EDEN統合軍ルーンエンジェル隊と敵偵察隊との格闘戦。三番機のパイロット、ナノナノ プディング少尉はファーストエイダーをバンクさせ大G旋回、敵機の後方に占位する。

センサー群が敵機を補足。ロックオン。スクリーン上にガンサイト。レティクルに敵の機影を捉えトリガーを引く。高速射撃。前方に閃光が走る。撃墜。

 

「RA3敵機撃墜。やったのだ。」

 

ドッキング中の零番機から編隊長、カズヤ シラナミ少尉が答える。

 

「ナイスキル、ナノナノ。よし空域クリア。帰還しよう。」

 

「了解。」

 

「RA0よりルクシオール。CAP完了、帰還方向をください。RTB。」

 

ルクシオールから帰還方向が指示される。シラナミ少尉は散開していた各機を集合させる。間隔を広く取った対戦闘機編隊。リッチウォー攻略へ向けてのこの日の制空

任務は無事完了。前席のプディング少尉が話しかけてくる。いつでも元気なのが取柄の少尉らしい明るい声だ。

 

「カズヤ。さっきの見たのだ?ドンピシャだったのだ。」

 

「うん。旋回が終わったら目の前にいたからね。あれじゃ見るなって言っても見えちゃうよ。

 でも一瞬で正確に着弾させたのは凄かったね。最近腕上げた?」

 

「いつまでも”よく外す”じゃ嫌だからフリアから借りたシミュレータで訓練したのだ。見くびってはだめなのだ。」

 

「へぇ。そんな事してたんだ。えらいね。」

 

「えへへ。褒められたのだ。ところでリコたんはどこに行ったのだ?今日はいないのだ。」

 

「リコは雪風と合同任務中だよ。ほらあれ。」

 

ルーン隊の遥か上方、天頂付近を一機が加速して行く。フェアリィ隊所属の紋章機。FA-001 フェアリィルーラー。戦闘妖精 雪風。

その後方をルーン隊の一番機、RA-001 クロスキャリバーが最大出力で追随する。

 

「リコタン追いつけるのだ?」

 

「速いからね、第四世代機は。ちょっと心配だね。」

 

雪風は遼機の存在など忘れたかのようにリニアクロノスパイクエンジンに点火しさらに加速。アフターバーナーから青い炎を引いて離脱していく。

クロスキャリバーも巡航体制で加速し雪風を追う。

シラナミ少尉は各機に巡航体制への移行を指示。一番機のパイロットアプリコット桜葉少尉を心配しながら帰路に着く。

雪風の機影はすぐに長距離センサーからも消える。ロストコンタクト。

 

 

 

 

 

 

 

雪風は高速巡航でルクシオールを目指す。ミリタリーパワーでさらに加速することも出来るが、RA001を一人置いていくわけには行かない。エンジンパワーを89で維持。

雪風のパイロット メイヴ リアスフェイル少尉はMFDから目を離して外を見てみる。どこまでも深い空間が続く。星は見えない、リッチウォー周辺の空域は巨大な星間ガス、

光を通さない暗黒星雲の中にあるからだ。リッチウォー星系の太陽が赤く輝く。時折前触れもなく発生する星間ガスの発光現象が起きていた。恒星から出る電離ガスが

星系内の磁気帯と衝突して起こる宇宙のオーロラ。それが妖しく恒星と同じく赤く輝き、揺れる。虚空にたなびく旗のようにも見えるとリアスフェイル少尉は思った。

嫌な旗だ。あまり良いものを表す旗では無いだろう。RA001がようやく追いついき、所定の位置につきエレメントを組む。RA001からの航跡がオレンジの光を引いて伸びている。

リアスフェイル少尉は辺りに合わせて自動で照明レベルを落としたMFDに視線を戻す。エンジンからのかすかな振動以外はノイズシャッタを入れているのでなにも聞こえない。

とても静かだった。異常を示すものは何も無い。あるとすればさっきの旗だろう。旗を思い返して何の旗だろうと考えてみる。考えるほどに良いものには思えなくなってくる。

すると雪風からHUD上にメッセージ"What's wrong SL?"”どうしたの少尉?”リアスフェイル少尉は整備用光学キーボードを出力し返信。"Nothing."”なんでもない。”

雪風はさらに巡航。

 

 

 

