「セレスティアルスターが発進しました!!」

 

ココの報告を受けたレスターは信じられないといった顔をする。勿論、それはココも同じだったが。

 

「誰が乗っている!?」

 

レスターが確認の指示を出そうとした丁度その時、ブリッジのドアが開きタクトが入ってきた。

特にどこが、というわけではないが先程よりも表情が明るく感じられる。

 

「悪い、レスター。待たせた!」

 

「タクト…一体どういう事だ?」

 

レスターの問いに、タクトは満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたのさ…俺の天使が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               

                   天使、再び舞い降りて…

 

              第十三章   「復活の翼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く…また当たったか。いい加減ヤバそうだねぇ」

 

戦況は、更に悪化していた。

いつ行動不能になってもおかしくないエンジェル隊。

その彼女達を庇うようにして戦い、思うように力を出せないヘルハウンズ。

だが、そこへエルシオールを発進したカミュのダークエンジェルが合流する。

 

「大分やられたようだね…全く、本当に無粋な連中だ…」

 

「カミュ! …あんた何でエルシオールに…」

 

先程カミュがエルシオールに向かっていた時はエルシオール側も受け入れ準備をしていた事、そしてかなり急いでいる様子だったために、

目的を問う者、ましてや引き止める者などいなかったが今は状況が違う。エンジェル隊にしてみればカミュ、ひいてはヘルハウンズの行動は不可解な点が多すぎる。

だがカミュはモニターに映る彼女達と目を合わせようともせず、一言だけ言い残して通信を切った。…それだけ切羽詰っているのだろう。

 

「エンジェル隊の諸君は後退して補給を受けたまえ。 …今のままでは足手纏いにしかならない」

 

 

 

「な…何なのよ、アイツ!!」

 

認めたくない事実。だが彼女の憤りはそれを理解しているからこそなのだろう。

 

「ランファさん。 …お気持ちはわかりますが事実は事実。今何をすべきかを考えませんと…」

 

「そうだね…一旦後退するよ!」

 

フォルテの指示で後退を始めるランファ、ミント、ヴァニラ、ちとせの四人。唯一人、フォルテだけがその素振りを見せない。

 

「フォルテさん!?」

 

最初に声を張り上げたのはランファ。だがフォルテは極めて落ち着いた表情で笑みを浮かべている。

 

「いくらあの連中でも数の差がありすぎるよ。 …あたしも残る。なるべく早く戻ってきておくれよ」

 

彼女の言っている事はある意味正しい。GA−007はリセルヴァが一機、レッド・アイも一機を撃墜したが、まだ七機残っている。

しかもここへ来て前線を突破した駆逐艦数隻までもが交戦圏内に侵入していた。

とてもではないが僅か五機の戦闘機でさばききれる数ではない。

だからといって、そこに撃墜寸前の機体が一機加わったとて、一体何が変るだろうか?何も変わりはしない。そんな事は本人もわかっている。それでも…彼女には出来ないのだ。見捨てるという事が。

…しかしそれで納得するような人間はエンジェル隊には一人もいなかった。皆既に機体を転進させようとしている。

が、それを遮る声があった。

 

「エンジェル隊は全機エルシオールに帰艦し、補給作業に入ってくれ。 …フォルテ、君もだ」

 

 

 

続いて、もう一つ…今度はどこか懐かしさを感じさせる声だった。

自分達の無力さのせいで、もう二度と聞く事は出来ないのではないか…と、誰もが一度は思った声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は私に任せてください!休んでた分、パ〜っとやっちゃいます!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミル…フィー…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ミルフィー(さん/先輩)!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

タクトを除くブリッジクルーとエンジェル隊の面々が驚きの余り声を張り上げた。

 

「ア…アンタいつの間に戻ってきたの…?」

 

「ついさっきです。カミュさんが助けてくれて…」

 

カミュ、という名前にランファがピクリと反応を示し、疑問の色を浮かべている。詳しく聞こうと口を開いた所をフォルテが遮る。

 

「まあまあランファ。まず真っ先に言うべき事があるだろう?」

 

「あ…そうですね。それじゃあ…」

 

フォルテ、ミント、ヴァニラ、ちとせと順番に顔を見合わせ目で合図する。

それぞれが軽く頷き、声を揃えて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「おかえり」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いたミルフィーユは照れくさそうに笑う。

 

「はい…ただいま、です…」

 

流れるしばしの沈黙。だがそれは飛来した敵機によって引き裂かれる。

奇襲に近い攻撃をどうにか回避するエンジェル隊。

 

「ああもう、しつこい連中ね!!」

 

「皆は後退して!ここは私が!!」

 

突っ込んできたGA−007をまさしく秒殺すると、機首を翻して次の目標へと向かうセレスティアルスター。

一瞬の出来事に目を丸くする五人。

 

「速…」

 

「あれなら心配無さそうだ。急いでエルシオールに戻るよ」

 

フォルテはそこで言葉を切り、ニヤっと笑う。

 

