隊機からFSLリンカを経由して送られてくる情報等をまとめて表示することが可能で、さらには航法情報や艦の状態等も

表示が可能だった。ブリッジの広さは全長で1000mクラスの艦としては非常にコンパクトにまとまっており、中央に艦長用のキャプテンシートとその

前方に操艦用に操舵コンソールが並列副座で二席、さらに中央から一段下がった左右に各種コンソールが並んでいる。右舷側は主に戦闘と航法用で

各種センサー、ECMやESM等の電子兵装、対艦対空兵装の管制システムと機関部の制御システムがあり、左舷側には主に戦隊機の管制用コンソールが

並んでいた。各種センサーと兵装は一つの戦闘指揮システムによって統合されていて、より少ない人数で効率的に作戦行動を行うことが可能だった。

これだけの規模の支援体制が敷かれているこの艦に配備されて運がよかったと、東風少尉はそう思いながらリアスフェイル中尉とブリッジの後ろを

通りぬけてジェインウェイ大尉のオフィスを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ましたよー、セシル〜?。」

 

リアスフェイル中尉がオフィス入り口ののインターホンを、そう言って鳴らす。東風少尉は少し後ろで待っていた。すぐに入っていいとの返信がある。

ロックの外れた自動ドアがスライド。二人で中に入る。ジェインウェイ大尉はデスクにこし掛けデータパッドを見て何か作業していた。二人が入って

きたので向き直る。ここもあまり大きくない部屋で、部屋の奥の角にワークデスクが置いてあり、反対側には打ち合わせなどに使用する椅子とガラス

製のテーブルが置いてある。椅子に座るように言われたので、テーブルのところまで行って腰掛ける。

 

「それで何の用ですか隊長さん?わざわざ呼び出して。」

 

リアスフェイル中尉が最初に質問する。ジェインウェイ大尉ではなく東風少尉が横からそれに答えた。

 

「ブリーフィングルームへデータを送って説明してる時間がないから、ささっとここで説明するそうです。」

 

東風少尉が言い終わってから、ジェインウェイ大尉が話し出す。話しながらデータパッドを二枚持ってきて二人に渡した。

 

「悪いわね呼び出したりして。今全艦のODNが対空戦闘用に回されてるから、ブリーフィングルームへデータを送ってる時間がなかったのよ。

 とりあえずこれ見てちょうだい。帰投中の春燕から届いたムーン隊の作戦結果。」

 

受け取りながら東風少尉が尋ねる。

 

「大尉。全艦が対空配備と言うのはどうしてでしょう?」

 

「救援に向かっている雪風とフランカーが敵の戦略偵察機と思われる機体を探知したの。

 それがまほろばのいる方向に向かっていて、現在交戦中らしいわ。ブリッジの方も騒がしかったと思うけど。」

 

渡されたデータパッドに一通り目を通し、内容を確認する。春燕が収集した情報をまほろばのコンピュータコアが自動編集したものだった。

ムーン隊と春燕の飛行記録、センサーログ、搭載兵器の使用記録、その時々における機体の状況等が短く完結に纏められている。

敵の高速ミサイルに関する報告も含まれていた。これは敵戦略偵察機を探知する前に編集したらしい。

この情報が無ければ、たかが一機の戦略偵察機が来たところで、まほろばがここまで騒がしくなることは無かっただろう。

 

「それにしても、敵のミサイル攻撃を三回食らっただけで戦闘不能とは一体何が起こったんだい、セシル?」

 

「高速ミサイルよ。これはまったく予期していなかったわ。春燕が探知してからGA4命中まで20秒弱しかない位のスピードで突っ込まれたそうよ。

 GA4とGA5がこれを受けて大破、他の機体も、その後に敵ミサイル母機のトリコバルト弾頭の爆発で生じた電磁波シャワーで電子機器がやられたらしいわ。」

 

ふむ、とリアスフェイル中尉が息を漏らす。最近ムーン隊もルーン隊も、余り活躍できていない。部隊の練度や機体の性能が不足しているとは考えられない。

そうすると、どうもここの敵は天使とは相性が悪いらしい。強大な力を持つ天使には相手があまりに小さすぎるのかもしれない。

私達の方が、こう言う敵を相手にするのは向いているだろう。第四世代紋章機は天使ではない。白銀の翼を持つのは第3.1世代機まで。私達の機体は彼らを護る

べく生まれた戦術支援機。風の翼を持つ戦闘妖精。

 

「迎撃は間に合わなかったのですか?」

 

東風少尉が問う。

 

「ストライクバーストの一斉射撃で八発のうち六発を迎撃。残りは迎撃失敗被弾。第二波攻撃は春燕が迎撃したわ。

 それに書いてあるでしょう。」

 

「いえ大尉。他の機体ですよ。GA6やGA3の長距離攻撃オプションはどうなっているんですか?

