―資源衛星エラクリオン、医務室。現時刻二時三十分―

 

 

何の明かりもなく、周りに並べられた機械だけが規則的な音を立てている部屋で少女は目覚めた。

肩に掛かる美しい金色の髪。儚さを漂わせるほどの白い肌。そして、整った顔立ち。

かつてのヴァル・ファスク特機師団長に愛と呼ばれる感情を芽生えさせた少女、ルシャーティ。

エルシオールの医務室でタクトと会話したのを最後に、再びいつ覚めるとも知れぬ眠りへと落ちていた少女が数日ぶりに目を開いた。

 

「タクトさんに…伝えなきゃ…」

 

壁に寄りかかるようにして立ち上がるルシャーティ。

なんとかドアへと歩き出そうとしたその矢先、

 

「きゃっ!!」

 

ルシャーティはバランスを崩しその場に倒れ………踏みとどまった。

余程驚いたのだろう、肩で息をしている。

 

「こんな事で…」

 

覚束ない足取りで歩き始めたルシャーティ。

 

「…ヴァインは、命までかけたんだから…」

 

次第に歩みを速める。

 

「私だって…自分のやるべき事をやらなくちゃ…」

 

そして少女は通路へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       天使、再び舞い降りて…

 

                    第七章 「ルシャーティ、その瞳に映るものは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、言われたとうり黒の艦隊を送ったのに、ボッコボコにやられたって訳?」

 

先ほどから暗い司令室の中ではノアとタクトが通信していた。

ノアがいるのは無論白き月なのだが、モニターにシャトヤーンの姿は無い。

 

「いや、ボッコボコって…一応エラクリオンは制圧できたし。」

 

「エンジェル隊が負けてたら意味無いでしょ!!」

 

「面目ない…。」

 

それまで厳しい目つきでタクトを睨みつけていたノアだったが、急に穏やかな表情になった。

 

「でもまあ、あんなのが相手じゃ無理ないわね。黒の艦隊からデータを受け取った時は戦死者も覚悟したんだから。」

 

そういって薄く笑ってみせるノア。

 

「…ノア、随分と明るくなったね。最初会った時はとっつきにくい印象だったのに、今じゃ普通の可愛い女の子って感じだもんな。」

 

それを聞いたノアがモニターの向こうでフリーズする。

 

「あれ?モニターの故障かな?…おーい、ノア聞こえる?」

 

「…うっさいわよ、バカ!!!」

 

モニターから光が消えた。

一方的に通信を切られたタクトは、唯呆然と立ち尽くしている。

 

「俺、なんかマズイ事言ったか…?」

 

その時、司令室にインターホンの音が響いた。

タクトはドアに向かって歩きながら、その向こうにいるであろう人物に声をかける。

 

「レスター、早かったな…ってルシャーティ!?」

 

「今晩は、タクトさん。今…お時間ありますか?」

 

「あ、ああ。」

 

ドアを開けると立っていたのはレスターでは無くルシャーティ。

タクトは自分の言動に恥ずかしさを感じた。

 

「とりあえずお茶でも…」

 

ルシャーティをソファーに座らせ部屋の奥へと歩いていくタクト。

まともな人間なら先に明かりをつけるだろうが、それ程動揺しているという事なのか。

 

「あ、そうだルシャーティ。聞きたい事…がぁっ!!」

 

何も無い所でつまづき、倒れるタクトを支えようとルシャーティも手を伸ばすが…

 

「うわっ!」

 

「きゃ…!」

 

まとめて床にころがる二人。

ありえないポーズで絡まってしまっている。

そしてまるでタイミングを計ったかのようにドアが開いた。

 

「タクト、データの整理終わっ…」

 

入って来たのはレスターだった。床に転がっている二人を見て…

 

「…すまん、邪魔した。また後で来る。」

 

踵を返して司令室を出て行ってしまった。

慌てて後を追うタクト。

 

「ま、待てレスター!誤解だ!!」

「資源衛星に五階も一階もあるか!!」

「いや五階じゃなくて誤解だ、ゴ・カ・イ。」

「薄暗い部屋の中で女と抱き合ってる姿の何処が誤解だ!!」

「だからあれは転んだ俺をルシャ―ティが助けようとして…」

「ほう、では何故転んだ!?答えろ!即刻答えろ!!400字以内でな!!!」

「脚がもつれて…」

「お前の足はそんなに長いのか!?見え透いた嘘をつくな!!」

「昨日のバナナの皮が…」

「誰がショートコントをやれと言った!!」

「実は貧血で…」

 

