第一章「愛国への帰還」

 

 

 

 

 

 

『エンゲージ、固定しました。搬入作業を開始してください』

白き月に輸送船が到着してから、アナウンスに従うように作業人がデッキに集まってくる。

アナウンスが流れてから、輸送船の操縦席と助手席に座っていた神崎正樹(かんざき まさき)と水瀬彩(みなせ あや)はそろって大きく伸びをした。

「うー・・・っっん。―――今回は長い距離だったな」

「ま、一週間も箱詰めだったからね。私もそう思う」

しみじみ、そう思いながら、二人は目の前に泊まっている大型艦、エルシオールに目を向けた。

「久しぶりね、白き月にエルシオールなんて」

「2年ぶりじゃねぇか?―――確かに懐かしいわな、そりゃ」

と、正樹は彩から見てもわかるほどにウズウズしてきた。

「なあ彩」

「何?」

「ちょっとエルシオールに遊びにいかねぇか?」

ちょっと、と言われるあたりに、正樹がエルシオールに対するイメージが固められていることが理解出来る。当然、その元凶は言うまでもなく、あの皇国の英雄なのだが。

「いいわよ。でも、その前に・・・」

「?」

手持ちのデータファイルを渡される。見間違いようもない、今しがた自分たちが運んできた輸送リストである。

「お仕事、お仕事」

「へいへい、真面目だねぇ」

「生活かかってるんだから当たり前でしょ。さっさと行く!」

ビッ、と外を指差す。

口論して勝てたためしはなく、正樹は外へ出ていった。

 

 

 

 

 

 

約20分後、リストの確認を終えてからついでに(・・・・)乗艦許可を貰い、二人はエルシオールへ入っていった。

無論、そうできた理由は二人の顔が白き月にも知れ渡っていることもあり、何より前大戦時の功績のおかげでもあった。

「今の艦長はレスターなんだよな」

廊下を歩きながらそれとなく彩に話しかける。およそ二年ぶりの艦内はさほど変わりなく、迷うことなくブリッジへの歩みを進めた。

「ええ、タクトさんとミルフィーさんが結婚して退役しちゃったからね」

「あの二人のカフェ、良かったよなぁ」

「5つ星に入ってる味よね」

「場所が場所だからあんまし有名じゃねぇけどな」

「むしろ、そうしたかったからじゃない?なんかあの二人らしいわよね」

「・・・かもな」

タクトとミルフィーユは昨年についに結婚し、それをきっかけに軍を退役、今はタクトの母星で小さなカフェを営んでいる。静かな雰囲気の中でそれなりに繁盛しているようだった。正樹と彩も何度か訪れたことがあった。

「・・・割り引いちゃくれなかったけどな」

「あんなこと聞くんじゃないわよ、バカ」

 

 

 

さすがにミルフィーユに心の底から心配している表情で、

――――――正樹さん、お金、無いんですか?

なんて言われた日には男として悲しすぎる。

というか、正樹はすでに実証済みなのだが。

 

 

 

苦笑しながら二人はエレベーターに乗る。

「そういや、次の仕事ってどこだ?」

「クリオム星系のハミルからレナミス星系のパレスまで。資材輸送ね」

「猶予は?」

「向かう時間を削っても一週間はあるから、結構のんびりできるわね」

「おおう・・・」

正樹は正直、今の日常にもう少し刺激が欲しかった。とはいえ、今の仕事に不満があるわけではない。彩と二人で行う運送業は正直、楽しい。けれど、のどかすぎるのだ。

(だからって・・・戦いたいわけじゃないんだけどな)

正樹は戦争が嫌いである。失うものが多すぎて、辛い。

今更ながら、そう思う。

やがてエレベーターはブリッジ前へ到着する。

二人はとうとうブリッジの前に到着したが、正樹は一歩も進もうとはしなかった。

「?どうしたのよ、正樹」

「いや、なんか久々で恥ずかしいな、と」

自分から誘っておきながらなんとも情けないヤツだろう。彩は少々、本気でイラついてきた。

「さっさと行けっ!!」

思いっきり蹴り飛ばしながらブリッジに押し入った。

 

 

 

