小説の書き方講座・番外編「第4回」





 どうも、佐野清流です。
今回の質問も10日ほど前に届いたのですが、いつものごとく回答が遅くなってしまいました。
申し訳ありません…。

では、今回の質問を…。





質問4

今回質問させて頂くはズバリ、「」の使用頻度です。
作品中の文章中に台詞を盛り込んで、キャラクターの心理などを表現したいのですが、どうしても「」が多くなってしまい、「台本みたいだ。」 とよく言われてしまいます。
それとなく情景を表現しているつもりでも、台詞が多くなって、読者にイメージが伝わってなかったり、 台詞で行動を表しても、説明がついてこなかったり、どうにも稚拙な文章になりがちです。
あまり「」を目立ちにくくする秘訣みたいなのがありましたら、どうかお教えください。





 今回の質問は「」を目立ちにくくする方法、ですか。
私自身はこれで困った事はあまり無いのですが、私の友人が同じような質問をしてきた事がありますね。
「」を連続使用するのはギャグで言葉の応酬を繰り広げる時など、ノリとテンションで突っ走りたい時には良い効果となるのですが、それ以外の状況で使うと情景の表現が出来ていない単調な文章になりがちです。
小学校の学芸会などで見かけますが、小学生が演じる劇の会話というのはまさに「台本を直接覚えて読み上げています」という感じの単調な棒読みではないでしょうか(もちろん例外もありますけど)。
地の文が含まれない会話文というのはこれと同じようなものなのです。
会話文の合間に挿入された地の文は会話文に臨場感を与えるものであるという事を覚えておいて下さい。
会話文と地の文の割合は4:6か3:7くらいが適当です。
とりあえず、会話文より地の文の方が多くなるように心がけましょう。
 それと質問文に書いてありますけど「文章中に台詞を盛り込んで、キャラクターの心理や行動を表現」というのは止めた方が無難かと思います。
キャラクターの心理や行動を表現するのはどちらかというと地の文の役目です。
例外は多々ありますが、基本的に会話文は「キャラクターが口にした言葉をそのまま表すもの」、地の文は「キャラクターが口にした言葉に説明を加えるもの」と割り切った方が良いでしょう。
もしも会話文中で感情を表現したいのなら、慣れないうちは読点や三点リーダーを使って間を表現するという方法がおすすめです。
これはそのうち小説講座本編で説明する予定ですけどね。

 とりあえず、いきなり「」を減らせと言うのも難しい話なので、最初は「」の数を誤魔化す事から始めましょう(爆)。
台本みたいだ…と言われるのは、おそらく地の文無しに「」が並んでいるからだと思います。
つまり、会話文が続かなければ良いのです。
長い会話文は不自然でない程度に切って、その間に地の文を挿入してしまいましょう。
もちろん、これでは根本的な解決にはなっていません。
応急処置という形で受け取っておいて下さい。

以下はGA小説「花影挿話」の文章を小説講座用に編集して抜粋しました。



あたしはハッと我に帰る。
「ごめんなさい、あたし…」
「いや、気にする事はないよ。オレもちょっと追求しすぎたかもしれない。でも、辛くなったらオレに相談してくれ」
「はい…ありがとうございます、タクトさん」
あたしは心から礼をする。



 これがいわゆる「台本のように見える」という文章ですね。
会話文が3つ連続して続いている事により会話文のみに意識が集中してしまい、情景描写や感情描写が疎かになってしまっています。
このような比較的落ち着いた文章では会話文と会話文の間に挿入された地の文というのは必要不可欠です。
会話だけでは表現できないキャラの表情の変化や情景の変化を会話文に添えて説明する事により、その会話により臨場感を与える事が出来るからです。
 さて、それでは先程の文章を修正してみましょうか。
以下は実際に掲載した「花影挿話」の文章です。



あたしはハッと我に帰る。
「ごめんなさい、あたし…」
「いや、気にする事はないよ。オレもちょっと追求しすぎたかもしれない」
謝るあたしに、それでもタクトさんは優しい笑みを浮かべて言ってくれた。
「でも、辛くなったらオレに相談してくれ」
そして、タクトさんはこう続ける。
「はい…ありがとうございます、タクトさん」
あたしは心から礼をする。



 2番目の会話文をふたつに切り、最後の会話文の直前に地の文を加えただけで何となく会話文が少なくなったように錯覚させる事が出来ます(ぉぃ)。
しかし最初に述べましたが、これは単なる応急処置です。
このまま会話文の間に地の文を挿入するような形をとっていると、いずれ必ずボロが出ます(爆)。
そうならないためにも、続いてマトモな修正方法を。

 私はあまり使わない(というか使いこなせない)のですが、地の文から会話文に移る時などに“セリフの一部を「」の外に出す”という方法を使って「」の数を減らす事が出来ます。
ただしこの方法は、外に出したセリフと本来の会話文の位置が近い場合か、「」の外に出した文のみでその言葉が完結する場合にしか使う事が出来ません。
(もちろん、明確な基準があるわけではありませんけど)
外に出したセリフと本来の会話文の位置が遠い場合は外に出したセリフがどの会話文に繋がっているのか分かりにくくなる可能性がありますから。

以下はGA小説「GAR」の中の文章を小説講座用に編集したものです。



なあ。
ブリッジに向かう途中、エレベーターを降りたところでセレウスが口を開く。
「ヴェルツってどういうヤツなんだ?」



 実際のセリフは2つなのですが、片方が「」に入れられていないので会話文が少ないように見えます(笑)。
最初から「なあ。ヴェルツってどういうヤツなんだ?」とひとつにすれば良いのでは? という意見もあるかもしれませんが、「なあ」と「ヴェルツって――」の会話のあいだに間を作りたかったので意図的に離しています。
 なお、この表現方法は多用しすぎると会話文と地の文がごちゃごちゃになってしまう事がありますので注意してください(だから私は使わないんですけどね)。
これは普通に使えば比較的上級者向けの表現方法かもしれませんが、実は一人称小説なら比較的手軽に使える方法だったりします。
一人称小説は地の文と会話文の境界が曖昧ですから。