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――そいつは、何の前触れもなしにやってきた。
「何考えてるんだ? タクトのやつは」
包帯と絆創膏で全身メッキされたレスターは、腕組みして唸っていた。
彼の部屋に突如として贈られてきた小包。
薄い直方体の箱に、実に可愛らしいピンクのリボンが巻かれている。
しかも「親愛なるレスターへ(はぁと」なんて書かれたカードまでついてるし。
「男がハートマークなど使うな!」と、某マーベットさんみたいにツッコミたくなる気持ちを抑えつつ、レスターは箱を手に取った。
まともな物が入っているとは到底思えないが、放置したままなのも気持ち悪いので、開けてみることにした。
ヘンな物が入っていたら、速攻で捨てればいいのだから。
学生時代にも、似たような経験があった。
あれは、生まれて初めて好意を持った女性を、自分の寮部屋に招いたときのこと。
夕食を作ってご馳走しようとしたら、宅配便がやってきた。
「何それ?」
「分からん。差出人は、タクトか?」
訝しげにする彼女と共に小包を開けてみると…
パシーン!
まるで、よく練ったパンの生地を勢いよく鉄板にたたき付けるような音を鳴らしながら、レスターは彼女に平手打ちを喰らった。
「バカ! クールダラス君のバカァー!!」
レスターは紙のように吹っ飛ばされ、部屋の壁にぶつかり、床に倒れ込んでしまった。
壁にはご多分に漏れず、中央が人形にめり込んだクレーターが形成されていた。
「信じられない! もう!!」
彼女は怒りを露わにし、せっせと荷物を抱えて、一回落とし、それをまたかき集め、少女漫画の主人公の女の子が泣くような感じで、靴音荒く去っていった。
なんとなく「しゅびでゅわ~」なんて効果音がきこえてきたような、そうでもないような。
あまりのショックで彼女のアンテナは、妙な電波を受信してしまったらしい。
何が何だか分からないまま、レスターは彼女が投げ捨てた小包に視線を動かす。
そして、這いずるように小包へと近づき、中を見てみた。
入っていたのは、DVDソフトだった。
タイトルは
『ときめき☆ナースステーション4 ~心もカラダも、癒しちゃいます!~』
タクトからの手紙も同封されていた。
まるでミミズが反復横飛びしてるような汚い字で。
「親愛なるレスターへ(はあと
このゲームすげー面白いからやってみてくれよ。
ぜったい損はないとおもうから
最近カノジョとのことで悩んでるみたいで、欲求不満なんじゃないか? これで解消したほうがいいぞ」
レスターの表情が阿修羅のそれへと変わった。
いきなり『4』かよ! ではなくて…
「たぁ~くぅ~とぉぉぉぉ…」
ダメージの大きかった左目から、血液の混じった深紅の涙が溢れ出た。
まさに借金地獄よりも深く、宇宙恐竜ゼットンの火球よりも熱い怒り。
手紙をぎりぎりと握りしめると、レスターはタクトの寮部屋に討ち入るべく、準備を始めた。
狭い室内での斬り合いでは、太刀はほとんど役に立たない。柱や梁に当たると抜けなくなってしまう。よって、短くて扱いやすい脇差しの方が有利だ。
レスターは押入の中から手頃な脇差しを取り出すと、腰に差した。
なぜ、この文明が発達した時代に、そんなものをレスターが持っているのか?
それにツッコむ賢い者は、不幸なことに誰もいなかった。
「目指すは怨敵タクト・マイヤーズ、ボケ頭ただ一つ!!」
翌日、士官学校は、ある噂で持ちきりになった。
成績優秀で容姿端麗なレスター・クールダラスが、美少女ゲームのヘビーユーザーであると。
噂の発端はもちろん、あの日部屋に誘った、初恋の人。
レスターは何とか誤解を解こうとした。
「話を聞いてくれ! あれは誤解なんだ」
「クールダラス君の部屋は八階でしょ」
「そういうことじゃない」
「私、ルアーフィッシング派」
「釣り餌のゴカイじゃない」
「得意料理はマグロの兜焼き」
「そりゃ何とも豪快だな」
とりつく島もなかった。
兜焼きのところではよだれが出てきた。
「大体なんでいきなり『4』なの? スパロボで言ったらいきなり『EX』なのよ? おかしいじゃない! 何考えてるのマイヤーズ君は!」
怒られるポイントが微妙にズレている気がした。
別にスパロボ初体験が『EX』からでも、何ら問題ないと思うのだが。
いやー、スーファミ版のゴーフラッシャーはしょぼかったですなぁ。
「悪いか! スパロボ初体験が『IMPACT』で悪いか!」
レスターは彼女の肩を掴んで前後にガクガク揺さぶった。
普段は慎重派で通っている彼も、分の悪い賭けは嫌いじゃないみたい。
それはともかくとして、想いを寄せていた女性の手ひどい裏切りに、レスターの心は深く傷ついた。
北極のクレバスより深い傷だった。
熱燗十本程度で溶けるほどヤワな凍土ではなかった。
アメリカとソビエトの対立より冷たかった。
雪超獣スノーギランだって風邪で寝込む凍土だった。
もう女なんて信じるか! レスターは女嫌いになった。
あの時殴られた衝撃で左眼は潰れていた。
『レスター・クールダラスは、L77星雲に住む獅子の戦士から盗んだ美少女ゲームの中古販売を断られた腹いせに、リアル女性相手のバッドエンド実現を目論んだ』