さすがに騒がしくブリッジに入ったものだから、ブリッジ中の視線を集めてしまう。が、正樹自身、こういうのには慣れているのでさして気にせず、司令席に歩んでいく。

そこに座る人物は、さすがに少しは驚いていたが。

「よ、レスター。久しぶり」

「お久しぶりです、クールダラス副司・・・じゃなかった、司令」

「ま、正樹に彩か!?」

「正樹さ〜ん、彩さ〜ん」

「お久しぶりですね〜」

驚きつつもレスターやアルモ、ココも再会を喜んでくれた。

「いつ、こっちに来たんですか?」

「ついさっき、仕事でな」

「輸送業、でしたっけ」

「ええ、のんびりやってますよ」

アルモとココの質問を受けていると、正樹はエンジェル隊の制服に身を包んだ見慣れない4人の少年少女たちがこちらを見ているのに気づいた。

「レスター、彼等は?」

先ほどまで自分たちの会話を傍観していたレスターは、正樹の声に反応して、その4人と正樹を交互に見た。

「新人のエンジェル隊だ。新たな紋章機が発見されたのは知っているだろう。それで追加された」

「へぇ・・・」

「紹介はしてくれないんですか?」

会話に参加してきた彩が、また断りにくいことを聞いてくる。

まぁ、その4人も正樹たちが気になっているのがわかる。レスターは仕方なく、互いに紹介してくれた。

まずはツンツン頭の黒髪で、オレンジの瞳をした少年から。

「正樹、彩、彼は“エクス・ソレーバー”少尉だ。「Y計画」の試作IG、ゼノンのパイロットを勤めている」

「・・・どうも」

エクスが自分たちに向ける視線は誰?という感じであったが、他の三人も同じなので特に気にしなかった。

「なあ、ゼノンって確か・・・」

「ええ、データ協力のために春菜が開発したIG、よね。こんなところに流れてたんだ」

二人の率直な意見に、レスターの顔が少し険しくなる。

「・・・まあ否定はしない。トランスバールは今だにゼノン以上の性能を持つIGを完成させていないからな」

Y計画。それは前大戦からの経験から、トランスバールが紋章機の支援用IGの開発計画名である。

「続いて、金髪の彼は“クリス・フランボワーズ”少尉だ。Y計画の量産機、レガータのパイロットだ。―――名前からもわかるだろうが、彼はランファの弟だ」

「へぇ・・・」

「あーわかるわかる。髪の色とか、なんとなく目元が似てるしな」

「ど、ども」

クリスは黄色の瞳を微妙に逸らしながら軽く会釈した。

短い金髪が似合う少年だ、と二人は思った。

「そして、彼女は“ティア・ブレンハート”少尉だ。修理して、通常紋章機として使用できるように改良したGA7番機、『インヴォーカー(信じる者)』のパイロットだ」

茶色の髪をポニーテールにしてしばった、可愛らしい少女である。

「初めまして〜」

しかも、かなり社交性があると見た。少なからず戸惑う。

「最後に、彼女は“セリシア・フォーム”少尉だ。新たに発見されたGA8番機、『ピュアテンダー(純粋なる優しさ)』のパイロットを務めている」

紫のロングヘアーがしなやかに揺れる。

途端、セリシアは脱兎の勢いで自分たちから大きく後退し、柱の後ろまで移動した。

「え・・・?」

「何、彼女、どうしたの?」

まるで小動物を思わせるその行動に、正樹と彩は首を傾げ、レスターを含めた三人のエンジェル隊はため息をついた。

「彼女、セリシアは・・・良く言えば人見知りが激しい、悪く言えば対人恐怖症の持ち主なんだ」

レスターの解説に、正樹と彩は思わず絶句した。

チームワークと信頼関係を武器にするエンジェル隊には、実に不向きな人物である。

と、いつのまにかセリシアはクリスの後ろに隠れるように移動しており、消え入るような声で、

「・・・初めまして」

と、挨拶してくれた。

だが、顔はしっかりと怯えた様子で、なんだか悪いことをした気持ちになる。と、そこまできて気がついた。

「ランファの弟・・・クリスなら、平気なのか?」

限に、今でも彼女はクリスの制服の裾をギュッと握りながら、彼の背中に隠れている。

視線を向けられたと気づき、セリシアは再びクリスの背に顔を隠した。

「お、おいセリシア・・・」

「うぅ・・・ごめんね?クリス」

そんな声で縋るような視線を向けられて断れる男はそうはいない。

クリスは半ば諦めたように、頭をポリポリとかいた。

ともかく、新メンバーも充分に個性あるメンバーというのがよくわかった。

 

