「まったくもって手間のかかるヤツめ。よかろう、教えてやる。これを冥土の土産話にするがいい!! ふはははは!!! ハハハハーーーーハーーーハハハハーー!! ふうぅ〜…」
悪の大幹部みたいな高笑いをした後、一息ついてタクトは語り出した。
HI-EXPLOSION 第6話
「語尾的野猿(だよモンキー)」
○二日前の朝。
二人の少女が司令室に向かって、勇み足で歩いていた。
「これを見せればマイヤーズ司令もきっと動くわ!」
紫色した髪の方が、鼻息を鳴らして昂奮しながら言った。
「こうなってしまった以上、キッチリとケジメを付けて貰わないとね」
眼鏡を中指で直しながら、もう一人の少女はそれに答えた。
手には何やら報告書らしきものが
《 最近のレスター・クールダラス中佐の行動 〜五日間の不祥事〜 》
この報告書が意味するものとは…? 全ては、とある深夜の出来事から始まった。
――数日前の深夜
アルモとココは、麻雀(クレータとケーラも参加)を終えて、いつも通り自室へ戻ろうとしていた。
「…まさかその時クレータさんが、あんなおぞましい姿になるなんて思わなかったもん」
「へぇ〜…そうだったっけ」
アルモはココの話をポカーンと聞いていた。
「なにか考え事でもしてるの? さっきから上の空状態だよ」
「ん? ううん、さっきからココはいやに『だよ』とか、『もん』って、語尾につけるなって思ってた」
「そんなことないもん! 人が心配して言ってあげたのに…失礼だよ!」
「ホラ、また言った」
「そんなこと言ってないもん! アルモの気のせいだよ!」
「また言ってるし。 …なんかココって、『だよもん星人』だね」
アルモのだよもん星人発言でココはキレた。
「だよもん星人じゃないもん! ウキャァー!!」
怒りを露わにしたメガネザルが、奇声をあげて襲いかかってくる。
「やっぱり、『だよモンキー』に変更してあげる。うん、絶対こっちの方が似合ってるよ」
「だよモンキーじゃないもん! だよモンキーじゃないもん!! だよモンキーじゃないも〜ん!!!」
アルモに“だよモンキー”必殺、猿拳の奥義が雨あられと浴びせられるが。
「アハハ、冗談だって。 本気にしないで、だよもん星人さん」
アルモが笑いながら避け、逃げる。だよモンキーがそれを追う。
「もう、アルモのバカー!」
こうして、世にもマヌケな追いかけっこが幕を開けた。深夜なので、両者とも妙にテンションが高い。
・
・
中央ホールの入り口付近まで走った所で、突然アルモが立ち止まった。
―ぼふっ
アルモの背中に顔から勢いよく突っ込み、ココは鼻っ柱をしたたか打った。
「いった〜い、急に立ち止まってどうしたの…」
「しぃーーっ!!」
アルモはココの口を塞ぎ、人差し指を口の前に立てて注意した。
いつになく、神妙な面持ちである。
『……急に立ち止まってどうしたの?』
ココは口に当てられた手をどかし、小声で尋ねた。
『あれ見て、あれ…』
アルモは、自販機前のソファをあごで指した。
『え? なに?』
ココは示された方向を見やった。ソファには、ふたつの人影が。
片方の女性らしい人影が顔を傾け、もう片方の肩にそれを預けている。どうやら眠っているようだ。
「………」
ココはさらに目を凝らして見た。
「あっ……!」
驚いて思わず大声を出しそうになり、ココは自らの口を両手で塞いだ。
『あれは、クールダラス副司令!? それにフォルテさん!? どうして二人がこんな所で…?』
そこに居たふたつの人影とは、エルシオール副官レスター・クールダラスと、エンジェル隊隊長フォルテ・シュトーレンであった。
フォルテがレスターの左肩を枕にして、当のレスターも胸の前で腕を組み、二人は寄り添うようにして眠っていた。耳を澄ますと、安らかな寝息が聞こえる。
静かで薄暗いホールの中で、常夜灯と自販機のライトに照らされた二人の姿は、まるで一流アーティストの手による恋人たちのオブジェのような、清閑な美しさを湛えていた。
『な、何言ってるのココ! あ、あ、あれは、ふっふっふっ副司令みたいな、ニニニ、ニセ副司令よ!』
どこかで聞いたことのあるような言い回しで、アルモは無茶苦茶な仮説を口にした。
『わわわ、私の、ののふふふくふく、ふく副司令が、ああああああんなことするわわわわきゃなないい…』
誰の目にも混乱しているのは明らかだ。(しかもなんか目がナルトみたいに渦巻いてる)
『いつ副司令を私物化したのアルモ?』
鋭いツッコミが冴える。だがその一方で
(でも……)
ココも、確かにレスターらしからぬことだと思った。
自他共に認める女嫌いの、超硬派な副司令が、女性と寄り添って寝るなどという光景は、やはりにわかには信じられない、我が眼を疑いたくなるものだった。
ニセ者であるなどということはありえないが、日頃のレスターのイメージからすれば
《あんなことするわきゃない》
なのである。
『よし! それでは、あれが誰なのか確かめてみよう!』
言うが速いかアルモは、いきなりバズーカ砲を取り出した。眼がマトモじゃない。さらに、口調が凄まじく明るいのが余計に怪しい。
『まさかそれは伝説の…』
『イエース! 早朝ばずぅ〜かぁ〜♪ これで起こして話を聞けば、本人かどうか分かるわよ。ウフフフ……』
早朝バズーカ。それは発射時の爆音で、寝ている人間を強制的に起床させる、一撃必殺の武器。
先文明EDENの時代に、『天才た○しの元気が出るテレビ』というバラエティ番組で使用されたと言われている。
『それでは行ってみましょう…』
アルモは眠っているレスター(彼女にとってはレスターみたいなニセレスター)に標準を合わせた。
『3,2、1……』
アルモは不気味に口元をつり上げた表情でカウントした。
(まずい!)