尾ひれ背びれに胸びれまで付いて原型を無くした噂は、タクトの手によって士官学校七不思議として長く語り継がれることとなった。
そして『ときめき☆ナースステーション』、略して『とき☆ステ』シリーズは、その後総計四十本近く制作され、アニメ化や映画化も実現し、世に一代『白衣の天使ブーム』を巻き起こす、超人気シリーズとなったそうな。
………
話を現代に戻そう。
彼の部屋に突如として贈られてきた小包。
薄い直方体の箱に、実に可愛らしいピンクのリボンが巻かれている。
その包装を乱暴に引きちぎると、桐の木箱がでてきた。
爆発物でも仕込んであるのではないかと思いながら、恐る恐る蓋を開ける。
「こ、これは…」
木箱の中から現れた物。
そのなまめかしく黄金色に輝く胴体。
計算されつくした美しい凹凸の並び。
手にしっかりとフィットするよう設計された形。
まさしくそれは
「おろし金ではないか!」
焼いたサンマにのせる大根おろしを作ったり、豚肉の生姜焼きのために生姜を摺り下ろしたりする、アレである。
たまに指とか爪とか巻き込んじゃってアイタタタ。
HI-EXPLOSION 最終話!
「すりおろしのものがたり」
「しかし、俺は自分で料理などせんからな…」
存外マトモなものが入っていたので、レスターはため息をついた。
肩すかしを食らったような、安心したような。
もっととんでもねぇ~ブツが入っているかと思ったからだ。
伝説の漫画家・尾藤マサヒコの複製原画とか、伝説のアイドル・菊池坂百江宗則のセカンド水着写真集とか、伝説の釣り師・シーラカンス=メカジキ=マヒマヒⅢ世の釣った宇宙ブラックバスの魚拓とか。
親友へおろし金をプレゼントするタクトの神経が果たしてマトモなのか? という問いはご遠慮願いたい。
『ときめき☆ナースステーション4』、略して『とき☆ステ4』に比べれば、とんでもねぇ~度も大分落ちるってもんだ。
相対的な衝撃度が低い(あくまで『とき☆ステ4』と比べればのハナシ)せいか、レスターの脳も、ツッコむのを失念している。
「おばちゃんにでもやるか。丁度この前、長い間使っていたおろし機がヘタってしまったと聞いたからな」
自分じゃおろし金の良い使い道を見つけてやれなそうなレスターは、食堂のおばちゃんへプレゼントすることにした。
もらい物をすぐさま他人へとたらい回しにする行為は、決して誉められたものではないが、実際おろし金を持ってるのがレスターじゃ使い道がない。
ど~せ押入の中で埃かぶって「僕はいらない子なんだ~!」とか枕をしとどに濡らすのは明らかなのだ。
それよかおばちゃんに使ってもらって大根おろす方が、どれほどおろし金が喜ぶか知れない。
―――扉を開けると、其処は雪國でした。
「………………」
下ろし金を片手に呆然と立ち尽くす。
一瞬何かの間違いだと思って、レスターは一回部屋に戻り、扉を閉めた。
大きく深呼吸をして、再び自室を出る。
「………………」
扉の向こうには、一面の銀世界が広がっていた。
「ほたるぅ…」
レスターは呟いた。呟かずにはいられなかった。
今彼の脳内には、メガネのシンガーソングライターの歌声と、美しい富良野の景色が映っているはずだった。
フフーフフフフフーフ♪ フフーフフフフフー♪
父さん、どうか馬鹿みたいに唄って泣いてくれ
僕は今日も元気なわけで…
そんな妄想するレスターの右目に、揺らめく緑色の物体が映った。
伸びたクロワッサンのような、はたまたくたびれたドリルのような形。
その形には、見覚えがあった。
きっとそうだ、そうに違いないのだ。
赤い瞳とレースのついた軍服とヘッドギアとナノマシンペットが特徴的な、彼女だ。
絶対そうだ。何なら賭けてもいい。
いや待て、最近三丁目に引っ越してきた、鈴木さんの彼女かも知れない。
髪を緑に染めていたし。
やっぱり賭は無かったことにしていただこう。
なんだか冷たい風にたなびいているようにも見えるそれに向かい、レスターは歩き出した。
足下の雪が、サクサクと音を立て、いくつもの轍を刻んだ。
「アッシュ少尉…」
当初の予想通り、埋まっていたのは、ヴァニラ・Hだった。
首から下は、雪超獣スノーギランも鼻水ズルズルな雪原に埋まってた。
その隣には、ナノマシンペットが同じように、首だけ出して埋まっていた。
「なぜ埋まってる?」
我ながらアホな質問だなと思った。
ただ、それ以外にかける言葉が見つからなかったわけで。
ヴァニラはレスターが話しかけると、頬をうっすら赤色に染めて俯いた。
俯いたせいで、雪に顎がシャリッと小さな音を立てめり込んだ。
「……毒抜き……」
「は?」
「……地面に体を埋めると、毒が抜けると聞いたもので……」
いつものように、真顔でヴァニラは答えた。
そんなんじゃ毒が抜ける前に凍死するぞ。
「……フグ刺し食べて、テトロドトキシンに当れば、埋まってしまえばいい……」
テトロドトキシンは、フグの毒として知られる。
習慣性がないので鎮痛剤として、時折医療に用いられるものでもある。
よくケーラ先生の手伝いをしているヴァニラがこの名を知っていても、なんの不思議もない。
てか、フグなんて食ってたのか。なんてうらやましい!
