―エルシオール、ブリッジ―

 

                              

 

 

「…マイヤーズ司令、クラウディス准将より通信が入っています。」

 

「准将から?…繋いでくれ。」

 

メインモニターに映ったのはどこか不機嫌そうなクラウディス。

 

「…マイヤーズ少将…。嘘をついて人を騙すなど、感心出来ませんね。」

 

クラウディスの言葉を聞いたブリッジクルーの視線が一斉にタクトへ注がれる。

 

「あー…何の事を言ってるのかな?」

 

「ここでとぼけますか。…まあ良いです、直接本人に聞いてください。シャトルをそちらに向かわせましたので。」

 

「は…?」

 

「貴方に約束を破られた…というEDENからの客人を乗せて。」

 

モニターの光が消えると共に、クルー達の刺すような視線が再びタクトに集まる。

この時になってタクトは司令官席のサブモニターで通信を行わなかった事を後悔した。

 

「レスター…どれくらいで艦全体に広まるかなぁ…」

 

「安心しろ、手は打ってあるからな……」

 

そう言って微笑むレスター。

タクトが親友の存在に感謝しようとしたその時…

 

「……一秒とかからん。」

 

「は?」

 

訳がわからないと言った表情のタクトにアルモが声を掛ける。

 

「副指令のご命令により、さっきの会話は艦内に放送しました〜。ちなみにシャトルも着艦してますよ。」

 

「……説明、ありがとう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

                   天使、再び舞い降りて…

 

               第八章 「光、落ちて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

クルー達の無言の集中砲火を浴びたタクトは戦略的撤退を行い、現在ティーラウンジの入り口に居た。

中に入って行くとミルフィーユとランファがタクトを呼んでいる。ほかのエンジェル隊も一緒だ。

 

「やあ、皆…」

 

「タクトさん!さっきの放送はどういう事ですか!?」

 

おはよう、とタクトは言いたかったのだが、一文字めを言う前にミルフィーユが話掛けてきた。

 

「いや、その…ほら戦場は危ないしさ。エラクリオンに居たほうが安全だと思って…」

 

「説明する相手がちがいます!!」

 

ミルフィーユ達が自分の後ろの席へ目を向けているのに気付き、恐る恐る振り返ると予想どうりの人物がそこに居た。

 

「…ルシャーティ…」

 

頬をふくらませ、上目づかいにタクトを睨んでいる。

 

「昨日の約束は嘘だったんですね。…酷いです、タクトさん。」

 

「皆に話したの…?」

 

「はい。」

 

このままだとブリッジと同じ事になると判断したタクトは、話題をそらす事にした。

 

「じゃあ……その前の事も話したのかい?」

 

一瞬にして耳まで真っ赤になるルシャーティ。

そしてエンジェル隊の標的が変わった。

 

「なになに?何があったの?」

 

「あたしらに教えなかったって事は言えないような事なのかい?」

 

「隠し事は…良くありません…」

 

「い、い、言えない様な事!?それってまさか…あ、あんなことやこんなことを…?」

 

何故かちとせまで赤くなっている。

…何を考えているのか…。

 

「みんなで問い詰めたら可哀相だよ〜!!」

 

ミルフィーユの言葉でランファとフォルテが一瞬止まり、そしてミントの方へ向き直った。

 

「それもそうね…じゃあミント、何の事なのか教えてよ。」

 

「あ、あの、これは私が言っていいレベルの事では…ないですわね。」

 

ランファがついに叫び始めた。

 

「あーもー!!なんなのよそれ!!!ルシャーティ…ホントに何があったの?」

 

ルシャーティは何度か口を開きかけたが、結局…

 

「……………言えません…………」

 

うつむき、口をつぐんでしまった。

 

「…じゃあやっぱりあのバカに聞くしかないみたいですね、フォルテさん。」

 

「同感だねぇ。」

 

「あ…いや、ちょっと待…」

 

その時だった。

 

「マイヤーズ司令、至急ブリッジまでお戻りください。エンジェル隊は紋章機にて待機をお願いします!!」

 