すかさずココは何かを取り出し、ボタンらしき部分を押した。
『発射あああぁぁぁーーー!!!!』
―ガチッ!
トリガーが引かれ、それと同時に凄まじい爆音がホールに響き渡る………………………ことは無かった。
ココが使ったのはブタの貯金箱型ロストテクノロジーで、あらゆる音をシャットダウンする能力を持っていたのだ。
―ブヒッ
砲身から煙は上がったが、それはまるでサイレント映画のように静かな、無音状態での爆発であった。
ただ、早朝バズーカ自体はニセ物であったらしい。弾が飛び出して、それが自販機に当たり、跡形も無く消滅していた。
・
・
・
「あぁ〜良かった。ダメだよ、こんな夜中にあんなの使っちゃ。寝てる人の迷惑になるもん」
「だってだって〜〜!」
ここは、ホールからかなり離れた場所の廊下。
アルモの早朝バズーカ(の音)を間一髪阻止したココは、そのまま第二撃目を放とうとした彼女を強引に引きずり、その場を退却したのだった。
「うううぅぅ〜〜、フォルテさん許せない……副司令の肩を枕にするなんて。あそこで寝て良いのは銀河でただ一人、私だけなのにぃーーーッ!!」
アルモは顔を悲哀から憤怒の表情に変え、ヒステリックに涙を流しながら歯ぎしりした。
一体この娘はいつの間に、自分をそこまで優位に持っていったのだろうか。
「だからって実弾入りのバズーカを出すなんてムチャクチャだよ〜」
「離せぇ〜! もはや手向かいはいたしませぬ! それがしとて一城の主、覚悟はあ〜る! お手を、お手をお離し下されぇぇぇぇい!」
もはや、最初の目的さえも忘れているようだ。
「ア、アルモ殿ご乱心、ご乱心で御座います〜!」
松の廊下で事件が起きたような雰囲気の中、フォルテを殺りに行こうとするアルモを、必死に落ち着かせようとするココであった。
・
・
「ねぇココ、あのクールダラス副司令があんなことするってことは…」
しばらくして、落ち着きを取り戻したアルモが口を開いた。
「ん〜どうだろう? 仕事以外の時には、女の人と余り話さないもんね。 …ていうか、寄りつかせない感じがするし」
「つまり…」
考えられる可能性は――
「フォルテさんが副司令の恋人ってこと、かな…?」
あの伝説級の堅物レスター・クールダラスに恋人がいるということ自体、可能性が限りなく低い話ではある。
しかし、それ以外にあのシュチュエーションを説明できる理由は思い当たらなかった。
「そ、そんないつの間に…私の副司令が、フォルテさんと…そんな仲に…? 嘘だよね? 嘘だって私の前で言ってよ…レスター…! うわあああぁぁぁーーん!!」
アルモは愛する人の名を叫び、床に突っ伏して慟哭した。ついに呼び捨てまで来たか。
ココはその様子を見てしばらく思案していたが、
「一晩中泣いて♪ 泣い〜って〜♪」
唄い出した。
「なんで中島み○きが作詞した工藤○香のヒット曲『慟哭』唄うのよ!」
アルモはいやに説明的な口調でツッコんだ。
「編曲は瀬尾○三ね。じゃぁこれ。ま〜よわずに〜♪ あ〜せらずに〜♪ 過〜ぎて行く〜時間は〜♪」
「もういい!! てゆーか失恋してないし!!」
ココの気遣い(失恋ソング熱唱)を振り切り、アルモは立ち上がった。
「失恋してない? ということは…」
「そう、略・奪・愛!! レスターをフォルテさんから取り戻すのよ〜」
何か果てしなく間違った結論へ行き着いたみたいだ。
「でもさ、アルモ…」
「何?」
「アルモがフォルテさんに勝てる要素って…ある?」
「う゛っ」
アルモはしばし考えをめぐらせてみた。
―スタイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・負け。 《フォルテ○VSアルモ●》
(私、身長あんなに高くないし、制服の前外すほど胸も無い……)
―女の色気・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・負け。 《フォルテ○○VSアルモ●●》
(私、まだ10代だもん……)
何だか考えれば考えるほど、フォルテという壁が大きくなっていくような気がする。
「うう〜〜ん」
そういえばいつか聞いたことがある。レスターの好みのタイプは、『眼鏡の女教師』なのだとか。
(それって…)
片眼鏡に、教官ぽい鞭。
(フォルテさんストライクゾーンど真ん中じゃん!!) 《フォルテ○○○VSアルモ●●● 3ラウンド連続KO》
アルモの心の中でゴングがうち鳴らされ、彼女は稲妻に当てられた気がした。それと同時に心の中で、敗北感が募って行く。
(私がフォルテさんに勝てるモノは…)
あるとすれば、自分の方が3歳若いという一点のみ。
「え、え〜っと……わかっ、わかわか…」
―ポン
「…もういいよ。無理しなくていいよ」