 どちらも命中せずとしか書かれていませんが。」

 

「”命中せず”なら迎撃失敗だったんでしょうね。詳しいことは春燕が帰ってこないと分からないわ。」

 

「でも春燕が迎撃できたって事は、こっちの長距離ミサイルで迎撃はできる訳でしょ。」

 

リアスフェイル中尉が話に入る。続けて私達の任務は何かと聞く。

 

「ご明察、敵ミサイルの迎撃は可能です。つまり、あなた達には再攻撃を掛けるルーン隊の援護を命じます。長距離制空装備で出撃しなさい。」

 

「了解、了解。でもハルカはどうする?はまなは補給機だよ、セシル。」

 

「考えてあるわ。ハルカ、あなたにはミサイリアーをやってもらいます。」

 

「すいません大尉。ミサイリアっ何です?」

 

「敵の真似をしたのよ。」

 

東風少尉が、少し驚いた様子で質問する。そんな事は今まで聞いた事も無かった。それにジェインウェイ大尉が答える。説明によれば、はまなは今回修理用

の装備は最小限として、そのあいた分にキャニスターに収められたEAVSAAM長距離可変速ミサイルを大量に搭載して行けと言うものだった。ミサイルの発射

管制はガッターレが行い、はまなからはその要請に応じてミサイルの発射を行う。フェアリィ隊で用いられているタクティカルデータリンクシステム、FSLフェア

リィ隊スーパーリンカを用いればこその運用法だった。遼機との間で戦術情報を相互に共有することを目的に作られ、例えばセンサー能力に優れる春燕が探知した

目標へ向けてステルス性に優れる雪風やフランカーが自身のセンサーを用いることなく攻撃することも可能だ。この場合、雪風とフランカーはアクティヴセンサー

の走査波を敵ESMに探知される心配が無く、完全なステルスとして行動できる。今回はそれ利用して、はまなをガッターレのウェポンベイとして使おうと言うものだ。

高速での戦略偵察を主たる任務とするガッターレは、春燕ほどではないにしろ強力なセンサー群を持っている。さらにはまなの搭載能力も極めて大きい。

説明を終えてジェインウェイ大尉が東風少尉に言う。

 

「こう言うこと。分かったハルカ?」

 

「つまり、先輩の後ろを付いて行ってミサイルを運べという事ですか?」

 

「そうよ、あなたの機体の搭載能力なら十分な量のミサイルを積んで行けるでしょう。搭載兵装や燃料の事はもうハンガーへ伝えてあるから、向こうで確認して。

 フライトプランも急ごしらえで、飛行経路と目標の情報くらいしかないけど、ルーン隊のシラナミ隊長から漸次指示を受けなさい。

 それじゃ時間がないからすぐ行って、最近時間外の出撃ばかりで悪いけど頼むわよ。」

 

「了解、隊長。任せときなさい。」

 

「それともう一つ。最悪の場合でも、戦闘情報は必ず持ち帰ること。何が起ころうともです。」

 

「敵の新しい脅威の情報は重要ですからね。」

 

「そう、よく分かっているはね。ハルカ。最重要命令です。全てにおいてこれを最優先すること。」

 

「全てにおいてですか...はい、分かりました。」

 

東風少尉が少し戸惑ったような声を出す。敵の高速ミサイルがどれほどの性能を持っているのか、その情報は極めて重要だ。それがなければ対策の立てようもない。

だから最重要なのだろうし、最優先すべきなのだろう。だが最優先とは、たとえ味方がやられようともそれを見捨てる必要があるという事だ。大きな目的の為には

小さな犠牲は仕方ないとも言われるが、自分にそんな真似が出来るだろうか。ただ、もし来なくてもしなければならないのが軍と言うものだ。ここで悩んでも意味

などあるのだろうか。東風少尉の考えはどこまでも果てることがない。

 

