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「―――な、何よこれ!?」
いつの間に、別世界に迷い込んでしまったのか?
一瞬そう思い込んでしまうほどの光景が目の前に広がっていた。
「どう? ビックリしたでしょ?」
傍らから聞こえてくる満足気な声。しかし、混乱のあまり答える余裕は無かった。
絶句するアルモの見開かれた瞳に映る光景。
必要最低限な備品以外、年頃の少女の部屋にしては殺風景な部類に入っていたココの部屋は、今は様々な衣装が掛けられたクローゼットとショーケースに囲まれていた。
ショーケースに掛けられた服。クローゼットの外に追いやられ、地面に無造作に置かれている衣類らしき物。
見渡すばかりの服。服、服、服、服、服、服etc………惨上以前とは明らかに異なっている室内のインテリア。
いつからここはブティックに改装されたのか、そのような錯覚に陥ってしまうほど異常な数の衣類に囲まれたココの部屋だった。
「驚きのあまり声も出ないかしら?」
その悪戯めいた呟きにアルモは我に返った。
「そりゃあ、ビックリするわよ! 一体何なのよ、この服は!?」
驚愕と困惑の面持ちで部屋全体を指差すと、ココは何故か自慢げに胸を張る。
「今回のために私が取り寄せた衣装よ」
「これ全部!?」
んな、馬鹿な……
浮世離れした返答に、唖然としながらアルモは戦慄を覚えていた。
ココとは長い付き合いのアルモだが、彼女について答えられることというのは実は少ない。
メガネ、三つ編みといった容貌以外、外見的にこれといった特徴も無く、性格も際立つほどの個性は無い。
趣味や特技、好きな食べ物など会話に出ることもあるが、あまり彼女のほうから率先して答えることはせず、自然とはぐらかされるのが常である。
結果、親友でありながらココのことをよく知らなかったという事実が、現在目の前で展開されアルモを愕然とさせる。
「まあ、詳しいことは置いといて……これだけで驚いてもらっちゃ困るわ」
このような状況になった詳しい経緯を知りたいのだが……
しかし、やんわりとはぐらかしながらも、ココは意味有り気に呟く。
「……えっ?」
アルモは怪訝に思い面を上げると、ココは確信犯的な笑みを湛えている。
「言ったでしょ、アルモ。貴女を変えてあげるって……」
「ま、まさか……」
「そう……これこそ、私が考えた秘策の一つ―――」
ココはやけに芝居がかった仕草で天を仰ぐと、大仰に両手を広げた。
「―――名付けて、『アルモ改造計画』よ!」
「……はっ?」
その時歴史は動いた―――
Love missionary ~恋愛の伝道師(?)~
Break3 『劇的!? びふぉーあふたー!』
「私、最近こう思うようになったのよ……」
展開の目まぐるしい変化について行けず硬直しているアルモを尻目に、ココは淡々と口火を切った。
「アルモには、女性としての個性が足りないんじゃないかって」
「えっ?」
我に返ると、いつの間にか目の前にココが現れ、気圧されるようにたじろいでしまう。
「アルモの特徴を挙げてみましょうか?」
「え、え~っと……」
ずずぃっ、と、ズームアップする親友の顔。ちょっと目つきが恐ろしい。
「外見だけ言うわよ。見た目ではアルモの容貌はハープルのショートヘアーをした20歳前後の女性……」
「まだ二十歳にはなってないわよ!」
「あくまでも見た目よ」
つらつらと好き勝手に身体的特徴を論うココに、憮然としながら口を噤むアルモ。
「スタイルはどちらかというと痩せ型で、健康的なスタイルの持ち主……」
しかし、途中、ぱったりと説明が止まり、ココは視線をアルモに投げ掛けた。
「どう?」
何がどうなのか。
「まあ、年齢以外は当たってるけど」
「そうじゃないわよ。これだけの特徴を挙げたのに気付かない?」
「えっ? え~っと……」
問いかけの意図がさっぱり掴めずに悩んでいると、呆れたような嘆息が耳に飛び込んできた。
「何か目立つような特徴ってある?」
「……あっ」
そういえば……! 思い当たる節にアルモは瞠目した。
その反応を見ていたココはゆっくりと頷くと、真剣な面持ちで口を開いた。
「アルモにはこれといった特徴、つまり『個性』が無いのよ!」
「うぐっ……!」
自覚していただけに第三者から言われるとグサっと来る。
以前から何となくだが気には留めていた。
レスターに遠回しだがアプローチを何度も試み、その都度悉く空回りし、思い悩み、自分を鑑みたことがある。その度にアルモは、取り立てて挙げられるような魅力が自分には無いのでは疑問に思った。
魅力いわば個性。
もしかすると、自分は押しが足りないのではなく、副司令の好みから外れているのではないか?
