―エルシオール、ブリッジ―
「まずはこれを見てくれる?」
そう言うとノアはモニターに何かの図面らしき物を映した。
タクトに…いや、エルシオールのメンバーにとっては見慣れた大型戦闘機。…のハズなのだが何故かタクトは首を傾げている。
「これは何?」
「連中が使ってたGA―007のデータよ。…見てわからないの?」
タクトを睨みつけるノア。といってもそこに迫力と呼べる物はまるでなかったが。
「いや、一応ね…。それで、何処かおかしい所でもあったのかい?」
「逆ね。本物と比べてもなんら変わりないわ。…まあそれが一番おかしいんだけど。」
「本物を奪ったのはこれを作るためのサンプル?…いや問題はそこじゃなくて…」
タクトは顎に手を当て、考え込む仕草をする。
「…どうしてジーダマイアがそれだけの技術を持っているのか、ってことか。」
顔を上げ、苦笑するタクト。
彼なりにノアの意図を感じかとろうとしたのか。
「それも調べろって?」
「少し違うわね。ファーゴ�兇鬚覆襪戮�無傷のまま制圧して。」
途端にタクトの顔から笑みが消えた。珍しく見せる、司令官の真面目な雰囲気にブリッジ全体も引き締まる。
レスターだけは表情を変えようとしていないのか、呆れているようにも見える。察するに、いつもこうだったら、と思っているのだろう。
「なるべく…?ファーゴ�兇砲鰐唄嵜佑發い襪鵑世蹇�だったら言うまでも無いよ。」
「…簡単な事じゃないわよ?」
「十分にわかってるさ。」
二人の目線が合わさり、険しい表情のまま数秒硬直する。
そしてノアが先に口を開いた。
「全く…その楽観的なのは直ってないわけ?」
口調は厳しいが顔にはそれが見えない。
「いつも通りにいく事にしてね。なあ、レスター?」
からかうような口調で隣に立つ親友に言葉を投げかける。
「…忘れろ……。」
目を伏せたまま呟くように言うレスター。
「いやいや、『俺はそんな情けない奴の副官になった覚えは無い!!!』って言葉にはホント感動したよ。」
レスターが口を開くより早くアルモとココが反応した。
「え〜〜〜!!!!副司令、そんな事言ったんですか!?」
「十分情けない所はあると思いますけど…」
「………君達もいつもの調子に戻ったみたいだね……」
騒がしくなり始めるブリッジ。張り詰めた空気が似合わないブリッジというのも皇国中でエルシオールだけだろう。
ノアがウンザリした様子で言った。その側ではレスターが深い溜息をつき、がっくりとうなだれている。
「はいはい、さっさと行くわよ。」
「…ああ、ごめん。」
二人はレスターの話題でヒートアップしているブリッジから逃げるように立ち去った。
天使、再び舞い降りて…
第十一章 「自らの戦争、戦う意味は」
ブリッジを後にした二人は格納庫へと来ていた。そこにはエンジェル隊も集結している。
GA−009のパイロットを決定する必要があったからだ。既に4人は終了し、残るちとせがテストに入ってから数分が経過している。
「…駄目です、起動しません…」
「全滅みたいだねぇ……ご苦労さん。ちとせ、降りといで。」
フォルテがちとせに声を掛ける。
5人目のちとせでも起動できなかったGA−009……ようは使い物にならないと言う事だ。
「…ノア、どういう事だい?」
先程から黙って様子を見ていたタクトが口を開いた。いつもの間の抜けた笑顔は崩れていないが、少なからず動揺しているように見える。
…タクトにしては、珍しい事だが。
「欠陥は無いわ。適性のある人間がいなかっただけね。」
「なんとかならないのかい?」
「修正にはかなり時間がかかるけど…出来なくは無いわ。」
考え込むタクト。そこへ…
「いつまでここに居りゃいいんだい?」
フォルテの言葉を聞き、すっかり忘れていたという顔をするタクト。
「ああ、ごめん。もう戻って良いよ。」
次々と格納庫を後にするエンジェル隊。
その中でランファだけがタクトの方へ歩み寄ってきた。
「どうかしたのかい?ランファ。」
タクトは何か言いづらそうな顔のランファに声を掛ける。
「その…この前の事、謝りたくて…」
「この前?」
「殴っちゃったことよ。……タクトだってつらくない訳ないのに…アタシ、頭に血が上ってて…ホント、ごめんなさい…」