 

 

4人の紹介が終わったところで、4人は改めて正樹と彩に向き直る。

「エクス、クリス、ティア、セリシア。彼は神崎正樹、前大戦時にグランディウスのパイロットだった人物だ。そして、彼女は水瀬彩。あの音無春菜と共に主に整備面で協力してくれた人物だ」

「え・・・」

「えぇっっ!?」

「へぇ〜」

「えっ・・・!?」

4人の反応が妙におかしく感じる。思わず笑ってしまいそうだった。

その直後、

「「「「し、失礼しましたっ!!」」」」

声をそろえて敬礼されてしまった。

正樹の名は思ったよりEDENの世界に広まっており、前大戦で活躍したエースパイロットとして知れ渡っている。まさに、前大戦を終わらせた英雄でもあるのだ。

そんな雲の上のような人物に怪訝な目を向けていたのだから、知らなかったとはいえ、かなり失礼な行為であったといえる。

特に、エクスとティアはリ・ガウスの世界からEDENの世界へ移住してきた人物なのだから、リ・ガウスでも知られている人物が目の前にいるということで、緊張感全開だ。

「おいおい・・・」

「どうするの?正樹」

おもしろ半分に耳元でささやく彩が、妙に憎々しかった。

「えーっとな、俺はもう軍属じゃねぇんだ。だからそういう堅苦しいのはしなくていいから。楽にしてくれ」

なんとかして誠意は伝えたが、それが即座に実行できる人など限られてくる。

正樹としては、どうも昔からこういうのは好きではないのだが。

「はぁ・・・」

「本気で言ってるところが、みっともないわね」

無言のプレッシャーを放つと、彩は降参のつもりか両手を挙げた。

その顔が久しく見る無邪気な顔だったので、正樹はそれ以上、何も言えなかった。

 

 

 

「おや?珍しい顔が見えるね」

と、すでに聞きなれた女性の声がブリッジに入ってくる。

言うまでもなく、フォルテだった。ミントもその隣にいる。

「正樹さんに、彩さん!お久しぶりですわ」

「よう、相変わらず小っこくて、でっかいな」

「・・・口の悪さも相変わらずですわね」

「なんにしても久しぶりだね、二人とも」

「ええ、お久しぶりです」

フォルテの豪快な笑顔に、ミント、正樹、彩も顔がにこやかにほぐれていく。

そんな中、正樹はついつい二人を見つめていた。

当然、二人がその視線に気づかないわけがないが。

「なんだい正樹。どこか変なところでもあるのかい?」

「女性をジロジロと見るのはマナー違反ですわよ」

ミントの小悪魔的な笑顔に、正樹は思わず苦笑した。

「いや・・・単に、二人だけなんだなって」

「まぁね・・・ミルフィーはともかく、ランファやちとせはそれぞれ忙しいからね。贅沢は言えないよ」

それ以上、話を続けなかった。続けると、確実に彼らの話題になってしまうとわかっていたから。

話題を変える勢いで、ミントが彩に歩み寄る。

「そういえば、お二人は今輸送業をやっていらっしゃるのですか?」

「はい、今回は白き月までの輸送で・・・。次の仕事までしばらく猶予がありますから、少しのんびりしようと思ってます」

「・・・楽しそうですわね、彩さん」

かなり分かりにくいが、その微妙に変化した表情を、ミントは見抜いた。が、彩とて隠すつもりはこれっぽっちもないのだが。

「そうですね、楽しいですよ。・・・まぁ、生活が楽じゃないのが辛いですけど」

一瞬でダークな顔になり、ミントは思わず笑った。

 

 

 

彼らの会話をただ聞いていたエクスたちは、漠然と思った。

ミントやフォルテと気楽に会話しているあたり、あの正樹と彩は本当に前大戦を勝ち抜いたパイロットなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これより僅か10分前、トランスバールの軍港の前に、数人の人が集まっていた。