それならば失敗も当然のことだ。
と、思いつつも、何がいけないのかが検討もつかず、結局堂々巡りを繰り返して悩んでいるまっ最中だった。
「だから今回は、思い切ってイメージチェンジしてみない? そろそろ助っ人も来る頃じゃないかしら」
「イメチェン? 助っ人?」
聞き慣れない言葉に首を傾げていると、何処からともなく部屋のインターホンが鳴り響く。
「あ、来た来た!」
弾んだ様子でココがドアを開けると、入室してきたのは。
「ハーイ、ミナサ~ン! アイシアッテマスカ~!?」
妙にハイテンションな、上下黒ずくめのピッチピチなボディスーツを身に着けた珍妙な出で立ちの金髪の女性だった。服装からしてクルーとは思えない、っていうか思いっきり部外者と映る異質な存在。変わり者のデザイナーにも見える。
……だが、片言の口調だろうが、怪しさ満点の丸サングラスをつけてキャラ作りをしていようが、あの長いウェーブの掛かった金髪にあのデカい髪飾りは、アルモが知っている限り1人しかいない。
「え、え~っと……蘭f――」
「お待ちしてました、先生!」
アルモの事実確認の言葉を遮って、ココが女性を満面の笑みで出迎えた。
「は? 先生って……」
ココが金髪の女性――蘭花らしき人物――を『先生』と呼んだ事に、アルモは怪訝な表情で聞き咎めた。
「ハーイ、オ久シブリネ、ココ! 元気シテター!?」
「ええ、おかげさまで! あの時と変わらず絶好調ですよ!」
「えっ? えっ? えっ?」
HAHAHAHAHA! と、戸惑うアルモもお構い無しに、アメリカンな笑いで室内に陽気なテンションを作り出す2人。
「さて、挨拶はこのくらいにして……」
2人は一頻り大笑した後、アルモに向き直った。
「先生、彼女が私の友達のアルモです」
「オー! ハジメマシテ、ミスアルモ!」
「え、いや、あの、その、初めまして、って……」
有無を言わさずに、自然に出されたこちらの両手を取ってぶんぶんと振り動かす蘭花らしき女性に、アルモはさらに狼狽えてしまう。
「アルモ。こちらはトランスバールでは1,2を争う“カリスマ”ヘアメイク・アーティスト兼スタイリストのRUN☆FA先生よ」
ココは金髪の女性をそう紹介するが思いっきり初耳だ。初めて聞いたんだから当たり前だが。
「……あの、いったい何してるんですか、蘭花さ――」
振り動かされながらも、混乱するあまり鸚鵡返しに尋ねるアルモ。
「RUN☆FA先生」
「いや、だから、らn」
「RUN☆FAせ・ん・せ・い!」
ボゴンッ!
「ぎゃあぁぁぁ!! か、肩! 肩がァァァァァ!!!」
握手による腕の反動の勢いで、アルモの両肩が外れる。
「あ~あ、素直に認めないからそうなるのよ」
「ジゴウジトクw」
「うっさい!! 死ね!」
厭味に思える指摘に頭に血が昇り、罵声を投げ掛けた瞬間。
ベキッ……ゴリッ……
「んぎょぉぉぉぉぉ!!! 今度は肘、ヒジ!!」
両腕は握られたままだったので、強い力で下に引っ張られると両肘が嫌な音を立てた。
「口は禍の元よ~」
凶悪な笑みを浮かべる自称スタイリスト。その時だけ素に戻っているが、戦慄を覚えるほど底冷えのする低い声にアルモは激痛に苛まれながら言葉を呑んだ。
「この人は私たちが知っている蘭花さんじゃないわ。RUN☆FA先生よ」
どうあっても蘭花ではないようだ。
「何がどう違うのよ……って?」
ココに肩と腕を嵌め直して貰いながらアルモの問いかけともつかない呟きに、自称スタイリストの女性が無言で何か紙切れのような物を渡してきた。
―――文章では伝わりきれないので解説しておく。
この際、金髪の変女が何者かは置いておいて、アルモは『らんふぁ』さんと言っているのだが、ココは『RUN☆FA』先生と呼んでいる。
そして渡された紙切れのようなもの、つまり名刺にはこう書かれていた。
―――RUN☆FA―――
……発音が違うのだろうか?
