ユンカー少尉とヤン少尉がルクシオールに着いてから、最初にぶつかった困難は道だった。ルクシオールの格納庫、第3.1世代機にあわせて最適化されているその構造は

まほろばのハンガーデッキとはあまりに違っていた。半二階建てのような構造になっていて、ユンカー少尉とヤン少尉が降りたのはそこの中階。紋章機整備用のスペー

スだった。人口重力を絶えず発生させているルクシオール級では、紋章機の整備のための足場が必要なので、パイロットの搭乗用とあわせて中階がある。

今いる場所は左舷側の第7ポート。将来において発見されるかもしれない新な紋章機の為に空けられているエリアだ。

 

「どっち行くの?」

 

「うーん、どっちへ行こう?」

 

ユンカー少尉が辺りをきょろきょろ見回しながらヤン少尉に聞く。ヤン少尉の方もまったく見当がついていない様に見える。ルクシオールの上構に上がるためにはエレベー

ターに乗らないといけないのだが、中階はルクシオールの艦首側を壁にしているので行き方が良く分からない。艦の後方にあたる方に扉の類はないかとヤン少尉は、コク

ピットハッチを空けた時に見回して見たがそれらしいものは見付からなかった。最高クラスのセンサー群を操作するオペレータなのに情けない。始めて来た艦とは言え格

納庫の出口も分からないなんて。ヤン少尉がそう思っていると、ユンカー少尉が突然、艦の前の方を指差して声を上げる。ついでに腕も引っ張られたので、そのまま従った。

 

「ねぇ、ウェッジ? あれ扉じゃないかな?」

 

ユンカー少尉の指と視線の先には、巨大なスライド式の扉があった。だがどう考えてもそこがつながっている所は、艦内の居住区ではなく艦外のシャトルベイ。

 

「格納庫の中身全部宇宙に捨てる気かいフリア? それをされると僕の財布の中身じゃ弁償できないから、自分で払ってよ」

 

引っ張られている腕を、逆に引っ張ってテユンカー少尉を止める。冗談交じりに返してみるが、今の言葉は少々まずかったらしい。ユンカー少尉の気がふさいでいるのを忘

れていた。案の定、すぐにユンカー少尉が暗い顔に変わる。

 

「え、違う? ...ごめん」

 

「あ...フリア? そんな顔しないでよ。えっと...気にしないから大丈夫。誰かに聞いてみよう」

 

ヤン少尉がフォローする。ユンカー少尉は、これこれだから大丈夫だと理由をつけて言ってやれば直ぐに分かってくれる。簡単な理由でもいい。長いこと一緒に飛んでいる

と自然とそう言う事が分かってくる。フォローするついでにユンカー少尉の頭をポンポンと軽く叩いてやる。ユンカー少尉は直ぐに表情を明るく戻してくれた。普段はこん

な事をしないが、今はしてあげた方がいいような気がした。普段とは少し違う表情を見せているユンカー少尉が単に可愛く見えただけかもしれないが。

 

「聞くって、誰に? 誰もいないよ」

 

あたりを見渡しながらユンカー少尉が尋ねる。確かに整備の人が数人は居ても良いはずだが誰も居ない。

 

「自動化が進んでいるとは聞いてたけど本当に人が少ないなぁ」

 

整備用か何かのワークステーションが見えるがそれも動いているようには見えない。ユンカー少尉興味の対象をワークステーションへ移して、近くへ行って眺めていた。

 

「まほろばよりも進んでるのかな?」

 

ステーションの周りを一周して、一通りを見てから振り向いて尋ねてくる。それへ答えながら側へ行く。

 

「そりゃ600年も後に建造されたEDEN軍の次期主力艦だからね、進んでて当然さ」

 

「でも、艦のコントロールシステムや個艦防空能力、情報通信能力はまほろばが上だよ。艦の構造だってより先進的な部分も多いし」

 

「それは、より高度な技術で作り出されたまほろばの方が進んでる部分だって多いよ。艦体の構造材だって重要部分はロストテクノロジーで造られた先進材料が使われてる

 し、電子システムだって解析不能なロストテクノロジーの塊だ。でもだからって、まほろばのほうが上とは限らないって君も分かるでしょ?」

 

「艦を運用するうえでコストがかかったり、損傷した時の完全な修理が不可能なのは欠点だけど、艦のシステムの完成度で見た場合はまほろばのほうが優越してるよ。

 それにエルシオールだってそれは同じ問題として存在したけど、立派に任務を果たして来たからそれほど大きい問題じゃないよ」

 

「性能じゃなくて、艦の価値は名前のあるルクシオールのほうが上だって言ってるんだよ。特にNEUEでは、ルーン隊とあわせてEDEN軍のシンボル的な存在なんだから」

 

「でも価値なら、まほろばの情報収集能力だって現代戦では大きな価値をもつよ」

 

「それもそうだけど...ところでフリア?居住区への行き方はどうするの?君と議論するのは楽しいけど、ティーラウンジか他の所へ行ってからでも出来るよね?」

 

段々と最初の話から逸れていき、これ以上やると収拾がつかなくなりそうなのにヤン少尉が気付いてやめようとする。今日のユンカー少尉は本当に何かおかしい。フライト

中は静かだったのに、ルクシオールへつき始めたころから普段以上に良く喋るようになった。やはり自分に不安を感じているのだろうか?ジェインウェイ隊長からは、自分

の正体に気付いてしまったようだと聞いているから油断できない。

 

「早く行こう、今日は長いこと飛んでいたから疲れた」

 

後ろからユンカー少尉の肩に手をおいて、人を探しに行こうと促す。一緒に歩き始めた時に、行く手の格納庫中央から声が聞こえた。

 

「あぁ!! あんたら、格納庫の気密チェック終わってへんのにもう出てきたんか!?」

 

声のした方を見ると作業服に身を包んだ少女が見える。ルクシオールの整備クルーの人だろうか?こちらへ走ってくる。

 

「ハザードランプ付いたから何やと思うたら、あんたらやったんやな?」

 

聞くと待機所で警報が鳴ったので慌てて来たらしい。勝手が分からなかったとは言え、自分達に非があるので謝っておく。

 

「すみません、機体がアレスティングアームに固定されたとメッセージが出たもので。降りてもいいのかと思ってしまって」

 

「まぁ、分かってくれたらええよ。ん..? 見たこと無い制服やな?」

 

今度は怪訝そうな顔をして、ヤン少尉達が着ているフライトスーツを見てくる。ルーン隊やムーン隊でもフライトスーツの類は採用されていないので珍しいのだろう。高度

な環境制御能力を持つ紋章機には不必要な装備だ。フェアリィの第4世代機でもそれは同じだが、膝にメモ用の電子パッドを付けれたり、たくさん付いているポケットに小

物をいろいろ入れられたりして便利なのでフェアリィでは良く着られている。無論、個人向けの自衛用火器も専用のホルスターに収められて腰の裏側に逆さまに携行してい

る。整備クルーの少女には、ユンカー少尉が応じてくれた。彼女はコンパクトかつ有機的なデザインにまとめれているPDWには気付いていないようだ。

 

「制服じゃなくて、ただのフライトスーツだよ。EDEN軍のほかの飛行隊でも使われてるのと同じ」

 

「へぇ、そんなんも有るんやな。ウチはルクシオールが始めてやさかい、あんまり知らんでな」

 

今度は感心したような顔表情に変わる。そのうち、ユンカー少尉の肩に付けてあるフェアリィの部隊パッチに気付いたようだ。

 

「ん? 今日フェアリィから来る人って、ひょっとして...」

 

「そうだよ、私達。 私はフリア、こっちがウェッジ」

 

