小説の書き方講座・番外編「第1回」





 どうも、佐野清流です。
この番外編もセラや美咲との対話形式にしようと思ったのですが、いざ書いてみると「対話部分の執筆に時間が掛かりすぎて迅速な回答が出来ない」という問題が……。
 そんなわけで、番外編はセラと美咲はお休み(笑)。
私一人で進行させていきたいと思います。

 

 

では、早速質問が来たので回答していきます。

 

 


〜質問1〜

初めまして。
で…早速ですが質問があります。
素人丸出しの質問なのですが、小説を書こうとするとどうも文が単調になってしまうんです。「〜した。」を連発してしまうとか・・・ 例えば今思いついたシチュエーションをそのまま文にしてみると・・・・

そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわした。
だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出した。ミントはそれを間一髪でかわしフォルテの懐に入り込んだ。そしていつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわした。

内容は置いておいても
・・・・うん変ですよね;;
これは「頭の中ではいろいろとシチュエーションを思いつくがそれを表現する力が足りない」のだと思うのですが、これはどういうところに注意して書いたらいいものでしょうか?
それとも練習不足なだけで経験を積めばうまくなるものなのでしょうか? ・・・とはいえどんな練習をすればいいのか見当もつかないんですよね・・・・。
これは!という練習方法があればぜひ教えてください。

 

 

 

 ……かなり共感できますねー、この質問。
「……した」という文末だけが長々と続き、文章が単調になってしまう。
私も昔はそうでしたよ。
今はそうじゃないのかと言われれば否定できないのが悲しいですけどね。
 それでは、せっかく例文を書いて下さったのでこの例文をもとに回答していきたいと思います。

 

 


そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわした。
だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出した。
ミントはそれを間一髪でかわしフォルテの懐に入り込んだ。
そしていつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわした。

 

 


 これですね。
確かに文末が全て「……した」という言葉で終わっているため、文毎の抑揚が無くなって、せっかくの動的なシーンが薄っぺらくなってしまっています。
この文章で言うなら、単調になる理由は「全ての文が動詞の過去形で終わっているから」なんですよね。
ふざけた方法かもしれませんけど、最初のうちは「現在形」→「過去形」を交互に使ってみることからはじめましょう。
最初は単純でも良いのです。

 

 


そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわした。
だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出す。
ミントはそれを間一髪でかわしフォルテの懐に入り込んだ。
そしていつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわす。

 

 


 本当に、ただ動詞の現在形と過去形を交互に使っているだけですが、これで単調には見えなくなったはず。
しかし、これもちゃんと意味があるのです。
 最初の文のように「過去形」→「過去形」で繋げると、読者は「現在」という時間から、はるか「過去」の出来事を順番に見ているように錯覚してしまいます。
「あの時ミントが上段回し蹴りをしたんだー。そして、次にフォルテが受け止めたんだー」って感じで。
これを「過去形」→「現在形」で繋げると「…が起こって、それによって―が起こった」という動作の繋がりの説明をしやすくなります。
先程修正した文を二文ずつに分けてみましょう。

 

 

 

そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわした。
だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出す。


ミントはそれを間一髪でかわしフォルテの懐に入り込んだ。
そしていつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわす。

 

 

 

ミントは回し蹴りを「した」。
だからフォルテがそれを受け止めて拳を「繰り出す」。
拳を繰り出されたのでミントはそれをかわし、懐に「入り込んだ」。
それによって距離が近くなったので、ミントは札束で往復ビンタを「する」。

こうする事によって、動作同士の因果がより強固なものになったような気がしませんか?
………しませんか。

…ですが、「過去形」→「過去形」の表現が悪いというわけではありません。
この表現でしか表わせないものもあります。
それは、「過去を思い出す時」の表現です。
最初に述べたように「過去形」→「過去形」は、読者が「現在」という時間から、はるか「過去」の出来事を見ているように錯覚させるものです。
それを利用できるのが「過去を思い出す時」の表現。
例えば

 

 


俺にはあいつが必要だった。
俺はあいつが好きだった。
なのに、あいつは俺を裏切ったんだ。

 

 


俺には必要だった(でも、今は必要ではない)。
俺はあいつが好きだった(でも、今は好きではない)。
(何故?)
なのに、あいつは俺を裏切ったんだ(だから必要でないし、好きでもない)

……こんな感じです。

とりあえず、最初は文章同士のつながりを持たせる為「現在形」→「過去形」と交互に書く事からはじめましょう。

 

 次は文章表現そのものの単調さを直します。

 

 


そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわした。
だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出す。
ミントはそれを間一髪でかわしフォルテの懐に入り込んだ。
そしていつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわす。

 

 


この文章はよく見ると「動作をする」→「それによってこういう動作をする」ということしか書かれていません。
いえ…基本はこれで良いのですが、単純に動作から動作のみを書いても単調な文章にしかなりません。
 ここで、この例文に「人の動作が起きてから、次の動作が起こるまでの描写」を書き込んでみましょう。

 

 


そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りをくらわせた。
空を切る素早い蹴りは一瞬でフォルテの眼前に届く。
だがフォルテはそれをがっちりと受け止め、すぐさま拳を繰り出した。
ミントはそれを間一髪でかわし、素早く足を踏み出す。
彼女の小さい体はフォルテの腕を簡単にくぐり、フォルテの懐に入り込んだ。
そして、いつのまにか持っていた札束で往復ビンタを食らわせる。

 

 