「どう言ったら良いのよ……?」
『☆』は何と言ったら良いのか。
「まあ、そんなことはどうでも良いのよ」
「ソウデース! モンダイナッスィング!」
「そんなことって……」
あんたも自分のことなのに、問題無し、ってのはどうよ? いや、それよりもあんたキャラ変わってんだよ?
「今はアルモを改造することが目的なんだから!」
「人をミニ四駆みたいに言わないでよ!」
「イエーイ! パフーパフー! ドンドン!」
「そこ! 口で効果音を鳴らすなッ!!」
「ほらほら遊ばないの! 時間が勿体無いでしょ?」
「誰のせいよ、誰の!」
ああ、もはや収集がつきやしねェ……
ドゴーーーーン!!!! パンッ! アーアー、ギャーーー!!!
「わぁ! あ、危ないでしょ!?」
何か程よく出来上がってしまった変人2人は、爆竹まで使って騒ぎ出す始末。
「うらァ!! もっと騒げェェェ!!!」
「キャホォォォォォォ!!!」
しかし、まったく止まる様子はない。
「ああああああ!!!! うるっせーなァ、もう!!!!! 黙れっつってんだろーがァ!!」
「んだ、やんのかコラァ!? 上等だァ!」
「ファッ○ンガ―ル!! カモン!!」
放送禁止用語ギリギリの悪罵と奇声を放ちながら、三つ巴の闘いが幕を開けた。
/
「さて、RUN☆FA先生。今回お呼び立てしたのは他でもありません」
ココは居住まいを正すと、自称スタイリストにようやく本題を切り出した。
「私の親友であるアルモ、彼女を先生のお力で変えていただきたいんです」
そう懇願すると、騒ぎを静めるのに気力を使い果たしてぐったりしているアルモに目を向けた。
「フム……」
自称スタイリストである蘭花のそっくりさんはココに促されると、テーブルに突っ伏しているアルモの全身を眺めるように凝視した。
「ドウシテ、コノヒトヲカエヨウトスルノ?」
「恋をしているからです」
「OH! ソレナラトウゼンネ!」
未だにキャラを引きずっているが、双方とも先程まで一時間近くに亘って騒ぎまくった人間とは思えないほど落ち着いた佇まいをしている。
ココも然り、そっくりさん(あくまでも)然り、意味不明な言動を行うことはあるが、何事も自分に課された使命に関しては真面目なようだ。
……婦人警官の格好をしていなければ。
まず何でそんなものがあるのかは聞きたくない。
騒ぎまくった後、辺りにある衣装から適当に選んだのがそれだが、2人とも何故か気に入ってしまったようだ。
ぐったりと2人の様子を眺めながら、反応する気力もなくアルモはぼんやりとそんなことを思った。
「というわけで、先生の出番と言うわけです!」
「OK、オーケイ! ワタシニマッカセナサ~イ!」
あれだけで交渉が成立してしまった。
消費した時間、僅か5分。こんなに早く終わるなら、さっさとして欲しかった……。
腰まで伝わる床に敷かれた絨毯の暖かさが同情しているかのようだった。
「はい。じゃアルモ、いつまでも寝てないでさっさと起きる!」
「……寝てないわよ」
緩慢に、のっそりとした動作で顔を上げる。
「ウソ、目の下に痣が出来てるわよ」
誰のせいでこうなったと思っているのか。
「それじゃ、先生」
「オッケー。サッソクハジメマース」
もはやツッコミする気も起きず、アルモがされるままに共に席を立った。
「さあ、アルモ。地味だった自分にサヨナラするわよ!」
その台詞こそ、あの時我を忘れてしまったきっかけとなったはずだが、今のココは真面目に言っているらしい。
かといって、婦人警官の格好でズバズバと指摘されるのはあまり良い気分ではなかった。2人揃って何かを用意しているのを尻目に、アルモは気になっていたことを口にした。
「……思うんだけど」
自然と口調に険が混じるのにも構わずアルモは続けた。
「ココはどうなのよ?」
「どうって?」
「あたしもそんなに目立つ方じゃないかもしれないけど、ココほど地味じゃないと思うわ」
たとえ親友であろうと聞き捨てなら無い。親しき仲にも礼儀ありである。
外見は目立たなくとも、性格的には明るく社交的な部類に入ると自負しているアルモにとって、おっとりタイプでどちらかというと内向的なココにそう言われたくないと言うのが本音である。
「分かってないわね、アルモは……」
だが、この時、ココは意外な言動に出た。
「つまりアルモは説得力が無いって言いたいわけね?」
「いや、そうじゃなくて……」
確かに不信感は芽生えたが、それ以上に愉快では無いのだ。
「RUN☆FA先生の腕に信用が無いわけか……」
ココは見当違いとも取れる呟きをすると、それまで黙って傍観していたそっくりさんに目配せをする。それが何を意味するのかを分かっていたのか、いつの間にメイド服を着ていたそっくりさんは一つ頷くと、何処からとも無く正方形の台の上に、直角に付けられた棒柱にカーテンが備え付けられた空間を作り出した。
「……何これ?」
「試着室よ」
上にあるタイマーは何だろう?