「はいはい。悩むなら生きて還ってから、好きなだけ悩みなさい。ほらほら時間がない。」

 

顔に悩んでいますという書いてある東風少尉を見てリアスフェイル中尉がそう言う。此処では悩んでいても仕方がないと言うようにも聞こえる。

 

「すみません。ちょっと気になって。」

 

「よろしい。じゃ行くよ、ハルカ。」

 

「了解です先輩。」

 

リアスフェイル中尉と東風少尉は部屋を出る。もと来た通路を戻り、自分の愛機のあるハンガーデッキを目指す。

フライトスーツを身に付けハンガーに入ると、いつもと変わりない位置に二機が待機していた。リアスフェイル中尉と東風少尉はそれぞれ自分の機体に搭乗。

搭載兵装、燃料、整備状況を確認。プリフライトチェック。オールコーションクリア。APU作動、戦術ディスプレイ点灯。待機中に機体へのエネルギー供給を行っていた

EPSケーブルが外される。機体を上部から保持しているドリーがハンガーデッキの天井を伝って移動。ガッターレは発進待機位置へ。エンジン始動、右から。

エンジンイベントコントローラがクロノストリングのエネルギー放出を制御し出力を徐々に上げていく。臨界出力へ到達、スロットルをスタート位置からアイドルへ

入れる。インパルスエンジン接続。スロットルをミリタリーへ、機体各部の動力チェック。異常なし。再びアイドルへ戻す。ガッターレの発進準備が完了する。

機体を発進位置へ。武装セーフティーコード、エジェクト。コントロールへ発艦をコール。許可が下りる。ドリーのアレスティングアームから機体が開放される。

スロットルをマックスアフターバーナーへ。重力カタパルト作動。発艦。はまながそれに続いて飛び出して征く。二機の妖精は大G加速。星の海の深淵へ消える。

 

 

 

 

 

 

「ルーン4、コンタクト。ピケット艦。隻数2。」

 

ルクシオールから発進したルーン隊が作戦空域へ進出する。四番機 スペルキャスターのパイロット、テキーラ マジョラム少尉から零番機の隊長 カズヤ シラナミ少尉に

通信。高速リンク指揮システムを通じて目標の戦術データが送られてくる。敵は第二波攻撃を警戒して、長大なセンサーレンジを持つピケット艦を迎撃ラインの最前列に

置いているらしい。シラナミ少尉は送られてくる情報を複合ディスプレイ上で確認していく。返信することを忘れていた。

 

「ちょっと、シラナミ。聞いてる? どうするの?敵よ。」

 

「え、ああ了解。ピケット2 コピー。見つかるとまずいな、回避しよう。リコ、030 30。」

 

「クロスキャリバー了解。」

 

シラナミ少尉は探知されるのを避けるために、迂回コースを指示。ルーン隊は編隊を保ったまま暖旋回、ピケット艦のセンサー範囲の隙を付いてさらに侵攻する。

支援機であるRA003が今はいないので、なるべく敵との接触は避けたかった。後ろ上方にいる護衛の二機も頼りにしていいのかはよく分からない。

それにしてもナノナノと引き込まれた、何も無いあの空間は何だったのだろうか、と先日の戦闘空中哨戒任務から帰投する途中に起こったことを思い起こす。

敵機との突発的な遭遇に備えて編隊内の各機の間隔を広く取ったのがいけなかったのだろうか。シラナミ少尉は色々と考えをめぐらす。

あれは突然だった。帰投中にRA000の航法センサーが異常な表示をしたので最初はフェイルしたのだと思った。しかしRA003のプディング少尉の方も同じ状態で、何度

航法システムをチェックしても表示が変わらなかったのでそこで初めて遭難したと気付いた。どうやってもといた所へ帰ってきたかもよく覚えていない。

ただ通常の空間へ復帰した時には機体がかなりの損傷を受けていて、RA003はその時の損傷で現在修理中だった。パイロットのプディング少尉もその時負傷して、

今は機体と一緒にルクシオールでお留守番。本人は置いてけぼりを喰って不機嫌だろう。

 

「ナノちゃん今頃ルクシオールで何しているでしょうね?発進前は自分も行きたいって言ってましたけど。」

 

RA001の桜葉少尉が話しかけてくる。

 

「あの怪我じゃ、今はちょっと無理だよ。早く良くなるといいけど。」

 

