問題も片付いたここの所のジェインウェイ大尉の悩みは、目下計画中の敵防空網への反撃に関してだった。この日もまほろばの艦隊用戦域デー

タリンクを用いて行われた作戦会議へ出頭、フェアリィ隊が収集した情報を基にした資料を提出し見解を述べ、作戦の各段階における各艦の支

援体制とフェアリィ隊の行うべき任務内容についての議論等も行った。フェアリィ隊の本来の任務は、侵攻する味方機について行きその戦闘情

報を持ち帰る戦術電子偵察と早期警戒機や管制機及び給油機による味方部隊への支援で、戦闘に直接加わることは通常無い。だから今回の様な

大規模作戦であってもフェアリィ隊が直接的に参加を求められることも無いはずだった。だが先日のムーン隊とルーン隊によって行われたSEAD

任務においては戦闘に参加し十分な能力を示したので参加を決定され、ジェインウェイ大尉は通常のフライトプランの作成に加えてその反攻作

戦の計画まで作る羽目になってしまっていた。

 

 

 

 

「それで、隊長さん。どうでしたか本日の会議は?」

 

相談役にオフィスへ呼んだリアスフェイル中尉が簡単な話題から入ろうとそう聞いてくる。

ジェインウェイ大尉はいい加減にしてくれといった感じに答えた。

 

「大変よ。こっちの事はお構い無しで次から次へと要求をぶつけて来るんだから。

 こっちの機体はルーンやムーン隊と違って敵艦を何隻も沈めるような真似は出来ないのに」

 

「まぁ対艦ミサイルもつめて4発位だからね。それにしてもそんな要求が来ると言うことは

 敵さんもついに艦隊を出してきた?」

 

「昨日の偵察でメイヴが見つけて帰ってきたのよ」

 

「厄介ごとを見つける天才なのかな、我が妹は」

 

ルーン隊の失敗以来EDEN側は積極的に攻勢には出ていない。期待されていた新鋭のFC-1パーシヴァルも思うような戦果を上げられていなかった。

付いて行くべき味方がいないのでフェアリィ隊は敵地への戦略偵察が命じられている。敵が強力な防空網を構築して以来それを破って偵察を行え

るのは、強力な自衛用電子戦装置と高度なステルス性を持つフェアリィ所属の3機のみだった。

 

「防空用の対空巡洋艦が6隻確認されているわ。恐らくSOMCやムーン隊の対艦ミサイルくらいなら簡単に迎撃してしまうでしょうね。」

 

偵察の結果、敵は防空艦を追加配備したらしいことがわかっていた。いつもの様に深刻な表情のジェインウェイ大尉に、リアスフェイル中尉は

冗談交じりに返す。

 

「それじゃ、今度行く時は試しに撃ってみようかな。そうすればよく分かる。

 でもセシル、それは向こうに任せるんでしょう?フェアリィへの要請は護衛だと聞いたけど」

 

「それが変わったのよ。うちの隊で敵の防空網を制圧することになったわ」

 

「役割が入れ替わったみたいだね。やっと妖精の本分に気付いてくれたわけだ。

 でもそうなると、うちが敵防空艦に対処しないといけないのか。面倒くさいなぁ」

 

「敵の高速ミサイルに対処可能なのはフェアリィだけですからね。他にも早期警戒機による支援や空中給油、データリンク中継とやる事は山ほどあるわ。」

 

「攻撃チームへ3機出すと、春燕やはまなの護衛はどうする?セシル一人じゃつらいと思うけど」

 

「だから相談に呼んだのよ」

 

「あぁ、なるほど」

 

敵の拠点を攻略する前には通常、防空網制圧(SEAD)が行われる。主に敵の対空火器かファイアコントロールを目標とし、敵のセンサーが出す走査波を捉える

パッシヴホーミングミサイルで持って攻撃する。NEUEクーデター戦役時のクロノゲート総力戦でルーン隊が味方の突破を容易にするために、予め敵大型艦を無

力化させたのもSEADの一種と呼べる。前回の出撃も同様にEDEN軍主力の進行を容易にするための作戦だった。ただ、ルーン隊やムーン隊の場合、紋章機にとっ

ては大抵の対空火器では脅威にならないので、SEADをせずに直接敵中枢へ出撃することも多い為、どちらかと言うと苦手な分野になる。

逆に言うと、電子兵装の充実しているフェアリィにとっては得意分野の一つだ。

 