もはやトランス状態となっているアルモの肩に、ココは優しく手を置いた。
「ココ…」
優しい友の言葉で、アルモの心に一つの決意が生まれた。
「うん、分かった。私、あの人のストーカーになる♪」
アルモはガッツポーズして言った。ついに正気まで失ったようだ。
「うん。そうだよ、それがいいよアルモ。私も協力したげる」
なんと友達思いな眼鏡っ娘であろうか。共に犯罪に手を染める決意をするとは。
だが本来友というのは、道を踏み外しそうになった時、何が何でも止めようとするものであるが。
「そうと決まれば、明日から張り込みね!」
アルモはウィンクして言った。
「私も一緒に、頑張っちゃうもん!」
此処に新たなストーカーが、だよモンキーによって誕生した。
―こうして、二人の長い五日間が始まるのであった
・
・
・
「待て待て待て待て待て!!!」
話を途中まで聞いたレスターは、大声でそれを遮った。
「何だレスター!!」
「いや、ツッコみ所が多すぎて……というか、今の話は全てツッコミ所のみで構成されているぞ!」
レスターはタクトの話を聞いて、ますますワケが分からなくなってきた。
「俺とシュトーレン中尉はそんな関係ではない! そもそもお前はどうやって俺の部屋に入った!? ドアにはロックが…」
「部屋に侵入? そんなの、ドロッと液化すれば簡単だったぞ!」
「液化って何だ、バイオライダーかお前は!」
タクトはクライシス帝国とでも戦うつもりなのだろうか。
「お前にはフォルテがいるだろうが! それなのに、よくもお春ミルフィーを…」
レスターの言うことなんぞ聞いちゃいないし。
(今、お春って聞こえたような…)
「半さん、あんたには失望したぜ!」
「誰が半さんだ! 俺は山城新伍か!!」
するとミルフィーユは名取裕子で、フォルテは五月みどりか。
極限状態の精神も手伝ってか、もはやタクトとレスターの会話の意味不明レベルは、レッドゾーンを突破していた。
(うむむむ。シュトーレン中尉が俺の肩を枕にして寝た現場を、二人に見られていた)
しかし、どんな状況であっても、考えることを忘れないレスターである。
(それから俺はずっとココとアルモにストーキングされていた。ということは三日前のあの事故も見られていて、それで……)
何とかこの無茶苦茶な話の辻褄を合わせようとした。
「話の続き行くぞ、レスター!!」
考え込んだレスターなんぞお構いなしに、タクトは語りを再開した。
・
・
・
○監視(ストーキング)一日目
―深夜のブリッジから少しばかり離れた場所
「もう、今日もケーラ先生にやられちゃったよ… 今日だけで5連勝されてるし、そろそろ負けてくれてもいいんじゃないの?」
怒りの表情でアルモはブツブツ言った。
「勝った時のあの表情がね…何かむかついてくるもんね」
「ホント、あんな風な大人だけにはなりたくないよね」
「麻雀になると人が変わるっていうか…大人げないって言うか…本性を露呈してる感じがするもん。それに、あの後クレータさん、ずっと泣き崩れてたし…」
「さすがに一週間ずーっとマイナスはキツイよね」
泣く程までに牌を並べることに熱中するとは…呆れた話である。
ともかくも二人は、今日の麻雀の勝敗を愚痴りながら、深夜のストーキングを開始した。
「でも、九連宝燈を二十三連チャンなんてよく出せるよね」
「強すぎだもん、ケーラ先生」
そりゃ確実にイカサマだ。ケーラは玄人技でも身に付けているのだろうか。
「で、私のレスターがいつも深夜にここに来るって本当なの?」
「確かな筋からの情報によれば、この時間帯に夜な夜な来ているみたいだよ… 何をしているかは不明だけど」
「妖しいね。そりゃ見事だね♪ ぐっと産業ロックの日ぐゎ…♪」
アルモの精神状態がマトモでないことだけは確かなようだ。
「いきなり壊れ始めるのはダメだよ。今日は様子見だけなんだから」
「あ・や・つ・りにぃ〜んぎょうはや〜め〜ら〜れぬぅ〜♪」
―ボスッ
「しっ! 誰か来たよ。静かにして!」
何処かのネジがはずれて、唄い出し始めた娘の顔を、ココは思いっきり力を込めて、近くにあった花壇に埋めた。
「あは〜ん♪ うふ〜HU! ♪も〜らい物からBAN! BAN! BAN!」
向こう側から意味不明な歌を唄い、頭の花を回転させながら、能天気娘がスキップでブリッジにやって来た。
「もらい物って、どんなのもらったんだろ… アルモは分かる?」
的はずれなツッコミをしつつ隣をふと見たら、アルモの姿が無かった。
「アハハ、私のレスターはミルフィーさんになっちゃったぁ〜。ウフフフ……」
アルモは今まさに天に召されている最中であった。
「いや〜! まだ、本当の天使になっちゃうのはダメだよ!」
ココが必死に友が逝ってしまいかけているのを押さえている時に。