「あれだけ元気なんですから、大丈夫ですよ。」

 

「でも皆に迷惑掛けてないかな。アニスじゃあるまいし、暴れているとは思わないけど。かなり不機嫌だったからね。」

 

「おいカズヤ、何話してる。」

 

RA005のアニス アジート少尉が割り込んで来る。RA001とは有線通信だけだったはずなのでシラナミ少尉は驚く。

 

「ちょっ、アニス!何で分かったの?回線開いてないのに。」

 

「敵機を見つけたから、こっちから開いたんだよ。たく作戦中に何のんきな事してるんだよ。

 BRAA015 20 12000にボギー。タイプ2、8機。」

 

あんたが言うかなと思いながらシラナミ少尉が返信。真剣な声に変わる。

 

015 20 12000 タイプ2、了解。迎撃する、エンゲージ。」

 

シラナミ少尉は各機に迎撃を指示。操縦は桜葉少尉に任せ、自分は戦闘指揮を執るために戦術管制システムの統合ディスプレイを操作する。

ルーン隊各機は戦闘態勢へ移行、加速して敵機と相対。桜葉少尉は眼前のHUDを注視する。表示はMSLモード、RA001のセンサー群が敵機を捉えると同時にTDボックスが

現れロックオン。既に射程内。当たれと願いながら、ミサイルレリーズを静かに押す。フレイル中距離ミサイル4発が翼端から放たれる。交戦開始。

 

 

 

 

戦闘の様子はガッターレが逃さず記録していた。相変わらずいい動きだとリアスフェイル中尉は感心する。まほろばから発進したガッターレとはまなの二機はルーン隊と

合流したあと、普段通りに後方に位置して情報収集を行っていた。普段と違うのは援護要請に応じて支援戦闘を行うように命令されている事だけだった。

それ以上の命令は無い。だからガッターレの長距離センサーが敵のステルス機を探知しても、ルーン隊を捉えていなかったので積極的に知らせるような事はしなかったし、

それに知らせたところで長距離攻撃オプションを持つ機体の少ないルーン隊では格闘戦にもつれ込む事は確実だった。不思議と敵はまだルーン隊を探知してはいない。

真っ直ぐに侵攻してきて、ルーン隊からの第一波攻撃でやっと気付いて反撃してきた。ムーン隊に大きな打撃を与えたことで油断でもしていたのだろうか。

 

「このペースなら、今度は成功しそうですね。」

 

東風少尉がそう言ってくる。ルーン隊は既に敵機を5機にまで減らしている。第3.1世代機搭載の大出力戦術レーザーの威力は圧倒的だった。

発射速度が遅いので、なかなか小さな目標には当て辛いが、命中すればほんの十数発で敵機が爆散する。

 

「そうなってくれると有難いけど。ここの敵さんは意地悪だからね、すんなり帰してくれるかどうか。」

 

「でもルーン隊は敵を押してるようですし、敵の高速ミサイルの走査波も捉えていません。」

 

「アクティヴホーミング以外の他の誘導手段を持っているかもしれないじゃないか。」

 

「でもこちらを探知するには走査波を出さないといけませんよ。」

 

「こっちが探知できていないだけかもしれない。油断しないようにね。」

 

「はい。了解です。」

 

それから暫く何も話さないで、戦闘空域の周りの少しはなれたところを八の字を描いて電子偵察を行う。交戦している敵機の数が残り1機になった所で、ガッターレの

広域受動センサーが警報を発した。リアスフェイル中尉は戦術ディスプレイで確認する。敵の長距離走査波。ガッターレCIEXが機体各部に埋め込まれている各レシーバー

から送られて来る敵走査波の周波数位相や時間差等の情報を処理し、敵の位置、速度、種類等をディスプレイ上に表示してくる。CIEXが春燕の収集した電子情報と比較し、

下した結論は敵高速ミサイルの索敵用センサーにルーン隊が捉えられたことを示していた。ただ幸いなことに、こちらは見つかっていない。ステルスはこう言うときに便

利だ。FSLリンカではまなに警告を入れる。すぐに東風少尉から了解したと返信が来る。同時にルーン隊へ緊急通信。

 

「ガッターレよりオールエンジェル。PAN PAN PAN コードU ユニフォーム ユニフォーム。例の高速ミサイルが飛来する。すぐに退避せよ。」

 