ザクとは違うのだよ、ザクとは!
レスターは、いろいろとツッコミを入れようとしたが、喉の奥に呑み込んだ。
雪超獣スノーギランもコタツに潜り込みそうな冷気に、頭を瞬間冷却されたからだ。
そういえば風の噂に、フグは凍らせると、毒が全身に回ると聞いたことがある。
苺を毒と読んでしまい、とっても恥ずかしい思いをしたこともある。
こんなに身も心も凍ってしまいそうな程に寒いのだから、魚くらいの生ものは一瞬で凍ってしまうだろう。
それをさばいて食べてしまえば、間違いなく毒と身体がこんにちは。
もしもヴァニラが10000マウスユニット以上のテトロドトキシンを摂取していれば不味いことになる。
毒の心配がなかったとしても、このまま埋まっていれば凍死してしまうだろう。
レスターはヴァニラ救出を決意した。
ヴァニラの頭の前に仁王立ちすると、雪の中に手を突っ込んで、大根でも抜くかのように勢いよく身体を引きずり出した。
着ている服が白く、髪の毛が緑色のヴァニラは、遠くから見れば大根にも見えなくはない。
レスターの手が、ヴァニラの発育してない胸になんて当たってたりなんかしてたが、不可抗力なので仕方ない。
「……セクハラ……」
「したくなるだけのものになってから言え」
引っこ抜いたばかりの大根に付着した土を手で払い除けるように、ヴァニラの服にまとわりついた雪を払う。
再びレスターの手が、ヴァニラの発育してない胸になんて当たってたりなんかしてたが、不可抗力なので仕方ない。
・
「しかしアレだな。こう雪に覆われていては、方向感覚が狂ってくるな」
いつも通い慣れたはずの、食堂への道。
だが、今のエルシオール艦内は、一面銀世界。
雪で何もかもが隠され、自分がどこを歩いているのか、どこへ向かっているのかすら判断が危うくなってくる。
レスターは何故か右足にコアラのごとくひっついているヴァニラに向けて、呟くように言った。
「てか何でひっついてるんだ、君は」
「……副司令は、命の恩人。どこまでもついて行きます……」
「ならせめて後ろからついてきてくれ。そこじゃ邪魔でしかたない」
「……離れません……」
「離れろ」
「……苦難の中でこそ、人は豊かなのです……」
レスターは頭が痛くなってきた。
不自然な重量を感じる右足を引きずりつつ、ブルドーザーのようにして雪をかき分け、食堂を目指す。
全ては、おばちゃんにおろし金を渡すために!
道中、蘭花がシロクマやトドクロちゃんと熱々あんかけ対決してるのが目に入ったが、特に気にしなかった。
そして、迷いながらも何とか食堂への入り口を探し当てた時、それは起こった。
「やれやれ、やっと着いた。おーいおばちゃ…」
レスターの言葉は、突如遮られた。
ズドドドドという轟音とゴゴゴゴゴという震動。
後ろから迫る巨大な気配。
振り返ったレスターが見た物は、今まさに迫り来る、巨大な雪玉だった。
「うおおおおおお!?」
レスターは逃げようとしたが、ヴァニラが足にひっついているのを思い出して舌打ちした。
「しまった、アッシュ少尉が…って、あれ?」
レスターは右足がいやに軽く上がったので驚いた。
何のことはない。ヴァニラは一目散に逃げていたのだ。
小さな背中が、通路の横道に吸い込まれるようにして視界から消えていった。
命の恩人なので離さないとか言ってたのに。
レスターは動きやすくなって安心したが、何だか面白くなかった。
『人の気持ちってものは、眼が見えるからって、見えるもんじゃねぇ』
何処かで読んだ本の一文がふと頭をよぎった。
とりあえず全速力で逃げてみた。
「百メートルで八秒切る、超高校生級の脚をなめるな!」
百メートルで八秒とはつまり、五十メートルを四秒、二十五メートルを二秒で走るのである。
超高校生級どころじゃねえ。世界狙えるぜ!