「今日は私が副司令のお相手なんだから、頑張らなきゃ! ファイトだぞ、ミルフィー! エイエイオー!!」
ミルフィーユは、深夜のブリッジで自分自身を鼓舞していた。
・
・
―しばらくして
「さて、今宵も励むとするか。ふぅ〜…」
ブリッジに向かってため息混じりに歩く一人の影、レスターが姿を現した。
「来たよ来た! クールダラス副司令だよ…」
二人は息を潜めて隠れた。
「こんなことばかり毎晩続けていたのでは、体がもたんな…」
レスターは独り言をもらしながらブリッジに入った。
それと同時に、ブリッジのドアが閉められる。
―プシュッ
「『体がもたんな…』って、なんだろ? まっ、まさか…いえ、そんなことはない! 私のレスターがそんなこと…」
アルモはガクガク震えながら頭を抱え、その場に跪く格好になった。
「毎晩やってるみたいだよ…ミルフィーさんと一緒に何かを…」
「何かって、何をしてるの? ねぇ、何をしてるっていうの!?」
アルモは泣きじゃくり、ココにすがりついた。
「それを確かめに来たんじゃないの? 嫌なら、このまま帰っていつまでも『あの時、こうしていれば〜』って、悔やみ続けてみる?」
「うぅ〜… わかったわよ。確かめればいいんでしょう。確かめれば…」
「そうと決まれば…」
―ガシッ! ズリズリ…
「は、はなじで〜 ぐ、ぐるじい〜…」
ココはアルモの首根っこを掴んで引きずった。
そして、ドアに寄り、耳を付けて話を聞き取ることにした。
・
『―…―…〜…―い―…〜…な……〜だ…?』
『〜ル〜…〜…いに〜〜…―――…〜〜〜よ』
・
「う〜ん、何だか良く聞き取れないよ〜」
アルモが愚痴る。
「しっ! 静かに!」
ココが制した。
アルモは押し黙り、耳に神経を集中させる。
・
『……男の人と――…なんて、な……ドキドキ―…いま…ね―』
・
「えぇーー!!」
思いがけぬ言葉が飛び出し、アルモは悲鳴を上げそうになった。
「だから静かにしなきゃダメだって!」
ココがすかさずアルモの口を塞いだ。
二人はさらに注意深く、ミルフィーユとレスターの会話を拾って行った。
・
『――世の…男が―…タクト……―ばかりではない――…』
・
「意外な事実、ミルフィーさんと副司令の二重浮気発覚! ブリッジで禁断の愛を育む…だね」
ココの眼鏡が怪しくキラリと光った。
「マイヤーズ司令と云う者がありながら…私のに手を出すなんて許せない! 許せないぃ〜!!」
大型チェーンソーでドアをぶち破って突入しようとするアルモ。
「落ち着いて、アルモ。今日はこの辺にしておきましょ。二人の邪魔はいけないもん」
必死にそれを止めるココ。どうやら、彼女の暴走を止める目的で一緒にストーカー行為をしていたらしい。
「ここで騒ぎを起こしたら、収拾がつかなくなるんだよ。分かってくれる?」
「うぅ〜〜…」
ココは、アルモを説得させて、その場を後にした。
・
・
・
(何だか展開が読めて来たぞ…)
レスターは苦虫を噛み潰したような表情になった。
こめかみから、嫌な汗が垂れる。
「人の、しかも親友の彼女を取るなんて、それだけでも万死に値する……!!」
「本人に話を訊け!! そうすればすぐ分かる!!」
「もちろん訊いたさ! そしたらミルフィーは、無理矢理取り繕ったような笑顔で『な、何にも無かったですよぉ〜。ただ、副司令のお仕事の手伝いをしてただけです』ってごまかしたんだ!! そりゃそうだ、女の子の口からそんなこと言えるわきゃあ無いからなあ!!!」
(確かに言えんだろうな)
手伝いに来て、夜食に弁当持って来たは良いが、それ食べてすぐ寝たなんて。
恐らくレスター本人の口からそれを言っても、タクトは絶対信じないだろう。
「しかもぉ!! それじゃ飽きたらず、さらに他のメンバーにまで…」
(そう来ると思った)
「二日目にお前という奴は… あろうことか、俺のミルフィーを美味しくいたきやがったと言うのに、蘭花に手を出した。嫌がるいたいけな少女を、まるで時代劇の悪代官のごとく…」
多分タクトが言ってるのは、「良いではないか良いではないか」とか言いながら女性の帯を引っ張るアレだろう。
「ちょっと待て! 俺はそんなことやってない! 勝手に話をつくるな!」
ちゃんとした会話が出来るように努力するレスター。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! だぁ〜まぁ〜れぇ〜いいいいいぃぃぃぃぃ!!」
しかし、まったく聞く耳を持たないタクト。
「お前が黙れれれれぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
レスターもつられて暴走する
タクトはなだれ込むようにして、話を続けた。