その中で中心になっている3人。名を、ボサボサ頭の黒髪の少年は河埜心斗(こうの しんと)、後ろ髪を左右に伸ばした少女を雨宮(あまみや)みさき、ショートヘアの少女を海原英樹、という。

三人に加え、4、5人がそれぞれ携帯式コンパクトサイズのビームマシンガンを構え、まさに突撃するといった様子であった。

「・・・じゃあもう一度手順を説明するわよ。心斗はIGに直行、みさきはその援護に。私とあなたたちは封鎖と排除に回り、IGを奪った後、心斗は私たちを回収してから、運ばせてある私たちのIGのところまで行くのよ」

「コンテナは・・・第三倉庫だよな」

心斗の確認に英樹が頷く。

緊張を解くため、全員が大きく深呼吸を行う。今更、後には引けないのだ。――――――やるしかない。

「準備、いいわね」

無言で頷き、目で確認した。

「・・・行くぞ!!」

心斗の叫びと共に、4人は倉庫内に突撃した。

 

 

 

 

 

「だ、誰だ!?」

警備員が銃を向けるより早く、心斗たちのビームが警備員たちを無数に撃ち抜いていく。断末魔を叫ぶことなく、警備員たちは崩れ堕ちていく。

火薬式のマシンガンではないため、血しぶきはあがらないが、蜂の巣になった体からは大量の血が流れ、死体特有の血を纏った匂いが周囲に広まった。

「心斗!後ろっ!!」

みさきの指示に心斗は即座に振り返りながらビームを乱射し、4人の警備員は心斗を狙うことなく絶命していく。

彼らの連携は素早く、的確だった。

倉庫内の警備員をあっという間に全滅させ、倉庫外に感づかれる前に、目的であった真紅のIGに心斗は乗り込んだ。

「動かせそう?」

「まぁ、まかせろ」

不安そうに覗き込むみさきに笑い返し、システムを起動させる。

予想通り、OSは全て綺麗サッパリ消されていたが、諜報部が一ヶ月かけて作り上げたデータディスクを挿入し、接続させる。これで一応のOSが入るわけである。インストールするまで多少の時間がかかるが。

「それにしても・・・結局会えなかったな」

と、頭の上から聞こえてきたみさきのぼやきに、心斗が顔を向ける。

「両世界の英雄とされる、タクト・マイヤーズにか?それで街中をさまよってたのか」

「うん・・・」

心斗は出撃前にみさきが言っていたことを思い出していた。

――――――タクト・マイヤーズに会いたい。

この一点張りである。理由を聞けば、

――――――わからない。けど、なんでか会いたい、って思うの。

である。第一、

「退役したって聞いたけど、そんな英雄がこんな街中にいるかよ。絶対リゾート惑星とかで暮らしてるって」

「そうかなぁ?前大戦時のアークトゥルスの演説、聴いてたけど、そんなタイプの人じゃなかったよ」

「・・・まぁな、演説で『面倒くさい』・・・なんて言う奴、初めて見た」

と、ノンキにぼやいていると、英樹の文句の声が届いた。

「心斗!まだなの!?」

「わかってる!もうちょい待て!!」

入り口を警戒している英樹たちに叫び返した直後、インストールが完了する。

直後に、操作ロックを解除するためのMOディスクを入れ、即座にロックを解除しつつ適合させる。

「よっしゃ、行くぞ!!みさき、乗れ!!」

「うん!」

言われるままにみさきは心斗の座るコックピットに飛び込んだ。これ以上は無理だが、みさき一人ぐらいなら何の邪魔にもならなかった。

「・・・インペリアル・メガロデューク、起動!!」

かつてのレスターの機体、インペリアル・メガロデュークは心斗の手によって再び命を吹き込まれた。

倉庫内に響く動力音はまるで産声のようだ。

「英樹!乗れ!!」

機体を前進させ、右手を差し出すと彼女はすぐに右手に飛び乗った。

他の工作員は、こちらに敬礼してから、倉庫の裏から人に紛れて脱出する予定だ。彼らの無事を、心斗は心の中で祈った。

心斗は右手の英樹を守るようにしながら、左手に強化型ビームライフルを持ち、倉庫の壁を打ち破り、第三倉庫を目指した。当然、確実にバレてしまい警報を発令されてしまうが、今更遅すぎる。時間は充分にあるのだから。