突然警戒中の広域受動センサーが警告を発する。不明機を探知、位置不明。リアスフェイル少尉はアクティヴセンサー群を中距離-移動目標自動走査に入れる。目標探知。

RA001へ警告通信。

 

「雪風コンタクト。BRAA315 マーク-15 52000。ボギー、アンノウン。注意しろ。」

 

RA001から返信。

 

「クロスキャリバー了解。315 -15 52000 コピー。戦闘機でしょうか?」

 

「何でもいい。探せ少尉、回避する。スターボード。」

 

リアスフェイル少尉は雪風を右へ旋回させる。RA001がそれに続く。センサー群をSTTモードにセットし目標を追跡する。

雪風のセンサー群が目標情報を伝えてくる。かなり速い。紋章機並みの高速だ。リアスフェイル少尉はIFFを確認。敵味方不明。識別不能。

RA001も目標を捕らえたことを知らせてくる。

 

「クロスキャリバーコンタクト。こちらでも捉えました。約二分で交差します。何でしょう、IFFの応答がありません。敵味方識別不能です。」

 

リアスフェイル少尉は戦術パネルから雪風に不明機は敵である可能性ありと伝える。雪風のCIEXはセンサー群の走査パターン、周波数、出力、パルス形状を最適に調整。

不明機をより精密に追跡。MFD上に目標情報を投影してくる。RA001へも高速リンクに接続してあるFSLスーパーリンカで戦術情報を伝達。

 

「メイヴさん。確認しましょう。敵機が一人でこんな所を飛んでいるはずがありません。

 きっと、この前合流したEDEN軍の機体ですよ。 IFFが故障しているんです。」

 

確かに、先日のダクト以降にEDEN軍主力の空母打撃群がエルシオールとルクシオールに合流していた。桜葉少尉が言っているのはそこに配備されている機体のことだろう。

だが不明機は雪風とRA001の進路にあわせるように旋回し、高速で接近して来る。明らかに異常な飛び方だ。リアスフェイル少尉は緊張し、警戒する。

雪風のCIEXが脅威を判定。危険、警戒せよと伝えてくる。警告はRA001にも伝えられる。雪風はセンサーモードをスーパーサーチへ変更し目標を自動ロックオン。

 

「桜葉少尉。あいつは何なんだ。緊急回線を繋げ。確認しろ。」

 

「やっていますけど繋がりません。通信機を作動させていないようです。」

 

「では、敵だ。」

 

雪風から再警告。危険度増大、不明機は敵性である。リアスフェイル少尉は雪風を半ロールさせピッチアップ、上方へ回り込もうとしている不明機を回避するため大G旋回。

RA001も続く。不明機はこれに合わせるように暖旋回。雪風とRA001にさらに接近する。

 

「やつは交戦する気だ。エンゲージ。」

 

「待ってください。敵じゃありません。」

 

「なぜ分かる。」

 

不明機の後方占位をかわすため更に回避機動を続ける。二機は水平ブレーク。二手に分かれる。雪風を追尾していく不明機を桜葉少尉がスクリーン上に視認、拡大投影する。

恒星からの光を受けて機体のシルエットが浮かび上がる。クロスキャリバーの映像センサーが捉えたそれは大型の戦闘機だった。太い双胴の特徴的な機影。NEUE型の紋章機。

RA003ファーストエイダー。

 

「ナノちゃん!?メイヴさんあれは紋章機です。ファーストエイダーですよ。」

 

「ではなぜコンタクトを取れない。油断するな。敵だ。」

 

リアスフェイル少尉は後方センサーが捉えた映像をディスプレイ上に呼び出す。確かにRA003だった、しかしどこか奇妙に感じる。赤い光を受けているからか立体感がない。

IFFをもう一度確認する。雪風から回答。不明。リアスフェイル少尉は素早くマスターアームに点火、戦術ディスプレイを切り替える。ストアコントロールパネルに搭載

武装が表示される。RDY GUN RDY PHASER RDY SHM6。機銃、フェイザーアレイ、近距離ミサイル6発、射撃準備よし。RA001の護衛用にミサイルは普段より多く積んで来て

ある。ただし、6発の長距離ミサイルは任務中に撃ち尽くしていてない。

 

「撃墜する。少尉、収集情報を持って離脱しろ。」

 