「つまりは、その6隻の巡洋艦を撃沈せよと?」

 

「そういうこと。天使達は近づけない、妖精では打撃力不足。如何したものでしょうね」

 

「センサーを潰して無力化すれば良いんじゃないかな。何も沈めなくても、暫く使えないようにすれば十分でしょう?」

 

艦対空ミサイルの誘導方法では、一般的にセミアクティヴ誘導が用いられる。各種センサーから母艦の得た目標データに従って発射されたミサイルは、

INS誘導や中間アップデートを受け目標に接近した後にセミアクティヴシーカーを作動させる。この型式ではミサイル自身にはセンサーの受信機しか積まず、

目標を捕らえるための走査波を出す発振機は母艦に装備されていてミサイルには無い。ミサイルは母艦のセンサーが発した走査波の目標からの反射を捉えて

追尾し命中する仕組みだ。母艦に搭載している誘導用センサーの数には限りがあるので、一度に誘導できるミサイルの数にも限りがある。多くの場合は2,3発

が限界で、それ以上の数の敵機とは同時交戦できない。正し、最初から最後まで目標を捉えている必要は無く、要は最後だけ誘導してやればよいので、その最

後の誘導する時間を他のミサイルと重ならないように最適に調整してやれば一度に交戦できる数は増える。EDEN軍の防空艦ではこの方法で多目標同時対処能力

を強化してきた。ルクシオールが搭載する個艦防空システムはこのタイプになる。

対して、アクティヴ誘導と言うものはミサイル自身に発振機も受信機も積んでいるので、母艦からの終末誘導を必要としない。母艦から発射されたミサイルは

セミアクティヴ誘導と同様に、中間誘導を終えて目標に接近してからは自身のセンサーを作動させ自ら目標を捕らえ命中する。この方法では、実際にはそうは

いかないが、単純に言えば一度に撃てるミサイルの数が同時対処可能な目標数になるので、防空能力は大幅に上がる。システム自体も誘導用のセンサーが必要

ないのでコンパクトにでき、小型艦にも有力な対空攻撃力を持たすことが可能になる。ただミサイルに搭載できるセンサーは、艦載型のセンサーに比べて能力

が低いので目標の補足能力に劣ると言う弱点もある。他にアクティヴ誘導とセミアクティヴ誘導を状況に応じて切り替えられる複合型もあるが、旧EDEN時代に

建造されたエルシオールとまほろば以外には装備されていない。またエルシオールに搭載されているシステムは個艦防空用なので、艦隊防空を行えるほどの能

力を持ったシステムを持つのは現EDEN軍ではまほろばのみになっている。

 

「雪風の収集した電子情報によると、自分のセンサーアレイがやられても早期警戒システムから

 データリンクを介し情報を得て遠隔射撃できるみたいなのよ」

 

「厄介だな。終末はアクティヴ誘導とかはないよね...?」

 

「さぁ、そこまでは分からないわね。今シルカが偵察にいっているから、戻ってくれば分かるわ」

 

「一人で行かせるのはまずいんじゃないかな。墜されでもしたら大変だよセシル」

 

「各種センサーを積んだ無人機に情報を収集させて、そのデータを貰って帰るだけだから大丈夫よ。

 万一撃たれてもシルカとフランカーならかわせるでしょう」

 

「無事を祈るしかないよ。しかし厄介なシステムを構成したもんだ敵さんも。

 まずは早期警戒センサーを止めないとね。それを先にやろう」

 

「やっぱりそうなるわね」

 

SEADにはこう言うのも含まれてるから問題ないよ。それに一つ潰せばそこの埋め合わせで敵が戦力を割いてくれる」

 

「それについては明日の会議で言って見るわ。それより、フリアとハルカの護衛のことよ、問題は」

 

「大変だね隊長も。それじゃ伺いますよ」

 

「特にハルカよ、機外に空中給油ポッドとエクスターナルタンクを搭載したらまともな自衛兵装が無いんだから」

 