心斗は口元を緩ませながらIGを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこの警報は!?どこからだ!!」

警報の知らせ当然エルシオールにも伝わり、けたたましいサイレンが艦内に響き渡っている。

「トランスバール本星の第七軍港からです!!」

アルモの報告にレスターは少なからず青ざめた。当然、正樹と彩もそんなレスターの様子に気づかないわけがなかった。

「どうしたんだ、レスター?」

「そこに何か大事な物でもあるの?」

「・・・あそこには」

レスターが続きを言う前に、アルモの報告が結論を告げた。

「た、大変ですクールダラス司令!!インペリアル・メガロデュークが強奪されました!!」

「・・・え」

「な、何ぃ!?」

「やはりか・・・くそっ!!止めるぞ!総員、第一戦闘配備!!」

「了解、総員第一配備!!パイロットは搭乗機にて待機してください!!」

アルモが即座に艦内放送で伝える。ふと気づくとあの新人4人はすでにブリッジにはいなかった。さすがはレスターが司令官だけのことはある。

続けて、ミントとフォルテもブリッジを駆け出していく。

「正樹、彩!二人はここにいなっ!!」

「!?」

「お二人とも、今は民間人ですのよ!?このような状況で、艦内をうろつけるわけがありませんもの!!」

二人の正論を聞き、正樹と彩は押し黙った。

もっともな話だ。確かに今の自分たちは軍属ではなく、ただの民間人なのだから。

「すぐに発進させろ!!何としても止めるんだ!!」

そこで正樹はようやく気づいた。今、彼らが何と戦おうとしているのかを。

「お、おいレスター!」

「何だ!!」

「あの4人・・・腕前は!?」

「・・・悪くはない。が、実戦経験は今回が初めてだ」

「っっ!!無茶だ!初陣の相手がインペリアル・メガロデュークじゃ相手が悪すぎるじゃねぇか!!ヘタしたら再起不能になるぞ!?」

戦闘経験において初陣というのは思いのほか大事で、この結果次第で自身にも挫折にもなってしまう。例えそれが機体の性能の差であってもだ。

「それでもあのIGをみすみす奪われるわけにはいかない!!どこの誰とも知らん奴らに!!」

レスターの言うことがあまりにも正論で正樹は何も言えなかった。

それに、大気圏内戦闘なら、ミントとフォルテは機体的に戦闘に参加することができない。

つまり、本当に新人の彼らだけでやるしかないということだ。

「司令!各パイロット、搭乗機にて待機状態です!」

「よし、通信を繋げろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『発進シークエンス、開始します。ゼノン、レガータを第一、第二カタパルトへ。インヴォーカー、ピュアテンダーを第一、第二射出デッキへ』

IGが運ばれる中、エクスはコックピットで少し苦悩していた。

 

 

今から、自分たちは強奪犯を攻撃しに出撃する。

だが、これは本当に誰かを守る力なのだろうか?

自分は、本当にこのような力を望んだのか?

守るため。何かを成し遂げるため。自分の非力さに、嘆きたくないから。

それでも、この力は破壊をもたらすことでしかない。

紋章機だって同じだ。いくら天使と呼ばれて美化されようと、あれは命を奪う、恐るべき兵器。天使ではなく、悪魔の兵器と言ってもいいだろう。

言い換えるなら、漆黒の天使だ。

エオニア戦役の時に現れたという、ヘルハウンズという傭兵部隊が搭乗したとされるダークエンジェル。あれだって、立場が違えば紋章機こそがダークエンジェルと呼ばれたって仕方ないのではないだろうか。

いくら奇麗事を並べても、紋章機は、兵器だ。破壊するしかできない、恐るべき漆黒の天使。

そこまで考えて、エクスは頭を切り替えた。

出撃前に一体なんということを考えているのだろう。

それに、今から自分のすることは、必ず多くの人たちを助けることになる。そう信じたい。

 

 

 

―――そのためなら、多少の犠牲は仕方ないのだろうか・・・?