迫り来る締め切り雪玉の速度は速かった。だがしかし、振り切れないほどではない。
このまま走り、適当に横道へ避ければ万事オッケー!
光明を見いだしたレスターの思考が、心に僅かな隙を作った。
だが無情にも、その厚さ2ミリの板がようやく入り込むほどの隙をついて、悲劇は速達で送られてきた。
どうやらクーリング・オフは効かないらしいぜ。
こんちわー、速達です。ハンコお願いします。
ハイハイ、ちょいとお待ちになって。
「ようし、このまま走って…うぐおぁ!?」
突如レスターの視界が反転した。
空中で派手に宙返りして、雪原へ仰向けに突っ込む。
何かにけっつまいずいて、バランスを崩したのだ。
大の字で雪に人型を作ったレスターは、自分を転倒させた物体を見て唖然とした。
あれ? ハンコがないな。
「あ、アルモ!?」
そこに倒れていたのは、アルモだった。尋常ならざる姿で。
簡単に言うと、直方体の形した氷の中に閉じ込められているのだ。
なぜか一発ギャグやってるような奇天烈なポーズをとりながら。
具体的に描写するならば、鼻の下を思い切りのばし、右手を後頭部に回して左の耳たぶを掴んでいた。
氷漬けになる直前に何をやっていたのか、非常に気になった。
しかし、レスターがそれを気にしたのが運のツキだった。
「アルモ、なぜ…? うわああ!」
レスターとアルモ(氷)は、迫り来る雪玉に呑み込まれた。
あのぉ、ハンコ見つからないんで、拇印でいいですか?
果たして、レスターの運命は? そして雪玉の正体とは!?
「あれ~、今さっき副司令の声がしたような? ん~きっと気のせいだよね」
頭の花を回転させながら、能天気娘は雪玉を転がしていった。
・
すっかり雪が積もって、真っ白けっけの中央ホール。
雪に足跡を付けてサクサク感に浸りにんまり笑みを浮かべるヤツや、雪合戦で死闘を繰り広げている集団。
さらにかまくらで鍋をつついたり、イグルーを建ててそこら辺に鮭の肉を干したり、『空に浮かぶオーロラを恋人同士で見上げた後に愛を育もうよツアー』なんぞを企画して、金儲けを企んでいるヤツ等、沢山いた。
そこで毎度おなじみ、アホ司令官タクト・マイヤーズが、雪玉をごろごろ転がしていた。
「タクトさーん」
「やあミルフィー」
「見てください、雪だるまさんの頭できました~」
「よーし、じゃあ一緒に持ち上げよう」
「は~い」
二人は雪玉を持ち上げた。
「「せ~の…」」
ぽすっ。
持ち上げた雪玉は、うまい具合にもう一個の雪玉にのった。
「「できたー!!」」
タクトとミルフィーユはハイタッチして喜んだ。
完成したのは、空高くそびえる、巨大な雪だるま。
「身長57メートル、体重550トンの雪だるま。名付けて……」
スーパー部長「誰だ、あやつは!?」
普通の部長○「ユキンゴですよスーパー部長」
雪超獣スノーギランも裸足で逃げ出しそうなポテンシャルである。
しかしもっとすごいのは、そんな巨大な雪玉をいとも簡単に作った、タクトとミルフィーユのポテンシャルの方であろう。
無論二人は、ユキンゴの体内にレスターが取り込まれていることなど知る由もなく。
「わぁ~すごく大っきいですね」
「なーっはっは、これでエオニア軍も怖くないぞ!」
「戦えるんですか? ユキンゴさんて」
「戦えるともさ!」
タクトはユキンゴの詳細な設定や武装の蘊蓄を披露し始めた。
「始めに、とばせ怒りの鉄拳! ユキンゴパンチ!」
「ぐおぉぉぉ!」
どかーん。
「続きましては、絶対零度の塊! ユキンゴヨーヨー!」
「ぐおぉぉぉ!」
どかーん。
「とどめにゃ最終兵器、ユキンゴのふぶき!」
「ぐおぉぉぉ!」
きゅうしょにあたった! こうかはばつぐんだ!
よくもまぁ即興でデタラメがすいすい出てくるもんである。
「すごいんですねユキンゴさんて!」
ミルフィーユは目を輝かせた。
「なんてったってレベル87、とくしゅ261だかんね!」
タクトは胸を張った。
と同時に、あることに気付いた。
「待てよ、なんでユキンゴが動いてるんだ!?」
タクトは振り返って、ユキンゴを人差し指でビシッと指した。
「ま゛っ」
Lv.87のユキンゴは敬礼した。
彼の言葉を訳すなら、こんな感じだろうか。
(訳:はい、まさしく自分、動いてました!)