「ハルカなら大丈夫だよ。ピクシーを自律機動モードで付き添わせておくとか」

 

リアスフェイル中尉がジェインウェイ大尉から解放されたのはそれからかなり後のことだった。ジュラーブリク少尉とフランカーが帰投してきたので相談は

そこで止めてジェインウェイ大尉はブリッジの方へ向い、リアスフェイル中尉はブリーフィングルーム脇の待機室へ帰ろうと思って部屋を出た。

隊長でなくてもパイロットの自分にはやる事は多い。ムーン隊とルーン隊がかつて無いほどの損害を受けた今はなおさらだ。さっさと片付けてしまおう。

リアスフェイル中尉はそう思い、待機室に帰ると同時に個人用情報端末を開いて作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

5時間にわたる長距離偵察ミッションを終えて、フランカーとジュラーブリク少尉は着艦体制に入る。

着艦許可をコールし、燃料残量問題無しを告げる。

 

「まほろばストライク、フランカーチェックイン。ステイトよし」

 

「フランカー、確認しました。マーシャルへ切り替え。 おかえりシルカ」

 

「フランカー了解。ありがとう」

 

管制員のちょっとした挨拶も、無事に還って来れた事を実感させてくれて嬉しく思う。

後は着艦をこなせば任務完了になる。普段はACLSで自動着艦が出来るが今日は帰還中に故障してしまったのでILS誘導の下で

自分で着艦しなければいけない。だが、難しいとされている着艦も、落ち着いてやれば失敗することはまず無い。

機体のエンジン出力を80まで下げてアプローチ。まほろばはエルシオールと同じように艦体の底部にフライトデッキを持つ

ので下側から徐々に上がるようなコースで接近する。まほろば側も広域管制のストライクコントロールから着艦誘導のマー

シャルコントロールへ切り替えてフランカーを支援。

 

「フランカー、着艦を許可する。ケースCV1アプローチ。最終方位315。上昇を開始せよ」

 

315 コピー」

 

ジュラーブリク少尉は速度を落としつつ、定められた上昇率を維持して母艦へ接近していく。

 

「フランカー、チェックギア」

 

「ギアダウン、チェック」

 

管制からのコールで着艦時に機体を保持するためのアレスティングアームを接続するギアを確認。同時に低速で失われる安定性を補うためにフラップをハーフダウン。

ギアを出すとHUDが自動的にランディングモードへ切り替わる。表示されている十字線のアジマスニードルとエレベーションニードルが機体の進行方向を表すベロシティ

ベクター上で交わるようにフランカーを操作していく。

 

「フランカー。オンコース、オングライドスロープ。上昇を続行せよ」

 

管制からのアドバイスを聞けば適正進入角度でアプローチしているようなので、このままの姿勢を維持しながら更に接近。

接近しながらもう一度管制からアドバイスを受ける。

 

「フランカー。少し速い、減速せよ」

 

「了解」

 

速度が出すぎていたようなのでスピードブレーキを開き減速。フラップフルダウン。まほろばが目視距離に迫る。

 

「フランカー。コールボール」

 

「ラジャーボール」

 

「チェックトラクター」

 

「トラクタービーム、レシーヴ、チェック」

 

母艦に最接近した時に、機体をアレスティングアームまで持っていくためのトラクタービームの軸線を確認し固定。デッキが見えるくらいまで近づく。

ゆっくりと接近。トラクタービームがフランカーの機体を捉えアレスティングアームに固定される。着艦。インパルスエンジンカットオフ。

機体がハンガーへ格納される。フランカーを待機状態にしてクロノストリングエンジンを停止。コクピットハッチを開き外に出る。

今日のフライトは無事終了、ジュラーブリク少尉はロッカーで着替え、デブリーフィングのためにブリーフィングルームへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームでいつも通りにデブリーフィングを受ける。飛行経路、その時々における状況、収集情報等を報告。任務を達成したか確認する。