今回は試験的にRA001が雪風の指揮下で戦術戦闘電子偵察を行ったため、収集した情報はRA001にある。その情報を失うわけにはいかない。

リアスフェイル少尉はドッグファイトモードをON。Gフィードバック、HALOダイレクトコントローラ起動。

雪風が戦闘準備を終えると同時に、不明機からの攻撃照準波を探知。雪風がIFFインジケータを不明から敵に切り替え表示してくる。

 

「メイヴさん!あれはナノちゃんです。やめてください。」

 

桜葉少尉の声より早くリアスフェイル少尉は雪風を機動させる。スタビライザーとスラストベクタリングを使い重心を中心に半回転し敵機と相対。ボアサイトモード起動。

ミサイルとフェイザーは間に合わない、HALOダイレクトコントローラで機銃を選択。RDY GUN。発砲。敵機は回避機動。ガンサイトから外れる。命中しない。

リアスフェイル少尉はすれ違った敵機を追うために雪風を更に半回転させる。アイドルへ戻していたスロットルをMAXアフターバーナーへ。大加速で敵機を追撃。

少し距離をとった所から桜葉少尉が呼びかけてくる。

 

「何をしているんですか!?攻撃を中止して下さい。味方です。」

 

「雪風が、敵だと言っている。」

 

リアスフェイル少尉は攻撃を中止しようとはしない。雪風のCIEXは警告を発し続けている。雪風は不明機を味方とは認めていない。味方ではない。では敵だ。

雪風は大推力に物を言わせ敵機に後方占位する。EOSTでロックオン。HUD上に表示、RDY PHASER。敵機はスピードを殺してバレルロール。雪風をオーバーシュート

させようとする。雪風も減速し追随。両機の速度が落ちる。その隙を見計らうように敵機から前方に向け誘導弾が発射される。とたんに敵機は急加速、ブレークして離脱。

リアスフェイル少尉は前方を急旋回し雪風に向かってくる敵弾を回避するため緊急加速、妨害手段を実行し回避機動。雪風はEOSTを全周追尾へ自動的に切り替え敵機を補足

し続ける。敵弾は雪風の進路をふさぐように展開しそれぞれが円を描いてに回り始める。リアスフェイル少尉はスロットルをアイドルへ、進行方向を変えずピッチアップ。

迎え角50度でスロットルを戻す。弾かれるように雪風が加速、敵弾をかすめて急上昇。待ち構えるかのように敵機が後上方から雪風に接近してくる。後方占位をかわすために

再び回避機動。敵機は雪風の機動をものともせずに喰いついてくる。リスフェイル少尉は強敵だと思う。雪風並みの性能がある。ここで撃墜しないと情報を持った桜葉少尉が

危険になる。失うわけにはいかない。雪風をシーザー機動させる。成功、敵機が雪風の真横につく。旋回し遠ざかろうとする敵機に短距離ミサイルをロックオンし発射。

ウェポンベイのドアが開き、ミサイルの射出モーターに点火。ミサイルは打ち出されると同時にサイドスラスターを噴射し回転。ミサイルシーカーが目標を捕らえ誘導を開始。

凄まじい加速で目標へ向かっていく。旋回中の敵機はこのミサイルを機体から光る針のようなものを数発発射し迎撃。ミサイルが撃墜される。リアスフェイル少尉はかまわず

に敵機に喰らいつき残りのミサイル群を敵機にロックオン。敵を追い詰めるための最適誘導進路を雪風のCIEXが高速で算出し各ミサイルのシーカーアセンブリへ入力する。

敵機へ更に接近。肉薄。リアスフェイル少尉は右手のスティックにあるミサイルレリーズを押す。発射しない。雪風からHUD上に警告が来ている。

 

”SPIKE!”捉まった”

 

”No time to shoot.Break now!”撃っている暇はない。すぐに回避せよ!”