返信が無い。もう一度呼びかける、繋がらない。ガッターレが敵のECMによって妨害されていると、MFD上に表示してくる。

リアスフェイル中尉はすぐにECCMを起動、敵の電子妨害を取り除く。再び妨害されないように今度は抗ECM能力に優れるFSLで通信を入れる。

 

FA6よりオールエンジェル。PAN コードユニフォーム。敵が高速ミサイルを発射する。退避せよ。」

 

「ブレイブハート了解。」

 

シラナミ少尉は高速リンク指揮システムにオーバーライドしてきたFSLの警告で、敵ミサイル攻撃に備える。ルクシオールで受けたブリーフィングでそのミサイルの

脅威がどれ程のものかは聞いていた。紋章機2機が一瞬で交戦不能に陥ったという。しかも防御力に優れるGA004と005。襲われたら無事ではすまないだろう。

各機に避退するように伝え、RA004のマジョラム少尉には電子妨害手段の実行を命じた。ルーン隊は敵機の追撃を中止し避退行動。RA004がビットに搭載されているエスコート

ECMを起動、編隊をジャミングの傘で覆う。各機はそれぞれ回避行動を開始する。FSLを通じてガッターレが探知した敵のセンサー情報を受け取りながら行動を起こす。

編隊の間隔を広く取り、一旦上方へ逃れようと上昇。迂回コースを取ったが敵のセンサー群による追尾は振り切れない。

シラナミ少尉は焦る。それと呼応するかのようにFSLリンカから再び警報が来る。

 

「ガッターレよりオールエンジェル。敵ミサイル急速接近中。こちらで迎撃する、そのまま退避せよ。」

 

FSL経由で送られてくる戦術情報でRA000の警戒装置が作動する。同時に各機のコクピット内に警報音。

 

「ルーン了解。お願いします。」

 

リアスフェイル中尉は再度状況を確認。敵の索敵用センサーの走査波は既に消えている。RA004のジャミングを突破できなかったらしい。代わりに、ピケット艦の

強力な長距離センサーで補足されていた。敵は走査波を非常にシャープに絞りながら、ルーン隊の4機を同時に追跡している。RA004を主目標として追跡しているからには、

ジャミング源を最初に潰すつもりの様だ。リアスフェイル中尉は、HUD表示をMSLモードへ。先程探知した高速ミサイルの飛来方向に各センサーの走査方向を

指向して迎撃に備える。はまなにもFSLでいつでも長距離ミサイルの発射管制を行えるように準備するようにと伝える。

二機は戦闘態勢へ。妖精は造られた本来の目的を果たすために身構える。旋回しヘッドオン。はまなもポジションに着く。最初の迎撃はガッターレ搭載のミサイルで行お

うとして、スロットルの兵装選択スイッチから長距離可変速ミサイルを選択。長距離量子パッシヴレーダーが探知した敵ミサイルをFCSのアクティヴセンサー群も捕捉する。

HUD上のTDボックスは8、ガッターレは同時にミサイルの中間誘導を行う場合は、最大42目標に対して同時攻撃を掛けることが可能なのでこの数は普段なら問題ない。

だが小型かつ極めて高速のミサイルの迎撃となると、通常よりも精度の高い誘導が求められる。リアスフェイル中尉はガッターレの能力を信頼していたが、不安を拭い

切れないでいた。HUDの円形レティクル上の距離スケールがあっという間に減少していく。敵高速ミサイルが最大射程に進入、レティクルが破線から実線に変わる。

ガッターレのCIEXは既にウェポンベイ内部とメインスタビライザー下に連装ランチャーを介して搭載されている各ミサイルに最適誘導経路を入力し終えていた。

有効射程内へ進入。"SHOOT"HUDに発射せよのメッセージが出る。長距離可変速ミサイルを8発同時発射。軽い衝撃がコクピットまで伝わってくる。

 

「ガッターレ FOX3!」

 

ミサイル発射コール。ガッターレのFCセンサーは遠方を高速で飛来する8発の敵ミサイルを逃さず追跡し、誘導情報を自らが放った同数の迎撃ミサイルに更新。

ストアコントロールパネルの表示がミサイルが完全自立誘導に切り替わったことを伝えてくる。HUD上の目標到達時間のカウントが減っていく。

 

"suceed"

 