「蘭花はなぁ、貴様が執拗に迫ってきたから、正当防衛で気絶させたんだ! 大きな叫び声をあの二人が聞いている! それが何よりの証拠だ!」
「叫び声だとぉ? それこそ本人に聞いてみろ! 真実が聞けるはずだ!」
「無論訊いたさぁ! でもな、蘭花もちょっと引きつった表情で『あ、あの時はさ、あれよ… マッサージしてあげてたの。それでちょっと力が入っちゃってね。あはは…』つって本当のことは言ってくれなかったんだよ! ミルフィーと一緒さ!」
まさか、自分の花粉症のせいで他人の肩を思い切り外し、オマケに気絶までさせた。とは死んでも言えないだろう。
「俺はその時、フランボワーズ少尉が通りすがりの按摩から教えて貰ったというマッサージを受けていたんだ! 彼女の言っていることは正しい。全くもって真実だ!」
(しかし…あの日、俺は何で気絶していたんだろうか…?)
何となくその日の疑問が、レスターの脳裏をかすめた。
「うるさい! このドスケベマニアックプレイオタクめがぁ! 貴様こそいい加減なこと言ってんじゃねぇーよ!」
「誰が『ドスケベマニアックプレイオタク』だぁ! 何を根拠に言いやがったぁぁぁあああ! 事と次第によっちゃあな、あの世に送ってやるぞ貴様ぁ!」
もはや二人とも、自分の言った事に責任が持てない程のところにまで精神状態がきていた。目つきが何となく、若い頃の仲代達矢だ。
「良いだろぅ〜教えてやる! 三日目の時だぁ!」
「三日目だとぉぉぉおおお!? ブラマンシュ少尉か!」
二人の目つきは人ではなく、野性を解き放った動物の眼になっていた。
「そうだ! 三日目の犠牲者はミントだった… お前に変なモノ無理矢理飲まされて…」
「変なモノって何だ! そんなモノを俺が持ってると思ってるのか!」
「持ってるわけ無いよなぁ! ミントに持ってた分全て飲ませてハイ状態にしてからやってやろうかと思ってたんだからな! それに、朝に無惨な状態で発見されたミントからちゃんと薬物反応が出ているんだよ! まったく、貴様って奴は…」
恐らく、『一口覚醒くんV-マキシマム�供戮笋虱�花特製『悪魔の血』入り激辛トマトジュースやら『ダークゾディアック・ガム』やらの成分が複雑に混じり合い、化学反応をおこして、そんな反応が出たのだろう。
「誰が誰に何をしてやろうとしたって? いい加減なことばかり言ってんじゃねえ!」
「何がいい加減かぁ! ハイになりすぎてブリッジから“質量のある残像”を残しつつ走り去るミントが目撃されてるんだぞ!」
(アルモとココもそう思ったのか…)
レスターは、つくづく女というものは御しがたいものだと思った。
「しかも、その日からミントは自分の部屋に引きこもって全く出てこないんだ! 部屋の前に行くと変な爆音と、奇怪な笑い声しか聞こえてこない… お前は一体どんなものを飲ませたんだ! あの頃の冷静でおしとやかなミントを返せぇ!!」
ミントが部屋にこもっている理由とは、ただ単に『オールナイトクラシック怪龍映画祭り』が観れなかったショックが大きかったのと、その腹いせで買った(経費で落とした)怪龍映画のDVDをDTSサラウンドで観ているだけなのだが。
「返せだと? 返すものなど無い!」
「そうだろうな! そうやってヴァニラの二度と返せぬものも奪っていったんだろうからな!」
「なんだとぉ!?」
「ミントの次はヴァニラを…なんて欲深き隻眼のサムライなんだ……」
タクトは殺気を放ちつつ、じりじりと間合いを詰めながら、語り始めた。
・
・
・
○観察(ストーキング)4日目
―深夜の中央ホール
「ねぇ、アルモ…」
「何? どうかした」
二人はいま、ブリッジから出てきたエンジェル隊最年少、ヴァニラ・H少尉を追跡している。
「いくら何でも、ここまで来ると犯罪じみてるよね…副司令」
緑色の小さな影を追いながら、ココは言った。
「まったく、いくら何でもこんな幼子にまで… 報告書でも作成して軍事裁判にかけてやるんだから!」
アルモは殺る気満々な感じで拳を握りしめた。
「…………」
ふと、緑の影が自販機の前で止まった。自販機には
《 故障中、また明日きてちょ☆ 》
と張り紙がしてあった。今日の昼過ぎに、タクトとヴァニラちゃん親衛隊との壮絶な死闘があったため、ホールの電気系統が壊れているのだ。
「…故障中、また明日来てちょ…」
ヴァニラはそんなことがあったとは全く知らず、どうやら困っているようである。ヴァニラの性格上、本当に明日来てしまうのではないだろうか。
「……コーヒーが買えません…副司令のお役に立てない……」
ヴァニラは物憂げにつぶやく。
その姿を遠くで見ていた二人は、どうするか相談していた。
「これはレスターのことを知るチャンスじゃない?」
「どうして?」
「今夜、レスターと何をするのか訊けばいいじゃない」
「そうだよね。じゃぁ、早速行ってみよう」