 

MFDに雪風のパッシヴセンサーが敵の特殊兵装用攻撃照準波を探知したと伝えてくる。リアスフェイル少尉はミサイルレリーズをもう一度押し、押し続け緊急攻撃命令を伝える。

相打ちでもいい。任務にはクロスキャリバーを全行程にわたって援護することも含まれている。雪風がリアスフェイル少尉に従い中断していたミサイル発射手順を再実行。敵機

が針状の物体を発射するのとほぼ同時に、残りの短距離ミサイル5発が発射される。敵機は回避しようとするが3発目のミサイルが至近弾で炸裂、4発目と5発目は直撃。敵機の左

胴体が吹き飛ばされる。撃墜。リアスフェイル少尉にはそれを確認している暇はなかった。敵機から射出された無数の光る針は、全周に一旦広がり反転して雪風に向かってくる。

飽和攻撃。第一波の5本が三時上方から接近してくる。雪風のリミッタキャンセラを素早く探って押す。安全設定をすべて解除、雪風が設計安全値を越えて機動する。非常加速し

第一波を回避。前方から飛来する第二波を更に加速し、間を縫うようにしてかわす。更に三方向から第三波が飛来。こいつが本命だ、どう回避しても必ず命中するようにコース

が設定されている。逃げ切れない、とリアスフェイル少尉は覚悟を決めてから雪風のオートマニューバスイッチを入れHALOダイレクトコントローラから雪風に宣言。

 

”You have control."”機動制御を受け持て。”

 

自分ではどう回避しようが逃げられそうにない。なら雪風に回避機動を任せよう。HUD上に雪風から返信。

 

"I have control.Leave it to me.SL"”機動制御を受け持つ。任せて。少尉。”

 

雪風は全センサーを統合処理し最適回避機動を計算、瞬時に終わらせ二時上方から来る針の群れに向けて旋回。突然スピードブレーキを開いて急減速。針の群れが迫る。

予想外の雪風の機動にリアスフェイル少尉は戸惑う。どうするつもりだ、雪風。それを感じ取るかのように雪風がHUDに表示を出す。"Trust me"”私を信じて。”

雪風の未来位置へ向かっていた針が修正のために僅かに進路を乱す。ほんの僅かな針のブレを雪風は見逃さない。デセプションジャマー起動。慣性制動システムを全開へ。

エンジン非常出力。通常の四倍の加速度を掛け、進路が乱れた針と針の間に生まれた空間へ。サイドフォースコントローラ自動制御開始。向かってくる針を進行方向を保った

まま機体を平行移動させてかわす。横殴りに大Gがかかる。管制制動システムがそれを吸収。ほとんどの針は辛うじてかわしたが最後の数本が雪風に命中。

左前部スタビライザーが直撃を受けて飛散。衝撃がリアスフェイル少尉を襲う。失った安定を他の舵面を調整し自動回復。回避終了、雪風が脅威の消滅を確認する。

HUD上に雪風から表示。

 

" Evaded needle flechette.You have control."”敵弾回避。機動制御を返す”

 

リアスフェイル少尉は雪風のオートマニューバスイッチを切る。とたんに警告音。空戦用リニアクロノスパイクエンジンが異常過熱、エンジンイベントコントローラも3系統

あるうちの1つがフェイル。リニアエンジンを停止させ冷却器を作動、フェイルしたEECをコントロールから外す。その他の警告灯を一通り確認し然るべき措置をとる。大した

問題はなさそうだ。普通に帰るだけならこれで十分だろう。

 

「帰るぞ、雪風。」

 

自動的に帰投コースが航法管制ディスプレイに表示される。リアスフェイル少尉は雪風を巡航体制に移行させ、先に離脱したRA001と合流するために加速。帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またエライ事をしてくれたわね。」

 

帰艦してすぐにリアスフェイル少尉はジェインウェイ大尉に呼び出される。ブリーフィングルームでの第一声がこれだった。

 

「ルクシオールからあなた宛に出頭命令が来てるわよ。」

 

「いつもいつもこんな時だけは手際の良い連中だな。何と言って来たんですか。」

 

データパッドが渡される。ルクシオールから発信された署名付き文章ファイルが表示されていた。”味方機撃墜の疑いがあるので直ちに出頭せよ。”

ジェインウェイ大尉が続ける。

 

「どういうつもりなの?味方機を撃墜して。」

 

「敵だった。」

 

「イメージスキャナにはRA3がしっかりと写っていたわよ。どうして敵なの?」

 

「姿は一緒でも敵だ。IFFの応答がなかった。」

 

「IFFが故障しているとは考えなかったの。姿はファーストエイダーそのものだったのに。」

 

「・・・・・」

 

「しかも、RA3は現在未帰還の行方不明。どういう事か説明して。」

 

「大尉は・・、私が意図的に味方を撃ったと言いたいんですか。相手は攻撃もしてきた。」

 

