[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
GAオリジナル長編小説「Courage of Steel ~守る力、戦う力~」
筆者・コードネーム「ビスマルク」
『白き月』のエンジェル隊の名は、トランスバール以外の星系にも広く知れ渡っている。
だが、もうひとつ、銀河にその名を轟かす天使達が存在する。
彼女達は表の世界で光を浴びることを拒み、闇の裏社会に身を投じた“堕天使”である。
裏の世界に生きる人間ならば誰もがその名を知り、恐怖する存在である彼女達。
裏社会の人々は、恐怖と皮肉を込めて、彼女達をこう呼んだ……。
「第5話 告死天使」
「んっ………うぅん……」
レイは、寒気を感じて眼を覚ました。
いつの間にか自分は、ベッドに寝かされていていた。
厚い布団と毛布をかけられているが、それでも肌寒い。
レイは、首だけ動かして周囲を見渡す。
「ここは、どこだ?」
部屋は全体的に薄暗く、とっても湿気ていた。
見上げると天井は灰色で、今にも消えそうな弱々しい蛍光灯が部屋を照らしていた。
置いている物も少なく、部屋はわりと広く感じる。
「お目覚めどすえ~?」
「!?」
突然聞こえた声に驚いたレイは、瞬時に上半身を起こし、声の聞こえた方を見る。
見ると、部屋の入り口に、巫女服を着た長い黒髪の少女が立っていた。
その少女は、手に持っている扇子を口元で広げて、クスクスと笑っている。
「そんなに驚かんでもええ。うちや、うち」
「……なんだ、なぎさか。まったく、脅かすな」
「なんだ、とは失礼やなぁ。心配してましたんやで?」
黒髪の巫女、如月なぎさが、不機嫌そうに言った。
レイはその表情を見て、彼女に軽く謝罪した。
「気分を損ねたのなら謝る」
「別に気にしてへん」
「そうか、じゃあ………ッ!!」
レイは、体を起こしてベッドから出て立ち上がろうとした。
だがその瞬間、電撃のように体中に激痛が走った。
筋肉や関節、骨までその痛みは響く。
レイは立っていられなくなり、ベッドに倒れこむ。
「まだ動くのは無理や!! しばらくは安静にせんと……」
「す、すまない……」
「もうええから、ゆっくり休みいや」
なぎさはレイの体をゆっくりと抱き起こし、水を飲ませる。
水を飲んだレイは落ち着き、ベッドに再び体を預けた。
そして、レイは何か思い出したような表情をし、なぎさに言った。
「なぎさ、ここはいったいどこだ? 建物の中とは思えんが……」
「ここは、雇い主(クライアント)が所有する潜水艦の中です。
しかも今は深海にいるから、艦内温度はむちゃくちゃ寒いんや」
「確かに肌寒いが、言うほど寒くはないぞ?」
「この部屋は暖房が付いているから、それほど寒くないやなぁ。
でも、一歩外に出れば氷の中にいるような気分になりますぅ」
なぎさがサラッと言った一言で、レイは部屋の外を想像した。
寒さで凍える乗組員、天井から伸びる氷柱、凍り付いてつるつるの床。
それらを想像しただけで、レイは部屋から出る気力がうせた。
ついでに言うと、ベッドから一歩も動きたくなくなった。
「レイさんはここで体を休めてくれや。うちはこれで失礼いたします」
「ああ、心配かけたな」
「いえいえ、では……」
なぎさはそう言って、部屋から出て行った。
部屋を出る瞬間、彼女の体がビクッと震えたように見えた。
外がどれだけ寒いのか、想像もつかない。
レイは腕を頭の上で組み、天井を見上げた。
体の痛みはまだ残っているものの、先ほどよりは軽くなっていた。
そして彼女は、頭の中である人物を思い浮かべていた。
「フォルテ・シュトーレン、次に会うときは……必ず貴様を倒す!!」
怒りに満ちたその声は、艦内に響くことなく、彼女がいる部屋だけに響いていた。
レイはその決意を胸に秘め、深い眠りに付いた。
同時刻、レイを退けたエンジェル隊は空母《ドレッドノート》に帰還していた。
紋章機を着艦させると、エンジェル隊の面々は、ドレッドノート艦橋へ上がっていった。
艦内は慌しく、すれ違う乗組員は汗だくで走り去っていく。
「事の重大さが解っていないのか!! 貴様は!!」
艦橋へ足を踏み入れようとしたフォルテ達の耳に、アレックスの怒鳴り声が聞こえた。
どうやら、本土と通信を行なっているらしいが、アレックスの怒りは尋常ではなかった。
額には血管が浮き上がり、汗が毛穴から噴出していた。
「救護飛行艇の1機も出せないとはどういうことだ!!」
『で、ですから……その海域は海賊が頻繁に出没する場所でして……』
「貴様はそれでも海軍軍人か!! 早急に救護飛行艇を寄越せ!!」
『りょ、了解しました!!』
「最初からそうしろ!! 馬鹿者が!!!」
アレックスは乱暴に通信を切ると、インカムを床に叩きつけた。
オペレーターや参謀など、艦橋にいた乗組員は固まっていた。