二人はヴァニラに、レスターのことを訊き出すことにした。
・
「あれ? どうしたんですか、こんな時間に」
アルモが偶然を装い、ヴァニラに話しかけた。
「…ナノマシンで自販機が直せるか、試しているところです…」
ヴァニラは、自販機をナノマシンで直そうと努力していた。電気が通ってないから、自販機だけを直してもしょうがないのだが。
「何か買いたいんですか? 出来る範囲なら持っていきますけど」
「…よいのですか?…」
「ええ、出来る範囲ならですけれど」
ヴァニラは少し、視線を落として申し訳なさそうにいった。
「…実は…」
「実は?」
「コーヒーを買ってきてくれと、副司令から言われたもので……」
「コーヒー? どうしてそんなものを」
アルモはヴァニラの、尋ねられたら正直に答える性格を利用して、説明を求めた。普通はそんな訊き方はないだろうが。
「……そ、それは…今夜は副司令とオールナイトだから……」
「オ、オールナイトォ!? な、何をするおつもりなんですか?」
アルモは動揺しながら、さらに細かく尋問した。
「……今夜、私を好きにして下さい……と、言いましたら…まず手始めにコーヒーを買ってこいと……」
ヴァニラは視線をさらに落とし、頬をうっすら赤く染めた。
「そうなんだ…… じゃぁ、これをレスターに渡して下さい」
アルモはヴァニラに『一口覚醒くんV-マキシマム(レッド・パワー)』と書かれた栄養ドリンク剤らしきものを渡した。
「…これは?…」
「コーヒーを飲むよりも、強烈に目が覚める飲み物でしょうね…たぶん。私からレスターへの餞別です…」
餞別<せんべつ>:遠くへ去る人に、別れをおしむ気持ちを込めておくる、おかねや品物。
「…確かに受け取りました…」
ヴァニラが手を伸ばした刹那、
『ギギェアァー!!』
(!?)
ビンが小刻みに振動し、ヴァニラは驚いてそれを思わず落とした。
「危ないっ!」
―パシッ
危機一髪の所でココがビンをキャッチした。
「ふぅ〜危ないところだった。もし割れてたら、ギゲ…あ、…気にしないで。今のは忘れて」
「……はい……」
一体、落としていたらどうなっていたのだろうか。教えられたくもないが。
「さっき話は聞きました。オールナイトで大変そうですね」
「…がんばります…」
ヴァニラはなにげに小さくガッツポーズをした。
「でも、誰かに声を聞かれては大変でしょうから…ハイ。これを使って頑張っちゃって下さいね」
ココはヴァニラにブタの貯金箱らしき物体を渡した。アルモがバズーカを撃とうとした時に使用した物と同じ形だ。
「これはロストテクノロジーで、音を消して響かせないように出来るんです」
「…これで深夜も大胆に…」
ヴァニラは相当頭の中が大変な状況になっているのだろう。
ナノマシンがホール全体に広がり、壊れている箇所がみるみる直っていく。
「使い方はこのお鼻の部分を押せばオッケーですよ」
「……分かりました、お二人ともありがとうございます……」
「いえいえ、こちらこそ。副司令と良い夜を」
「…それでは失礼します…」
ヴァニラは貰ったものをふろしきに包んで持っていった。
彼女が去った後、中央ホールは見事なまでに修復されていた。
「これで、今までの疑惑が確信に変わったね。ねぇ、アルモ」
ココが振り向いたさきにあったのは、完全に修復されたホールと
「ブツブツ………」
禁断症状で真っ白に燃え尽きかけているアルモの姿だった。
・
・
・
しばらくして。
―プシュッ
ヴァニラがブリッジから出てきた。
「あっ、出て来た!」
「あ〜そう……ココ、行って。話を聞いて来て…」
今にも死にそうな声でアルモに頼まれたココは、再びヴァニラとの接触を試みた。
「ヴァニラさん」
「……何でしょうか…?」
ヴァニラは振り返った。ただでさえ紅い目が、泣いたように充血している。
「その〜、副司令とは……?」
ヴァニラの様子を見たココは曖昧な言い回しで、さり気なく訊いた。
「…………」
ヴァニラはしばらく沈思した。
優しく頭を撫でてくれた、レスターの大きくて温かい手の感触が思い出される。
《…ストイックなのは結構だが、あまり自分を責めるな。自尊心の無い者は、成長することもできんぞ…》
頭を撫でてもらった記憶と、その時の穏やかなレスターの言葉は、ヴァニラの心をも、優しく温めた。
「……副司令には…」
やがてヴァニラの口から告げられた真実は、ココを驚愕させた。
「……いろいろ、教えてもらいました……」
頬をうっすらと染めて、微笑して答えた。
「!! ふ、副司令に…?」
「…はい…」
「い、いろいろ教えてもらったんですか…」
「……」
ヴァニラはゆっくりうなずいた。はにかんでいるようにも見える。
(な、何てことを!! 副司令、あなたはついに贖うことのできぬ罪を…!)