「……チッ、命拾いしたねぇタクト。」

 

「いや、命拾いって……」

 

「いいからさっさとブリッジに行きな!!!」

 

「…はい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころブリッジではレスターが苦虫を噛み潰したような表情で立っていた。

 

「……本物か?」

 

「はい、間違いありません。」

 

「…一体、何を考えている…?」

 

そこへ軽く息を切らしたタクトが入って来た。

 

「レスター…何があったんだ?まさかもう着いたなんて言うんじゃないだろうね。」

 

「そのまさかだ。」

 

そう言ってメインモニターを指差すレスター。

そこには確かに衛星都市ファーゴ�兇�映っている。

 

「はは……これ、いつの映像?」

 

タクトが顔をひきつらせながら言う。

 

「リアルタイムに決まっているだろう。向こうから来てくれたようだな。」

 

「これじゃ衛星都市とは言えないね…。状況を説明してくれ。」

 

レスターは無言で頷くとモニターの映像を切り替えた。

 

「これが周辺宙域の様子だ。左下の方が俺達の艦隊で右上がジーダマイア軍。…ファーゴ�兇魄呂爐茲Δ防杰悗靴討い襪福�」

 

敵の布陣を見て、思わず首をかしげるタクト。

そこへ…

 

「マイヤーズ司令、クラウディス准将より通信です。」

 

「…繋いでくれ。」

 

今度はきっちりサブモニターで通信を受け取る。

 

「やあ、准将。どうかしたかい?」

 

タクトはやけに明るい声を出す。

 

「敵の布陣、どう思われます?」

 

「待ち伏せにしては数が少なすぎるね…何か策を用意してるんだろうな。」

 

「……以前、私が言った事を覚えていますか?」

 

「裏切るも裏切らないも俺の指揮しだいってやつだね。」

 

クラウディスは満足げな表情で敬礼をすると通信を切った。

それを黙って見ていたレスターが問い掛ける。

 

「こちらが不利になれば裏切る者が居ると?…まあ、見当がついているなら何も言わんが…」

 

タクトはアッサリと言い放つ。

 

「いや、全然。」

 

「!?」

 

「だけどのんびりしている暇は無い。…賭けに出るよ。」

 

それまでのどこか間の抜けた顔から司令官の顔へと変わるタクト。

 

「エンジェル隊、発進!エルシオールの護衛には第二艦隊を残す!正面は第七艦隊に任せ、残りは迂回してファーゴ�兇鯡椹悗察�!」

 

「正気か、タクト!?いきなり正面衝突とは…その上、第二艦隊が裏切らないという保障が何処にある!?」

 

「だから黒の艦隊をバラして各艦隊に編入したのさ。それに…」

 

「言ったろ、これは賭けなんだ。…相手が何か仕掛ける前にファーゴ�兇鰺遒箸后�今ならこちらの方が数は上だ。」

 

呆れた様子のレスター。

 

「…どうなっても知らんぞ……。」

 

レスターの不安をよそに戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!アンカークロー!!!!」

大型戦艦のブリッジにクローを叩きつけ、群がる戦闘機をバルカン砲で次々と落としていくカンフーファイター。

その弾幕を掻い潜った一機が背後を突こうとする、がハッピートリガーのミサイルを受け炎を上げる。

「ランファ、油断するんじゃないよ!」

密集した敵艦隊にありったけの火力をぶつけるハッピートリガー。かろうじて生き残った艦も、

フライヤーとフェイタルアローの前に爆散する。

「おらおらぁ!!道を開けな!!!」

いか程の敵がいようと、けして進路を変えようとしないフォルテ。他の機体も後に続いてゆく。

「フォルテさん、無理は禁物です……リペアウェーヴ……!!」

少なからず破損していた紋章機のダメージが消える。

「助かるよヴァニラ。」

直後、まるで壁を作るかのように艦隊が横一列に並ぶ。

「ミルフィー、今だ!!」

「了解です!ハイパーキャノン!!!」

光の束がなめらかなカーブを描き、飲み込まれた艦は跡形も無く消滅する。

「よしっ!前線突破!!いくよ皆!!!」

「「「「「はい!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

エンジェル隊、前線突破の報告に湧き上がるエルシオールのブリッジ。

だがそこへ…

 