カウントが零になると同時に命中の表示が出た。センサーからも敵ミサイル群の反応が消える。敵の第一波迎撃成功。リアスフェイル中尉はひとまず安心した。どうやら

こちらのミサイルで、敵高速ミサイルは対処可能なことは確実らしい。それと同時に、1発も撃ち漏らす事無く全弾を命中させたガッターレの管制能力の高さに改めて驚か

される。迎撃に失敗するかも知れないという不安は杞憂に終わったようだ。

 

「迎撃成功。我が愛機はさすがだね。」

 

"I won't let get away.It is my duty,Lt" ”私は逃さない。それが私の務めです、中尉”

 

ガッターレがMFDを介してそう言ってくる。頼もしい限りだと、リアスフェイル中尉は思った。

第一波迎撃成功とほぼ同時に、今度ははまなの広域警戒センサーが飛来する敵の迎撃機群を捉える。ガッターレのセンサーは敵ミサイルの追跡に能力を割いていたので、

探知が遅れはまなが先に探知したらしい。東風少尉は目標の情報を素早く読み取り、ガッターレのリアスフェイル中尉へ報告する。

更にルーン隊へも警告を送る。

 

「はまなコンタクト。対象BRAA015 00 45000。機種不明、2グループ、8機。恐らく新型です。ルーン隊の進路と交差します。」

 

015 00 45 8 コピー。こっちでも捉えた、見つからないように追跡して情報収集。」

 

「了解。交戦した場合、援護はどうしますか?」

 

「積極的に援護はしなくていい。またミサイルが来たら対応できなくなる。

 それに最悪味方が全滅しても情報は持ち帰るのが任務だよ。わかってる?」

 

「分かっています。」

 

はまなはセンサーの走査波を最適調整し送信出力を絞って敵機を追跡する。ルーン隊へはFSLを通じて自動的に戦術情報が送られた。

 

 

 

 

 

今までの敵機とは違っていた。その小型の迎撃機群はヘッドンでの第一撃を難なくかわし、4対8の優位で連携攻撃を掛けてくる。

 

「見失いました。ロストコンタクト、RA1。」

 

「スパイク!捉まった。8時下方。リコ、ブレイクポート。」

 

「了解、ポート。」

 

桜葉少尉は敵機の高い機動力に困惑していた。後方に占位しても予想を超えた動きを見せて、照準が完了する前に逃げられるか、いつの間にか後ろに回った

敵の遼機に逆に補足される。完全に敵のペースだった。こちらは一機ずつに分断され編隊として交戦できなくなっている。

桜葉少尉は追撃を諦めてブレイク。何とか振り切り体勢を立て直そうとうとスロットルをマックスアフターバーナーから更に前方へ押し込み、

RA000の機外ブースターにも点火する。敵機はこの圧倒的な大推力についてこれずに後方占位を解いて、自分の味方からの支援要請を受けたらしくRA002の方へ向かう。

RA002は急に後方から被られて体制を崩す。そのまま後ろを取られる。

 

「後ろを取られた。桜葉少尉、そこから援護できないか?」

 

「直ぐ行きます。」

 

敵機を振り切り桜葉少尉は、再び敵に補足される前にRA001を機動させる。後席のシラナミ少尉から誘導を受けてRA002の援護へ。

出力を下げる事無く旋回。速度を維持したまま、合計4機でRA002を狙う敵機へアプローチ。ドッグファイトモード起動。ミサイルを近距離高速モードへ、

戦術レーザーのファイアコントロールを高速自動射撃へいれて接近する。敵機から見ると死角の後下方から。ミサイル射程内へ捉える。シーカーオープン。

ロックオン。発射。パッシヴ誘導の短距離ミサイル4発。死角から撃たれたにも関わらず敵機がミサイル発射に気付いてブレイクするが、そんな事に驚いて

いる暇は無い。RA001は敵機が離脱するより早く、高速のまま更に接近。FSCが弾道を計測しつつ自動射撃。クローズドループファイア。命中。撃墜。

そのままRA002と離脱を図る。敵機をミサイルで1機、レーザーで1機撃墜した。オープンにしてある通信機から、RA002のリリィ・C・シャーベット中尉が呼びかけてくる。

 

「すまなかった。」

 

「リリィさん。後ろをお願いできますか?」

 

「任せろ桜葉少尉。それでカズヤ、どうするのだ?」

 

シラナミ少尉がそれに答える。

 