昔からいつもこうだった。前の部隊でも、その前も。何かすればすぐに何故なのか理由を聞いてくる。理由を答えても信じてくれない。いったい何を言えば良いんだ。

ジェインウェイ大尉は何と言えば信じてくれる。いつもは直ぐに分かったと言ってくれるのに。戦闘後のストレスもありリアスフェイル少尉は苛立つ。

それにジェインウェイ大尉は気付く。

 

「そんな事は言っていないでしょう。」

 

ジェインウェイ大尉が答える。

 

「メイヴ。あなたがわざと味方を攻撃するとは思っていないけど、どうして敵だと思ったのか言ってくれないと弁護のしようもないわ。

 帰ってきたばかりで疲れてるのも分かるけど、初めから説明してくれるかしら。」

 

「弁護する?何のことですか?」

 

リアスフェイル少尉は驚いて聞き返す。

 

「ルクシオールに意思疎通の下手な部下を一人だけで送るとでも思ったの?」

 

「大尉が来てくれるんですか?」

 

「そうよ。あなたの味方でね。だから教えてくれる?」

 

ジェインウェイ大尉は自分を疑っている訳ではなさそうだ。決め付けたことを少し後悔する。フェアリィ隊に来てからはこんな調子のことが多い。以前よりはよほどマシだ。

 

「帰投中に長距離センサーが機影を捉えて、接近して来るからIFFで確認した。何度確認しても不明だった。味方でないなら敵だ。」

 

「RA1の桜葉少尉は確認したの?」

 

「確認していた。そうだ、桜葉少尉は何と言っているんです。IFFは不明だったはずだ。」

 

「ショックで帰ってくるなり倒れたそうよ。戦術偵察中に敵機に奇襲されて、帰り際でこんな事があっては仕方ないわ。

 偵察システムのデータを引き出したらこの一件が発覚してあなたが帰ってくるちょっと前にそれが届いた訳。」

 

ジェインウェイ大尉がパッドを指していった。それからデスクの上にあった他のパッドを整理し始める。

 

「帰り際に何も言ってなかったな、そういえば。大丈夫なんですか。」

 

「人の心配より、自分の心配をしたほうが良いんじゃない?下手すれば二度と雪風と飛べなくなるわよ。」

 

デスクの上を片付け終えてジェインウェイ大尉が席を立つ。

 

「と言う訳で、ルクシオールへ行きます、2時間後にシャトルベイに来ること。それまでに雪風の戦闘情報をまとめておきなさい。

 詳しいことはシャトルの中で聞きます。」

 

「分かった。」

 

「それと頭の怪我を治してきなさい。」

 

リアスフェイル少尉は額に手をやる。戦闘中にどこかでぶつけたらしい。少し血が出ていた。

 

「それじゃ、シャトルベイで。」

 

部屋を出る。ジェインウェイ大尉はそのままブリッジのほうへ歩いていった。リアスフェイル少尉は医務室を回って簡単な手当てを受けハンガーへ向かう。

ハンガーでは雪風が整備区画へ移されていた。整備員が言うには修理に二日はかかるらしい。側に行く、飛散してスタビライザーが付いていない前部ストレーキが痛々しい。

整備区画にあっても雪風はODNケーブルとEPSケーブルを接続され、機上の電子機器は待機位置にあるときと同じように作動状態にあった。無重力化されたハンガーの中を

小型の推進器を使って雪風の機首方向へ回る。エンジン部の整備用のアクセスポートが何箇所か開けられている。それらに気を付けつつ機体上部にある所定位置から

コクピットハッチを開き操縦席に収まる。ブリーフィングルームの横にある待機室から持ってきた個人用端末を雪風につなぐ。一時間程かけて必要な情報ファイルを移し

編集する。終わると暗号化。それから三十分は雪風の電子機器をチェックしてすごす。戦闘による不具合はなかった。機体の修理さえ済めば問題なく飛行できるだろう。

時折雪風のMFDにまほろばのコンピュータコアへのアクセス状況が示されていた。リアスフェイル少尉はふと思う。雪風はまほろばに何を話しているのだろう。MFDの表示は

他の戦隊機の過去の戦闘情報を雪風が要求していることを示していた。戦闘シュミレーションを独自に行っているのかもしれない。端末から雪風にキーボード入力で聞こうか

と思ったが、二時間が過ぎようとしているのに気付いてやめる。速く行かないと二度と雪風と飛べないかもしれない。帰ってきてからでも聞く時間はあるだろう。

問題が何もなければだが。リアスフェイル少尉は端末を雪風から外しコクピットを出てシャトルベイへ向かう。ベイでジェインウェイ大尉と合流、ルクシオールを目指して

発進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルクシオールで審議を受ける。ルクシオール第一デッキのブリーフィングルーム。判事席に一人とその横にもう一人の小規模な構成。判事がそうだからか、部屋にはあまり