 

 

 

『エクス、セリシア』

と、モニターにレスターの顔が映る。

「は、はい」

『インペリアル・メガロデュークの武装と火力は圧倒的だ。性能のバランス、防御支援力の高さからゼノンとピュアテンダーが戦闘の中心になるだろう。気を引き締めていけ』

「・・・了解」

「わ、わかりました・・・」

忠告のつもりなのだろうが、むしろ恐怖を植えつけてくれた感じだ。

「大丈夫だってセリシア。俺がちゃんとサポートすっから!」

「う、うん。ありがとクリス」

相変わらずクリスの元気な声がセリシアを励ましている。クリスとセリシアは性格も正反対に近いが、かなりのベストコンビといえるだろう。

「エクスもしっかりね!私がサポートするから!」

「・・・・・・」

「あや?」

なんとなく返答に詰まる。

(シュミレーションで援護してるのはどっちだよ・・・)

が、はっきり言うのもどうかと思うのでやめておいた。

「まあ、頼むな」

「む〜〜〜?」

不服そうな声が聞こえたが、聞き流す。

『4人とも、落ち着いて行くんだよ』

『気を抜いて、全力を出せば、必ず上手くいきますわ』

ミントとフォルテ、二人の先輩の声を聞いて、4人は緊張感がほぐれていくのを感じる。

「「「「はい!!」」」」

そうこうしているうちにカタパルトに接続され、発進における全てがオールクリアになり、オペレーターのアルモの声が響いた。

『ゼノン、発進どうぞ!』

「エクス・ソレーバー、ゼノン、行きます!!」

白、赤、黄の装甲色を持つIGが白き月を飛び出し、トランスバール本星へダイレクトに大気圏突入へ入る。

『レガータ、インヴォーカー、ピュアテンダー、発進どうぞ!!』

「クリス・フランボワーズ、レガータ、出撃します!!」

初の量産機であるため、後翼なども装備していないが、充分に単機で大気圏突入が可能であった。当然、バリュートを展開する必要があるが。

「ティア・ブレンハート、インヴォーカー、行きます!!」

「セリシア・フォーム、ピュアテンダー、発進します」

インヴォーカーは基本装甲色が赤紫、ピュアテンダーは黄緑色をしており、共に大気圏内戦闘が可能なため、続いて大気圏突入を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心斗たちは丁度コンテナを空け、中に入っていた二機のIGにみさきと英樹が乗り移っている最中だった。

「!来たか!!」

突如、上空に現れた4つの機影をレーダーで確認し、心斗は振り返った。

二人が乗り移り、なおかつHLVの準備が整うまで相手を引き付けなければならない。

心斗は、上空へ向けて、両肩の「ヴァジュラ・クレイモア」を発射した。

「や、やばい!!」

4機はあわてて旋回し、回避する。データで確認する限り、直撃するだけで相当なダメージを受けるだろう。

だが逃げ回るわけにもいかず、エクスはゼノンを加速させ、ビームショットガンのスラッグタイプを構えた。

「あれだけ大きければ・・・!!」

だがインペリアル・メガロデュークは予想に反してビームを軽やかに回避していく。それで意地になったエクスは更に撃ち続けながら接近する。

『バカッ!!不用意に近づきすぎだ!!』

直後、回線からの正樹の声にハッとして、危ういところで相手のビームを回避するが、その先にホーミングレーザーを放たれる。が、ゼノンの前方にリフレクターシールドを展開したピュアテンダーが回り込み、レーザーを弾き返す。

「大丈夫?エクスくん」

「あ、ああ。悪いセリシア」

その後ろからインヴォーカーとレガータがそれぞれ、ミサイルポッドとライフルを放つが、インペリアル・メガロデュークはその重装甲で全てを受け止めた。

「えぇーっ!?」

「なんて装甲をしてるんだ!?あのIGは!?」

思わずティアとクリスは苦汁の声をあげる。

『やっぱすげぇIGだな、これは』

心斗は対艦刀を構え、最初に撃ってきたIGに迫る。

ゼノンもそれに対応するようにシールドを構えながらレーザーサーベルを抜き放つ。ゼノンは相手の初撃を防ごうとシールドを構えるが、圧倒的なパワーの差に防ぎきれず大きく吹き飛ばされる。