「いきなりカーテンが落ちたりしないわよね?」
「先生、お願いします」
「ウム」
無視された。
「アルモ、よく見てなさい……」
唐突に冷徹な口調で告げられ、アルモが視線を向けると、ココはいつの間にか試着室らしきところに立ち、鋭い視線でこちらを直視していた。
「私の本当の姿を――」
そう言うと、独りでにカーテンが閉められ、アルモは一人その場に取り残される。
「……1人?」
気が付いたときには、そっくりさんもいつの間にか消えていた。
一体、何処に消えたのか。その疑問はすぐに氷解する。
ガタン、ゴトゴトッ、シュル……
「ちょ、ちょっとそんなに脱がさないでくださいよ!」
「大丈夫よ! これくらい露出したって、かえって引き立つんだから……」
「だからって、勝手に着替えさせないで下さい! これじゃあ、只の痴女じゃないですかァ!」
「ギャーギャーうるさいわね! ガタガタ言わずに、アタシを信じなさいってばッ!!」
「………………」
……目の前の試着室から衣擦れ以外の荒々しい喧騒が聞こえてくる。
明らかに1人分しかないスペースに2人入っているのは大層窮屈なのだろう。引かれたカーテンが盛り上がり、足がはみ出ていた。
「あー、かわいい! ココ、凄く似合ってるわよ~」
声を潜めてはいるが、完全に素に戻ったそっくりさんの正体。
「こんなにスケスケな服の何処が!? もっと真面目にやって下さいよぉ……」
今までに無い弱々しい声のココだが、発言内容自体は危ない。思春期の男性には聞かせられない内容だ。
「ふぁ……」
何やってんだろう、あたし……自然と欠伸が出てくる。
今の自分はまるで、彼女の服を一緒に選びに店に訪れ、試着しているのを待ち惚けさせられる彼氏のようだ。
アルモはこの状況に呆れつつ、何と無しに部屋全体を見回した。
照明がついて分かったことだが、以前と比べて室内が広くなった感じがする。
あちこちに拳の後がうっすらと見え、アルモは慌てて視線を逸らした。
「……しっかし、凄い数ねぇ」
次に目を向けたのは、もはや山と表現しても過言ではないほど衣装がうず高く積まれた箇所。
天井に届きそうなくらいの数って、常識的にどうなのか?
どんな服があるんだろ?
暇に飽かせ、好奇心に駆られたアルモはその場にそっと近付こうとした。
……だが、彼女の数奇な運命はお約束の展開が待ち受けていた。
ズルッ
「きゃあ!?」
散乱していた何かの衣装に足を取られ、そのままサマーソルト後転を繰り出す。
そして転んだ時の震動が山に伝わってしまい、雪崩がアルモに向かって襲い掛かった。
「ひゃあああああああ!!!!」
ドサドサドサドサ……
「ぷあっ……な、なんでこうなるのよ……」
生地の沼から顔を出すと、嘆きながら服をどかし始める。
その時、掌にやけに固い感触が伝わった。
「何これ……って、げッ!?」
アルモが掴んでいたのはボンテージレザーで出来ている、面積の少ない服らしき物。
下腹部のところについていた棒状の物を見た瞬間、アルモは衝動的に投げ捨てた。
な、何よこれ……!?
衣装はそれだけではすまない。
丈の短いナース服や豹柄のビキニ、OLが着るようなそれでいてやけにスカートが短い服、仰々しいデザインの巫女服、真っ赤なチャイナ服、ウエディングドレス。
何故か『みんと』とネームが貼られた俗に言う紺色の○クール水着まで。
挙句の果てには『裸専用』と書かれたフリルのついたエプロンまで発見してしまった。
「………………」
明らかに常人に対してのものではない衣装の数々にアルモは茫然と口が開きっぱなしになった。
奴らは一体何を企んでいるのか?