緊張感は漂っていない。リアスフェイル少尉は部屋の中を見渡す。桜葉少尉はいなかった。まだ倒れているのだろうか。ジェインウェイ大尉も少尉がいないことを気にして

いる様子だった。桜葉少尉に証言してもらえれば有利だったろうとリアスフェイル少尉は思う。しばらくすると判事が話し始める。

 

「それじゃみんな来たみたいだからはじめようか。えぇ先ずはと・・・・」

 

審議が始まる。リアスフェイル少尉は、判事の発した質問にいつも通り短く答える。どうせ何を言っても次にくる言葉は大体予想が付く。実際そうだった。

ジェインウェイ大尉は言った通り、シャトルの中で聞いた話を的確にまとめて弁護してくれた。それでもRA003未帰還の状況はリアスフェイル少尉たちには

厳しいものだった。雪風の戦闘情報の精査を求めたり、RA003を最後にロストした地点から雪風とRA001の帰投進路上にくることは難しいと主張したが、状況は不利なまま審

議が続いた。一旦小休憩を挟む。判事二人が部屋を出る。リアスフェイル少尉とジェインウェイ大尉は残った。

 

「やはりRA3未帰還は分が悪すぎるわね。帰ってこないのはどうしようもないけど。

 一体何処をのんびりさ迷っているんでしょうね。救難信号の一つも出さずに。」

 

ジェインウェイ大尉がため息をつく。

 

「メイヴ。本当に雪風に二度と乗れないかもね。」

 

「冗談じゃない。雪風をとられて、他に何もないのにどうしろって言うんだ。」

 

リアスフェイル少尉が言う。

 

「大尉。ここの連中は捜索隊は出してないのか。戦隊機が行方不明なのに。」

 

「出さないわけないでしょう。もちろんよ。支援要請が来たから、うちからも春燕を飛ばしているわ。」

 

「フリアとウェッジを?あの二人ならなら直ぐに見つけるだろう?」

 

「そう簡単にはいかないわ。」

 

今度はリアスフェイル少尉がため息をつく。本当に雪風を捕られたらどうしようか。また他の部隊へ飛ばされて厄介者扱いされるのだろうか。それだけは御免だ。

それに雪風がなくては戦う理由も分からない。今は雪風だけが、精密な機械の翼だけが唯一裏切ることのない信頼できる存在だ。

もう誰にも裏切られたくはない。雪風で戦うことが戦いの理由だった。雪風は裏切らない、だから自分も裏切らない。

 

「雪風を裏切りたくない。」

 

 

 

 

それっきり話さないで、しばらくしていると判事が部屋に戻ってくる。表情が妙に明るい。審議の一時中断を伝えてくる。

 

「今、そっちの部隊の春燕から連絡があってね。ファーストエイダーが見つかったんだ。

 機体の損傷や詳しいことはまだ分からないけど、幸いパイロットは二人とも無事みたいだ。

 と言う訳で、ちょっとタイミング良すぎるけど救助に行ってくれないかな。」

 

「私達が?そちらの機体はどうなんですか。」

 

ジェインウェイ大尉がたずねる。

 

「いや今日の制空戦が激しくてね。損傷した状態で捜索までやってたからしばらく発進出来そうにないんだ。

 それに、そっちのシャトルには色々付いてるから任務にあってると思ったんだけど。」

 

「分かりました。それで審議はどうするんですか。」

 

「うーん。とりあえず一時中止ということで。あ、それからジェインウェイ大尉、今後のことで打ち合わせておきたいことが

 色々あるから残ってくれないかな?」

 

「私はかまいませんが。救助にはリアスフェイル少尉一人で行けと?誰か付けていただけませんか?」

 

「それじゃ出られそうな一人を選んで格納庫で合流させるよ。決まりでいいかな?」

 