「ぐっ・・・!!なんてパワーなんだ!?」

「エクス!」

更に迫るインペリアル・メガロデュークにインヴォーカーは絶妙なタイミングで真上からH.V.S.B(ハイパー・ヴァリアブル・ストラグス・ビーム)を放つが、相手は器用に機体を逸らし、それをかわす。

「そんな、どうして!?」

直後、ティアの目の前に見慣れぬ武装を持った緑色のIGが現れ、ビームを放ってくる。これをなんとかエネルギーシールドで防いだ。

『みさき!?』

心斗はその緑色のIG、ラピス・シリスのパイロットである少女の名を叫んだ。

『HLVの打ち上げにもう少し時間がかかるから、私も援護するね』

言って、ラピス・シリスは機体を目の前の4機に向け、加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの戦いを光学映像で見ていたエルシオールのブリッジのクルーは、思わず息を呑んだ。

エクスたちは決して腕が悪いのではない。ただ、敵の方が一枚上手で、何より機体性能に差がありすぎたのだ。

「くそっ!このままでは・・・!!」

せめて、ミントとフォルテが加勢することが出来れば、戦局は大きく変わるだろう。だが、彼女たちの紋章機は大気圏外用だ。二人がコックピット内でじれったくしている様子が目に浮かぶ。

同様に、彼らの様子を見ていた正樹は、思わず泣きたい気分になってきた。

「くそっ、なにやってんだ!!そこでちゃんと援護しろ!!・・・ああ!!もうっっ!!」

遂に我慢の限界となり、正樹はレスターに詰め寄る。

「レスター!!なんでもいいからIGが余ってるなら貸してくれ!!これ以上、見てられねぇ!!」

「私からもお願いします。今、軍属とかそういうのは関係ない状況のはずです」

二人のもっともな意見に、レスターの堅い考えを解くには、さほど時間がかからなかった。

レスターとて、この騒ぎは一刻も早く片付けたいと思っている。

このままでは、後を自分に任せた親友に顔向けできなくなる。

―――だが、問題があった。

「・・・あるにはあるんだが・・・まったくデータが調整されてないんだ。本来ならクリスが乗る機体なんだが・・・」

「あるんだな!?ならそのIG、今回だけ貸してもらうぜ!!」

「すいません!必ずお返ししますので!!」

レスターの問題点などまったく気にしないと言った感じで、二人は早々とブリッジを後にした。

「アルモ、格納庫に連絡してくれ」

「はい」

「あの二人の邪魔をするな、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこだっっ!!』

ラピス・シリスを相手に飛び交っていたインヴォーカーとレガータが一点にかたまった瞬間を狙って、心斗は「アカシックリライター」を二機に向けて放った。

それにいち早く気づいたのは、セリシアだった。

(・・・!!クリスが、危ない・・・!?)

あの高出力のビームは、エネルギーシールドでも防ぎ切れるものではない。このままでは、あの二人は確実に・・・

そう思った瞬間、セリシアのH.A.L.Oが眩い輝きを放つ。

 

―――ここからでは、二人を守れない。

   なら、

   ここからでも守れるモノを使えばいい!!

 

ソル・リラクス(月光の鏡盾)ッッッ!!!!!!!!

ピュアテンダーから溢れ出る光の帯が周囲の味方機を包み込む。

インペリアル・メガロデュークの「アカシックリライター」を光の帯が包み込み、出力そのままにして跳ね返した。

『なっ!?』

咄嗟に反応して、心斗はあわてて回避する。

優しく機体を包み込む、月光のバリア。これが、防御支援機体としてのピュアテンダーの必殺技。

現時点で最強ともいえる盾を持つピュアテンダーの存在に、戦闘は更に長引く様子を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫に到着した正樹と彩は、見るからに空いているIGを見つけ、問答無用でコックピットに乗り込んだ。