「アニスの援護に行こう。一度、体勢を立て直さないと。」

 

「了解。」

 

2機でエレメントを組み、RA004と行動をともにしているRA005の元へ向かう。先程と同じ要領で高速攻撃。今回はかわされなかった。RA005と共同で更に3機を撃墜。

残りの2機は味方を5機失って、撤退していく。各機に現状を知らせるように言って、報告を求める。結果はどの機も少なからず被弾し損傷していた。

 

「アニス大丈夫?君が一番ひどいけど。」

 

シラナミ少尉が呼びかける。

 

「もう少し遅れたらマジ危なかったな。FCSとか中身が色々死んだ。外装もヤバイな。後でフェアリィの連中に応急処置頼むよ。」

 

「カズヤ。もう作戦の遂行は困難だと思うが?今回はプディング少尉がいない、回復役無しでの作戦継続は危険だろう。」

 

「うん、仕方ない。悔しいけど撤退しよう。」

 

シラナミ少尉は各機に帰投コースを指示、FSLでピケット艦の排除と帰還中の援護をガッターレに要請する。

 

「ガッターレ了解。」

 

終始見ているだけだった相手からはそう一言短く返信を受けただけで通信を終わる。彼らが生きて情報を持ち帰ることを命令されているのは知っているし、

収集する情報が戦略上極めて重要なことも理解している。だが、もし協力してくれたら作戦は成功していたかも知れないのに、とシラナミ少尉は歯痒く思う。

僕らがどうなっても良いと言うのか。フェアリィの人は皆そうだ、僕らのことを味方とは思っていても、仲間だとは思っていない。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ハイ、了解しました。SOMCで修理用ナノマシンを送ります。」

 

通信に応えて東風少尉は、ペイロードを変えることで様々な用途に使用できるSOMCの誘導用データリンクを起動。発射手順を実行していく。今回は長距離ミサイルを

大量に搭載しているのでSOMCは4発しか積んで来ていない。搭載している弾頭はナノマシンとその制御システム。弾頭を取り替えれば巡航ミサイルとしても使用できる。

 

「どうしたのハルカ?」

 

リアスフェイル中尉が聞いてくる。

 

RA5から修理要請が来たので、SOMCを発射します。」

 

そういって、発射準備の整ったSOMCを遙か前方を飛行するRA005へ向けて発射する。後はRA005に着き次第、自動制御で修理を行うだろう。

 

「長距離ミサイルたくさん積んできた意味が余りありませんでしたね。もっとSOMCを積んでくるべきだったんでしょうか?」

 

「まぁ、いつも計画通りに行くとは限らないさ。でも敵の新型機を管制してた奴を撃ち落すのには使えたじゃない。」

 

「そういえば管制機を撃墜したら足並みが乱れましたね。」

 

「無人機みたいだったけど、共同交戦用のデータリンクが切れてへたったんだろうさ。

 いくら機動性がよくても単独戦闘では勝ち目は無い。」

 

ルーン隊が交戦中に、ガッターレは敵の管制機を探知しFSLを用いてはまなのミサイルを誘導し撃墜していた。その直後にルーン隊は敵機の撃退に成功している。

排除するように要請されていた前方のピケット艦も、管制機同様に既にセンサーを無力化されていた。暫くは探知されることは無いだろう。

 

「確かに能力は実証されましたけど、ミサイルがかなり余りましたよ。」

 

「足りなくなるよりは良いよ。修理しなくても飛べることは飛べるんだから。例の高速ミサイルは当たれば終わり。」

 

「それにしても、今回は敵にしてやられましたね。この機会に反撃に転じるかもしれません。」

 

「そうなるとこっちも防衛しないといけない。逃げてばかりじゃいられなくなる。」

 

「そうですね。でもそうなれば、エンジェル隊の人達と一緒に作戦がとれますよ。彼女達の援護だって出来る。」

 

東風少尉には、命令とはいえ味方の安全より収集情報の安全を優先させることは辛かった。確かに情報が戦闘の優劣を決める現代戦では

自分達のような任務を負うべき部隊も必要だろう。分かってはいるが、どこか納得できない。だが、例え納得できなくても命令とあらば

それを実行しなければならない。軍とはそういう所だ。だから東風少尉はフェアリィへ配属された時でも、補給用のストラトタンカーの

パイロットへ志願した。エネルギーを補給し、SOMCで修理をして少しでも手助けがしたかった。

 