そして腕を振り上げまたもや一言。
「ま゛ー!」
(訳:というわけで自分、暴れさせていただきまーす!)
宣言した後、ユキンゴ必殺・ふぶきが炸裂した。
たちまちパニックに陥る中央ホール。
かまくらが、鮭の切り身が、蘭花が、トドクロちゃんが、きりたんぽ鍋が宙を舞い、雪合戦の玉は空中で膨張し、対戦相手に殺人スノーボールとなって直撃した。
雪を踏みつけるサクサク感を味わっていたAさんは、自分がせっかくつけた足跡が消えたのを見て、再び足跡つけに闘志を燃やした。
『空に浮かぶオーロラを恋人同士で見上げた後に愛を育もうよツアー』は、突然襲った吹雪に際し、『極限状態で急接近する二人…あぁもうダメだわ研二さん。何言ってるんだい加奈子さん、ほら、こうすれば寒くないだろう。ああ、ダメだわ研二さん、そんなところ…ツアー』と化していた。
そしてミルフィーユにも危機が…
「きゃあ!? さ、鮭の切り身がぁ」
ブーメランのように回転し、ミルフィーユに迫る切り身。
「あぶないミルフィー!」
ミルフィーユをかばって飛び出したタクトの延髄に、見事ヒットした切り身。
「ぐはあ…」
「タクトさーん!」
タクトの延髄に当たり、中央から折れた切り身。
そして地面に落ち、逃げまどうクルーたちに踏まれ、粉々になった切り身。
宇宙を泳いでいたところを漁船に捕まり、食用に切り身にされながらも、口にされることのなかった宇宙鮭の切ない人生、もとい、魚生はここに終幕した。
嗚呼悲しきかな切り身。おいたわしきかな切り身。
宇宙鮭の切り身、フォーエバー。
ミルフィーユは気絶したタクトを引きずり、中央ホールから脱出した。
そしてクロノクリスタルで連絡を取る。
「ミント、フォルテさん、中央ホールに来て下さい。大変なんです!」
『何が大変なんだい?』
『どうしたんですのミルフィーさん?』
「鮭が暴れ出してタクトさんの切り身がユキンゴさんに、それでそれで、え~っと…」
ミルフィーユの説明はさっぱり容量を得ない。
『ええい落ち着け! 今から行くから』
「お願いします。私、タクトさんを医務室に連れていきますから!」
通信は途絶えた。
・
連絡を受け、中央ホールに到着したフォルテとミントを待っていたのは、吹き荒れるブリザード、そしてユキンゴ。
ミルフィーユの慌てようから、ある程度ハンパないなとは覚悟していたものの、想像の斜め上をいく異常事態に、二人は当惑した。
いや、大きい方は困っていたが、小さい方は目を輝かせていた。
「なんだいこりゃあ? てか、さむっ」
「分かりませんわ。でも、確かなのはひとつ…」
ミントは厳かな口調と、ひどく真面目な表情で言った。
ただ、冷静な表情とは裏腹に、彼女の瞳は、まるで何にも知らない無垢で輝きを秘めた、屋台の出目金のような輝きを放ってた。
「あのユキンゴの身体を構成している分だけで、シャーベット6年間は軽く食べ放題だと言うことですわ」
「頭冷えすぎて逆にイッちまったのかい? …っておい、あれ見な、あれ!」
フォルテが何かに感づき、ユキンゴの左頬の辺りを指さした。
そこには、手を振って自分の存在を必死にアピールしている、レスター・クールダラスの姿が。
下半身まるまるユキンゴに埋まっていた。
「あら、クールダラス副司令ではありませんか。楽しそうに手なんか振っていますわ」
「おーい副司令、そこからの眺めはどうだい?」
レスターが助けを求めているということに感づいてないミントとフォルテは、呑気に手を振った。
当然レスターは焦る。
「何か勘違いしてないか? 俺は助けてほしいんだ! 聞け!」
精一杯叫んでみても、下の二人には届かない。
「しっかしどうする? あのユキンゴ」
「とりあえず、副司令に止めてくださるようお願いしてみましょう」
レスターの叫びが耳に入ってないフォルテとミントは、これまた呑気に、
「おーい、楽しんでるトコ悪いんだけどさー、ユキンゴ止めてくんなーい?」
「このままユキンゴがここを占拠したら、艦の運営にも問題が出ますわー」
呼びかけてみた。
レスターは必死に呼びかけた。
「助けてくれー」
「ユキンゴ止めてー」
「助けてくれ!!」
「ユキンゴ止めてー」
「助けろ!!」
「ユキンゴ止めてー」
「頼むから助けてくれよー」
「ユキンゴ止めてー」
「助けろっつってんだコラァ!」
「ユキンゴ止めてー」
彼の呼びかけは、ことごとく失敗に終わった。
「ええいこうなったら、自力で脱出してやる!」
レスターは意を決し、両手をユキンゴの表面に押し当て、身体をよじり、下半身を引き抜いた。
その勢いで思い切り地面へ頭から突っ込んだが、雪だったので助かった。
雪よ、サンキューベリィマッチ!