イメージチェンジを施す前に頭をどうにかした方が―――
「はい、お待たせ~」
「―――っ!?」
現実からの声に、思考の海から引きずり戻されたアルモは色を失いかけた。
「ん? 何やってんの?」
「いいいいいいいや、何でもッッッ!!」
過剰なほどの反応に、カーテンから顔だけを出した金髪の少女は訝しげな表情をした。
「? まあ、いいわ。開けるわよ」
言葉と同時にカーテンが引かれ、中の様子を映し出す。
「い、一体何が……って――」
視界に収めた瞬間、口が止まった。
「アルモ?」
「……コ、ココ?」
我ながら、なんと間抜けな声だろう。
「そうよ、驚いた?」
そんな面白い顔をしていたのか、目の前の童顔の少女の悪戯な微笑みに、アルモは粘性のある唾を飲み込んだ。
目の前の童顔の少女――ココは、もはや変身としか言い様のない変化を見せていた。
季節外れ――いや、この艦に季節は今どうなっているのか不明だが、彼女はワンピースの形をしたサマードレスを着ている。だが、問題はそこではない。
「め、眼鏡はどうしたのよ?」
アピールポイントである眼鏡が掛けられていないのだ。
「ああ、今はコンタクトにしてるのよ」
確かに眼鏡を外しているときは常に眼を細めているはずだが、今の彼女ははっきりと眼を開けている。
薄く紅が引かれている唇と紫色のアイシャドウが童顔のはずの面持ちを大人びて見えさせ、さらに彼女の印象を変質させていた。
「そ、それに、その髪型……」
震える指でアルモが指した箇所は、本来であれば三つ編みにしているはずの彼女の髪型は、今は下ろされている。
「ふふっ、似合うでしょ?」
ココは光沢のある唇を満足そうに微笑みの形に作り、見せ付けるようにして髪をかき上げる。
まるで一流モデルのような、いつもの彼女からは想像もつかないその動作に思わず眼を奪われ、何も言葉を発することが出来ないその時、それは起こった。
「あっ―――」
それは突如発生した幻想的な光景だった―――
場所は親友の部屋。
そのはずなのに、その時だけ御伽の国に迷い込んでしまったのかと思ってしまった………
何気無く、いつも通り散歩をするような、そんな動きで足を開き、つま先を立てて身を翻す。
一回転ターン。優雅にそして妖美に。
別人に思えてしまうほど、華麗なる動きに合わせて解けたセミロングの髪が靡く。
こんなに綺麗な髪だったのか、そう思えてしまうほど流麗な川の如く、さらさらとしたオレンジ色の髪がよく映えた。
一挙手一投足が、まさに『妖精の輪舞』
そう表現しても差し支えないその動作が、この場を幻想的な空間に変貌させていた。
そして向き直る。
「―――あっ」
声が出た。感嘆とも驚愕とも取れぬ刹那の呟き。
現実に引き戻すチャイムに、安堵とも落胆とも取れぬ溜息をつかせた。
「―――どう? アタシのスタイリッシュスキルの感想は?」
その声に我に返ると、すっかりキャラを捨てた蘭花が傍らで不敵な笑みを浮かべていた。
しかし、セーラー服に着替えた意味が分からないがどうでも良い。
「眼鏡を外しただけでここまで変わるとは思わなかったかしら?」
「……え、ええ」
言葉も無かった。まさに彼女の言ったとおり、もう一人のココとも錯覚を禁じえないほどだった。
それも想像も出来ないくらい、煌びやかなほど美麗になるとは。
しかし、華美な化粧や服装などのプロデュースは蘭花が行ったのだとしても、あそこまで眼を奪われるような光景を創造することなど可能なのだろうか?