「あたしらの獲物が無くなる前に…ね」

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…出力が全然違う…」

 

「…これなら…やれる!!」

 

「セレスティアルスター、行っきま〜す!!!」

 

数秒レーザーファランクスを浴びただけで駆逐艦が火を噴き、轟沈する。

駆逐艦や巡洋艦クラスのシールドなど、まるで無いかのように次々と撃墜していく。

 

「ああ、華麗に舞う君のなんと美しい事か…。今行くよ、ハニー!」

 

「来なくて良いです!ていうか来ないで下さい!!」

 

まさか撃つわけにもいかず逃げ回るだけのミルフィーユ。最強の敵は意外な所にいたようだ…。

呆れ顔でその様子を眺めていたリセルヴァだが、突然声を上げる。

 

「カミュ、新手が来たぞ!!」

 

リセルヴァの声でようやく落ち着きをとり戻したのか、カミュはレーダーに目を向ける。

 

「フム…戦闘母艦クラスが一隻に重巡洋艦クラスが三隻か…リセルヴァ、そちらはどうなっている?」

 

カミュの問いかけに忌々しそうに首を振るリセルヴァ。

 

「たった今一機落としたが、後五機はいるな…」

 

少しの間考え込むカミュ。どう考えても戦況は良くない。

その時、まるで危機感の無い声が聞こえてきた。…その明るさが、彼女の長所でもあるのだが…。

 

「大丈夫です!私に任せて下さい!!」

 

そう言うと、新たに出現した四隻へと機首を向けるミルフィーユ。

 

「…? マイハニー、一体何を…?」

 

ミルフィーユはカミュの声には答えず、慎重にトリガーに指を掛ける。

その横ではエネルギーゲージがレッドゾーンを指していた。

 

「当たって…!! インフィニティブラスト!!!!!」

 

「おおっ!!」

 

瞬間、闇を切り裂く閃光が走った。

その光の強烈さに目を覆うカミュ。…彼が再び目を開いた時、そこに敵艦の姿は無かった。

 

「な……」

 

カミュは余りの出来事に言葉を失う。

しかしその間にもミルフィーユは次の目標に狙いを定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「く…くそっ! …この僕が…」

 

一瞬の隙を突いてリセルヴァ機の後方に回り込んだGA−007。

だが攻撃に移る寸前にエンジン部を撃ち抜かれ、爆散する。

 

「…!?」

 

何が起こったのかわからない様子のリセルヴァ。その答えはすぐに明かされる事になったが。

 

「大丈夫ですか?リセルヴァさん」

 

「ミルフィーユ、桜葉…?」

 

しばらく呆気にとられていたリセルヴァだったが、ハッと正気に戻り慌てていつもの高圧的な表情を作る。

 

「ぼ、僕に助けなど無用だ!!」

 

完全に声が上ずってしまっている。

情けない…とリセルヴァは思った。

 

「クスクス…リセルヴァさん、慌てすぎです」

 

「わ、悪かったな!」

 

ミルフィーユは思った。この人は感情を表すのが下手なだけで、本当は自分達とそんなに変らないんじゃないか…と。

しかしその後すぐに聞こえてきた奇声に思考を断ち切られる。

 

「ああっ!ミルフィー!!リセルヴァ等と話してはいけないっ!!!」

 

「どういう意味だ!!」

 

「リセルヴァは今まで…ああ、口に出すのも憚られるよ…」

 

「何の話だっ!!!」

 

この二人の会話を聞いていると、どことなくタクトやレスターが浮かんできて、思わず笑いがこぼれる。

 

「クスッ…」

 

「ミルフィー…?」

 

「桜葉…?」

 

二人が視線をミルフィーユに向ける。

 

「あ…ごめんなさい。でも今は戦闘中ですよ?」

 

一瞬固まる二人。

先に口を開いたのはカミュだった。

 

「…それもそうだね。ハニー、君もリセルヴァの毒牙にかかる前に逃げるんだ」

 

「だから何の話だっ!!!」

 

とりあえず戦闘を開始する三機。カミュ機が目標を見つけたらしく、離脱する。

 

「ふん…僕も行く。せいぜい足手纏いになるなよ」

 

リセルヴァもミルフィーユに通信を入れた後、離脱しようとする。

 

「はい!気を付けますね!!」

 

が、予想外のミルフィーユの反応に言葉が詰まる。

当のミルフィーユは気に留める様子も無く、更に言葉を続ける。

 

「あ、リセルヴァさん」

 

「まだ、何かあるのか…?」

 

リセルヴァ自身が思う程素っ気無い返事。

こんな態度をする相手に何故この女は笑っていられるのか?

 

「私の事はミルフィーでいいですから」

 

「は…?」

 

こいつは、何を言っている?

僕は一時的に協力してやっているだけで本来は敵だ。その僕に対して、愛称で呼べ?馬鹿にしているのか?