左肩についているパッチを右手で引っ張って見せながらユンカー少尉が答える。黒とグレーの二色で妖精の羽根が2枚デザインされているだけの簡単なパッチだ。

 

「あぁ、そうやったんか。よろしくな、フリアにウェッジはん。ウチはコロネって言います」

 

「こちらこそ、それでコロネさん?格納庫の出口を教えてもらえないでしょうか?」

 

ヤン少尉が、コロネと名乗った整備員の少女に尋ねる。快活そうな見た目の印象どおりにすぐに応じてくれる。

 

「ええでぇ、始めてやものな。こっちがギャラリーデッキの入り口や」

 

付いて来いと身振りで示されたので後を追って格納庫の中を進む。だいぶ複雑な道を通って艦尾側の隔壁へ回り、ようやく居住区への入り口へたどり着いた。

 

「ほな、ウチは整備があるさかい、あとは自分で行き」

 

「どうも、すみませんでした」

 

扉のところで分かれて居住区へ歩を進める。まだ予定の時間までは余裕があるから何処へでも行けそうだ。

 

「さて、無事にウェイポイントを通過できた。何処で休憩しようか?」

 

艦内情報端末でもないかと辺りに注意を払いながら、傍らをぴったりと付いて来るユンカー少尉に話しかける。ユンカー少尉はしばらく考えをめぐらせた後でこう答えた。

 

「ねぇウェッジ?帰りの道、覚えてる?」

 

「あ...」

 

 

 

 

 

 

 

スクリーン上には見慣れないシンボルが揺れている。選択されている武装は機銃、表示されているモードはEEGS。機体の機動履歴をガンクロスの下にファンネルで表示し、

機銃の予想着弾点をこれを参考にしながら目標に重ねて射撃するガン射撃用のHUDモード。普段は感覚で偏差射撃をしているナノナノプディング少尉の苦手な射撃法だ。

機体をロールさせる度にクルクルと螺旋を描くファンネルの表示が理解しづらくて仕方が無い。エイミングシンボルを目標に重ねようと精一杯に機体を機動させるが、なか

なか照準が定まらない。

 

「あぁ、動いたら当たらないのだぁ!!」

 

RA003のセンサーで捕捉されTDボックスで囲まれて表示されている目標は複雑な機動でプディング少尉の照準をかわしていく。緩やかに旋回しながらプディング少尉を誘い、

RA3が接近して来たところで急激に旋回して視界から消えていった。センサーのロックも外れる。先程からずっど追いかけ続けているがこの調子でさっぱり当たらない。

やがて制限時間がいっぱいとなり訓練終了のメッセージが、シュミレーターの外で訓練を見守っていたカズヤシラナミ少尉の声と共に表示された。

 

「ナノナノ、タイムアップ。射撃訓練は終わりだよ」

 

「カズヤァ、このサイト全然当たらないのだぁ!」

 

プディング少尉が訓練の不調をシラナミ少尉に訴える。かなり不機嫌そうな声がシュミレーターの内部から聞こえてくる。どうせまた接近率やTシンボルを無視して照準した

のだろうと思ったので、シラナミ少尉がそのことをたずね返す。最近はフライト訓練の後のこれがお決まりの挨拶代わりになっていた。

 

「ナノナノ、ちゃんと接近率や他の情報をを見て狙った?この前も言ったけど、ファンネルはファーストエイダーの機動しか反映されていないんだから、標的の動きに合わせ

 てエイミングラインのシンボルをあわせないといけないよ。」

 

「そんな事は分かっているのだ! ナノナノをバカにするななのだ」

 

標的を撃墜するどころか命中弾すら与えられなかったプディング少尉が悔しそう顔をしてシュミレータから出てくる。フェアリィの第四世代機から移植された新しい機銃の

照準システムのおかげで、プディング少尉は苦手を克服したばかりのガン射撃をもう一度特訓するはめになっていた。

 

「あのびよーんって伸びるヤツが大変で、なかなか当たらないのだ」

 

びよーんと伸びるヤツとは、おそらくファンネルのことだろう。

 

「うん、EEGSは前のとはだいぶ違うからね。でも慣れたら偏差射撃もやり易いらしいから頑張ろう」

 

シラナミ少尉が励ます。RA3は遭難して機体に大きなダメージを受けたを修理するついでに小改修を受けていた。早く使いこなせるようになってもらわないといけない。

兵器システムがフェアリィの機体に近い形態になっているのでプディング少尉にはなれるまで時間がかかるだろうが。

 

「頑張るけどそれは次からなのだ。今日はもう終わりなのだ!」

 

シュミレーターから降りてシラナミ少尉の近くに来ながらプディング少尉が返してくる。確かにそうだろう、焦っても仕方が無いとシラナミ少尉もそう思う。

 

「わかったよ、もう終わろう。そうだ、せっかくフライトが無くてゆっくり出来るんだから、展望公園でも行かない?」

 

「それならカズヤがなんか持ってくるのだ! 訓練ばっかりもう嫌になるのだ!」

 

プディング少尉はまだイライラとした声を発し続けている。こう言うときのプディング少尉は断りきれるものではない。ヘタに扱うととんでもない目にあう。たしか、セルダ

ールの衛星で休暇をもらったとき、休暇が終わってルクシオールへ戻ってからがそうだった。あの時は大変だった。

 

「えぇ?... それじゃ、すぐに何か簡単なものを作って持って行くから。そんなにイライラしないで先に行って待ってて」

 

「...分かったのだ。今日は、ママもフリアも来てるから呼んでくるのだ」

 

シラナミ少尉が分かったと答えると機嫌は普通に戻ってくれた。ただ気になるのはプディング少尉が言った”フリア”が誰かと言うことだ。そんなクルーの名前は聞いたこと

が無い。四人分作るとなると、サンドイッチくらいしか間に合いそうに無い。仕方ないな。

プディング少尉とシュミレータルームを出て、しばらく行ってから別れてルクシオールの食堂の方へ向かう。途中振り返るとクロノクリスタルで連絡を取っているプディング

少尉が見えた。嬉しそうな顔が遠くからでも良く分かる。

 

「でもフリアって誰だろ...? ま、いっか」

 

そういえば、何処かの飛行隊の早期警戒機がルクシオールに来ていたような気もする。なんだか会うのが楽しみだな、そう思いながらシラナミ少尉は食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

銀河展望公園といえば、ルクシオールでは格納庫に次いで広い空間を占有している施設となっている。つまり、初めてここへ入り込んだ人間が、もし方向と道順の認識能力

に欠けていたら外に出ることは難しい。何せ壁を伝っていこうにも、ホログラフで艤装されていて容易に見つけることが出来ない上に、水平線まで投影されているのだから

自分がどこにいるか把握するには周りの施設を見るほかに無い。とりあえず面白そうだと思って、ヤン少尉を誘って安易に入ったのは間違いだった気がする。ユンカー少尉

がそう思ったのはその奥深くへ入り込んで脱出不能となった後だった。どうすればこれほどの空間を再現できるのか、ロストテクノロジーは不思議だ。

 

「さて、今度は君が航法ミスをしちゃった訳だ」

 

クルーが散歩をするために設けられている遊歩道を彷徨いながらヤン少尉が話してくる。歩いていればそのうち出られるだろうと思っていたが、どこまでいっても森の中

だった。戦闘艦の中にあるとはとても思えないほどに広い。

 

「さっきのはこれでチャラ。いいよね?」

 

「うん...ゴメンなさい...」

 

からかう様な口調にも、ユンカー少尉はいつも通り答えられない。今日は謝ってばかりの様な気がする。昨日から本当についてない。

 

「あの、...大きな扉で、その..気になったから...」

 

「好奇心があるの良いけど、もう少し慎重に行こうよ。初めてなんだから」

 

ヤン少尉が半分呆れたような声で返してくる。

 