今回の目的である敵防空艦への偵察は、発進させた無人機が撃墜されたこと以外は概ね成功だった。

フェアリィは現EDEN軍では最も無人化の比率が高い。それはフェアリィの任務が戦術支援や偵察等に偏っているから、その分野では既に無人機の方が

有人機よりも効率的に作戦を行う能力があると言われているからだ。敵勢力圏を長時間にわたって監視偵察するには、乗員の疲労を考える必要の無い

無人機の方が適しているし撃墜された際の人的損失も出ないので危険な場所へも行かせ易い。それに元々まほろばの設計コンセプトの中にも機械に出

来る事は機械にやらせて効率化を図ると言うのがあったらしい。確かに乗員数は、省力化の進んでいるルクシオールよりさらに少なく半分程度しかない。

ただ他にも理由はあるらしい。それがどう言う理由かジュラーブリク少尉は知らなかった。

ジェインウェイ大尉は敵の早期警戒網の能力を測りたいらしく、敵がどういう風に無人偵察機を迎撃したのか、そのことを詳しく聞いてくる。

ジュラーブリク少尉はそれらに、的確に短く答えた。

 

「ウェイポイント4でURVを発進させた後どうしたの?」

 

「所定のコースを維持させてミッションエリアへ誘導しましたが、URVのESMは敵の走査波を捉えませんでした。

 フランカーのESMも同じですから、ここでは捕捉されていないと思います。」

 

「どこで捉まったと思う?」

 

ジュラーブリク少尉は飛行記録を表示させている壁面の有機発光ディスプレイに、操作パッドを使って座標をポインティングしながら説明する。

 

「走査波を捉えたのはグリッド12Aのここです。しかしフランカーと同レベルでステルス化されているURVを

 探知できたとは考えづらい距離です」

 

「確かにそうね」

 

ジェインウェイ大尉がうなずく。示されたポイントは確認されている早期警戒センサーの探知可能距離ギリギリのところだった。

ジュラーブリク少尉が続ける。

 

「でも大尉、どうやらこれ以後ずっと追跡されていた様なんです。」

 

「どういう事かしら?」

 

「走査波を探知してからURVが撃墜されるまで、フランカーとURVのESMには共に反応がありません。

 パッシヴセンサーで補足される距離に進出するまでに、敵がURVを探知できるのはこのポイントだけです」

 

ジュラーブリク少尉が言うそれは、URVは撃墜されるまで通常のアクティヴセンサーに捉えられていない事を意味する。

また、今の段階では敵が長距離でも目標の位置を正確に捉えられるパッシヴセンサーを配備していることは確認されていない。

つまり敵が新しいタイプのセンサーを開発したらしいと言うことだった。

 

「詳細は情報を分析しないと分かりませんが。何らかの方法で探知、追跡し近距離用パッシヴホーミングミサイルで撃墜したものと思われます。」

 

「そうね、よく調べてみましょう。幸いURVが撃墜されまでに集めた情報は少なくないわ。

 ところでシルカ、あなたはこの件についてどう思う?」

 

「私の意見ですか?」

 

ジュラーブリク少尉は考えをめぐらせる。作戦行動中はやるべき事が多くてそんなことを考えている暇は無いし、考えることがあったとしても

どうすれば生きて帰れるかと言う事くらいで、敵がどんな新兵器を造ったなどと言うのはどうでもよかった。問題なのはその新兵器がどんな物

なのかではなく、どうすればそれに対処し無事に生還できるかで、他の事を考えている余裕は無い。

だが、ひとたび還ってくれば、集めた情報を分析し処理することも任務の内なのでどうでもいいとは言っていられない。それに敵がどういう物を

造ったか分かれば、対策も立てやすい。

ジュラーブリク少尉はしばらく考えた後に何か思い出したようだった。

 

「バイスタティックタイプのセンサーでは無いでしょうか。ちょうどURVが走査波を捉えた当たりに、前回の偵察では見付かっていなかった小型の

 プローブを見つけました。これがセンサーのレシーバーではないかと思われます。」

 

「なるほどね、それじゃよく調べてみて。情報部へ言って一緒に解析できるように伝えておきます。報告書は情報の解析結果と同時に出すこと。

 連絡はまた回すからそれまでは少し休みなさい。5時間も飛んできたんだから疲れているでしょう。質問は?無ければ終わります。」

 