レスターは感謝の意を捧げた。
ムガムガ言いながらどうにか頭を引き抜き、フォルテとミントの居る方へ駆け寄る。
「あら、副司令。お散歩はもうよろしいんですの?」
「俺は散歩してたんじゃない。死ぬかと思ったぞ」
ミントの脱力系な言葉に、レスターは憤慨よりも疲れを感じた。
「で、副司令がユキンゴ動かしてるんじゃないんだとすれば、放っておくわけにはいかないねぇ」
「だがどうする? 倒す算段はあるのか」
レスターの問いかけに、フォルテは腕組みして考えた。
「確かになぁ。なるべくなら関わりたくないけど、放っておくわけにもいかないし…」
「艦内で派手にドンパチするわけにもいかんしな」
うーむと頭を悩ますレスターとフォルテ。
そんな二人を尻目に、ミントは不気味に笑っていた。
「うっふふふ…倒すのが無理ならば、食べてしまえばよろしいんですわー!!」
そう叫ぶと、突如ミントは極彩色のシロップをなみなみついだバケツを抱え、ユキンゴへと突進した。
どこからそんなもん出したなんてツッコミをもろともせず、思い切り振りかぶって、バケツを投げつける!
シロップは空中でキラキラと輝き、ユキンゴへ降りかかった。
恍惚の表情を浮かべつつ、巨大な雪だるま目がけ、シロップをかけるウサ耳少女。
そんじょそこらの観光スポットではお目にかかれない、幻想的かつシュールな光景であった。
だが、身長五七メートル、体重五百五十トンを誇るユキンゴに対し、バケツ一杯のシロップではじぇーんじぇん量が足りぬ。
うすーく、ほんのちょっとだけシミがついたかの、おじーさん? てなレベルだ。
「いただきますわー!」
それでも尚、ミントはスプーンを片手に悠然と走り出す。
どーでもいいことだが、雪とは空気中のチリやゴミが上空へと舞い上がり、雲の中で氷の結晶が付着し、その重みで地上へ降ってくるのである(夏は地上の気温が高いので、溶けて雨になる)。つまりは、雪=ゴミ。なので食べるのはオススメできない。だってばっちぃじゃん。
ミントだって、冷静に考えればそんなことすぐ分かるだろう。
異常気象とは、人の心をも異常にさせるのだろうか。
案の定、ミントはユキンゴに蹴っ飛ばされた。
十六歳女児の銀河的な体重の平均水準を大きく下回る軽ぅ~い身体が、放物線を描き、遠くへと消えていった。
「ミントー! ちっくしょう、ユキンゴめぇ!」
フォルテはおもむろに、コートの裾をつまんで揺すり始めた。
「おい、何をやってるんだ?」
尋ねたレスターは次の瞬間、サバンナの奥地で、皿を数える幽霊・お菊さんに出くわしたかのように言葉を失った。
がっちゃんがっちゃん音を立てながら、銀色の地面に、鉄の銃器が投げ出されたからだ。
ハンドガンにショットガンに自動小銃、さらには対戦車ライフル、オマケに某北国のテ○ドンまで!