恐らく、ヴァニラが具体的に何を教えてもらったのかを言えば、誤解などされなかっただろう。
「漢字の読み方をいろいろ教えてもらった」と、主語をきちんと伝えていれば――
「…ココさんは何故ここに…?」
何か不審に思ったのか、今度はヴァニラが訊いてきた。
「あ、あぁ〜…その…あ、あれですよ! 麻雀してて、それで部屋に帰る途中で」
ココは必死に冷静を装い、言い訳した。
「……そうなのですか。夜更かしは、体に良くありません…あまり、無理をしてはダメです……」
「そ、そうですよね。じゃあ、お休みなさ〜い」
「…お休みなさい…」
ココは手を振り、途中で抜け殻当然のアルモを引きずって、逃げるようにその場を立ち去った。
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「教えちゃったか! いろいろ教えちゃったかこの野郎!! ヴァニラは13歳だぞ! まだ授業で習うか習わないかの瀬戸際だぞ!!」
「俺がアッシュ少尉に教えたのは漢字の読み方だ!! 何を考えてるんだ貴様ァ!!!」
「そんなベタな言い訳が通用すると思ってんのかぁーーー!!!」
恐らく今のタクトに「1+1=?」と質問したら、「6x+8y=60πr」とか意味不明な答えを言うだろう。それ程までに、彼の精神は極限まで昂奮していた。
「そしてフォルテとは〜〜………………うん」
タクトの語気が弱くなって一瞬沈黙し、しばらく経ってからゆっくりうなずいた。
昂奮が、治まったようだ。
「何がだ!? 何が『うん』だ!? 言え、気になるだろうか!」
対照的に、レスターの方は激昂して尋ねた。
「だってお前、フォルテとは……」
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○盗撮(ストーキング)5日目
「さぁ今日は、隠しカメラで盗撮映像鑑賞会だよ〜」
その日は、朝ブリッジで気付かれぬようカメラを仕込み、深夜ココの部屋でリアルタイムで映像を検証するというプランだった。
「ついに内部検証までいくのね…」
アルモは生唾を飲み込んだ。
「それでは行きます! アクセェェェェス・フラァァァァッシュ!!」
ココは、どこかで聞いたことのあるかけ声と共に、カメラを繋いだモニターの電源を入れた。
モニターに映像が映し出される。
「……なんか映像見づらい」
画面は粒子が荒れており、目を細めても良く見えなかった。
「仕方ないもん。麻雀したお陰で貯金がやばいから、全部中古パーツでまかなったし。さらには音声も出ないというおまけ付きだよ」
「んーもう、しょうがないわね。こういうのは叩けば良いのよ、叩けば!」
えらくクラシックな方法だ。
「入射角、斜め45度で……打つべぇぇーーし!!」
―バシン!
モニターに、アルモの手刀が炸裂した。
―ジ、ジジ、ジ、ジーーー……パッ!