「ありません。では大尉失礼します」

 

「ご苦労様。」

 

ジュラーブリク少尉は壁面ディスプレイの操作パッドを戻し、軽く敬礼して部屋を出て行った。ジェインウェイ大尉も部屋を片付けオフィスへ戻った。

 

 

 

 

ジュラーブリク少尉がその後に提出した報告書には、情報の解析によれば敵がバイスタティックセンサーを開発配備したことはどうやら確実であると

あった。バイスタティック式というのは、これもセンサーの受信機と発信機が別々のところに設置されているタイプのもでステルス機を探知すること

に有効とされている方式だ。発振機を通しセンサーアレイから放射した走査波の目標からの反射を、別の場所に置いてある受信機のアンテナで捉え目

標を探知し識別する。この方法がステルス機探知に有効な理由は、フェアリィが運用する紋章機のステルスシステムの作動原理に関係してくる。

フェアリィで用いられるステルス技術は、かつてまだ惑星間航行が実用化されていなかった当時のステルス航空機の物とほぼ同じ仕組みで作動する。

当時の航空機のステルス化は、ファセッティングと呼ばれる技術によるもので、機体外形を多数の平面パネルや曲線で構成し、自機に対して向けられ

たレーダー電波をある特定の方向にだけ反射させる。このシステムでは、レーダー波の発信源への反射は他の非ステルス機に比べて極端に低くなり、

結果被探知距離の大幅な短縮等のステルス性を獲得できる。このファセッテイングは、時代が進むにつれて全方位での低エミッション性獲得等の技術

革新の結果、今では殆ど使われていない利用価値の無いロストテクノロジーと化していた。つまり絶滅した技術だった。

絶滅したは言っても、自機へ向けられたセンサー走査波の拡散を限定させるというアイディアはその後も発展を続け、機体の周囲に走査波を反射させる

特殊なフィールドを張る事によって同じ効果を得られるようになり、フィールドに走査波を吸収し熱や他の波長の波に変換する機能を持つように進化し

ていった。フェアリィが用いるステルスシステムの内パッシヴの方はこの方式である。フェアリィの場合は更にアクティヴモードとして、飛来する走査

波とは逆位相の波をリアルタイムで干渉させ、センサー波を消すタイプのシステムも搭載されている。

ここで何故バイスタティックセンサーがステルス機探知に有効かと言うと、このタイプのセンサーは発信機とは違う場所に設置されたセンサー受信機に

より、拡散させた反射波を拾われ探知されるからだ。またこのセンサーの強みとしては、比較的小型の受信機をカバーエリアを重複させて設置すること

によりシステム全体の高い残存性を得たり、大出力の送信機一つで大きな範囲を警戒できるといった強みもある。

ただジェインウェイ大尉に分らないことは、非常にコストのかかるこのシステムを敵が何故配備したかと言うことだった。NEUEへの侵攻を目的とするなら

この様なトランスバール本星の惑星防空システムに匹敵するような大規模な防空網を構築する必要は無い。艦隊規模のエリアディフィンスだけで十分なは

ずだ。兵站の確保にも、補給物資を搭載した輸送艦群を護衛艦にエスコートさせる事でもっと安上がりに済ませられる。

まさか千葉艦長がこの前言っていた通り、ここの敵は”通路”をただ守っているだけなのだろうか。ジェインウェイ大尉はそう考え、だが待てと思い直す。

ではあの”通路”は誰が何のために創った。彼ら以外の誰かが創り出したのだろうか。それとも何か未発見の自然現象だろうか。解らない。

 

「解らないとは言っても...何とかしなければね」

 

今自分に課せられているのは”敵”の防空システムを沈黙させることだ。この紛争の本質に迫ることではない。それは情報部の者がやるべきことだ。彼らに

任せておけばいい。でないと自分の役割を完璧にはこなせない。

ジェインウェイ大尉は色々と作戦を考えてみる。これだけのシステムとなると、フェアリィの紋章機ですら極めて危険だろう。そんな所へは部下を送れない。

無人機による作戦や巡航ミサイルによるセンサー発振機への攻撃もダメだ。速度の遅いミサイルでは容易に探知され迎撃されるし、無人機の方も現時点で実

用化されているレベルでは作戦遂行は困難だろう。紋章機の無人運用でなら可能だろうが、能力はさておき損失を考えると簡単に決められることではない。

それに、無人運用はロストテクノロジーの性質がよく分かっていないからと、ルクシオールのマイヤーズ司令から許可されていない。そうなると、

 