瞬く間に、危険な銃器の山が、うずたかく積み上げられた。
「どうしてコートの中にそんな大量の火器が入ってるんだ!?」
フォルテのコートは四次元空間にリンクしているのだろうか。
「んなこたぁどうだっていいだろう! 今はユキンゴを倒すのが先さ!!」
レスターの突っ込みを勢いで流したフォルテは、自分の身長ほどもあるマシンガンを手にとって構えると、憎きユキンゴ目がけ引き金を引いた。
轟音と共に、無数の弾頭がユキンゴへと発射される。
「ボヤボヤしてないで、あんたも撃つんだよ、副司令!」
「お、おう!」
レスターは促されるまま、自動小銃を取って撃ちまくった。
的が大きいので、弾はおもしろいように当たった。
ユキンゴはすぐに蜂の巣状態になった。
どうでもいいが、フォルテとレスターが肩を並べて銃器をぶっ放すシュチュエーションは、
「比瑪ちゃん、ひっつけよ!」
「ひっつく? くっつくの?」
「タイミングを合わせろ! 1、2、3、チャクラエクステンション!」
「シュートォォォォォォォーーーッ!!!」
というやりとりを彷彿とさせた。
しかし合体攻撃を浴びせられても、ユキンゴはひるまなかった。
それどころか、ちゃぶ台を用意し、ひっくり返すのかと思いきや食事の用意を始め、そこでひっくり返すのかと思いきや普通に食べ始め、食べてる途中でひっくり返すのかと思いきや食べ終わり、そろそろひっくり返すだろうと思いきや、食器やちゃぶ台をちゃんと片付けたりしていた。
「奴め、まったく応えてないようだぞ」
「ガンガン弾ぶっこんでいきゃぁ、そのうち型くずれしてくる。つべこべ言わずに撃つんだよ!」
度重なる発砲で、ジンジン痺れる手を我慢し、二人はユキンゴへの攻撃を辛抱強く続けた。
しかし、ユキンゴは銃弾の雨を喰らってもひるまなかった。
実際、雪だるまにエアガンを撃ってみれば分かるだろう。
弾はめり込むばかりで、決定的な破壊をもらたすことはできない。
そして温かくなって溶ける前に、殴る蹴るの肉弾戦で、ストレスを発散させてしまわなければならない。
お日様出たら溶けちゃうぞ。パンチもキックも今の内。
これまでレスターとフォルテが打ち込んだ弾は、みなユキンゴの表層に食い込んでいるに過ぎないのだった。
超高速で大きい弾丸ならば、当たった周囲をえぐるように弾き飛ばすことも可能だが、ユキンゴは見上げるほどの巨体を誇っている。マシンガンでは到底無理だ。
なんせ長浜ロマンロボの長男と同じ身長・体重だかんね!
それこそ爆弾やミサイルなどの爆発物で吹っ飛ばすしかないのである。
「ええい、くそ! 弾切れだ…」
最後に残ったグロック17Lの弾丸も尽き、フォルテは悔しさに歯噛みした。
「一時撤退だ、シュトーレン中尉!」
「チッ、逃げるのは性に合わないんだけどねぇ」
二人は戦線を放棄し、撤退を決意した。
巨大な怪物に背を向けて逃げる姿は、懐かしの東宝特撮のようであった。
ユキンゴは両手を前に突き出し、「ふんぐなー」と脱力系の雄叫びを上げながら追いかけてくる。
「追いかけてくるよ!」
「ええい、逃げ切れるか!?」
レスターとフォルテは恐怖すら感じながら必死で走った。
ズシズシと重低音を響かせ迫るユキンゴ。
徐々に詰まっていく距離。
その差4馬身、3馬身、2馬身…
トランスバール有馬記念、いよいよクライマックス!
勝利の栄冠を手にするのは、出戻りの木馬マサチューセッツ・ローか、それとも孤高の荒馬ジ・トロンベンジャーなのか。
観客が万馬券握って見守っている緊張感の中、第四コーナーを抜けて、両者ラストスパートに入った。
今まさにマサチューセッツがトロンベンジャーを捉えようとしています。
目測では、あと1馬身といったところか。
おっと、ここでマサチューセッツ転んだ!
後続の馬たちも次々に巻き込まれていきます。
さぁ、どうなってしまうのかトランスバール有馬記念!(実況:杉○清)
「あいつ、つまずいたみたいだ!」
「何だって?」
不意にユキンゴがバランスを崩した。
レスターが振り向くと、ユキンゴの足下に、氷付けのアルモが見えた。
どうやら銃撃で、彼女(氷)の埋まっていた部分が型くずれして落っこちたらしい。
レスターを転ばしたアルモ(氷)が、今度はユキンゴを転ばせたというわけだ。
ユキンゴは前のめりに倒れ込んできた。
「うおおおおお!?」
「ひゃああああ!?」
二人の頭上が大きな影で覆い尽くされた。
一直線にラナウェイラナウェイ!
だが、ユキンゴが転倒するスピードはものすごい。
このままでは二人とも、仲良く冷凍保存だ。
果たしてレスターとフォルテの運命は?
「ねえ副司令」
「何だ? こんな時に」
「あたし、思ったんだけど…」
「?」
「こういう時ってさ、横に逃げれば楽なんじゃない」
「あ、そだな」
二人の運命は決まった。
それぞれ左右へと別れてラナウェイラナウェイ!