「はるかは優しいね。私はもうそんな事は感じなくなってしまったな。ずっとこう言うことをしていると感覚が麻痺してくるよ。

 自分でも時々怖くなる。ディスプレイ上から味方の反応が消えても、消えた以上の事はもう感じられない。」

 

リアスフェイル中尉がそう返信してくる。普段はそんな深刻な声を一言も発し無いのに。

 

「でね、感覚が麻痺したって事を恐ろしく思い出したらもうそろそろパイロットを辞めるべきか、なんて事も思ってしまうんだ。

 飛んでいるときに余計なことを考えていると、すぐにやられてしまう。自信も持てない。メイヴはいいよ、他人の事なんて関係ないって

 態度をとっていられるんだから。」

 

リアスフェイル中尉は、もちろん妹のメイヴ リアスフェイル少尉の現状、人間不信で雪風しか信じないと言うことをいいとは思っていないし、どうにかして

やりたいと思っている。ただ、妹のように機械的に戦闘をこなせたら楽だろうと思って言っただけだった。

 

「ハルカも気を付けておいた方がいいよ。戦場に出ていると人が人で無くなる。でも、ならないとやっていけない。

 敵の正体さえ分からないここではなおさらだ。」

 

「そうなんですか。自分にはよく分かりませんが。」

 

いきなりこんな事を言われて、東風少尉は少し驚いたようだ。ヘッドフォン越しに困ったような声が聞こえてくる。

 

「すぐに分かる。」

 

東風少尉がそういうのも無理はないと、リアスフェイル中尉は思う。出来ればそのままでいてほしい。

エンジェル隊の隊員はどうして、あれだけ前向きで明るいのだろう。ふっと、そんな疑問が思い浮かぶ。

だが今は分かるはずもない、分かる時が来るとすれば退役した時だろう。

 

「まぁ、今は気にしても仕方ない。とりあえず帰るよ、ハルカ。」

 

声の調子を元に戻して、リアスフェイル中尉が東風少尉に呼びかける。

 

「了解です。早く帰って休みましょう。」

 

「そうしよう。確かに疲れた。早く帰ってご飯食べて寝たい。」

 

「デブリーフィングがありますが?」

 

「寝ながら聞くよ。居眠りステルスは戦技学校の頃からの得意技だから。」

 

「ダメですよ。先輩。」

 

「将来上官になった時に部下から嫌われるぞ。そんなに細かいと。」

 

「変なこと言うのはやめて下さいってば。」

 

2機はルーン隊を護衛しつつ帰投する。

 

 

 

 

 

 

 

ムーン隊だけじゃなくて、ルーン隊まで潰してしまった...どうも設定で紋章機を弱体化しすぎたようです。

基本的な射程距離を

 

 長距離ミサイル>中距離ミサイル≒長距離レールガン>近距離ミサイル=中距離ビーム砲>機銃、レーザーファランクス

 

に設定したためだと思います。戦闘は出来るだけ現代の空戦っぽくしようと思って設定したのが理由です。

”皇国最強のエンジェル隊”を覆してしまいそうですが、ちゃんと活躍させる状況も考えてあるので、そこは許してください。

 

念のために言っておくと、フェアリィが被弾したり撃墜されたりしないのは、いつも逃げてばかりいるからです。

決してフェアリィの性能がずば抜けているからではありません。ダクトの時にフランカーと雪風が、カンフーファイターとト

リックマスター勝てたのはどちらも先に相手を見つけたからで、確かに、強力なステルス性を持つフェアリィの機体は探知が

困難ですが、仮にフランカー対トリックマスターになっていれば、逆にフランカーがアウトレンジキルされていた可能性もあ

ります。それに訓練での勝敗など参考程度にしかなりませんし、そもそも兵器自体の性能を比べることは意味の無いことです。(雑談スレとかは自分から言い出したくせ...)

重要なことは、兵器に求められている能力をその兵器が持っているか、持っている能力を必要とされる時に提供できるかだと

思います。他にも運用の仕方など色々な要素が係わってきます。つまり何が言いたいかと言うと、ルーンエンジェル隊もムー

ンエンジェル隊もフェアリィ隊も運用される部隊としての能力に優劣はないと言うことです。むしろ、フェアリィは打撃力で

劣る。  え、言い訳にしか聞こえない?うーん...