「たまには、艦もに仕事をしてもらいましょうか。幸い、位置は分っている事ですしね。シルカもよくやってくれるわ」

 

まほろばからの艦砲射撃。ジェインウェイ大尉はまほろばの艦首複合レールガンによる自己誘導砲弾を用いた極超長距離攻撃を計画する。

 

 

 

 

 

ジェインウェイ大尉が千葉艦長に提出した計画はまほろばの主砲による精密射撃で、敵には迎撃も反撃も許さない攻撃を加えるものだった。亜光速まで加速された

砲弾を有効に迎撃する手段は、今の技術では存在しない。相手の探知可能距離以遠からの射撃なら反撃も困難だし、まほろばの主砲はそれを可能にする十分な性能

を持っている。まほろばの複合レールガンは、初期加速は従来通り砲弾を電気的に加速させるが砲弾が砲身を出た後に重力波パルスで光速付近までさらに加速され

る。この最終加速時の重力波パルスを調整することで砲身を固定したままでも射線をある程度目標へ指向出来るので、砲身を艦体へ固定することでより精密な射撃

を可能としている。さらには高い効率を持つ高性能なエネルギーユニットと完全無人化された自動装填システムにより、毎分12発という高い発射速度も備えている。

作戦はまず、敵センサーアレイの正確な位置を特定するために無人偵察機を飛ばす事から始まる。無人偵察機は精度を高める為に2機のペアで飛ばして、搭載する電

子偵察機材によりセンサーを探す。探知した後、目標のまほろばとの相対位置を空間ジャイロと航法支援衛星の支援で精密に測定。まほろばはそこから得た射撃緒

元に基づき攻撃を実施する。攻撃はパッシヴセンサーをもつ自己誘導砲弾で行い、10分にわたり30発を射撃。攻撃終了時に無人機が生存していれば効果判定を行い

回収する。また無人機は敵センサーの探知可能距離の出来る限り外側に待機させ、それを支援するためにまほろばから長距離高速巡航ミサイルで敵センサーの受信

用プローブのうち、位置が分かっているものをあらかじめ攻撃する。

千葉艦長はこれを承認し、後日行われた作戦会議でもジェインウェイ大尉はこの案を提出、艦体司令のマイヤーズ准将からも賛成を得た。会議ではリッチウォー攻

略作戦の他の各段階のプランについても決定し、それらはマイヤーズ准将によって一つの作戦に纏められた。この作戦においてフェアリィは、まほろばによる艦砲

射撃の後に全戦隊機でもって敵防空艦の制圧を行う。作戦ではそれに続きルクシオールとエルシオールより出撃可能な全機、EDEN軍主力の空母打撃群からは精密誘

導兵器を搭載した攻撃隊を発進させ拠点を航空攻撃。その後に、アサルトシャトルにより降下したEDEN軍空間海兵隊により制圧することになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ATG-18と言う作戦コードを与えられた拠点攻略作戦の実施日がくる。早朝から作戦は開始され、追加のアクティヴステルスポッドを積んだ2機の無人機がまず発艦

した。それに続いて艦前方の垂直発射機から、無人機が進出する空域のセンサープローブへ向けて12発の高速巡航ミサイルが放たれる。フェアリィの他の装備と同

様に高度にステルス化されたこれらのミサイル群は、発射後2時間弱で目標へ到達。複合シーカーの電磁光学センサーによる目標突入直前の命中評価判定では12発

10発が命中とされた。まほろばではどのミサイルがどのプローブへ命中したか情報をまとめて最も安全な飛行経路を算出、作戦空域へ飛行中の無人機へFSLスー

パーリンカでアップデート。完全自律制御で飛行している無人機は、情報を受け取るとそれに従い作戦空域へ進出した。目標から来るセンサー波を自ら索して、そ

して探知。2機のうち1機が捉えたその発振源の位置を2機共同で精密に測定。まほろばから予め展開されていた航法支援衛星からの支援と自らがもつ高精度空間ジャ

イロで、まほろばと目標との相対位置を割り出し、まほろばにFSLで送信してくる。それを受けて、まほろばは攻撃を加えるべく体勢を整えた。全艦へデフコンワン

を発令し、主砲が起動される。

 