「ま、いいか。お互いに気をつけようよ。さてと...」

 

ヤン少尉がそう言ってから少し立ち止まって辺りを見渡す。ユンカー少尉がヤン少尉の視線を追っていくとベンチが目に入った。それを見つけてからヤン少尉の方へ向き直る。

 

「腰掛もあるし、ホログラフとはいっても景色もいいし。ちょうどいい所だと思わない? ま、手元にあるのは航空食くらいだけど休もうよ」

 

「うん、そうだね」

 

どこの公園にでも置いてある物と変わらないベンチへ二人で横並びに腰掛ける。胸元のポケットから、スティック状に加工されたクラッカーのような航空食を取り出しながら

ヤン少尉が最初に話しかけてきた。

 

「ところでさ、ルクシオールへ着いてから妙に感情の起伏が激しいような気がするけど、何があったの?」

 

ほつれた糸に引っ掛かってか、なかなか取り出せないパッケージと格闘しながら聞いてくる。

 

「え、いや...えぇと、別になんでもないよ」

 

「へぇ、と言うことは何かあった訳だ。 はいこれ」

 

あわてて否定しても、相棒にはお見通しだった。やっと取り出したパッケージの保存用に特殊加工された袋を破ってクラッカーを渡してくれる。何をどう話せばいいのかここ

へ来るまでに結局考えつかなかったので、渡されたクラッカーを食べてごまかす。ぱさぱさしていて美味しく無い。

 

「最近まで忙しくて聞いてあげられなかったけど。ゴメンね。」

 

「いいよ、そんな事...話さなかったのも悪いし」

 

「前から時々、不安げな顔してたから気になってね。何か関係ある?」

 

「え、あ..それは...」

 

「まぁ、僕に言いたくないならいいよ。アッシュ少佐にカウンセリングしてもらいに来たんだから、少佐と話してスッキリしておいでよ」

 

昨日の出来事を伝えるには今が一番いいのだろうが、ユンカー少尉はどうしても戸惑ってしまう。ジェインウェイ大尉からは信じろと言われたし、自分でもヤン少尉を信じて

いるつもりだがどうしようもできない。自分を気遣ってくれる言葉に申し訳なく思う。

 

「隊長から聞いてない?精神健康上の問題を認めるので受診せよ、つまり悩み事はキレイにして来なさいってこと」

 

「私、別にどこも悪くないよ」

 

「強がらない、強がらない。自分が嘘をつくのは下手だってそろそろ認識したらどうだい?早期発見早期対処はどんな場合でも成り立つ問題解決の近道。

 ほっとくと酷い目にあうから早く治しとこう。敵の防空システムの制圧をする時に困る。何か協力できることがあれば、協力してあげるからさ。

 相棒の問題に自分は無関係だとは行かないから。」

 

ユンカー少尉が黙っているとヤン少尉はいろいろと励ましてくれる。こう言われると、しっかりとカウンセリングを受けてスッキリさせるのが一番のような気がする。

ヤン少尉にはその後で、落ち着いて話せばいい。ヤン少尉ならその時に話しても分かってくれるだろうと思う。

 

「うん、スッキリさせてくる」

 

「でもまぁ、それもあと4時間以内にここを出られたらだけどね。まずはこの”不可知”戦域を脱出しないと」

 

「えっと、出口探してくるね」

 

「でも急ぐことも無いと思うよ。休むにはちょうど良いとこだから休んでからでもいいよ」

 

半分食べかけのクラッカーをベンチへ置いて、ユンカー少尉が一人で行こうとするのでヤン少尉が引き止める。確かにあと4時間もあれば何とかなる気がする。

 

「とりあえず全部食べてからにすれば?」

 

「そうだね」

 

ユンカー少尉がそう言ってベンチへ座りなおした時に、春燕からのデータ通信を受信したことを示す電子トーンが鳴った。ユンカー少尉が鳴ったのは自分のパッドだと

確認して、膝につけてあるその電子パッドを外してメッセージを読み取る。まほろばにあるユンカー少尉の個人用情報端末へのパーソナルコールを春燕が中継してくれ

たらしい。

 

「どしたのフリア?」

 

「ナノ少尉から展望公園へ来ないかって誘われた」

 

パッドへ付属のタッチペンで返信を書き込んでからユンカー少尉が答える。

 

「それで、なんて答えたわけ?」

 

「もう来てるから見つけてごらんって送ったよ」

 

「うまいこと考えたね」

 

「へへ」

 

 

 

 

 

 

 

プディング少尉がユンカー少尉たちを見つけるのにかかった時間は長くはなかった。ルクシオールへ来て3年近くたてば構造を知っていて当然だろう。

 

「つまり、ホロデッキなの?」

 

「うーん..良く分かんないけど、多分そうなのだ」

 

プディング少尉から展望公園についての概略を聞いてから、ユンカー少尉がそうたずねる。プディング少尉は少し間をおいてからそれに答えた。長期にわたる深宇宙探査任務

にも対応できるように設置されている、この施設についてのプディング少尉の説明はかなり簡単なものだったが、要点はまとめられていたのでユンカー少尉も大体は理解でき

た。

 

「風も空も、みんなあるのだ。だから、ここの木や草は全部本物なのだ」

 

「へぇ、すごいね。でも、ここの施設にコンピュータのリソース取られないの?」

 

「警報レベルが上がったりすると、ホログラフの情報処理は停止するから大丈夫なのだ。でもそういうときのここはちょっと寂しいのだ」

 

ユンカー少尉がさらに質問して、プディング少尉がそれに答えたときにヤン少尉が会話に入ってくる。

 

「話しているところ悪いんだけどさ、この子知ってるの、フリア?」

 

「ナノ少尉だよ。ルーンエンジェル3、前に救難ミッションで飛んだときに捜索対象だった機のパイロット。あれのちょっと前くらいから、メールとかでいろいろ連絡

 し合ってたの。シムを貸してあげたり、電子ブック借りたり」

 

「そうなのだ。この前、ナノナノが間違い電話かけたら、出たのがフリアだったのだ。もう友達なのだ」

 

ヤン少尉の問いに、元気のいい声がステレオで答える。ユンカー少尉もプディング少尉も、まるで久しぶりに会った友達同士のように楽しそうにしている。実際に会うのは

今日が初めてだとは思えないくらいに打ち解けていた。似たもの同士だからだろう。雰囲気が良く似ている。

 

「え、パイロット?そうだったの。 えぇと..少尉、名前は?」

 

「ナノナノなのだ」

 

プディング少尉が右手を上げて答える。ここに居ますよと存在をアピールしているように見えた。それに続けてユンカー少尉も説明を付け加える。

 

「間違い電話って言うのは、ナノ少尉がエルシオールへ艦隊内通信を繋ごうとして、間違えてまほろばにつながったんだって。ほら、白き月戦略航空軍団の番号って似たよ

 うなのが多いから。ゼロを幾つか間違えたんだったよね?」

 

「ゼロをくっつける所を間違えたら、変なとこに繋ったからビックリしたのだ。でもそれでフリアと会えたのだ」

 

「ふーん」

 

それからしばらく話しているとヴァニラ アッシュ少佐もやってきた。スケジュールに比較的余裕があったのでルクシオールへは昨日連絡を受けてからすぐに来ていたらしい。

プディング少尉の話ではカズヤシラナミ少尉と言うRA0、ブレイブハートのパイロットも来るらしいのだが、アッシュ少佐は早く来れているのなら時間が取れて都合がいいと

言ってシラナミ少尉を待たずにユンカー少尉を連れて行ってしまった。

 

「それではウェッジさん、フリアさんを少しの間預かっていきます。それと、あなたにも話しておかないといけない事があるので、私が呼ぶまでカズヤさんとお話でもしてい

 て下さい。フリアさんの事は心配要りません」

 