「おおっ、良くなった」
「すっごいアルモ!」
叩かれた衝撃で、モニターの映像はまるでハイビジョン撮影のごとくクリアになった。
「これで見やすくなったもん」
「はっはっはっは、ざっとこんなもんよ!」
アルモは胸を張って言った。
だが、クリアで見やすくなった画面によって映し出されたのは、アルモにとって最も見たくない映像だった。
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「……え゛?」
ブラウン管の向こうではレスターとフォルテが、まるで恋人のように抱き合っていた。
フォルテは切なさを湛えた双眸をレスターへと向け、レスターは、これまでにアルモが見たことの無いような優しさを右目に宿し、二人はじっと見つめ合っていた。
「う、嘘でしょ?」
画面に向かってアルモは訴える。だがそういった場合、得てして99%は嘘ではないのだ。
「やっぱり副司令とフォルテさんは…」
「私の副司令が、あんなことするわけ…」
必死の訴えむなしく、アルモの一縷の希望は、次の瞬間打ち砕かれた。
二、三言葉を交わす二人。音声は聞こえない。そして―――
一瞬、場の空気が凍り付いた。
それはまるで映画の1シーンのような、そうでなければ1枚の絵画のような、美男美女のキスシーンだった。
「いやあああぁぁぁーーー!!!」
―ガッシャン! バチバチッ…
アルモの鉄拳が、モニターを沈黙させた。
「もういやぁー! もう私生きていけない〜〜!!」
アルモは滝のような涙を流して慟哭した。
五日前はニセ者だと思った。いや思いたかった。そうすれば、まだ希望はあると信じられたから。
だがたった今それも消え失せた。完全なる失恋だ。
(でも、フォルテさんが恋人ってだけならまだ良い…)
かつての想い人レスターは、フォルテと云う恋人がいながら、事もあろうにエンジェル隊メンバーを、日替わりで餌食にして行ったのである。
「六股かけてたなんて許せないぃーー!! 男として、いや人として最低よ!!!」
きっちり自分まで頭数に入れて被害者面するあたり、アルモもなかなか狡猾である。
「六股はともかくとして、確かに人間としてどうかしてるよね…」
ツッコミを入れつつも、納得してうなずくココであった。
――こうして、一連のストーキング行為をまとめた報告書 《 最近のレスター・クールダラス中佐の行動 〜五日間の不祥事〜 》 が作成されることと相成ったのである。
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「というわけで、俺は不義密通の成敗に来たというわけさ!!」
「ほほぉ〜…」
レスターの口調は静かだった。静かだったが、確実に怒りのボルテージは上昇している。
「この刀はなぁ、アルモの家に代々伝わる秘刀なんだ。彼女は、かつて愛したお前を、せめてこの家宝にて成敗し、そしてお前の血脂で曇った刃を抱いて眠りたいと訴えたんだ。泣かせるじゃないか、健気じゃないか」
アルモとココが自分たちでやらずにタクトに依頼したのも、親友の手であの世に送ろうという、間違った気の利かせようだろうか。
「おとなしく地獄へ行け、レスタァァァァーーーー!!」
なぜ、こうなった?
レスターの脳内を、今まで振り払い続けてきた疑念が支配した。
元はと言えば…
1秒経過。
こいつの…
2秒経過。ボーダーラインギリギリ。
タクトのせいだ!!!!!!
3秒経過。キレた。
「ふ、ふふふふふ……ふははははははははは!!!!」
突然レスターが大声で狂ったように笑い出した。
「はははははは! ははっ、ヒャハハハハハハ、ふははーーーははは!!!」
「!?」
タクトは突拍子もないレスターの行動に、びっくりして動きを止めた。
戸惑うタクトをよそに、レスターは尚も、額を手で覆って笑い続ける。
「くくくくくっ、はははははははは!!!」
変わり果てた親友に向かい、タクトは神妙な面持ちで言った。
「……可哀相になァ、お前ぇとうとう頭に来たな。だから悪い病気は早く治さなくっちゃ…」
何が悪い病気だ、レスターは思った。
全てはタクトのせいだ。タクトが仕事をサボったおかげで、自分にシワ寄せが来た。
そしてエンジェル隊の手まで煩わせた。
それをアルモとココが勘違いして、タクトもその勘違いを真に受けてキレた。自分が蒔いた種だというのに。自分が仕事をキチンとやらなかったのが大元の原因なのに。
(そして、元を正せば自分が悪いのに、俺に冤罪を着せて殺そうとする……これが笑わずにいられるか? 病気なのは、貴様の方だ!)
あまりのおかしさに、肩が震える。
「くくくっ……軍法会議にかけるまでもない。ここで返り討ちにしてやるぞ…!!」
サデイスティックな笑顔で、レスターは言った。怒りのボルテージがメーターを振り切り、笑いへと変わっていた。
かつてない程冷酷で、かつ残虐な笑みだった。
その表情にもはや人間性は感じられなかった。感じるのは、殺意と戦意のみ。テンションは最高潮だ。紋章機に乗ったら、左の眼帯から最強の技が出るに違いない。
「上等だ。所詮俺とお前は、闘うことでしか分かり合えない!」
これまたどこかで聞いたことのあるようなタクトの言葉をゴングに、二人の対決は幕を開けた。果たして、最後に立っているのはどちらなのであろうか――
しかし、タクトはこの事実を知りながらも、なぜ成敗にやって来るまでに二日間ものタイムラグがあったのだろうか。
それはまた、別のお話なのだが・・・・
つづく
〜筆者より〜
何だかアルモとココのキャラがエラい事になっちゃってますが、それはこの第6話を書いている時点で作者のヒーロー村田と餡蜜堂が、ゲーム版GAを未プレイである事に起因するものです。ご了承下さい。(そんなんでよく書けるな、自分ら……)
前の五話の裏側を一気にまとめた総集編みたいな感じですので、やたら長いです。
今度は程良い長さになるように頑張ります。
あとちなみに、「所詮俺とお前は、闘うことでしか分かり合えない!」という台詞は、『仮面ライダー剣』にて登場します。参考までに。
ヒーロー村田・餡蜜堂