「前部砲撃戦用意。艦首レールガン射撃準備」

 

「射撃用意。エネルギーコンデンサ装填開始」

 

ブリッジでは千葉艦長が対放射源砲撃戦を命じ、射撃管制の士官がその命令に応じる。レールガンの電磁加速器へ瞬間的に大きなエネルギーを流すために、コンデ

ンサにエネルギーが溜められていく。まほろばのエネルギーコンデンサは、自身のレールガンが最高初速で射撃する場合に12発のバースト射撃が出来るだけの容量

を持つ。ただし今回は、長距離精密射撃なので精確に照準するために6発を1分おきに射撃することになっている。

 

「装填。弾種、誘導弾パッシヴシーカー、通常弾頭6発」

 

ダーメージコントロールと省力化の観点から、完全無人化され艦の環境維持システムとは完全に独立しているレールガンの自動装填装置が稼動し、指定された弾種

の砲弾を装填していく。適切に制御された人工重力下での機械による作業は精密で素早い。

 

「装填よし」

 

「重力波加速器接続」

 

「接続よし」

 

「姿勢制御。主砲照準、目標敵早期警戒センサー。FCSリンク」

 

「リアクションカウンタ作動。レールガン軸線固定」

 

艦内各所に置かれている”重り”を移動させることで生じる慣性力を利用した姿勢制御システムが艦の姿勢を安定させ、レールガンを目標へと指向する。シンプル

でエネルギー消費が少なく、何より信頼性が極めて高い。同時に重力波パルス加速器とその制御装置がFCSに統合される。艦の姿勢制御では出来ない、微細な射角

調整はこのシステムによって行われる。それでも補え切れない誤差は、砲弾自身が修正するだろう。FCSが無人機からの情報を元に射撃緒元を決定し、重力波加速

器と自己誘導砲弾の誘導部へそれを伝える。

 

「照準よし。射撃準備完了」

 

「発砲」

 

「発砲」

 

千葉艦長が下令した射撃命令を担当士官が復唱。射撃管制用のコンソールからFCSへ射撃許可が伝えられ、その瞬間にまほろばの長距離複合レールガンが咆哮する。

射撃時間は0.4秒弱。バースト射撃6発。射撃開始から15分後に無人機から報告が来る。目標破壊。

 

 

 

 

 

第一段階の成功を受けて、ジェインウェイ大尉はブリーフィングルームにフェアリィの全員を集めて、初の全機出撃となる作戦の内容を皆に伝える。

雪風、フランカー、ガッターレからなるSEAD任務のアルファフライトと、はまな、春燕、エンタープライズからなる支援任務のベータフライトに分か

れたそれぞれにフライトプランを説明し、任務内容を伝える。ウェイポイント、その通過予定時刻、予想される脅威の種類と数、搭載兵装、搭載燃料、

脱出した場合の救助手順についての説明、作戦全体の流れや友軍の予定行動、フライトコース上の宇宙空間の状況も伝える。

 

「...そして友軍の攻撃隊が到着した後は、更に敵脅威の警戒に当たります。

 攻撃隊と共に飛来する無人機とのペアリングと各機の担当空域は先の説明の通り。何か質問は?」

 

一通りの説明を終えてジェインウェイ大尉が聞く。皆納得したようで特に質問は挙がらない。

 

「それではブリーフィングを終わります。それともう一つ、全員必ず生きて帰還すること、命令です」

 

「了解ですよ、ジェインウェイ隊長。ちゃんと遅れずに帰ってくるよ。ね?ウェッジ」

 

「はい、必ず帰還します、隊長」

 

ジェインウェイ大尉が新しく命令を付け加えると、ユンカー少尉とヤン少尉がそう答える。もうこの二人に問題はなさそうだ。

 