ジェインウェイ大尉はリアスフェイル少尉を見る。表情には出さないが驚いているようだった。反対しそうな様子ではない。

 

「かまいません。」

 

「それじゃ直ぐ行って。詳細はブリッジからシャトルに直接送るから。」

 

判事がそう言う。ジェインウェイ大尉はリアスフェイル少尉に格納庫へ行くよう命じる。

 

 

 

 

 

リアスフェイル少尉は大尉の命令に従って部屋を出て格納庫へ向かう。格納庫に着く。まほろばとはまったく違った雰囲気の場所だった。

NEUE型、第3.1世代機に最適化して設計してあるから違っても当然だろう。シャトルに乗り込んで発進準備をする。待機状態にしておいた計器群を復帰させ終わった頃に

シャトルに人が来る。桜葉少尉だった。

 

「少尉、もういいのか?」

 

「はい、大丈夫です。メイヴさんこそ大丈夫なんですか?頭に怪我してますけど。まさかさっきの戦闘で。」

 

「たいした傷じゃない。大丈夫だ。問題ない。」

 

「ナノちゃんがいれば、すぐに治してもらえるんですけど。」

 

「では、さっさと連れ帰って治してもらおう。」

 

システム類を一通り説明し、コパイロットシートへ座るように指示する。格納庫から発進位置へ前進。コントロールへ発進許可をコール。発進してよし。

リアスフェイル少尉はインパルスエンジンに点火しシャトルを発進させる。飛び立って直ぐにコントロールから救助任務内容の詳細が届く。

桜葉少尉がそれを受け取って、シャトルの統合ディスプレイへ的確に入力する。少しの説明で直ぐに使い方を覚えたようだ。リアスフェイル少尉は桜葉少尉を優秀な

仕官だと思う。シャトルは巡航体制へ移行。

 

「メイヴさんは何で、あの機体を敵だと思ったんですか?」

 

桜葉少尉が聞いてくる。また質問かと少しうんざりしたが、答えない理由もないので答える。

 

「雪風がそう言っていた。」

 

「そうじゃなくて、メイヴさん自身はどう思ったのかなって。」

 

「雪風が敵だと判断したなら、それを信じる。」

 

「自分の目よりも、機械を信じるんですか。」

 

「そうだ。おかげで生きていられる。あんたもだ少尉、一人で飛んでいたらいま頃どうなっていたか分からない。」

 

「そうですか?」

 

桜葉少尉は少し考えたようだった。しばらくして納得したらしく、小さくうなずいてから答える。

 

「えぇと、それじゃ感謝しないといけませんね。」

 

リアスフェイル少尉に意外な反応が返ってきたので、少し驚く。

 

「援護ありがとうございました。」

 

「感謝なら雪風にしてくれ。私でもあいつにはだまされただろう。」

 

「でも私を援護してくれたのは、雪風を操縦していたあなたですよ。」

 

どう返せばいいのか分からなくなる。自分は課せられた任務をやっただけのつもりだったのだが。

ただ結果的に桜葉少尉を守ったのには違いなかった。

 

「そうなるのかな。」

 

「そうですよ。」

 

桜葉少尉は肯定してくれる。少し嬉しく思う。他の部隊の人間からこんなことを言われたのは初めてだった。

救助ポイントが近くなる。リアスフェイル少尉はシャトルのシステムをチェックし救助体制を整える。桜葉少尉も準備を終える。

 

「そろそろ救助ポイントだ。準備はいいか少尉。」

 

「はい、OKです。」

 

シャトルは救助ポイントへ向かって最終進入。

 

 

 

 

 

 

 

 

”途中ご都合主義が全開ですがご容赦ください。”

ナノとカズヤ君がどこへ行っていたかはまた今度書きます。

 

それにしてもGA�兇笋辰討い董▲淵離淵里�ら攻撃が外れたって通信が来る

頻度がやたら高い気がするのですが...

 

ちなみにナノナノが借りたシミュレータは紋章機に直接インストールする

タイプの物で、戦闘中のGの表現などは機体の慣性制動システムを使って

行います。シミュレータの状況設定に関する部分を借りてファーストエイ

ダーの挙動の再現はルクシオールのシミュレータから採っていると言う

設定です。

 

ついでに言うと、分かっているとは思いますが判事はタクトです。