アッシュ少佐はこう言ってユンカー少尉を連れて行った。待っていろと言われれば待っているしか無いのでプディング少尉と二人でシラナミ少尉を待つことにした。

それにしても、プディング少尉とユンカー少尉の雰囲気が良く似ているのには驚かされる。もっとも、その後でシラナミ少尉から、プディング少尉がナノマシンだと聞いた

驚きに比べれば小さなものだった。同じような存在なら雰囲気が似ているのも当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユンカー少尉を連れてアッシュ少佐がやって来たのは公園の端にある射撃場だった。ホログラフ投影によって数百ヤードもの長距離射撃を仮想的に体験できる屋外レンジだ

が、その高性能に比較して利用者は少ない。実際、今来た時もそこで銃を撃っているものはいなかった。ただ、この状況はアッシュ少佐にとって、自分が今使用としている

ことには都合が良かった。ユンカー少尉に彼女の正体を言葉で言っても理解してもらえそうには無いので、直接的に示す必要があるとアッシュ少佐は感じていた。

 

「あの、少佐? ここで何をするのでしょうか?」

 

ユンカー少尉が不安げに尋ねてくる。

 

「心配は要りません。カウンセリングと言っても、長い時間をかけて説明することではないので」

 

こんな所があること自体意外と言った様子のユンカー少尉へ、静かな調子の声で伝える。

 

「ここは訓練用ではない、フリーのシューティングレンジです。どうでしょう?」

 

「...? 何がですか?」

 

「少し射撃でもしませんか?撃つ時の音は遮蔽してありますから、ナノナノやカズヤさん達を気遣うことはありません」

 

アッシュ少佐はレンジのホロスケールを操作しながら答える。ユンカー少尉はキョトンとした顔をしてくる。

 

「フォルテさんから、貴方のPDWについて聞いてきてくれと言われているんです。少し見せていただけますか?」

 

「え、はい。いいですけど。ここまで来たのは、話と何か関係があるんですか?」

 

「いえ、特には関係ありません。ここなら都合がいいだけです」

 

状況がよく分からないと言った様子のユンカー少尉だが、腰の後ろに留めてあるホルスターからPDWを取り出して、マガジンと本体を別にしてアッシュ少佐へと手渡す。

受け取ったアッシュ少佐の方は、しばらくの間構えてバランスを見たりボルトオープンで構造をチェックしたりしていたが、マガジンへ目を向けたときにユンカー少尉へ

質問してきた。

 

「これが、まほろばでトライアル中の軽量高速弾ですか?」

 

「そうです、Hkの4.6×30。ウェッジはTypsDM/11とか言ってました」

 

「ルクシオールでは別の弾薬がテスト中です。FNハースタル製5.7×28...メルパさん達、ルクシオールクルーのP-90で使われています」

 

アッシュ少佐はマガジンから弾丸を一発だけ抜き取って手の上で転がして眺めている。またしばらくしているとユンカー少尉が困惑した声で聞いて来る。

 

「あのぅ、少佐? ここに来た理由がよく分からないんですけど、ウェッジからはカウンセリングがあるって...」

 

「物事には色々と順番があるものです。あまり焦らずに。幸いに時間はまだまだあります」

 

「あ、はい...分かりました...」

 

「試射してもよろしいですか?」

 

マガジンをグリップに戻してアッシュ少佐が尋ねる。ユンカー少尉から了解を取るとレンジの距離を20ヤードほどに設定して銃を構える。ストックを引き出して立射。

セミオートで数発をホログラフターゲットへ打ち込む。ユンカー少尉からは命中位置を示す赤いマークが、弾丸が発射される度にターゲット増えていく様子が見えた。

アッシュ少佐は手元のモニターで命中部位を確認したらマガジンを抜きボルトオープン。安全装置をセーフへした銃を台へ置いてユンカー少尉の方へ向き直る。

 

「反動が小さくて撃ちやすい銃です。フォルテさんも気にいるでしょう」

 

「私でも人並みに撃てるから、反動は小さいと思います...」

 

ユンカー少尉はそう言いながら銃を取り、今度は自分がターゲットを狙う。確かめるように3発ほど撃ってから銃を再びアッシュ少佐へ渡す。

 

「そうですね...完全なアンビテクストラトスデザイン、上部にはピカニティレールとダットサイト、折りたたみ式のフォアグリップとストック...」

 

アッシュ少佐が呟くように喋る。何かのタイミングを見ているようにも見える。銃を見回しながらマガジンを銃へ装填しなおす。

 

「4.6×30軽量高速弾は200ヤードでもボディアーマーを貫通するそうですね」

 

「え、はい...」

 

「ハードーゲットに対しては、その小口径と高速で高い貫通力を発揮し」

 

アッシュ少佐がコッキングハンドルを引いて初弾を装填し、再び20ヤードの距離にあるターゲットへ撃つ。

 

「そして、ソフトターゲットへは、その最適な重心設計により標的内部で回転し効果的に運動エネルギーを伝える...標的が貴方ならどちらでしょうね、フリアさん?

 人であればソフトターゲットですが、ハードターゲットであれば...」

 

セーフティを掛けていない状態の銃をアッシュ少佐はユンカー少尉へ突き付ける。突然の予期しない展開にユンカー少尉は対応が取れない。

 

「そう例えば...加圧時の瞬間的な強度増加のような措置が取られたナノマシン集合体等では」

 

「少佐...ちょっと、何する気ですか...」

 

「フリアさん、貴方は自分が何であるか分かりますか?」

 

ユンカー少尉の言葉をさえぎってアッシュ少佐が聞く。

 

「分かりませんよ...そんな事...」

 

「分からない...正直なところはそうでしょう。では、紋章機や無人機の声が聞えたり、ケガをしてもすぐに治るのは何故でしょうか?」

 

「それは...」

 

「他にもあるはずです、フリアさん。あそこにホロターゲットが見えていますね?先ほど私が撃っていた標的です」

 

銃を構えたままアッシュ少佐が質す。赤いマークが所々に付いたターゲットはまだ表示されていた。

 

「はい...見えてます」

 

「あれは赤外線域で投影されている標的です。私は予めターゲットを出現させる場所が分かっていたのでそこへ向けて銃を撃つことが出来ましたが、あなたはどうやって

 銃を撃ったのですか?それは、今も貴方が言ったように見えているのからですね?おそらく紫外線域で投影してもターゲットの判別くらいは出来るでしょう」

 

「...赤外線?」

 

「視覚に完全にインテグレートされているので気付かなくて当然です。貴方には自分で、貴方がどう言う存在であるか理解してもらう必要があります」

 

「..意味が分かりませんよ少佐、銃をおろして下さい...それに、私は普通の人間ですよ...」

 

ユンカー少尉の口調が恐怖でこわばってくる。アッシュ少佐は普段どおりの表情を崩さないでさらに問い詰める。

 

「本当ですか? 気付いていらっしゃるはずです、貴方は普通ではないと。どうしても認めたくないのならば、私は貴方に事実を示さなければなりません」

 

「...事実?」

 

「そう、まずは事実を示します。説明は後でウェッジさんから聞いてください、彼からの方がふさわしい」

 

「示すって..まさか...ほんとに撃つ気ですか...」

 

ユンカー少尉の顔に恐怖の表情がはっきりと出てくる。だがアッシュ少佐が銃をおろす気配は無い。

 

「はい、これではっきりします」

 

「..嫌ですよ、そんなの...死んじゃうよ..」

 

「大丈夫です。少し気を失うくらいですみます、人の症状で言うならですが」

 

「..嫌だ...そんなの..少佐...」

 