そこまで言って、ようやくレスターが別の反応を示した。

全身を震わせ笑っている。

 

「ククク…そうか貧血か…」

 

ゆっくりとした動作で銃に手を掛けるレスター。

 

「ならば……」

 

撃鉄を起こし、銃を構える。

 

「鉄分をくれてやるぞ……!!タクトォォォォォォォォ!!!!!!」

 

「ま、待てレスター、唯一無二の親友を殺す気か!?」

 

「俺の親友はとうに戦死したわぁぁぁぁぁ!!」

 

普段のレスターを知らない者にこの様子を見せたら、おそらく危険人物と認識されるだろう。

それ程に普段からは考えられない形相のレスター。

 

「さあタクト!この特効薬を受け取れ!!!」

 

「受け取れるかーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後…

 

「はあ…はあ…タクト、何故俺の心づくしを受け取らん…」

 

「確かに心はこもってそうだよね…いろんな意味で…」

 

その言葉を最後に、二人は崩れ落ちる。

そして言葉を失ったルシャ―ティだけがその場に残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数十分後。

ようやく復活したタクトとレスターは司令室で、ルシャ―ティの話に耳を傾けていた。

特にレスターなどは、とてもではないがさっきまで銃を乱射していたのと同一人物とは思えない。

 

「…あれは、私がタクトさん達に救助される二週間ほど前の事です……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ルシャ―ティはスカイパレスを散歩していた。

連日降り続いていた雨が四日ぶりに止み、空には雲一つ無かった。

 

「いい天気ね…」

 

そう言ってルシャーティは草むらに体を預けた。

草原に寝転ぶ少女。…なかなか絵になる情景である。

そんな時、寝転ぶルシャ―ティに影が重なり、一人の女が声を掛けてきた。

肩にかかる長い髪と、頬の傷が印象的な女性だ。

 

「ライブラリ管理者、ルシャ―ティ様ですね?」

 

「は、はい…!」

 

女の後ろには武装した兵が二人立っていた。

慌てて跳び起きるルシャ―ティ。

 

「それで、どんな御用ですか?」

 

ルシャーティは笑顔で質問を投げかける。

 

「我々と共に来て頂きます。…我々には貴方の力が必要なのです。」

 

女が言った『貴方の力』という言葉の意味を、ルシャ―ティはすぐに理解した。

この女性はライブラリを狙っている…と。

 

「お断りします。」

 

以前の彼女からは考えられない程の強い語調で言い放った。

 

「貴方の意思など関係無いのよ…やれ!!」

 

女の命令と同時に二人の兵がルシャ―ティへと近づく。

その手に握られた電撃銃が放たれようとしたその時、凄まじい爆音と共に女と兵士が立っていた地面が吹き飛んだ。

衝撃でルシャ―ティも後方へ飛ばされる。…そのルシャ―ティを抱き止めた人物がいた。

…EDEN評議会議長、シリウス・アンティウス。それが彼の名前だった。

 

「シリウスさん…?」

 

困惑しているルシャ―ティを気にも留めず、シリウスは話始めた。

 

「反政府勢力の連中がこのEDENを襲撃している…。お前は即刻ここを脱出しトランスバールにこの事を……ぐっ!!」

 

「シリウスさん!!」

 

そしてルシャーティは彼が胸から血を流している事に気付いた。

 

「酷い傷……!今、手当てを!!」

 

傷の手当てをしようとするルシャ―ティをシリウスが手で静止する。

 

「…私に構うな!…連中の狙いはライブラリだ。あれを見ろ…!!」

 

シリウスが指で示したのは、先の爆発でえぐれた地面。中心には機械の残骸らしき物が転がっている。

ルシャーティは瞬時にそれが何であるかを悟った。

 

「偵察用プローブ…!!」

 

「そうだ…あれが大量に紛れこんでいる…他の者は信じるな…自分だけを信じて、脱出しろ…」

 

「…おそらく…ライブラリの隠し通路はまだ見つかっては…いないはずだ…急げ…!!」

 

「でも…。」

 

再び傷に目を向けるルシャ―ティ。

瀕死の傷を負った者を置き去りにする事に抵抗があるのだろう。

 

「…ヴァイン君の行為を無駄にする気か…?行け…!!」

 

ヴァイン。

深く心に刻まれたその名を耳にした時、ルシャ―ティの表情から迷いが消えた。

 

「…はい……!」

 