途切れ途切れに話すランファ。
「別に気にしてないよ。」
「だけど……!!」
「俺は嬉しかったよ。本当にミルフィーの事を心配してくれてるんだな、ってね。」
「それにあのパンチが目の覚めるきっかけにもなったし。」
「……昔からあの娘とは一緒だったから。勿論、強運のせいで被害に遭ったこともあるけど…」
「…けど?」
答えのわかっている問い。
「…いきなりいなくなって、もう二度と会えないなんて絶対に嫌!」
黙って頷くタクト。口元には笑みを浮かべている。
「だから、俺は嬉しかった。だから、ランファには気にしないで欲しい。…俺、何か変な事言ってるかな?」
「タクト………」
「それじゃ、俺はやる事があるから行くよ。」
そう言って歩き出すタクト。しかし二、三歩歩いたところで立ち止まり振り返った。軍服のポケットに手を入れている。
「…ああそうだ、ランファ。」
「…?」
「はい、これ。目に涙溜めたままだと皆に何言われるかわからないしね……俺が。」
タクトはポケットからハンカチを取り出し、差し出す。
受け取ったランファはしばらく硬直していたが…
「そうね…。特にフォルテさんとかミントとかは絶対飛びついて来るわよ。」
「……余り想像したくないな。」
その時―――――――――
「マイヤーズ司令、至急ブリッジまでお戻り下さい!!繰り返します、マイヤーズ司令……」
「やれやれ。それじゃ俺は行くよ。」
詳しい説明など無くてもアルモの語調は事態の深刻さを推して計るには十分だった。タクトは走って格納庫を後にする。
そのタクトを見送った後、ランファはぽつり、ぽつりと呟いた。
「かなわぬ恋…か。アタシはそんなの忘れたいのに……」
「…忘れられないじゃない……馬鹿……」
「何があったんだい?」
タクトがブリッジに駆け込んできた時、そこには緊迫した空気が流れていた。
何時の間にか格納庫から消えていたノアとレスターの二人が顔を見合わせ、アルモとココはやっきになって手元のパネルと格闘している。
「…ファーゴ�兇�移動してきた。エラクリオンから通常航行で半日の距離だ。」
「何でそんな接近するまで気が付かなかったんだ?」
「…俺に聞くな…。」
唐突にノアが口を開いた。
「空間転移よ。」
「空間転移?」
「そう。一瞬にして違う場所へ移動する…白き月でも研究されてるけど、僅かな距離しか成功してないわ。」
唖然とした様子のタクト。
「クロノ・ドライヴとは違うの?」
「…一瞬にして、って言ったでしょ!ティーラウンジにいくのもヴァル・ヴァロス星系に行くのもかわらないわ。」
「ふぅん……本当にジーダマイアはどこからそんな技術を引っ張ってきたのやら…」
「それを考えるのは後回しだな。」
「いやでもさ、そんな技術が使えるようになったら皇国の産業は大変だよ。旅行にしたって宇宙船は必要ない訳だし…便利だねぇ。」
「…全くだ。大人しくツアー企画でもやっててもらえれば平和だったろうにな。」
タクトの冗談にレスターがつきあっている。さすがのレスターも目の前の出来事に混乱しているのかも知れない。
だからと言ってこの緊急事態に許される道理は無いが。
「司令も副司令もふざけないで下さい!!!!!」
「アンタ達、随分余裕ね。…あたし必要無いなら帰るわね。」
のんびり会話している二人に、とうとうアルモとノアがしびれを切らしたようだ。ノアなどは本当にブリッジを出て行こうとしている。
「わーーー!ノア、ストップ!ストップ!」
慌ててノアに駆け寄り連れ戻すタクト。腕を掴まれた事でノアは若干顔を紅潮させているが、勿論タクトは気付いていない。
「レ、レスター。状況を詳しく。」
「う、うむ。…かなり低速ではあるがこちらへ向かってきている。このままだと接触は明日中か…時間はあまり無いな。」
一呼吸おいていつもの調子に戻るレスター。
「良いじゃないか。丁度補給も終わった所だしね。アルモ、全艦に通達。6時間後にファーゴ�兇惴�け出撃する!」
アルモは慌てた様子で手元のパネルを操作し始める。
「了解です!!」
「ココ、クロノ・ブレイク・キャノンの取り付け作業は?」
「現在フェイズ32まで完了!あと一時間弱です!」