「何が嫌なのですか、フリアさん?自分の正体に気付くのが怖いのですか?」

 

「嫌...いやだよ...助けて..ウェッジ...怖いよ..」

 

「そうですか...すみません、フリアさん」

 

アッシュ少佐がトリガーに力を掛ける。銃はその命令に背く事無く、メカニズムに従って弾丸を撃発させた。銃声が一発レンジに響いて消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッシュ少佐は次にヤン少尉へ連絡を取ってレンジへ来るように伝えた。しばらくして姿を現したヤン少尉は、倒れているユンカー少尉に別に驚いた様子も無くアッシュ少佐

の所まで歩いてくる。

 

「しかし少佐、やり過ぎじゃないですか?何も急所を撃ち抜かなくても。」

 

「フリアさんには逃れようの無い事実を示す必要があります。それと貴方と話す時間が欲しかったからです。」

 

「話ですか」

 

「そうです、フリアさんについて」

 

「フリアを見つけたときも、同じような事をおっしゃられましたね」

 

ヤン少尉は倒れているユンカー少尉を抱き起こして、木にもたれさせながら答える。開いたままの目蓋から見える光の無い瞳が痛々しい。そっと手を当てて目を閉じてやる。

 

「復習ですか?」

 

「それは必要ありません、新しく伝えることがあります」

 

「新しく?...何か分かったんですか? 見つけたときは、これ以上は調べようが無いとおっしゃっていましたけど」

 

ヤン少尉はユンカー少尉が倒れないように横から支えながら話す。

 

「あの時に全てを伝えた訳ではありません」

 

「そうですか」

 

あの時とはヤン少尉がユンカー少尉を発見たときの事だ。ヤン少尉はその当時を思い出してみる。ヴァルファスクとの戦争終結後に行われた白き月内部の大規模再調査の

時だ。第三世代機が格納されていた区画が閉鎖されたよりも後の年代に造られた区画の再調査。その時は多くのロストテクノロジーに関する情報やロストテクノロジーそ

のものが発見された。第四世代紋章機、高度な情報ネットワークシステム、先進センサーシステム、高機能素材、さらには完全自律行動が可能な無人戦闘システム。旧文

明時代末期の戦争の激化の影響を受けてか軍用目的の物が多い。少ない戦力で効率的に敵と戦えるような物ばかりだ。

外見だけではあるが、ユンカー少尉はその中だ数少ない例外の一つだった。

 

「それにしても、あれはビックリしました。新しい機体が見つかったからとりあえずコクピットを開けてみろといわれて、中へ入ってみれば女の子がシートで寝てるんで

 すよ。しかもすぐに目を覚ましたかと思うといきなりまた意識を失うし。最初の出会いとしては悪い、いえ、衝撃的な部類だと思いますよ」

 

「そんな事はありません」

 

アッシュ少佐はゆっくりとした口調で話す。

 

「そもそも始まりは、さして重要でありません。その後です、大事なことは」

 

「そうですね。その後は、...ええ、順調ですよ。二人でよろしくやっています。でも僕が早期警戒機のオペレータをしているとは、白き月にいた頃は想像もしません

 でしたよ。」

 

「未来は分からないものです」

 

アッシュ少佐は静かにそう言って、一旦間をおいてから本題へ話を進める。

 

「それでは、ウェッジさん。いろいろと訂正したり新しく伝える事ですが...」

 

「はい」

 

「まずフリアさんがナノマシン集合体の実証システムであることはご存知のはずです。それに覚えていらっしゃると思いますが、発見当時のフリアさんには自身に関する

 記憶、正確に言えば自身が関連していたもの全てに関する情報がありませんでした。そこで保護観察のために、代わりになる記憶と自身についての基本的な認識を与え

 て、当時編成作業中だったフェアリィ隊へ貴方と一緒に配属しました。以前にお伝えしたことは、簡単に言えばこのようになります」

 

ヤン少尉は黙ってアッシュ少佐の説明を聞く。第一発見者だからなのか、それとも当時のアッシュ大尉にユンカー少尉の名前を考えてやって欲しいと言われたからか、白

き月の中ではごく平凡だったヤン少尉は突然にフェアリィへ配属された。今思えば何故自分なのかが疑問だった。

 

「以前にお伝えしたときには、フリアさんに本当の情報を与えなかった理由を殆ど言っていなかったので今お伝えします。最初に伝えておくべき事はフリアさんを創り出し

 たかつての計画です。ライブラリで検索したところによれば、フリアさんの元はナノマシン集合体による多目的ヒューマンインターフェイスの実証計画に行き着きます。

 後にナノナノを生み出したこのプロジェクトの目的は、当時実用化されていたナノマシン治療の技術を無人で運用することだったようです。当時ヴァルファスクとの戦争

 によって、有能なナノマシンオペレータが特に民間で不足していていました。それを解決するための方策が、ある程度の介護能力を持った自律ナノマシンの開発です」

 

「それがフリアですか...」

 

「いいえ、これの結果はナノナノです。フリアさんはその過程で製作された自律ナノマシンコンプレックス実証モデル、つまり技術デモンストレータです」

 

ヤン少尉が再びアッシュ少佐をさえぎって聞く。

 

「でも少佐、ナノ少尉より先に生まれていたフリアが、どうして第四世代機と一緒に見つかるんです?年代が百年単位で違ってきますよ」

 

「それはこう言うことです。この計画はNEUEとの共同で進められていた計画でした。当時はNEUEがナノテクノロジーに関してはEDENを上回っていたからです。技術で遅れる

 EDENはNEUEからの技術協力の下、まずは必要なそれぞれの技術を平行して開発しました。それらを統合した実用モデルがナノナノのようなナノマシンたちです。

 ところで、ウェッジさん。新型機の試作型が新型機の実用化後に各種試験に度々用いられることはご存知だと思いますが、フリアさんの場合も実はそうでした。

 正確な期間はわかりませんがかなり長期間にわたり各種の試験が行われていたようで、今でもその当時の機能が幾つか残っています。赤外線から紫外線領域まで知覚でき

 たり、ネットワーク化戦場に対応したデータリンクシステム等がそれです。これらの機能は、将来歩兵哨戒システムの実証試験時に装備されたものです。惑星奪還を主任

 務としていた旧EDEN空間海兵隊の、自律ナノマシン達に危険地域の哨戒や偵察をさせて欲しいとの要望で開発が開始され、保存されていたフリアさんで実証試験が行われ

 たようです。さらに時代が下ると、人的な損害にはならないナノマシン達に早期警戒機や輸送機の操縦能力を付加するなどの試験も行われました。フリアさんがハミング

 スワロー、春燕と一緒に見つかったのはこれと関係があるようです。実際、彼女は春燕を完璧に飛ばしています。

 しかし、大切なことはこれから先で、それも幾つかあります」

 

言葉を選ぶように、少し間をおいてからアッシュ少佐が続ける。

 

「大切なこと...そう、フリアさんにとって重要なのは、ナノナノと決定的に異なる部分があることです。いいですか、よく聞いてください。

 まずフリアさんには感情がありません。それと、オペレータの指示なしには何も出来ません」

 

「ちょっと待ってください...感情が無いって、確かにフリアはナノマシンだけど行動はどう見ても普通の人間と変わりませんよ。

 笑ったり、落ち込んだり...不安がったりもしますよ?」

 

ヤン少尉が驚いて声を上げる。アッシュ少佐は動じる事無く、当然のことのように淡々と続ける。

 