一気に文章量が増えましたね…。
今回の修正では動作が起きてから次の動作が描かれるまでの間に新たな描写を加えてみました。

「回し蹴りを放つ」→「回し蹴りを受け止め、拳を放つ」の動作の間に回し蹴りそのものの描写を加えて、「回し蹴りを放つ」→「回し蹴りが空を切って相手に届く」→「回し蹴りを受け止め、拳を放つ」という形に。

「拳をかわす」→「懐に入り込み札束で往復ビンタをする」という動作の間にミントがフォルテの懐に入り込む時の描写を加えて、「拳をかわす」→「足を踏み出す」→「懐に入り込み札束で往復ビンタをする」という形に。

これだけで、動きがよりイメージしやすくなったのではないでしょうか。
「現在形」→「過去形」の形にしたら、次は「動作と動作の間に描写を入れる」事をやってみて下さい。
ただ、注意してもらいたいのは文中の

「だがフォルテはそれをがっちりと受け止め、すぐさま拳を繰り出した」

のように「すぐさま、…」「直後に、…」「瞬間、…」と、動作と動作の間が極端に短い事を表現する単語がある場合は、下手に描写をいれずに直接動作と動作を繋げたほうが無難です。
間に他の描写が入ってしまうとその描写を読んでいる間に「一瞬」が終わってしまうような気がしませんか?(笑)

 

 

最後に。
文章が単調にならないようにする方法とは違いますが、佐野清流風に例文を修正してみます。

 

 


そしてミントは突然、フォルテに上段回し蹴りを放った。
空を切る素早い蹴りは一瞬でフォルテの眼前に届く。
だがフォルテはそれを左腕で受け止め、体勢を崩す事なくすぐさま右の拳を繰り出す。
ミントはそれを間一髪でかわし、素早く足を踏み出した。
彼女の小さい体はフォルテの腕を簡単にくぐり、フォルテの懐に入り込む。
そして、いつの間にか持っていた札束で往復ビンタを喰らわせた。

 

 

修正(1)1行目「上段回し蹴りをくらわせた」→「上段回し蹴りを放った」

くらう(喰らう)という言葉は攻撃が当たった事をイメージさせます。
次の文章を読むまでは当たったか外れたかも分からない状態なので、あえて「放った」という表現にしました。

 

修正(2)3行目「がっちりと受け止め」→「受け止め」

これは単純に私のイメージです。
「がっちりと」受け止める…と聞くと、手で相手の足を握ったようなイメージが湧きます。
その場合、一瞬だけ自分も相手も動きが取れなくなるのが普通です。
ですから、「すぐさま」に合うように単純に受け止めたという表現にしました。
左手の甲でガッ、という感じですね。
 なお、「すぐさま」という表現は私が修正する上で付け加えたものですが、原文の状態でもそれは変わりません。
原文では「だがフォルテはそれをがっちりと受け、拳を繰り出した」となっています。
がっちりと受け、自分と相手の動きが一瞬止まったなら、次に拳を繰り出すまでに「膠着状態を表す描写」を加えても問題は無いと思います。
例えば「…がっちりと受け止める。軸足のみで立つミントの体が僅かにぐらついた。その隙を見てフォルテはミントの足を離し、素早く拳を繰り出す」とか。
もっとも、「がっちり」にそのようなイメージを持たない方には何の意味も無い修正ですけどね。

 

修正(3)3行目「左腕で」「右の」

どのようにフォルテが動いたかを分かりやすくする為に追加してみました。
ただ、これはやりすぎるとくどくなるのでほどほどに。
その判断は経験を積むしかありませんです…。

 

 

 

 

 



 それと、もうひとつ助言を。
文章に慣れてきたら「体言止め」をたまに使ってみると、文章により臨場感を持たせる事が出来ます。
 詳しい説明は本編でしますが、体言止めとは「文章の最後を体言(主に名詞)で止める事により、その体言を強調する」技法です。
もちろん、文末を体言で止めるのですから文末が単調になるのを防ぐ事も出来ます。
以下は私のGA小説「盛夏のSeaside」の一節です。





エンジェル隊の一人、ミルフィーユ・桜葉である。
宙を飛ぶビーチボールを目で追う彼女の手には、7人分の器に盛られたフルーツポンチが載ったトレイ。
フルーツポンチの器は季節感溢れるスイカをくりぬいて作った自作品だった。





 この文章の「フルーツポンチが載ったトレイ」というのが体言止めです。
トレイという名詞で文章が終わっていますね。
これを体言止めを使わずに直接書くなら「宙を飛ぶビーチボールを目で追う彼女の手には、7人分の器に盛られたフルーツポンチが載ったトレイがあった」となります。
この文章で一番表現したいのは「ミルフィーがフルーツポンチの載ったトレイを持っている」という事なので、トレイを強調する為に体言止めを使用しました。
このように動詞や形容詞以外の単語で文章を終わらせてみると、文末が単調にならなくなるだけではなく、何かの単語や動作をごく自然に強調する事が出来ます。











 ……えっと、こんなものでお分かりいただけましたでしょうか?
最初は「過去形」と「現在形」を交互に。
次に動きと動きの間に描写を加える。
強調したい部分には体言止めを。
これが、「文章が単調にならないようにする」方法のうちの一つだと思います。
もちろん、これは我流ですのでもっと良い方法があるかもしれません。
ですが、これが少しでもお役に立つことを願うばかりです…。

 

あと最後に。
今回はかなり細かく描写をしましたが、例文が「本気で戦っている」のか「日常の1コマとしてじゃれているだけ」なのかという事で表現が大きく変わってきます。
ちなみに今回の修正は前者のためのもので、ただじゃれているだけならここまで細かい描写は必要ないでしょう。
セリフなどを加えて和やかな雰囲気を演出してくださいませ。