「上出来だね。…またこれを使う事になるとは思わなかったけど…」
タクトはシートに体を預けた。そこへレスターが声を掛ける。
「あくまで抑止力だ。まさかファーゴ�兇妨�かってぶっ放すつもりじゃないだろうな?。」
「わかってるよ、レスター。」
「ちゃんと考えて言ってるのか…?」
「…まあいい、報告はもう二つ。今度は吉報だ。」
「吉報…?」
タクトの問いかけには答えず、ココに手で合図するレスター。
すこし経って、モニターに映像が映る。
「…これは、この前の戦闘…?」
レスターの意図が掴めぬままモニターを見つめていたタクトだが、ある物を目にした瞬間、勢いよく立ち上がった。
「ラッキースター…ミルフィー!?」
「そうだ。」
「回収され…てる?」
映像に映るラッキースターはジーダマイア軍の艦艇に回収されていた。
「ああ…おそらく捕虜になってはいるだろうが…」
「生きて…る…ミルフィーが、無事で!!」
その時タクトの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。
―――――――この映像は、どこから?――――――
「なあレスター、これは…」
「俺達の撤退を援護するため、最後まであの場に残り全滅した第五艦隊が送ってきていたものだ。…損傷が酷く、解析に手間取った。」
「………!!!」
「わかるな、タクト。…彼らのためにも負ける訳にはいかない。」
「ああ…。」
再び腰を下ろし、何事か考え始めるタクト。
「そういえばレスター。もう一つは?」
「ああ。…ルシャ―ティの件だ。トランスバール皇国は正式にEDENへ調査艦隊を派遣する事が決定した。…名目上は外交使節団らしいがな。」
シートから立ち上がるタクト。立ったり座ったり忙しい奴だ、とレスターは首を振る。
「そうか!なら早速ルシャーティに…」
「もう伝えた。」
「…そうですか…」
「だからお前はエンジェル隊に桜葉の無事を伝えて来い。唯、人質に使われるかもしれん。その場合の対応も…」
レスターが言い終わる前にドアの開閉音が響いた。
「対応も…協議…して…だ…な………………」
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「…………タクトォォォォォォーーーーーー!!!!!!!」
「…アンタも苦労してそうね……」
「…ああ。」
「これ以上ない吉報だねぇ。…けど…」
「勝算はありますの?タクトさん。」
数分後、ティーラウンジにはタクトとエンジェル隊の姿があった。
「…この前の俺は味方が信じられなかった。考えてみればそんな奴に司令官が務まるわけなかったんだ。」
「だから俺は、皆を信じる。そして…勝つ。」
「負けられないんだ。皇国のためとか、理由はいくらでもつけられるけど…」
「俺は…もう一度ミルフィーに会いたい。またミルフィーの笑顔が見たい。だから…自分のために…戦うんだと思う。」
「それも十分司令官らしくないかもしれないけどね。…こんな俺だけど…」
「皆の命を…預けてくれるかな?」
ほんの僅かな時間、時が止まったとも思える程静まり返り…
そして…再び動き出す。
「当ったり前よ!ミルフィーに会いたいのはアンタだけじゃないんだから!!」
「そうですわね。…戻ってきたらまたお菓子を作っていただきませんと♪」
「わかりきった事を聞くんじゃないよ。あたし達の命はとっくに預けてるさ。」
「そういうタクトさんだからこそ…私達はここにいます…。」
「先輩方の言う通りです…私達の心もタクトさんと同じです。」
「ありがとう…。」
ゆっくりと席から立ち上がるタクト。
「じゃあ…行こうか、皆。」
「「「「「了解!!!!!」」」」」
あとがき
前章のあとがきで『次はジーダマイア編、決着です』などと言っていた刹那です。
…すみません!!!ジーダマイア、登場すらしてません!!!
次で!本当に次でジーダマイア編は終わります。でもジーダマイア『編』て言うぐらいですからもう少し続きます。
ヘル・ハウンズがかなり重要な役になってきますよ。いろんな意味で。
粗末な文章ではありますが、いま少しお付き合い頂けたら…と思います。
それでは…また。