「分かっています大尉。これまで通りに必ず生還します」

 

「今回のフライトは大尉が直接指揮してくれるのですから安心して飛べます。

 あっ、もちろん気は抜きません」

 

ジュラーブリク少尉と東風少尉も続いて答える。

 

「雪風は撃墜させない。大丈夫だ隊長、私は雪風を裏切らない。必ず帰る」

 

「そうだよセシル。皆ちゃんと帰ってくるさ、あんたも指揮は任せたよ」

 

「そうねシルフ、皆よく分かってくれている。うえでの指揮は任せなさい。では解散」

 

全員で互いに敬礼。フェアリィのパイロット達はハンガーへ向かい、そこで飛行装具を身に付けてそれぞれの機体へ搭乗する。

各機は発進準備。フライトシステムを起動し待機位置から引き出され、そこでフライトプランに従った兵装を搭載する。

ウェポンベイのハッチを開き、翼下ハードポイントにランチャーを介し、作戦に必要とされる装備が搭載されていく。

 

「いつ見ても不思議な感じだわ」

 

兵装の装填は事故を防ぐために、機体を艦の外に向けて自動装填装置を使って行われる。エンタープライズへは16発の自衛用量子魚雷が装填された。

他の各機も装填が終わる。機械の無駄の無い動きは効率的だが、ジェインウェイ大尉は人が介在しないこの光景が不思議だった。以前いた艦とは余

りにも違う。この艦はまるで、人間など邪魔だ、ただ黙って見ていろと言っている様にも感じる。

 

「リーダーよりオールフェアリィ、リポート」

 

「雪風レディ」

 

「フランカー、アズ セイム アズ 雪風」

 

「春燕レディ、OK」

 

「はまな、コーションクリア、レディ」

 

「ガッターレよし」

 

フェアリィの全機が出撃準備を終える。

 

「フェアリィよりコントロール、リクエスト テイクオフ」

 

だが、たとえ機械が何を言っても、部下の命を預かっているのは私だ。たとえ戦闘の全てが機械に委ねられているとしても、判断し決断を下すのは

私だ。普段は発進していく戦隊機を見送り、無事に帰って来いと祈るばかりだが、今回は違う。

 

「フェアリィへ、発艦を許可する」

 

発艦許可が下りる。ジェインウェイ大尉がフェアリィ全機へ通信。

 

Fairy Flight LAUNCH!! 」 ”フェアリィフライト 発進!!”

 

発進命令。6番機から順番にカタパルトで打ち出される。

 

6機の妖精たちが翔び立つ。

 

天使の征く道を拓くために。

 

無限の深淵へ飛ぶ戦闘妖精。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GAの小説なのにエンジェル隊が出てこない...でも次はちゃんと出します。ルーンもムーンも、きっちり活躍してもらう予定です。

それにしても、今回は(今回も?)説明だらけでしたし、着艦にこだわってみたりで申し訳ありません。これも書き手がヘタレ

ゆえでして... こんなヘタレですが今後も読んでいただければ幸いです。

 

 

以下、設定の補完。

 

まほろばのブリッジは艦内部にあるためCICと統合されています。むしろCICに航海用のブリッジを統合したような形式です。

ちなみにまほろばのレールガンの砲塔内部には即応弾はありません。これはレールガンを通常の戦闘では使う機会が

ほとんど稀で、特殊な作戦の時しか使わないからです。なぜなら、まほろばは近距離での対艦戦闘は想定されておら

ず、対空防御も垂直発射機(いわゆるVLS)からの対空ミサイルと戦術レーザーで十分間に合うとされています。ただ、そうは

言っても砲弾が比較的小型軽量で完全自動装填なので、EDEN軍で就役している各種艦艇搭載の大出力エネルギー指向兵器並みの

即応力はあります。ただし、最新鋭艦であるルクシオール及びません。

仮にルクシオールと近距離で一対一で戦闘した場合は恐らくまほろばが一方的にやられます。

 

 

あと、自己誘導砲弾って本当にあるんですよ。米海軍のMk45Mod4 5インチ砲用のERGMや新型の155mm砲用のLRLAP等があります。

射程距離はどちらも100kmを越えるとか。