「アルモの思っている通りよ」
「えっ!?」
こちらの思考を読み取ったような声に慌てて振り向くと、ココが視線を向けていた。
「私にとって眼鏡は鞘、三つ編みは盾、おしとやかな性格は鎧なのよ」
ココは静かな声で自説を語った。
異性と対峙する時において、自らを刀または剣とするとき必要な三種の神器があると。
一つは鞘。刀剣を万全な状態で常備しておくとき、美しさと切れ味を保持するためには鞘が必要。
二つ目は盾。本当の姿を悟られないようにするために、自らを覆い隠すことの出来る盾が必要。
三つ目は鎧。意中の相手は元より周囲にも本性を悟られぬよう、精神が左右されることの無い鎧が必要なのだ。
そして、いざ異性に本当の自分の姿を見せる機会が巡ってくる場面を侍同士の真剣勝負に喩え、鞘から抜く時の速度、タイミング、力加減が勝負を決めるという。
「要するに―――」
経験、努力、才能、つまり天地人が自らの魅力を左右しうる重要なファクターとココは説いた。
「な、成る程……!」
眼から鱗。落雷が脳天に直撃したような衝撃がアルモの全身に迸った。
たかが眼鏡と侮る無かれ。所詮三つ編みと慢心するべからず。内向的を嘲笑う己を恥じよ。
驚嘆してもし足りないくらい斬新な発想。だが、これこそまさにアルモが不足していた要素だった!
「あ、あたし、身の程知らずでしたァァァァァァァァァ!!!!」
今までの自分の言動に、アルモは衝動的に絶叫しながら蹲ってしまった。
「顔を上げてアルモ」
「あっ……」
ひんやりとした手が自然と顔を上向かせると、身を屈めたココが穏やかに微笑んでいた。
「知らないことは恥じゃないわ。知っているフリをしながら有能を装うことが本当の恥なのよ」
ココの優しげな声。同姓でも見とれてしまうような美麗な微笑に泣きそうだった心が癒される。
「その分、貴女はどんなことでも真っ直ぐに筋を通してきたじゃない。ねえ、蘭花さん?」
「そうそう。そのためにアタシたちが居るのよ。少しは自信を持ってみたら?」
頼りがいのある笑みを浮かべながら、それでいて優しさを含んだ蘭花の言葉が胸に響いた。
「どう? これで少しはアタシたちを信用してくれるかしら?」
ココの言葉を継ぐように、蘭花が尋ねて来たが考えるまでも無かった。
女性の全てを際立たせるアーティストの蘭花と、恋愛のイロハをマスターしているココ。
2人の協力を得られれば、レスターを落とすことなどそうさも無い!
「―――はい!」
元気を取り戻したアルモは飛びつくようにして勢いよく了承した。
「ヨーシ、ソレジャ、ミスアルモヲトビッキリノレディニスルネ!」
再び、自称スタイリストに変貌する蘭花。
「「オーッ!!」」
それにノリノリのテンションで声を張り上げるアルモとココ。
―――『チーム・プロジェクトA(アルモ)』が結成された瞬間だった………
バタン!
「―――何がおー、だ! いつまでサボれば気が済むんだ!?」
「げっ!?」
―――同時に、機動隊とともに突然現れたレスター・クールダラスの手により、改造計画は実行される目前で無念の白紙となった。
騒動と職務怠慢のオマケ付きで3人が大目玉を食らったことは言うまでもない。
「今度はもっと慎重にことを進めなきゃね……」
「進めんでいい!!」
チャンチャン♪
/
送信宛 白き月管制局管理者殿
○月×日作成 エルシオール管理班警備係一同
~エルシオールCブロックで発生した盗難事件についての調査報告書~
数日前、エルシオール内部で盗難と思われる事件が発生した。事件が起こったのはCブロック居住エリアで、乗組員数人の部屋に何者かが侵入した形跡があり、衣類などが数点盗難されている。クロノ・ドライブ中に発生したことから犯人は内部の者という線が強い。
信じられないことに素手で作ったと思わしき痕跡のあるトンネルなどの侵入経路が見つかり、そこを通って部屋に進入したと思われるが、どこから通ってきたのか途中で崩されており、手がかりは掴めない。
被害者の部屋に残っていた別の小さめの足跡から子供から女性の物と推定は出来たが、乗組員の大半が女性であることと犯人に繋がるような証拠があまりにも少ないために、迷宮入りは避けられない様相を呈す。
しかし、事件の展開上、我々は最高責任者であるタクト・マイヤーズ司令官及びレスター・クールダラス副司令官には内密に、この事件の概要について独自調査した結果、例外を除いて奇妙な共通点を数個発見する。
共通点は以下抜粋
1.被害者の大半が女性乗組員である(中には男性乗組員も何人か居たが、被害状況については曖昧な供述を繰り返すため割愛)。
2.金品及びその他備品の盗難被害は皆無。
3.何故か被害者の部屋には、猫らしき影絵が描かれたカードが一枚残されていた。
調査を進めていくうちにこの3つの共通点を発見したが、捜査を行っていく上で役立てるかどうかは不明。
現在も捜査は進行中である。
以上
Break3 終了