「その程度のことなら今の我々の技術レベルでも再現することは可能です。感情をシュミレートする事と、発生させることは少し意味合いが違います。

 そもそもフリアさんはナノマシン集合体のうち、身体を構成する部分の技術を実証する事が目的でした。だから頭脳にあたる部分の構造がナノナノとはまったく違います。

 最初は簡単な応答能力だけが与えられていて、擬似感情システムは将来歩兵哨戒システムの試験時にソフトウェアに組み込まれました。人間と共同行動を取るにはある程

 度の感情を表す能力が必要だからです。ですが基本的に自分の状態を表す事しか出来ませんし、表面に現れている感情がどのような状態の時でもオペレータからの質問に

 は確実に答えます。つまり、感情がフリアさんの行動を規制する事はありません。それと一度注意を与えたことは基本的には守っているはずです。覚えはありませんか?」

 

「確かにそうですけど...」

 

アッシュ少佐の口調はヤン少尉にショックを受けているような暇を与えない。

 

「ただし、例外はあります。例えば、何か危険な状況で”気を抜くな”と注意を与えたとします、この場合フリアさんが現状が危険ではないと判断した場合その注意に従わな

 い可能性があります。そしてその判断基準ですが、大体の場合は貴方の行動を元に判断します。しぐさや口調、視線などです。

 さらにフリアさんが持っている感情の再現能力は、主に自分の状態を行動で示すことを目的に設計されているので、フリアさん自身が”何かをしたい”とか”物事をこう言

 う風にしたい”というような感情を持つことはありえません。そういう感情を持っている様に見えることがあっても、それは何か別の目的でそう振舞っているだけです。

 ほかにもあります。物事を否定的に捉える事ができない事もそうです。何かが、或いは誰かが嫌いだという感情がありませんから」

 

「つまり、表情もしぐさも全部作り物ですか」

 

「そう、全てそうです。ナノナノとはここが一番違います。専用のナノマシンをあたかも本物の神経細胞のようにつなぎ合わせて、ほぼ完璧に人と同じ方法で情報処理をして

 いるナノナノでは、人格や感情といったものがハードウェアの段階で備わっています。もちろん、完全に人と同じというわけではありませんし、人格を構成するものにソフ

 トウェアも入っています。ただファーストエイダーのHALOが反応している事でも分かりますが、ナノナノは本当の意味での意思を持ったナノマシンとして出来ているのです。

 しかしフリアさんはそうではありません。フリアさんの人格はソフトウェアとして組み込まれているだけです。人の思考パターンを模したニューラルネットを持ち、システ

 ムそのものを成長させていく機能ももっててはいますが、意思を持つまでには至っていません。ですから人格の改変も可能ですし、特定の人物の命令だけを聞かせることも

 容易です。技術的な困難もあったのでしょうが戦場で歩兵に随伴して行動するという目的上、その方が良かったということの方が大きいでしょう。

 より機械的な部分を多く残している方が、兵器としては都合がいいですから。例えば情報の共有を素早く行えます」

 

「つまり、人間なら他人からいちいち習うか教えて貰わないといけないけれど、機械なら一つの固体が持っている情報や技能を迅速に共有できる?」

 

「そう、機械同士ならそれが可能です。そして次に話すことは、何故フリアさんに自分自身に関する情報を与えなかったかと言うことです。まず、度重なる試験時のデータ

 初期化によってフリアさん自身には相当な負荷が既にかかっています。さらに情報を守るためのプロテクトもかけられていました。これは正しい方法で再起動しなければ、

 自身とそれに関連する情報が失われて、フリアさん自身が自分で人格を崩壊させるように設定されているタイプのものです。発見時にいきなり倒れたのはこれが原因だった

 のでしょう。もしあのとき放っておけば、またパニックを起こしてシステムに異常な負荷をかけて簡単に再起不能まで行っていっていました。それを防ぐために白き月の施

 設を使って偽の情報を与えたのです。技術も時間もなかったので後で自分の存在を再認識させる必要がある不完全なモノになりましたが、あの時の最善ではありました」

 

ここまで一気に喋ってから、アッシュ少佐は少し間を区切り、話の方向性を変える為のタイミングを計る。そして、しばらくしてからまた喋り始める。口調は先程と変わらない。

 

「不可抗力だったとは言え、フリアさんのプロテクトを作動させたのは、ウェッジさん、貴方でした。そして、プロテクトの作動領域外であるオペレータ登録機構にそのタイ

 ミングでオペレーターとして認識されてしまったのです。かつての意匠を引き継いでいる白き月の制服を貴方が着ていたからかもしれません。

 貴方にフリアさんの呼び名をつけて欲しいと頼み、フェアリィに一緒に配属させた理由はこれです。フリアさんには自分に指示を与えてくれる人が絶対に必要でしたし、

 名前をつけるという事は貴方にフリアさんについて、...言葉が適切とは思えませんが一種の責任を負ってもらいたかったからです。」

 

「そういう事だったんですか...でも少佐、もっと前に教えてくれても良かったのでは?」

 

「勝手なことをしたとは思っています。貴方に本当にフリアさんのオペレータを務めることが出来るか分からない状況で詳細を話すわけには行かなかったのです。ナノナノも

 含めた二人のナノマシンは一部の研究者からは調査すべき対象として絶えず狙われています。うかつに情報を漏らして彼らに攻撃材料を渡すわけには行きません。今はエン

 ジェル隊、フェアリィ隊の搭乗員として保護されていても、彼らが何かの問題点を見つけそれに付け込んで部隊から追い出させるように仕向ける可能性もゼロではないの

 です。部隊の外に出ればもう私達ではどうしようもありません。敵は外だけではないのです。ですから最小限の情報しか貴方には与えませんでした。

 しかしその後の経過、セシルさんからも報告して頂いていました。これを見れば貴方は自分の役割を良く務めてくださっていたようです。

 これからもフリアさんをよくしてあげてください。そうして頂けると思ったからこそ、今日フリアさんについての事を貴方に知らせました。

 お願いできますね?」

 

アッシュ少佐の穏やかな口調の中にある強い意思を感じて、ヤン少尉は一瞬戸惑う。ただこうなっては引くにも引けないし、ヤン少尉自身ユンカー少尉を見捨てる気などない

ので答えは決まっている。

 

「...えぇ、もちろん。だって僕の相棒ですから」

 

「分かりました。ではこれを」

 

アッシュ少佐が茶色いふさふさのかたまりのようなもを取り出して、ヤン少尉に手渡す。

 

「何ですかこれ?」

 

「預かっていたフリアさんの拡張メモリとオプション装備です」

 

手渡されたオプションはさわって見ると内部に薄いプレート状の構造が確認できた。ただ外見は小動物かなにかの耳にしか見えない。

 

「動物の耳にしか見えませんよ」

 

「ミリ波レーダーの射界確保を優先するとそういう形になったんです。ふさふさは緩衝材です。フリアさん自身の情報を収めてあるので、取り付けてあげれば

 自分のことを理解するでしょう。不安定になるかもしれませんからフォローしてあげてください。取り付けはもとの耳の上からかぶせてあげるだけです」

 

「分かりました」

 

「それとウェッジさん、今言った事は全てフリアさんの構造に関わる部分で、フリアさん自身の事でありませんから注意してください。では、幸運を...」

 

アッシュ少佐はそう言ってシラナミ少尉たちのいる方へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユンカー少尉が起きるのを待っている間の時間は予想外に長かった。ヤン少尉はその間、何をユンカー少尉へ話すべきか考えたり、予定時間通りに帰艦出来そうに無いと

春燕経由でまほろばへ連絡したり、最後にすることがなくなってからは意味もなく携帯端末を操作してすごしたが、ユンカー少尉の傍を離れることは無かった。

数時間以上がたってルクシオール艦内のタイムテーブルもすでに夜間時間になっている。

 

「あ、起きた?大丈夫?」

 

やっと目を覚ましたユンカー少尉を、覗き込みながらヤン少尉がたずねる。ユンカー少尉は目を開けてからしばらくは焦点が定まらない様子で虚ろにヤン少尉を見つめて

いたが、名前を呼ばれると意識もはっきりしたようだった。

 