「何一つ、いいこと無かったな……」
ユキンゴの身体と地面が仲良くどうもこんにちはしたのはその半瞬後だった。
真っ白い旋風が、ホールを包み込んだ。
そして、キラリと輝き飛び出したのは、おろし金。
落下したおろし金は、突っ伏していたレスターの頭に当たり、真っ二つに割れた。
「痛ッ…ん、これは、おろし金ではないか」
レスターがおろし金のヒットした頭をさすっていると、ミントが駆け寄ってきた。
彼女の瞳に濁りは無く、どうやらユキンゴに蹴っ飛ばされ、精神が安定したようである。
「副司令、大丈夫ですか。あら? そのおろし金…」
「ああこれか。実はタクトの奴が俺にプレゼントだと送ってきたんだが、使いようが無いのでな。おばちゃんにあげようと思ったんだ」
レスターの説明を聞いたミントは、まるで会社の上司に嫌いな食べ物を無理矢理奨められた時のような表情で言った。
「ロストテクノロジーですわ、それ」
「あんだって!?」
おわりますん
○解説
■「男がハートマークなど使うな!」と、某マーベットさんみたいに
元は「宇宙でタイヤなど使うな!」といふ台詞。
出典は『機動戦士Vガンダム』(‘93)。
ビキニのおねーさんがビームサーベルで蒸発とか、やりすぎです富野監督。
■宇宙恐竜ゼットンの火球よりも熱い
なんせ一兆度だもんな。ウルトラマンだって負けるわそんなの。
■「目指すは怨敵タクト・マイヤーズ、ボケ頭ただ一つ!!」
元ネタ→「目指すは怨敵吉良上野介、白髪首ただ一つ!!」
出典は『赤穂城断絶』(‘78)
■普段は慎重派で通っている彼も、分の悪い賭けは嫌いじゃないみたい。
キョウスケ・ナンブ。
個人的にはゼンガー親分やトロンベ兄さんに次いで好きなキャラ。
女性キャラではヴィレッタ隊長が好き。
■雪超獣スノーギラン
『ウルトラマンA』(‘72)に登場。ナマハゲのパシリやらされてた。
■フフーフフフフフーフ♪ フフーフフフフフー♪(コンピューターおばあちゃん)←違
あ~あ~♪あああああ~♪は流石にマズいと思った。
出典は『北の国から』。
■ザクとは違うのだよ、ザクとは!
グフイグナイテッドは本気で当て馬だったなぁ…
『機動戦士ガンダム』(‘79)の、ラル様の台詞より。
■『人の気持ちってものは、眼が見えるからって、見えるもんじゃねぇ』
高橋竹山キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
■スーパー部長
わざわざベテランの三浦友和を起用するほどのCMだったんだろうか。
■きゅうしょにあたった! こうかはばつぐんだ!
ちゃんとアニメ版でも、長谷部浩一氏が実況してたのにはビビったぜ。
■長浜ロマンロボの長男
コンでバトラーでVな、背中のキャタピラが泣かせるニクいあんちくしょうのことですよ。
■「比瑪ちゃん、ひっつけよ!」
第2次αのブレンパワード系って、BGMが盛り上がる前にたいがい戦闘終わっちゃうよね。
カタカタカタカタ…
カタカタカタカタ…
時刻は深夜。
今、タクトはブリッジにいる。
彼は、溜まりに溜まった書類の整理をしていた。
視線は左右にめまぐるしく動き、手は滑るようにキーボードを叩く。
カタカタカタカタ…
――ちょっきん…
カタカタカタカタ…
――ちょっきん、ちょっきん…
深夜の静寂に、ただ、無機質にキーを叩く音が、繰り返される。
タクトは集中しすぎて、処理し終わった仕事をまたはじめからやっていた。
コレではいつまで経ったって終わりはしない。
「むか~しむかし、おじいさんとおばあさんが仲むつまじく暮らしていました。が、しかし………ん?」
ふと、タクトは手を止めた。
何やら背中にベットリと張り付くような、異様な殺気を感じたのだ。
おそるおそる振り返ってみる。
――ちょっきん
「タークートーさーん……」
振り向いたら、タクトの前髪が何かで切られた。
切られた髪がスローモーションでもかけたかのようにひらひらと宙に舞い、地に落ちる。
彼の視線の先には、どこぞの通販で買ったような高枝切りばさみ片手に、いつもと変わらないニコニコ笑顔のミルフィーユ。
しかし、彼女の背からは普段とまったく異なった負の感情のみのプレッシャーが放たれていた。
それ以外はまったくいつも通りの彼女である。
でもタクトには分かっていた。今彼女はかなり怒っている。
いや、そんな可愛い感じではない。今現在、心は完璧に殺意に満ち満ちて、これでもか!と、溢れんばかりに放たれている。
「ぜーったいにゆるさないんだからぁーー!!」
――ちょっきん
「うっひぇええええええ!!」
ミルフィーユの高枝切りばさみが、タクトの髪の毛を切り刻んでいった。
どうせ髪を切るのならば、そんな安定しないモノでなくても、バリカンとか普通のハサミとかでやりゃいいのに。
まぁ、そこら辺は彼女らしいといえば、彼女らしいと言える。
「や、やめてぇー! 角刈りだけはやめてー」
「大丈夫です! 三分狩りまでやってあげます! そのあと、つるつる頭にしちゃってもいいかな?」
「いいともーっ! て、やめてぇー」
深夜の静寂の中、なさけない叫び声と、髪を切る音が響き渡る。
それは間違った記憶、雑種で名前はポチの黙示録、夜のハゲ頭。
今日も儀礼艦の何処かで、誰かの怒りが爆発しおったそうな。
おわり