エオニアのイシュラントが放った強烈なエネルギーの渦に巻き込まれ、紋章機が、エルシオールが、大きく揺れた。
モニターがホワイトアウトし周囲の状況が確認できなくなる。その中で…
「フム…やはりまだ調整が不十分だったようだな。また会おう、白き月の天使達」
…エオニアの声だけが、響いていた。
天使、再び舞い降りて…
第十五章 「微かな希望」
―ファーゴ�怯�宙港内、エルシオールブリッジ―
「エルシオール、修理完了しました。本艦は2時間後エラクリオンへ向け出港します。各員、配置について下さい!」
艦内にアルモの声が響く。
しばらくして眠そうな顔のタクトが入ってきた。 …たまらずレスターが口を開く。
「眠そうな顔のままブリッジに入るな…士気に関わる」
本人としては思いっきり不機嫌そうに言ったつもりなのだが、まるでこたえていないようだ。
…まったく、コイツは…。
「悪い悪い。昨日は遅くまでミルフィーと散歩しててさ〜夜食美味しかったな〜」
…いきなりのろけ出しやがった。
「それは良かったですね、タクトさん♪」
明るい声。だがその裏には妙な迫力がある。
なにより、その人物がブリッジにいる事自体がおかしいのだが…。
「そうそう。 …ん?今の声は…」
恐る恐るその声が聞こえてきた方へ目を向ける。
アルモの席の方だ。
そして、予想通りの人物を目にする。
「ル、ルシャーティ…」
そこにいたのはニッコリと微笑むルシャーティ。
いつもよりもむしろ明るい雰囲気なのだが、タクトにはその背後にオーラでも見えているのか僅かに後ずさりする。
「や、やあルシャーティ。どうしてブリッジに…」
「失礼します」
言いかけたタクトの言葉をピシャリと遮り、ブリッジを後にするルシャーティ。
笑顔は最後まで崩れなかった。
「司令、デリカシー無さ過ぎです」
アルモが責めるような目線をタクトに向ける。
「う…そ、それにしてもルシャーティと何を話してたんだい?」
「内緒です」
「いや…」
尚も食い下がろうとするタクトにレスターが言い放った。
「お前は書類作業だ。さっさと席に着け、総司令官殿」
「全艦、ファーゴ�兇鮟亶舛靴泙靴拭�エルシオールも発進します」
モニターに映る自軍艦隊を見て、タクトは呟いた。
「随分と数が減ったなあ…」
「仕方無いだろう。ファーゴ�兇坊海鮹屬�ないわけにもいかん」
そこで言葉を切り、溜息まじりに続ける。
「それに…エオニア軍との戦闘も酷い物だったしな」
「ああ…」
―――――――――あの時。
「きゃあああああああ!!!!!」
通信を通して聞こえる悲鳴に、タクトは何とか体を起こし叫ぶ。
「ミルフィー!皆!!返事をしてくれ!!!」
必死に叫べど、返答は無い。
聞こえてきたのはエオニアの勝ち誇ったような声。
「また会おう、白き月の天使達」
その内容からエオニアが撤退したらしい事がわかる。だが、今はそんな事はどうでも良かった。
「状況を報告しろ!!」
「は、はい!エオニア機の放ったエネルギー波によりエルシオールを含む周囲の艦隊に大打撃、かなりの数が撃沈されました!!」
「紋章機は、エンジェル隊はどうした!?」
「全機健在ですがセレスティアルスター意外は行動不能です!!」
「回収だ!急げ!!!」
頭が真っ白になった。
あれが恐怖なんだと知った。
皆を、彼女を失うのが怖かった――――――――
「…クト…タクト!聞いてるのか!?」
レスターの怒鳴り声。タクトはけだるそうに返事をする。
「聞こえてるよ。先の戦闘の被害報告だろ?」
意外そうな顔をするレスター。どうやら彼はタクトが話を聞いていないと思っていたようだ。
「…聞いているならいいが…」
咳払いを一つして、話を先に進める。