「ぁう...ん..ウェッジ?」

 

「僕じゃ嫌だった?」

 

「ううん、ウェッジがいい...」

 

仰向けでヤン少尉の方を見ながらユンカー少尉が答える。心配そうに自分を見つめているヤン少尉とはまるで久しく会っていなかった様な感じを受ける。数時間前に別れ

た事がひどく昔のことのようだ。

 

「起きれる?」

 

「ぅん...ぅわっ!」

 

ヤン少尉に応えて起き上がろうとするがうまく起き上がれないで途中で倒れこむ。体にうまく力が入らない。

 

「あ、無理しなくていいから。 ...そうだ、撃たれた痕大丈夫?痛まない?」

 

「うん、痛くはないよ...ただ熱いだけ」

 

「それって痛いんじゃない? ならしばらく横になってて。少しは和らぐと思うよ」

 

「ごめんね..」

 

言われてユンカー少尉は大人しく仰向けで横になる。また謝ってしまったと考えると、今日は本当にヤン少尉に迷惑ばかりかけていると思えて申し訳なく思えた。

そんな気分でホログラフの星空を見上げているとなんだか泣きたくなる。どうして謝ってばかりなんだろう?

 

「いいよ、あれは仕方なかったでしょ? 自分に非がないときまで謝る事ないさ」

 

「うん...」

 

ユンカー少尉は返事をしてからもう一度謝ろうとして言葉をとぎる。本当に自分に非がないのだろうか?今日の事は全部自分のせいに感じる。

 

「...そうかな?」

 

「そうだよ。さてと、どうすればいいかな...」

 

ヤン少尉は何か伝えるべき事を頭の中でもう一度組み立てなおしている様だった。それが何なのかはユンカー少尉には大体想像がついている。

あまり聞きたい内容ではない。だがヤン少尉からそれを言われれば嫌でも一応は納得出来るような気がした。思い切って聞いてみる。

 

「ウェッジ...私は結局は何なの? 普通の人間じゃないんでしょ? だったら...」

 

「何か知りたい?」

 

「...知っておかないといけないから」

 

「知ってもいいんだね?」

 

「...教えて」

 

ヤン少尉が確認して、ユンカー少尉がそれ答える。

 

「わかったよ。なら、すこし、目を閉じててくれる?」

 

「え..?」

 

「すぐ済むから」

 

「..うん」

 

ユンカー少尉は言われた通りに目を閉じる。

 

「ちょっとくすぐったいかも」

 

「ひゃ」

 

突然耳をさわられて思わず声が出る。ヤン少尉が耳に何かヘッドセットのようなもの付けてくれたようだった。装着感はあまりなく自然な感じがする。

 

「もういい?」

 

付け終わってヤン少尉が手を引いたのでユンカー少尉がたずねる。

 

「いいよ。耳のところさわってごらん」

 

左手を顔の横に持っていくとやわらかい感触が伝わってきた。

 

「...ひぁ!これ何?」

 

もう一度確かめるようにさわると、今度は自分の耳が触られている感覚も伝わってきた。また声が出てしまう。

 

「見た目は獣の耳だけど。オプション装備だよ」

 

「オプション?」

 

「そう。機能は外部拡張メモリとミリ波レーダ。電磁波で周りを見たり出来る。有効視程は気象条件にもよるけど3キロ位で

 射界は左右に最大60度。ビーム幅はかなり細く出来るらしい。慣れてくれば使い方は直感的に分かるはずだよ。昔使った

 こともあるみたいだしね」

 

「なら私はやっぱり...機械なの...?」

 

ユンカー少尉が聞く。遠まわしに自分が機械だといわれてショックを受けたようだった。泣き出しそうな声に変わる。

 

「遠まわしに言わないで...ちゃんと教えて...ウェッジが言うなら...納得するから...」

 

「フリア、昔の事と自分が何なのか思い出そうとしてみて。もう思い出せるはずだから」

 

「...違うよ..ちゃんと言ってよ」

 

「僕からもちゃんと言うから」

 

ヤン少尉からそう言われたので、ユンカー少尉は思い出そうとしたがどうやって思い出せばいいのかがよく分からなかった。

自分についての記憶をどこから呼び出せばいいのか見当がつかない。しばらく試したが何も浮かんでこない。

 

「...思い出せないよ」

 

「最近の事から少しずつ昔のことを思い出してみて」

 

「うん...」

 

「あせらないで、ゆっくりでいいから」

 

アドバイスをもらって、もう一度思い出そうとしてみる。自分自身がおかしいと気付いたころの事、その前の実戦、作戦空域へ着いた

とき、さらにその前の訓練、フェアリィが創設されそこへ配属された時の事。最近の事から段々と過去へ遡りながら思い出して行く。

以前はフェアリィに配属された時よりも以前の事はあいまいにしか思い出せなかったが、今回はそこから先のことも思い出す事が

できた。名前をもらった時の事とその前に自分が発見された時の事も。誰が見つけてくれたのかも思い出せた。

 

「...あ」

 

「何か思い出せた?」

 

「うん...でもまだ、全部じゃないから」

 

「がんばれ」

 

過去の事はあまりはっきりとした形では残っていなかった。殆どは時空震が起きてから待機状態だった間の記録。それ以前にした各種の

試験は鮮明には思い出せなかった。より深く過去へ遡るほど記憶が無機的な情報になる。記憶というよりは圧縮されたデータを検索して

いるような感じを受ける。最後の方は劣化が激しい情報が多くなっていて読み取れなかった。

結局自分が何であるかを教えてくれるようなモノは出てこない。

 

「分からない...」

 

「やっぱり見つからなかった?」

 

見つからないので当然だというようにヤン少尉が話してくる。

 

「うん...ダメだった」

 

「なら、昔の事は思い出せた?」

 

「...むかし?」

 

「だいたい600年くらい前だけど」

 

「試験用のテストベッド..だったみたい...ナノマシン集合体用の..」

 

言ってから気が付いたが、自分の体が何で構成されているかは思い出せていた。待機モード時の自己診断データや、過去の試験の残っているデータを

読み取ればその事が詳細に記されている。ただユンカー少尉が知りたい情報はそれではなかった。

 

「でも...そうじゃなくて..私が知りたいのは...」

 

「君の身体的な構成は全部分かってるはずだよ。自身を構成しているナノマシンや思考システム全体の詳細な情報だって呼び出せる。それも全部探した?」

 

「探したよ..でも、それがわかっても...私が何かは分からないよ...私は何なの?...本当にただの機械?教えて、お願いだから...

 もう自分でも何なんだか分からないよ...