そして少女は走り出した。頬をつたいこぼれ落ちる涙を気に留めようともせず…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…その後はどうしたのか覚えていません…気付いたら、エルシオールの医務室に居たんです。」

 

一度も口を開く事無くルシャーティの話に耳を傾けていたタクトが唐突に口を開いた。

 

「どう思う、レスター?」

 

「どうもこうもあるか。…急いで本星に連絡すべきだな。」

 

「そうだね…」

 

タクトはゆっくりとデスクに近づきパネルを操作する。

しばらくしてモニターに光が宿った。

 

「こんな夜更けに通信とは…何か緊急事態でも起こったようじゃの。」

 

映っていたのは、ルフト。

 

「まあ、そうです。実は…」

 

事の次第を説明するタクト。

 

「…その報告は真か?」

 

「…どういう意味です?」

 

フム、と一呼吸おいてから話し始める。

声色からはその意味までは読み取れない。

 

「EDENとの交信が途絶えたという報告は来ていないのじゃが…」

 

「だったら寝返った者がいるか、無理矢理やらされているかです!!」

 

タクトの強い口調に困ったような顔をするルフト。

 

「わかっておる。…じゃが軍隊というのはいかんせんお役所仕事じゃ。思い立ったらすぐ実行とはいかんのじゃよ。」

 

「…わかります…。」

 

「うむ。まあワシに任せておけ。お前は自分の任務を果たすのじゃ。…よいな、タクトよ。」

 

「了解です…。」

 

通信を切るタクト。

 

「ごめん、ルシャ―ティ。裏付けが取れるまでは動けないみたいだ…。」

 

申し訳無さそうな表情で、タクトは話し掛ける。

 

「わかってますよ。だからそんな顔しないで下さい。」

 

僅かに頷くタクト。

そして…

 

「レスター、各艦隊に通達。明日の朝、ファーゴ�兇妨�けて出発する。紋章機の整備は道中に行う。」

 

「…わかった。」

 

そう言って司令室を後にするレスター。

 

「さあルシャーティ、医務室まで送るよ。」

 

無言で頷くルシャーティに、タクトは違和感を覚えたがその場では黙っておく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの〜ルシャーティ?」

 

司令室を出てからもルシャーティは一言も喋らなかった。

気まずい静寂に耐えかねたのか、タクトが口を開いた。

 

「どうしてさっきから何も喋らないんだい?それに、目線もそらされてる気がするんだけど…。」

 

ルシャーティはタクトの問いには答えずにこう言った。

 

「あの…タクトさん。私もファーゴ�兇慙△譴胴圓辰凸磴┐覆い任靴腓Δ�?」

 

「へ?…どうしたんだい、急に?」

 

「その、一緒に…居たいんです。」

 

数秒の間。そしてタクトはようやく合点がいったような表情をした。

…もっとも、まるで見当違いなのだが。

 

「ああ、確かにここは軍人ばっかりだし、エルシオールの皆といた方が良いのはわかるけど…」

 

「そうじゃありません!!!」

 

タクトの言葉を遮るルシャーティ。そして…

 

 

 

 

 

 

                「タクトさんと…一緒に居たいんです…」

 

 

 

 

 

顔を紅潮させ、そう告げるルシャーティ。

天性の鈍感男もようやく言葉の意味を理解したようだ。

 

「えっと、ルシャーティ…その…」

 

「わかってます。ミルフィーさんがタクトさんを好きな事。そして…タクトさんも…ミルフィーさんを…好きな…事…。」

 

「だから、お二人の邪魔はしないです。けど…」

 

「危険なんだよ。最悪…死ぬかもしれない。」

 

わかっている、と言う風に頷くルシャーティ。

おそらく涙でうまく喋れないのだろう。

だが、ここまで言った以上テコでも動かないという事をタクトは理解していた。

 

「…わかった。明日、出撃前に迎えに来るよ。」

 

途端に花が咲いたような笑顔へと変わるルシャーティ。

 

「はい。…お休みなさい、タクトさん。」

 

無言でルシャーティを見送った後、タクトは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

                  

                  「ごめん…ルシャーティ……やっぱり、俺は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

今回の流れ。シリアス→ギャグ→シリアス→ラブ?

あいかわらずまとまりが無いですね…あ、刹那です。

次も多分メインをシリアスに置きつつ、ギャグが入ると思います。

ちなみに、今回一番迷ったのはタイトルでした。(笑)

ま、そんなわけ(?)で次も読んで下さると嬉しいです。

 

それでは、また。