「続けるぞ。撃沈された艦が57隻、航行不能艦が73隻だ。 …艦隊の半分以上が使い物にならなくなるとはな…」
「それでこの数か」
タクトは苦笑しつつモニターの艦隊を指差す。
合計20隻程度だ。
「仕方無いだろう。どこに消えたかわからんエオニアを追っかけるよりファーゴ�兇諒�が大切だ」
「まあね。 …紋章機の方は?」
レスターが手に持った報告書の束を一枚捲った。
「セレスティアルスターの方は問題無い。が、他の紋章機に関してはクレータ達もお手上げだとさ」
「あらら」
ブリッジにレスターの深い溜息が響く。
「前途多難だな…」
「ああ。 …でももうこんなのには慣れたよ」
「友軍艦隊はエラクリオンに。エルシオールは白き月に入港する」
「了解」
モニターに白き月のドックが映し出される。ここを発ってからまだそんなに経っていないのに、とても懐かしく感じられた。
「じゃあレスター、俺はシャトヤーン様とノアの所に行って来るよ」
「ああ。紋章機の件、忘れるなよ」
タクトは背を向けたまま手を振る。
「わかってるさ」
「ご苦労様でした、マイヤーズ司令」
謁見の間に入るとそこには既にシャトヤーンとノアが待っており、タクトは少し面食らった。
事前にエオニアの事は通信で報告してあるのだが、二人の表情は事の他明るい。
「いえ…艦隊にも大打撃を受け、あまつさえ紋章機まで…」
「紋章機まで?」
シャトヤーンが不思議そうな声を上げる。これは通信では言っていなかったからだ。
当然ノア等は怒り心頭だろうと思いつつ、タクトは顔を上げる。彼がノアの表情を読み取るより早く、そのノアが口を開いた。
「…見てみない事にはわからないけど、多分大丈夫だと思うわ」
「え?」
「先に行ってるから話が終わったら来て」
それだけ言うとノアは足早に謁見の間を後にした。
ただ呆然とそれを見送るタクト。
「マイヤーズ司令」
「はっ、はい!」
シャトヤーンの声に慌てて向き直る。
「エルシオールには本星へ帰還命令が出ています。しかし紋章機の修理が終わるまでエルシオールは白き月を動けません。ですから…」
「白き月の方が動こうと思います」
一瞬何を言っているのか理解できず固まるタクト。
その様子をおかしそうに見つめながら、シャトヤーンは言葉を続ける。
「勿論、エルシオール単艦の方が速いですから修理が終わるまでの話です」
シャトヤーンに深く頭を下げるタクト。ようやく意味を理解したようだ。
もう一度礼を言い、その場を後にする。
「えっとノアは…多分、格納庫だな」
「だからこのハイパーキャノンも取り外して…」
白き月の格納庫に多くの作業員達の声が響いていた。
その中にノアとクレータを見つけ、歩み寄るタクト。
「二人共、何を話してるんだい?」
タクトが声を掛ける。かなりの距離まで近づいていたのだが、余程話に熱中していたのだろう。タクトを見て驚いた様子である。
「あ…マイヤーズ司令」
「早かったわね。今、作業を始めたばかりよ」
「作業?」
その瞬間、クレータの目が輝いた……気がした。
事実声のトーンが異常に高い。
「凄いんですよ!ノアさんが紋章機の強化案を持ってきてくれて…これなら殆ど別の機体って言えるぐらい性能が上がりますよ!!」
「では、私も作業に入ります!」
クレータは駆け出して行く。その先で何やら奇声が聞こえてきたが、二人はあえて聞こえない振りをしておいた。
「ま、そう言う訳だからあんた達はゆっくり休む事ね」
「ああ。悪いけどそうさせて貰うよ」
そう言うとタクトはエルシオールへと歩き出した。
あとがき
今回はあまり盛り上がらない話でした。
でも次は…フフ。
それともう間もなくオリキャラ勢がごちゃっと登場します。(ごちゃっ…って)
お楽しみに〜。
ではまた。