ここまで怒鳴り、鬼のように怒っているアレックスを見たのは初めてだったからである。
アレックスがふと顔を上げると、艦橋の入り口で固まっている人物達に眉を寄せた。
それが、帰還したエンジェル隊だと確認できるまで、数秒の間があった。
「……お恥ずかしい所を見られてしまったかな?」
「いえ、艦長は間違ったことはしていない。だから、恥ずかしいことなんてないですよ」
「はっはっは……そうだね、そうかもしれないね……」
フォルテの言葉を聞いて、アレックスは笑った。
先ほどの鬼のような形相が、幻のように思えた。
落ち着きを取り戻したアレックスは、指揮官席に座った。
「艦長、もうすぐサルベージ予定海域です」
「うむ、警戒を怠るな」
「はっ!!」
艦橋には、ピリピリとした緊張感が漂っていた。
ほかの艦でも同じ空気なのだろうというのが、予想できる。
そんな様子を気にかけていたアレックスは、マイクを取り、通信回線を開いた。
「艦隊の全乗員に告ぐ。サルベージ予定海域はもう目前だ。しかし、油断してはならない。
先ほどのような奇襲も有りうる。そのときは、持てる限りの力で対応してくれ。以上」
この放送は、艦隊の士気を上げるのに十分な効果があった。
先ほどまで不安で胸いっぱいだった乗組員達も、これでシャキッとしただろう。
これが、現時点でアレックスにできる最善の行動だった。
「全速前進、面舵2度に修正」
「了解、全速前進、面舵2度に修正します!!」
空母《ドレッドノート》が転進すると、周りの護衛艦もそれに合わせて進路を変える。
空は晴天、波も穏やか、艦隊の航海は順調に進む。
サルベージ予定海域まで、あと少し。
時系列は、少し前に戻る。
レイの部屋を後にしたなぎさは、1人艦内を歩いていた。
別にやることも無く、手に持った扇子を意味もなく仰ぎながら、歩いていた。
艦内は、まるで冷蔵庫の中のように寒く、天井にあるパイプも凍り付いている。
もちろん、吐く息は真っ白だ。
「あ、なぎさだ!! なぎさ~~~っ!!!」
「えっ!? きゃぁあ!!」
横から飛び込んできた少年が、いきなりなぎさに飛びついた。
なぎさはバランスを崩し、その場にしりもちをつく。
どすっ、という鈍い音がしたので、相当痛いだろう。
「いたたた………ヘンゼル!! いい加減にしいや!!」
「えへへ、ごめんなさい」
金髪の少年、ヘンゼル・カイザーウィードが笑顔で謝った。
なぎさは、服に付いた汚れを払いながら立ち上がった。
すると、ヘンゼルが走ってきた方向から声が聞こえた。
「お兄様~~!! どこなの~?」
「お姉様!! こっちだよー!!」
声の主である少女が気付き、駆け寄ってきた。
その少女は、ヘンゼルと顔がそっくりで、髪型でしか見分けが付かないぐらい似ている。
何を隠そうこの2人は一卵性双生児、つまり双子なのだ。
なぎさは、腰の痛みを堪えて彼女に言った。
「グレーテル、今度からは大切なお兄様から目を離さんといてな」
「はい、わかりました」
金髪の少女、グレーテル・カイザーウィードは、ヘンゼルと同じく笑顔で言った。
「なぎさ、レイは大丈夫なの?」
「ええ、今はお部屋でゆっくりと休んではります」
「そうか、じゃあ僕達は行かないほうがいいね。お姉様」
「うん、私達が行ったら、レイがゆっくり休めないものね。お兄様」
相変わらずマイペースな2人に、なぎさは呆れ気味だった。
そんななぎさの心境を知るはずもなく、2人は笑っていた。
すると、ヘンゼルがなぎさに聞いた。
「ねぇ、レイの機体見た?」
「今から見に行くところやけど、どないしはったん?」
「今お姉さまと見てきたところなんだけど、かなり酷かったよ」
「そうなの。機体全体が傷で、特に左側の装甲なんかボロボロよ」
2人はレイの機体《ファントゥーム》の損傷を、身振り手振りでなぎさに説明した。
なぎさは、それを真剣に聞いていた。
一通り説明を聞いたなぎさは、こう言った。
「にしても、レイさんをここまで痛めつけるやなんて……」
「お姉様、僕はそいつが許せないよ」
「私もよ、お兄様。私たちの大切なレイに傷を付けたんだもの。許せるわけ無いわ」
「じゃあ、そいつら殺しちゃおうよ。お姉様」
「そうね、この宇宙で一番醜く葬ってあげましょう。お兄様」
「「フフフフフ…………」」
2人は、静かに笑っていた。
先ほどのように純粋で無邪気な笑顔はそこに無く、闇を纏った悪魔のように笑っていた。
2人の会話からは、子供が考えつくとは到底思えない言葉が続々と出てきた。
なぎさは何も言わず、静かに2人を見つめていた。
2人の笑い声は次第に大きくなり、艦内に響いていた……。
《次回予告》
海底に眠る沈没船と、詳細不明のロストテクノロジー。
謎だらけの深海に、足を踏み入れた。
人々は、その世界をどう思い、どう感じるのか。
次回、ミステリアスな海底探検が始まる。