「見事な戦いぶりだな、さすがは皇国の英雄と呼ばれるだけの事はある。」

 

モニターの向こうの男に敵意を剥き出しにするレスター。

 

「ジーダマイア……!!!」

 

対照的に、タクトは極めて落ち着いた様子で言った。

 

「降伏しろ、ジーダマイア。お前の艦隊ではエンジェル隊に勝てない。」

 

タクトの言葉を聞いたジーダマイアは大口をあけて笑った。狂気とも思える程高らかに。

 

「グハハハハハハハハ!!…小僧、紋章機を使えるのが自分達だけだとでも思ったか!!!自惚れるでないわ!!!!」

 

「何…!?」

 

驚きを隠せずにいるレスター。そしてココの声が響いた。

 

「ファ、ファーゴ�兇茲蠡膩神鐺�機六機!!GA−007です!!!」

 

エンジェル隊と対峙する六機のGA−007。その全てに黒を基調としたカラーリングが施されている。

そして、光り輝く翼を羽ばたかせる…。

 

「て、敵紋章機、光の翼を展開しました!!!」

 

ジーダマイアが勝ち誇った顔で声を上げる。

 

「小賢しい天使共には戦いが終わるまでダンスでも踊っていて貰おうか。…どうする?皇国の英雄。」

 

笑い声と共に通信が切られた。

だが、今のタクトにそんな事を気にしている余裕など無かった。

 

「黒の艦隊を呼び戻せ!!エルシオール、後方シールド全開!!!」

 

タクトが命令を発してすぐに、エルシオールを激しい衝撃が襲った。

 

「後方の第二艦隊が攻撃を…きゃっ!!」

 

再度、大きく揺れるエルシオール。タクトの賭けは失敗に終わったのだ。

 

「全艦ポイント524へ!!エンジェル隊を回収後クロノ・ドライヴ。エラクリオンまで退却する!!!」

 

エルシオールがポイントに到着すると、どうにか追撃を振り切ったエンジェル隊が戻ってきた。

 

「後はラッキースターだけです!!」

 

そのラッキースターも肉眼で確認できる程の距離まで迫っていた。だが――――――

 

 

 

「うああああああ!!!」

 

 

タクトの視界が閃光に包まれる。

 

 

「くっ…!何があった!?」

 

 

ココの震える声が聞こえた。

 

 

「ラ、ラッキースター、2番エンジンに直撃弾!…コントロールを失い流されています!!!」

 

 

「ミルフィー!!」

 

 

タクトはモニターに向け必死に叫ぶ。

 

 

「…タクトさん…!助け……」

 

 

直後爆音が響いた。

 

 

「2番エンジンが爆発!!コクピットに被害はありませんが衝撃で加速しました!!本艦との距離が開いていきます!!!」

 

 

「だったらこちらから回収に…」

 

 

これまで以上の衝撃がエルシオールを大きく揺らした。最早立っていることすらままならない。

 

 

「機関部に直撃!これ以上攻撃を受ければ撃沈されます!!!」

 

 

撃沈――――――タクトの表情が曇った。

 

 

「タクト、アタシがいくわ!ハッチを開けて!!」

 

 

ランファの声。だがタクトの決断は…

 

 

「駄目だ。」

 

 

「な……!」

 

 

「全艦…クロノ・ドライブ……最速でこの宙域より離脱する…」

 

 

ブリッジクルー達はタクトを見たまま硬直する。

 

 

「し、しかし…」

 

 

「急げ!!!!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

撃沈寸前にクロノ・スペースへの脱出に成功したエルシオール。

 

 

 

「…ミルフィー……すまない…」

 

 

「…すまない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      

 

 

 

 

 

               「ミルフィィィィィーーーーーーーーー!!!!!!!」