 

「はい!試しに言ってみて下さい!!」

 

「な…」

 

「早く〜。戦闘中ですよ?」

 

初めて不機嫌そうな表情になる。といっても可愛らしいものだったが。

 

「う…ミ…」

 

「ミ?」

 

「ミ、ミル…」

 

ものすごい勢いで汗をかきながらしどろもどろになっているリセルヴァを、ミルフィーユは楽しそうに見ている。

本当にからかわれているんじゃないだろうな…そんな考えがリセルヴァの頭をよぎる。

 

「ミル…フィ…」

 

「はい?」

 

「ぐ…せめて愛称は止めろ!!」

 

「え〜?なんでですか?」

 

だからその不機嫌なのか、からかってるのかわからない表情は止めろ! …頭の中の叫び声が伝わるハズもない。

 

「…わかりました。じゃあ『ミルフィーユ』って呼んで下さい」

 

「う……ミ、ミル…ミルフィー…ュ」

 

「良く聞こえないですよ〜?」

 

この女、意外と悪女系か? …普段のリセルヴァからは考えられない脳内思考になっている。

くっ…言ってやるさ、言えば良いんだろ!!!

 

「ミ…ミルフィーユ」

 

「はい、何ですか?」

 

「お前が呼べって言ったんじゃないか!!」

 

「あ、そういえばそうでしたね」

 

駄目だ…この僕が…完全に手玉に取られてる。…だからエヘへとか笑うんじゃない!

くそっ…何でこんな事に…。 …脳内思考まで途切れ途切れになっている。大丈夫かリセルヴァ。

そこへ補給を終えたハッピートリガーが合流して来た。

 

「おやぁ〜?二人で何を盛り上がってるんだい?」

 

お前もか、シュトーレン。ええい、もういい!シュトーレンでもフランボワーズでも来い!この僕が負けるかぁぁぁーーーー!!!!

…ついに脳が壊れ始めるリセルヴァ。そしてその言葉どおり誰かが来た。

 

「あらあら、珍しい取り合わせですこと」

 

貴様が来たか、ミント・ブラマンシュ!!!成り上がり者の娘が!!!!

 

「それでどうなさったんですの?フォルテさん」

 

「いやぁ、リセルヴァの奴がミルフィーを口説いてたんだよ」

 

「ち、違う!僕じゃなくてミルフィーユが……!!」

 

「ミルフィーユぅ?」

 

言ってからリセルヴァは慌てて口を塞いだ。

だが、もう遅い…。

 

「…これは戦闘が終ったらゆっくり話を聞かないとねぇ」

 

「お手伝いしますわ、フォルテさん」

 

この僕が…何故だぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!

リセルヴァの慟哭は闇に飲まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ファーゴ�胸蔑畆次�

 

「…駄目です、ジーダマイア閣下!これ以上は戦線を維持できません!!!」

 

「う…ぐう…ヘルハウンズめ…奴らさえいなければ…!」

 

その時だった。突如として爆音が響き、ファーゴ�響澗里�大きく揺れた。

 

「な…どうした!?」

 

「2番3番のブースター、それに空間転移用エンジンが爆発しました!!」

 

「なんだと!?」

 

騒然となる司令室。それに追い討ちを掛けるかのように通信が入った。

 

「カミュ・O・ラフロイグ!今のは貴様の仕業か!?」

 

「ほんの挨拶代わりだよ」

 

「何…?」

 

「…五分後、動力室に仕掛けた爆弾が爆発する。…木っ端微塵さ、君たち諸共ね」

 

「き、貴様…」

 

怯えた目のジーダマイア。

 

「本当に醜いね…ジーダマイア、お別れだ」

 

通信が切られる。

 

「だ、脱出する!艦を回せ!!!」

 

司令室にジーダマイアの怒号が響く。そこにかつての威厳は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

通信を終えたカミュは軽く息を吐き、エルシオールへ通信を送った。

 

「さあ…あとは君の仕事だ、マイヤーズ君」

 

「ああ。カミュ、ありがとう」

 

通信が切れるのを確認してからタクトは指示を出し始める。

数分後、待ちわびた報告が来た。

 

「ジーダマイア艦、ファーゴ�兇留�宙港を発進しました。

 

それを聞き、ニヤっと笑うタクト。

 

「ひっかかってくれたか」

 

その横ではレスターが溜息をついていた。

心もち、表情が暗い。

 

「まさか、本当にこれを使うことになるとはな…」

 

「仕方ないさ。多分これが一番被害を抑えられる」

 

苦笑するタクト。だがすぐに表情を入れ替え、シートから立ち上がる。

 

「チャージ状況は?」

 

「完了しています!!」

 

「よし」

 

タクトは大きく息を吸い込み、言った。

 

「目標、ジーダマイア艦!クロノ・ブレイク・キャノン…」

 

 

 

 

 

 

「撃てぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? …ジーダマイア閣下!何か来ます!!」

 

「な、何!?うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が、走った。

全てを焼き尽くす、光が――――――――