「彩!!運動パラメーターと各センサーの帯域、出力、コンバーターのチェックと適合を頼む!!」

「了解!アンタは基本OSの組み立てと武装のチェックをしてなさい!!」

見事なまでに息の合った連携に、遅れてやってきたクレータや、二人に気づいたミントやフォルテはしばし唖然としていた。

「彩さん!?一体いつ・・・というか、何してるんですか!?」

「クレータさん、クールダラス司令の許可は取ってるから!!話は後っっ!!」

恐るべき速さで手にしたデータボードを打つ速度などから伝わる気迫に、クレータは再度、呆然となる。

「運動パラメーター、基本域まで更新。大気摩擦修正、更新。空域適応補正パラメーター、大気圏内外、共に修正、更新」

『正樹さん!?何をしていますの!?』

「あの新人たちを助けに行く!!」

目線は手元のデータから離さず、正樹は声だけで答えた。

その間にも、正樹は機体性能、武装などを頭に叩き込んでいく。

『行って、くれるのかい!?』

戸惑うようなフォルテの言葉に、正樹は今度は目を向けた。

「外まで誘き出してやるから、後は任せたぜ!!二人共!!」

それが返事と理解し、フォルテとミントは決意に満ちた笑顔を見せてくれた。

『了解だよ正樹!!』

『任されましたわ』

返事を聞き届け、正樹は再びデータの更新に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

僅か数分で全ての条件をクリアし、正樹は自らカタパルトに向かっていく。

その速さ。まさに超人の域に達しているだろう。

彩は正樹を見送った後、久しぶりの全力のIG作業に疲れ、その場にへたりこんだ。

「上手くやんなさいよ、正樹・・・」

 

 

 

 

 

『カタパルト、接続。システムオールグリーン』

アルモの声を聞きながら、正樹は再度チェックのために手元のコンソールを操作した。

(このIG・・・修理用にプログラムされたナノマシンを搭載してるのか・・・)

つまり、ハーベスターのように完全とまではいかなくても、応急処置みたいな真似は出来るということだ。

「・・・トランスバールはパイロットの安全を優先してくれるからいいねぇ・・・」

嘆いたところで、レスターから通信が入る。

「あいよ。なんだ?」

『正樹、すまない・・・民間人であるお前を巻き込んで・・・』

めったに見せることのない落胆したレスターの顔。そんな顔、彼には似合わない。

「今更だぜ?気にすんなって。――――それに、一度はピンチに駆けつけるヒーローにもなってみてぇじゃねぇか」

イタズラをしでかしたような正樹の笑顔に、レスターもいつもの堅苦しい顔になる。

『そうか・・・なら、任せた』

「うし、任されたぜ」

かつての戦友に軽く返事をして、正樹はレバーを握り締めた。

『カルナヴァーレ、発進どうぞ!!』

ふと、消えてしまった親友の顔が浮かんだ。

―――なあ、今の俺をどう思う?

   馬鹿げてるか?・・・俺もそう思う。

   けどよ、助けたいって、思っちまったんだ。

   ・・・仕方ねぇよな?

   ――――――裕樹。

「神崎正樹、カルナヴァーレ、行くぜ!!」

飛び出す白と緑の機体。

目指すは、再び混迷へと巻き込まれようとしている星。

トランスバールへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

えーいきなり懺悔から始めないといけませんかな・・・。

こうして始まった第二部ですが、ほとんどがオリキャラばっかになってしまいました。

ですが、それはこの話ぐらいなものですので、一つ、目を瞑って頂けると幸いです。

ま、今後新キャラはサブ要員みたいな感じですので。

 

さて、この第二部。疑問が沸きませんか?

つまり、主人公は誰なのでしょう?

・・・なんだか正樹のような気がしますが、一応はエクスです。重ねて言いますが、一応です。

つまり、第二部ってあまり決まった主人公を決めてないんですよね。話によってレスターだったり、フォルテやミントだったり・・・。ですが、それでは決まりがつかないので、一応、エクスにしてます。今後の活躍はいかに!?

エクスですが、裕樹とは違い、迷える主人公にしてみました。

望んだ力と手にした力のギャップに苦しみ、悩みつつも、戦火に巻き込まれていく。そんな主人公です。ですから、彼からすれば紋章機だってあまり好きではないのですよ。

 

さて、異常に長くなってしまいました第二部第一章。いろんな意味で大変でした。

今後は昔のメンバーが徐々に戻ってきたりしますので、どうぞご期待ください〜

それでは。