 

何が分からないのかすら分からなくなってくる。分からない事が怖くてたまらない。そんなユンカー少尉の様子を見てか、ヤン少尉が横になったままだった

ユンカー少尉を抱き起こして座らせてくれた。

 

「なるほど、君の不安は結局そういうことか」

 

「...?」

 

「自分の存在が何であるかを説明できる人なんているわけないよ」

 

ユンカー少尉の頭をなでながらヤン少尉が言う。なんだか拍子抜けしたような口調で話してくる。

 

「あ、いや、ごめん。僕もちょっと勘違いしてたから」

 

「..勘違い?」

 

「そう...つまり、君は僕が思っている以上に人間に近いんだなってね」

 

先程までは深刻そうな顔をしていたヤン少尉が普段と同じ表情に戻っている。それをみるとなんだか安心できた。

 

「それじゃ、僕の話をちょっと聞いてくれる。直接答えにはならないかも知れないけど、ちゃんと話すから」

 

「...うん」

 

「ありがと」

 

ヤン少尉そう言ってから話し始めた。ユンカー少尉は大人しく耳を傾ける。

 

「もう分かってると思うけど、君の人格はソフトウェアとして備わっているだけでハードウェアとしては人格を持っていない。プログラムされた人格を

 演じているだけ。だから人と同じレベルの意識を持ってはいない」

 

「うん...そう、だね」

 

「でもね、君には自分の経験を記録して、それを元にナノマシンの神経回路接続を発達させていく機能も備わっている。そして旧EDEN時代のいろいろな試験から

 十分な経験も持っている。もちろん記憶に当たるデータは消去されたか暗号化されてるだろうけど、神経接続の発達という形で経験は残ってる。既に君の人格

 は純粋なソフトウェアでは構成されていないんだ。これどう言う意味か分かる?」

 

「?..ぅん、よく分んないや」

 

「フリアの人格はもともとソフトだけだったでしょう?でも経験を積んでいくうちに、その結果として発達させた神経接続のネットワークも、人格の一部を構成す

 るようになっている。つまりね、もうただの機械と呼べるような単純なものではないんだ。少なくとも僕はそう思ってる。これが答えの一つ目」

 

ヤン少尉はユンカー少尉の事をただの単純な機械ではないという。

 

「そう思う?」

 

ユンカー少尉が質す。自分の事をただの機械ではないというなら、それでは自分のことをどう思っているのだろうか?

ヤン少尉はユンカー少尉がそんなことを考えているのなんてお見通しと言う様に言葉を続ける。

 

「もちろん。僕だって君の事何も知らない訳じゃないよ。それから二つ目。フリア、さっき私が何だか分からないって言ったよね。自分が存在が何なのか分からな

 いって事は、逆説的に言えば君は自分の存在は分かっているんでしょう?つまり自分がここに居るって言う事は分かっている。意識っていうものが何なのか定義

 するのはかなり難しいけど、幾つかの考え方の中では自己認識は意識を持つことに関して重要なファクターだ。それとね、こう言う考え方もあるんだ。 心や意

 識って言うものは、それ自体が存在するんじゃなくてそれを持っている人の行動の結果の連続がそう見えているだけだって言う考え方。どっちの考え方でも、君

 は十分意識を持っていると言えると思うよ」

 

「...どういうこと?」

 

「だからね、フリアは自分を認識して、それをもとに自分で行動する能力が十分あり得るってこと。人間とまったく同じわけじゃないけど、それと同じくらい高度

 な意識を持っているって事だよ。実際、自分が何者か定義できなくて悩むなんて難しい事考えてるんだから。少なくとも普通の機械には真似できないくらい高度

 だと思うよ」

 

「それじゃ、やっぱり私は普通じゃないんだね...うん、でもなんだかスッキリした」

 

「そう?ちょっと無茶苦茶な事喋ってたような気がしなくもないんだけど...うん、よかった」

 

ヤン少尉がどういう事を言っているのかユンカー少尉には実際良く分からなかった。ただ、ヤン少尉が自分の存在に少尉なりの解釈を与えてくれようとしてくれて

いる事はよく分かった。ヤン少尉にだけは自分の存在を認めてもらえたような気がする。そう思うとなんだか安心できた。

 

「えっと、フリア? あぁ、えぇとなんて言えば良いのかよく分んないけどさ...」

 

「なに?ウェッジ」

 

しばらくしてヤン少尉がまた話しかけてきた。

 

「いや、前に戦う理由が見つからないなら探せばいいって言ってたよね?」

 

「うん、だから生き残ろうって。私も春燕も護るからって言ったよ」

 

「それでだけど...えぇと、フリアが知りたい事の答がもしあるんだったら、一緒に探してあげようかなって...だって、僕ばっかりって言うのもね?」

 

「うん」

 

自然に笑顔になってくる。こんなに落ち着いて安心できたのは久しぶりのような気がした。

 

「ウェッジありがとう」

 

「いいよ、相棒だもの。お互いに助けないと。そうでしょ?」

 

そう言ってヤン少尉がもう一度頭をなでてくれた。ずっとじっとしているのもつまらないのでヤン少尉へ抱きついてみる。ビックリした顔でも見れると楽しい。

 

「ぅわ!? ちょっとフリア...はぁ、まいっか。どしたの?いきなり」

 

「なんとなく。ビックリした?」

 

ヤン少尉も抱き返してくれる。ユンカー少尉はその腕の中に大人しくおさまる。

 

「ビックリするよ。でも、イタズラ心まで戻ってきたと言う事は、もう本当に大丈夫でいい?」

 

「うん、もう大丈夫。私の事はだいたい分かったから。でも、皆は私のことどう思うかな?ちょっと、不安かな」

 

「それなら別に心配は要らないよ。みんな知ってるから。実はフェアリィが出来た当初から皆には伝えてあるんだ。さすがに全部普通の人間と同じとはいかな

 いからね。今までだましてきた事になるけど、ごめんね」

 

「そうなの? でも、仕方ない事だよね。だから気にしないよ」

 

「ありがと、フリア。さてと、そろそろ帰る時間だから行こう」

 

「うん、帰り道は?」

 

「シラナミ少尉から聞いといたから大丈夫」

 

「さすがだね。ウェッジ」

 

「航法はフライトオフィサの仕事だから」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ウェッジ?もう1つ聞いてもいい?」

 

ルクシオールを発艦して巡航体制に入った後でユンカー少尉が突然聞いてきた。

 

「何?」

 

航法パネルの操作を一時中断してヤン少尉が前席に向けて返す。

 

「私の名前ってウェッジが付けてくれたんでしょ?私の名前ってどういう意味なの?」

 

「君の名前?道に迷うことがないようにと思って。ただ、ちょっと意図しない方向へも名前の効果が出たみたいだけど」

 

「なんのこと?」

 

前席からは困惑した声が聞えてくる。

 

「帰ったら”FLIR”でロストテクノロジーのデータベースを調べてごらん。あと名字は君の初期データに入ってたからそう呼んでるんだけど」

 

「えふえるあいあーる?」

 

「そう、前がよくみるように。道に迷わないようにってね」

 

「わかったよウェッジ。いい名前をありがとう」

 

「気に入ってくれてるなら嬉しいけど」

 

「好きだよ」

 

「その名前でよかった?」

 

「うん、名前もウェッジも好きだから」

 

「え、何か言った?」

 

「ん?べつに」

 

前席からはイタズラっぽい口調が帰ってくる。それっきりユンカー少尉は操縦に集中した様で話しかけてくることはなかった。

 

「...? ま、いっか」

 

確認を取る必要があるとも思えないのでヤン少尉はそういうことにしておく。

 

春燕のフライトは予定通りに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘタレな作者より)

雪風設定のほうに書いてあるセンサーシステムの名前はかなりテキトーなのでアメリカ

のJETDS(Joint Electronics Type Designation System)電子機器型式共通命名システ

ムの規則なんて完全に無視されてます。あと、FC-1って調べてみると中国空軍に同じナ

ンバーの機体がいました。この辺も見逃してくれると幸いです。

 

 

それにしても今回は長い話だなぁ...

実は初めの頃の設定ではフリアさんはナノナノ改、スーパーナノナノだったのですが、

気付けば試作ナノナノ、レガシーナノナノになってるし...

設定もちょっと無理があるかも...って言うか絶対あるorz

ヴァニラさんってこんなに良く喋るかな...?

 

あとGA�玉妓族麩�の鍵ですが楽しいですね。

ただ、大きな戦乱が起きているという感じがあまりしないのが残念です。

セルダールが陥落するところにはルクシオールとエンジェル隊が居た方がよかったと思います。

セルダール開放戦も盛り上がりに欠けるというか、開放する感じがあんまりしない。

何だかんだで面白いですけど。